102話 見過ごせない真実


 プロジェクトアダムという、にわかには信じがたい研究の話をイーシェから一通り聞き終えた。


 冠城家が長い年月をかけて行っていた不老不死の研究。


 試作品が出来たことで志水隆という男に盗まれたこと。


 試作品が人間に投与されてしまったこと。


 多くの犠牲者が出てしまったこと。


 権力によって冠城製薬の事故という処理になったこと。


——いままで不老不死の研究など一言も聞いたことがなかった。


 それもそのはずか。


 不老不死という倫理の壁に当たるであろう研究など、幼い僕に聞かせることなど無用だったのだ。


 イーシェから出た話が真実なのか、ここは一旦爺さんに連絡を取ってみるのも手か。


 そんなことを考えていると、珠李の電話が鳴った。


 珠李は慌てて応答する。


「―—に、逃げられた?」


 珠李が珍しく大きな声をあげた。この場の全員が珠李に視線を向けると、珠李は恥ずかしそうにして声のボリュームをさげて通話を続けた。


「はい……学様は無事です。はい。では、後程」


 珠李は舞桜との電話を終えると大きく息を吐いてから、俺に向き直った。


「……申し訳ございません学様。土門浩一郎に逃げられました」


「そう、か……」


 志水隆へと繋がる道筋が消えてしまったのは正直悔しい。


「ったく、アイツは逃げ足だけは速いな」


「プロジェクトアダムについては分かったけどさ。イーシェと土門の関係についてはまだ聞いてないぞ」


「あーそのことか。すっかり忘れてた。すまないな」


 イーシェはわざとらしく頭の後ろを掻いた。こちらが聞かなければはぐらかされたような気がする。


「オレと浩一郎はな、昔、プロジェクトアダムを潰そうと活動していたんだ。結果はまぁ、現状でわかるだろ。大失敗。土門家は没落してオレも連帯責任を受けているみたいなもんだ。だから浩一郎の頼みを一度は聞いてやった」


「それなら、どうして寝返ったんだ? 僕は敵になるだろ」


 冠城家がプロジェクトアダムを主導していたのだから、止めたいイーシェは浩一郎の側につくはずだ。


「それは……いまは詳しく言えない」


 イーシェは視線を床に落とした。


「ここまで言ってなんだが、すまない。然るべき時になればガク、アンタが知りたくなくても知ることになるだろう」


 言っている意味はさっぱりだ。しかし、イーシェの表情から察するに込み入った話であるのは間違いない。


「わかったよ」


 ここはひとまず納得して、イーシェとの協力関係を気づくのが最適だろう。


「とにかく、僕もそのプロジェクトアダムってのを潰したい。盗まれたと言っても作った冠城家にも責任がある。だから、僕から言わせてほしい。イーシェ、協力してくれ」


「ああ、もちろんさ」


 イーシェは僕の手をがっしりと掴むと、玄関での挨拶の時と同様に腕を大きく振った。



<あとがき>


 わーい休みだーって出かけようと思うと、雨が降るんです。


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