11泊目 ヴァロールという脅威

 それにしても、エルのあの傷は一体何だったんだろうか。

 何か大きな魔物に引っ掻かれたような痕が腕に見えたが、1人で魔物が出る地帯にまで出掛けていたのか……? だとしたらそれは一体何のために……?


「……あの傷痕、多分ヴァロールのものですわ」


 テーブルの向かい側に腰掛けているニュウが口を開く。


「ヴァロールって……あの巨人族のことか?」


「はい、以前討伐依頼が出た時に戦ったことがあるんですの。でもその時に討伐したのはヴァロールの仔。それでもかなりの強敵でしたわ。今日のエルさんのあの傷痕を見る限り、あれはかなり大きなヴァロールとみて間違い無いでしょう」


「だとしたらエルは、ヴァロールが生息するような危険なダンジョンに入ったということか……。前に探し物がある、と言っていたけど、それって何なんだろうなあ……。危険な目にあってでも手に入れなければならないもの、か」


「とにかく、エルさんが目覚めたら詳しく聞いてみるしかないですわね」


「そうだな、早く良くなってくれるといいんだが……」


 エルの傷口を思い返して少しの不安に苛まれていりと、キッチンの方からオイゲンの声が聞こえてきた。


「粥ができたぞ! 部屋に運んでやってくれ!」


 その声を合図に俺は立ち上がり、キッチンへと向かった。


「で、嬢ちゃんの体調はどんな感じなんだ?」


 オイゲンがお粥を小さめの片手鍋からよそいながら聞いてくる。


「俺が見た限りだと、腕に大きめの爪痕がくっきりと。後は全身を打ったような痣や、転んだのか至る所に擦り傷や切り傷も見えたな……。とても辛そうにしていたが、クロエをつけたから大丈夫だとは思う」


「そりゃひでぇな……。一体どうしてそんなことになっちまったんだ」


「ニュウが言うにはヴァロールにやられたんじゃないか、って」


「ヴァロールだと!? あいつらは巣から出てくることは滅多にない、と聞いたが……」


「そう、だからヴァロールの巣に自ら入って行ったんじゃ無いか、って話なんだよな……」


「こりゃ理由をきちんと聞いてやらねぇとだな、あまりにも無鉄砲が過ぎるぜ」


 お粥とお茶が置かれたお盆をほらよ、と渡される。


「冷めないうちに嬢ちゃんに持ってってやりな。オイゲン様お手製、薬草入り玉子粥だぜ! きちんと治癒効果のある上等な薬草を使ってっから、身体の治りも早くなるはずだぜ」


 ありがとう、とお礼を言い、俺はお盆を持ってエルの部屋へと向かった。

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