SS5

31話 舞桜ちゅーぶ 前編


 メイドの朝は早い。


 午前5時半。


 冠城学専属メイドである犬星珠李は、毎朝この時間に起床します。


「……カメラを持って、何ですかお姉様」


「……なんでもない。どうぞ、身支度してください」


「…………」


 まずは彼女が身支度を整える為にパジャマを脱ぎ――――。


 そのシーンは妨害を受けて録画は出来ていない。どんな光景が映ったのかは、ご想像にお任せしよう。


 メイド服に着替えた珠李は朝食の準備をします。フライパンの上にはスクランブルエッグとベーコンが焼かれているようです。実に香ばしい香りです。一度火を止めると、パンをポップアップトースターにセットしました。


 その間に、ご主人様を起こしに行きます。


「失礼します、ご主人様」


 部屋の中のご主人様はすやすやと寝息を立てています。珠李は彼に近づくとゆさゆさと肩を揺らします。これで起きるのでしょうか。


「おはようございます、ご主人様。起きてください」


 なかなか起きないようです。ここはメイドの腕の見せ所でしょうか。


「仕方がないですね。……失礼します」


 珠李はご主人様の顔に唇を近づけて、何をするのかと思いきや、鼻に噛みついたのです。


「いてぇえええ!!!」


 ご主人様は大声を上げて飛び起きます。


「おはようございます、ご主人様」


「お、おはよう。鼻が痛いんだけどなんかした?」


「特に何もしていません」


「そうか。って、なんで舞桜が俺の部屋に。まてなんだその手に持っているのは! カメラか!? 今すぐ止めろ!」


 ご主人様はカメラ嫌いなのです。またしても動画に穴を空けることになりました。尺の都合上、珠李のサービスシーンをお楽しみください。


 え? そんなの無い? それは残念。 それじゃあアタシのサービスシーンでも差し込みましょうか。


 眼福せよ! メイド服のスカートと黒タイツの隙間に出来る絶対りょ――。




※動画投稿者の最終確認により、現在のシーンはカットしました。申し訳ございません※




 サービスシーンはご堪能いただけたでしょうか? 続いて、登校中の主人とメイドを観察していきましょう。


 2人で仲良く登校しています。さすがに珠李はメイド服を着ていません。制服です。普段、メイド服を見慣れた身からすれば、少し新鮮な気分です。


 駅に向かっています。電車の中で撮影は出来ないので到着駅から撮影を再開します。


 着きました。


 社会の荒波に揉まれながら2人が改札口から出てきます。


 あとは学園まで歩くだけです。


 少し進むと辺りは頴川学園の生徒だらけになりました。メイド服のアタシが浮いてます。


 珠李たちの後に続いて校門を抜けると、撮影班は赤いジャージ姿に丸眼鏡のツインテール女教師に行く手を遮られました。


「ちょっと、あなた学園の生徒じゃないでしょ。朝からそのコスプレは何!?」


「はァ? コスプレじゃないが?」


「コスプレの問題じゃなくて、関係者以外立ち入り禁止!」


「アタシは関係者だ!」


 そこで映像は途切れてしまいました。


 学園に入れないのは残念です。撮影班はその後、珠李たちが授業を終えるまで時間を潰すことにしました。



――後半へ続く。




<あとがき>

 

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 次回、紡先輩再登場の予定。

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