16.空の大陸

「な!? 何!? 機体がすっごい揺れてるけど風のせい!?」

パンダがそう吠えるが、窓から見る限りでは穏やかな夕焼け空が続いている。

「安全操縦してるよね!? アクロバティックな事しようなんてしてないよね!?」

シカがそう叫ぶけど、そんな無謀な事は考えてもない。

「飛びすぎて燃料ないんじゃねぇのか!?」

ツナが怒声を上げるように言う。

「燃料はある筈なんだけどな」

カモメが燃料メモリを見ながら1人冷静に答える。

レバーを握り締めている事で精一杯のシンバは何も喋れない。

すると、操縦席がガタンガタンと勝手に動き出し、操縦レバーもメモリも、全てが切り替わるように変化する。あっという間に、シンバとカモメの場所はさっきまでの操縦席ではなくなった。ポカンとするシンバに、

「変なトコいじった?」

と、不思議そうに尋ねるカモメ。首を振るシンバ。

そしてギュンッと一気にフォックスイヤーのスピードが上がる。

「なんで? 何が起こってるんだ? あれ? なんだろ、これ? 何の画面かな? 世界地図が出てるけど・・・・・・ナビじゃないし・・・・・・地図上で点滅してるのは・・・・・・未確認エネルギーって文字が出てるけど・・・・・・謎のエネルギーをフォックスイヤーが察知してるって事? つまり・・・・・・もしかしてフォックスイヤーって戦闘機モードになったのかも!? オイラ達、戦闘機に乗ってるんだよ!」

なんだって!?と、シンバはカモメを見て、だが、直ぐに前を向く。

「なんで急に戦闘機に? ボクは変なトコいじってないよ!?」

「オイラだっていじってないよ」

「どうやったら元に戻る!?」

「わかんない。だって勝手に自分でチェンジしたんだもん」

「なんで戦闘機にチェンジしたんだろう?」

「多分だけど、未確認のエネルギーを察知して、危険を回避する為か、戦う為か、どちらにしろ自分で判断したんだ、ここは戦闘モードになるべきだって。だから自分でチェンジしたんだよ」

「じゃあ未確認エネルギーって攻撃してくる訳?」

「それはわからない。けど、地図上で点滅してるエネルギーを、フォックスイヤーが感じ取ったって事は、空へ向けて放たれてるって事になる。一体、何のエネルギーが空に向けて放たれてるんだろう。察知される程の大きなエネルギーが・・・・・・地図を見ると街がある場所からだ。それぞれの国々のエリアにある街に何か共通点があるのか・・・・・・」

「カモメ・・・・・・なんでジェイドエリアには点滅がない? 世界各国でも大国のジェイドが何もしないで、他国は何か始めてるって言うのか? しかも街って言っても名もない小さな集落があった場所に大きなエネルギー放出が確認されて点滅してる。そんなエネルギーを誰が何の為に放出してるんだ?」

「シンバ、今、何て言った?」

「え? 誰が何の為に?」

「そうじゃなくて・・・・・・名もない小さな集落って言ったよね? そんな場所は大まかな地図には載らない。でもオイラ達は知ってる。地図上のそこに小さな集落があったって事を!」

「そりゃ知ってるよ、ボク等はそこで奇跡を起こして来たんだから」

「うん・・・・・・つまり点滅してるのはミリアム様がいる場所だ」

「え?」

「ほら、オイラ達が育ったブライト教会がある場所も点滅してる」

「て事は・・・・・・ミリアム像がエネルギーを放出してる? 空に向けて?」

「そういう事になるかも。空の大陸へ大きなエネルギーを送ってるんだ・・・・・・地上のミリアム像は空の大陸が目覚めた時に共に覚醒するエネルギーだったんだ。よくよく見ると地図上で、ミリアムの像がある場所は一見バラバラに配置されてるように思えるが、エネルギーが空へ向かう事を考えれば、うまく一点に集中できる場所へと置かれている」

「一点に集中できる場所ってどこ?」

「ジェイドエリア」

「やっぱりジェイドの上空に空の大陸は現れるんだな」

「みたいだ。でも何の為のエネルギーだろう?」

「まさか大きなエネルギーで、大陸ごとドッカンって爆発させて、何もかも失うって言うんじゃないだろうな? 天空人は、地上の人間に知識と技術を譲る気はないだろう?」

「自爆って奴? それはないと思う。自爆するなら、天空人がいた頃、とっくに自爆スイッチ押してるよ。それにこの世界にラブラドライトアイを持つ人間は確実にいるんだ。シカだって片目だけど天空人の証を持ってる。そういう者の為に自爆は避けて残してあるんだと思う。だけどシンバの言う通り、地上の人間には譲る気はないだろう。つまり地上の人間が勝手しないようにエネルギーでバリアでも貼るのかも」

「あ、でも、それならそれでいいんじゃないかな? 空の大陸に誰も近付けないなら問題ない!」

「シンバ、忘れてるだろ?」

「え?」

「ラビバニがラブラドライトアイを持ってる事」

「あ・・・・・・」

「ラビバニがラブラドライトアイを所持してるって事はサードニックスが天空人の証を持ってるって事だ。空を優雅に漂う飛行船を持って、空の大陸への鍵を持ち、尤も強さの象徴の旗を掲げた無敵の賊が、脅威を手にしようとしてるんだ。阻止しなければならない」

「・・・・・・あぁ、それは、なんとしてもだな!」

シンバの操縦レバーを握り締める手に力が入る。

「このまま順調に飛べば、明日の午前中にはジェイドエリアに入る。考えよう、シンバ。サードニックスの飛行船を、このフォックスイヤーの戦闘モードで、どう立ち向かうか。大砲は船の横腹に数十個、狙撃の腕も高い連中が数十人、フォックスイヤーを捨て、船に乗り込めたとしても、既に戦闘モードになってる賊に、フォックステイルの騙しは効かないぞ。なんせ逃げ場はどこにもない。空だから――」

「・・・・・・」

「体当たり攻撃でもするか」

そう言ったカモメは、冗談っぽい口調だったが、見ると、冷や汗でいっぱいの真剣な表情。

「昔、戦争中に、負け戦に傾いた国では、何もかも失う前にと、一機で一艦を落とす方法を行ったんだ。その方法で空軍に配属された若者は特攻隊として出撃命令が出された」

「あぁ、知ってるよ、本で読んだ事がある」

「どこの国の軍でも、空軍は国々の軍の中で、一番の強さを誇った。その方法がある故に無敵だった。サードニックスが空へ出る前までは――」

「・・・・・・」

「その時は、サードニックスには効かなかった攻撃だろうけど、今のサードニックスなら、効くかもね。僕が見てきた飛行船内部は、かなり錆びついたトコもあって、動いてるのも、やっとだったから。外壁だって、結構、ハリボテになってる筈! 外壁まで見てないから、わかんないけど! でも僕は、サードニックスの原動機がどこにあるのか、わかってる。どこへ、突っ込めばいいか、わかる!!」

「カモメ・・・・・・ボク等は・・・・・・国に務める戦士じゃない・・・・・・」

「でも、なんとしても、サードニックスを食い止めるんだろう? リーダー!」

カモメがリーダーと呼ぶ。

つまり決断しろと言う事かと、シンバは俯く。

そして、決意する。

「その方法でサードニックスの船を堕とすなら、1人で充分だ。パラシュートで5人、脱出する。ツナ、カモメ、パンダ、シカ、リブレ。その5人が脱出する!」

「シンバ!? 何言ってるんだよ!? やるなら全員で」

「バカ言うなよ、カモメ。仲間を無駄死にさせるリーダーがどこにいるって言うんだ。大丈夫、死に急いだりしないよ。そうなった場合、最後まで、諦めないで、なんとか脱出してみせるから」

そう言って笑い顔を見せるシンバに、カモメは下唇を噛み締める。そして、シンバは、フォックスイヤーに、

「大丈夫、そうなったら、キミを1人にはしないよ、脱出もしない、一緒だ」

レバーを強く握り締めながら、そう囁く。

「兎も角、ジェイドエリアに着いて、サードニックスの飛行船とご対面してからの事だ。もしかしたらラビバニはラブラドライトアイをサードニックスに渡してないかもしれないし、渡していたとしても、あの水溶液に入ったラブラドライトアイで空の大陸へ入れるとも限らない。とりあえずは様子見で・・・・・・パラシュート装着はしておこう」

