第6話 魔法の属性は?

 馬車で進むこと五日。やっとこさ辺境の地デルトイドに到着した俺たちは、早速冒険者ギルドへと向かう。

 ちなみに道中泊まった宿では別の部屋にしようという俺の申し出は却下されて、三人で同じ部屋に泊まった。理由は単純、そっちの方が安いから。

 もちろん何もありませんでした。ティナさんとセシリアが一緒のベッドで寝て、俺が一人です。


 町の入り口で馬車から降りた俺たちは、ちょっと驚いていた。


「……辺境の地って言うからド田舎かと思ったら、結構大きな町じゃん」


「私もここに来るのは初めてなんだが……確かに立派な町だな」


「ここなら仕事もありそうだし、楽しみだね!」


 道にはきちんと石畳が敷かれて整然としており、美しい町並みが広がっている。

 左右に見える建物は立派な石造りの物が多く、二階建ても珍しくない。恐らくアパートなのだろう。そこら中に洗濯物が干してあるのが見える。需要と供給から考えれば、アパートがこれだけあるのだから、当然人口も多いのだろう。

 俺はキョロキョロしていると、念願の亜人を発見。いや、まあセシリアも亜人だけどね?


「ティナさん!獣人、獣人がいるよ!」


「落ち着け、差別があるのは王都だけと言っただろう?当然ここは町中に亜人が暮らしている」


 そう言えばそうだった。でもここに来るまでの宿でも見なかったんだよね。だから興奮するのも仕方ないって。


「お、ギルドが見えてきたぞ?」


「へえー、これまた立派な建物だ」


 目の前にそびえ立つのは石造りの三階建ての建物。ただし天井がとんでもなく高い。

 扉は高さ五メートルほどはあるだろうか?幅は片側だけでも俺のウイングスパンより長いから、四メートルはある観音開き。こんなにでかい意味があるんだろうか?


「お兄ちゃん、ビックリした?亜人の中にはスッゴい大きな人もいるからね。ギルドはそういう人も入れるようになってるんだよ」


「セシリアは良く知っているな。それにギルドは解体場も兼ねているからな。捕らえたモンスターを入れられるようにという意味もある」


 ふーん、まあそんなでかいモンスターと戦うなんてゴメンだね。適当に日銭を稼げればそれでいいや。


 俺たちは早速でかい扉を押してギルドに入る。


「とりあえず色々斡旋してもらうには登録が必要だ、私はもうしてあるが、セシリアはどうなんだ?」


「私もしてるよ!ただでさえ亜人は働けるところが少ないからね、大人になったら大体してると思う」


 セシリアがさらっと言っているけれど、それは差別なんじゃないのか?


「何で働けるところが少ないんだ?」


「えっと、接客業とかって色んな人が来るでしょ?そうしたら何で亜人なんか雇ってるんだって言う人がいるの。私はまだ人間の子供って言えば通るけど、獣人とかだとやっぱりね」


 つまりそうやってトラブルになるリスクを事前に摘み取っているという訳か……リスクマネジメントとしては有りだけど……こうしてセシリアと一緒にいる身としては複雑だなぁ。

 まあ俺が考えても仕方ないことだし、とりあえず登録に行こう。


「いらっしゃいませ、登録でよろしかったですか?」


 にこりともせずに声をかけてくるのは、メガネと栗色のボブヘアーが良く似合う人間の女性。他の受付を見ても確かに人間ばかり。やっぱりセシリアの言っていたことは正しいんだな。


「大丈夫ですか?」


「は、はい。すみません!」


 お姉さんが微塵も心配してない口調で声をかけてくると、なぜだか怒られている気分になってくる。


「それではこちらにご記入をお願いします」


 受付のお姉さんが履歴書みたいな物を渡してくる。うん、確かに何が書いてあるか分かる。

 俺は必要事項をすらすらと記入して、受付のお姉さんに渡すと、お姉さんは水が入った桶を持ってくる。


「これは魔力水と呼ばれる物です。この中に手を入れて魔力を通していただくと、適正属性が火なら赤、水なら青、風なら緑、土なら茶、光なら白、闇なら黒に変化します。また、その色の濃さで大まかな魔力量を計ることができます。それではどうぞ」


 ええ……それではどうぞって、どうやればいいんだよ?


「ゴウ、ちょっと手を出してみろ」


 見かねたティナさんが助け船を出してくれる。俺が手を出すと、ティナさんは自分の手を重ねる。

 すると、なんだか手がポカポカして、次第に身体中が暖かくなってきた。まるで体の中を何かが巡っているような気がする。


「何か流れるのを感じるだろう?それは私の魔力だ。今から手を離すが、お前は既に自分の魔力を感じることが出来るはずだ」


 ティナさんが手を離すと、体内を巡っていた魔力が霧散していくのが分かる。そしてそれと同時にへその辺りに魔力の塊が在るのも分かる。


 えっと、塊を少しずつ溶かすイメージでいいのかな?


 俺はよく分からないながらも、ティナさんの魔力が流れている感覚を思い出してやってみると、塊が徐々に溶けて全身を巡り出す。 


「出来たみたいだな、そうしたら魔力水に手を浸けるんだ」


「う、うん。分かった」


 魔力水はちょっと普通の水よりとろみがあって、何だか気持ち悪い。


「最後に魔力水も体の一部と認識して、同じように魔力を流してみろ」


 俺はティナさんに頷き、魔力を流す。


「……変わりませんが」


「おかしいな……」


 俺とティナさんが首を傾げて魔力水を見つめていると、お姉さんのドライな言葉が突き刺さる。


「はい、結構です。無属性ですね。無属性は魔力水では魔力量は分かりません。お疲れさまでした」


 無属性……なんだかショボい気がする。隣に立っているティナさんとセシリアも微妙な顔してる。

 受付のお姉さんも淡々としていて『ええ?無属性なんてっ!すごい!天才だ!』とか言うお決まりのパターンも無さそうだ。


「えーっと、お姉さん、無属性ってやっぱりハズレ的な感じ?」


 俺は魔力水から手を引き揚げてお姉さんに話しかける。ていうかこれ濡れないのね?どういう仕組みなんだろう。


「ハズレかどうかは分かりません。普通の魔法とはちょっと変わったものが使える人もいるはずなんですが、私は興味有りませんので自分で見つけてください」


 ええ……興味有りませんの件(くだり)はいらないんじゃなかろうか。そしてこの人、完全に職務放棄をしている。


「ティナさん、セシリア、なんか方法知ってる?」


「いや、私も無属性魔法の使い手と言うのは初めてなんだ」


「私も分からないなぁ」


 手詰まりかと思っていたら、受付のお姉さんの後ろに、瓜二つの女性が立っていることに気付く。


 スパァーーン!


「いたぁーい!」


 後ろに立っていた女性が履いていたサンダルを脱いだと思ったら、受付の女性の頭を思いっきりそれで殴り付ける。とりあえずかなりいい音がしたし、痛いだろう。


「ちゃんと接客しろって言ってるでしょうが!!」


「もー、叩かなくてもいいでしょ?」


「言って分かるんなら叩いてないわ!」


 おんなじ顔の二人が言い争いをしている様に圧倒されていると、頭を叩いた方の女性がこちらに頭を下げてくる。


「姉が大変失礼いたしました、私はあれの双子の妹で、当ギルドのチーフ受付をしておりますメアと申します。あちらの役立たずがミアです」


「ちっ」


 あれ、後ろから舌打ちが聞こえたような……


 とりあえずメアさんはミアさんとは違ってにこやかに接してくれる。このタイミングで来てくれたということは、調べる方法があるということなんだろう。

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