101話 観念しなさい


「いやぁ、お嬢さんたち、話し合いってのはどうだ?」


「……」


「……」


 砂浜に突っ伏している浩一郎の前には、舞桜と十文字が呆れた顔で立っていた。


「オマエさぁ、ボコボコにされておいてそれはマジでねぇぞ」


「あんなぁ、そないこと言うたら雑魚みたいに見えんで。まっ、あーしらに負けとる時点で雑魚やったな」


 ガハハハと十文字が笑う。


「クソ、馬鹿にしやがって」


 浩一郎は諦めたように悪態を吐いた。


 水族館での攻防は拮抗の末、何故かイーシェが味方になりそこで力の均衡は崩れた。


 珠李は交戦していた男に逃げられ舞桜たちに合流。さらに十文字も参戦。浩一郎は、早々に4対1という圧倒的人数不利。その時点で浩一郎は逃げ出したのだった。


 珠李とイーシェに学を任せ、舞桜と十文字は浩一郎を近くの砂浜まで追って、今に至る。


「ガク様を誘拐しようとした罰だと思うんだな」


「そんでぇ? どない言い訳聞かせて貰えるんか?」


「……関西弁の女、テメェはどこのどいつだ?」


「せや、まだ名乗ってなかったか。あーしは頴川家次期当主である頴川昴流様に仕える十文字薫や。よー覚えときぃ」


「頴川……。どうしてそんなヤツの関係者がここにいるんだよ……。マジでオレのラックは終わってんな」


「観念したならさっさと吐くんだな」


「仕方ねえ。いいぜ」


 浩一郎は今度こそ諦めたようだが、その態度が気に食わなかった舞桜は腹にひと蹴りを加えた。


「なにすんだ!」


「うるせえ。さっさと話せ」


「ったく、これだから冠城のメイドは脳筋だって言われてんだ」


「なんか言ったか?」


 舞桜は右脚を大きく後ろに引いて笑顔を作った。すると、さすがに死期を悟ったか、大人しくなった。


「……今回の件、オレは頼まれただけだ」


「誰にだ?」


「さあ? 声は変成器みたいので加工されてたから男か女かもわからねえ」


「心当たりはないのか?」


「…………志水隆」


 ぽつりと呟いた人物の名前に、舞桜と十文字は顔を見合わせた。


「知り合いの中で、あの男ならやりかねないことだと思っただけだ。志水隆だっていう確信があるわけじゃねえぞ」


「志水ねぇ……」


「志水か……」


 志水隆。その名には黒い噂が後を絶たない。それは2人にとって共通認識のようだ。


「言ったんだからもういいだろ。離してくれ」


「ダメだ。テメェは水族館を乗っ取って暴れた罪がある」


「オレは乗っ取ってねぇぞ。金を積んだら貸してくれたんだ」


「あんなぁ、そんなもんで金を使うから資産が——」


「う、うるせェ! これは必要資金だ! 土門家再興の布石だ!」


「言ってることがホンマに三下やなぁ……」


「うるせェぞ貧乳おんぬあぁ痛ええェ!」


 十文字は吼える浩一郎にデコピンで制裁を加えて黙らせた。


「どつかんかっただけ有難く思っときや!」


「おいおいそこらへんにしておけって。そろそろコイツを連れていくぞ」


 舞桜が浩一郎を無理やり起こして首元を引っ張る。


「オイ、コラ! 離せ!」


「はいはい、詳しい話は署で聞くからな」


 舞桜が海岸線沿いに伸びる国道へと歩き出すと、1人の男の存在に気付いた。


「あれは……」


「浩一郎サン、助けに来たヨ」


 重々しい足取りで砂浜に降り立ったのは、珠李との戦いから行方をくらませていたズムだった。




<あとがき>


 ^ ~ ^

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