シンバはカモメにそう話すと、振り向いて、皆を見るが、皆、機体の激しい揺れで、いっぱいいっぱいの様子。だが、パラシュートをしてほしいと言う要求は、この揺れのお蔭で、妙に勘繰られずに済んだ。リブレにもちゃんとパラシュートの装着をさせる。

そして・・・・・・ジェイドエリアへ突入し、空に浮かぶ大きな陸を目の前にする。

聖書に記されていた空の大陸がすぐそこにある。

伝説が蘇ったかのような光景。

だが、景色に見惚れる暇もなく、フォックスイヤーは大きなエネルギー反応を身近に察知し、警戒音を鳴らす。これは何の音だ?と、シンバとカモメは赤く点滅するスイッチを見る。突然の音に、皆も、何が起きてるんだと、操縦席の方を見る。

それは一瞬だった。

膨大なエネルギーが空の大陸へ向けて放たれたのだ。

溜め込んだエネルギーをカッと強い光を放ち、投げるように飛んでいく光線。

爆風と爆炎に飲まれるフォックスイヤー。しかし直ぐにUターンして、炎の中から逃げ出し、見ると、飛行船が空の大陸へ攻撃をしている。

エネルギーを一点に集中させた熱いレーザー光線が大陸に向かって何度も放たれる。

黒い煙と風が舞い、炎の塊が地上へ降り注ぐ。

「サードニックスか!?」

シンバがそう言うと、カモメが首を振り、

「船体にワニのマークが入ってる・・・・・・エル・ラガルトって奴じゃない?」

そう答えるが、まさかと、シンバはカモメを見る。

「飛行船の説明書を降らせて、昨日今日で何ができる? 飛行船がそんな簡単に造れる訳?」

「造れないよ。だから・・・・・・アイツ等は元々持ってたって事になる」

「飛行船をか!?」

「だって・・・・・・そうじゃなきゃ説明がつかない! それにあれは飛行船じゃない!」

「飛行船じゃない?」

「あれは飛空戦艦だよ! サードニックスのように大砲を積んであるとかじゃなく、船そのものが戦闘する為のものだ。このフォックスイヤーの戦闘機と同じだ! 船を空に飛ばすって目的だけじゃなく、戦うという目的の為に造られたもの! オイラが書いた飛行船の設計としての説明を見て造られたものじゃない!」

「船を空に飛ばす技術者はいないんじゃなかったのか!?」

「エル・ラガルトファミリーにはいたって事だよ・・・・・・オイラより優れた天才が・・・・・・」

カモメがそう言った時、また大きな爆発音で、フォックスイヤーは横からの爆風に軽く機体を突き飛ばされ、機内は大揺れ状態。

少し遠くから空の大陸の周囲を飛び回りながら見ているが、どうやらエル・ラガルトの飛空戦艦が大陸へ向けて攻撃を繰り返しているのは、空の大陸には、やはり見えないバリアで張り巡らされているようで、そのバリアを解除しなければ、大陸へは入れないようだ。

バリアを壊す為、攻撃を繰り返しているが、その攻撃は凄まじく、爆風やら爆炎やらが全て外側へ跳ね返されていて、炎の塊が地上へと降り注いでいる。

「やめさせなきゃ、このままだとジェイドが炎の雨にやられる!」

シンバがそう言って、操縦レバーを握り締め、

「飛空戦艦の前に行こう!」

そう言った時、カモメが、

「サードニックスだ!」

そう叫んだ。見ると、サードニックスの無敵の旗を掲げた船がやってくる。

「戦闘になる」

カモメの言う通り、戦闘になるだろう。ここで戦闘されては余計にジェイドへの被害が広がる。どうすればいいかなどと考えてる暇もなく、サードニックスから大砲が飛んで来た。

そんな古典的なものと嘲笑うかのように、エル・ラガルトからエネルギーレーザーが飛ぶ。

だが、その攻撃は只の威嚇なのだろう、サードニックスに当たらないよう、態と外し、そして遥か遠くの方へ飛んでいくレーザーの光。

しかしサードニックスは威嚇も脅しもなく、完璧に狙いを定め、大砲を飛ばしている。

サードニックスの攻撃をやめさせなくてはと、フォックスイヤーはサードニックスへと向かって飛ぶが、今度はフォックスイヤーに向けても大砲を飛ばしてくる。

その間にエル・ラガルトのレーザーは空の大陸へと向かって放たれる。

邪魔だとばかりに大砲を飛ばすサードニックスに、地上へ炎の塊を落としているんだぞとフォックスイヤーの中で、シンバは怒鳴り散らすが聞こえちゃいない。

最悪の手段の体当たり攻撃も、こうなったらどっちにすればいいのか、どちらにしても何も変らないと、クソッ!と、フォックスイヤーは行ったり来たりするばかり。

「攻撃しよう」

シンバはフォックスイヤーのミサイル弾を放つスイッチに指を置く。

「どっちに?」

カモメも攻撃スイッチに指を持って行く。

「・・・・・・どっちに・・・・・・味方するかだ!!!!」

そう吠えたシンバに、カモメは、

「どっちも味方できない!! だからシンバが選んだ方に加勢するよ!!」

そう吠え返す。

後ろの席に座っているツナもシカもパンダもリブレも、フォックスイヤーのデタラメな動きに目を回していて、意見を聞けそうにないし、聞いてる暇もない。

「エル・ラガルトに攻撃だ!!!!」

そう吠えたシンバに、

「サードニックスに加勢するって事でいいんだね!?」

そう吠え返し確認するカモメ。

今、フォックスイヤーからエル・ラガルトに向けてミサイルが発射される。

エル・ラガルトからレーザーが大陸へ向けて放たれ、サードニックスからフォックスイヤーに向けて大砲が投げられ、ソレ等は大陸に張り巡らされたバリアの大きな歪みに飲まれる。サードニックスの先端に、ラブラドライトアイが設置されていて、バリアはそれに反応し、消える直前に大きく膨らんだのだが、攻撃エネルギーが、消えるバリアに当たり、バリアが歪みとなり、エネルギーを飲み込んで、船そのものを飲み込んだ――。

まるで空間に割れ目が入ったかのように、罅ができ、空間の裂け目がガラスのように砕け、バラバラと地上へと落ちていくが、途中で破片は消えてなくなった。

空の大陸は静かにあるが、エル・ラガルトの飛空戦艦も、サードニックスの飛行船も消えた。

フォックスイヤーも――・・・・・・。


「ん・・・・・・うん・・・・・・・? 眩しい・・・・・・」

余りの眩しさに目を開けた。

太陽が近い。

手を伸ばすと、掴めそうだ。

そうだ、フックスに教えてやろう、この場所を――。

光溢れる場所。

フックスに相応しい場所だ。

フックス・・・・・・ここは・・・・・・・どこだ・・・・・・?

ムクッと起き上がるシンバ。

辺りを見回し、戦闘機が直ぐ傍で煙を上げているのを目にして、少しぼんやりしながら、なんだろう?と首を傾げるが、ハッと思い出す。

「フォックスイヤー!!」

壊れてしまっただろうかと、機体を触りながら、割れた窓から中を覗いて、

「ツナ? カモメ? パンダ? シカ? リブレ?」

と、皆の名前を呼ぶが、誰もいないようなので、辺りを見回す。

シンバは壊れた窓から放り出されたのだろう、入り口は潰れていて、中に入れそうにない。

フォックスイヤーそのものは壊れてしまっているのか、それとも機体だけの損傷か・・・・・・。

「シンバ」

その声に振り向くと、駆けて来るカモメ。

「カモメ・・・・・・良かった、無事だったんだ」

「うん、みんな大丈夫。擦り傷とかあるけど、何の問題もない。フォックスイヤーがオイラ達を守ってくれた感じ。今、直してやるからな」

と、カモメは持って来た工具を広げ、

「荷物も全部、外に放り出されて、工具もどこかへ飛んで行っちゃって探してたんだ。みんなも荷物を探してウロウロしてるよ」

そう言って、フォックスイヤーを直し始める。

「ここは・・・・・・ジェイドエリア?」

そう聞いたシンバに、

「空の大陸」

カモメは少し表情を真面目モードにして答えた。

「ボク等・・・・・・空の大陸に入れたの?」

「そうみたい」

頷くカモメにシンバは草原を見渡し、空を見て、深呼吸しながら、

「ボク等・・・・・・空にいるの?」

そう言った後、

「でも大地を踏み締めてる」

と、自分の足元を見る。地面がある。土がある。草がある。広がる草原――。

ふと、足元の直ぐそこで蟻が行列をつくっている。

虫がいると少し驚くが、カモメが、

「どうやら完全に大陸の裏側って場所に落ちたみたいでさ」

そう話し出し、シンバはカモメを見る。

「今、パンダが、詳しく、周りを調べてるけど、見渡す限り草原が広がってるだろ? ちょっと見た所、右方向に木々が生い茂ってる。あの林を抜けると崖があって、見下ろすと大きな城があった。多分そこが中心部。くるっと回って左方向まで行くと、やっぱり崖があってさ、そこから見下ろすと雲ばかり。空の上の大陸って事だ。それに空気もかなり薄い。少し息苦しいだろ?」

