69話 おかえり


 私のパパは、とある大企業に勤めていた。


 パパは仕事が大好きだったし、情熱を持って取り組んでいたのは明らかだった。帰って来るのが遅いけど、その分だけ抱きしめてくれたから寂しくはなかった。


 私が小学生になった時、パパは副社長になった。


 パパはとても嬉しそうだった。私も嬉しかった。


 その頃からだった。パパは暗い表情して仕事から帰ってくるようになった。


 私は、そんなパパを心配していた。勿論、ママも。


 ある日、家に帰ると既にパパの靴が玄関に並べてあった。


 夕方に帰って来るなんて驚いた。喜びの余り、玄関でつまずいて転んだ。足の痛みを堪えながらリビングに向かう。


「パパ、おかえり!」


――――その言葉を最後に、私の記憶は途絶えている。



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