18.受け継ぐ者


「って訳でぇ、ホント、大変だったんだよ」

と、カモメと、パンダが、城であった出来事を話す。

「そんな事が。って事は、魔神って言うのは、結局の所――」

シカが、少し考えながら、そう言うと、

「万能薬だと思うよ」

と、パンダ。

「確かに、戦争中の、その薬は、魔神の如くの人を生み出しそうだしね」

と、カモメ。

「でも、お前等、勿体ない事したな。シンバの今回のフォックステイルは、最高だった。俺も、ショーを見惚れてたトコある」

と、ツナ。そうよねと、シカも頷き、リブレも頷いているようだ。だが、

「いやいやいや、オラ、もっと凄いの見たからね」

と、パンダ。

もっと凄いの?と、ツナも、シカも、眉間に皺を寄せると、

「ラビとバニのヌード!」

と、な?と、カモメを見て、パンダが、鼻息荒くするから、

「バニのは見てないよ! オイラ、パンダの目を塞いだし、オイラも直ぐに背中向けて、見ないようにしたから!」

そう言って、見てないよな?と、パンダを睨む。

それはホントに勿体ない事をしたねぇと、シカが笑い、くだらねぇと、ツナとリブレが、溜め息。

「ねぇ、全然起きない。セルト! セルト! 起きろ! セルトって!」

シンバは、眠っているセルトの頬を叩きながら、起こそうとするが、全く起きない。

「今になって睡眠薬が効いちゃってるんだろうね、気付け薬で起こしたら?」

と、シカが、シンバに、小さな瓶を渡し、

「蓋開けて、ニオイ嗅がせたら一発で起きるよ」

そう言うので、シンバは、瓶の蓋を開けて、セルトの鼻に近付けると――・・・・・・

「ん、ん・・・・・・? くさッ!? え、くさッ!?」

と、目を開けて、鼻を押さえて、後退りするセルトに、シンバと、ツナと、カモメと、パンダと、シカは、笑い出し、リブレは、私もソレ臭うわと、その場から、少し離れる。

「な、何? 何がどうなったんだ!?」

と、セルトは、辺りをキョロキョロ。

シンバと、ツナと、カモメと、パンダと、シカと、リブレが集まって、セルトを見ているから、セルトはビックリしている。

そして、全員が笑顔で、良かったと、セルトの無事に安堵の表情になる。

フォックステイルのキツネ尻尾アクセサリーを付けた男が5人と、白い大きな狼が一匹。

セルトは全員を見回し、そして、よく知っているフォックステイルの1人に目を向けた。

「セルト、もうサードニックスに戻る必要はない」

そう言って、仮面を付けているが、口元が優しく微笑んでいる男に、

「何言ってんの? 戻るよ! 戻らなきゃ!」

と、セルトは、立ち上がる。

「セルト?」

「俺は・・・・・・サードニックスとして生きていくんだ!」

「セルト、自分が何を言っているのか、わかってるのか?」

「あぁ、わかってる」

「サードニックスは賊だ。賊になるって事は――」

「わかってる!!」

大声で怒鳴るように言うセルト。そして、セルトはフォックステイルを見て、

「サードニックスは、尤も危険な賊だ」

そう言った。そりゃ無敵のサードニックスだ、危険だろう。だが、そういう意味じゃなさそうだ。セルトの表情は真剣そのもの。

「ガムパス・サードニックス。あのオヤジ、恐ろしいくらい、かっこいいぞ」

セルトはそう言うと、その意味、わかる?と、フォックステイルを見る。

「オヤジ、俺に言ったんだ。〝賊になるって事は悪になると言う事だ、その道は引き返せねぇ。一度犯した罪はどんな小さな罪でも消す事なんざできねぇ。誰が許してくれようとも、己に出来た消えぬ傷跡だ。悪ってのはな、誰にも理解できねぇし、してくれねぇし、してもらうもんでもねぇ。それでも賊になりてぇなら、その信念を通せ、覚悟を決めろ。いいか、賊が言う信念てぇのは、そういう事を言うんだ。この世から落ちぶれる自分を嘆く事はできねぇ。だが、このサードニックスの旗の下に集まった連中は、世の悪だが、悪役じゃねぇ。そこい等の賊とやってる事は変わらねぇがな、俺達は無差別じゃねぇ。くだらねぇ賊となった選択はお前の人生の最大のミスだが、その落ちた人生の中で見い出す価値のある小さな光を与えてやる。そう、サードニックスだって事を誇りに思わせてやる〟長いこの台詞、一句たりとも忘れねぇよ。カッコイイと思わされたから。一生、俺はこの台詞を心に持ち続けて生きようと思った。だからアンタを追うのを止めて、サードニックスに留まると決めたんだ」