言われればと、シンバはコクンと頷く。

「問題はオイラ達だけじゃなくサードニックスやエル・ラガルト等の船もこの大陸に入った可能性大って事。オイラ達、シートベルトしてたし、フォックスイヤーが頑張ってくれたけど、奴等はどうかな。まずシートベルトしてなかっただろうから、どっかでくたばってくれればいいんだけどね」

「その勢力がくたばってくれてても、厄介な事にボク達、飛行船の設計図をバラまいただろ、あのアレキサンドライトは、設計図を手にしてる筈だ。絶対に空に来る。あのシャークに天空人の力を持たせちゃマズイ。バリアが解けてしまったのもボク等がミサイルを放ったせいかもしれない。やる事する事、全部裏目に出てるな・・・・・・」

「そうでもないよ」

「そうでもない?」

「とりあえず体当たり攻撃はしなくて済んだ。リーダーが生きててくれて良かった。オイラ達全員が生きてて良かった。生きてりゃなんとかなる! だろ?」

「・・・・・・あぁ」

「オイラ達に出来る事をしよう! フォックスイヤーを直したら、城へ行って、天空人の力を全て葬ればいい。きっとオイラ達ならできるさ」

「できるかな・・・・・・」

「何? リーダー? いつになく弱気?」

「ここはフックスの足跡がない」

「え?」

「フックスが来た事もない場所までボク等は辿り着いた。フックスができなかった事、ボク等にできるかな?」

「・・・・・・できるよ、だってオイラ達がやらなきゃ、誰がやるの?」

「・・・・・・」

「シンバがやらなきゃ誰がやるんだよ、フックスができなかった事、シンバがやらなきゃ誰がやるの? それとも誰かにその役目を譲れるの?」

そう問うカモメにシンバは首を横に振り、

「譲れる訳ないだろう!」

怒鳴るように少し大きめの声で速攻で答える。カモメはフッと笑みを溢す。

「だろ? 絶対に譲れないんだから弱気になってもしょうがない」

そうだなと、シンバはカモメに頷く。

「シンバ、起きたか!」

と、大きなリュックを2つも背負って走って来るツナ。

ツナの横をボストンバックを咥えて持って来るのはリブレ。

「ワイヤーとかロープとかイロイロ入ったショルダーが見つかったよ、良かった、このショルダーが見つからなかったら、崖も下りられないトコだったよ」

と、ショルダーを持って駆けて来るのはシカ。

「カモメの作った、小型飛行機で、空から、この付近、見てみたんだけど」

と、パンダが、大きなゴーグルのようなモノを、目に装着して、リモコンをいじりながら、来て、

「やっぱり崖を下りるしか道がないよ」

と、パンダの頭の上に、カメラ付きの小さな飛行機のカタチをしたモノが、ウィーンと音を鳴らしながら、飛んでいる。

どうやら、その小型飛行機で、この付近の様子が、大きなゴーグルで見れるようだ。

「ここってさぁ、丘かと思ったけど、山の天辺みたいになってるんだな。しかも岩壁だからロッククライミングで下りるしかない」

と、道を探してみたが、道はないと言うパンダ。

カモメはフォックスイヤーの機体を開けて、内部に頭を突っ込むと、真っ黒なオイルを顔中に付けて、にんまり笑い、

「煙出てたからヤバイかと思ったけど大丈夫そう。応急処置して、とりあえず熱持ってる部品もあるし、冷めるまで休んでてもらおう。オイラ達がまたここに無事に戻ってこれたら、ちゃんと直して、空の大陸から脱出だ。窓割れてるけど、そこは布か、何かを貼って、フォックスイヤーには、戦闘機モードからヘリモードにチェンジしてもらって、ゆっくり、そりゃもうゆっくり飛んでもらえば大丈夫だと思う」

そう言った。シンバはホッとして、

「みんなが無事で本当に良かった」

そう言うと、空を見上げ、近い太陽を眩しそうに見て、生きてる事を実感。そして、

「時間あんまりないよな。低酸素状態が続くと動けなくなる人もいる。ボク等が動けなくなるとは限らないけど、兎も角、急いだ方がいい。他に先越される前に!」

と、皆を見回し、皆、頷くと、皆でフォックステイルの衣装に着替え、皆で、仮面を装着し、そして、皆で、キツネの尻尾アクセサリーを腰に付ける。

シンバはフックスと同じ髪色と瞳の色に――。

ツナはしっかりと腰に剣を携え、背中にも剣を背負い――。

カモメは必需品の入ったショルダーバックを肩にかけて、スパナを腰に装着し――。

パンダは大きなハンマーの入ったリュックを背負って、腰にはポーチを付けて――。

シカは薬品が入ったウエストポーチと、ジャケットの裏には銃と弾を仕込み――。

そしてリブレが準備OK?と、皆を見回し――。

「よし!」

と、シンバはありとあらゆる魔法を使える準備もできたと、衣装や靴底や髪の毛や睫毛に耳の裏、奥歯にまで魔法の種の仕掛けを確認し、自分に準備万端と頷く。そして汚れてはいるがフォックステイルの衣装に、今迄、共に頑張って来た傷跡だと、何度も解れを縫い直してある部分などを少し微笑みながら見つめ、気を引き締める想いで、背筋を伸ばし、皆を見て、

「よし! 行くか!」

と、笑顔。皆も笑顔で頷き、そして、円陣を組み、円陣の中央にはリブレ。

「ボク達にできる事なんて、普通に考えて、なにもない。だからダメ元だ、失敗して、なにもかもダメになっても、最後も笑おうな!」

「元々、俺はなんにもなかったから、今更、失うものと言えば、お前等だけ。お前等と最後なら、どんな最後でも笑ってみせる!」

「こんなにオイラの発明が役立って来れた今日までの人生、楽しかったなぁ。もしも最後が来ても、最後まで楽しんで、笑うよ!」

「オラも楽しい毎日だった。それが最後になっても、オラは、その続きの先で、またみんなと楽しい毎日を過ごすつもりだから、笑って、終わりにはしないよ」

「そうだね、死んだら終わりって訳でもない。でも、この世界で、最後だと感じた瞬間、僕は、みんなと出会わせてくれた、この世界に感謝して、最高の笑顔になるよ」

そして、リブレが、ワオーンと、小さな遠吠えのような鳴き声を出した後、円陣を解いて、崖へと歩き出す――。

「あの世へ行ったら、待ち合わせ場所、間違えるなよ?」

「うん、フックスが眠る場所な?」

「ムジカナ?」

「俺そこ知らね」

「嘘だよ、連れてったよ、ほら、ラビバニにムジカナに呼び出された時」

「あぁ、あそこかぁ」

「お腹すいたよね」

「この状況で食欲あるの?」

「喉もカラカラだよ」

「緊張してんなよ、いつも通りやればいいんだって」

いつもと変わらず、わちゃわちゃと喋りながら、木にロープを縛り付けて、命綱をつくり、崖を下りる5人と、崖のちょっとした出っ張りを踏みながら、うまく飛び降りて行くリブレ。

