14.復活のカーネリアン

大陸を越えた為、時差があり、只今、まだ昼間の太陽が続いているが、雲行きが怪しくなり、機体も物凄く揺れ動き始め、上空は悪天候へ続く強風が伺える。

だが、ちょっとやそっとの揺れには動じなくなった。何故なら、先程、雷雲の中に入り込み、偉い事になっていた為、皆、グッタリとしているからだ。

「もう丸一日くらい飛び続けているよね」

どことなくゲッソリしたパンダの呟きに、

「どうだろう、俺は一週間くらい飛んでると思う」

と、もう長い時間、陸地を見てない苦しみに耐え切れないツナ。

「これで引き返す羽目になったらシャレにならない」

と、シカは大きな溜息。

「みんな、飛行機ダメなんだ?」

と、意外に平気なのはカモメだ。

「カモメは気分悪くならないの?」

シンバの問いに、

「うん、オイラ、乗り物酔いはしないみたいだ、みんな、酔うなら、シカに酔い止め作ってもらえば良かったのに」

と、カモメは、ピクリとも動かないリブレを見ながら、動物も酔うの?と、余裕の表情。

まさか飛行機に酔うとは誰も思ってなかったのだから、酔い止めなど考えてもなかった。

「ていうか、オッサン、引き返した方がいいんじゃねぇのか!? これ尋常じゃねぇだろ! アクロバット飛行っての? あれやってる時より揺れが酷いぞ!!」

もう駄目だと、ツナが叫んだ。

「バカ言え! お前等はツイてるよ」

と、何故かオグルは操縦席を立ち、こちらに来るから、前向いて座ってちゃんと操縦しろ!と、カモメ以外、皆で突っ込む。

「もうすぐ着くから安心しろ、この程度の風、フォックスイヤーだけに任せられる」

「フォックスイヤーだけに任せないでぇぇぇぇ!!!! 操縦者いないと飛べないでしょ、墜落でしょ、落下でしょ、死んじゃうよぉぉぉぉ!!!!」

泣き叫ぶパンダに、カモメが苦笑いしながら、自動操縦だよと、説明するが、自分の叫び声で、カモメの声が耳に入ってない。

「おい、そこの、お前、俺の革ジャン着ていけ」

オグルは自分の革ジャンやら革の帽子やら手袋やらを脱ぎ出して、カモメに投げる。

「まだ少し遠目だが、雪雲が見える。あの雲行きだと、やっぱりカーネリアンは大雪だ。その格好じゃ凍え死ぬからよぅ。ちゃんと着ていけ。それから一応、予備のパラシュートも付けとけ。ブーツ、足のサイズが俺と合うなら、履いて行け。その靴じゃ積もった雪の中を歩き回ると凍傷になるぞ」

「い、いいんですか、オグルさんが寒くなるじゃないですか」

「俺はそのまま帰るからいいんだ」

「で、でも、幾ら飛行機の中でも寒いですよ」

「直接、吹雪にやられる訳じゃねぇ、フォックスイヤーが守ってくれるから問題ねぇんだ、一応、毛布もあるしな」

「そうですか・・・・・・では、有り難く・・・・・・」

と、カモメは、オグルの服を着始める。

「ていうか、オッサン、俺等がツイてるってどういう意味!? こんな状態でどうツイてるんだ!? 悪いがもう俺はキャラ崩壊し始めてる程にテンションハイ状態だぞ!! これはもうツイてるどころの話じゃねぇ!!」

確かにツナが、結構な甲高い声を張り上げて喋っているのは、珍しいと言うか、余りナイ。

「ツイてんだよ、普段はこの辺一帯、もっと強風で、飛行機は絶対に飛べない」

「いや、もう充分飛べないと思いますけどもね!!」

と、シカ。だがシカの台詞は完全無視のオグル。

「だが、風の抵抗に弱いフォックスイヤーも1人で頑張れるくらいの風しか吹いてねぇ」

だから充分な強風なんですがと、シンバとツナとパンダとシカは、硬直している。

「うまくいけば、カーネリアンの島に着陸できる。運が良ければ、パラシュートで落ちて島に上陸。最悪、急変の天候悪化によりUターンって所だが、今の所、島に着陸できそうだ。ま、空は気まぐれだから急激に変化するがな」