「・・・・・・光のない道を行くと言う事か?」

「・・・・・・」

「セルト、賊は悪だ。例え、カッコいいと思ったとしても、それは違うよ」

「・・・・・・」

「絶対に、セルトを、賊になんかさせないよ!」

「俺は賊になんてならない」

「え?」

「俺がカッコいいって言ったのは、オヤジの事。オヤジが言ったセリフの事」

「ガムパスが言ったセリフ・・・・・・?」

「別にね、アレキサンドライトでもいい、他の賊でもいい、どこに属してたっていい、俺は、誰の、どこの、どんな賊にいたとしても、ガムパス・サードニックスが言ったセリフは忘れないって思ったんだ。賊になる覚悟なら、とっくにできてる。それを嘆く事はしない。その信念は貫くよ」

「いや、だから、セルト――」

「わかるだろ? オヤジはカッコいいんだよ、ガキが集まる。現にガムパスは、俺のようなガキを育てるのも悪くないって思い始めてる。なんせ、今のサードニックスは、病に犯されているからな。新たな風が必要だと思ってんだよ。それを誰かが止めないと――」

「誰かって・・・・・・」

「なぁ、フォックステイル。オヤジはカッコイイ。だけど、俺はアンタの味方だ」

「え?」

「オヤジはカッコイイけどさぁ、俺は、フォックステイルの方がカッコイイって思ってるから」

笑顔でそう言ったセルトは、

「心配しないで。俺は賊だけど、賊じゃない。賊に成り切っているだけ。俺の本当の姿はフォックステイルだから。俺が見たフォックステイルは子供の味方なんだ。俺を救ってくれて、こうして笑えるようにしてくれたのは、アンタだからな、フォックステイル」

と、それこそ、俺の信念だと、自分自身に頷く。

「・・・・・・」

「オヤジは危険だよ。子供達が尤も憧れる存在になるだろう。オヤジは、アンタと違って、行く場所のないガキの俺を仲間にしてくれた。世の中には行き場を失ったガキなんざ一杯いる。ソイツ等がサードニックスに憧れ、オヤジの元に辿り着いたら・・・・・・誰がそれを阻止する? 賊になんかなっちゃいけねぇ・・・・・・だろ? フォックステイル」

「セルト・・・・・・だからって、キミが、そんな犠牲を払う必要ないだろう!」

「犠牲? 俺はアンタになりたいだけだ、フォックステイル。アンタなら、きっと、こうする。犠牲じゃない、これは俺の憧れへの第一歩なんだ」

フックスへ憧れ、フックスになる事を夢見て、そして、フォックステイルになった時の事を思い出させられた。

どんなにフックスが止めようとも、彼への憧れは誰も止められなかった。

それは犠牲じゃないと、今も言いきれる。

だから、今のセルトを止める事は誰もできない。

フォックステイルは、自分のキツネの尻尾アクセサリーを外し、それをセルトに手渡した。

「これはね、ボクが憧れた人のモノなんだ。それをキミが受け継いでくれると、嬉しい。彼の・・・・・・いや、ボクの全てをキミに譲りたい。どんなに離れていても、キミはボク等の仲間、フォックステイルだ」

セルトは、笑顔で頷くと、キツネの尻尾アクセサリーを自分の腰に付け、

「必ず任務は果たし続けるよ。子供に賊はやらせない」

そう言って、手を振って、背を向けると、走っていく。

小さな背が、賊の旗の下へと駆けて行く――。

「セルトー!!!!」

シンバが大声で叫んで呼ぶと、セルトは足を止め、振り向いた。

「セルト! 覚えとけ! 星は晴れてるから見えるんだって事! 晴れてなきゃ星は見えないんだ! いいか、どんなに闇にいても、晴れた気持ちでいつも笑ってろ。闇の道を進んでても、晴れてれば星は見える。僅かな光がキミに届いてる。僅かでも小さくても、それは光だ。忘れるな、星は晴れてるから見えるんだ、キミが笑ってれば光は届く!」