崖を下りると、森が広がっていて、遠くに浮かび上がる城を目掛け歩き出すが、森に入ると木々が邪魔をして城が見えない。迷わないようにコンパスを持つが、コンパスが狂う。

更にリブレが草木の揺れに戦闘態勢で唸り出し、なんだろう?と、構えると、狼。

「なんで!? なんで狼がいるの!?」

驚くパンダに、そんなの知るか!と、

「気をつけろ、確実、俺等、餌として認識されてんぞ!」

と、剣を抜く。

「確かに。あの目は僕達をロックしてる目だ」

と、シカも銃を構える。

「待って。でもコイツ等に生命反応がない。ロボットだ、森のロボット兵! え? 嘘? マジであれがロボットだったら凄いよね、まんま狼に見えたもん!!」

と、手の平でコンピューターをいじりながら興奮気味に言うカモメ。

「ロボット? あれが? フーン・・・・・・で、ロボットの急所は?」

そう聞いたツナに、カモメはキーを片手でリズミカルに打ちながら、

「体は鋼鉄で、覆われた毛は微弱の電気反応あり。とりあえず感電しないように、攻撃したら素早く離れて」

そう答え、ツナが舌打ちしながら、

「それ弱点じゃねぇだろ、急所って言うのは弱点を探せって意味だぞ」

そう言うが、弱点より長所の方が見つけ易く、

「スピードかなりあるみたい。素材はわからないけど、あの足腰に仕込まれた内部の肉質、見た目獣だけに獣並みの筋肉のゴムとバネが利用されてる」

と、カモメはコンピューターに狼を映し出し、出たデーターを見ながら言う。

「だから弱点を言えっつーの!」

そう吠えるツナに、

「弱点は只の獣って事だ」

と、シンバが答え、シンバが最初に踏み出し、一匹の狼を切り裂いた。

剣を2つにして、二刀流で素早さ重視の動きで、身を低め、腕も使っているかのような走りを見せて、そして剣を顔から真っ直ぐに突き出し牙の如く、まるでリブレだ。

リブレは私を真似たのねと、シンバを見ている。シンバもリブレを見て、

「どんな獣相手でもリブレは無敵だからね」

と、余裕に笑って見せる。流石と、ツナも冷静になり、

「リブレ相手に修行して来た俺の相手じゃねぇって事だな」

と、2匹3匹と狼の姿をしたロボットを斬り倒して行く。

シカは元々落ち着いていて、ダンダンダンッと銃の引き金を弾いた後、

「・・・・・・麻酔って効かないね、無駄弾つかっちゃったよ」

と、苦笑いして言うから、少しは慌ててよと、パンダがシカの麻酔弾が効かなくて飛び掛って来た狼に大きなハンマーを振り回し、力任せに一匹を吹っ飛ばす。

リブレは牙と爪の戦いを逆に楽しんでいるようだ。

ジジジッと嫌な電流音を鳴らしながら倒れる狼達――。

カモメは皆に守られるように中央で、コンピューターをいじりながら、森のロボットの弱点を探し出そうと必死。なんせ戦闘力はシンバとツナの方が上だとしても、ロボットの体力は減らない。更に群れる狼のように次から次へと現れ、囲まれている状態。人間は確実に体力が減って行く。そうするとスピードもパワーも落ちる。無限に立ち向かえるロボットとは違う。しかもこの低酸素の中での動きは鈍って当然。早くしないと全滅だと、カモメの頬を冷や汗が伝う――。

「なんだろ、コイツ等、やけにツナに狙いを定めてる気がする・・・・・・インプットされた動きをしてるならツナだけを集中的に狙う動きは変だ・・・・・・ロボットだけど森に生息してたって事は生態知力とかあるのか? 狼の生態・・・・・・いや、群れる獣の生態はリーダーがいる筈・・・・・・一か八か・・・・・・コイツ等の司令塔となるリーダーってのが存在するか、脳内コンピューターに入り込んで探してみるか・・・・・・うまくハッキングできなかったらこっちのコンピューターがやられるけど・・・・・・やるしかない!」

カモメはそう独り言を呟きながら、全速で指を動かし、暫くすると、わかったと、群れの狼を見渡し、どこだ?と探しながら、

「赤い目の狼がリーダーだ。その目を怒りの赤じゃなくて、怒りが冷めた青にする。ラブラドライトアイで!! シカのラブラドライトアイをリーダーの狼に見せるんだ!!」

そう叫ぶ。シンバもツナもリブレも戦いながら、赤い目の狼を探す。

シカは木の上に飛び乗って避難していて、ラブラドライトアイが必要なら下りた方がいいなと、だが、リーダーが見つかってからにしようと、まだ枝に座っている。

パンダは狼に襲われ、逃げながら、そして、

「オラを追い駆けてくる奴、赤い目だぞ!」

と、一匹の狼を指差した。

「パンダ、そのままこっちへ走って来て、ソイツを僕の前に誘き出してよ、ソイツがこっちまで来たら、僕、木から飛び降りるからさ」

と、安全地帯にいるシカの台詞に、パンダは行けるかボケェ!とマジ怒りで吠える。

「パンダ! 僕が道を作る! 待ってろ!」

と、シンバがパンダの前に行こうとするが、パンダも逃げ回っているし、狼は次から次へ立ちはだかるし――・・・・・・

「リブレ! 俺はいいから、シンバの援護頼む!」

ツナがそう吠え、リブレは、より多くの狼がツナに向かっているので、ツナを心配しながらも、ツナの命令に忠実に従い、シンバの行く手を阻む狼を倒して行く。

シンバは、なんとか道を開き、それでも狼が向かって来るので倒しながら、パンダの前へと先回りして、シカまでの道を作り、パンダは逃げ場だとばかりに、開いた道を助けてぇと叫びながらドスドスと走っていく。

今、赤い目の狼がパンダ目掛けて高く飛び上がったのと同時に、シカが木から飛び降りて、転んだパンダの背中に飛び乗った赤い目の狼の目の前にシカは着地すると、

「やぁ! 大人しく道案内してくれない? 僕達を城まで連れて行ってよ。これは命令だ」

と、言葉が通じるかどうかはわからないが、そう言った。シカのラブラドライトアイが、優しいグリーンから、徐々に厳しい色へと変化していく――。

そしてシカの目が赤い怒りの色になる前に、狼の目がブルーになった。

すると狼達は、牙を向いていた恐ろしい表情から、普通の飼い犬みたいな大人しい表情になり、戦闘態勢を解いた。

だが、シンバもツナも既にボロボロ状態で、息荒く、傷だらけ。

「軽傷で済んで良かったね、薬塗る?」

「テメッ、高見の見物で涼しい顔しやがって」

「だって僕の武器って銃だよ? 遠く離れて攻撃する武器だよ?」

「撃ってもなかっただろうが!」

「麻酔って効かないんだもん、だってロボットだよ? 効かないよ」

と、笑うシカに、ツナは拳を握り締め震わせ、シンバはそんな2人の会話に苦笑い。

「でもこれでわかった。ラブラドライトアイって、空の大陸では絶対に必要って事だ」

カモメはそう言うと、

「オイラ達地上人は排除するよう、あちこちに仕掛けられたモノにやられるだろうけど、その仕掛けを解除するにはラブラドライトアイが必要って事。シカの目は貴重だ」

と、説明。するとシカが、大切に扱ってねと、笑顔。その笑顔に惑わされるのは女だけだと、ツナは舌打ちで言うと、逃げ疲れて倒れ込んで息荒くしていたパンダが起き上がり、

「シカはキツイ目に合った方がいいよ!」

と、味方とは思えない台詞を言い放つ。

そして狼達の案内で、森を抜けて、城が直ぐ見える場所まで辿り着けた。

どうやら森の中だけ配置されているロボットのようで、森から出るシンバ達を、狼達は見送った。シンバ達は、狼達に手を振り、別れを告げて、広がる草原の中、城へと向かう。

「遠くから見た通り古い城だね・・・・・・」

シンバは城を見上げ、そう言うと、みんなを見る。皆も城を見上げ、

「空が明るいから怖くないけどゴーストが出そうな感じだね。夜は来たくない」

と、パンダ。

「発展した文明のロボットだの兵器だのコンピューターだのあるけど普通の石造り」

と、カモメ。

「この天空の城の中に世界を滅亡にする魔人がいるかもしれないんだよね?」

と、シカ。

「兎も角、何がいるか知らねぇが、中に入るんだろ? 外壁登るより正面入り口から浸入した方がいいだろ、登ってて、また妙なのが出てきて排除しようと攻撃されても面倒だろ。だったら正面から真っ向勝負のがいい」

