最後の選択と新たな世界
95話 どこにいるの?
『家中の監視カメラ映像が夜中に途切れたみたい。これじゃあ映像を見ることはできないなぁ』
翔和の失踪が発覚してから1時間が過ぎた。
火恋は栞に連絡をとり、昨日の夜から今朝にかけての監視カメラの映像を確かめてもらった。監視カメラの存在は、もちろん翔和には秘密である。
「途切れたってどういうことよ?」
『たぶん、カメラの電源が落ちたみたいだね。火恋、監視カメラの電源ってコンセントに差し込んで行うタイプ?』
「ええ、バッテリーの交換が面倒だから特注で『ゴールデングッド』にオーダーメイドしてもらったのよ」
『……ゴールデングッド?』
「知らないの? オーダーメイドの通販サイトってとこよ。売っているものすべてがオーダーメイド。こんなのが欲しいって要望を送れば、サイトに掲示してなくても作ってくれるのよ」
『どれどれ……』
ヘッドホン越しにキーボードを叩く音が聞こえて来た。ゴールデングッドのホームページを調べているのだろう。
『指向性マイク、そっくり人形、びっくり箱、巨大ペットボトルロケット?……ネット通販のみ。12時間以内に商品を制作してお届けします。……ヘンテコな店ね。あ、監視カメラにちょうどいい映像が出てきたわよ」
通話アプリに4つの映像が同時に映し出された。志水家に隠されているカメラの1部だ。それぞれの画面の下部に時刻と時間が表示されている。映像はすべて同じタイミングで再生されているようだ。
しばらくすると、突然すべてのカメラが同時にブラックアウトした。おそらく、ここでカメラの映像が途切れたのだろう。
『今出した映像は4つだけだけど、他の映像もすべて同じ時間に電源が切れているんだ。同時に電源を切られたってことは、ブレーカーを落とすぐらいしか方法はないよ』
「……でも、それは不可能よ。ブレーカーは洗面所にあるの。監視カメラのうちの1つは洗面台に入る廊下付近に設置してあるから、ブレーカーを落とすために洗面所に入った人物の映像が残るはずよ」
『すべての映像は確認済み。電源が切れる時間帯の映像をすべてチェック済みだけど、人が出歩いている形跡は無し……つまり?』
「栞の説が間違っているってことね」
『そんなぁー』
「監視カメラの映像について議論するのはもう止めにしましょう。重要なことは、翔和がどこに行ったのか。このことについて調べるのが優先よ」
火恋はふと、モニター脇の時刻に目を遣った。監視カメラの映像が途切れた時間が翔和の失踪開始時間だと仮定すると、すでに6時間以上が経過している。時間が過ぎるほど捜索範囲は拡大し、発見まで増々時間がかかることになる。
『やっぱり、例の暗殺者にまた拉致されたんじゃ……』
「…………」
クラウディに拉致されたのなら最悪の展開だ。
「……ねぇ、栞」
『ん?』
「翔和が戻ってから部屋に籠ってクラウディについて色々調べたの」
『どうやって?』
「CIAにハッキングして――」
『あっはははははっ』
説明を遮るように栞が突然笑いだした。
『火恋ならいつかやっちゃうだろうなーとは思っていたけどさ。CIAってさぁ! あー、お腹痛い!』
「そ、そんなに笑わないでよ! かなりヤバかったんだから!」
『そりゃあそうでしょうね。でもさ、栞ちゃんにも声を掛けてよかったと思うんだぁ~』
「……栞のために、あえて言わなかったの。元々この話は志水家の問題。協力してくれるのはとても嬉しいけど、最低限は自分の力でこなしたかった」
栞は火恋にとって大切な友人。家族と同等の存在。だからこそ、ハッキングが失敗した場合に栞を道連れにしたくはなかった。
『はいはい、火恋の愛は十分伝わったよ』
「べっ、別に愛って言う程でもないんだけど!」
『出た! ツンデレ! そういうところが好き!』
「何言ってんのよ! はぁ……もうこの話は終わり。それで、CIAにハッキングした結果なんだけど、何も分からなかったことが分かったわ」
「つまり、どういうこと?」
「CIAも手掛かりを掴めていないってこと。彼女の正体から居場所を掴むのは難しいそうね」
『……それじゃあ、もう諦めよう』
栞は疲れたように言った
「何言ってるのよ。まだまだじゃない!」
『今回ばかりはお手上げ。監視カメラのチェックと並行して周辺のカメラ映像も確認したけどダメだった。こっちがどうやってクラウディを追ってきたのかを見破られてるから、家のカメラが意味を成さなかったんだ。対策されたってこと』
「そんなことない! 町中の監視カメラを調べれば何か手がかりを――」
『火恋、君も分かってるでしょ? 監視カメラのすべてがネットワークに接続されているわでもない。近年、街中のカメラが多くなってきたからと言って確実に見つけれない。この前のやつはたまたま。今回は根本的に不可能に近いよ』
「何怖気づいてるの?」
『町中の監視カメラが片っ端に壊れているのよ。これで2人の得意分野からの捜索は無謀。……彼女は完璧よ。流石は名のある暗殺者だこと』
たしかに彼女は完璧と言っていい。今までは存在そのものがあやふやなものだった。
「でも、どうにかしなきゃいけない。完璧な人間なんて、この世に存在していなんだから」
翔和を見つけ出す方法はまだあるはずだ。しかし、栞はもう諦めているようだった。
『だからどうにかするって、無理だよ……』
「無理じゃない!」
『――もう無理なんだよ! どうしようもない! 私たちがパソコンの前で座っているだけで解決できない問題は山ほどあるんだ! 実際、火恋はどうなんだ! 君は安全な場所から、翔和を助けたい、翔和を助けたいって言ってるだけで、命を削って、本当に助けようとしているのは京子さんたちなんだよ!』
火恋は栞の強い口調に酷く動揺した。これまでに、彼女が怒ったことは一度も無かった。いつも優しく、火恋を励ましてくれていた。そんな彼女から浴びた怒りの言葉は、火恋の胸をチクリと刺す。
『…………ごめん』
最後に栞は一言そう言って、通話を終了させた。
「…………ッ」
独りになった火恋は、拳を強く握りしめて感情を堪えることしかできなかった。
<あとがき>
サブタイが西野カナみたいになってるのに気づいて100年。我々調査隊はアマゾンの奥地へと向かった。
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