セルトはそう叫ぶシンバをジッと見つめている。だから、

「笑えよ、セルト!」

笑顔で、そう叫んだ。セルトは笑顔になり、大きく手を振って、背を向けて駆けて行った。

闇の世界へ――。

でも光は見えている筈。

「――良かったの? シンバ?」

カモメが心配そうに聞く。わからないと、首を振るシンバに、

「いいんじゃねぇの?」

と、ツナ。適当に言ってない?と、ツナを見上げるリブレ。

「オラ達みたいに、傍で助け合う仲間もいないよ?」

と、パンダが、心配だと、シンバを見る。

「それに、彼は世界中で指名手配になるんだよ、しかもサードニックスだ、多額の賞金が懸けられる」

と、不安そうなシカ。

「世界中じゃない、カーネリアンでは指名手配にしないよ。例えどこかの国で捕まったとしても、カーネリアンへ護送してもらう。何があって、セルトは守る」

シンバは、そう言って、

「それでさっきも聞いたけど、カモメとパンダの方の報告での事だけど、ラビと、バニが――」

シンバがそう言った時、空に一機の飛行機が飛んでいくから、皆で空を見上げ、

「オグルさん!?」

と、皆で声を上げる。

飛行機の方向は、みんながいる場所だと、セルトを追うように、皆、駆け出す。

無論、隠れて、オグルが何しにここへ来たのか、探るのだが、その前に、結構、大変な事になっていた。

ジェイド軍が、エル・ラガルトファミリーを捕らえ、エル・ラガルトが、

「こんな事をして、貴様等の方が立場が悪くなるぞ」

と、吠えていて、縄で縛ってあるにも関わらず、足掻きまくって大暴れしている。

サードニックスの連中に至っては、フォックステイルを探せと怒鳴り散らしているガムパスを落ち着かせようと、

「オヤジ、奴は消えたんだ。もう放っておきましょうよ、奴と関わるのはやめた方がいい。オヤジだって奴のせいで魔王に成り切ってしまってたじゃないですかぁ」

と、皆で宥めているが、ガムパスはウルサイ!と剣を振り回し、大暴れ。

「ちょっと中途半端に撤退しちゃったかな」

と、状況を見ながら苦笑いのシンバ。

しかもそんなカオス状態の場所に、オグル登場で、余計にややこしくなりそう。

「オグルさん! どうしてここへ?」

ネイン姫が叫ぶ。

「ジェイド王に様子を見てくるよう頼まれたのです。しかも空に急に大陸が現れたと言うので、その調査もして来いと・・・・・・それよりガムパス、お前までここで何やってるんだ? なんなんだ、このビラは? フォックステイル参上って・・・・・・」

「やかましい! 俺様がここで何してようが、テメェに関係ねぇだろ、オグル! いいか、ここは空なんだ! 俺達サードニックスの場所なんだよ!」

「そりゃ聞き捨てならねぇなぁ・・・・・・ここは空だが陸がある。お前等空賊の場所じゃねぇだろ。それとも陸に戻るか? サードニックス様よぅ」

「なんだとぉ!?」

「ガムパス、お前は知らんかもしれんがな、地上では大変な事になってるんだよ。空飛ぶ船の設計図が配られてな。近々、お前等を追って、賊共が空に来るぞ。世は空賊時代か? 冗談じゃねぇや。飛行機乗りとしては、キッパリ言っておきてぇ!!」

「何を言っておきたいって?」

「空は飛行機乗りのもんだ」

「ハッ! 笑えねぇ冗談だ、クソして寝ろ、地上でな」

ガムパスがそう言った後、直ぐに、

「いいじゃないか、オヤジ」

と、声がして、皆、その声に振り向くと、セルトだ。

「そのオッサンの言い分も尤もだ。ここは陸がある。サードニックスの場所じゃねぇよ、こんな小せぇとこに拘る必要はねぇ。空は広いんだ、こんなとこ、城も崩れて何もない只の空に浮いた大陸、飛行気乗りの場所にしといてやれよ」

「セルト・・・・・・お前・・・・・・フォックステイルはどうした?」

そう聞いたガムパスに、セルトは、腰のキツネの尻尾アクセサリーを見せて、

「どうしたと思う?」

そう聞き返す。ガムパスは暫く真顔だったが、直ぐに大声でガハハッと笑い出し、

「よぉし、いいだろう、オグル、お前の言う通り、ここは陸がある。お前の言い分通りにしようじゃないか」

そう言った。そして、セルトに来い来いと手招きし、傍に来たセルトの頭を大きな手の平でグシャグシャに撫で回すと、

「俺様は機嫌がいいんだ、飛行気乗りのエリアには賊は近付かせねぇ。そうしてやろう。空は広い。それに、そろそろ俺達サードニックスも暴れたいと思っていた頃だ。賊共が空に来るなら、また大暴れできる。その闘いに、いちいち飛行気乗りがでしゃばって来られちゃ迷惑だからな。お前等飛行気乗りも場所を弁えて飛べ」

そう言って、ご機嫌に大きな体を揺らしながら、飛行船へと戻って行く。

「あのガキ、なかなかの食わせ物だな」

と、笑うツナに、

「大物相手に契約結ばせるんだ、かなりの大物だよ」

と、シカも笑う。

「おい!!!! ワタシを無視するな!!!!」

そう叫んだエル・ラガルトに、オグルが、

「お前、地上にある本拠地、爆破して跡形もなくなってるぞ。秘密の場所だったんだろうが、爆破で場所がバレて、今、偉い事になってるぞ。噂に聞いたお前等のファミリーの一員だっつー王達もな、そんなの只の都市伝説だとか言ってな、なんつーか、もし噂通り国の王達もお前と組んでたとしたら、ありゃぁ・・・・・・手の平返されたな・・・・・・」

哀れそうな目で、エル・ラガルトを見つめて、そう言った。

「嘘だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

これがエル・ラガルトの最後の叫びとなった。

「爆破って?」

シンバが誰に問うでもなく、そう聞くと、

「トビーさんだよ。ラビとバニが仕組んだみたいだ」

カモメがそう説明。そしてパンダが、

「オラ達の仕事報告。魔人が何を指しての事かは、結局、今もハッキリとは、わからないけど、城が潰れたのと同時に、全ての空の大陸の機能が停止した。カモメの活躍でね。だから、もう世界を脅かすような危険なモノはない。この大陸はこのまま、この場所に浮いたままになっちゃうみたいだけど、ま、いいんじゃない? 飛行機乗りのエリアになるみたいだし」

そう言った。

「それでラビとバニは?」

と、シンバが聞くと、

「次のお宝探しに行ったんじゃない?」

と、カモメ。

「あの2人は生きてる限り永久にラビバニやるみたい」

と、パンダ。

「永久? ババァになった奴等が楽しみだ」

と、ツナ。

「いつまでも飛び跳ねてる訳にいかないよね」

と、シカ。

「そうだな。あの2人も・・・・・・カーネリアンに呼んでやるか」

と、シンバ。

「要らぬ世話だよ」

と、パンダ。

「そ。神は時間さえも操るってね」

と、カモメ。そして、カモメはパンダを見て、パンダもカモメを見て、お互い溜息。

「永遠に美女のままだなんて、嬉しいやら悲しいやら」

と、シンバとツナとシカとリブレには、まだ意味不明の呟き。

「そういやぁ、あの2人のヌードを見たって話し、なんでそうなったんだ?」

と、ツナの疑問に、シンバも、シカも、なんでそうなったの?と、カモメとパンダを見る。

だからラビバニの2人の狙いは――と、カモメとパンダが、また最初から話し出す。

シンバは、振り向いて、飛行船に乗り込んでいくセルトを見つめる。

「あぁ、そういえば、あの飛行船の部品に使う為に、拉致された飛行機、結局、盗み返せなかったな」

セルトを見つめながら、そう呟くと、カモメが、

「心配ない。それなら、城に潜り込む前に、先に飛行船に潜り込んで、飛行機を新しい部品入れて、自動操縦で、そのままフォータルタウンへ向かわせといたから」

そう言うので、驚いてカモメを見ると、

「オラも手伝ったんだよ、だからね、睡眠薬入りのスプリンクラー、全部、取り付けられなかったんだよ・・・・・・」

怒る?と、上目遣いで、そう言ったパンダに、シンバは、よくやった!と、笑顔。

そして、シンバは空を見上げ、見ててくれた?と、フックスに心の中で尋ねる。

拍手喝采で、シンバを見ていてくれるフックスが目蓋の裏に見えた――。

一番楽しんで欲しい人に楽しんでもらえたと、シンバは1つ、大きな壁を乗り越え、大人への階段を上った気がしていた。

次はカーネリアンの王族を受け継ぐ者として、再び大きな壁を目の前に悪戦苦闘するだろう。だが、きっと乗り越えられる壁だと、今のシンバは自信に満ち溢れている。

もっと高く跳べるような気がして、高いハードルも、もっと上げて行ける気がした。

ここまで辿り着いた全ての出来事は、人生で無駄ではなかったと、アナタに憧れて突っ走ってきて、迷う事もあったけれど、全ては間違いではなかったんだと、確信している。

だからこそ、サードニックスの旗の下へ行くセルトの背を見守れるのだ――。


今、セルトが、振り向いた。遠くを見つめるその瞳は、誰かを探しているようだ。

「どうした? セルト?」

そう聞いたガムパスに振り向き、セルトは、ううんと首を振ると、

「オヤジは、この大陸に何しに来たのかなって思ってさ」

そう言って、ガムパスを見る。

「そりゃ賊が来る場所っつったら宝があるからだろ」

「宝・・・・・・城が潰れてなくなったと諦めたのか? だから城を潰したフォックステイルに怒ってるのか?」

「城を潰したのはフォックステイルとは限らねぇ。サードニックスかもしれねぇぞ」

「え?」

「ま、ラビがその時、誰の味方をしてたか知らんがな。一応、あの女はサードニックスに雇われてた女だ。裏切ってたとしても、裏切るのが当然の賊の俺達に文句は言えねぇなぁ。でも任務はキッチリ果たしてくれた。大した女だ」

「任務?」

「遠くで、ラビが合図を送ってきた。約束のモノは船の中ってな。あの女には、どんな病も治すという万能薬を探してもらってたんだ。お前も知ってたんだろう? 俺が棺桶に片足突っ込んでる状態だってよ、だからフォックステイルとの戦いを、お前がやるって言って来た。そうだろう?」

「あのままフォックステイルと戦ってたら、オヤジがやられると思ったから」

そう言って俯くセルトに、ガムパスはガハハッと笑いながら、

「そうだな、やられてたよ、俺は」

と、冗談口調で本気ともとれる台詞。

「お前もラビが手に入れた万能薬とやらを飲んでおくといい。この薄い空気でやられちまう連中は多い。賊共が戦いの舞台を空へ移しても、当分は誰も戦えねぇだろうな。まぁ、心配するな、薬は、大量に製造可能らしい。既にその人材を手配してるってんだから、あの女、恐ろしい女だよ。そういう事だから、サードニックスの天下は、アレキサンドライトが空に現れても続くだろうよ」

「じゃあ、その万能薬の為に、フォックステイルの茶番に乗せられたフリをしてたのか?」

「いいや、万能薬はあったらいいなってくらいのな、まぁ、夢物語だった。ここに来た本当の理由は、俺が少年兵だった頃にな、世話になった隊長へ盛大な葬儀となる儀式をしてやりたかったんだ。隊長はラブラドライトアイでな、処刑され、死んだ後も、誰にも悔やまれないままの状態で、酷い扱いだった。でもよぅ、葬儀っつっても何すりゃいいんだ?って思ってたら、フォックステイルが面白ぇ事をやり始めやがった。こりゃいいじゃねぇかと、あの世で、隊長も楽しい劇に喜んでくれるだろうって思ってよ、今頃、拍手喝采してんじゃねぇか? 同じ少年兵だったオグルも来たしな」

そう言って、ガムパスはセルトに、

「俺の魔王はどうだった? なかなかだったろう?」

と、なかなかの迫力ある強面の笑顔を見せる。そして、

「フォックステイルにゃぁ感謝してるよ」

そう言ったガムパスに、セルトは、ガムパスがフォックステイルを見逃した事を悟り、

「やっぱ、危険だな、オヤジは」

そう呟く。あぁ?と、ガムパスが眉を顰めるから、

「オヤジはカッコイイって言ったんだ」

と、

「オヤジを受け継ぎたいって奴は大勢現れるだろうな」

そう言って、溜息を吐くから、ガムパスは、当然だろと、

「俺様は無敵のサードニックスを率いるガムパス様だぞ! そりゃ俺を受け継ぎてぇ奴は数え切れねぇ程いるさ。セルト、テメェもその1人だろう?」

と、ガハハハハッと、上機嫌で笑う。セルトは、

「勿論だよ、オヤジ。俺がサードニックスを受け継いでやる。他は全部、サードニックスにも近寄れないよう、蹴落としてやるよ」

と、頷いてみせた。

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