103話 デートの終わり


 再び浩一郎が襲ってくる心配はないだろうということで、家に帰ることになった。


 最後に家を出た歌弥が、鍵を閉める。


 外は陽もすっかり落ちて、住宅の淡い光と南の空に浮かぶ月だけが輝いていた。


「ねえ冠城くん」


「どうした?」


「私のパパが死に追いやられた原因って、その、プロジェクトアダムに関係しているんじゃないかって思ったの」


「……」


 現状、関係がないとは言い切れない。冠城製薬での事故は、真実がひた隠しにされていた。だが、真実を隠すための嘘が、彼女の父親を死に追いやったのではないかということだ。


「だったら、私は許せない」


「じゃあどうする? 捕まえる?」


「ええ」


 歌弥は頷いた。


「捕まえてどうする? 復讐を——」


「復讐なんてしないわよ。めんどくさい」


「……俺の恋人になって復讐しようとしてたのは、どこの誰だっけ?」


「そんな暇人、この世に存在するのね」


「さようで」


 どうやら、歌弥の中で何かが吹っ切れたようだ。


「とにかく、今日のデートはお開きかしら」


「そうだな。途中で邪魔が入ったからデートと呼べるのかは不明だけどな」


「それじゃあ、またデートしてくれない?」


「え?」


「返事が遅いから決定。来週の土曜日、空けておいてね」


 歌弥は、俺が言い返す暇も与えず「それじゃ」と言って月夜の照らす住宅街へ消えて行った。


「……学様」


 背中から珠李の冷たい声が聞こえてきた。


「なんだ?」


「どうして、あの女との好感度を上げているのですか?」


「上がってるか?」


「上がっていますよ。ちょっと目を話した隙に、すぐ女に手をかけるのですから」


「手をかけていませんが!?」


「自覚が無ければ結構です。害虫駆除はお任せください」


「女の子を害虫扱いとはさすがだな」


「お褒めに預かり光栄でございます」


 褒めていないがまあいいだろう。いつもの珠李だ。なんだかこういうやり取りはしばらくなかったので、懐かしく思えた。


「……さて、帰るか。今日のデートは長すぎた」


「そうですね。久しぶりに夕食でも作りましょう」


「ああ助かる——って、え?」


「ん、何ですかその間抜け面は。いつもの事と言えばそれまででしょうが」


「ちょっと待て、帰って来るのか?」


「不満があるのであれば、まだ帰るのは止めておきますけれど」


「いやいや。帰って来ていただけるのであれば大変助かりますよ珠李様!」


 舞桜との生活もそろそろ限界を迎えそうだった。珠李に帰ってきて貰えるならばありがたい限りだ。


「でも十文字さんに聞かないでいいのか?」


「問題ありません。昴流様と薫には既に話を通してあります」


 相変わらず行動が早い。


「ガク様、珠李、何話してんだー! 腹減ったからさっさと帰ろうぜ」


 イーシェと話を終えた舞桜が小走りにやって来た。


「……そうだな。帰ろう」


 珠李と舞桜。メイドの2人と共に潮風香る住宅地を歩いていく。


 まだ何も解決していない。


 何も分かっていない。


 把握できてない。


 けれど。



——こうして、とても長かった1日は幕を閉じたのだった。







<あとがき>


 終わりが見えてきました。

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