と、ツナ。

シンバはコクコク頷きながら、とりあえず、そう高くはない塀にジャンプして上り、

「裏庭から中庭に出てグルッと回ろう」

と、手を伸ばす。その手を握って塀を頑張って登るのはパンダ。

ツナはシンバ同様、ジャンプして塀に登り、カモメに手を伸ばし、カモメもツナに引っ張られて塀に攀じ登り、シカは、

「こっちに扉があるよ」

と、鍵も開いてるみたいと、扉から裏庭に普通に入った。

「シカは、絶対にキツイ目に合うべきだよ」

と、パンダがぼやく。

皆で裏庭に侵入すると、

「警戒しろ、庭も城内。俺等が侵入した事で何かが来るかもしれねぇぞ」

と、ツナがそう言って、皆、コクンと頷き、気をつけようと慎重になる前に、

「ハイ、フォックステイル」

と、軽いノリで現れたのはラビだ。

「来るのおっそっ! 待ち草臥れたっつーの! マジで!!」

と、バニもいる。

「ラビ」

と、美女を見るのは癒やしだなぁと、嬉しそうな声を上げるパンダ。

「バニ」

と、ホントに癒やしだなぁと、デレデレした顔でデレっているのはカモメ。

「阿呆! 警戒しろって言ったろ! 何嬉しそうな声出してんだ!」

怒るツナに、バニが、またアニキ怒ってるよと呆れた声で言う。直ぐ怒るんだよねと、ラビに言って、ラビが、短気な男って嫌よねぇと言うと、バニが、短気じゃなくても、アニキなんて嫌だよと、バニ。

ツナの顔が、怒りマックスだ。

「ラビ、バニ、ボク等を待ち伏せしてるとは思わなかったけど、いると思ったよ、この大陸に――」

シンバがそう言うと、ラビはふふふっと笑い、

「フォックステイルの格好してるけど、フォックステイルに成り切ってないわね、シンバ」

と、長いフワッとした髪の毛を指でくるくる巻きながら、いじっている。

「あぁ、別に今はフォックステイルじゃない。いつでもフォックステイルになれるように格好だけは準備万端にしているだけだ。そんな事よりボク等を利用して、何を考えてるか言えよ。ラブラドライトアイを盗ませたり、カモメを拉致ったり、エル・ラガルトを仕掛けて来たり・・・・・・ここで待ち伏せしてたのも、何かボク等を陥れる為なのか?」

「あら、随分じゃない? 陥れるだなんて。もっと感謝してほしいわ。アナタ達が盗んだラブラドライトアイをサードニックスに渡してあげたから、アナタ達の仲間のシカはサードニックスに狙われなかったのよ。もしラブラドライトアイを手に入れてなかったら、シカのラブラドライトアイはサードニックスに抉り取られていた所よ」

ラビにそう言われ、そうかと頷くパンダとカモメと、

「それはどうもありがとう」

と、紳士的な態度で礼を言い出すシカ。

「マジでアホか、お前等! 解り易く騙されるな! この魔女に!」

そう怒鳴るツナと、

「真に受けてどうすんの! 口から出任せだよ! シカのラブラドライトアイなんてサードニックスが知るとしたら、結局ラビがサードニックスに知らせたって事だろ!」

と、吠えるシンバ。

「ウルサイよ、アニキ達。いちいち怒ってデカイ声出すなよな。ラビさんの親切を、騙すだの真に受けるなだの、ホント顔と頭が悪い証拠だよ。これだからバカは!」

そう言ったバニに、お前にバカとだけは言われたくない!!と、シンバとツナは同時に大声で怒鳴った。パンダが、顔はいいだ・・・・・・と、呟く。

「ラブラドライトアイは、兎も角、エル・ラガルトを仕掛けたのはどういうつもりだ?」

「エル・ラガルトって言ったら、世界の黒幕と言われる、あのエル・ラガルトかしら?」

「とぼけるのか」

「何の事かしら? アタシ、アナタ達と小さな孤児院で一緒に育った幼馴染よ? アナタ達の味方のつもりよ? それに世界の黒幕を仕掛けるなんて、孤児院で育ったアタシにできる訳ないじゃない? 何の経歴もないアタシとコンタクトとると思う? 賊と名乗る者なら兎も角、あのエル・ラガルトが、アタシ如きの話なんて聞く訳もないわ」

「それはどうかな。エル・ラガルトも男だからね。男を惑わすのは得意だろう?」

「あら、光栄だわ、そんな風に思っててくれてたなんて。シンバが」

と、クスクス笑うラビだが、

「ボクは惑わされないけど」

そう言ったシンバに、ラビの笑いが消えた。

「ふざけるのは終わりだ、ラビ。カモメがサードニックスにいた時、お前がカモメの鞄の中に地上最大の幻の宝石ブルーアースって言うのを入れて、発信機も付けたんだろう。そしてブルーアースを狙ってるエル・ラガルトに発信レーダーを渡して、ボク等の居場所を教え、ブルーアースを持っていると情報を渡したんだろう! 何が狙いでそんな事をしたんだ!?」

「面白い推理だわ」

「違うって言うのか! だったら誰がカモメに発信機を付けたって言うんだ!?」

「サードニックスに紛れ込んだエル・ラガルトの部下じゃないかしら?」

「なんだと!?」

「エル・ラガルトの部下はサードニックスに浸入して、何人も処刑されてるわ。多分、フォックステイルがカモメを連れ出すのを知り、調度いい運び屋になると思ったんじゃないかしら? そしてブルーアースを持って行くカモメに発信レーダーを付けた。エル・ラガルトもサードニックスを相手にするよりフォックステイルを相手にした方が勝ち目があると思ったのよ。アタシならそうするわね」

「・・・・・・」

「アタシの推理はそんなとこかな。シンバの推理が正しいか、アタシの推理が正しいか、確かめない?」

「・・・・・・どうやって?」

「城の正面門前で、サードニックスとエル・ラガルトが睨み合ってるわ」

「なんだって!?」

「戦いに参加して、倒したエル・ラガルト本人に聞けばいいのよ」

しれっとそう言ったラビに、ツナが、

「簡単に言うな! 倒せる訳ないだろう! いいか、よく聞けよ! 今、その両方が睨み合ってるにしても、俺等フォックステイルがそこへ出て行ったら、狙われるのは俺等だ! サードニックスもエル・ラガルトも俺達の味方にはならねぇ! でもサードニックスもエル・ラガルトも俺達を倒す為なら手を組む可能性がある!」

そう言って、シンバを見る。シンバも頷き、

「ツナの言う通りだ」

と、ラビを見る。するとバニが、

「弱気だねぇ、アニキ」

と、挑戦的にニヤニヤ笑いながら言うから、ツナがなんだとぅ!?と、今にも殴りたい衝動に拳を握り絞める。

「私ならサードニックスでもエル・ラガルトでも、敵が何人いても立ち向かうけど。だって正面門前でゴチャゴチャされてんだからさ、そこを通る必要があるなら、通らなきゃならないんだから、突き進むのみでしょ」

そう言ったバニに、そうねと、ラビはふふふっと笑いながら、

「シンバ、アタシ達が味方してあげるわ」

などと言い出した。

「ボク等の味方?」

「シンバ、信じるな。コイツ、サードニックスに飼われてんだろ、しかもエル・ラガルトと通じてる可能性も消えた訳じゃない。俺達を奴等の前に炙り出して、何かする気だ」

ツナが用心深くそう言うと、カモメが、

「そんな事ないよ、バニはそんなに悪い奴じゃない!! バニは・・・・・・悪くないと・・・・・・思う・・・・・・よ・・・・・・?」

そう言うから、自信ないなら言うなよと、ツナが睨む。パンダが、

「騙されてみてもいいかも。だってほら、ナイスバディだしさ・・・・・・」

と、意味不明な事を言い、何を想像しているのか、ヨダレ垂らしそうな顔でラビを見つめている。シンバとツナは呆れた顔でカモメとパンダを見るが、シカが、

「騙されてみるのも手かもね。警戒しすぎても前へ進めない」

そう言うから、シンバとツナはお互い顔を見て、溜息を吐く。

リブレは、そんな2人を見ながら、結局は、いつもラビバニの言いなりなのよねと、やれやれと鼻で溜息。

「アタシに考えがあるわ」

「考え?」

「サードニックスとエル・ラガルトが睨み合っている内は、大人しく見守ってるのよ。だって両方が手を組んで、アナタ達を倒しにかかったら、あっという間に人数で押されて終わり。だけど、睨み合いが終わり、バトルが始まった時に、こっちは現れて、どちらかに味方して、加勢するの。とりあえず、どちらかを倒せばいいじゃない? 敵の数を減らすが先よ。アタシはどっちの味方でもいいわ、サードニックスでも、エル・ラガルトでも。アナタ達が決めて。アタシは、アナタ達の味方だから」

