91話 敵の倒し方


 紡の協力を得た京子たちは学園を出て、車に戻っていた。


「それで、あの変人さんの話をまとめると不老不死実験の産物が翔和先輩とクラウディってわけですか?」


「そういうこと」


「でも、どうして不老不死の実験をしていたのに暗殺者が生まれたんですか? それに、クラウディは死んでも死なないってこですか?」


「クラウディは死ぬ。だからこそ偶然の産物であり失敗作であり成功作。彼女は生の力ではなく、死の力を手に入れてしまった」


 特別な身体能力といとも簡単に人を殺める力。それがクラウディが至高の暗殺者である理由だった。


「なるほど。それじゃあプロジェクトアダムとやらは失敗に終わったんですね」


「そう願ってる」


「どうして願うんです?」


「2人以外にも被検体は他にもいた」


「そういえば、紡先輩が4人の被検体って言ってましたね」


「他の2人の詳細不明。成功したのか失敗したのか。でも恐らく、紡先輩は知ってるはず」


「えー! なんで教えてくれなかったんです?」


「現時点で必要のない情報だったから、だと思う。あの人はそういう人」


「面倒な人ですね」


 星奈が溜息を吐くと、栞も激しく首を縦に振った。 


「ホント、どこに行ってもああいう変人はいるのね」


「でも、彼女のお陰でクラウディを倒せる武器、入手した」


「何か貰ってました?」


「コレ」

 

 京子は紡から貰った薬剤を手のひらにひけらかした。


「それって、翔和先輩の症状を抑える薬ですよね?」


「そう。でも見方を変えて」


 星奈は首を捻って考え込むが、栞は答えを導き出したようだ。バックミラー越しに京子と目を合わせる。


「……なるほど分かったわ。彼の症状って、急激な身体能力向上によって身体が追い付いていない状態なのね」


「そういうこと。この薬は不老不死の薬の効力を抑えるもの」


 この薬を使えば、クラウディの身体能力や殺しの技を弱体化することができ、京子や星奈でも対等に勝負が出来るはずなのだ。


「それは名案だと思いますけど……」


 星奈は遠慮がちに京子と栞の顔を見る。話を聞いていた北川さんも何かに気付いたようで、肩を竦めた。


「どうやって、超人相手にこの薬を盛るんです?」





     *




 志水隆は机の上で事務処理に追われていた。日本に来るのは実に10年振りだというのに、ホテルで缶詰状態なのは致し方ない。信じられるのは自分だけ。他人に仕事を任せるのは極力避けたい。故に、自分に仕事が回ってくるのは当然の結果だった。


 ウイスキーの入った黄金色に輝くグラスを片手に、メールボックスを確認していると、1人しかいないはずの部屋に物音が響いた。


「……誰だ?」


 自然と懐の拳銃に手が伸びる。


「そんなに警戒しないでください、


 その声に聞き覚えがあった。だがそれは10以上も前の話だ。彼女は死んだと思っていた。顔をあげると、扉の前に10代後半の少女が立っていた。天使の様に整った顔立ちからは想像もつかない、妖艶な微笑みで隆を見ている。


 隆は引き出しを元に戻す。少なくとも、彼女に殺される心配はない。


「生きていたのか」


「お父様の前に現れるつもりはありませんでしが、最近、ヨゾラの周辺で怪しい人物がうろついていましてね。お父様の差し金では?」


「いいや、関係ないぞ。今更あんな場所に何がある」


「強いて言えば、子供たちの怨念ですよ」


「……君がやったんだろう?」


「ええ、まあ。とにかく、お父様が犯人ではないとすれば、どこぞのネズミさんですかね」


「さあな。勝手にしてくれ。私は忙しい」


「久々に日本に来て、一体何をするつもりなんですか?」


「出来損ないを殺しに来た」


「実の息子を殺すんですね。コールドマンと呼ばれるだけあります。親子関係は冷え冷えですね」


「あんなの息子じゃない。ただの失敗作だ。試作品としての存在ですらない」


「ふふっ、お父様らしいです。それで、お父様が直々に殺すんですか?」


「いいや。最高の逸材と再会できたからな。偶然の産物で生まれた最強の暗殺者に任せることにした」


「―—ああ、そういうことですか。全て繋がりました。実は私も彼女と再会したんですよ。廊下ですれ違った程度で、彼女は気づいていませんでしたけど」


「……君は頴川学園に通っているのか。運命の神も悪戯好きのようだな。あの学園に全ての役者が揃っているじゃないか」


「役者が揃ったのならば、後は演じるのみ。私は、お父様が失敗しない限りは降板させて頂きますよ?」


「今更だ。勝手にすればいい」


「そうさせて頂きます。果たして、プロジェクトアダムの生み出した最強の暗殺者と出来損ないの暗殺者、一体どちらが勝つのでしょうね」


「そんなの誰の目が見ても明白だろう、私の天使マイ・エンジェル?」


「それはどうでしょうね? 下馬評は信じないほうがいいですよ」


 少女は挨拶代わりに天使の笑顔を振り撒くと、侵入した痕跡など1つも残さず部屋を後にした。




<あとがき>


 牛乳を飲みましょう。

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