再生④ 親友の言葉
もし、女子と付き合うのなら、どんな子を私は選ぶのだろうか。
今、女子と付き合ったら、私もハコみたいに毎日葛藤するだろう。
もし、ハコと付き合っている時にこの気持ちを理解できていたら、きっともっと違う付き合い方ができていたかもしれない。
私は、森谷に話した。
「ハコさんには、ハコさんなりの考えがあったと思うよ。ハコさんの感じ方は、必ずしも、里中君と一致はしないでしょ。きっと、葛藤はあってもハコさんは幸せだったと思うよ。だって、日記の中には、里中君のことが沢山書かれていたんでしょ。恋は予測不能で、悩んだり、苦しんだりしても、それが人間の素晴らしいところだと思うよ。科学や文明がどれだけ発達しても、当の人間は、恋だ、愛だのって問題に頭を抱えている。それでいいんじゃないかな。」
私はずるい。森谷なら肯定してくれるだろうと思って彼に話をしている。彼はいつも私を肯定してくれるから。
「だけどね、親友として、一個だけ言わせてもらえるかな。僕から見たら、里中君は、まだ過去から抜け出していないで、自分の世界に浸っているように見えるよ。」
「なんだって。」
「だから、里中君はまだ、悲劇の主人公を気取っているように見えるよって。」
「そんなことはない。」
「そうかなあ。じゃぁ、聞くけど、良子さんの告白のとき、どうして、そんなに辛く当たったの?別に断るだけなら他の言い方もできたはずでしょ。でも、彼女には、『僕の気持ちはわからない』みたいなことを言ったんでしょ。それは、里中君、良子さんにあまえていると思わない?」
「別に、あれは、下手に同情心をあらわにされて不快だったからだと思う。」
「ほら。そこが違うんじゃない?本来なら、君のことを心配してくれた人に感謝こそすれ、迷惑がる必要はないでしょ。」
「僕は、今、一人でいたいんだよ。」
「じゃあ、なんでそんなに告白されちゃうの?それはさ、客観的にみて、『悲しみに浸ってます』オーラを出しているからじゃないかな。言い換えれば、隙があるからじゃないかな。本気で一人でいたいって行動していたら、そんな風にはならないんじゃないかな。女性の母性本能をくすぐるような態度とっていないって言い切れる?」
「そんなの分からないけど、放って置いて欲しいって切に願っているのは確かだ。」
「そうなの?」
「みんなが、僕がハコを想っていることを悪いことのように言う。どうして、ハコのことを想っていたらいけない?忘れなくちゃならないんだ。そんなの僕の勝手だろう。」
「それは、そうだよ。その想いは、そのままでいいと僕も思う。無理やり忘れるなんて不可能だし。だけど、本当の意味で、まだ里中君は前に進んでいないと思う。」
「何?それは違う。僕は復帰してから、前以上に努力している。向上している。運動も勉強も。前以上の力を持って。それのどこが前に進んでいないって言うんだ。ハコのことを想えばこそ、こうして前に進めるんだ。」
「それはさ。単純に、里中君が、この一ヶ月間サボってきたことに対する責任を果たしているに過ぎないでしょ。そんなのは、男として、当たり前のことじゃない。それは、彼女のことを想っているとか、そう言う次元の話じゃないでしょ。里中君は、『彼女を失って、初めて彼女を理解できた』なんて言ってたけど、僕はそうは思えないよ。まだ里中君は、ハコさんのこときちんと理解できていないと思う。」
「森谷に、ハコの何がわかるって言うんだ!」
「僕にはハコさんのことは分からないよ。でも、里中君は、良子さんに『同じ経験しないと、分からない』って言ったんでしょ。偉そうに、あたかも自分が達観したみたいに、突っぱねたでしょ。じゃぁ、里中君はどうなの?ハコさんはさ、今の里中君みたいに、自分の過去の出来事に苦しんでいても、それでも、再び、恋愛に挑戦しようとしたんじゃない。だから、里中君と付き合ったんでしょ。里中君はそこから逃げているでしょ。それも、3回もチャンスがあったのに!」
「好みじゃなかっただけだ。」
「へぇ。そうなんだ。じゃぁ、良子さんは?元々、里中君のタイプだったでしょ。ねぇ、そうやって言い訳ばっかりしないで。僕は、このまま里中君に終わって欲しくない。将来、恋をして、結婚して、お互いの結婚式に参加して、家族同士の付き合いをしたり、そんな未来があってもいいじゃない。自分で、自分の未来を勝手に閉ざすべきじゃないと思うよ。」
「そんな、お前の勝手な夢を押し付けないでくれ。」
「ねえ。いつまでも子供みたいなこと言わないでくれる。僕だっていつまでもこうしてそばで話を聞いてあげられる訳じゃないんだからね。」
「面倒みてくれなんて頼んだ覚えはない。大体、あの一週間の同居の時だって、お前は家事も何もせずに、そばにいただけじゃないか。」
「うん。そうだよ。でも、それが、意味なかったかな。実際、僕がいなくなってすぐじゃない。里中君が旅に出てしまったのは。僕は悔やんでいるんだよ。どうして親友の君のことを、もっとしっかりと支えてあげられなかったのかって、そうしたら、里中君は余計に傷つかなくて済んだかもしれないって。」
「、、、、。もう、帰ってくれないか。」
「ねえ、里中君。僕の知っている里中君はそんな人間じゃないよ。僕の知っている里中ゆうきは、いつも前向きで、誠実で、楽観的で、いつもキラキラ輝いている。僕から見たら羨ましい人間。そう言う男だったのに、今の里中君はなに。自分の殻に閉じこもって、言い訳ばっかりして、格好悪いよ。もう、いいかげんに、目を覚まして。」
「、、、、。悪い。帰ってくれ。」
森谷と言い争いをしたのは、生涯でこの一回だけだ。温厚な彼がここまで言うことはない。森谷は、憤りを通り越して、寂しそうな表情だった。
私は帰ろうとしない、彼に
「お前が出ていかないのなら、僕が出ていく。」
と外に出かけようとしたら、左頬にビンタが飛んできた。私はその時の痛みを忘れない。今までで一番痛いビンタだった。
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