出会い

 合宿を終えると、お盆の休みに入る。3日間の部活の休みの間に私は、17歳を

迎えた。毎年、学校もなく、皆が帰省するこの時期には友人になど祝ってもらえたことなどなかった。 彼女がいれば彼女に祝ってもらえるが、 今年は普通に一人きりのパースデーになるであろう。そういえば去年のバースデーには、彼女に何をもらったかすら覚えていない。

 バースデーの2日前、 久しぶりに小学校の同級生の広末から連絡が来た。

彼とは小学校時代、同じクラスで大の仲良し、いつも一緒に遊んでいた。

同時にどんなことでも張り合う、ライバルでもあり、 勉強にスポーツに恋愛にお互い競い合った仲だった。体格も身長もほとんど同じで、小学校の時はスポーツの出来はほとんど変わらなかった。中学に入ってもお互いに身体の成長は同じ位だったが、足の速さや、体育の球技などスポーツ面では私の方が上手くなって差をつけていった。一方勉強の方では、 中学から差が出始めた。 英語が駄目な私に対して、 彼は毎日塾に通って勉強し、夏にはオーストラリアに数週間滞在するなどして、英語の成績も優秀だった。彼は県内でも有数の進学校と進んだ。お互いに違う学校に進み、それぞれの道を進み始めたが、私達はどちらからともなくたまに連絡を取り合い、近況報告などを兼ねて会っていた。

彼は意外に義理難い男だった。クラスの人気者で学級委員でもある彼が、目立たない存在の私と仲良くしている姿は、周ら見ればアンバランスに写ったことだろう。

 彼は私のことを誤解していたと。彼から見た私は「孤独」ではなく「孤高」に写っていた。彼は自分が他人に受け入れられるためにわざとおどけてみせて、人から嫌われるのを畏れていた。そんな彼には、人に何を言われても平気だという私の性格を羨ましく思っていたそうだ。彼は勉強、私はスポーツと互いに秀でていく部分が違っても、互いに無言のまま認め合って来たからこそ、いまだに連絡を取り合う関係でいられるのだろう。事実、私は中学の同級生と連絡をとっている者は彼以外にはいない。

 私と広末とその隣の席の女の子、 名前は佐々木さん。は、 小学5年生でも

同じクラスでよく3人で遊んでいた。ところが、別れは突然やってきた。小6の夏、 佐々木さんは親の都合で転校することになった。 私は広末と佐々木さんを最後まで見送った覚えがある。その後、中学1年生の時に佐々木さんから広末のところに連絡があり、私と広末は電車に1畤間揺られて彼女との再会を果たした。  それから、 4年間3人で会う機会は一度もなかった。 彼女の家庭の事情は小学校の時に噂になっていた。仕事の都合ではなく親のプライベートなことが問題らしかったが、 そういった大人の事情に子供が闇に口を挟んではいけないという思いがらか、 私は彼女に対してそうした質問をしたことは一度もなかった。逆に広末は彼女のそうした話を積極的に聞き、支えているような節が見られた。

 最後に3人で会ってから4年がたった今、突然また佐々木さんから広末に連絡があり、 4年ぶりに再会しようという話がもちあがったそうだ。しかも、会うのは

のは私のバーズデーに、私の部屋で飲み明かそう。ということだった。突然の旧友との再会で私の心は弾んでいた。

 そして、私のバースデーの当日、最寄の駅まで私と広末は 転車で彼女を迎えにいった。4年ぶりの成長した姿を見て、お互いに驚きあった。中学年ではまだまだ幼さが残る顔だちだったの が、高校生の今はすっかり女らしくなっている ただ、 彼女が持っている空気は小学生の時と変わりはなかった。佐々木さんは丸顔で目が 細く、目立たない感じの女の子だった。佐々木さんの脇にはもう一人、女の子がいた。どこかで会った覚えがある。大きな瞳とゆるくパーマのかかった髪が肩元にかかっている。髪の色は脱色をしていて、耳にはピアスが光っている。

「久しぶり。私のこと覚えてる。」

私は必死に思い出そうとしていた。 広末の方を見ると、彼は笑顔で返す。どうやら彼は彼女が誰だか知っていて、しがも今日この場に来るということも知っていた様子だった。私はやっと思い出した。4年前に佐々木さんに会いに行ったとき 、当時佐々木さんが通っていた中学校で仲良くなった親友の女の子 「レオナさ

