SS3
22話 悪戯
「おやすみのところ失礼します、ご主人様」
珠李はベッドで寝息を立てる主人を起こさないように、小さな声でいつも通りに部屋に入る。時刻は朝の7時。土曜日なのでこんなに朝早く起きる必要はない。だが最近、誰よりも早く起きる珠李だからこそ出来るちょっと危険な遊びをしているのだ。
ベッドに近づいて、学の口元に耳を傾ける。
「――すぅーーー……すぅーーー……」
安定した呼吸。無呼吸症候群などの病は発生していないようだ。勿論、この確認をするのは悪戯でもなければ趣味でもない。これは、あくまでも学の健康状態を確認している――という建前に過ぎない。本来の目的はこのあとだ。
「失礼いたします、ご主人様」
一応断ってから、学が起きないように静かに布団を捲り、ゆっくりとその中に侵入する。
布団の中で、学と珠李の距離は限りなく零に近い。少しで動くだけで身体が触れられる。ここまで近づくのは、学が起きている時であれば至難の業だろう。
これが舞桜にも知られていない、早朝に行われる珠李の悪い遊びである。
平日であれば学校の準備がある事情で30分程度しか行っていないが、休日であれば話は別だ。休日は8時半に学のことを起こす。起床の30分前には朝食の準備を始めたいので、少なく見積もっても1時間近くはベッドの中で学のことを見ていられるのだ。
すやすやと寝息を立てる学の表情を眺めていると、幸せな気持ちになれる。今日も1日頑張ろうと思える。珠李にとっての活力剤と言っていい。これを止めたらしばらくは生きていけない、そんな気すらも感じる。
しかし、残念なことに、幸福な時間とは不思議とすぐ終わってしまう。
学の顔を眺め、頭を撫で、匂いを堪能しているとあっという間に1時間が経過している。
こればかりは仕方がないことだ。名残惜しい気持ちを押さえてベッドから這い出る。メイドとして、これ以上の行為を遂げることは不可能だ。
――こんなことしている時点で、何を言われても文句は言えないが。
「ありがとうございました。失礼いたします」
意識はないものの礼儀として感謝の言葉を述べから、朝食の準備をするためにキッチンへと向かう。すると、この時間では珍しく、リビングで舞桜と遭遇した。
「おはよっす」
舞桜は重そうな瞼を擦りながら右手を上げた。
「おはようございます。今日は一段と早起きですね。何か用事があるんですか?」
「いいや。偶然早く起きただけだ」
「そうですか。今から朝食を準備しますのでお待ちください」
「おう、さんきゅ。……ところで、アタシは1時間ぐらい前に起きたんだよ。そんでもって、トイレに行くために部屋を出るとなぁ、偶然、珠李がガク様の部屋に入っていくのを目撃したんだ」
「……そうですか」
「1時間はガク様の部屋から出てこなかったよな?」
「……そうですね」
「一体何を――いや、ナニをしていたんだね?」
「……ご、ご想像にお任せします」
「――――このドスケベメイド!」
「うるさいです黙ってください! 少しは自重することを覚えてください!!!」
<あとがき>
お金をくれなきゃ悪戯するぞっ!
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