96話 愛


 頭に激痛が走り、僕は目覚めた。


「いたっ」


 節々も何故だか痛い。

 

 少し考え込んでいると背後からの威圧を感じ、ゆっくりと振り返る。

 

「……どうしてここにいるんだ?」


 冷徹な目で僕を見下ろしていたのは、冥子だった。


 銃口は僕の脳天に向いている。死に近いこの状況、何というか……慣れてしまった。

 

 周囲をぐるりと見渡すと僕の見知った場所でないことに気づいた。


「私がここまで連れて来たの。もちろん、場所は秘密」


「どうやって?」


「私が家まで迎えに行ったこと、覚えていないの?」


「…………」


「安心してね、寝ていたところを襲っただけ」


 冗談と言って、満面の笑みを浮かべる。


「どうやって家に侵入した?」


「暗殺者だよ? 一般住宅に侵入するのなんて朝飯前……そういえば、妹さんもいたね」 


「火恋に何かしたのか!?」


「私と翔和のケッコンを祝福してくれるというのであれば、危害を加えるつもりはありません」


「それじゃあ――」


「ふふっ……」


 冥子は口に手を添えて、笑いを抑え込むように話し始めた。


「翔和とケッコンすれば妹さんは私の妹になるんだね。でも妹ってどうなんだろう。可愛いとは思うけど、私だけの翔和になってくれないと困るもんなぁ。私の翔和にちょっかい出してきた時点で殺しちゃおうかな。別に私たちの子供ってわけじゃないからいいよね。子供と言えば、名前ってどうする? 2人の愛を感じる名前がいいよね。ふふっ、赤ちゃんはさすがに殺さないよ。2人の愛の結晶なんだから。でも、大人になって翔和を誘惑しようとしたら絶対に殺すから。そしてたらまた、エッチして赤ちゃんつくって、2人の愛を注ごうね。私たちが死ぬまでに、いっぱいエッチして、いっぱい赤ちゃんつくって、いっぱい愛し合おうね! 私たちは死んでも一緒だからね。もし先に翔和が死んじゃうときは私も同時に死ぬから安心してね。私が先だったら、翔和も一緒に死んでほしいな。死んだあとはどうなるんだろうね。天国が待ってるのかなあ。あ、でも私は人をたくさん殺しているから地獄行きなっちゃうかも。それは困るなぁ。翔和は人を殺したことがないから2人一緒に天獄に行けないじゃん。だったら、翔和も人を殺さなくちゃいけないね。心配しないで。やり方は私が教えてあげるから。一見難しいように思うかもしれないけど、実際にやってみるとそうでもないよ。手に銃を持って、銃口を頭に向けて、後は引き金を引くだけ。誰にでもできるから、翔和にもできるよ。とりあえず、1人殺せば地獄に行けるかな? これで死後も2人で幸せに暮らせるよ。あ、でも輪廻転生って言葉があるから、人が死んだあとは天国とか地獄に行くんじゃなくて、生前とは別の人間として生まれ変わるのかもしれないね。もしも生まれ変わるのが人間じゃなくて、他の生き物だったとしても絶対に翔和のことを見つけ出して愛してあげるね。例えば私がキリンに生まれ変わって、翔和が蟻になったとしても、絶対、絶対、ぜーったいに翔和のことを見つけるから。血眼になって見つけ出すからね。見つけたら私の長い舌を使って翔和のことを飲み込んであげるね。これで翔和は私の血になり肉になるの。本当の意味で一緒になるってことなのかも。そうだったら最高だと思わない? 私と翔和は永遠に同化して幸せになれるの!」


 彼女の言葉を止めたかった。彼女の中に存在する理想と妄想を断ち切りたかった。


「……あれ? どうしたの、翔和?」


 彼女の狂気に満ちた瞳に、どういった言葉をかけるのが正しいのだうか。



<あとがき>


 あいしてる?

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