第12話 入浴効果と材料調達

「メアさん、そういえばギルマスがここに泊まって良いと言ってましたけど」


「ええ、単身者用の部屋を三つでも良いですし、家族用の部屋で三人一緒でも良いですよ?」


 そこ聞く必要有りますか?普通に一人一部屋でしょ。


「じゃあ単身……」「私は家族用が良いな!」


 俺の言葉を遮るセシリアの意外な言葉に、俺とティナさんがビクッと肩を震わせる。

 ていうかあなた見た目は幼女みたいだけど、十六歳だろう?それはちょっと良くないと思うけど。

 ちょっと個人的に見た目幼女のセシリアに反対しづらいので、ティナさんが頼りなんですけど……


「じゃあ特に反対もないようなので、家族用の部屋にしますね。家賃は給料天引きになりますんで」


「ティナさん、いいんですか?」


「……問題ない。宿でも一緒だっただろう」


 ……本当にいいのかな?確かに途中の宿では一緒の部屋だったけど、それとは違うでしょうに。しかもティナさん顔赤いし、かなり無理してるんじゃ……

 でもセシリアの嬉しそうな顔を見ると、やっぱりティナさんでも反対できないんだろうな。頭では十六歳と分かっていてもついつい甘くなってしまう……恐るべしハーフリング。


 メアさんに連れられて到着した部屋は、ギルドの正面と反対側の建物の一階。基本的に一階部分は家族用、二階、三階部分は単身用らしい。

 家族用が少ないんじゃないかと思ったけど、家族持ちは大体別のところに借りるので、俺たち以外の入居者はいないとのこと。


「おお、結構広い!」


 部屋の間取りは2LDK。良かった、これなら寝るのは男女別でいける。必要な家具は一通り揃っているし、ベッドもちゃんと二つある。


「じゃあ部屋は男女別ってことで!」


 これは決定事項。俺の断固たる決意を汲み取ってくれたのか、二人から異論が出ることはなかった。


 部屋にはシャワーが備え付けられていたが、風呂はない。一応大浴場があるらしいのだが、入居者が少ない現在は手間もかかるので使われていない。

 今日はもう無理としても、大浴場は稼働させたい。

 日本人として風呂は大事!ってのもあるけど、入浴(半身浴)をすれば、下半身の静脈から心臓に流れる血流量が増えるから疲労回復にも役立つ。さらにぬるめのお湯(四十度いかないくらい)にじっくり浸かれば、副交感神経が刺激されてリラックスできるし、疲労で強ばった筋肉も緩む。いいことづくめなわけだ。


「ティナさん、ちょっと相談があるんだけど、いいかな?」


「ああ、なんだ?」


「実は明日から大浴場を稼働させたいと思っているんだけど、手伝ってくれない?」


「大浴場を?そんなに風呂に入りたいのか?」


 ティナさん、あんまり乗り気じゃなさそうだな。


「まあ俺も入りたいんだけど、あの子達の疲労回復にもなるから」


「ふむ、風呂に入ることでそういう効果があるのか……いいだろう」


「それともう一個、あの子達がモノになるまではやっぱり時間がかかると思うんだ」


「ああ、それはそうだろうな」


 やっぱりティナさんも同意見だ。今日の戦闘訓練を見る限りでは、まだまだ基礎も出来ていないって感じだし。


「うん、だからギルドを快適にすることも平行してやっていきたいんだよね。そのためにはやっぱり食事の改善が絶対に必要だと思うから、狩りも継続してやっていきたいんだ。それこそ訓練の一環として狩りに行っても良いと思う」


