15泊目 最強の魔王だったはずなのに仲間になった途端弱くなる、とかそういうやつ
「あれ、ここにあったはずなんだけどなあ……」
ゲストハウスの地下倉庫で、昔放り投げてそのままにしていた装備品と道具を探す。
衛兵時代は支給される装備品に加え、クエストをこなして稼いだお金で買った装備品もたくさんある。
ガサゴソと大袋の中や棚を探して、いくつかの装備品と道具をかき集めた。
俺の装備は長剣、ミュウは戦斧、ニュウは双剣、オイゲンは弓だ。
「これで装備を新調する必要もないな! 少し手入れをすれば完璧に使えそうだ。……よっ、と」
集めた武器を袋に詰め込み、談話室まで持っていこうとしたけれど思った以上に重い…!
おかしいな、武器ってこんなに重たかったっけ…?
袋を半分引きずるようにして階段を登り、一息ついたときにある事に気が付いた。
「もしかして……レベルが下がってる……?」
衛兵を辞め、クエストの討伐依頼もやらなくなり、ゲストハウスの経営にステータスを全振りしてしまったことの弊害がこんなところに……!!
これはもしかしたら大変な事になっているかもしれない、早く他のメンバーにも確認してもらおう。
中庭に揃ったダンジョン探索のメンバーたちに昔使っていた装備品を渡すと、皆どこか戸惑った様子で装備に苦戦している。
「なにこれ……こんなに使いにくかったっけ?」
まるで身体に合っていないように両手で戦斧を持ってみせるミュウ。
「なんだか手に全く馴染みませんわ……」
ぼやきながら双剣を振るうニュウ。
「おっかしいな、こんな重い弓で狩りをしてた覚えはねぇぞ? 今小型モンスター用に使ってるやつの方が使いやすいな」
的への照準が合わせにくいのか、片目を瞑りながら試行錯誤をしているオイゲン。
やっぱりだ。全員のレベルが下がっている……!
「これは不味いな、ここしばらく戦闘らしい戦闘をしていなかったから身体が完全に訛りきっている……! 体力、攻撃力、素早さなどのバトルに関係するステータスは軒並み下がっているのに、計算力、経営力、紅茶を美味しく淹れる能力とかのゲストハウス運営に関わるステータスはかなり上昇しているな……!?」
「もしかして、なんだけど、レベルが下がったってことはこの装備品たちも使えないよね……?」
「買い直し、ですわ」
「参ったな、最高品質の高級品の弓を新調して全然使ってなかったのによぉ……。また一からレベル上げをしなきゃいけないのか?」
肩を落としている皆を横目に俺は考える。
レベルが1に戻ったところで、ン=ルゴロに挑むのは無謀とも言える。
ただ、今までの経験値は蓄積されているから、一度ダンジョンに入ってしまえばすぐに前までの感覚は取り戻せるはずだ。
エルは冬季休暇の間だけこっちに来ているから、ダンジョン探索のタイムリミットだってある。
そうと決まれば……。
「皆! 俺たちはレベル1のままン=ルゴロに挑む! 装備できない武器は今は使い物にならん、置いてけ。これから低レベル帯の武器を買いに行くぞ……! それ以上のレベルのものはダンジョン内で運良く見つけるか、都度買っていくことになる。あ、新しく武器を買った際には領収書をもらっておいてくれ」
「この状況でン=ルゴロに挑むのは無謀な気もしますが……。それでも元エリート衛兵、元賞金稼ぎ、雑魚限定現役狩人がいるんですもの。きっとすぐに調子を取り戻しますわね!」
「おい待てニュウ、雑魚限定とは失礼な!」
「あ、すみません……僕ったら、思わず本音が……いつも美味しい小動物のお肉をありがとうございます」
「いやなんもフォローになってねぇよ!?」
ニュウとオイゲンのやり取りに苦笑しつつ、ユキチハウスの経営状況はどんなもんか、と頭の中で電卓を弾く。
しばらくお客様は来ない、勢いに乗ってムチョ=ムッチョを買った、仕入れは増える……。
なかなかに芳しくない状況だが、仕方ない!
装備とアイテムは新調し、ダンジョン内のお宝探しもついでにするとしますか!
久々のダンジョン、レベルの心配はあれど、どんなお宝と出会えるのか、楽しみになってきたぜ……!
もちろん、最優先事項はエルの探してるアイテムの入手だってことは忘れてないぞ。
なんだか、衛兵として冒険をし始めた時のことを思い出してしまうな。
ゲストハウスの経営は楽しいけれど、少しマンネリに感じてきてしまっていたところだ。
やっぱり人生、こういったスパイスが無いと鈍っちまうよな。
さて、まずは皆の装備品を揃えに行くところから始めようか。
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