88話 劇薬
「……抵抗してみるか?」
僕は試しに左手の力を弱めてみた。すると、冥子は隙を見たように膝を曲げて姿勢を落とし、僕の腹に拳を入れ、懐から脱しようと身体を捻らせた。
しかし、僕は逃げ出そうとした冥子の腕を引っ張り、彼女の重心をズラして地面に転ばせた。そのまま彼女の頭に手を置いて動けなくする。
「無駄なことは分かっただろ?」
「どうして……ッ! どこにそんな力がッ!?」
「僕の身体は改造されているらしいんだよね。改めて考えると、そりゃあ僕が殺されるわけだ。こんな人間――いや、化け物がこの世に存在しちゃいけないな」
「化け物で言えば……私も…………」
「キミならまだ戻れるさ。だって――ッ!」
突然、心臓が鷲掴みされたような、強烈な痛みが襲って来た。視界がぼやけて目が充血し、鼻からポタポタと血が溢れ出る。
「と、翔和、どうしたの!?」
「ッ……がっ…………」
症状は悪化し、立っていることなど不可能。僕はフラフラと冥子の傍を歩き、そのまま倒れ込んだ。
「翔和! どうしたの!? 翔和!!!」
「……は……っ……はぁっ…………」
息が苦しい。
心臓はドクドクと煩い。
「―—そこまでよクラウディ!」
聞き覚えのある声だ。どうにかして顔を上げると、工場の暗闇の中から星奈と続けて京子が現れた。
「どうして……ここが……?」
冥子は動揺を隠さずに彼女たちに問う。
「電話、位置情報、使った」
そう言って京子はポケットから未だに電話中のスマホを取り出した。
「そ、そんなことは今はどうでもいいの! 翔和が! 翔和がっ!!!」
「先輩、毒でも盛られたんですか!?」
星奈が状況を呑み込んで、慌てて僕の元へ駆け寄る。
「その症状……」
一方の京子は冷静に過去の記憶を辿っているようだった。
彼女は僕のこの症状に見覚えがあったはず。
忘れもしない忌々しい記憶であるけれど。
「……星奈、翔和運んで。知り合いに相談する」
「病院……ですよね!?」
「違う。だけど、この症状を抑えるには病院ダメ」
「うーーーん。良く分からないけど分かりました!」
星奈が僕の肩を持ち上げる。
「クラウディさん、今はあなたも協力——」
気が付けば、冥子は跡形もいなくなっていた。
「……め、めいこ…………」
「あ~も、もう! 何なんですかあの暗殺者は! とにかく先輩は黙っていてください! 車まで運びますよ!」
僕は冥子の行方を薄れゆく視界から探すが、そんな行為は意味も無く、気を失っている間に、京子と星奈に車まで運びこまれたのだった。
<あとがき>
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