その案に乗るしかないのかと、思うが、

「それだと、誰も殺さないで、誰も死なない終わりは、無理そうだな」

シンバが、そう呟き、ツナも、

「それに、その戦いが終わったら、今度は、生き残った方が、俺達とバトルだろ。こっちは、バニの戦闘力が加わったとしても、どっちかの人数が減った所で、こっちの人数が圧倒的に少ないのは変わらない。結局、人数で押されるし、しかも、相手が相手だ、お互い、全力でぶつかって、殺し合いの後だから、フォックステイルの騙しは効かないだろうしな。寧ろふざけるなと、怒らすだけ。水に油だろ」

と、参ったなと、だが、

「とりあえず、今、睨み合っているなら、遠目で、どんな状態か見てみるか」

そう言うので、シンバは頷き、これ以上、ラビバニと話を続けても、頭が痛くなるだけだしなと、とりあえず正面門前へと、歩き出す。

バニが、小声で、

「どっちの味方するのかな? サードニックスかな? エル・ラガルトかな?」

と、ラビに聞く。ラビは肩を竦め、さぁ?と――。

「どちらにしてもフォックステイルは誰も殺さない。だけど、派手なパフォーマンスで皆を惹き付けてくれるわ。勿論、惹きつけられる人数に減らさないとダメだけど。ほら、舞台でも、面白い舞台なら満席。でもフォックステイルのステージなんて、面白くないから、満席にはならないんだから」

「アイツ等って、面白くないの?」

「面白いと思う?」

「思わない」

「でしょう?」

「てか、戦うだけで、舞台って何? アイツ等、戦わないで腹踊りでもすんの?」

そう言ったバニに、ラビは、笑って、アナタの方が面白いわねと――。

「相手は世界の無敵と世界の黒幕。どちらが勝つにしろ、フォックステイルのつまんないショーを見ててもらってる間に、アタシ達は城内へ潜り込める。それにしてもトビーからの連絡が入らないのは、通信がここまで届かないからかしら?」

と、耳に入れたイヤフォンを取り出して見る。

「トビー、うまくやってんのかなぁ?」

「それが一番の心配だわ。でもエル・ラガルトファミリーの本部に残ってる連中はトビー1人でも倒せる連中ばかりの筈。あれでもトビーは一応、世界の最強のアレキサンドライト、あのシャークの手下だったんだから。エル・ラガルトの右腕となる手強い者は飛空戦艦に乗って、この空の大陸に来てる筈。よく考えたら、通信が届かなくて逆に良かったかもしれないわ」

と、応答のないイヤフォンを見つめ、微笑む。

「良かった? なんで?」

「通信が届かないなら、エル・ラガルトの本部からの連絡もとれないんじゃないかしら」

「そっか。そしたら、本部で紙幣を盗もうとしてるトビーがヘマしてバレても、連絡がない」

「そういう事」

「アニキ達さ、ラブラドライトアイの事は言ってたけど、私等がカモメの発明品を盗んだ事ってすっかり忘れてんのかな? ホント、バカだよね」

「カモメが複写技術の高い小型のコピー機を持ってたのはラッキーだったわ、後は偽札作りに必要なのは、人間の目を誤魔化せるだけじゃなく、機械に組み込まれてる紙幣識別機能に全く引っ掛からない紙幣だけ。それがあるのはエル・ラガルトファミリーの本部。世界中で出回っている札がエル・ラガルトファミリーの偽札・・・・・・それを頂いてしまえば、お金には困らない。後は――」

ラビは、言いながら城を見上げる。バニも城を見上げ、

「あるのかなぁ、本当に。ラビさんが望むもの」

そう呟くバニに、ラビは、さぁ?と、肩を竦め、

「行ってみるしかないわ」

と、少し遅れ気味に、シンバ達の後を付いて行く。

「私は強い奴と戦えるってだけで楽しいけどね」

と、バニもスキップするように軽快な足取り。その時、少し遠くで背を向けて歩いていたシンバが立ち止まり、空を見上げたので、ラビも音に気付き、シンバの視線を辿るように空を見上げる。バニも、そしてツナもカモメもパンダもシカもリブレも、皆、空を見る。

幾つモノ戦闘機が飛んでいく――。

「あの紋章は・・・・・・ジェイド――」

そう口の中でシンバが呟き、戦闘機が飛んでいく方へ走り出す。

ツナもカモメもパンダもシカもリブレも、シンバと共に走って行く。

「冗談でしょ」

と、いつもの微笑みが美しいラビの顔が険しい表情になり、

「ジェイドの空軍が動き出したって言うの? 想定外だわ」

と、下唇を噛締める。

「ラビさん? ジェイドの空軍が来たらヤバいの?」

バニが少し首を傾げて問う。

「フォックステイルが味方するのはサードニックスかエル・ラガルトのどちらかじゃないと・・・・・・言い訳もできなくなる! 勝つのは、サードニックスか、エル・ラガルトのどっちかじゃないと!」

「なんで?」

「エル・ラガルトの狙いはブルーアース。エル・ラガルトが勝てば、それをくれてやるの。サードニックスからの依頼も、これから、アタシ達の狙っているモノ同様で、探しに行く。サードニックスが勝利すれば、依頼通り動いていたと言えるでしょ」

「フーン・・・・・・?」

「でもジェイドは、サードニックスとエル・ラガルト、両方の敵よね。フォックステイルが、ジェイドの味方なんて言い出したら・・・・・・」

「いいじゃん、言い訳面倒だし、両方共、本当に敵にしちゃえば。本当に敵だし。誰も味方にする気ないっしょ? ラビさんの味方って私だけでしょ?」

バニはそう言うと、にへっと笑い、

「誰が敵になっても、私がラビさんを守るよ。無敵? 黒幕? キツネも、まとめてかかってこいやって感じ。私さ、難しい事はわかんないけど、とりあえずラビさんは誰を敵にしたくない? 敵にしたくない奴の味方するふりすればいいじゃん?」

と、軽く言うから、ラビも険しい表情が和らぎ、フッと笑みを溢すと、

「アンタには負けるわ、ホント・・・・・・可愛いバニがアタシの味方で嬉しい・・・・・・」

と、優しく囁きながら、バニの髪を撫で、

「そうね、とりあえず、この場は、フォックステイルの敵になるのは避けたいわね。いざとなれば、全てフォックステイルのせいにして逃げれるもの。それに、いざとなったら、サードニックスもエル・ラガルトも、アタシ達を見捨てて切り捨てるだろうけど、フォックステイルなら、なんだかんだ言いながら、アタシ達を見捨てないでしょう? アタシ達が見捨てても――」

そう言った。バニは頷き、

「バカでも使えるモンは使わないとね! んじゃ、作戦通り、フォックステイルの味方って事で」

と、ピースサイン。ラビもクスクス笑いながら頷き、

「味方って事で」

と、ピース。

そして、シンバ達の所へ、急いで走り出す。

シンバ達は瓦礫に隠れ、城の大きな門の前で、サードニックスとエル・ラガルトが睨み合っているのを見ていた。

サードニックスもエル・ラガルトも、ジェイドの戦闘機に気付き、空を見上げている。

戦闘機は、そこから直ぐ近くに着陸し、幾つモノ戦闘機が大陸に降り立つと同時に、銃を持った軍人や、剣を持った騎士団が、戦闘機から飛び出すように下りると、綺麗に整列し、サードニックスとエル・ラガルトへと、宣戦布告体勢をとっている。

「ハッ! ジェイドの空軍が騎士も引き連れ、何の用だ?」

と、サードニックスのガムパス。

「おやおや、困りましたね。大国ともあろう者が、歯向かう相手を間違うなんて」

と、エル・ラガルト。

そして、ジェイド軍を指揮するのは――・・・・・・

「ここはジェイドエリアだとご存知かしら? アナタ達が空で争いを起こしたせいで、ジェイドエリアに大きな被害が出ました。沢山の火の礫がジェイド城を破壊し、街を壊しただけでなく、沢山の人の命さえも奪ったのです。ここにいる全員を確保します。アナタ達には、ジェイドエリアの上空に突然現れた、この大陸について説明をする責任もあります。大人しく私達の指示に従いなさい!」

