変化

葉子さんと付き合い始めたことは、隠していてもいずれ周囲にはわかることだろう。同じ部活で、毎日一緒に帰るのだから。長岡にも話すべきかもしれない。自分が彼の立場ならやはり嫉妬することだろうから。長岡の告白を手伝ったときすでに自分は彼女を想っていたことをあの時しっかりと彼に説明をして断るべきだったのかもしれない。けれど、彼の告白を手伝わなけば彼女の過去を知ることもなかった。そうでなかった場合、こんなにも真剣に努力もしなかっただろう。

しかし、葉子さんが長岡の告白を断り、私の告白を承諾したと言う事実は変わりようない事実なのだ。彼にも彼のプライドがあるだろう。そう考えるとむしろ何も言わずに、風の噂で間接的に事実をきく方が彼にとってもいいのかもしれない。ましてや、直情的な彼のことだ。きっと彼は感情を表に出すだろう。もしかしたらキレるかもしれない。

結局私が出した結論は、「触らぬ神に祟りなし」だった。その結果は案外早く出ることとなった。

葉子さんと付き合い始めて3日目に、部室で同じ2年生の柴原に単刀直入に聞かれた。

「里中、お前、白糸と付き合っているのか。」

彼は葉子さんの親友のユリさんと同じ中学で仲が良いらしい。

その問いに部室にいた皆の興味が一斉に向く。高校生にとって猥談は何よりも好物だ。一体人様のそれが彼らの人生になんの関係があるのかと逆に問いただしたくなる。AまでしたとかBまでしたとか、早くCしたいとか。健全な男子高校生の性欲からすれば当然のことなのかもしれないが、自分の大切な人との関係をそういった次元の話で語りたくはない。

「ああ。」

私はそう素っ気ない返事をした。その答えを聞いてもその日、その話題をこれ以上口にする者はいなかった。

しかし、翌日、部室に行くと、部室の空気はいつもとは違っていた。中・長距離の者以外の短距離・投擲・跳躍の者たちは私と一切会話をしない。中・長距離の者もいつもよりずっと暗いトーンで会話を交わすものの、あまりにも不自然だった。原因は聞かなくてもわかっている。長岡だ。

 彼は夏の間ハブになっていたのに、いつの間にか彼らのパシリとしての地位を確立していた。そして夏の告白のことと今回の私のことをを彼らに告げた。私は裏切り者の烙印を押され、部活ではハブにすると言う統一見解?とう言うか、部長のお達しがあった。と言うわけだ。それならそれで一向に構わなかった。

別に仲良しこよししたい訳ではない。陸上競技とは、他の球技スポーツとは違って、チームワークも必要ない。もちろんパスを受けたり、アシストすることもない。ただ、自分の、肉体、精神と向き合い、己の限界に挑戦し続けるスポーツだからだ。練習に支障をきたすような嫌がらせをするほど彼らも幼くはないだろう。もしろ放置してくれた方が有難い。猥談にするくらいなら黙っていてくれた方がいい。もともと彼らには何も期待などしていない。むしろ今まで以上に寡黙に練習に励むことができると言うものだ。

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