12泊目 「女の子のお部屋に入る時は、ノックをしてね」

「エル、大丈夫か?」


 お盆を片手にエルの部屋へと入ると、そこには寝息を立てているエルと、介抱をしているクロエとミュウの姿が目に入った。


「傷の手当てはきちんとできてるで、少し休んだらもう完治するさかい、心配せんで大丈夫やで〜」


「うん、今は疲れて眠ってるけど、この調子なら次目覚めたらもう大丈夫そうだね!」


 明るい笑顔で話す2人を見て、一気に安心感が襲ってきて身体の力が抜けた。

 大事にならなくて本当に良かった、10日間も一緒に暮らして同じ釜の飯を食べていたんだ。もうエルもゲストハウスの仲間の一員だ。

 俺は手にしたお盆をサイドテーブルに置き、エルの寝顔を見た。


「こんなになってしまうまで1人で頑張って、何を手に入れたかったんだろうなあ……」


「うーん……聞く前に寝ちゃったから、ウチらもどーしてこうなっちゃったかわからんままなんよねえ……」


「まぁまぁ、詳しいことはエルちゃんが元気になってから! まずはゆっくり休ませてあげよ!」


「だな、お粥とお茶も起きた時に食べられるようにしておいてやるか」


 俺はお粥の横に一緒に持ってきた焔の結晶のカケラを置いた。

 軽く砕いて液体に溶かすとすぐに出来立てのように熱くなる、という優れものだ。

 魔法のようで魔法ではない、便利な道具。エルはこういった道具を使用して錬金魔法を使っているのだろうか。

 マナを閉じ込めた"道具"を使って魔法を使役すること。それは魔法というよりも、近年発展してきた"化学"というものに近いのかもしれない。


「う、ん……」


 焔のカケラを砕いて小皿に移していると、エルが苦しそうに寝返りを打った。

「少し騒がしかったかな、起こしてしまうのも可哀想だから皆、一旦下に戻ろうか」

 クロエとミュウはそれぞれ頷き、俺たちはエルの部屋を後にした。

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