と、勇ましい軍の制服姿のネイン姫。

瓦礫に身を隠し、ポカーンとした顔でネイン姫の勇士を見つめるシンバと、ツナと、カモメと、パンダと、シカ。

「ハハァッ! 面白ぇ小娘だな。説明だとよ? 処刑の間違いだろ」

と、笑っているガムパス。

「確保すると言うのですか、ジェイドが? このワタシを? 楽しい娘さんだ」

と、ニヤニヤ笑っているエル・ラガルト。

「な・・・・・・なんでネイン姫が・・・・・・軍を率いて・・・・・・」

と、開いた口が塞がらない程に間抜けな顔で驚きすぎているシンバ。

「あの姫さん、ホント、おっかねぇな」

と、シカが捕まった時も怖い顔で、この人フォックステイルじゃないって言い出してさぁと、笑うツナと、

「まず報告を待つじゃなく、自ら行動。姫として有り得ないね。僕は好きだけどね」

と、いや、好きなのは人としてねと、睨むシンバに言うシカと、

「姫としては、落第点っぽいけど、フォックステイルのファンとしては最高得点あげたいね」

と、あぁいう活発な女の子は見てるコッチも元気になると、笑顔のカモメと、

「ジェイドの騎士隊長が、姫相手に、めちゃめちゃ押され気味じゃん」

と、ネイン姫が、騎士隊長に何か言いながら迫っているのを見ながら、あの騎士隊、大丈夫かなぁと、心配しているのはパンダ。

「で? 俺等フォックステイルは誰の味方するって? リーダー?」

シンバの背後でそう言ったツナに、シンバは振り向く。するとシカが、

「サードニックスかな?」

と、意地悪な顔で問う。

「ここは敢えてエル・ラガルトかな?」

と、カモメも、ニヤッ、嫌な笑い顔で問う。

「オラは可愛い子の味方がいいなぁ」

そう言ったパンダに、シンバは賛成だと頷き、

「パンダの意見を尊重しよう、ボク等はジェイドの味方をする」

そう答え、パンダはヤッター!と、オラの意見が通ったぞと喜びの舞い。

ツナはニヤリと笑い、振り向いて、ラビとバニを見ると、

「だ、そうだ。どうすんだ? お前等? ジェイド軍が現れるのなんて、計算外だろ?」

そう言うが、ラビもバニも、シレッとした顔で、

「ジェイドの味方でいいんだろ? オーケー! 頑張ってジェイドの援護するよ」

と、バニ。

「言ったでしょ、アナタ達が、誰の味方をしても構わないわ、アタシ達は、フォックステイルの味方ってだけ」

と、ラビ。

ツナはジェイドが来るのも計算の内なのか?と、2人の余裕の表情に、眉間に皺を寄せる。

「それにしてもさぁ、これだから男って奴はさぁ、やっぱ女の味方すんだねー。大した美人でもなさそうなのに」

と、バニ。

「あら、ネイン姫は、結構可愛いのよ。バニみたいにね」

と、ラビ。

「絶対に違うから!!」

と、バニみたいではないと否定するシンバと、

「絶対違うだろ」

と、やはり否定するツナと、

「ちょっとわかる」

というカモメに、ハァ!?と、シンバとツナは、カモメを睨んだ、その時、ガムパスのバカ笑いが、空高く響き渡り、皆、サードニックスを見る。

「気でも違ぇたか、ジェイドの空軍共! お前等空軍が俺様に敗北し、空から撤退して、久々に現れたと思ったら、面白ぇ小娘を先頭に引っ張ってきて、説明だの責任だの、笑わせやがって。確保できるもんならしてみやがれ!」

ガムパスは大笑いしながら、そう叫んだ。すると、隊長らしき者の後ろにいた騎士の1人が、ネイン姫の前にスッと現れた。兜を脱ぎ、若い青年の、その顔にシンバは、

「レオン!」

と、驚きの声を上げる。さっきからジェイド側に驚かされっぱなしだ。

「アイツ、ダムド城を出て、ジェイドの騎士になったのか?」

ツナの問いに、答えれる者は誰もいないが、見たままの結論から言うと、そうなのだろう。

「ここにおられる方はジェイドの姫、ネイン様だ。貴様等賊が小娘呼ばわりするのは無礼と言うもの! それに貴様等に敗北した空軍に、騎士団は参戦できなかった。空とは言え、大地広がるこの場所で、地上で尤も誇り高き騎士道を持つ我等が相手をする事も忘れるな。数時間後、貴様等は心優しい姫に感謝するだろう、殺されず、生きたまま確保される事に! 尤も、生き恥を晒し、死を願う程に屈辱な思いをするだろうがな」

一端の騎士の台詞を立派に言うレオン。シンバは苦笑いしながら、

「おいおい、ジェイドの騎士になってまだルーキーな筈だろ? なのになんで前に出る訳? あれじゃぁ妙にカッコ良すぎだろ、ネイン姫の顔が惚れ惚れして見える」

と、ぼやき、ツナが、

「ま、お前の兄弟だ、言うだけ本当に強いしな。サードニックスとしては強敵になる。おっと、お前にとっても強敵か? ネイン姫をあのカッコイイ奴から奪い取れるかな? 似てるのは顔だけだろ?」

と、面白そうに笑っているから、そんなツナをシンバは睨み付ける。

「リーダー、ヤバイよ、サードニックスが、エル・ラガルトからジェイドに向きを変えた」

カモメがそう言って、シンバを見た。すると、

「先にうるせぇ蝿共を片付けるか」

と、ガムパスが、ジェイドへと体を向けると、エル・ラガルトも、

「手伝いましょう、雑魚はさっさと消えてもらうに限ります」

と、ジェイドに視線を向ける。すると連中の子分も部下も、一斉にジェイドへと戦闘態勢。

ジェイドの軍が一瞬にして不利な状況と悟ったか、恐怖に支配されるような空気を醸し出し、ネイン姫も無言で、生唾を飲み込んだのを遠くからでも感じ取れた。

ガムパスがやっちまえと大声を張り上げたと同時に、シンバが、

「いつも通り! 仕掛けながら動いて裏方よろしく!」

そう言って、飛び出していく。それはもうシンバからフックスへと変わる瞬間――。

「ラジャ!」

と、ツナとリブレとシカも飛び出して行き、戦いの舞台となるど真ん中から遠く離れた場所にいる連中を目立たないように倒しに向かい、カモメとパンダも魔法となる仕掛けを設置に向かう。

エル・ラガルトの部下達と空軍の銃攻撃と、騎士達とサードニックスの連中が剣を交える。

今、ネイン姫に落とされるサードニックスの連中からの剣を受け止めて、弾き返し、何人もの攻撃を全て一本の剣で受け止めるレオンが押され気味になるが、加勢できる騎士は残っていない。ネイン姫自ら剣を抜こうとした時――!

ふわっとサードニックスの連中の頭上を飛び越えるようにして、ネイン姫の前に現れたフォックステイル。

サードニックスの連中は肩に手を置かれ、飛び越えられたにも関わらず、レオンの攻撃に集中していて、フォックステイルが近付いて来た事さえ誰も気付かなかった。

それどころか、レオンは、サードニックス側から現れた者に、後ろを奪われ、ネイン姫の目の前に通してしまった。

「フォックステイル!!」

ネイン姫のその叫びで、レオンは何!?と、剣を交えながら隙ができるのを覚悟で振り向くが、サードニックスの連中も何!?と、ネイン姫の方へ視線を向ける。

フォックステイルは、やぁ!と軽く挨拶するように、ネイン姫に手を上げたと思ったら、直ぐに二刀流で、レオンに加勢!

