宝さがし

@mizinko-mini

短編ストーリー

この所、妻とは喧嘩が絶えない。

世界的な不況で我が家の収入は激減し最盛期の3分の1以下だ。

暇があるなら何でもいいから仕事をもらえという妻の逃げ道のない正論に弁解の余地はなく、ダラダラと不況のせいにして過ごしている。

実家から東京に移り最初こそ好調だった事業も、今は閑古鳥がないている。

我が家には、五歳と三歳の子供がいて、その状況の僕を見て妻がイライラするのは、至極当然の話だ。

『あなたは子供と変わらない。やりたい事しかやらないもの。私は男の子を三人生んだ覚えはないわ。』

喧嘩の終わりにはいつも決まった台詞を妻がいう。

『僕らと一緒なんだね。』と長男のとうじがほっとしたように、笑顔で言うと『でへへ』と次男のこうじが涙を拭いながら笑う。

そして、僕は何も言わず子供に笑顔を向け日常に戻る。

仕事がないと1日は長い、何をするわけでもなく携帯をいじり、時間になれば子供達を保育園まで迎えに行く。

ある日とうじが、僕に保育園で作った宝の地図を見せてくれた。

それは、昔に家族四人で行った沼津の海に宝があると記された地図だった。

沼津には、妻の実家があり、そこから車で30分程行ったところに綺麗な海がある。蟹や魚も泳いでいて人も少なく、僕も妻も大変その場所が気に入っていたので、よく子供をつれて遊びにいっていた。

