14泊目 「仲間、なんて言葉は少し照れくさいけれど」

「あの日ーーーー。私はとあるものを探しにダンジョンへと向かったんです。街の近くにあるン=ルゴロの洞窟です」


「ン=ルゴロ!? ヴァロールの巣じゃない……!!」


 驚いて声を上げるミュウを片手と目配せで静止する。


「はい。ヴァロールの巣だってことはお話で聞いていてわかっていたのですが、私には錬金魔法があるので大丈夫だと思っていたんです……。爆弾に防護薬、回復剤なども持っていたし、ヴァロールは魔法に弱いっていうことも知っていたので。でも、自分の魔法を過信し過ぎていたみたいですね……。途中までは順調だったのですが、凄く巨大なヴァロールと対峙してしまい、勝ち目もなく命からがら逃げ帰って来てしまいました……」


 エルの話を聞いて俺は大袈裟にうんうん、と頷いてみせた。


「なるほどな。事情はわかった。ただ、これだけは約束をして欲しい」


 エルの目を見据え、一呼吸置いて俺は言った。


「今後は、しっかりと俺たちを頼れ」


 目を丸くして状況が飲み込めていないエルは、不思議そうにしている。


「え、いや、頼ると言っても私が必要なものをとりにいこうとしてるだけで、皆様には何も関係のないお話で、そんなことに巻き込んで迷惑をかけるわけにも……」


「何言ってんだ、ここをどこだと思ってるんだ? ユキチハウスは、お客様の快適な滞在をお約束するんだ。ここにいる間は、全力でエルの"快適"と"安全"をサポートする義務がある。悩み事がある間は快適、だなんて言えないだろ? その悩み事をぶっ潰すためにも、いくらでも俺たちを頼ってくれていいんだ。それがここにいる奴らの仕事でもあり、生きがいでもあるんだからな!」


 俺の言葉に、ミュウニュウ姉妹、クロエ、オイゲンも大きく頷き、エルに笑顔を見せる。


「ユートさん……!! 皆さん……!!」


 エルは泣きそうな顔になった、と思った瞬間、声を上げてわんわんと泣き出した。


「本当は、ひとりでダンジョンに挑むのも、いえ、ひとりで旅に出ることだって、不安で……ッ、でも、一人前の、魔法使いに、なるためには、なんでも自分の力、で、できるように……、ならないとダメだって……」


 しゃくり上げながら途切れ途切れに言葉を繋げていくエルの頭を撫でながら話を聞いていると、どこからともなくユキチさんがのそのそとやってきた。

 ユキチさんは泣いているエルの膝の上にポン、と飛び乗り、ぷにゃぁ、と間の抜けた声で一鳴きし、そのままごろごろと喉を鳴らしながら膝の上で丸まった。

 ユキチさんなりにエルを慰めているのか、それとも何も考えていないのか。

 それでも絶妙なタイミングでこっちの気持ちがわかるかのように癒してくれる。ユキチさんは偉大な存在だ。


「ふふ、慰めてくれるんですか? ありがとう、ユキチさん」


 エルはすっかりと泣き止んでユキチさんを撫でている。


「そんな辛い思いをしてまで手に入れなきゃいけないもの……。エルちゃんはまだそれを手に入れられてないんだよね? それなら、私たちも一緒にいく! 探しにいこう!」


 ミュウの一声にその場にいる全員が賛同する。


「皆さん……! お気持ちは嬉しいのですが、目的のものがあるのはン=ルゴロ……。ヴァロールの巣なんです」


 不安そうに俯くエルに対し、俺は自身たっぷりに言ってやる。


「エル、俺たちを誰だと思ってるんだ? 最強で完璧でスペシャルなゲストハウス経営者と従業員だぞ!」


 そんなバカみたいな俺の言葉にも、そこにいる従業員たちは笑って賛同をする。


「俺様たちは困ってるやつを見捨てない、自分たちができる限りのサポートをする。ユキチハウスのお客様は家族同然……っていう青臭ぇ鉄則があるんだよ。だからまぁ、頼れるモンは頼っといた方が得だぜ?」


 オイゲンが食後の紅茶をエルのカップに注ぎながらニヤっと笑いながら言った。


「ええ。僕たちに任せてほしいですわ。こう見えても、昔はたくさんの魔物を葬り去ってきたのですよ」


 エルにピースサインを向けてえへへ、と笑うニュウも既にやる気だ。


「そーいうわけだから、エルちゃん。改めて、みんなでその必要なもの、探しに行こっか!」


 ミュウがその場をまとめると、エルはまたおずおずと聞いた。


「あの、お気持ちはすっごく嬉しいのですが、ダンジョン探索をしている間、ここのゲストハウスはどうするんですか……? 皆さんの本来のお仕事が……」


「それなら心配いらへんよ、皆がおらへん間はウチがしっかりとここを守るさかい、安心しとき〜。それにここ1週間は、残念ながらエルちゃ以外のお客様の予約はゼロや〜」


 事前にゲストハウスの管理と留守番を頼んでおいたクロエが、空になったティーカップを振りながら答える。


「そうと決まれば早速出発の準備、だな! さて何からはじめようか……」


 そこには、久々の冒険に心を躍らせている自分がいた。

 衛兵を辞め、ゲストハウスを継いでからは一度も冒険に出たことはない。少しの不安とたくさんの興奮で、なんとも言えない高揚感に襲われる。昂まる気持ちを抑えながら、しっかりと冒険の準備をするとしよう。

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