第13話 豚肉と卵
「助かったぜ、しかし本当に鉄鉱石そのままでいいのか?」
「ええ、大丈夫です」
「そうか、またよろしく頼むぜ!」
「はい、鉄鉱石ありがとうございます」
俺は鉄鉱石を指定された製鉄所にもって行き、報酬をもらっていた。鉄鉱石そのままで大丈夫なのは、もちろん創造魔法があるため。
これを使えば不純物を取り除いた鉄を生成できることは、事前に確認済みというわけですよ。
でもそんなことを言いふらすわけにはいかない。あの人たちの仕事を奪っちゃうし、俺がいなけりゃ鉄が作れないんじゃあダメだからね。
「じゃあ次は狩りだな、何か当てがあるのか?」
「当てって言うか……肉はもちろんだけど、出来れば養鶏をしたいと思ってるんだ。それでメアさんにいい卵はないか聞いたら、コカトリスの卵が栄養豊富だって聞いたんだよね」
俺の言葉にティナさんが心底呆れたような表情を浮かべて、それはそれは深い溜め息を吐く。
「メアがコカトリスを飼えると言ったのか?」
「あ、そういえば養鶏の話は言ってないね」
「当たり前だ。コカトリスは気性の荒い魔物だぞ?人に飼われるなんて聞いたことがない。確かに卵は美味でギルドに依頼が出ることもあるがな」
そっかぁ、残念だな。じゃあそっちは普通の鶏でも買いに行こうかな。
「ふーん、じゃあ取り敢えず狩りに行こうよ」
「ああ、近くの森でキラーボアやコカトリスが出るらしいからな。その辺りを狩ればいいだろう」
イノシシと鶏肉か……コカトリスって尻尾側はヘビだっけ?食べられるのかな?イメージ的にヘビって低脂肪高タンパクっぽいけど。
森に向かう前に、俺はもらった鉄鉱石で取り敢えず武器を作る。武器といっても金属バット。しかもみっちり鉄が詰まっているので、かなりの重量です。
だって剣術の心得もないのに刃物を使うのは危険だし、そもそも構造をよく知らないから作れません。
俺の力ならこれでぶん殴れば大抵死ぬから大丈夫と、ティナさんからも太鼓判をいただきました。
「うわぁ、なかなか立派な……というか不気味な森だね」
「ここの魔物は結構なランクだからな、それだけ障気も濃い。十分気を付けろ、と言ってもゴウなら全く問題ないか」
障気、たしか魔物が発するものだっけ?濃ければ濃いほど、強い魔物が集まったり産まれやすくなって……だから定期的に魔物を討伐しないと、スタンピードが起こってしまうって言ってたかな。
「いやいや、俺だって魔物と戦うのは初めてだよ?対人格闘なら出来るけど勝手が違うでしょ」
体の構造が違う相手と戦うってのは緊張する。ましてや魔物ともなれば尚更ってもんだ。
「いいか、絶対に殺すことを躊躇うな。相手が自分を殺しに来ていると言うことを肝に命じるんだ」
ティナさんが真剣な目をして俺を見る。本当に心配してくれているんだってよく分かる。
「だが頭で分かっていても、それが出来ずに命を落とすもの、冒険者や騎士の道を諦めるものも大勢いる。だから出来ないと思ったら必ず退け、私一人でも何とかなるしな」
「うん、分かったよ。ありがとうティナさん」
俺たちは慎重に森の中へと入っていく。魔物の呻き声らしきものが聞こえるが、遭遇はしていない。
「止まれ、あそこの水場にキラーボアがいる」
「でっか……!」
ティナさんが指差した少し開けた場所には三頭のキラーボア。湖で水を飲んでいるようだ。大きな二本の牙が口から覗き、その殺傷力は疑いようもない。全長は五メートルほどあるだろうか?体高は二メートルほど、元の世界だったら食物連鎖の頂点じゃないの?
「取り敢えず私一人で行こう」
「大丈夫?三頭同時なんて危ないんじゃ……」
「心配いらん」
ティナさんはそう言うと、ロングソードを抜いて大きく跳躍し、木の上に飛び乗ると左手をかざす。
「穿て『水矢(ウォーターアロー)』」
その瞬間、湖面からふわふわといくつかの水の玉が浮かぶ。キラーボアがそれに釣られるように顔を上げると、水の玉は形を変えて鋭い矢に変わり、襲いかかりその体表を貫いていく。
おお、あれが魔法か!つまりティナさんは水属性持ちなのか。水色の髪で水属性、そのまんまじゃん。あ、ティナさんがめっちゃ睨んでくる。あの人ほんと心読んでくるなぁ。
ティナさんはすぐに視線を戻すと、キラーボアの頭を落としていく。見事な手際だ、って危ない!