宝の地図は、妻の実家からその場所までの地図になっていて、五歳の作品としては大変上質なものだった。僕は饒舌にとうじを誉めた。

道を覚えていた事や岩場の配置、その描き方に関しても大変驚かされるものだった。

弟のこうじも覚えたてのことばで驚きをとうじに伝えていた。

『にーに、しゅごいね。たかあだねぇ。』

『パパ本当にあるんだよ。宝があればパパとママ仲良しでしょ?宝ってお金でしょ?』

無邪気にとうじが僕に問いかけ『そうだなぁ』と僕は、おざなりに返事をした。

仕事から帰ってきた妻にもとうじは自分が、作った宝の地図を見せていた。

妻も僕と同じように作品のできに驚き、とうじを誉めた。そして、とうじは僕にした質問と同じ質問を妻にもした。

『そうだね。宝を見つけたら皆で幸せに暮らせるかなぁ。』と妻はきまりがわるそうに答えた。

それから、しばらくしたある日妻との喧嘩が起こる。

『仕事本当に探しているの?どうするの?状況がわかってるの?』

妻の不安と不満が、爆発する。

僕は何も言わず黙ってやり過ごそうとテレビをつける。その行為が妻の怒りに油を注ぐ。

つけたテレビを消して妻の不安と不満は怒号になって僕にぶつかってくる。

『どうせ仕事さがしていないのでしょ?このままじゃ我が家は破産よ。』

妻の不安は僕に伝染する。

『わかってるよ。別に俺だってあそんでいるわけじゃない。少しは黙ってろよ』

伝染した不安は、僕の怒りにとけて罵声に変わり妻を突き刺す。

汚い言い合いが一時間以上続き、妻は荷物を纏め、子供を連れ出ていった。

狭い家がやたら広く感じ、虚しさと寂しさが押し寄せる。

不安と恐怖でいっぱいになる気持ちを隠して、踞りながら、寝れずに起きていた。

夜が明けて、昼過ぎになり携帯の着信音で我に返った。

どうやら、きずかないうちに寝ていたらしい。たいした神経をしているなと思いながら携帯を見る。

妻からの着信だ。妻は絞り出すように僕に言う

『とうじとこうじがいないの。そっちに行っていない?』

『来てない。君はどこにいるの?』思考が一瞬止まり、最悪な状況が脳裏を掠める。

『沼津の実家。行ってないなら大丈夫。もう少し探してみる』

僕はすぐに行くと伝え車に飛び乗り沼津に向かった。

沼津に着くと、顔は青ざめ、疲れきった妻がいた。

近所の友人の家や親戚の家を方々探したが二人はいないと言う。

自分を責めて泣きくづれる妻を車に乗せて警察署に向かう。

その日は三連休の初日と言うこともあり観光客でごった返し、道が渋滞し思うように進まない。

『こんな時に海なんかいくなよ』と怒りの矛先をどこに向けて良いかわからず呟いた。

『家族で行った海』妻が呟くように僕に言う。

『あそこに行ったんじゃない?』

『あそこに?でも、子供の足だと六時間はかかるよ。』

『私達が喧嘩したから、宝があるとおもって探しにいったのじゃない?』

『とうじが自分で作った宝の地図だろ?とりあえず、向かってみよう』

二人がいなくなって、六時間がたっていた。

慌ててUターンをし、観光客の車とは反対の方向に車を飛ばす。

家族で行った海が近づいてきた。浜風に乗って子供の鳴き声が聞こえる。

遠くにとうじとこうじの姿が見える。

少しずつ姿が大きくなる。

泣きながら歩くこうじの手をとうじがひっぱっている。

今にも泣きそうな顔で涙がでるのを堪えながらとうじがこうじに話しかける。

『もう少しだよ。こうじもう少しだからね。』

とうじの右手にはボロボロになった宝の地図がある。

『にーに。いあい。』

『どこが痛いの?』

こうじは、足を指差す。とうじはこうじが指でさした足を優しくさする。

『もう少しだよ。こうじもう少しだからね。』

こうじに何度も励ましの言葉をかける。

まるで自分に言い聞かすように何度も何度も励ましの言葉をかける。

『頑張れる?』

『こうちゃんがんばる』

服は汚れて、岩場でこすって足は傷だらけになっている。涙を拭ったせいか顔には泥がついていて、それでも目的地に向かって懸命にあるき、僕と妻にはきずかない。

車を止めて、二人のところにかけよった。

強い浜風が吹いてボロボロの地図は破れ風に飛ばされた。

風が僕と妻のところまで宝の地図を運んできた。

とうじとこうじが僕と妻にきずく。

とうじの目から大粒の涙が溢れた。

『もう少し。もう少しなの。』

泣きながらとうじが僕と妻に言葉をかける。

『にーに。がんばってるの。だめなの』

泣きながら僕と妻をとうじから遠ざけるようにこうじが押す。

『とうじ、こうじ、有り難う。でも、もう大丈夫だよ』

泣きながら妻は優しく二人を抱き寄せた。

『駄目だよ。まだ宝を探してないもん。』

『たかあ、まだないの。もうすこしなの』

二人は妻にまだ宝を探し続けるといった。

僕は自分が情けなくて、恥ずかしくて涙も出なかった。

ただ、ただ家族に申し訳ない気持ちでいっぱいになり、うつ向いた。

うつむいてる僕の手首を冷たいとうじの手が掴む。

『パパ来て、あそこに宝入れたでしょ?』

僕は忘れてしまっていたが、岩場のすみに小さな穴が空いていて、タイムカプセルのようにカンの中に大切なものを入れしまっていたのだ。

東京にいく前の週末に家族四人で入れたタイムカプセル。

今もあるのかわからないが、とうじに引っ張られるように岩場に向かった。

『もうないんじゃないか?』

『あるよ。僕の宝パパにあげるよ。』

少し後ろから妻と妻に抱っこされたこうじもついてきていた。

そこには、潮で錆びだらけになったカンが確かにあった。

『ほらあったでしょ?宝はお金でしょ?これでパパもママも仲直りできるでしょ?』

泥だらけの顔で、純粋に満面の笑みを浮かべるとうじを見て、僕は涙が溢れた。

『どうしたの?どこかいたいの?僕の宝あげるよ。』

『とうじは何を入れたんだ?』

涙で声が掠れた。

『ウルトラマンのカードだよ。かっこいいやつ。泥だらけだけど僕の宝だよ。』

カンの中には、何度も何度も波にやられて、しわくちゃになったウルトラマンのカードと錆びた救急車のトミカ、そしてこうじが生まれた日に撮った家族四人の写真が入っていた。

妻も写真を見て泣いた。釣られてこうじもないた。とうじは何で泣いているのかわからず一人だけキョトンとしていた。

その夜は、妻の実家に泊めてもらい。妻と話し合い。翌日四人で東京に帰った。


二人が宝探しに出掛けてから三ヶ月が経ち、僕はまだ同じ仕事をしている。

内定も有難いことに三社ほど貰えた。

でも、今の仕事を逃げずにやりとおしたいと言う僕の意思を尊重し、妻が渋々承諾してくれる形になった。

収入は、最盛期の頃から比べると三分の一程度だ。

妻との言い合いは今も絶えない。

『結局私が我慢しないといけないじゃん。』

言い合いの最後に必ず妻が言う台詞だ。

もう少し、もう少しパパは頑張ってみようと思う。

宝の地図を握りしめて。

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