73話 お料理はまだ早い
「なぁ、ガク様」
「なんだよ」
「これはなんだ?」
「どう見ても唐揚げだろ」
「いやどう見ても炭だろ」
皿に盛られた黒い塊から食欲を誘われることなんてなかった。
「レモンかければギリギリいけるか?」
自分の分を取り分けてレモン汁を絞る。当然見た目の変化はないため、目を瞑って食してみる。
「食えないものではない」
「本当か? それならアタシも食べよう」
舞桜もレモン汁をかけて唐揚げを頬張る。
「嘘つき! 食えたもんじゃねえ!」
「うるさいな! 我慢しろ!」
珠李が修行? に出て数日。我が家の食卓は殺伐としていた。
「やっぱり今日はコンビニ弁当にしようぜ!」
「ダメだ。夕食がコンビニ弁当は週3日までって決めただろ?」
「そんなぁ!」
珠李がいなくなった今、俺は料理に本腰を入れることにした。掃除や洗濯はどうにかなるが、料理だけはどうにもならないことは明らかだった。
当初は自立が目的の一人暮らしだった。ならば、この状況こそ目的に近づいたと言えるのだ。
本日の夕食として挑戦した鶏肉の唐揚げは、鶏肉を油で揚げればいいだけの初心者向け料理だと思い挑戦したが、油の温度調整を失敗した。結果として、生焼けの唐揚げと、黒焦げの唐揚げが完成した。黒焦げはともかく、生焼けはマズイともう一度揚げたが黒焦げの唐揚げを増産しただけに終わった。
経験値の浅い俺が言うのもどうかと思うが、改めて、火加減やひと手間で味の変化が起こる「料理」とは奥の深いものだと思った。
「明日は舞桜が作るんだからな」
「分かったよ」
舞桜も料理が得意ではない。つまりこれは2人の挑戦だ。お互いに励まし合って料理の腕を向上させることが目標である。
*
「最近、お弁当じゃないんだね」
安良岡さんが不思議そうに僕を見つめた。昼食はいつも珠李が作ってくれていた弁当を食べいていた。しかし、ここ数日でお手製弁当はコンビニ弁当へジョブチェンジを果たしていた。
「珠李ちゃんが作ってくれてるんじゃないの?」
「いま珠李は俺へのメイド業務を休暇中なんだよ」
「冠城くんへのってことは、他の人のメイドをしていると理解していい?」
「そういうこと」
「へぇ。喧嘩でもした?」
「そ、そういうわけじゃないんだ」
「ホントに? いつも一緒にいたからクラスの間で色々な噂になってるよ」
「噂を真に受けないでくれよ」
「当たり前じゃん。そういうの、私は嫌いだから」
いつになく真剣な眼差しを向けた。女子は噂話の類いに目がないと思っていたが、彼女は違ったらしい。
「話を戻すけどさ。別の人のメイドをやってるってことは、家にもいないわけ?」
「そうだよ。今は珠李の姉と2人だけ」
「へぇそうなんだ。確か、お姉さんは大学生だよね」
「よく覚えてるね」
そう返したが、舞桜の存在と大学生であることも言ったことがっただろうか。
「お姉さんはお弁当作ってくれないの?」
「料理は苦手なんだ」
「ふーん。メイドにも得手不得手あるのね……それならしばらくの間は私が作ってきてあげようか?」
安良岡さんは頬を桜色に染めて照れくさそうにいう。
「そ、それはさすがに気が引ける」
「1人分も2人分も変わらないよ。だから、さ?」
そこまで言われると断るのも申し訳がない。
「……わかったよ。その代わり毎日じゃなくていいからね。無理はしてほしくないよ」
「それじゃあ週に3回はお弁当作ってあげるわね」
それも多いと思ったが押し問答になるので「よろしく」とだけ頷いた。
<あとがき>
毎日ピザ食べたいナ。
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