35話 恋愛マスターと賢者の意思
「こーちゃんはカッコイイから沢山の女の子から狙われてるんです。仕方が無いことだけど、被害を最小限に押さえる為、学生結婚をしたいんです」
「へぇ。なるほどねぇ~」
紡先輩は机に両肘を付けて両手で口元を隠した。どうせ新しいおもちゃを手に入れたと口元を緩めているはずだ。こうなれば、目的は如何に素早く結論へ辿り着くかへと会話の着地点が決まった。話が脱線した途端、紡先輩の猛攻撃が始まることだろう。霧島先輩の威厳を出来る限り守ろうじゃないか。
「そもそもですけど、霧島先輩と米澤先輩は付き合ってるんですか?」
「いいえ、付き合っていないわよ」
「付き合ってもいないのに結婚しようとしているんですか?」
「私たち、幼馴染だから付き合っても特に何も変わらないわ。私がこーちゃんを好きになってから、付き合ってるも当然の仲だったもの。そういう仲になるように私が努力したんだもの」
霧島先輩の毅然とした口調に、俺は霧島先輩が何を望んでいるのかを理解した。自称恋愛マスターは圧に押され、紡先輩は相変わらずのニヤケ顔で奇襲の機会を伺っている。
ならば、彼女がこの部に相談しに来た意味を俺が答えるのが自然な流れなのだろう。
「……霧島先輩、あなたは周りからの了承が欲しいんですね」
「それはどういうことなの、冠城くん」
安良岡さんは俺の言葉の真意を読み取れてはいないのだろう。平然を装っているが、困惑の二文字が顔から滲み出ている。一方の紡先輩は良く分からなかった。いつも通りニヤニヤしている。最初から分かっていて俺に答えを出させようとしていたのではなかろうか。彼女との付き合い方に慣れてきた今だからこそ、疑念を抱いてしまう。だが、問い質しても答えは得られない。それが紡先輩の悪いところだ。
「……後輩君、この短い受け答えでどうやって気づいたの?」
霧島先輩は俺をじっと見つめてきた。
恐怖。
何故かその言葉が脳裏を掠める。声色は最初から変わっていない。答えに辿り着いた俺に怒っているわけでもない。だが、彼女の奥底には名状しがたき根源的「恐怖」そのものが存在しているように思えた。
俺の反応に気付いたのか、霧島先輩は一度俯いてから猫を被ったように微笑みの表情を向ける。その瞬間、恐怖に恐怖するような悪夢の時間は終わりを告げた。
「御曹司だから価値観の違いとか、かな?」
「い、いえ。中学の頃、承認欲求の強い子と関わりがあって……」
そこまで口走ってから後悔した。霧島先輩は生徒会副会長だ。そうなると、生徒会にはあの人がいる。あの変装からして、自身の過去を他人に話すようなことはしていないだろうが、一抹の不安を覚えた。
「ふーん」
その短い返事は俺とあの人との関係を知っているのか知らないのか、どちらとも取れる厭らしい反応だった。
「ちょっと、どういうことなのか説明して。恋愛マスターに分かるように説明して」
話に付いてこれるはずもない安良岡さんは、痺れを切らしたようで俺に肘打ちしてきた。ここまで来て説明しないのは意地悪だろう。だが、少し難しい気もするので、彼女に分かりやすいよう自分の言葉を脳内で咀嚼してから話すことにした。
「そうだな、安良岡さんはこれまでに『周囲が付き合っていると認定している人達』は見た事があるか?」
「……どういうこと?」
「んー、今のは難しい言葉だったな。『夫婦漫才やめろよ~』『2人共お似合いだね~』とか、教室の中でそうやっていじられている男女を一度は見た事があるだろ?」
「ええ、あるわね」
「霧島先輩はそれを結婚単位でやろうとしているんだよ」
「…………つまり『お前ら結婚しちゃえよ~』という同調圧力を使って、本気で結婚を目指すって認識であっているのかしら?」
安良岡さんは自分自身の言葉に戸惑いを感じつつ疑問を投げかけた。
「安良岡さんは最初に幼馴染の結婚は難しいみたいなことを言っていたけど、逆に、これこそが王道かつ理想的な、幼馴染というアドバンテージを活かした恋愛戦略なんだ」
「なるほどね」
納得がいったと言わんばかりに安良岡さんは大きく頷いた。
「そんなに私の恋愛マスターの称号が欲しいのかしら?」
「それは要らないぞ」
<あとがき>
なんか変な描写?があったと思いますが、後で詳しく分かるはずです。
あとまたちょっとタイトル変えてみました。頻繁に変えるのは良くないと分かりつつ、伸びがあまりにも悪いので仕方なしに、です。
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