21話 ツイスターゲームという前座
俺が負けてしばらく経ったが、未だに舞桜と珠李の熾烈な争いが繰り広げられていた。
「そろそろ音を上げてもいいんですよ?」
「はぁ? アタシに勝てるなんて思ってんのか?」
「…………思っていません」
「そりゃそうでしょ」
舞桜は珠李の耳元に息をふぅ~と吹きかけた。ぴゃああ!!! と子猫のような悲鳴をあげると床に座り込んでしまった。
というわけで、当然の結果というか分かり切っていたと言うべきか、舞桜の優勝である。
「ハハハ! 2人共、出直してきな!」
優勝した舞桜は腕を組んで偉そうにしている。
俺と珠李と真実さんは、次の勝負に巻き込まれないことを祈るばかりだった。
*
「それで、どうしてツイスターゲームをやろうって話になったんだ?」
真美さんが帰宅した後、舞桜に問いかけた。真美さんには後で何かお詫びの品でも用意しよう。
「ああ、そういえば忘れてた。荷物を整理していたらツイスターゲームと一緒に段ボールからコレが出てきたんだ」
舞桜が取り出したのは、分厚い大きな本だった。
「なんだそりゃ?」
「アルバムだよ。ガク様の成長記録だな。元々はコハル様とタケシ様が作っていたが亡くなった後はアタシが作ってたんだよ」
コハルとタケシは、俺の母と父のことだ。思い返せば、両親が交通事故で死んでから随分と時間が経ってしまった。両親の声がなかなか思い出せない時もある。そんな2人がこんなものを作っていたなんて全く知らなかった。頭の中で嬉しさと恥ずかしさが混在する。
「いつの間に写真なんて撮ってたんだよ」
「ガク様が写真嫌いなのはみんな知っているから、バレないよう撮るに決まってんだろ」
写真が嫌いというより、注目されることが嫌いなのだ。そのせいで、昔の俺の姿を映した写真は少ないはずだった。
「それじゃあ、この修学旅行の時の写真なんてどうやって撮ったんだよ。珠李は別の学校に通ってたのに。まさか、写真を撮る為に珠李が学校をサボってたとか言わないよな」
「まさか。だーれが写真を撮ってたのが珠李なんて言ったよ。ガク様を守るのがアタシたちだけとは限らねえだろ。いまだから言うけど、中学校にはガク様を守るため密に潜入していたメイドがいたんだぞ」
「え、嘘だろ!? 気が付かなかった」
「ガク様がその存在に気付いた時点で、そのメイドはクビにする計画だったからな。バレないように細心の注意を払えって言っておいた」
「なんだよそりゃあ。そんな危険な計画に付き合わせてしまったメイドは申し訳ないな。その子は一体誰なんだ?」
「メイドの守秘義務だ。教えなーい。まぁ、アタシたちがガク様を守れなくなったら姿を現すんじゃねえか。そんな状況、来るわけねーとおもうけど」
そんなこと言ってフラグを建てないでいただきたい。
「とにかく、これからはアタシたちが写真を撮っていくと思うからよろしく」
「……そこまでしてアルバムを作りたいのか?」
「ああ。それがコハル様との約束だからな。もちろん、今日の写真もあるぞ」
「いや、いつの間に撮ったんだ!」
舞桜が意気揚々と、スマホの画面を俺に見せてきた。
「――って、おい! 今すぐに消せ!」
「なんだガク様、これを消して欲しいのかぁ?」
彼女のスマホの中では週刊誌さながらの画角で、珠李のスカートの中を覗いている俺が激写されていた。
— 赤、青、黄、緑の交わるやつ 終 —
<あとがき>
これにてツイスターゲーム編終了。
別にツイスターゲーム書きたかったわけじゃないんだけどな。
次回、SSを挟み、物語における重要なキャラ登場の予感。
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