22.世代交代
「キミ、フォックステイルだよね!」
キラキラの瞳で、有り得ない程の素敵な笑顔で、セルトを見つめ、フックスがそう言うから、セルトは、え?え?え?と、シンバを見て、フックスを見て、またシンバを見て、フックスを見ると、
「仮面を着けてないって事は、それ、誰に成り切ってるの?」
と、眩しい程の笑顔で、そう問い、
「あ! 賊? 賊に成り切ってるんだね!」
と、自ら、そう答えを言って、フックスは、嬉しそうに笑っている。そして、
「やっぱり来てくれるって思ってたよ!」
そう言うから、セルトは、シンバを見て、
「あ、あの・・・・・・」
と、何をどう言えばいいのか、来てくれると思っていたとは、どういう意味なのか、この子供は誰なのか、セルトは返事に困って、シンバの助けを求める表情。
シンバは、フックスの肩に手を置いて、
「ボクの息子なんだ」
そう言うから、セルトは、息子!?と、そういえば、パパって言ってたなと、フックスを見て、またシンバを見る。
「ボクの息子はね、凄いんだよ、アレキサンドライトが攻めてくるって話に、フォックステイルが助けに来てくれるから大丈夫だって言うんだ。ボクが、どんなにフォックステイルなんていないって言っても、あれは只のお伽噺だと説明しても、キミの存在を、いつだって、どんな時だって疑わないんだよ。キミを信じてるんだ。だからフォックステイルは絶対に来るって、ボクの息子は言い切るんだ」
そう言って、な?と、フックスを見る。フックスは頷き、
「言った通りだろ? フォックステイルは来るって!」
と、
「ねぇ、フォックステイル! オレの国にも来てよ!」
と、笑顔でセルトに言うから、セルトは、国?と、少し首を傾げる。
「オレは、カーネリアンの王子なんだ」
そのセリフにも驚いて、セルトは、シンバを見ると、シンバが頷くので、えぇ!?と、フックスを見ると、
「カーネリアン知らないの? じゃぁ、もしかして、フォックステイルの絵本も知らない?」
そう言われ、絵本?と、セルトは、わからないと首を振ると、
「フォックステイルの活躍が描かれた絵本だよ、オレ、全巻持ってるんだ、今は続きが出るのを待ってるトコ! そうだ! 持ってきた絵本があるから、見せてあげるね! ちょっと待ってて!」
と、フックスは、走って行くから、シンバは、おい、そんな暇ないぞと、言おうとした時、セルトが、
「ど、どういう事ですか? カーネリアン? その国の王子? アナタの息子が?」
と、困惑した表情で問う。シンバは、頷き、
「戦争で崩壊してた国だよ。イロイロあって、ボクが、その国の王族の血族者だったから、今は、王をしてる。小さな島国で、国も小さい。だから知らない人は知らないんだけど、町は、賊達がよく出入りしてる。ボクの国は、賊も裁かないから」
「え・・・・・・」
「そんな怪しいトコ、名のある賊は、まだ来た事がないと言うか、特に来る必要がないのかな。でも、名もないような賊達は、よく出入りしてる」
「な、なんで、賊を裁かないんですか・・・・・・?」
「賊だって人間だから、食べたり飲んだりするし、休息みたいな事も必要だろ? うちの国は、悪さしなければ、誰でも、のんびり過ごせる場所だ。悪さするような賊は、うちの騎士隊長が、こてんぱんに叩きのめすからね。賊でも買い物できるし、どうやって作った金か、知らないけど、それでも金さえ払えば、食べ物も飲み物も買えるし、店で飲み食いもできる。誰かから奪ったりしなくても、普通に手に入るんだ。それで少しは争いが減るだろうし、中には、もう賊をやめたいと思ってる連中もいてね、そういう連中は、賊を抜けて、働きに来る事もある。うちは、元賊でも、ちゃんと働いてくれるなら、経歴は気にしない。勿論、賊を抜ける時に、指、腕、足、体の一部を落とされ、そうだな、耳がないって奴もいる。だから、そういう障害者でもできる仕事をしてるよ。みんな、今の所は真面目に働いてるみたいだ。まぁ、そんな国だ、他国から厄介だと思われてて、そういう意味では、超有名だ」
「厄介だと思われてるのに、賊を受け入れるんですか? 賊は嫌いですよね?」
王と知ってか、セルトは、急に言葉遣いが敬語になる。
「嫌いだよ。でも、キミが賊にいる限り、ボクは、この法を変える気はない」
「・・・・・・」
「セルト、いつでもカーネリアンにおいで? キミなら、いつだって受け入れる。もう駄目だと思ったら、いつだって、賊を抜けていい。抜けれないなら、隙を見て、逃げて来たっていいんだ。今、このまま、サードニックスからも、アレキサンドライトからも、姿を消したっていい、ボクと一緒にカーネリアンに帰ればいいんだ。だから、賊しか道はないと思わないで。ボク達がキミを待っている事、忘れないで」
「俺の・・・・・・俺の為・・・・・・?」
「それ以外ない。もっと早くカーネリアンの存在に気付いてくれて、サードニックスが来てくれるかと思ってたけど、そもそも小さい国で、賊の目当てとなるモノなんて何もない国だから、ターゲットにされる事もなかったのかな。そのせいで、セルトに何も届いてなかったね。キミは、いつだって、ボク達フォックステイルの仲間だから。ボク達を頼って、ボク達の所へ来ていいんだよ、いや、来てほしい!! 今回の事が終わったら、ジェイドの王子をリーファスに託して、キミは、カーネリアンに来たらいい。他に、何か心残りがあるなら、直ぐじゃなくてもいい、ボクは、キミが、来るまで、いつだって、ずっと待ってるから」
涙が溢れ出すセルトに、シンバも泣きそうになる。待つなんて言ったが、待たないで、このままセルトを奪って、連れ去りたいと思うくらいに、感情も高ぶっている。
「フォックステイルー!!」
と、絵本を持って、走ってくるフックスに、セルトは涙を腕でグイッと拭く。
「ほらー!! これ!! フォックステイルの絵本!!」
フックスは、セルトに絵本を差し出して見せる。
「うちの国にいる作家が描いてるんだ、うん、そう、ボクの仲間の1人――」
そう言ったシンバに、それはフォックステイルの仲間の1人と言う事かなと、
「この絵本、今までのフォックステイルの活躍が?」
と、セルトが聞くと、シンバは頷き、
「ノンフィクションって訳じゃないけど、でも、大体はね」
と――。
「どこで売ってるんですか?」
「オレの国に来れば買えるよ!」
フックスがそう言うので、そうかと、
「カーネリアン? なら、必ず行くよ」
と、セルトは、フックスの頭を撫でた。フックスは嬉しそうな笑顔で、
「ねぇ、フォックステイル! 魔法見せてよ!」
そう言うから、
「フックス。魔法を披露してる暇はない」
シンバがそう言うと、フックスは残念そうな顔になったが、直ぐに笑顔で頷いた。
シンバはセルトを見て、
「フックスだけじゃない。キミの事が、大好きな子供達は一杯いる。孤児院がある国には、この絵本を寄付してて、だから、結構、子供達には、キミは有名で、人気者なんだよ」
と、笑う。
「ママもね、フォックステイルの大ファンなんだよ、ね? パパ!」
「あぁ、うん、そうだね」
と、シンバが笑うので、セルトも少し笑う。
独りじゃないと言われているようで、味方が一杯いると言われているようで、セルトは胸いっぱいに込み上げて来るものを感じ、ありがとうと、口の中で呟く。
そして、フックスに目線を合わせるように腰を下すと、何もない手の平に飴を出し、フックスに差し出した。
フックスは笑顔で飴を受け取り、
「ありがとう!!」
そう言うから、
「いい笑顔だ」
と、フックスの笑顔のように、きっとアイツの笑顔も取り戻してみせると、セルトは、シンバに頷いて、
「会えて嬉しかったです」
そう言った。シンバはコクンと宇奈月、フックスは、こちらこそだよー!と、元気イッパイの声を出す。
「――行くのか?」
「はい!」
「そうか。わかった。キミの、大芝居、見届けさせてもらうよ」
シンバがそう言うと、フックスが、
「賊に成り切って、賊の中に潜り込むんだよね? オレも応援してる! もし、オレに手伝ってほしい事あったら、言ってね! オレ、いつでもフォックステイルの仲間になれるから!」
そう言った。セルトは、そんなフックスの頭を、また撫でると、背を向けて走り出す。
どこからどう見ても、彼はフォックステイルで、シンバとフックスの瞳に映るのは、正真正銘、走り去るフォックステイルの、ヒーローの姿だった。
「パパ・・・・・・フォックステイルはアレキサンドライトを倒しに行ったのかな?」
「フォックステイルは誰も倒さないよ」
「でも賊の姿して現れたって事は、悪役に成り切って戦うんだよね?」
「そうだね、成り切りは彼の得意技だ、きっと、フックス以外、彼をフォックステイルだと見抜けないだろうな。多分、みんなを騙しきる」
「ねぇ、パパ?」
「うん?」
フックスは手の中の飴をギュッと強く握り締め、笑顔でシンバを見上げると、
「オレの言った通りだろ? フォックステイル、いたよ!」
そう言った。シンバはフックスの頭を撫でながら、
「うん、いたな」
そう答え、
「フックス、お前の言う通りだったよ」
と、笑った。フックスも笑い返し、
「オレがフォックステイルになるってのも信じてくれた?」
そう言うから、シンバはコクコク頷き、
「信じてやるよ。実際にフォックステイルがいたんだ、こうなったら何でも信じるさ。お前は将来、きっとフォックステイルになる」
と、冗談っぽく言う。ヤッタァと、はしゃぐフックス。
「でもお前は、王子だから。やっぱフォックステイルにはなれないな」
「なにそれー!? ずるーい!!」
「だって考えてみろよ、フォックステイル、若かったじゃないか。まだまだ現役でずっと彼がフォックステイルだ」
「オレが大人になる頃には、フォックステイルはおじいちゃんだよ!」
「そんな訳ないだろ、それに、お前が大人になる頃には、この世界から、賊はいなくなってるよ」
「そんな事ないよ、賊はイッパイ増えてるよ!」
「駄目だろソレ。そこはボクが王として頑張るべきトコだから、絶対に、いなくなってもらう!」
「パパはダメダメな王だから、いなくなんないねー!」
「何言ってんだ、お前が王になる時に、後片付けさせるような事はしたくないから、お前の為にも頑張ってんだよ! だからフォックステイルだけじゃなく、パパの事も応援してくれないと! さぁ、ホテルから出て、人々を安全な場所に誘導しよう、今は、少しでもフォックステイルの手伝いをしなきゃ。な?」
「うん!!」
――ねぇ、フックス。
――フックスの魂はセルトに受け継がれ、今を生きてる。
――独りで闇の道を突っ走ってるけど、光を見失わない。
――自分を犠牲にして、誰かを助けてる。
――セルトは、まさにボクの思い描いたフォックステイルそのもの。
――フックスそのものだ。
いつの間にか、空が晴れている。
パニックの混沌とした景色も、何故か勝機に満ちて、皆、賊に立ち向かっている。
皆が、伝説の飛行機乗りオグル・ラピスラズリが、賊達を倒す為、地獄から蘇ったと叫んでいる。
いや、きっと、オグルじゃない、それはオグルに続く魂だろう――。
フォックステイルに続く魂があるように、素晴らしき命は、絶対に消えない。
世代交代しながら、カタチを変え、永遠の時間の中、失わない光――。
――フォックステイル参上!!
セルトは心の中でそう言いながら、今、アレキサンドライトの船に着く。
嫌な悪役で、少年を倒すと言う大芝居をうっている。
セルトが本気を出せば、シャークをも超える強さを持っているのを知っているのは、交代する前のフォックステイルだけ――。
その証拠にセルトは長剣を使わない。
短剣のダガーで戦っている。
手に馴染んだ自分の本当の武器である長剣を持つのは、本気で相手を倒さなきゃいけない時だけ。
賊である限り、戦いは常にある。だから短剣を握り、自分の強さを半減させ、誰も殺さずに、叩き潰してきた――。
セルトと少年の決着はつかなかった。
戦いの途中でガムパスが中に入り、セルトはアレキサンドライトではなく、今もサードニックスであり、副船長だと言い、少年の事は賊から足を洗えと、破門にした。
サードニックスに仕えてこその少年の活躍だったのに、その仕打ちはあんまりだ。
だから少年は破門を言い渡されても、サードニックスとして、空の世界にいたいと訴えた。
だが、ガムパスは受け入れなかった。
ガムパスに、どういう心境があったのか、それは、ツナの言葉が響いたのかもしれないが、ガムパス本人にしか、わからないだろう。
少年がどんなに願ってもサードニックスになる事はできなかった。
賊にはならずに、その後、飛行機に乗り、空の旅人と言う道に進み、空の世界には留まる事となった――。
最後の最後まで完全完璧に悪役をやりきったセルト。
不器用な遣り方だが、セルトらしい。
フックスにはフックスの、シンバにはシンバのフォックステイルがあったように、セルトにはセルトのフォックステイルがある。
遣り方はそれぞれ違うが、子供の笑顔を取り戻したいと戦う事は、何も変わらない。
今のフォックステイルは、闇の中を走っていても、彼なりに正しい選択をし、光を見失わずに、自らを犠牲にし、命を惜しむ事なく、戦い続け、これからも生きていくだろう。
そう、初代フォックステイルのように――。
次に続く命を守り、次へ続く道を走り続ける――。
光を見失わないように――。
Fox tail ソメイヨシノ @my_story_collection
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