ーん」であることに気がついた。珍しい名前だったのでなんとか思い返すことができた。 彼女に名前を告げると彼女は満面の笑みで

「あたり ! よく覚えていてくれたね。4年前に1回だけ会っただけよのに。 」

と喜んでくれた。私は冷や汗ものだった。広末はそんな私をみてニャニヤと笑っていた。

 急遽1人増えて、私のアパートに4人で向かった。途中のコンビ-ニでお酒とおつ

まみを買った。 私はの分は誕生日ということで、彼等のおごりだった。アパートにつくと、レオナんが

「へえー。男子にしては凄く綺麗にしているんだ。」

と意外そうな口ぶりだった。他の二人は私にはそういった几帳面な部分があるとを知っていたので、いまさら驚きもしなかった。

 久しぶりの再会と私の17歳の祝いで乾杯をした。部活のお盆休みで、彼女もいない17歳のバースデーの日に、4年ぶりに会う旧友たちにお祝いをしてもらる

いうことは純粋に嬉しかった。心の中で、セッティングしてくれた広末に感謝した。再会の歓びに盛り上がった私達の飲むべースは速く、広末と佐々木さんは、あっという間に酔いつぶれでしまった。私は今までの経験から家飲みには慣れていたので、そこまで酔わなかった。レオナさんは一人だけ小学校が違うということもあってか、どこか遠慮がちで、彼等のような無茶なペースで飲むようなことはなく、 結局私とレオナさん二人が残されてしまった。 私は自分用の布団をリビングに敷き、そこに広末を寝かせ、客用の布団は寝室に敷き、 そこに佐々木さんを寝かせて。洗いたてのタオルケットをスカート姿の下半身にかけてやった。普段から人が泊まりに来ることが多いた経験から、私はそういった人の面倒をみることに慣れていた。エアコンを「強」から「弱」にし、 リビングの散らかったものを片付けていた。 レオナさんは黙ってその様子を眺めている。

お互いに余り話す話題もなく、テレビの深育番組を見ていたら、彼女が先に口開いた。

「ねえ。酔い覚ましに、少し外を散歩しない。」

「いいよ。」

そうして、眠っている二人を起こさないように静かに、 二人で外へでた。夏の夜は暑い。 湿気を含んだ空気が身体にまとわりつく。 けれど、 室内のエアコンにはない新鮮な空気がある。アパートの周りはほどんど街灯がなく、月明かりの中、3分も歩くとすぐに田んぼ道になる。蛙の鳴く声が、うるさいほどだ。彼女は私よりも2、 3m先を歩いていた。 私は月明かりの下で白いキャミソールを一枚で肩を出してゆっくりと歩く彼女の後ろ姿を見ていた。彼女は突然何かを思いついたように立ち止まり、こちらを振り向くと彼女は言った。

「夏の夜っていいよね。私も夏生まれまれだからかな。夏の夜ってすごく好き」

彼女は蚊を振り払いながらそう言う。

「へえー。そうなんだ。」

「夏の夜の空気ってなんか懐かしさを感じない?-近所の盆踊りが終わってしまう寂しさとか夏休みが終わってしまう寂しさとか。そんな感じを思い出したりしい?」

「そうだね。寝苦しいのを除けば、僕も夏の夜は好きかな。」

「良かった。さっきから無口だから、なんか怒っているのかと思って心配していたの。」

「別に。何も怒ることなんかないよ。こういう人間なんだよ。ごめんね。」

「ううん。」

暗くて彼女の表情はいまいち掴めない、もともと田んぼ道で、月明かりに照らされて蛙の合唱の中佇む17歳のキャミソール姿の女子の気持ちなんて私には分からない。

しばらく散歩しても、同じ風景の繰り返しなのでい、部屋に戻る。二人は相変わらず爆睡していた。私達は二人で彼等を起こさないよう小声で他愛のない話をしていた。やがてサイレントタイムになる頃にはレオナさんも眠りについた。私は一人でキッチンで仮眠をとった。

 朝の10時には全員が起きた。私を8時には起きて、朝食の準備をしていた。

流石に広末も佐々木さんも私の料理までは食べたことがなく、手際の良さや慣れた手つき、それなりの味に驚いていた。12時頃にはお開きということで彼女たちを駅まで送っていった。別れ際に彼女たちと「ベル番」を交換し合った。

 当時、 高校生の間にはポケッ トベルが流行していた。 使い捨てカメラ、 プリ

ラ、と共に女子高生三種の神器となっていた。私も高校人学時からもってた。いままでも色んな人に番号を教えて、短いメッセージの交換を続けてきた。

離れていても、互いにコミニケーションがとれるという点で当時としては画期的なシステムであったと思う。

 彼女達を無事に見送り、広末と分かれ、アパートに帰り、嵐が通った後のような部屋の片付けをし、 流石に睡眠不足だったので、 敷きっ放しだった自分の布団に横になる 微かに広末の匂いがしたが、私は気にしないで眠りに落ちた。