「つまりギルドを快適にして、冒険者たちに戻ってきてもらおうと言うことか?」


「そう上手くは行かないかもしれないけどね。それでも、セシリアがギルド所属の冒険者向けで治療してくれるってなれば、きっと戻ってくる人たちもいると思うんだよね」


「成程……ギルドが雇っているのであれば、冒険者たちは無料で治療が受けられるわけだからな。可能性は十分にあるだろう」


「うん!このギルドが私たちの家になるんだからね。活気が出るように私も頑張る!」


 ティナさんの同意も得られたし、悪い考えじゃなさそうだ。セシリアも拳を握ってやる気を見せてくれている。かわいい……ちょっと頬が緩んじゃうのも仕方ないね。


「とりあえず方針は決まったかな。じゃあ明日はセシリアだけ別行動になるけど、頑張ろう」


「うん」「ああ」


 ……そうか。今後、セシリアは日中は大抵別行動になるから、一緒の部屋がいいって言ったんだろうな。いじらしいことで。休みの日はどっか連れていってあげよう。



 翌日、昨日の夕食と大差ない朝食をギルドの食堂で済ませた俺とティナさんは、早速教えられた鉄鉱石が取れるという鉱山に向かう。セシリアはギルドの治療部屋でお仕事です。

 鉱山は町から十キロほど離れた場所にあり、俺たちは走って向かう。十キロ走るっていうと大変そうだけど、身体強化してるから余裕。

 ティナさんも今日はフルプレートを脱いでいるので軽やかだ。そしてフルプレートでないとボディラインが分かるので、目のやりどころに困るんだよね……

 メアさんのスタイルを口撃していただけあって、かなりのスタイルだ。騎士じゃなければモテモテだろうに。


「ゴウ、鉱山が見えたぞ!」


「……?でも鉄鉱石は?」


「空間収納に入れているんだろう、基本的にはこういう仕事に従事する者は、空間収納の容量が大きいんだ。ゴウだったら引く手数多だろうな」


「はは、じゃあテスト失敗したらここで働こうかな」


「よく言う、そんなつもりは毛頭ないくせに」


「まあね、出る前に負けることを考えるバカがいるかよ!ってね」


「……なんだそれは?」


 うん、まあ知らないよね……知ってたら怖いわ。


「まあそれはともかくとして、まずは責任者の人に挨拶しないといけないよね。売ってもらえるかな?」


「手伝ってやれば良いんじゃないか?そうしたらいくらか都合してくれるだろう」


 俺たちは作業員の方に声をかけて、責任者のところまで案内してもらう。

 責任者の男は現場でもガッツリ働いているのか、筋肉質な男。さらにはスキンヘッドにバンダナを巻いており、管理者と言うよりも現場の人間といった感じだ。


「なんだいあんたらは?」


「初めまして、ギルド職員のゴウと言います。こちらはティナさん。実は運搬のお手伝いをする代わりに、鉄鉱石を頂きたいと思って来たんですが」


「俺はここの責任者をしているニックだ。そう言うからには容量に自信があるってことか?」


「ええ」


 ティナさんから無限収納(インベントリ)持ちであることは伏せておけと言われている。まああまり大っぴらにするものじゃないってのは、俺にも分かる。もちろん創造魔法の方もね。

 早速俺たちは坑道の奥へと連れていってもらう。何人か手ぶらで出てくる人たちとすれ違うが、恐らく彼らが運搬係なんだろう。


「そんじゃあここにあるものを出来る限り収納して持って行ってくれ。謝礼は一割で良いか?」


 俺たちの眼前には相当な量の鉄鉱石が掘り出されて、堆く積まれている。これの一割なら十分だな。


「はい、いいですよ『収納(ストレージ)』」


 眼前にあった鉄鉱石の山がきれいに無くなる。

 さて、あとは町の外れにある製鉄所に持っていけばいいな。


 スパァン!!


 いたっ!ええ?ティナさんどうしたんですか?


「やりすぎだ!バカ!」


「え?」


 周りを改めて見ると、ニックさんを筆頭に掘り出している方々も呆然としてこちらを見ている。

 ……いや、俺は悪くないよ?だってティナさんがここで働く人たちは容量でかいって言ったじゃん!


「あんた……もしかして無限収納(インベントリ)持ちか?今あんたが収納した山は、五人がかりで一週間ほどかけて運ぶ量だぞ?」


 最初に言ってほしかったよね。ティナさんを見ても大きなため息をつくだけで、助け船を出してくれる様子は微塵もない。とはいえ誤魔化しきれるはずもない。


「まあ……そうですね」


「ギルドの職員って言ってたよな?あんたに依頼を出すことも出来るのか?」


「えーっと、ティナさん、どうなんでしょう?」


「……登録すれば問題ないんじゃないか?」


「そりゃあ助かるぜ!前はギルドに依頼を出していたんだけどな、なかなか請けてもらえなかったんだよ」


 こんなところにも弊害があるのか、やっぱりギルドの建て直しは急務だ。


「やはりギルドが落ちぶれて困ってる方は多いんですか?」


「そうだな。だが冒険者だって仕事だからな。ギルドがあてにならねえのなら、金払いが良いところに行くのは当然だ。それは責められねえよ。だからこそ俺らみてえな金がない連中からすれば、ギルドにはしっかりしてほしいんだがな」


 はは、仰る通り。


「なんとか改善できるように頑張りますよ。じゃあ製鉄所に持っていきますんで」


「ああ、頼むぜ!」



※あとがき


入浴は本当に疲労回復に役立ちます

シャワーでは副交感神経が優位にならないですし体温もあまり上がりませんので、睡眠の質も落ちてしまいがちです

疲労たまってるなーと思ったらぜひ湯船に浸かりましょう

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