森の中から現れたキラーボアが、ティナさんの背後に突進していく。
「ティナさん!後ろ!」
「くっ!しまった!」
やばい、ティナさんの対応が間に合わない!迷ってる暇なんてないよ、助けなきゃ!
俺は身体強化魔法を発動させて飛び出すと、キラーボアの脳天に金属バットを叩きつける。
グチャッ
うわ、グロ……キラーボアの完全に潰れた頭部を見て、思わずくらくらしてしまうと、ティナさんが俺を支えてくれる。はは、助けた相手に支えてもらうなんて、格好つかない。
「大丈夫か?」
「うん、なんとかね。ティナさんも大丈夫?」
手には気持ち悪い感触が残っているが、ここは強がらせてもらおう。
「ああ、助かった。ありがとう」
「どういたしまして。とりあえずここで血抜きをした方がいいよね?」
「ああ、そうだな」
俺とティナさんは持ってきていたロープでキラーボアどもを逆さに吊し上げると、頸動脈からドボドボと血が流れ出す。
「よし、しばらくこうしておけば大丈夫だ」
「幸先いいね、これだけあれば一ヶ月以上は持つでしょ」
「ああ、コカトリスもと思ったが、これだけでもいいだろう」
「そうだね、帰ったらトレーニング器具を作って、風呂掃除もしなきゃだし」
のんきに話をしていると、ティナさんの空気が変わる。
「血の臭いに引き寄せられたようだな……」
森の中から姿を表したのは一匹のコカトリス。
俺とティナさんが戦闘態勢に入ると、コカトリスが大きな声で鳴く。
『あんたら強いなぁ、物は相談なんやけど、ワイらを養ってくれんか?』
……あれ?なんか今声が聞こえたような……
『ワイらに肉をくれればエエんや、そしたら卵をやるさかいに』
「……ティナさん、あのコカトリス喋ってない?」
「何を言っているんだ?私にはただの鳴き声にしか聞こえんぞ?」
ええ……どういうこと?これってもしかして魔法の力とか?
『お、やっぱあんちゃんワイの言葉が分かるんやな?』
「ティナさん、どうやら俺はあいつの言葉が分かるみたい。そういう魔法ってあるの?」
「いや、聞いたことがないが……考えられるとすれば、ゴウがこっちの世界の言葉が分かることの延長かもしれん……」
成程、確かにそうかもしれない。強大な魔力を持っている転移者が無属性であった場合、そういうことがあるのかもしれない。
とりあえずあのコカトリスに話しかけてみるか。
「話は分かったよ、それなら住まいと餌を用意すれば飼われてくれるってことでいいのか?」
『ああ、それさえあれば構わへんで!キラーボア一匹でワイらは一ヶ月は暮らせるで』
意思疏通をしているコカトリスの後ろから四匹のコカトリスが姿を表す。
それならコスパはいいかもしれないな。
「ゴウ、本当に話せているのか?何と言っているんだ?」
ティナさんが痛い人でも見るような感じで俺を見てくる。
「ええ、キラーボア一匹で五匹のコカトリスを一ヶ月飼うことが出来るらしいですよ」
「……そうか」
あ、これはもう考えることを放棄した感じですね?まあ気持ちは分からんでもないですがね。
こうして俺たちはキラーボア三匹と、コカトリス五匹を捕らえることに成功した。
※あとがき
今回取ることができたのは猪肉ではありますが、
作品中ではとりあえず豚肉と同等のものとして扱っております
豚肉の中でも豚ヒレ肉は高タンパク低脂質です
もちろん鳥ササミや鳥むね肉が定番ではありますが
豚肉の他の良い点は、やはり疲労回復ですね
豚もも肉にはビタミンB1が豊富に含まれていますので
疲れたときには豚ももを食べましょう
卵は卵黄は脂質が多いと言われておりますが、
個人的には栄養を考えて全卵を摂取するのが望ましいと思います
コンテストのために絞るなどの目的がなければ
卵白だけというのは止めましょう
脂質をちょっと悪者みたいに書いてますが、
三大栄養素の一つに数えられるだけあって、
ホルモンや細胞膜の材料となり体に不可欠であるのは間違いありません
次は水曜日に更新します
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます