17.フォックステイル参上

高笑いするガムパスとエル・ラガルト。

フォックステイルの死に、その両方の勝機が漂い始める。

ツナが鬼神の如く、生き死に関係なしに、目の前にいる連中を叩き潰しながら、リーダーの所へと狂ったような素早さと動きで走っていく。

「おっと! そこまでだ! フォックステイル」

と、エル・ラガルトファミリーの男が、ツナの剣を受け止め、立ちはだかる。

銃ではなく、剣を武器として持っている男。

ツナは受け止められた攻撃を退かず、押し続け、ギリギリと奥歯を鳴らし、

「どけよ! 構ってる暇ねぇ!!」

と、正気じゃない顔付きで、吠える。自分で噛んだ唇から血を流し、キッと上にあがった眉と眉間に寄せる皺で怒り露わな表情なのに、ツナの目は涙で一杯だ。

そして、剣の柄を強く、強く、強く、自分の手で、指を握り潰してしまう程、強く握り、

「テメェは俺に大事なもんくれてばっかで、ガキの頃から俺はもらってばっかで、だからこれから俺が返して行こうって時に、何勝手にくたばってやがんだ・・・・・・」

ぶつぶつと念仏でも唱えるように、そう呟きながら、目の前の男を睨みつけている。

「こんな終わり方許さねぇぞ、シンバァァァァ!!!!」


今、シンバは誰かに呼ばれた気がして、ハッと目を開ける。

そして、辺りを見回す。

「どこだ? ここ? ボクはどうしたんだ?」

寝転がったまま、まだ眠っているのかなと、ぼんやりと過ごす。

そして、少しだけ思い出す。

そうだ、死んだんだと――。

真っ暗な闇の中・・・・・・起き上がり、

「地獄かな」

そう呟くと、上、左右を見て、そして、足元を見ると、

「光ってる? なんだろう? 足跡?」

と、僅かに光っている誰かの足跡が転々と続いている事に気付く。

続いているから、その足跡を辿るように、歩き出す。

足跡を踏み締め、ずっとずっと続いていく足跡を辿って、そして、立ち止まった。

誰かがいるからだ。

すぐそこ、その背後に手を伸ばせば、届きそう。

手を伸ばすシンバに、その誰かが振り向いて、そして、伸ばした手を止めたシンバに、

「ここに来るには早過ぎるだろ」

と、

「1人で戻れるよな? 早く行けよ」

そう言ったのは、シンバが誰よりも逢いたくて逢いたくて、でも逢えなかった、逢える筈もない人物で、息さえ止まる程の感情の波が込み上げてくる。

「フックス・・・・・・」

声にならない声で、シンバがその人物を呼ぶと、

「フックス? 誰だ? それは?」

目の前にいるのはフックスなのに、絶対にフックスなのに、そんな事を聞かれてしまう。

だが、ニヤリと笑いながら問うフックスに、態とだと悟る。だが、何故、そんな事を言うのかと、意地悪をされるのも、何か意味があるのかと、思っていると、

「フックスはお前だろう?」

そう言われ、あぁ!と、自分の着ている服装と、目の前のフックスの服装が全く同じだと気付き、

「でも、ボクは・・・・・・フックス本人じゃない」

そう言った。この髪の色も瞳の色も、本当は違う。

「でもフックスになるのが、ボクの夢だ」

だから、フックスと呼ばれる事に、嬉しささえ感じていると、シンバは自分に頷く。

いつの間にか、身長も体格も、追いついて、真似て来ただけあって、こうして並ぶと、本当にソックリだ。

「そうか。そりゃ良かったな。だが、お前のなりたかったフックスは、そんなもんなのか?」

「え?」

「残念だ」

「ちょ・・・・・・ちょっと待って、残念って・・・・・・ボクがフックスに成り切ってる事?」

「あぁ、残念だよ、お前の目に映るオレは、そんななんだな」

「・・・・・・」

「オレそんな? そんななの? 残念だなぁ」

と、思いっきり落胆するから、シンバは焦ってしまう。

「ご、ごめん! えっと! ごめんなさい! フックスはかっこいいよ?」

「そんな事はわかっている!」

ええええ!? わかってんの!? じゃぁそこじゃないんだと、シンバは、

「え? 何が言いたいの? フックスをやるなって言いたいの?」

と、聞いてみる。

「何言ってんだよ、もう止めても無駄なトコまで来といて」

「・・・・・・」

「只、オレになりたいって割りに、お前は、それで満足なのか?って思ってさ、だとしたら、残念だなって」

シンバは俯いて、ギュッと拳を握り締め、下唇を噛締めた。

悔しいんだ。

全然ダメな自分に、悔しさが込み上げてくる。

フックスは光が似合う。

闇で活躍しても、フックスは光り輝く。

なのに、このままだと、闇の中で消えてしまう蝋燭だ。

何も灯さず、誰かを導く光にさえなれず、煙になって消えて終わる。

「所詮、オレは、その程度の男なんだよ」

「ちがッ、違うよ!! ボクがちゃんとフックスに成り切れてなくて!!」

「違わねぇよ、結構、成り切れてるから、残念なんだよ」

「は?」

「お前、オレそっくりで、いっつもオレこんな?って、残念に思ってた」

「いつも・・・・・・?」

「あぁ、いつも、傍で見てたよ」

「・・・・・・」

「なぁ、だからさ、もういいよ、フックスは」

「え?」

「お前のフォックステイルを、オレに見せてくれよ」

「ボクの、フォックステイル・・・・・・?」

「そろそろ見せてくれてもいいだろ?」

「・・・・・・」

「行けよ、お前を待ってる奴等がいる。オレじゃない、お前を、お前のフォックステイルを待ってる。シンバのフォックステイルを! 見せてやれよ、お前がなりたかったフォックステイルを! オレも見てみたい、お前が、ちゃんとなりたかった者になれたのか!」

「え・・・・・・あ、いや、でも――」

「でもじゃねぇよ、オレを追い駆けて来たんだろ? オレなんだろ? だったら、いつまでもオレの背中見てないでさ、追い越してけよ。いつまでも、オレに残念な姿見せてないで、今度は、オレに、見送らせてくれよ、お前の背中を! 大丈夫、オレはいなくなる訳じゃない、消える訳でもない。いつまでも、お前を見てる。だから、安心して、フォックステイルやって来い!」

そう言われ、フックスは、シンバに、笑顔を見せた。

シンバの目に涙が溜まる――。

同じくらいの背丈になっても、フックスは大きいなぁと、でも――・・・・・・

「超えるよ」

シンバは、そう言って、涙を流しながらも、フックスの笑顔に応える笑顔で、フックスを見ている。

「ボクは、フックスを超えて、本物のフォックステイルになる」

言い切った。

フックスは、優しい笑みで、頷き、

「是非、そうしてくれ。拍手喝采、カーテンコールで待ってるよ」

と、

「お前のファンだから」

そう言って、笑うフックスに、シンバも笑顔で、

「いつも見てた?」

と、聞く。頷くフックス。

「これからも見ててくれる?」

頷くフックス。

「フックスより、どんどん大人になってくよ」

頷くフックス。

「フックスなんかより、世界を、変える力を持つからね」

頷くフックス。

「フォックステイルなんて存在しない世界になるよ」

頷くフックス。

「それでもまたボクに飴をくれる?」

そんな事を言って、涙を流しているシンバに、フックスは、声を出して笑い、

「あぁ、年老いて幸せボケした爺さんに、魔法で飴を出してやるよ」

そう言うから、シンバも声を出して笑った。

背丈が同じ事、見上げなくても、フックスと向かい合える事、直ぐ近くに顔がある事、それだけの時間を生きて来た事、それだけの時間が流れる中でフックスは存在しなかった事――。

今もフックスは、若くて、あの頃のまま――。

なのに、闇に落ちた自分を、またも助けに現れてくれたヒーロー。

「傍にいてくれるって信じてたのに、全然わかんなくてごめん。いつも残念に思わせてごめん。何度も救ってくれて、なのに、救ってあげれなくてごめん。なのに、ボクは、フックスを超えて行ってしまう、ごめん――」

「なんて顔して謝ってんだよ、どれもこれも謝る事じゃねぇだろ、笑えよ」

フックスは、ボクに教えてくれた。

戦うだけが強さじゃないって事。

こんなボクにも友達ができるって事。

生きていると大切なものが増えるって事。

笑えと言うフックスに、ボクは全力で応えたい!!

アナタの命と引き換えに、ボクに希望をくれた事、光を残してくれた事、正義の道を歩ませてくれた事、そして今も尚、期待されているという事!

「フックス、見逃さないでね。最高のショーが始まる。楽しんで」

シンバは足跡もない闇の中、走っていく。

さよならじゃない、いつかまた逢える時に、聞かせたい話をつくる為に!

この命が救われた事で、ひとつでも多くの笑顔が生まれた奇跡の軌跡を!

それはアナタから始まったんだと――・・・・・・


「はーっはっはっはっは!! 目障りなキツネをやっと始末できたか! 賊相手に調子にのりすぎたようだな、フォックステイル!! しかも相手にした賊が悪かったようだ。なんせこのガムパス様は無敵だからなぁ!!」

そう高笑いしているガムパスに、

「ワタシの銃弾が当たったからです」

と、エル・ラガルトが、自分の手柄だとばかりに言った後、

「兎も角、これでジェイドは終わりだ」

そう言って、不敵に笑うが、

「貴様も終わりだ」

と、ガムパスが剣をエル・ラガルトに向ける。エル・ラガルトもガムパスへと銃口を向けながら、

「フォックステイルは1人じゃない、仲間がいる。ソイツ等をやってからでも遅くはないと思いますが?」

と、提案。ガムパスの眉がピクリと動き、そうするかと、口が動く瞬間、

「そうそう、邪魔な奴はいなくなってもらわないとね」

と、誰かが言う。ガムパスもエル・ラガルトも目を丸くし、フォックステイルが倒れていた場所に死体がなくなっていると、辺りをキョロキョロ。

それはそこにいた全員が同じ行動になった。

キョロキョロと、フォックステイルを探す。

「あれ? どうしたの? 何か探し物?」

と、大きな岩の上に立っているフォックステイル。

ツナもシカも、それを見ながら、シンバ?と、呟いた後、

「シンバ・・・・・・なのか・・・・・・?」

と、ツナ。

「いつものなりきりじゃない・・・・・・シンバくん自身・・・・・・?」

と、シカ。

「バカな! 貴様、血を出して死んだ筈だ! そこに血痕も残ってる!」

そう吠えるガムパスと、

「そうか! 死体はどこかに隠したんだな、お前はフォックステイルの仲間か!」

そう言ったエル・ラガルト。

「仲間? ていうか、ボク、死んでないよ?」

「死んでないだと!? ゾンビか!」

「ゾンビ? その肩書きはヤダなぁ、もっと可愛い呼び方にしてよ」

陽気な口調で、そう言うと、フォックステイルは岩の上から、クルッと回転しながら、飛び降りて、ガムパスの目の前に着地した。

ガムパスはバカな奴だと、剣を振り上げ、フォックステイルを斬り付ける。

またも悲鳴を上げるネイン姫の場所まで転げるようにして、

「やられたぁぁぁぁ!!」

と、大袈裟な声を出して、苦しみながら、だが、全然、倒れないで歩き続けて行き、しかも血だろうか、赤い布を斬られた所から出し続けるフォックステイルに、ガムパスはクエスチョン顔で、自分の剣をジッと見ている。

フォックステイルは、ネイン姫の前で、手を伸ばし、

「ぬおおおおおおおお!!!! 死ぬ!!!!! このままでは死んでしまう!!!!」

そりゃもう元気イッパイの大きな声を張り上げ、大袈裟によろよろしながら、そう叫ぶから、ネイン姫も焦りながらも伸ばされた手を掴んで、

「死なないで!!!!」

などと言わずにはいられなくなり、

「あぁ!! キミが願うなら、ボクは不死身にもなる!! ボクは勇者だから!!」

と、ネイン姫の手を握り返し、いつ勇者になったのか、わけのわからない台詞で死ぬと言っていた程の怪我はどうなったのか、背筋を伸ばし、真っ直ぐに立って、ネイン姫を見つめて、王子様立ちで気取り出すフォックステイル。

本当にわけのわからない陳腐な劇を見せられているようになり、皆、ポカーンと、戦いも忘れ、魅入っている。レオンさえも、

「なにやってるんだ?」

と、この非常時に、バカバカしい茶番だと思うが、目が離せない。

ツナは自分自身もそうだが、皆が動きを止めて、戦意を失っているのに気付き、ハッとする。

「・・・・・・フォックステイル? フォックステイルだ」

本物のフォックステイルがいると、そう呟き、シンバにフックスの全てが宿っているのか?と、思うが、

「あぁ、違うな、シンバの奴、完全にフックスを自分のモノにしやがった。フックスを超えるってのか? おもしれぇ」

と、ニヤリと笑う。

「ふざけるな!!」

と、エル・ラガルトがフォックステイルに向けて、引き金を弾いた。

だが、パンッと銃口から飛び出たのは、紙吹雪。

これもクエスチョン顔で、自分の銃を見つめ出すエル・ラガルト。

「これは勇者と姫の愛を祝福してくれてる贈り物か?」

フォックステイルは降り注ぐ紙吹雪にそう言うと、

「あぁ! なんと言う運命だろう! 偉大なる青き空も祝福してくれているのに、ボクが勇者なばかりに姫を置いて危険な旅に行かなければならない! こんなにも愛しているのに! でも約束しよう、姫! ボクは必ず帰って来る! 悪しき魔王を倒し、必ず戻って来る! この空に誓おう! どんな危険が待ち受けていようとも、必ず生きて帰って来ると! それまで待っていてくれ、愛しい我が姫よ・・・・・・」

クルッと回転したり、額に手を当てたり、両手を胸に当てたり、空を仰いだり、手をネイン姫に伸ばしたりしながら、まるで舞台俳優のようなフォックステイルに、

「待っていますわ! だからどうかご無事で!!」

と、フォックステイルにうまく釣られて感情の入った台詞を言うネイン姫。

「では! 行って来る!」

と、フォックステイルはネイン姫からサッと離れ、10歩程歩くと、

「なにぃ!? 魔王! こんな近くにいたとは!!!!」

と、ガムパスに驚いてみせると、皆、大笑いし、誰かが、

「おいおい! 近所にいたのかよ、魔王は!」

と、野次を飛ばした。

「迂闊だった! まさかこんな近くにいたとは!」

そう言っているフォックステイルに、ガムパスは魔王って俺様か?と眉間に皺を寄せながら、自分を指差して、フォックステイルを見る。フォックステイルはコクコク頷き、ソッとガムパスの顔に顔を近付けると、手で口元を隠して、小声で、

「無敵を誇る魔王はアナタでしょ」

と、役柄を教える。そうかと、何故か雰囲気のせいもあるのか、納得のガムパス。

「魔王よ! 勇者であるこのボクが倒しに来た!」

フォックステイルは勇ましく剣をガムパスに向け、そう叫んだ。ガムパスも、

「クソ生意気な勇者め!」

と、剣を向け、フォックステイルと剣をカキンカキンといい音を鳴らし始める。

わぁぁぁと歓声を上げるサードニックスの連中。

なんせオヤジと慕っているガムパスの主演の劇を見られるのだから、興奮して、歓声を上げずにはいられないのだろう。

またジェイドの軍も騎士も、拍手で勇者へと声援を送る。

「すげぇ・・・・・・大半を虜にした・・・・・・」

そう呟くツナと、

「信じられない・・・・・・こんな状況なのに・・・・・・もう誰も死なずに済むかも・・・・・・」

そう囁くシカ。

勇者と魔王の剣の戦いは続き、勇者が圧勝するかのようにも魔王が蹴散らすかのようにも、または勇者が退くかのようにも魔王が苦戦しているかのようにも見え、ハラハラドキドキの展開で、皆、声を上げたり、悲鳴を上げたり、生唾を飲み込んだり、勇者と魔王になったかのように気持ちをリンクさせている。

そして勇者の剣が宙を飛び、魔王が剣を振り翳した時、銃声が鳴った――。

そして、勇者の体が剣と同じように宙を舞い、ドサッと地面に落ちたと同時に、静粛。

「・・・・・・くだらん遊びに付き合ってられるか! これだから低脳な賊は!」

と、銃口から煙が出ているピストルを持っているエル・ラガルト。

自分の銃はいつの間にかオモチャになっていたので、別の銃を、これでも急いで用意したようだ。そしてその銃口をガムパスにも向け、

「ワタシは世の中でバカという生き物が尤も嫌いだ。オモチャの剣でいつまでも遊んでいる場合か? サードニックス! 貴様が無敵と言われるガムパスだと思うと、この時代の世の者の低脳さ加減に自分さえ情けなくなる。もっと早く貴様の前に出て、無敵という地位から引き摺り下ろせば良かった」

そう言った。そして、エル・ラガルトファミリーの連中がそれぞれの武器を捨てず、ずっと構えて、ボスの合図を待っていたとばかりに、皆、傍にいる者へ攻撃を仕掛けようとした時、フォックステイルがよろけながら立ち上がった!

「くっ! そうか! 魔王を惑わせていたのは、悪い魔術師の仕業だったんだな!!」

そう叫んで、撃たれた筈の腹部を押さえながら、赤い布を次から次に出し、

「傷は深い! しかしボクは勇者! ここで死ぬ訳にはいかない!」

などと叫び、歌まで歌い出した。まるでミュージカルだ。

エル・ラガルトは確かに弾が当たった筈?と、持っているピストルを見て、オモチャではない事を確認する。だが、フォックステイルは生きていて、しかも、ふざけた演技を続行中。皆がまた戦闘モードで我に返ったにも関わらず、勇者が立ち上がった事で、しかも歌まで歌っている事で、皆、またも歓声を上げ出し、歌の内容が、どんどん険しい感じで、魔術師登場の怪しげな雰囲気になり出すと、ガムパスも、

「俺様を惑わせていただとぅ!?」

と、怒り露わで、エル・ラガルトを見るから、

「アホか! 大体、魔術師と言う役柄ならフォックステイルだろうが! アイツこそ悪い魔法使いだろう! チャームの魔法に惑わされてるんだ、貴様は!」

と、ガムパスに叫ぶ。だが、ガムパスは、

「黙れ! 悪党!」

と、自分の立場も忘れているのか、エル・ラガルトに剣を向け出した。

エル・ラガルトは溜息を吐いて、オモチャの剣で何ができると思うが、

「気をつけた方がいい、剣はオモチャでも魔王のチカラは本物だ」

と、いつの間に隣に立っていたのか、フォックステイルに、そう耳打ちされ、エル・ラガルトは、ビクッとする。だが、気付いた。

「貴様・・・・・・そうやって気付かぬ間に、人の懐に入り込んで、武器をオモチャに摩り替えてたって訳か・・・・・・足音も気配もなくキツネの如く忍び寄り、人をコケに騙すのがお得意のようだ。このピストルも引き金を弾いたら弾ではなく、また紙吹雪が飛ぶんだろう」

そう言うから、フォックステイルは、まさか!と、首を振り、

「紙吹雪なんか飛ぶ訳ない! なんなら撃って確かめたら?」

そう言うから、エル・ラガルトは、そうかと、銃口をガムパスに向け、

「だったら弾がちゃんと出るんだろうな!」

と、引き金を弾く。バンッと音が鳴り、銃口から飛び出たのは水だ。

ピューっとガムパスの顔に水がかかる。エル・ラガルトの眉が苛立ちと怒りでピクピクする中、フォックステイルは小声で、

「紙吹雪はエンディングまでとっておいて」

などと言い出し、エル・ラガルトがフォックステイルの胸倉をグッと掴んで、殴り飛ばそうとするが、その胸倉を掴んだ相手は味方のファミリーの一員の男。

フォックステイルはどこだ?と、見ると、素早過ぎるのか、本当に魔法なのか、瞬間移動なのか、何なのか、既にガムパスの傍にいて、

「ボクが、無敵の魔王を惑わせていたチカラを解き放ったせいで、魔王が水の攻撃を受けてしまった! だが流石、無敵の魔王! ダメージは全くないようだ! しかし無敵の魔王を操る程の魔術師のチカラを封じ込めなければ、勇者のボクもやられてしまう! いや、また無敵の魔王も惑わされてしまうだろう!」

と、演技に入っている。そして、皆が一瞬、シンと静まり返った所で、

「さぁ、負け知らずの無敵の魔王と、その魔王を操る偉大なる力を持った魔術師と、勇気だけで挑む男のストーリーの始まりだ!! 誰を声援するかは皆様方次第!! より多くの声援を集めた者がこのストーリーの勝者となるだろう!!」

両手を大空へ向けて、華麗なステップで瓦礫の上へと駆け上るようにして、皆を見渡し、フォックステイルは、まるで劇場の始まりを告げるかのように言う。

すると大勢が観客かの如く、いや、観客なのだろう、わぁっと声を上げて、劇が始まるのを楽しみに待つ顔になる。中には誰が勝者となるか賭け事を始める者まで。

思わず魅入っているツナはハッとして、今の内に気絶させられる奴は気絶させといた方がいいなと、まずはエル・ラガルトファミリーの連中を悲鳴なく潰していくかと思う。

当然シカもそれに気付き、劇に夢中に見惚れてる場合じゃない、今の内に薬をつかって眠らせられる奴は眠らせようと、単純な賊達は後回しにしてエル・ラガルトファミリーを標的に片っ端から潰していこうと思う。そして、ツナが、

「おい、バニ! 睡眠薬入りの小型スプリンクラーだ、これを設置して行くのを、お前も・・・・・・手伝え・・・・・・?」

と、シカが、

「ねぇ、ラビ! 僕は睡眠薬入りのスプリンクラーの設置に行くから、この一瞬にして意識が飛ぶ薬品を渡し・・・・・・とく・・・・・・?」

と、自分の背後にいる筈だと振り向いて見ると・・・・・・

「・・・・・・おい、リブレ? バニの奴はどこだ?」

バニの姿はなく、変わりにリブレがツナを見ている。

「ラビ? どこへ消えた?」

と、シカの後ろにいると思っていたラビもいなくなっている。


そしてカモメとパンダは2人揃って聳え立つ城の中へ侵入していたのだが、ロボット兵に追い詰められ、壁に追い遣られて逃げ場を失い、ピンチ状態だった。

「だからオラ言ったんだ! 勝手に城に入るのはダメだって! リーダーの意見聞いてからにした方がいいって!」

「しょうがないだろ! 意見聞きたくても電波が妨害されてて通信機能全く使えないんだから、それを解除しないと仲間と連絡取り合えないんだから!」

「どうすんの! オラ、まだシカの作った睡眠薬だって、全部、設置しきれてないんだよ! シンバがフィナーレ飾る時に、睡眠薬が噴射して、全員バタリって予定が狂うよ!!」

「なんで全部設置してないんだよ、設置する時間くらいあったろ!? 睡眠薬つくる金ないから、量だって少ないモノなんだよ!? 普通にあっという間に設置できる数しか持ってなかったろ!?」

「設置する前にカモメが一緒に来てって言ったんじゃん!!」

「オイラはとっくに設置終えてたから、パンダも設置し終えた頃だと思ったんだよ!! ていうか、どうせ数少ないんだから、設置した所で、全員は眠らせられないよ!! でも設置した場所を伝えないと、ツナやシカが、睡眠薬直撃の場所にいるかもしれないのに、それも連絡できないんだから、早くなんとかしないと!! その為に城に入ったのに!!」

「城に入ってこの座間!! オラ達は雑魚だからな!」

「あー!! もう!! だったらここに来ないでサードニックスやエル・ラガルトと戦えばいいだろ! 雑魚ならどっちにしろ殺されるさ! でも言っとく! オイラは雑魚じゃない!」

「だったらカモメはこの状況で雑魚じゃないトコ見せてよ!!」

パンダがそう叫んだ時、じりじりと近付いて来ていた3体のロボット兵がスピードを上げて近寄って来た!! 壁にへばりつきながらも、お互いを前へ出し合って、最後には抱き締めあって、ロボット兵が斧の右手を振り上げたのを目に映し、悲鳴を上げたその時、天井から何かが落ちてきた。

それはロボット兵の頭上へと、流星の如く流れるように床に落ちた。

その1体のロボット兵はジジジッと電流を流しながら真っ二つ。

流星の如く落ちてきたのはバニだ。

バニはロボット兵を剣で一刀両断した後、床に跪くように座り、顔だけ少し上にあげると、残りの2体のロボットをギロリと睨み、ロボット兵が、カモメとパンダを標的にしていたが、新たな敵出現と振り向いた瞬間、

「遅い!」

と、まだロボット兵の目となるレンズがバニを映し出す前に、バネのある脚で床を蹴り上げ、体を跳ね上げるようにして宙に飛び、竜巻かのように風を生みながら、剣でロボットを斬り裂いた。

もう1体のロボットがバニを確認し、敵発見とばかりに向きを変え、胸部分がパカッと開き、銃口がガシャンガシャンと音を出しながら、変形するように出て来るが、

「鈍い!」

と、バニは宙返りしながら、ロボットの脳天を蹴り、銃口を床へと向けさせると同時に、宙を舞ったままの状態で、剣を振るう。

腕や足などのパーツが床に転がり落ちると同時に、バニも床に着地。

「かっこいい・・・・・・」

カモメが思わずそう呟く。

しかし、かっこいいのも束の間、バニは剣を鞘に仕舞った後、

「しまった!! これって殺した事になんの!?」

と、頭を抱え出して慌て出す。

「殺したと言うか壊したんだから例外って奴じゃない?」

と、ラビがツカツカと近付いて来る。するとバニはそっかと笑い、そして振り向いて、

「アンタ等、マジ弱ッ!! こんな雑魚にやられそうって、雑魚以下のモブ以下! スピンオフもないと思いな」

と、呆れたように、カモメとパンダに言う。だが、その呆れ顔も直ぐに笑顔になり、

「でも、ま、死ななかったって事は死体じゃないだけマシかな」

そう言った。すると、ふふふっと笑いながら、ラビが、

「駄目よ、バニ。余りイジメたら可哀想だわ。それにカモメとパンダは結構重要人物よ」

と、バニの髪を優しく撫でながら、そう言うと、カモメとパンダに顔を向け、

「ごめんなさいねぇ、この子、好きな人には意地悪しちゃうだけなの。気にしないで」

そう言った。バニも笑顔で、

「そうそう、気にしないで」

そう言うから、気にしませんと、カモメもパンダもコクコク頷く。

カモメはバニのかっこよさに、パンダはラビの色気に完全に参っている。

「ねぇ、カモメ? パンダ? アナタ達、ここで何してるの?」

ラビの問いに、カモメはハッとして、

「オイラ達、電波障害を直そうとして、この城に潜り込んだんだ。バニ、キミはフォックステイルと一緒にいて戦いに参加した方がいい! キミの強さはリーダーに必要だよ! ここはもう大丈夫だから」

そう言った。

「心配ないわ、フォックステイルなら、うまくやってくれてる。みんな、フォックステイルに夢中になってくれてて、アタシ達もうまく城に入り込めたくらいだもの」

と、ラビ。

「そうそう、なんかよくわかんないけど、急にハッチャケて、フォックステイルの1人勝ちみたいになってるよ」

と、バニ。

それは一体どうなっているんだ?と、カモメとパンダはクエスチョン顔でお互い見合う。

「で、で、でもさ、相手はあのサードニックスだし、エル・ラガルトだしだよ?」

と、カモメ。

「ジェイドもフォックステイルの絶対的な味方とは限らないしね」

と、パンダ。

「だからマジ心配いらないって! まさにフォックステイル参上ってな感じで、あっちはあっちで楽しんでるんだから、こっちはこっちで楽しもうよ! さ、行くよ」

と、バニは軽快に歩き出すから、もっと警戒してと、

「このフロアのロボット兵を全滅させても、他のフロアに配属されてるロボット兵もいるんだ、それに罠も仕掛けられてるから、まずはセキュリティ解除しなきゃ!」

と、カモメが叫ぶ。そうなの?と、バニはラビを見て、ラビは頷き、

「城内のセキュリティ解除に必要なラブラドライトアイを持って来てるわ。行きましょ」

と、歩き出す。バニはラビの後へと付いて行く。

カモメとパンダは、行くって・・・・・・どこへ?と、思いながらも二人に付いて行く。

当然のようにロボット兵はバニがぶっ壊して行く。

バニの余りの強さに、シンバやツナの強さが、ぼやけて見えるような気がすると、カモメとパンダは思うが、口にはしない。

「それにしてもさぁ、外観は古い城みたいって思ったけど、中もホントに古城だよね!? ハイテク機能使ってんのに、なんで建物がこんななのかな!? 雰囲気作りとしか思えないよ。ゴースト城って感じじゃん」

と、ロボット兵にぶっ刺した剣を抜きながらバニが言う。

確かに壁も床も柱も石造りで、ロボット兵よりも、ガイコツ兵が似合いそう。

「建物はその時代の流行があるから」

と、カモメ。

「それに石に見えても、実は石じゃないのかもしれないよ」

と、パンダ。

「それか、只の石を積み重ねて造る理由があったのかもしれないわね」

と、ラビ。カモメとパンダが、ラビを見ると、ラビは、ふふふっと笑いながら、

「同じ重さで同じ形のブロックを積み重ねて建物をつくる理由なら、小さい頃、よくやったでしょ?」

そう言った。パンダが小さい頃って?と、カモメを見ると、カモメはラビを見て、

「積み木崩し・・・・・・つまりブロック崩しになってるって?」

そう聞いた。

「さぁ? そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないわ」

と、ラビ。

「ブロック崩しって? どういう事? この城、崩れるの!?」

あたふたするパンダに、カモメは落ち着いてと、

「積み木崩しもそうだけど、崩れる為の積み木を抜き取ったり壊したりしなければ崩れない。この城がもしブロック崩しになっているとしても、崩れるブロックを傷つけなければ、大丈夫だよ。だけど・・・・・・崩す理由があるとしたら、この城には傷つけてはいけないブロックに何かあるんだ。それを手に入れられないように、もし手に入れた者がいたら、この城と共に闇に葬る為のブロック崩しだろうから。でもそれって何かな?」

と、ラビはその何かを知っているのかなと思う。ラビは意味深な微笑を浮かべ、

「カモメ、その何かがどこにあるのか調べるには、アナタの協力が必要だわ」

と、囁くように言うから、カモメはオイラの?とラビを見る。

「ブロック崩しになっているのか、どうなのかは知らないけど、ミリアム様がいたこの城は、神の領域と言っても過言ではなくて、アタシ達地上人が手に入れてはならない禁断のモノがある筈。神話のような話よ」

「禁断って魔人って言う奴かな?」

パンダがそう言うと、バニが魔人?と聞き返すから、カモメが、

「スカイピースを全部そろえると空の彼方で眠っている魔人を呼び覚ます・・・・・・神話のような話。でも4つ全部集めたら、現実に空の大陸が現れた。オイラ達は空の大陸だったカーネリアンで魔法のような科学を目にしてる。大きなフェンリルと呼ばれる神話に出て来るようなモンスターも召喚された。その源となるチカラがここにあるんだ。それが魔人と言われる程の大いなるチカラだとしたら、ラビが言うのは禁断の魔法って所かな」

そう話した。

「フォックステイルはその禁断の魔法ってのを手に入れようとしてんの?」

バニが聞くと、とんでもないとカモメは首を振った。

「リーダーは、その禁断の魔法を闇に葬ってしまおうと考えてる。そんな魔法が発動されたら、何が起こるかわかんないけど、そのチカラを正義に使える者なんて地上人にはいないから、大きすぎる力は消し去る方がいいんだ」

「フーン。それがフォックステイルの考えか。自分が手に入れようとは思わないのかね。相変わらず、お人好しっつーか、バカっつーか。ついてけないよ、全く」

と、バニは呆れ顔。

「まさかラビはその禁断の魔法を手に入れようとしてんの?」

カモメの問いに、ラビは、ふふふっと笑いながら、

「そんな何が起こるかわからないチカラなんていらないわ。正義も悪も興味ないもの」

そう言った。確かにラビは世の中の正義だの悪だのに足を踏み入れるタイプではなく、わが道を行くタイプだと、カモメは頷くが、

「なら、ラビとバニはどうしてここに? 2人共、何か手に入れる為だよね? 只の探究心とか冒険心とかで、態々、ロボット兵がいる城内に入って来ないよね?」

そう聞いた。

「アタシはアナタ達が言う禁断の魔法とは、善悪じゃないと思ってるの」

「善悪じゃない? じゃぁ、何?」

と、首を傾げながらパンダが問う。

「魔神の力とか、禁断の魔法とかって、比喩的表現でしょ? 恐らく、絶対に使わせないように、それは恐ろしいと言い伝えられているだけ。まぁ、私の考えが正しければ、確かに、使う人が沢山現れると・・・・・・恐ろしい事になるかもね」

「ラビは、それがなんだと思ってるの?」

カモメの質問に、フッと、ラビは笑い、

「不老の薬――」

そう言った。

「不老?」

と、眉間に皺を寄せて、難しい顔をするカモメに、薬はシカの分野だから、よくわかんないよと、パンダが言う。

「天空人は、女が少なくて、地上から女を連れて来たと言われているわ。でも、地上人の老いなんて、あっという間。しかも、子供を生める年齢も、高齢になれば、危険となって来る。天空人は、禁断の薬を使う事にしたの。生きている限り、若くいられるの。寿命尽きるまで、元気な子供を生めるって訳」

カモメとパンダは、その話を聞くと、サササササササッと、遠くへ下がり、2人で、

「やっぱそうだよ、カーネリアンの温泉、隠し部屋にあった数々の薬、あれって、そういう事だ。シカは、もっと時間をかけて調べてみないと、なんとも言えないとは言ってたけど、やっぱそうなんだよ!」

と、カモメ。

「うん、オラもそう思う。でも、多分、カーネリアンのは、完全なもんじゃないと思う! だって、シンバのオバサン、そりゃ若く見えたけど、若々しいというか、こういう若い人っているよねって言う感じでさ?」

と、パンダ。

「わかる! 想定内って事だろ? 年齢聞いて、わぁビックリ! もっとお若いかと思いましたわ、オホホホホ的な!?」

と、カモメ。

「オホホホホ? それ誰との会話?」

と、パンダ。

「近所のオバチャン達の会話」

と、カモメ。

「成る程ね!」

と、パンダ。

「それにライガさん。あの人は、失礼だけど、ホント200歳くらいに見える。不老の薬って事は、ライガさんには効いてないように見えるけど、でも、あの動きは、若すぎる・・・・・・だって、シンバもツナも、リブレも、あの3人が苦戦だった!」

と、カモメ。

「確かに確かに!!」

と、パンダ。

「それに、あんな吹雪の中で、数少ないとは言え、人が生きて来れてる・・・・・・って事は、ライガさんもシンバのオバサンも、カーネリアンに住んでいる人々も、みんな、薬が効いてない訳じゃない。つまり・・・・・・」

と、カモメ。

「つまり?」

と、パンダ。

「つまり、ラビが探している薬は、カーネリアンの温泉や、隠し部屋にあった薬の完成したモノって事だよ」

と、カモメ。

「じゃぁ、カーネリアンのモノって、完成はしてないって事?」

と、パンダ。

「うん。天空人は、細胞を素早く再生する薬を開発して、ソレを若返りや、傷を治す薬として使っていた。カーネリアンは、研究所の一角だったのかも」

と、カモメ。

「そっか。じゃぁ、カーネリアンの温泉は、研究途中の薬が溢れてるんだ」

と、パンダ。

「うん、でも、ほぼ完成に近いから、あれに何か別の成分を足して、完成するんだとして、その成分を足す前のモノが、大量生産されて、勝手にどんどん作られてて、溢れてきたものを、カーネリアンは、温泉にしたんだよ」

と、カモメ。

「有り得る! その作動しているシステムを止めれば、温泉は止まるのかな」

と、パンダ。

「でもオイラ達がワープした部屋に、コンピューターはイッパイあったけど、どれも温泉の・・・・・・薬の大量生産のシステムはなかった。もしかしたら、カーネリアンには、他にも隠し部屋みたいなのがあるかもしれない」

と、カモメ。そうだねと、パンダが頷いた時、

「ねぇ? 相談はまだ続くの? そろそろ終わりにしてくれない?」

と、ラビ。

「いつまでコソコソヒソヒソやってんだよ?」

と、バニ。

カモメとパンダは振り向いて、ラビとバニを見る。すると、ラビが、

「ねぇ、カモメ、パンダ、答えてくれる? フォックステイルが狙ってるのは、その禁断の薬なの? フォックステイルは禁断の薬を手に入れる為に、ここに現れたの? その相談してたんでしょ?」

そう言うから、その相談じゃないんだけどなと、カモメが、

「い、いや、それは、多分、いらないと思う」

そう答え、パンダも、コクコク頷くので、

「そう、良かったわ、なら、手を組めるわね、アタシ達に協力してくれるでしょう?」

と、ラビは、笑顔。

カモメとパンダは、本当に協力していいのかなと苦笑い。

「あ、あのさ、バニもさ、その不老の薬って、ほしいの?」

カモメが、バニを見て、バニも、そのまま、綺麗に美しいまま、ずっと保っていたいのかなと、聞くと、うん、と、即答で頷くから、やっぱり、バニも、なんだかんだ女の子なんだなぁと、思っていたら、

「若い時が一番強くいられるからね。年老いたら、筋肉を鍛えてても、やっぱ若い頃に比べたら衰えるでしょ。死ぬまで、私、最強!! で、いたいからさ」

あぁ、やっぱりバニだなと、カモメは苦笑い。

「ところでカモメ。このフロアって、全部調べたの?」

ラビが言いながら、今どこの部屋にいるのかわかる?と、パンダにも聞く。

「調べたって言うかロボット兵から逃げて回ってたけど、大体はどの部屋も入ったと思う」

と、カモメ。

「うん、そうだね、特に変わった部屋はなかったけど」

と、パンダ。

「とりあえず、1階はそこそこにして、上の階へ行こうか」

と、カモメ。

「そだな。大体は最上階に何かあるもんだし」

と、パンダ。

「いいえ、1階を調べるわ」

と、ラビ。

「まだこのフロアをウロウロするの?」

と、カモメ。

「あ! そうか! 宝庫なら地下かもしれないから階段を探すんだね!? 上に行くにしても階段を探さなきゃだしね」

と、パンダ。

「ねぇ、カモメ、パンダ。見取り図って描ける?」

と、ラビ。

「見取り図?」

と、問い返すカモメとパンダ。

「1階の部屋の配置。大まかでいいのよ。アナタ達が逃げ回った部屋を描けるかしら?」

まぁ、大体ならと、カモメはリュックから投影式のキーボードを取り出し、床にキーを映すとタイピングし、この城の1階フロアの見取り図を3Dとして空間に映す。

「えっと・・・・・・ここが入り口で・・・・・・真っ直ぐ南へと走って・・・・・・」

ブツブツと口の中で逃げて来たルートを思い出しながら部屋を描いて行く。

「てか、自分が逃げた道とか、シッカリ覚えてんの? 凄いね、アンタ」

と、バニが、褒めてくれるので、カモメはニヤニヤしてしまう。パンダが、更にカモメを持ち上げてやろうと、

「カモメは、頭いいからね! 凄いんだよ! 記憶力がね、凄いの! ね? トランプとかやっても、カモメの一人勝ちだから! ね? コンセントレーションメモリーとか、得意だよね? ね?」

と、語彙力のない言葉で、褒めてみる。だが、バニが、

「へぇ、私、そういう男苦手だわぁ」

そう言うから、パンダは、なんで!?え!?オラが悪いの!?と、睨むカモメを見て、焦っている。そんな事はどうでもいいと、

「カモメ、ここ等辺にも部屋があったわ、アタシ達が入ったから」

と、空間に浮かぶ見取り図を指差して、ラビがそう言うと、カモメは頷いて、そこに部屋をつくる。見取り図はどんどん完成されていくが・・・・・・

「あれ? こうして見ると、真ん中に空間がある。オイラ達、中央の部屋には入ってないんだ。どこかに扉があるって事かな? あるとしたら、この城に入って直ぐの壁辺りになると思うんだけど・・・・・・扉なんてあったっけ?」

どうだったかなぁ?と、カモメは、難しい顔で、空間に浮かんだ3Dの見取り図の映像を見る。

「行ってみりゃいいじゃん、出入り口付近にもう一回!」

そう言ったバニに、それが正解とラビが歩き出すから、カモメは投影式のキーボードを急いでリュックに仕舞い、パンダと2人、ラビとバニを追う。

「その中央の部屋にラビがほしいものがあるのかな?」

「どうかな? この城の大体の大きさを元に3D映像をつくったけど、見る限り小さな部屋だったから、それこそ隠された階段か、カーネリアンにもあった転送装置的なものがあるって考えた方が妥当かも」

そうかと頷くパンダに、カモメは、ラビが手に入れたいと言う禁断の薬があるとしたら、研究室みたいな部屋じゃないかなぁと、歩きながら考えている。

「ここね。そしてこの壁の向こうに、まだ見ぬ部屋がある」

と、ラビが言うが、そこは石壁があるだけで、特に何もなく、扉もない。

かと行って、くるりと回って来たが、他の部屋へと続く扉があるだけだ。

ラビもバニも石壁を手で触れて調べているから、カモメとパンダも調べ始める。

バニが調べた場所の積み重なった石の1つが動いた。

「ラビさん! ここの石が動くよ!」

バニがそう言うと、ラビもカモメもパンダも、バニが言う壁の所へ集まる。

慎重にラビが、石をゆっくりと、そして力を入れて、グッと押す。

石はガコンと奥へと潜るように入り、変わりに別の石が出てきて、その石には簡単な瞳を表す絵が描かれてあり、その下に文字らしきものがツラツラと書かれている。

カモメが待ってと、またリュックから投影式のキーボードを出して、

「天空人の文字を解読したデーターがあるから、その文字も解読できると思う」

そう言った。

ラビは、バニの腕を軽く肘で叩くと、バニは、

「流石! えっと! 素敵! かっこいー!」

と、カモメをムリヤリ的に褒め出し、そのムリヤリ感を消し去るかの如く、

「カモメがいてくれてホント助かったわ。頼りがいありすぎて、女なら、みんな惚れちゃうわね」

と、ラビが有り得ないくらい褒める。バニもうんうんと頷くから、パンダは、白々しすぎるよと思うが、カモメは謙遜して、そんな事ないよと言いながらも、満更でもない顔で、嬉しそうにしてるから、こんなんでいいの!? オラが、さっき褒めたセリフの方がマシだったよ!?と、思う。

「それで・・・・・・何て書いてあるの?」

ラビに聞かれ、カモメは翻訳された文字を宙に映し出して、黙読すると、

「なんだろ・・・・・・なんか・・・・・・この城の案内図みたい?」

などと言い出した。

「案内図!? そんなん必要!? ていうか、場所的にはアリかもね。城に入って直ぐに案内図! ここは街入り口か、デカいショッピングモールかっつーの!」

バニがそう言うが、カモメは、だって・・・・・・と、また文字を黙読し始める。

「カモメ、墓地とかある?」

ラビにそう聞かれ、墓地?と、カモメはラビを見た後、文字を見ながら首を振る。

「そう、だったら教会みたいな場所は? 礼拝堂とか、神聖なる場所はある?」

「うーん・・・・・・特に神聖な場所って言うのは城内にはないなぁ。全体的に神聖なんだよ」

「そう、なら・・・・・・そうね・・・・・・ガーデンとか庭園的な場所・・・・・・そういうのは?」

と、またラビに聞かれ、カモメはラビを見て、眉間に皺を寄せながら、

「宝庫とか王の間とかじゃなくて? 墓地とか神聖な場所とか・・・・・・ガーデンって?」

聞き返した。パンダがハッとして、

「墓荒らしする気だ! 天空人の王家の墓荒らしする気なんだよ! そんな事したら天罰食らうぞ!!」

そう叫んだ。まさかと、カモメは笑うが、ラビが真顔なので、

「本気? 墓を荒らすの!? それはダメだよ!! 墓に埋葬した魂と一緒の宝は、掘り返すもんじゃないから!! 呪われるよ?」

と、怒った感じに言った。

「墓地を掘り返すだなんて・・・・・・そんな下品な事しないわ。で? ガーデンってあるの?」

そう聞かれ、カモメはコクンと頷き、

「うん、ガーデンって書かれてる。けど・・・・・・これ案内図にしては変だ。何階のどこの場所にガーデンがあるのか書いてない。案内図じゃないのかな」

そう言った。バニが、嘘吐いたりしたら嫌うよ?と、カモメを睨むが、ホントだよとカモメはバニに言って、バニは、ラビを見る。ラビはニヤッと笑い、

「そのガーデンって文字、この石壁に書かれた文字のどれがガーデンになるのかしら?」

そう言って、石壁を見る。

「えっと、ガーデンって文字は上から5列目だね、そう、それ!」

と、ラビが指差した文字を見て、カモメが頷くと、ラビは、バニに手の平を出した。

その手の平に、バニは小さな瓶に入れ替えられているラブラドライトアイを置く。

ポケットに入る大きさに瓶詰めされている目玉に、パンダは気味悪そうな表情。

そのラブラドライトアイを壁に描かれた瞳の絵と垂直に置くようにして、ラブラドライトアイに、瞳の絵の部分を映し出させる。

瞬間、石壁の罅割れている場所から光が走り出すように放たれる。

「な!? なに!? なにこれ!? これ石の壁じゃないの!?」

と、パンダが素材としては石なのにと、壁を、広げた両手で触る。だが、只の石壁じゃなかったようだ。4人の目の前に扉が現れ、その扉が開いた。

眩しくて、目を閉じるが、直ぐに目を開き、その扉の向こうを見る。

4人の目に映った世界は、広がるガーデン――。

「わぉ! テレポーテーション完了って感じ?」

笑顔でそう言ったバニに、ラビはふふふっと笑う。

「どどどど・・・・・・どういう事!? カモメ? 転送装置で、オラ達は転送されたの!?」

「オイラ達が転送されたんじゃない、扉の向こうが転送したんだ・・・・・・。信じられない・・・・・・世界を転送させるなんて・・・・・・扉一枚の向こうが違う世界になるなんて・・・・・・魔法としか言いようがないよ・・・・・・これぞ実現力が空想力を上回った科学だ・・・・・・」

驚愕の表情で言うカモメに、パンダは凄い事なの!?と、理解できない表情。

「行くわよ」

と、ラビが扉を潜る。続いてバニも。すると慌ててカモメもパンダもガーデンへと足を踏み入れ、そして、実感する。ここは紛れもない外の空気だと――。

広がる大地を見渡すと、それと平行線で広がる空に鳥か飛んで行く。

ガーデンと言うよりは大自然の中にある穏やかな草原と言う感じ。

それでも、あちこちにベンチもあるし、手入れはされてないが、草に埋もれた花壇もある。

「きっとガーデンだったのよ、でも誰も手入れしないまま、長い月日が経過した。そんな所ね」

と、ラビがスタスタ歩きながら言う。

「沼みたいな池があるって思ったら・・・・・・噴水だったっぽい。あれ? そっちにもあるじゃん、噴水みたいなの。あっちこっちにあるみたいだね」

と、バニが緑色の濁った水を覗き込んで、言う。

「妙な小動物もいる。目がクリクリしててウサギに似てるけどキツネにも似てるっぽい」

と、パンダが地上ではお目にかかれない不思議な動物を指差して言う。

「うん、よく見たら地上の植物に類似してるけど、まるで見た事のない植物だらけだ」

と、カモメも足元の草花を見つめながら言う。そして、

「ここは地上じゃないって事だけはハッキリした。外に出たと思ったけど、大地も空も、人工的なもので、城内の一室なのかもしれないな。中庭やガーデンとして、外に出たなら、少なくとも、フォックステイルとジェイド、サードニックスとエル・ラガルトが戦っている音くらいは、聴こえて来そうなもんだ。外部からの音は聴こえて来ない、完全な防音の 静かな空間だよ、ここは――」

そう言いながら、バニの短い髪が風で揺れるのを見て、

「ホント凄いな、そよぐ風もあって、外の空気だと感じるなんて・・・・・・綺麗だなぁ・・・・・・バニの横顔――」

と、うっとりした顔でそう囁く。パンダがカモメの顔を覗き込んで、

「バニの顔がなんだって?」

と、聞くから、突然ドアップで現れるなよと、カモメはパンダの顔を手の平で押し返す。

気がつけばラビは遥か遠く。バニもラビを追うから、カモメとパンダも急いで走り出す。

そしてラビが見つけたモノは、あちこちにある小さな噴水の源にも思える、大きな噴水。地上にもあるミリアム様の銅像と同じような像が中央にあり、その銅像のミリアム様の瞳から、チロチロと水が流れていて、まるで涙を流しているように見える。

「ミリアム様の涙! 金貨じゃなくて、ホントに涙流してる!」

パンダがそう言うと、

「禁断の涙」

ラビがそう言って、走り出したので、カモメもパンダも禁断の涙!?とクエスチョン顔になる。

ラビは噴水の中を覗き込み、透き通る水に手を入れる。

「ラビさん、只の水っぽいよ?」

と、バニも泉に手を入れて、そう言うので、カモメが、

「でも、この噴水の水、透き通ってて、透明だね。他の噴水の水は緑で濁ってたけど。多分、他の噴水の水が本当の水で、これは、水じゃないのかも」

そう言った。すると、ラビはキョロキョロと何か探し始めた。

何を探してるんだろう?と、カモメもパンダも、ラビの行動を見ているだけ。

ラビは腰辺りまである草を掻き分けて、草や蔓や虚仮などで覆われたモノを見つけ、蔓を引き千切るようにして、その中に、隠れてたモノを出した。

それは大きな石で、文字が刻まれている。

勿論、文字の解読が必要だろうと、カモメが駆け寄ろうとしたが、ラビは、何かに気付き、その大きな石の横の草を抜き、無我夢中で、地を掘り始めるから、バニもラビの傍に行き、素手で草を抜いて土を掘り、2人揃って美人が台無しになる程、土塗れになる。

「なにやってんの? あの2人?」

パンダがそう呟いて、カモメが、

「さぁ?」

と、首を傾げ、意味のわからない行動の2人を見守るしかできないでいる。だが、

「墓?」

と、パンダが気付いて、そう言うので、

「ここは、どう見ても、みんながくつろいだりする癒しの場所だと思うけどなぁ」

と、半笑いしながらカモメは答えたが、直ぐに、パンダと向き合って、お互いを見ながら、お互い一緒に、

「みんなの癒しとなる神様が眠る場所!?」

と、声を合わせてそう叫んだ。

調度、掘り終わったのか、ラビがスッと立ち上がり、土で汚れた顔で、パンダとカモメを見ると、ふふふっと笑うから、パンダが、

「汚れてても美人だなぁ」

と、感心する。

「ここはね、ミリアム様が眠る場所なの。地上にある聖典は、ある程度くらいなら知ってるでしょ? アナタ達も孤児院で牧師様の説教を聞いて育ったんだもの。ミリアム様は若い頃に空へ――・・・・・・天空へと向かったと――」

言いながら、ラビは自分が掘った場所に目を向ける為、俯いた。そして、

「当時、彼女の年齢は20代だったと言う話」

そう言うと、黙り込んだので、カモメもパンダも、ラビに近付き、ラビが掘った場所を見る。そこには、透明のガラス容器に入った美しい女性が眠っていた。

そう、眠っているように、そこに入っている。

まるで死体には見えない。

「ミリアム様?」

パンダが問う。ラビはコクンと頷き、

「ミイラ化もしてない、死んだ時のままの姿なのよ」

そう答えた。カモメはゴクンと生唾を飲み込む。

「地上の人間達と天空人の大戦は長い間続いて、冷戦状態だった年もあったそうよ。その間、ミリアム様は天空で生きていたわ。彼女の亡くなった年齢は記録として残っているモノを見て、凡その計算だとしても・・・・・・80近いわ」

80!?と、パンダとカモメはガラスの容器の中で眠る死体を見て、驚くが、

「じゃあ、これ誰?」

と、当然の質問のパンダ。不老の薬だとしても、本当に不老過ぎる。有り得ないと、

「ミリアム様は1人じゃなくて、世代交代してたとか? これは何代目かのミリアム様って事じゃないかな?」

と、当然の推理のカモメ。

「ミリアム様は唯一の存在。1人だけよ。世代交代もないわ。彼女は若いまま年齢だけ年老いたの」

ラビはそう答えると、

「カモメ、墓石に何らかの仕掛けがある筈。調べてくれる?」

そう言った。仕掛け?と、カモメは、眉間に皺を寄せ、墓石を調べる。

書かれている文字は天空人の文字で、極普通の安らかに眠ると言う意味の言葉であり、怪しくはない。墓石の裏へ回り、色々と調べて気付く。

草に埋もれているが、何本ものコードが墓石と泉に繋がっている。いや、死体の入ったガラスの容器にも繋がっているようだ。

どうやら電流が通っていると気付いたカモメは、コードの全てが、墓石でも容器でもなく、泉と繋がっていると突き止めた。

「この泉・・・・・・人口ではないように見えるけど・・・・・・自然とも言い切れない・・・・・・でも確実に人口部分があるよね」

と、泉の中央にあるミリアム様の銅像を見上げる。

「あの銅像が何らかのエネルギーを墓石とガラスの棺桶に送っている? でも何のエネルギーだろう? 暗くなると光るとか?」

首を傾げるカモメ。

「墓石とガラスの棺桶だけじゃないわ。この空域全てに送っているのよ」

と、ラビ。全て?と、カモメはラビを見る。

「ここが城内の一室に過ぎなくて、空も地も人工的なものならば、人工的に手入れが必要になる。だけど長い長い月日、誰の手入れもないままだとしたら、変だと思わない? 確かに半年や数年程、手入れされていないガーデンだけど・・・・・・」

「半年や数年程度じゃない・・・・・・もっともっと神話になる程の長い月日・・・・・・」

「そう、神話になる程の長い時間、ずっと眠っていた場所。メインコンピューターの再起動もアナタ達がやった事であって、つまり、この空の大陸はずっと長い間、眠っていた。この場所もね」

カモメは難しい顔でミリアムの銅像を見上げる。

「どういう事? カモメ?」

パンダの問いに、バニが、じれったいなぁとばかりに、イライラした風に首を掻きながら、

「どういう事かなんて、どうでもいいから、早いトコ完全起動させちゃいなよ」

面倒そうにそう言うと、カモメに向かって、

「あの銅像はまだ浅い眠りで動いてるんでしょ? それを完全に起こしてって言ってるの。アンタならやれるんでしょ? フォックステイルの天才くんにやれない事はない。魔法はフォックステイルの得意分野でしょ? その魔法の種ってアンタが作ってるんでしょ? だったら、この魔法を眠りから起こせるのは、アンタしかいない。ねぇ? ここにフォックステイルって参上してんだよね? アンタ、フォックステイルなんでしょ? それともアンタ、フォックステイルに纏わり着いてるだけの只のキツネだった?」

と、挑発するように、そう言った。

カモメは強張った顔で、硬直したまま、バニを見つめていると、

「只のキツネになんか、興味ないんだけど」

そうバニに吐き捨てられるように言われ、カモメは、

「起動くらい簡単だ! コードを辿れば、主電源の場所だってわかるんだ! 難しい事なんてない! 種がわかれば魔法も只のからくりだ」

と、動き出した。ラビはふふふっと笑いながら、バニに、上出来と囁く。

「オラ・・・・・・何か手伝う?」

オドオドしながら問うパンダに、邪魔しないようにねとラビが微笑むから、パンダは、

「ねぇ、ラビ? あの銅像を起動させると、どうなるの?」

疑問を率直に聞いた。

「この大陸の全てが完全に動いていた頃は、大戦中だった為、ガーデンは開放されず、そのまま放置されてたんだと思うわ。放置されて数ヶ月・・・・・・その頃のまま時間を止めてあるの。細胞をね――」

「うん? どういう事?」

「だからね、パンダ、アナタには必要のない事かもしれないけど、アタシには必要なの。ミリアム様が飲んだと言われる不老の薬」

「え!?不老不死の薬って、この噴水の水の事なの!?」

思わず声を大にして叫ぶパンダに、

「不死だったら、死んでないでしょ、ミリアム様!」

と、バニが突っ込んだ。

「不死には興味ないわ。でも永遠の美貌には興味あるの。煌めく宝石で、私を輝かせてくれるなら、手に入れたいけど、でも、若く美しい今には、どんな宝石も劣るでしょう? 知ってた? 見た目が美しいって、最強なのよ」

ラビが、そう言うから、ある意味、ラビとバニは、同じ理由で、同じモノを探してたって事かと、パンダは思う。

「恐らく、死んだ後の肉体には、不老薬の効果も消えるのね、だからミリアム様の死体には泉の水が流れてるのよ。血液が流れるように、延々と廻ってるの。それが棺桶に繋がるコードの秘密ね。そして墓石から、この地全てに水が流れるように、植物の根のように、草に水を与えてるんだわ。泉の水は、只の水に見えるけど、死んだ細胞を腐らせず、そのままの状態を保たせる効果があるのよ。でもそれは不老の薬を飲んだ者にしか通じない魔法。不老の薬を飲んだ者が死んだ後も美しいままの状態を保てる魔法だわ。それは最小限のエネルギーで出来る事。だからこの状態をずっと保ってきたって訳。わかる? 死んでるのよ、ミリアム様と同じで、ここの草も、花も。不老の水を飲んだ後にね――」

そう言われると、この素晴らしい景色が、死者だらけの景色って事なの!?と、パンダは、気味が悪いと言う顔をする。

「つまり元々はあの泉は不老の水だったの。だけど、メインコンピューターが休止状態になって、ここもスリープ状態になった。スリープ状態では最小限のエネルギーで動く為、不老の水は、死者を死んだ時のままで時間を止める事はできても、生者に不老を与えるだけのチカラはなくなってしまっているの。だから、あの泉、どこからどう見ても、只の水みたいでしょ? まぁ、不老を与えるだけのチカラはないけど、それなりの効能はありそうだけど」

そう説明したラビに、パンダはコクコク頷きながら、

「カーネリアンの温泉がそうだ、元は、噴水の水だったんだ、アレ!!」

そう言って、しまったと口を押さえるが、ラビも、バニも、カーネリアンの温泉?と、パンダを見る。だが、パンダは、なんでもないと首を振る。いつもなら、ここで、パンダに吐いてもらうトコだが、今は、目の前の不老の薬で、頭がイッパイなのだろう、ラビは、フーンと、どうでも良さそうに頷いた。

「ま、フォックステイルには必要ないモノだな。不老なんてバカバカしいや」

そう言ったパンダに、バニが、フォックステイルは不老になった方が地獄だろと、笑いながら言う。

どういう意味だ!?と、パンダがバニに怒って、バニは笑いながら、だってアンタ等の、そのクソみたいな見た目で、死ぬまで生きるとか、老いた方がマシじゃんと、少しは可愛げのある爺さんになるでしょと、言うから、パンダが、失礼過ぎるぞ!と、そんなに小さい時にイジメた事を根に持ってるのか!と、怒ったが、アンタも私をイジメてたの?と、聞かれ、パンダは、アワアワしながら、イジメてないよ!と、慌てている。ラビは、ふふふっと笑いながら、2人のやりとりを見ている。

そんなやり取りをしてる間に、カモメが、

「できた」

そう囁いた。その小さな囁きを聞き逃さず、皆、何がどう起こるのかと、泉を見る。

すると、まるで割れた玉子から何かが孵るように、ピシピシと銅像に罅が割れて、表面が剥がれ落ちると、そこにミリアム様が生まれ変わったかのように、キラキラ輝く銅像が現れた。黄金に輝く髪、真珠の衣、琥珀の肌、ルビーの唇、そして色鮮やかにキラキラと変色する大きなラブラドライトアイの瞳――。

「やっぱり! この銅像と、この場所で間違いないわ! ミリアムのラブラドライトアイの瞳のある場所に禁断の薬ありって説の通りだもの!」

目を輝かせ、そう言ったラビ。

「やっとよ、やっと辿り着いた。シンバからスカイピースを奪った、あの時から、ずっと謎を追って来たの。1つの書物に全ての正解が書かれてる訳じゃないから、パズルのように合わせて、完成させて、答えを導き出したの! そして、その答えが正解だったと、今、ここに辿り着いたのよ!」

そう言って、ラビは物凄い笑顔だ。それは今までの作り笑顔とは全く違う。そして、ここに辿り着いたと言うラビの台詞の後に、

「フォックステイルがね」

と、カモメは、そう言って、フォックステイル参上と、ピースすると、バニは、

「凄いじゃん、フォックステイル」

と、ピースし返した。

「見て! 水が虹色に輝いてる」

ラビの言う通り、水が色鮮やかにラブラドライトアイかの如く、色を変えながら輝き始める。何かトリックがと、カモメは泉の底を見るが、特に赤や青のライトがある訳でもない。

現にラビが透明の瓶に水を入れると、瓶の中の水さえも、虹色に光っている。

「まず、この水を、ガムパス・サードニックスに」

ラビがそう言うから、

「ガムパス? え? なんで? ガムパスも不老の薬を手に入れようとしてるの?」

カモメがそう聞くと、バニが、違う違うと、

「サードニックスが欲しがってるのは、万能薬。病気も怪我も治す薬が欲しいんだってさ。今、サードニックスって、ガムパス含め、あれで結構、体調不良で、苦しんでんだよね。空にずっといるからさ、酸素が薄くなるとか、なんとか? で、薬が必要って訳」

そう説明するから、パンダが、あれで体調不良なの!?と、驚く。

「でも、そしたら、その瓶だけの水じゃ足りないんじゃない?」

と、カモメは、サードニックスの人数分必要でしょと、問う。すると、またバニが、

「だから、エル・ラガルトに接触したんじゃん」

と、今度はラビが、

「エル・ラガルトファミリーの中には、薬品開発研究者もいるのよ。シカみたいな連中が数十名もいたわ。シカ1人では、何年かかるか、わからない事も、シカが数十名もいれば、薬の成分くらい、直ぐに突き止めるでしょう?」

と、今度はバニが、

「闇組織だからね、こういう怪しい薬も扱ってくれんでしょ。なんせ、ソイツ等、全員、既にラビさんの虜だし」

と、またラビが、

「ふふふ、この薬の成分を調べてもらって、大量生産してもらうのよ、それでガムパスが望むものを渡せるわ。ちなみに、エル・ラガルトが、この戦いで、負ければ、恐らく、ジェイドで捕まるわ。そうなると、革命家として終わり、ファミリーも解散か、共に捕まるか・・・・・・」

と、またバニが、

「薬取り扱う連中とかは、既に、エル・ラガルトが製造してる偽札を使って、逃がしてあげてるんだよね、だから、こっちに必要な連中は捕まらないって訳」

と、そして、ラビとバニ、2人揃って、

「全てアタシ達の――」

「全て私達の――」

「思い通り!!」

そう言って、いい笑顔だから、カモメもパンダも、ポカーンと2人を見た後、2人揃って、笑って、

「ホント、ラビバニ恐るべし」

と、呟いた。

そして、ラビは、突然、服を脱ぎだす。

素っ裸になるラビに、カモメもパンダも、目を手で押さえながら悲鳴を上げるが、指の隙間から、ラビの裸を見ている。

ラビは、裸になり、噴水の中に入ると、噴水の中央、ミリアム様の像へと行き、そして、ミリアム様を見上げ、大きなミリアム様の瞳に手を伸ばす。

「あぁ!!? 薬だけじゃ足りなくて、ミリアム様のラブラドライトアイまで盗む気だ!! そんな事しちゃダメなんだぞ!! 欲張ったら酷い事になるぞ!!」

そう言ったパンダなど、無視で、ラビは、ラブラドライトアイを引っこ抜く。

綺麗な大きな宝石ラブラドライトアイは、ラビの手の中で、光り輝く。

ラブラドライトアイを抜かれたミリアム様の瞳は、空洞になり、そこから、涙を流すが如く、水が流れ続ける。

ラビは、像を見つめ、

「アナタにとったら、涙を流す程に、不老は望まない事だったのかもしれないわね、でも、アタシは、自分で望む事だから、涙は流さないわ」

と、ラビの手の中のラブラドライトアイを、水の中へ落とした――。

すると、水の中、鉱物であろうラブラドライトアイは、溶けて消えてなくなり、虹色の水が、空を映すように、真っ青に変わる。

「青は永遠の色――」

そう言って、ラビは、青い水を手ですくってコクンと一口飲んだ。

シンと静まり返る。

特に、何が起こる訳でもないが、ラビが、

「バニ、アナタも来なさいよ、多分、これで、不老になれるわ」

と、噴水の中に、バニを呼ぶ。

バニは頷いて、服を脱ぎ出すから、やっぱりカモメもパンダも悲鳴を上げて、目を手で隠し、というか、カモメは自分の目を隠さず、パンダの目を、パンダの手の上から、更に手を置いて、完全にパンダには見えないようにした。

「虹色の水は万能薬って事ー!? でもって、そのラブラドライトアイが溶けた青い水が不老の水って事ー!?」

見てないよと、パンダの目を隠し、背中を向けたまま、カモメが叫ぶ。

「多分ね」

と、ラビの声がした。

「ねぇ、バニ!! バニが不老の薬を飲む必要なんて合った!? みんな、一緒に年老いてあの頃はって若い頃の事を思い出して笑い合うのも素敵だと思うんだけど!! オイラは、バニと一緒に年老いていきたいんだけど!!」

今更、もう遅いだろうが、そう叫んだカモメ。

「アンタは年老いてオジイチャンになりゃいいじゃん。年老いて動けなくなったら笑ってやるよ。嫌いにはならない。それにその時は私の若い笑顔で癒されるっしょ?」

そう言ったバニに、カモメはそれって傍にいてくれるって事?と、

「き、嫌いにはならないって、それって、どういう意味!?」

そう叫ぶと、

「フォックステイルは嫌いじゃないよ。なかなかアンタ達は使える奴だ」

そう言われ、あぁ、そう言う意味ねと、ガクンと力が抜けるカモメ。でも、少しは期待してもいいのかなと、

「だったらさぁ、あのさぁ、全部終わったら、オイラと――」

さぁ、言え、言うんだと、頑張って言え! 大丈夫だと、自分にエールを送り、

「オイラと、2人で逢ってくれたりする?」

と、

「オイラもフォックステイルだし、嫌いではないって事だよね?」

と、

「逢って、デ、デ、デートとか・・・・・・」

と、その後のセリフが出て来ず、だが、バニから何の返答もなく、

「バニ?」

と、名を呼んで見るが、何もなく、

「ラビ?」

と、ラビの名前も呼んでみるが、何もなく、

「振り向くよ? いい?」

と、カモメが振り向いて見たら、もうそこに2人の姿はない――。

代わりに、電波的な妙な音が鳴り、草の間を通り抜けるようにして光が、空へ向けて放たれて、大きな4つの輪のような光が、浮いている。

その光が、魔方陣のようなものだと気付いたカモメは、

「ヤバイ! デッカイのが来るかもしんない!!」

そう叫んだ。

「デッカイの? ナニソレ?」

ラビのオッパイ?と、間抜けた事を言うパンダに、

「カーネリアンでフェンリルみたいなのが転送されてたろ、ほら、スカイピースに刻まれた狼みたいな奴! あれが、ここには4体いる筈だ。フェンリル、フェニックス、ユニコーン、リヴァイアサン。エンブレムにはソレ等神話の獣が刻まれていた! オイラ達、逃げた方がいい!」

光が宙でクルクル回転しているのを見ながら、早口で、カモメが説明するが、その切羽詰った感じのカモメに対して、パンダは、フーンと、少し間抜けな返事をした後、

「でも、あのフェンリル大人しかったじゃん?」

と、ラビとバニどこ行ったの?と、キョロキョロ。

あの2人は、欲しい物手に入れて、とっくにいなくなったよと、

「あれはパンダが来た時には、もう大人しくなってたけど、シンバもツナも敵わなかったんだよ! でもシカのラブラドライトアイで大人しくなったんだ! 今、シカはいない! 瓶の中に入っているラブラドライトアイも、ラビバニが持って行っちゃってるし!」

「えぇ? シンバもツナも敵わなかったの!? リブレも?」

「リブレも!!」

「じゃぁ、それが4体現れて、城を破壊しちゃって、空の大陸から飛び出して行ったら、地上へ行ってしまうかもしれないじゃん! そしたら世界の終わりだよ?」

パンダにそう言われ、カモメは、サーッと血の気が引くのを感じながら、

「でも相手は人造神獣だ、しかも4体! 4体もダウンロードするのに時間かかってるけど、今が逃げるチャンスと思ってたけど、逃げても意味ない・・・・・・?」

と、どうしようと、泣きそうになる。

「ミリアム様のラブラドライトアイ、両目を刳り貫いたから、ミリアム様の顔部分に大きな空洞ができる。あれ、そこから罅ができて、銅像は頭部分から崩れる可能性があるよ。ほら、ラビが言ってたじゃん、この城がブロック崩しになってるかもって話。多分、あの銅像が壊れたら城も落ちるんじゃないかな。そうなる前に、メインコンピューターがある場所を見つけて、電波妨害の解除と、ダウンロードされるものをキャンセルするんだよ」

確かにと、カモメはパンダに頷くが、

「メインコンピューターってどこにあるの!?」

と、慌てすぎている。フェンリルの恐ろしさどころか、可愛さしか知らないので、冷静でいられるパンダが、

「ここに来た時の壁のドアに戻って、メインコンピューターの文字を見つけりゃいいんじゃないかなぁ、一度、ラブラドライトアイで、開いてるから、もうラブラドライトアイなくても動くんじゃない?」

そう言った。そうか!と、走り出すカモメと、

「ねぇ、ホントにあのフェンリル、そんな強いの? めっちゃ可愛かったよ? モッフモフで。モフモフが4体来たら、モフモフパラダイスじゃん?」

と、カモメを追うパンダ。


城内でそんな事が起きてるなど、外で大暴れ中のフォックステイルは知る訳もないが、幾ら指を鳴らして合図を出しても、花火が上がらない事に、カモメとパンダは、花火の仕掛けもせずに、どうしたんだろうと、心配はしていた。

サードニックスも、エル・ラガルトファミリーも、ジェイド、それぞれ多いから、見る限り、人、人、人、人ばかりで、ツナも、シカも、どこにいるのか、わからない。

睡眠薬入りのスプリンクラーも、設置できているのかも、心配だ。

とりあえず、このまま、オーバーリアクションで、派手なパフォーマンスを見せ、ギャラリーを釘付けにし続けるしかないと、笑顔で頑張っている。

ツナとリブレ、そして、シカは、サードニックスの連中とエル・ラガルトファミリーの連中を、地道に1人ずつ気絶させて行き、人数を減らしていく。

こうなればジェイドの騎士達が優勢。

しかし、問題はサードニックスの親玉ガムパスと、エル・ラガルト本人。

まずガムパス相手に、ジェイドの騎士が束になっても敵う訳もなく、エル・ラガルト相手に正攻法の騎士が敵うとも思えない。

その2人を殺さずに捕らえるなんて難しいだろうと思われたが、今のフォックステイルに不可能はない。2人ともフォックステイルの魔法に充分かかっている。

そう、魔王と魔術師に成り切っている2人は、フォックステイルと劇を繰り広げているからだ。

この2人が成り切っているからこそ、皆、ギャラリーとして、劇を見て、歓声を上げて、楽しんでいるのだ。

特に魔王役のガムパスは完全にフォックステイルに魅了されているのか、役に成り切り、

「勇者よ、なかなかやるな、だが、魔術師の力を得た俺様の相手ではない!」

などとアドリブとは思えぬ身振りと台詞。

「アホかアホかアホかアホかー!!!! みんな死ね死ね死ねぇぇぇぇ!!!!!」

魔術師役のエル・ラガルトはオモチャの銃を振り回し、まるで魔法の攻撃でもするかのように飛び道具を使う姿は、この状況に全く付いて行けてないが、役柄的には、問題なさそうだ。

そして勇者に成り切っているフォックステイルは、ガムパスと剣を交えながら、態とお互い押したり引いたりして、戦いのシーンを盛り上げる。

だいぶ、そのシーンが長く続いたが、何故、ガムパスは、こんなにもノッて来てくれるのだろうと思ったが・・・・・・

――もしかして、本気出してコレか?

――それがバレないよう、ボクにノッて来てるのか?

――無敵のサードニックスが、フォックステイルにやられたと言うより

――フォックステイルに騙されたという方がマシだから?

――そうか、全員、息がうまくできてない。

――動いたせいと言うより、元々、呼吸が荒い。

――ガムパスも、空に居過ぎて、体が思うようには動かないのか。

――既に立っているのも、やっとの状態。

――それでも、この動きか。

――信じられないな、流石、無敵のサードニックス。

――地上で逢ってたらと思うと、恐ろしいよ。

――幸い、何故か、ボクは、平気だ。

今、これだけの人数の中で、一番、自分が誰よりも動けていると自信のあるフォックステイルは、

「そろそろクライマックスのようだ」

そう言うと、口元をニヤリと上にあげ、行き成り本領発揮で、ガムパスの剣を弾き飛ばした。

勿論、演技だと思っているエル・ラガルトとその他のギャラリー。

ガムパスも剣を飛ばされる迄はそう思っていた。だから油断し切っていた為、あっという間にフォックステイルに縄で縛り上げられ、背後から膝を押されてカクンと跪かされた。

ガムパスの跪いた姿に、エル・ラガルトはヤバイと思ったが、それも手遅れ。

気が付けば、両手両足を縛られ、

「さぁ、悪が滅びる時だ!」

と、フォックステイルにオモチャの銃を取り上げられて、縛り上げられてしまう。

ファミリーに声をかけようとして、今更気が付く。

皆、倒れている事に――。

自分もすっかりフォックステイルの世界に魅入ってしまっていた事に、更に今更気付かされ、エル・ラガルトはガクンと力なく、膝から落ちて、ガムパス同様、跪くようになる。そして、サラサラと落ちてくる水に、雨なのかと、思うが、睡眠薬かと気付いた時には、既に、皆、夢の中――・・・・・・

と、突然、

「くっくっくっくっく・・・・・・くはぁーはっはっはっはっはっはぁー!!!!」

跪いたまま、額を地面に押し当て、土下座体勢のガムパスが肩を揺らし、大笑い。

嘘だろ、睡眠薬、効かないの?と、いつの間にかマスクをしているフォックステイル。ガムパスを見る。

空を突き抜けていく高らかな笑い声に、不気味に思いながら、眉間に皺を寄せ、ガムパスを見ていると、ガムパスはムクッと顔を上げ、

「面白ぇ奴だ」

と、本当に面白かったとばかりの笑顔で笑い続けている。まだキメ台詞の〝笑えよ〟は言ってないのにと、少し拍子抜けして、

「・・・・・・そんなに笑ってくれた賊は初めてだ」

そう言った。すると、そうかと、ガムパスは頷き、立ち上がるから、何!?と、フォックステイルは目を丸くする。

縛った筈のロープが緩まっている。そして、ガムパスは、フンッと体に力を入れ、

「俺様を縛りてぇなら鎖でも持ってくるんだな」

と、ロープを引き千切った。それはかなり頑丈に編まれた紐だったのだが、ガムパスの怪力には、只の糸のようなものだったようだ。

「サシで勝負といくか。クライマックスってのはよぅ、最後の最後でどうなるかわからねぇもんだろう? そんでもって勇者は勝てない戦いに挑むもんだろうが――」

ガムパスの余裕の笑みに、

「勝てない戦い? そうかな?」

と、フォックステイルも笑って見せる。

「あぁ、そうだな、仲間と一緒にかかってくるか? まさか、お前、仲間まで寝かせてしまったんじゃねぇだろうなぁ?」

「仲間なんていない。フォックステイルはボクだけだ」

「ほぅ、このガムパス様目の前に強気だな、キツネ」

勇者と呼ばず、キツネと呼ぶガムパスに、フォックステイルも頷きながら、

「そっちもかなり強気だ」

と、こうなったら、これでも体調が悪いだろうガムパス相手に、シャーク・アレキサンドライトにでも成り切って、叩き潰すかと、フォックステイルは目を閉じた。

そして、目を開けた時、フォックステイルの表情は明るい笑顔で、ガムパスを見て、笑うから、ガムパスは眉を顰めさせた。

「終わりだ、ガムパス。カーテンコールと行こう」

フォックステイルは、ガムパスのプライドを守る事にした。

ここで叩き潰して、サードニックスを終わらせたら、全ての賊が、空へ来なくなる。

それどころか、あのシャーク・アレキサンドライトを、驚異的な存在として、のさばらせる事になる。無敵のガムパス・サードニックスと、最強シャーク・アレキサンドライトで、賊のバランスは保たれているのだから――。

だが、ガムパスは納得できないのだろう、せめて、決着的なモノは付けたいのか、

「ふざけるなぁ!!」

と、皆、眠っているのに、カーテンコールはないだろうが!!と、怒鳴ったが、どこからか拍手が聴こえ、見ると――・・・・・・

「もうやめとけよ、オヤジ」

と、

「ソイツ、勇者気取ってっけど、オヤジと並ぶ程の、あの最強シャーク・アレキサンドライトにもなれんだぜ? 今のオヤジが負ける確立は高い」

と、歩いて来る少年――。

「地に落ちられると困んだよね、まだサードニックスには活躍してもらわないと。俺が入団したばかりなんだから」

少年はガムパスの横を通り抜け、ガムパスの前に背を向けて立ち、フォックステイルの目の前で、足を止めると、笑顔を見せ、

「アンタ、本当に賊じゃなかったんだなぁ」

そう言った。

「・・・・・・セルト」

こればかりはフォックステイルも状況を飲み込める程、感情をコントロールできる筈もなく、笑顔も忘れ、驚いた顔でセルトを見ている。

「それどころか、賊の天敵だって?」

「・・・・・・セルト、お前、オヤジって呼んでるって事はサードニックスなのか?」

「あぁ、そうだ。俺はサードニックスだ。セルト・サードニックス。アンタを探して、サードニックスに辿り着いた。アンタがいなくて、アレキサンドライトだったかと思ったけど、アンタを探すのを止めにして、サードニックスに留まる事にした」

「留まる事にした・・・・・・? なんで・・・・・・?」

驚愕の表情のフォックステイルに、セルトはニヤリと笑い、

「オヤジ、俺にやらせてくれ」

そう言うから、更にフォックステイルの顔が強張っていく。

「いいだろ? オヤジ。俺が倒されても、サードニックスの汚名にはならない。俺がサードニックスだなんて、まだ誰も知らないんだ。バックレりゃぁいい。でも俺が勝てば、賊の天敵のフォックステイルを、サードニックスの下っ端の、それもガキがやったって、更にサードニックスの名を挙げる事になる。オヤジは見てるだけでいい」

ガムパスはハッと笑い、

「そりゃ面白ぇ! セルト、テメェ、フォックステイルと知り合いみてぇだな? 関係は聞かねぇが、相手を知ってる方が、戦い易い場合もある。いいだろう、お前がやれ。カーテンコールにはまだ早い、アンコールと行こう」

拍手紛いな手を打ちながら、そう言った。

「冗談だろ!!」

怒声を上げるフォックステイル。

「相手は子供だ!!」

「あぁ、どっからどう見てもガキだ」

「子供相手に戦える訳ないだろう!」

「それはテメェの持論だ、フォックステイル。コイツはガキだがな、サードニックスだ」

「言い切ったな! だったら、コイツが負けたら、バックレさせねぇぞ!!」

「あぁ、そうしろ。子供相手に張り切って戦え、フォックステイル」

嫌な笑いをするガムパスに、フォックステイルは唇を噛み締め、憎き賊を睨む目を向ける。

「手加減するなよ、ソイツは強い」

そう言ったガムパスに、知ってるよとフォックステイルはガムパスを睨み付けていると、

「どこ見てんだよ、お前の敵はこっちだろ」

と、セルトが飛び掛って来た。フォックステイルは咄嗟に避けたが、セルトの攻撃は続く。連続で剣が振り切られ、フォックステイルは剣を構え直す暇さえない。

「これ負けるよね・・・・・・」

影に潜み、フォックステイルを見守るように、そう囁くのは、シカ。

「どっちが負けるって?」

そのツナのセリフに、シカは、

「相手は子供だ。子供相手に、フォックステイルが勝ちに行く訳ない!」

そう言うが、ツナはハハハッと笑いながら、

「いいんじゃねぇの? フォックステイルの負けで。そもそも、フォックステイルは勝ち負けどうでもいいんだから。ていうか、よくわかんねぇが、あのガキ、全然本気出してねぇぞ」

そう言った。え?と、シカはセルトの動きを見るが、本気にしか見えない。

「ガムパスも気付いちゃねぇくれぇだ、お前が気付ける訳ない」

そう言われ、そうなの?と、シカはツナを見る。

「あのガキ・・・・・・シンバの小せぇ頃の動きソックリだ。シンバがガキだった頃の動きを知ってる俺ならわかる。あのガキ、何考えてんのか知らねぇが、全く本気出してねぇ。力の半分も使ってねぇよ。その事に、まだフォックステイルは気付いてないから、追い詰められてんけど、その内、気付くだろ。だが、あのガキが何か良くない事でも企んでんなら、この後、どうなるのか予測不能だな。ガキでも賊になっちまったなら、賊は賊だ。その辺はガキの頃から賊だった俺がよぉく知ってる」

そう言って、戦いを見つめるツナの横顔を、シカは見つめ、そして、フッと笑みを溢すと、

「なら大丈夫だ」

そう言った。何が?と、今度はツナがシカを見る。

「賊でも子供は子供。子供は悪より正義が好きだ。特に男の子は。その辺の事なら、僕はよぉく知ってるから。賊だった子供が正義の道を諦めずに、賊になってた時も、正義を貫いていた人の事をさ。だから何か企んでるとしたら、それは正義の為――」

そう言ったシカに、ツナはチッと舌打ちをする。

フォックステイルは逃げてばかりもいられないと両手に持っている短剣で、セルトの剣を受け止め、受け流し、弾き返しはするが、その攻撃も逃げの守りに徹する攻撃だ。

どうしたものかと、フォックステイルは、カモメやパンダが何か仕掛けてくれないだろうかと、もう一度、指を鳴らして合図を送ってみようと考えるが、その考えで、ふと気付く。

――あれ? 指を鳴らそうとするくらい余裕があるなぁ・・・・・・。

――セルト・・・・・・本気出してない?

――そういやぁ・・・・・・シャークに成り切る必要もない。

――幾ら攻撃を避けてるだけとは言え・・・・・・余裕があるのは変だ。

――相手は子供とは言え、セルトなのに・・・・・・。

――油断させる気か?

変に深読みしてしまうフォックステイル。

そんなフォックステイルに、セルトはフッと唇に笑みを浮かべた。

眉間に皺を寄せると、セルトの唇が動いた。

声には出さずに、〝このままうまく逃げた方がいい〟そう言った。

確かにそう言ったと、フォックステイルはセルトの唇の動きを、そう読んだ。

〝相手はサードニックス。幾らフォックステイルでも無傷って訳にはいかない。でもこれ以上、誰も傷付けたくないだろ、だから逃げるチャンスをあげるから、もうここは退散してくれ。こうして時間稼ぎしてる間に、アンタが仲間に、この空の大陸での宝を盗ませて、トンズラすりゃいい。ここに来た理由は宝があるからだろう? フォックステイル――〟

剣を交えながら、セルトの唇が動くのを読み、フォックステイルは、セルトが味方である事を知る。

〝フォックステイルって怪盗なんだってな。賊だとばかり思ってたよ〟

そうだよなと、セルトの唇の動きで、そう思わせたままだったんだよなと、このままセルトをサードニックスに置いておく訳にはいかないと思う。それにこの大陸での宝と言われても、魔人の正体すら、まだ暴いてないのに、逃げる訳にはいかない。かと言って、これ以上、ここにいて、戦いを続けるのも無理がある。

どうすればいいんだ、このピンチをどう擦り抜ければいいんだ・・・・・・焦るばかり。

その時、イヤフォンに雑音が入った。

『ガガガ…聞こ・・・・・・ガガガガガガ――』

――カモメ?

『聞こえる? リーダー! 城が後数秒で崩れる!』

――なんだって? 城が崩れる?

チラッと城を見るフォックステイルだが、崩れそうにもない。

勿論、カモメの通信はツナもシカも聴いている。

2人共、フォックステイル同様、城を見ていた。

城は崩れる気配はないが、カモメがそう言うんだと、

『ここは城から少しばかり離れてる。崩れても、みんな倒れてるから身は低くなってるし、軽い負傷者は出ても死者は出ない』

ツナがそう言うと、

『城が崩れるなら、それを使って煙幕の如く、ここから立ち去ったらどう? とりあえずフォックステイルは身を隠して、この戦いから撤退しよう』

シカがそう言って、その2人の声もイヤフォンを通して、皆に聞こえる。

フォックステイルはセルトを見て、今度はセルトに唇だけで、

『一緒に逃げるぞ』

そう伝えた。だが、マスクをしているせいで、セルトは、何か言ったのか?と、唇を読めずに、顔を顰めたが、城が崩れるのは待ってはくれない。だから、フォックステイルは、セルトの剣を強く強く弾き、セルトごと、遠くに飛ばすと、パチンと指を鳴らし、

「宝は全て頂いて行く!!」

そう叫んだ。ガムパスが、なんだって?と、フォックステイルを見て、妙な顔になった瞬間、地鳴りと共に大地が大揺れし、城が崩れ落ちていく。舞い上がらせる塵と土埃と瓦礫。まるで大災害の如く――。

それは本の数十秒の一瞬と言ってもいいくらいの出来事だったが、数分、いや、数十分、数時間はしたと思われるような出来事で、静かになった後も、暫く灰色の霧のようなものが辺りを包んでいた。

流石に、睡眠薬で眠ってしまったとは言え、そんな事が起これば、皆、目を覚ます。

コホコホッと咳をしながら、ゆっくりと起き上がるのは、ネイン姫。

どこから引っ張り出して来たのか、ネイン姫には、大きな分厚い毛布が被されていて、その毛布で、瓦礫などから身を守れたようだ。

そして、その毛布には、フォックステイルのサインと、〝船の事ごめんね〟と書かれたメッセージ。

ネイン姫の直ぐ横にはレオンが倒れていて、ネイン姫がレオンを揺すり動かすと、気付いたようで、ゆっくりと目を開けて、ネイン姫を見て、その目を灰色の世界の空へとゆっくり動かすから、ネイン姫も、レオンの目の動きに釣られ、空を見上げると、空からヒラヒラと何か落ちてくる。

「・・・・・・雪?」

と、ネイン姫は白いモノに手を伸ばす。いや、それはビラだ。

空から振り落ちてくるビラには、〝フォックステイル参上!〟そう書かれている。

ネイン姫はそのビラを一枚手に取ると、ふふふっと微笑み、

「行ってしまったみたい。もう・・・・・・会えないかもしれないわね・・・・・・」

そう囁いた。レオンも立ち上がると、空から落ちてくる紙切れを一枚拾い、ネイン姫に見せると、

「不思議ですね、彼は本当に魔法使いかもしれない」

そう言って、拾った紙を裏表と、ネイン姫に見せ、

「フォックステイル参上としか書かれてない。けど、姫が手に取った紙の裏にはメッセージが書かれてる。〝またキミの前に参上するよ〟それはまるで姫の独り言さえも知っていたかの台詞。そしてそれが書かれた紙を姫が拾うとわかっていたかのような・・・・・・魔法としか言いようがない」

レオンはそう言って、完敗だと、御手上げのポーズをするが、表情は悪くない。

なんせ、戦が繰り広げる中、不謹慎だが、楽しい遊びだった。

ネイン姫も嬉しそうな表情で、ビラを抱き締めるように大事にギュッとする。

「さて、姫、既に動いているサードニックスの連中を、我々が捕らえるのは難しいでしょうが、まだぼんやりしているエル・ラガルトだけでも、連行させましょうか」

「ええ、そうね、その前に、とりあえず、全員、この場から避難させましょう」

灰色の煙の霧が晴れていくと同時に、皆、気が付き、フォックステイル参上のビラを目にする。フォックステイルの姿がない事にも気付く。

セルトの姿がない事に気付いているのは、ガムパスだけ――。

「フォックステイル・・・・・・セルトを・・・・・・サードニックスの跡継ぎという宝を奪ったのか・・・・・・」

今、ガムパスが、フォックステイル参上のビラを拾い上げ、裏を見ると、〝アンタだけだ、笑ってくれた賊は!アンタには完敗だよ〟のメッセージ。

ふざけやがってと、ガムパスはビラを大きな手で握り潰しながらも、

「キツネめ。うまく化かしやがって、不本意にも、クソ笑ってしまったじゃねぇか」

と、フンッと、鼻で笑った――。


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