日記⑦ 1月17日

夜の闇が、再び私を支配する。1時55分。もうすぐ、丑三つどき。からだのサイクルに合わせるかのように、夜の闇が私の体を巣喰う。

夜空に輝く深淵の月。儚げに光る星たち。私たちを闇から救ってくれないかな。


今日、彼に昨日のお母さんとのことを告げないといけない。お母さんにポケベルの内容を盗み見られて、口論になった。ゆうちゃんのことも話した。

「ゆうちゃんとは絶対に別れない。」って宣言した。

現実がそう甘くないことは承知している。大学受験、母の心配。今までの努力。

今日は、彼と付き合い始めて1ヶ月。二人でお出かけする予定。

「別れたくない。」って気持ちだけははっきりしている。

母に反対されることは分かってた。だから彼の存在を隠していた。

でも、現実的に勉強時間は減るし、勉強中にも彼のことを考える時間は増えた。

それも事実。

だからって、どうしたらいいの。彼から与えられるものは代えられない。

この恋に障害があっても、諦められない。何かを得れば、何かを失うものだけど、今の私に何を失うものがあるって言うの?お母さんの信頼?大学?立派な会社に入ること?

彼と別れることを想像して、手紙を書いて見た。

もし、彼と別れたら、私、どうなるの?生きがいをなくして、目標にも向かえなくて、私にとって彼はかけがえのない存在。


また眠れずにサイレントタイムを迎えた。彼のお気にりの時間。

彼の言った通り、静寂と曖昧さの同居する不思議な時間。絶望と希望の狭間。光と陰の間。正と負の間。「中庸な時間」

二つの対称なものの真ん中。男と女も同じ。繋がる瞬間はあっても、完全に一つになることはない。どうして、惹かれ合う二つの魂が一つになることができないの?

彼と繋がったまま、このまま植物みたいに、すり鉢か何かに入れて、グリグリと潰して一つになってしまえればいいのに。そうしたら、二つの魂は永遠と一つでいられる気がするけど、こういう考え方はちょっと怖いかな。傲慢?


こうして恐れていたことが現実になると、くじけそうになる。


どんなに世の中が変わっても、きっと人が人を想う気持ちはそんなに変わらない。私の気持ちが10年後も20年後も同じかだなんて分からない。


でも、きっとこの強い、強い、胸が苦しくなって、すぐに涙が出ちゃうような恋愛は、相手がゆうちゃんだからだと想う。


10年、20年後に振り返っても、「17歳の恋はとても熱かった」って、「青春してた」って堂々と言えると思う。


自分以上に相手が大切。恋人が生きがい。彼以外は何もいらない。

それって重い。だけど、本気で人を好きになるってそういうことだってゆうちゃが教えてくれた。

そんな彼を失いたくはない。涙が次々流れる。今日、どんな顔でゆうちゃんに会えばいいの。



今日は、朝から雪。よりによってこんな日に。昨晩は月も見えてたのに。

学校が終わって、電車に乗って、水族館。

電車の中でまた居眠りしたんだけど、不思議な夢を見た。


目の前には白い霧がかかっていて、彼の名前を呼ぶ。「ゆうちゃん」

すると、霧が晴れて、その先には見たこともないような広大な大地に数え切れないほどの花が咲いている。私は白いワンピースを着て、大きな声で何か外国語の歌を歌っている。その歌に導かれるかのように、全ての命あるものが私の周りに集まって一緒に歌いはじめる。鳥も虫も植物も動物も皆。温かくて、心地よい夢だった。

なのに、目がさめると、心の中に何かが引っかりがある。魚の小骨が喉に刺さっているような不快感。

ゆうちゃんがいない。そんな夢を私は心地よいと感じていた。

そんなはずはないのに。


水族館につくと私はおしゃべりに夢中になった。中でもシロイルカの彼女には沢山話しかけた。彼女の姿態は美しかった。彼女の体のラインには魅了された。柔らかに滑るような曲線美、白くしなやかな体はエロティックにさえ映った。「どうしてそんなに美しいの」私は彼女を見て涙を流し、多くの時間を彼女と過ごした。


夕食のとき、とっておきの手編みのマフラーを渡したらゆうちゃんはとっても喜んでくれた。よかった、苦労した甲斐がある。


夕食の後、公園で胸のうちをゆうちゃんに伝えた。

声を荒げる彼を初めて見た。彼は、私をそっと抱きしめてくれた。とても優しく、ふわっと雲に包まれているみたいに。

鎌倉の海のときとは逆。私はゆうちゃんの温もりに心から感謝した。どんなに寒くても、彼のそばにいれば私は決して凍えることはない。


私たちはきっと一緒に困難を越えていけるはず。

少しずつお互いを深めていける。誤解したり、喧嘩したり、それでもきっと元に戻れる。だって、お互いを必要としてるから。

私たちはきっと大丈夫。

これからも、ずっと、やっていける。


今日の気持ちをしっかりと手紙に残そう。


もう、闇に支配なんてされない。私の心は、ゆうちゃんと共にある。


また夢を見た。今度はゆうちゃんと春の桜の木の下を歩いている。二人のては繋がれている。私たちを祝福するかのように、菜の花が歌っている。鳥も蜂も愉快に踊っている。

暖かくて、また泣いてしまった。


優しいゆうちゃん。大好きなゆうちゃん。これからもずっと一緒にいてね。

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