34話 結婚願望全開フルパワー


「失礼します。出直して来たので相談に乗ってください」


 霧島先輩は真面目な雰囲気に対してノリが良いのか、紡先輩の言葉通り、一度教室を出ると再度扉を叩いて教室に入って来た。


「あのねぇ。いくらなんでも強火が過ぎるよ。ボクはもっとマイルドな相談を受け付けているんだ。紅ちゃんにも何か言われなかったかい?」


「満面の笑みで相談に乗ってくれると言っていましたよ」


「まったく、あの先生ときたら……」


 紡先輩は頭を抱えて身体を左右に揺らした。


「わかったよ。ここにはちょうど、恋愛のスペシャリストがいる。2人にアドバイスを貰うことにしよう」


「あの、それって俺たちのこと言ってます?」


「あたり前田のクラッカーだよ。キミたち以外にこの相談に乗れる人物なんていない。良かったね天璃ちゃん」


「霧島と呼んでください」


「ほら、彼女も喜んでいる」


 顔に付いている2つの大きな目玉は節穴かとツッコミたくなる気持ちを抑えて、俺は助けを求めるようにして安良岡さんの顔を窺った。

 

「恋愛マスターに任せてください」


 なんだそのダサすぎネーミングセンス、絶対嘘だろ。


 その証拠に、安良岡さんは普段見せない下手くそな作り笑いをしている。


「恋愛マスターがいるのなら安心ですね。是非、師匠と呼ばせてください」


 霧島先輩は見事に騙されているようだ。それともさっきのようなノリで言っているのか。いっそのこと、恋愛マスター殿がどのようなアドバイスをするのか見届けようじゃないか。


「いいでしょう。では、指導するにあたって、意中の彼とはどういった経緯で知り合ったのか教えてください」


「彼とは幼馴染で――」


「あー、もう無理ですね」


「諦めるの早くない!?」


「幼馴染というのはアドバンテージに見えて、特大の足枷になってくるものです」


「そうなんですか?」


「ええ、そうです。例えば『二○コイ』とかですね。あれは幼馴染が敗北します」


 読んだことありませんか。と安良岡さんは問いかけ、霧島先輩が首を横に振ると恋愛の駆け引きの参考になると全巻購入を勧めた。 


 参考資料は漫画って、それでいいんですか恋愛マスター? しかもネタバレしてるし。


「足枷となる大きな原因は、自分と同じぐらい魅力的な異性と出会った時に新鮮味を感じてしまうことにあります」


「さすが師匠、説得力があります」


「ししょー、ししょー、実体験は話してくれないんですか~?」


 紡先輩はニタニタと笑って安良岡さんに問いかける。


「私の実体験は刺激が強いので、まずは基礎的部分の勉強からです。基礎が出来てこそ応用も出来るのです」


「えー、つまんなーい」


「経験談で言えば、紡先輩の方が私よりもあると思いますが」


「そこを突かれると痛いなぁ」


 紡先輩は3年生だ。しかも留年を繰り返しているらしいので、年齢で言えば俺たちよりもかなり上になる。


 そういえば、込み入った話だろうから特に気にしていなかったが、紡先輩はどうして留年を繰り返しているのだろうか。恐らく、学力で言えば日本のどこの大学であろうと合格できる実力を持っているはずだ。そうなれば何の為に留年を繰り返しているのだろうか。YGS製薬という大企業の社長をしているのだから、その道に進み為に学校を辞めてもいいと思うのだ。謎は深まるばかりである。


「さてさて、そんなことより話の続きを聞こうじゃないか。どんな人物なのかはともかく、どうして学生結婚をしたいんだい? そんなに焦らなくてもいいじゃないか」


「確かに。いくらなんでも早すぎますよ」


 高校生で学生結婚をするメリットが無い。いや、結婚にメリットデメリットを求めるのは野暮なことかもしれないが浅い考えでの実行は絶対に良くない。


「こーちゃんには時間が無いの。だから学生結婚したいです」


「時間?」


「そう。学生の内に、こーちゃんと結婚しておかないと、他の女に盗られちゃう」


「えっ」


「え?」


「?」


 全員が全員の視線と交じり合った。



<あとがき>


 ほげーたな顔してるさ。



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