「ピンポーン」

インターフォンの音で目が覚めた。時計を見たらもう夕方だった。ずいぶんと長い昼寝だった。すっかり自分の生活のペースを乱されてしまった。

「ピンポーン」

再びインターフォンが鳴る。無視したい気持ちを振り切り、眠たい身体を起こして玄関の扉を開けると、私はまだ夢の中にいるのだと錯覚した。扉の向こうにはさっき別れたばかりの3人の姿があったからだ。

「第2段の到着!」

と広末。

「お邪魔しまーす。」

と佐々木。レオナさんはうつむき気味で無言でサンダルを脱いで部屋へと上がっていく。

ようやく覚醒した私はことの成り行きを尋ねた。

「帰りの電車の中で二人でとても寂しい気持ちになって、二人とも一回は家に帰ったのだけれども、すぐに広末くんに電話して、今日また会いたいって言って、来ちゃった。」

私は「無謀な行動力」とはこういうことだと理解し、しばし反省した。

私と彼等の間には温度差がある。しかし、一時間もかけて再び会いに来てくれた友人を無下に帰す訳にもいかず、結局私は3人たちと飲み会第二段を決行することになった。

 翌日はお盆休みも明けて朝から部活があるので、早々に彼等を起こして解散した。流石に私の都合が悪いとうこともあり、彼等も次の決行は見送らざるを得ないみたいだが、 別れ際に広末から佐々木さんと付き合うことになったと聞かされた。少々遠距離恋愛になるが、今はポケベルという便利なものがあるからそんなに問題はないのだろう。 その日の部活は寝不足、 二日酔いで調子を崩してしまい散々だった

 8月末には私は貯まったバイ ト代でPHSを買った。 まだポケベル全盛でP H Sは最先端の流行で、持っている人も少なかった。私の部屋には電話を引いていなこともあり、 私は友人達にPHSの番号を教えた。 PHSを買った次の日の晩、 教えてもいないはずのレオざさんから電話が掛かってきた。どうやら広末から番号を聞いたようだ。それから、一日に一回は彼女から電話が掛かってきて、 そのあと告白された。 私は当然断った。 レ オナさんの言い分は

「私のことを捨てられた子大のような目で見ていた。 」 とか

「4年ぶりに再会したら、二人共格好良くなっていて、佐々木は広末くん。私はゆうきくんってことになった。 ゆうきくんは全然嫌がる素振りも見えないから期待してしまったの。」

 私はなぜ彼女等が第2段を強引に決行したか。その理由がいまさら分かった。私にとっては、4年ぶりの友人との再会でしかなかった。あ日間で男女の仲なんて意識したこともなかったし、そもそも、広末にしろ佐々木さんにしろそんなに簡単に男女の仲がくっついたりすることが、一人の人を想い続けている今の私には理解できなかった。 勇気をもって告白をしたレオナさんの行動力は凄いと思うし、私もその積極性は見習うところがある。

レオナさんは

ゆうきくんの態度で私は期待してしまった。貴方みたいに皆に優しいということは、本当は誰にも優しくないのと一緒なのよ。他人の顔色うかがって、相手のご機嫌をとらなくちゃ自分を、保っていられないの?・そんなに自分に自信がないの?八方美人なんて普通の女の子は望んでいないのよ。」

と怒りをぶつけて来た。

確かに私は彼女はいないとは言ったが、好きな女がいないとは言っていない。けれど、それをほとんど初対面に近いレオナさんに言わなければならないのだろうか。私が鈍感であったことは認めるし、申し訳ないとも思う。実際に広末と佐々木さんの関係にも全く気がつかなかったし、レオナさんの二日目の格好が勝負服だったことも、電話の意味にも。

彼女のいう通り、今までの元彼女たちにも、私がどこか期待をもたせるような態度をとっていたのだろう。そのことは素直に反省しなければない。

レオナさんはそれきり連絡をよこさなくなった。広末たちも一ヶ月もたたずに別れた。

 一体あの夏の出来事は何だったのだろう。勿論、全ての恋愛が上手くいく訳はない。けれど、人はなぜこうも簡単に恋に落ち、また簡単に別れてしまうのだろうか。人と人の出会いって何なのだろう。一緒にすごした楽しい時間は何だったのだろう。もし、私が葉子さんのことを想っていなければ、それなりに可愛いレオナさんとも浅い付き合いをしてしまっていたであろう。

 静まり返った部屋の中で楽しく過ごした17歳のバースデーのことが思い返された。

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