あっという間に、レオンと共にネイン姫の周囲に集まったサードニックスの連中を退かせる。流石に無敵のサードニックスの旗の下に集まった連中だ。簡単に倒せる相手ではなく、一旦、後退させるだけだったが、それでも勝機を感じたレオンが、背中合わせで立つフォックステイルに、

「まさか敵とは言わないだろうな?」

と、ニヤリと笑いながら言う。

「ネイン姫には謝らなきゃいけない事があるから味方しとくよ」

「謝る?」

「船を渡すと言って、船を渡さなかった。正確には渡す筈の船をとられちゃったんだけどね。だからここで助けてチャラにできたらなって」

「なんて奴だ。船を渡すと言ったなら我が姫にちゃんと渡してもらおう!」

「だからとられちゃったんだって! ていうか、なんでジェイドの騎士に!? というか、なんで我が姫!? ついこの前までダムドの兵だった奴がなんで!?」

「ジェイドの騎士募集にダメモトで面接を受け、次期王、姫の兄上にとても気に入られて、姫の直属騎士となったんだ。フォックステイル、僕はあんな父親でも今は感謝してる。僕の強さにジェイドの次期王が感動して、姫の騎士になれたんだから」

「成る程、姫のナイトって訳か」

フォックステイルが、そう言うと、怒りに任せたサードニックスが一斉に剣を振り上げて、威嚇し始めた。レオンもフォックステイルも剣を構え直し、

「キミは遅れて現れて、まるでヒーローみたいだが、姫のヒーローになれるのか? 敵は無敵と言われてるんだ。強いなんてもんじゃない。殺し殺されの戦いをやれるのか? お遊びで現れただけなら、せめて、数名ほど道連れに、派手に去ってくれ」

と、レオン。

「そっちこそナイト返上されないように気をつけろ。国同士の戦いじゃないんだ。相手は騎士じゃない。賊だ。賊は正当な戦い方はしない。ナイトなら姫の命だけは死守する覚悟で守り抜けよ。死んだ後、生き残った姫の事は生き抜いたボクに任せとけ」

と、フォックステイル。

「それは随分な言い草だな」

と、レオン。

「お互い様だ、兄弟」

と、フォックステイル。そして、2人同時に、

「さぁ、約束の遊びの時間だ!!」

と、今、奇声を上げながら、2人に襲い掛かるサードニックスの連中の剣を受け止める。

ツナとリブレは、大勢のサードニックスとエル・ラガルトファミリーに囲まれ、ピンチ状態。

銃を持つ者もいるが、どいつもこいつも剣やナイフなどの刃物類を手にしているのが多く、ツナとリブレの相手には調度いいのだが、人数が多すぎて、しかもこうも強い連中が多いと、こそこそと気絶させて行くのは難しく、ここに妙な奴が現れたと一気に囲まれたのだ。

「んだよ! 見つかんの早すぎだろ俺! カモメ! パンダ! 目晦ましの何か仕掛けてねぇのかよ!」

ツナは口の中でそう呟くが、イヤフォンからは何の応答もなし。

騎士達も恐怖で退いてしまい、ツナは役に立たねぇなと舌打ち。

リブレは銃を持った連中に、グルグルと喉を鳴らし、いつ撃たれるかと、威嚇している。

「ちょっと通して!? ねぇ? ちょっと通してって言ってんでしょ! 邪魔なの! どいて? 通るから」

と、サードニックスとエル・ラガルトの連中を掻き分けて、ツナの所へ来るのはバニ。

サードニックスもエル・ラガルトファミリーも、バニは味方だと思っているのか、攻撃もせず通すと、

「アニキ、鼻血出てんね。おもろっ!」

と、バニはツナの顔をまじまじと見た後、ぶはっと笑った。ツナは手の甲で血を拭いて、鼻を啜り、うるせぇ!と、何しに来やがった!と、怒鳴る。すると、バニはニヤッと笑い、ツナにクルッと背を向けると、剣を抜いて、

「感謝しろよ、何度目かのピンチまた救ってやんから!」

と、笑う。サードニックスもエル・ラガルトファミリーも、バニが剣を向けるから、何!?と、一瞬、たじろぐ。バニは、その一瞬を見逃さない。瞬時に数人を倒しに掛かる。まさかの攻撃に、皆が、バニに視線を向けた瞬間、ツナが動く。

「どこ見てやがる! テメェ等の敵は俺だろう!」

それはリブレも同じ。一瞬の隙が、攻撃の瞬間とばかりに飛び掛る。

岩や木に隠れながら銃攻撃戦をしているシカも、またピンチを迎えていた。

ヒュンヒュンッと飛んで来る弾に、

「僕のは麻酔だぞ! 鉛弾で攻撃してくるって反則じゃないの!?」

などと文句を言いながら、このままでは銃弾が足りなくなると、しかもずっとここに隠れている訳にいかないと、弾が続くまで身を隠しながら移動するしかないと考える。

「カモメ! パンダ! 敵を銃で攻撃できる安全な隠れ場所ってどこかにない!?」

だが、イヤフォンからは何の応答もない。

ふと、目の前に影ができて、見上げると、デカイ男が剣を掲げ、立っている。

ヤバイと思うが、大きな岩の陰に隠れていた為、背後は岩壁で逃げれない。

ここで死ぬかと思った瞬間、大きな男はズドーンと倒れ、ビックリするが、

「あら、シカ、こんな所で暇ねぇ」

と、銃を構えているラビの姿。そして倒れた大きな男から大きなイビキが・・・・・・。

見ると、男の首には麻酔針が突き刺さっている。更にラビを見ると、ウィンクで、

「もしかして、ピンチを救ったのかしら?」

そう言うから、シカは銃をラビに向け、撃った。

ラビの背後に立っていた男が倒れ、

「もしかしてピンチを救ったのかな?」

と、言い返すシカ。ラビはふふふっと笑うと背を向ける。

シカも背を向け、お互い背中合わせで円を描くようにして動きながら、銃を撃ち放ち、近付いて来る敵を倒していく。

そしてラビの弾がなくなり、シカも弾の入れ替えをしていると、ラビが銃を捨てるから、弾ならあると言おうとしたら、ズドドドドドドッと連射で機関銃を撃つラビの姿。

「どこからそんなもの出したの!? 持ってなかったでしょ!?」

「あら、女って意外と荷物が多いの。でも大きな荷物を持ってても持ってないように見せるのが女なのよ。当然でしょ」

全く意味がわかりませんと言う顔のシカに、ラビはウィンク。

だが、弾の入れ替えに時間がかかるので、機関銃で連射する攻撃は助かると、シカは弾を入れて、また攻撃。

空の大陸の中心部にある城を囲うようにして、戦争とも言える闘いが続く。

フォックステイルがやった訳ではないが、何人もの死体が転がり始める。

それはジェイドの騎士や軍の者でもあり、エル・ラガルトファミリーの者でもあり、サードニックスの者でもあり、その死体を無視するように、剣を振り回し、銃を弾き、誰もが戦い続ける。

そして、今、サードニックスのガムパスが、ネイン姫の傍に辿り着いた。

エル・ラガルトの銃口も、ネイン姫に狙いを定めた。

レオンがネイン姫に駆け寄ろうとするが、敵が立ちはだかる。

フォックステイルの視界にキラッと光るエル・ラガルトの銃口。

狙っているのはネイン姫だと気付き、フォックステイルは走る。

立ちはだかる男共を交わしながら、飛び越えながら、逃げながら、スルリと全ての障害を通り抜けて、ネイン姫の前に躍り出ると同時に、ガムパスの剣が振り落とされ、そしてエル・ラガルトの銃が火を噴き・・・・・・

空の大陸全体に響き渡るネイン姫の悲鳴――。

誰もが、目の前にいる敵への攻撃を止めて、悲鳴がする方へと目を向けた。

銃弾の威力、剣の威力を受けて、宙を飛ぶフォックステイルが、ドサッと地に落ちる。シンと静まる間。そして、ジワッと溢れる赤い血が大地を染める。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! フォックステイルーーーーー!!!!」

ネイン姫がそう泣き叫んだ。

「嘘だろ・・・・・・だって・・・・・・防御服着てるよな・・・・・・回復するよな・・・・・・」

そう言いながらツナは、遠くてわからないが、まさかの出来事を想像している。

「至近距離の大ダメージに回復しないのか?」

シカも、リーダーが倒れているのを遠くから確認し、まさかと呟く。

全く起き上がる気配のないフォックステイルに、ツナが、

「シンバ!? シンバ!! シンバァァァァ!!!!!!」

大声で名を叫び、走り出す。

そして、その叫びを掻き消すように、リブレの遠吠えが空の大陸に響き渡った。

まるで泣いているように鳴くリブレ。

空の大陸から、その泣き声は地上にも降り注ぐように、悲しみが空を覆う。


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