63話 作戦会議



「で、なんで私の家に集合するわけ!?」


 志水家のリビングにあるソファで、京子と星奈が座っていた。火恋は向かいのソファに座っている。


「仕方ない。会議場所、限られる」


「そうですよ、妹さん。仕方がないです。まあ、先輩の家に入りたいと思っていたのもあるんですけど」


「妹さんって言われるのがなんかムカつくわね」


『まぁまぁ、妹さんなんだからね』


『ははっ、その通りだ』


 テーブルの上にあるノートパソコンから「妹さん」に同意の意見を出しているのは、栞とカグツチの1人と1体だ。


「っもう、いいわよそれで。雑談は置いといて翔和救出作戦についての会議を始めましょう。そのために集まったんだからね」 


『まずは、彼が今どこにいるのかについて説明するわね。パソコンの画面を見てくれる?』


 栞の呼びかけに全員がパソコンの画面を覗き込む。


『例の怪しい人物はバスに乗って、このマンションまでやって来たわ』


 画面には地図が表示され、建物に赤い丸印が付けられた。近くには海岸線が広がっている。


 この海岸では、夏に海水浴をするために大勢の人がやってくる。しかし、この時期は人を見かけることはほどんどない。ここは波が低く、年中いそうなサーファーすら見かけない。

 

 距離を見てみると、このマンションは志水家から行けない距離でもない。車を使えば30分程度か。


『マークを付けた所がそのマンションよ。エレベーターのカメラで、階層は5階ってことは分かったわ。ただし、どの部屋にその人物が向かったかまでは分からなかったわ』


「ちょっと待ってください。まさかとは思いますけど、キャリーバッグの中に先輩が入ってたりします?」


「そのまさかだと思っているわ」


「先輩、可哀想に……。どこかのエスパー芸人になっちゃたんですね……」


 星奈の言葉を無視して説明を続ける。


「さて、作戦を説明するわね。栞は引き続き、そのマンションの防犯カメラを監視して。それと、カグツチは不動産会社のシステムにでも侵入して、住居人で怪しい人物がいないか確認して」


『任せといて』


『了解した』


「怪しい人物を見つけ出したら速攻部屋に突撃。速やかに翔和の救出と、可能であれ犯人も拘束。これでいいかしら?」


 シンプルかつ、大胆な作戦だ。相手が凄腕だとしても、いきなり2人が突入してきたのなら対処は難しいはずだ。クラウディの確保は難しいだろうが、翔和を奪還するという最低限のことを成すのであれば、それだけで十分だ。


「それでいいと思います」


「同意」

 

 2人は頷く。了承が取れたところで、今まで触れてこなかった大きな疑問を2人にぶつける。


「これにて作戦云々の話は一旦終了。それよりも、どうして翔和を殺そうとしていた人と協力関係になっているのかしら?」


「そういえば、説明してなかったですね」


「忘れてた」


 星奈はテヘッと可愛らしく、京子は無表情で謝罪した。


「それじゃあ、説明して」


「わたしが説明しますね」


 星奈が手を挙げる。


「まず言っておきたいことがあります。わたしは先輩を殺そうとしていなんです」


「間接的に、の間違い」


 と、京子からのツッコミが入る。


「殺したいの殺したくないのどっち!!!」


「妹さん、安心してください! 違うんです! 取引の材料にしようと思っていたんです!」


 星奈は自分がとある組織の一員で、ボスが翔和の父に恨みを持っていること、翔和を使って父に脅しをかけようとしていたこと。しかし、京子はその作戦が無意味なことを説明する。


「なるほどね。あくまで父さんに恨みを持っているだけなのね」


「そ、そうなんです! まぁ、恨みを持っているのはわたしじゃなくて、ボスだけなんですけどね」


「それで、どうして手を組むことになったの?」


「それは、私」


 今度は京子が手を挙げた。


「突然だけど、翔和の父を殺す、賛成」


「それは――」


 京子がさらりと口にした言葉に唖然とする。いくら何でも言い方があるだろう。


「翔和の父が犯した罪、重い。命で償う価値、ある」


「でも……」


「分かっている。それは兄妹2人、最後に決めればいい。けれど、どうであれ罰が必要。確実に」


「そうね。……父さんはそれ相応の罰を受けるべき人間だわ」


 火恋は父がこれまでに行ってきた罪を知っている。完璧を求めた末の非人道的な行為の数々。自らは手を下さない汚い手口。これまでに何人もの人々が彼の傲慢による地獄を見てきたのであろうか。


「最終的に、翔和の父が罰を受ければ、翔和、危害、加えない約束」


「今の目的にわたしは翔和が必要。そんでもって、妹さんたちは翔和を助けたい。どちらも最終目的は、『翔和先輩のお父さんに罰を受けてもらう』ってことになるんで、協力関係を結べると思うんですよ」


 最後に、星奈が協力することの意味をまとめ上げた。


「……言いたいことは分かったわ。星奈さん」


 今の状況で、実戦の出来る京子たった1人でカグツチを倒せるとは到底思えない。結論は直ぐに出た。


「翔和を取り戻すということで、協力しましょう。ただし、翔和を取り戻した後に誘拐しないという約束よ。わたしも父さんに罰を受けさせるという点では協力するから。――これでいいかしら?」


「ええ、いいですよ。協力しましょう」


 星奈は手を差し出す。火恋も手を出して握手を交わす。


「それじゃあ、どの部屋に隠れているか分かったら出発しましょう」


『ちょいちょーい、カグツチが情報見つけたわよー』


 画面の中の栞が声をあげた。


『潜伏先として可能性の一番高い部屋を見つけた。——512号室。その部屋の住人は3日前に引っ越してきたばかりだ。そして、名前は朱智院で通っている。この部屋で確定だな』


「朱智院……妹さん、その人、先輩のクラスに転校してきた人ですよ!」


「なっ! なんでそんな怪しい人を事前にピックアップしてなかったのよカグツチ!」 


『……あの時は畦地星奈が怪しいと思ったから朱智院という人物については深堀していなかったんだ』


「このポンコツ!」


『罵倒するのは構わないが、そんなことよりも早く現地へ向かった方がいいんじゃないか? 逃げられるぞ』


 ああいえばこういうAIだ。火恋は頭が沸騰しそうになるのを抑えて自分のやるべきことに思考を切り替えた。


「―—みんな、翔和を救いましょうか」


 その場にいる全員が、彼女の言葉に頷いた。




<あとがき>


 ゆくぞっ!


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