105話 帰宅


 最寄りの駅に着くと、黒のリムジンが停まっていた。周囲から明らかに浮いて目立っている。だが、リムジンよりも側で姿勢正しく立っているメイド服の女性の方に人々の視線が集まっていた。


 俺と珠李が近づくと女性は深くお辞儀をする。


「……学様、ご無沙汰しております」


「梅子さん、お久しぶりです」


 久しぶりに見た梅子の目立ちから、当たり前ではあるが、やはり舞桜と珠李を彷彿とさせた。


 珠李がドアを開け、そこへ僕が乗り込む。続いて梅子と珠李が乗り扉を閉めると、車が発進した。


 横に珠李、正面に梅子といった席順だ。


「珠李と舞桜はきちんと学様の世話を出来ていますでしょうか?」


「ええ、大変お世話になってます。……本当は、1人で暮らせると思っていましたよ。でも、まだまだ出来ないこともたくさんありました」


「ふふっ、学様が成長されたようで何よりです」


「全然ですよ」


「いいえ、そんなことありません。顔立ちをみればすぐに分かります。……お父様に似てきましたし」


「……そうですか」


 両親の記憶は年々薄れてきている。父の顔をちゃんと覚えているかと言われれば怪しいぐらいには曖昧だ。そもそも忙しい人だった。2度と会えないと分かっていたなら、もっと記憶に残っただろが、それは叶わぬ夢、願望だ。


「―—ところで、学様」


 梅子がやけに笑顔で学に視線を送って来る。


「なんでしょう」


 梅子がこの表情をするときは、だいたいお叱りを受ける時か、面倒なことを聞いてくる時だ。


「恋人はできましたか?」


 その問いに、珠李から冷たい視線を向けられた。


「い、いやぁ……」


「その反応、恋人はいないようですが、気になる人はいるんですね」


「そういうわけでは……」


「詳しいことをお聞かせください。未来のパートナーに関しては、私も把握しておく必要がありますので♡」

 



 *



 久しぶりの大屋敷は特に変わったことなど無かった。いつもと変わらずメイドは普通にいる。無駄に広い。中庭は豪華だ。


「学様お伝え漏れていたことがありました。本日、刃様はご来客がありまして、ただいま食堂でご会談なさっています」


「誰です?」


「詳しくは知りませんが、古い友人だと言っていました。それにしては随分若々しい方でしたが」


「へえ」

 

「では、私は失礼します。また何かあれば御呼びください」


 一礼して梅子は中庭へと向かった。

 

 僕と珠李は反対に食堂へと向かう。


 扉越しに声が漏れている。1人は冠城刃。もう1人は誰の声か見当がつかない。恐らく僕の知らない人なのだろうか。相手の人には悪いが、帰宅の報告だけさせて貰おう。


「失礼します」


 扉を叩いて、扉を開ける。


「戻りましたんで、その報告です」


「ああ、学、帰ったか」


 そう言った刃は、いつになく険しい表情をしていた。


「―—ああ、例の子か」


 刃の向かいの席に男が座っている。こちらを振り返らず、ワインを口に付けた。


「会うのは初めてだったな。紹介したくはなかったが、紹介しておく。コイツは——」


「いやいや、まずは私から紹介させていただくよ」


 背中を向けて座る男が立ちあがって、こちらに振り返った。


 渋めの声の割に、若々しい顔つき。それでいて、スーツの着こなしで小綺麗さと少しの怪しさがうかがえる妙な男。


「私は志水隆だ。よろしく頼むよ、冠城の後継者さん」





<あとがき>


 ふぁ

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