終章前編:願いと狙いと強い思い
1人にしないでよ
68話 いってらっしゃい
「いってらっしゃいませ」
いつも通り、車へ乗り込む2人を見送る。
その日を境に、彼の両親が二度と戻って来ないなんて、当然知る由もなかった。
*
あたしの仕事は冠城家への奉仕だ。
ご先祖様は元々貴族の警護をしていた一族らしい。一族は戦の世を何度も生き残り、少なくとも江戸時代には冠城家専属の警護が生業となった。
そして現代。警護なんて言葉を使う荒仕事などほとんど存在するわけもなく、業務は警護から奉仕へと切り替わった。
そんな一族の背景もあり、中学生のあたしは幼いながらに冠城家に仕えているわけだ。
「ガク様、飯はとっくに冷めてるぞ」
突然、両親がいなくなった悲しみを小学生の彼が受け止めるにはあまりにも酷い現実だった。
一日中、ベッドの上で寝ているのか起きているのか分からない状態で仰向けになっている。両親が子会社の引き起こした問題で、忙しくて構っていられなかった時よりも酷い状態だ。
テーブルの上に置いた食事は、僅かながら手をつけている様子だ。
「ちゃんと食わないと死ぬぞー」
肩をツンツンと突いてみるが一切反応はない。
「ったく」
悪態を吐いて部屋を出た。
「どう、でした?」
4つ年の離れた妹は心配そうにあたしを見つめていた。彼女は将来、ガク様の専属メイドとして働く予定だ。一人前になるまで、あたしが一緒に面倒を見ている。
「ダメだなこりゃ」
「おねえがダメならわたしもダメ」
「そんなことはねぇぞ。むしろ、あたしがやってもしゃあねえ。元々オマエのご主人様だ。オマエが面倒をみろ。オマエがガク様を守ってやれ」
「だって……」
「別に意地悪してやろうってんじゃない。ご主人様のことを良く知ってるのは冠城学のメイド―—になる予定の犬星珠李だろって言ってるだけだ」
まだ小学生の珠李には難しい話だったろうか。小首をかしげてうーんと唸っている。
「そのうち分かる時が来る。それまではガク様の傍についているだけでいいさ」
「うん」
珠李はガク様の部屋へ入って行った。
ガク様には、いつも珠李がいたという記憶さえ残っていてくれればいい。小さい種が後に大きな花を咲かせるようなもんだ。
あたしの人生を賭けた計画は、その時すでに始まっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます