21.新時代へ

「くそっ! 王子どこにもいやしねぇ・・・・・・まさか捕まったか?」

と、ツナは、雨の中、アレキサンドライトのデカイ船を見上げる。

「ツナ!」

と、カモメが走ってくる。

「カモメ! お前、カーネリアンから戻って来たのか!?」

「うん、うまく雨雲呼べたしね! 雨はこれからもっと強くなるよ!」

「ツナ! カモメ!」

レインコートを着たパンダとシカも走ってきて、

「駄目だ、こっちにもいなかった」

と、既に、フックスを探してた2人は首を振る。

シンバ以外全員集合したが、皆、フックス王子を見つけられないと、焦り出す。

「王子、アレキサンドライトに捕まってるなんて事あると思うか?」

そう問うツナに、皆、アレキサンドライトの船を見上げ、

「いや、もし、あの船にフックス王子がいるとしたら、自ら乗り込んでそうだよ」

と、シカ。

「そうだね、王子は好奇心旺盛だから、あんな船、見ちゃったら、喜んで、自ら乗りに行くよ」

と、カモメ。

「うん、オラもどっちかって言うと、自ら、あの船に乗り込んだと思う。で、賊の皆さんに、魔法披露とかしちゃって・・・・・・それで捕まってそう・・・・・・」

と、パンダの意見に、有り得ると、皆、頷く。

「はぁ、こっちの視界も悪くなるから、もし、フックス王子が誰かに成り済ましてたら、絶対に見つけられそうにない。雨降らせたのは間違いかな」

そう呟くカモメに、ツナは、

「いや、それは間違ってない。視界が悪いのは賊連中も同じだからな。お前達は、もう一度、手分けして探して来てくれ。俺はアレキサンドライトの船に潜り込む。もしかしたら王子が捕まってるかもしれねぇから」

と、船を睨み上げる。

「1人で!? あの船にいるのは、この世の極悪非道で最強のシャークなんだよ! 危険だよ! シンバを待った方がいいよ!」

パンダがそう言うが、シカが、

「シンバは王なんだよ、危険な事はもうさせられない。彼は、僕達の国、カーネリアンの王なんだから」

そう言った。ツナは、頷き、

「その通り! 危険な事は俺がやる! もし王子が捕まってるなら、絶対に、俺が、命に変えてでも助け出す! それがカーネリアンの騎士である俺の役目だからな。お前等は賊連中を交わしながら、人々を安全な場所に誘導して、王子を探してみてくれ!」

と、雨の中、走っていく。

カモメもパンダもシカも、ツナを見送りながら、自分達に出来る事をするしかないと、3人は頷き合い、ツナに言われた通り、人々を安全な場所へ誘導しながら王子を探す。

ツナは銃のようなものを取り出し、飛行船へ向けて放つ。

すると銃口から、針金のように細いワイヤーが飛び出し、船の出っ張りに突き刺さる。

そして、銃のようなもののトリガーを引くと、ワイヤーが巻かれ、ツナは上へ上へとあがっていく。

雨のお蔭もあって、賊達は、誰もツナに気付いていない。

それに、まさか船の真下の、真後ろから、乗り込んで来る奴など、いるとも思わない。

シャークも、船の先端で大笑いしてるくらいだ。

ツナは船の中に潜り込むと、隠れながら、部屋をひとつひとつ確認していく。

どこにも王子の姿はない。

ひとつ、妙な音がする部屋がして、ツナは開けずに、耳をドアに当てて、よく聞いてみるが、ヒューヒューと変な音が鳴っているだけで、人の声はしない。

「・・・・・・空気の漏れる音? 人の気配があるが、何の音だ?」

そう呟いて、ドアをソッと開けると、そこには大きな体で横たわるガムパスの姿。

機械と管が繋がっていて、ガムパスの鼻や喉を通して、そこから呼吸音が漏れている。

「・・・・・・おい、大丈夫か?」

「誰だ?」

ガムパスはハッキリとした声を出し、そう聞いて来た。だが、その声は、ハッキリしてるものの、すっかり年老いていて、しゃがれた年寄りの声だ。

「只の通りすがりだ」

「・・・・・・アレキサンドライトの賊か?」

「冗談だろ、俺をお前等と一緒にするな。見てわかんだろ、賊じゃねぇよ」

昔なら兎も角、今はどっからどう見ても騎士だろうと、ツナはそう言うが、

「悪いが何も見えん」

そう言われ、目もやられてんのかと、ツナは溜息。

「念の為、一応、確認するが、アンタ、ガムパス・サードニックスだよな?」

「あぁ」

「あの無敵のガムパス様が、なんてザマだ。これも念の為、一応、確認するが、アンタ、空の大陸の万能薬っつーのは、飲まなかったのか?」

「・・・・・・なんでそんな事を知っているんだ?」

「どうでもいいだろ、なんで飲まなかったんだよ?」

「それこそ、どうでもいいだろ」

「あぁ、そうかよ、確かにどうでもいいな、俺にゃぁ関係ねぇ」

「・・・・・・飲んだ」

「は?」

「飲んだが、老いもあり、手遅れだ、時間の流れは、この無敵のガムパス様でも、どうしようもなく、このザマだ」

ラビは、言われた通り万能薬は渡したが、不老の薬までは渡さなかったのかと、まぁ、正解だなと、ツナは、フーンと、頷く。

「じゃぁ、なんでシャークはサッサと殺さねぇで、アンタを生かしておいてあるんだ? アイツ、ネチネチと痛めつける趣味だったっけ? そんな無駄な時間を省いて、サッサとサードニックスを潰せば、サッサとアレキサンドライトの天下が来るだろう。なのに何考えてやがんだ、シャークは」

「・・・・・・わしをシャークの所へ連れて行け」

「は!? そんな体で行ってどうすんだよ!?」

「戦う」

「戦う!? 負けるとわかっててか? 確かに男ってのは負けるとわかってても、やらなきゃならねぇ勝負がある。クソ最低な賊だとしても、そのプライドがあるのは、わかるよ。でもな、勝負ってのはよ、戦える奴がやるもんだ。アンタ、もう戦えねぇよ。悪いが、ここでくたばってた方がいい」

「冗談じゃねぇ・・・・・・わしはまだ戦える。わしは無敵のガムパス・サードニックスだ。負けるなど、絶対にない!!」

「このザマでか」

「このザマでもだ!!」

「・・・・・・くだらねぇな」

ツナは、そう言うと、チッと舌打ち。

「お前・・・・・・賊が嫌いか? そうだな、賊を好きな奴なんていねぇな。だが、サードニックスは、賊の中でもヒーローだろう?」

「何言ってんだ。賊の中? 賊は賊だろ。ガキ共が、サードニックスに憧れてん事で、勘違いしやがって。お前等賊は、どんないい行いをしてもなぁ、賊なんだよ!! 俺はな、サードニックスが一番嫌いだ。あの悪名高いアレキサンドライトより、嫌いだ。子供にヒーローだと勘違いさせる悪党程、タチの悪いもんはねぇ!! まだ悪党は悪党らしく、悪の道を貫くアレキサンドライトの方が、よっぽどヒーローだ」

「痛い事を言ってくれるなぁ」

「アンタが、本気で、ヒーローだと言うなら、ガキに誤解させたままにすんじゃねぇ。ガキに、嘘の光なんて見せんじゃねぇ。それに、もう、アンタは、このザマだ、本当の光の道に、導いてやれねぇんなら、くたばってろ」

と、ツナは、部屋を出ていこうとするから、

「待て! 待ってくれ!! 頼む!! わしをシャークの所へ!!」

あの無敵のガムパスが、ツナに頼んでいる。ツナは溜め息を吐き、振り向いた。

「1人で行けよ、俺に手伝わせるな、それとも何か? 1人で動けねぇ体なのに、シャークと戦うってのか? 俺をめんどくせぇ事に巻き込むな」

「・・・・・・」

「鎖だけは外してやるよ、ドアも開けといてやる、だが、1人で行け。それが、そのザマでも、無敵を誇ってたサードニックスのガムパスって男の遣り方だろ」

と、ツナは、ガムパスの足枷を剣で砕き、腕の錠も外し、その部屋から出て行く。

暫くすると、ガムパスは体を引き摺るようにして、部屋から出てきたから、

「チッ・・・・・・本気か、あのジジィ・・・・・・ま、お手並み拝見ってとこだな。悪いが、俺は手を貸さないぜ? お前がシャークを潰してくれれば、そしてお前もそのまま潰れてくれれば、賊時代は終わり、新時代へ幕が上がるってもんだ」

そう呟きながら、影で、ガムパスを見守る。

ガムパスは呼吸荒く、大きな体を揺らしながら、目が見えてないと言うのに、迷わず真っ直ぐと船のデッキへと向かい、シャークの前に立ちはだかった。

シャークは武器を手にして、丸腰のガムパスを痛めつける。

ガムパスは血を吐きながら、それでも戦おうと必死で命を燃やしている。

「胸糞悪ぃな・・・・・・あぁ、もぅ!! しょうがねぇ・・・・・・助けてやるか・・・・・・」

まさか今更、賊の味方するなんてなと、ツナは剣を抜き、飛び出して行こうとしたが、空に一筋の光が差し込み、見ると、何か大きなモノがコチラに向かって来る。

皆、遥か空の彼方を見つめる。

まるでモンスターのような大きな飛行機が、唸り声を上げ、雨雲さえも吹き飛ばし、飛んで来る。

「まさか・・・・・・伝説!?」

ツナはオグルの飛行機が登場した事に驚くが、それはツナだけじゃない、ガムパスも、そこにいる全ての人々が、今は亡きオグル・ラピスラズリの登場に、驚いている。

飛行機はとんでもないスピードで、そのまま飛行船のデッキに突っ込んだ。

船は大きな波に飲まれたかのような揺れをみせ、何人かは、船から落ちた程だ。

飛行機が突っ込んだ場所には、大穴が開いて、シューシューと煙まで出ている。

なんなんだと、ツナは驚くが、何が起こったのだと、シャークも驚いている。

そして、その大穴から飛び出して来たのは、ラブラドライトアイの少年。

ツナはサッと身を隠し、様子を伺う。

どうやら、その少年がシャークと決着をつけるらしい――。

ツナは、出番なしかと、フッと笑い、

「もう俺達が活躍する時代じゃねぇってか。とっくに新時代へ動き出してんだな。俺も、もう年かねぇ。ガキの活躍が嬉しく思えるなんてよ。そりゃオジサンって言われるわな」

そう呟きながら、こんな事してる場合じゃないと、王子探しへと走った。

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