その台詞はおかしいと、パンダが泣きながら、

「運が良ければUターンでしょ、パラシュートで落ちるって、それが一番最悪だよ」

と、どうか無事に着陸するか、Uターンしてと、祈り始める。

「そうですね、パラシュートだと、風が強すぎて、誰がどの辺に落ちるかわからないし、危険過ぎますよ」

と、シカもパンダと同意見のようだが、

「何言ってやがんだ、お前等がどこに落ちても、島のどっかに落ちる場所の上空に飛んでやるよ、風の向きもちゃんと考えてやる、海に落ちる事だけはねぇようにな。後はそれぞれが城へと向かえばいいじゃねぇか。城は吹雪の中でも浮かび上がって見えるだろうよ、知らねぇが、多分な。まさかの真っ白な光景しか見えないっつーなら、それもまた不運だったと、雪に埋もれて死ね。俺はそこまで面倒みきれねぇ」

そう言ったオグルに、死ねるか!と、ツナが怒鳴る。

「い、命あっての事ですから・・・・・・パラシュートでの上陸はやめましょうよ・・・・・・」

そう言ったシンバに、オグルは突然、

「おい、フォックステイル」

そう呼んだ。思わず、ハイと、返事をするシンバに、皆、固まる。そして、シンバもしまったと思うが、そこはポーカーフェイスを装い、

「はい? 話変わったんですか?」

と、聞き直した。フッと笑うオグルは、

「フォックステイルに会ったら、よろしくと――」

なんて言うから、シンバはまた、

「はい?」

と、聞き直す。

「いやな、ジェイドの姫さんのお見合いパーティーに呼ばれた時に、俺はフォックステイルって奴に会ってんだ。そんでまたガムパスんトコで会ったから、一度目は偶然、二度目からは運命っつーだろ?」

「それを言うなら女性にです、それ只の下手な口説き文句ですから、下手でも喜びます、女性なら。是非、使ってみて下さい、女性に!!」

と、シカの女性と言う部分を強調した突っ込みに、そうかと、笑うオグル。

「でも二度会ったからって、どうしてよろしく? そんな仲良しなの?」

パンダの問いに、いいやと、首を振るオグル。

何か勘付かれて、試されてるのかなぁと、シンバは、

「ボク等が、そのフォックステイルによろしくと、伝えるなんて無理ですよ、フォックステイルなんて知らないって、言ってるじゃないですか、なのにどうしてボク等に頼むんです?」

あくまでもフォックステイルを知らないと言い張って、オグルを見る。

「でも、お前等の仲間は、フォックステイルに助けられたんだろう?」

と、オグルは、カモメを見る。すると、シカが、

「だから! 仲間を助けるフリして、僕達から大切なモノを奪ったんですって!! 僕のリュックの中に入ってた大切なモノがなくなってるんです!! カモメを助けてくれた事で、僕達だって、いい人だと思いましたよ!! でも違ったんです!!」

そう言うから、まぁ、確かにそれはそうかと、シカのあの悲鳴が嘘だとは思えないと、オグルは頷き、すると、

「俺のせいかもな、俺、元賊だろ? フォックステイルは賊相手に宝を奪う怪盗って聞いた事あるんだ。だから、俺達、賊だと勘違いされたのかもな」

ツナが、そう言って、すまなそうな表情をするから、それも、そうかもなと、オグルは頷き、だが、怪しいんだよなぁ・・・・・・と、シンバをジッと見るが、シンバは、なんですか?と、目を逸らさない。

それどころか、やましさもないと言う目で、真っ直ぐにオグルを見るから、オグルも少し困惑するような表情になる。だが、直ぐに、

「お前等、旅の大道芸人なんだもんな?」

何にも疑っちゃいないと言う風に、そう聞いた。

「旅してんなら、いつかフォックステイルって奴にも会うかもしんねぇだろ? だから会ったらよろしく伝えてくれよ。よくも飛行機にペイントぶつけてくれたな、一生忘れねぇからな、次に会った時、キツネの面の皮まで剥いで、高級な毛皮のコートつくってやるから覚えとけってな」

「それ、よろしくって伝える意味ちょい違うだろ」

そう言ったツナに、オグルは笑う。

「会っても、そんな知らない人と、そんな話できるか、わからないけど、伝えれたら伝えときます。もっと、オブラートに包んで、友好的に」

そう言ったシンバにも、オグルは笑い続けながら、

「なぁ、俺はお前等が何者か知らねぇけど、なんでカーネリアンに飛行機にしがみ付いてまでして行かなきゃならねぇのかも謎だけど、いつか話してくれな」

そう言うと、操縦席に戻り、顔だけ振り向かせると、

「俺は、何も知らねぇが、お前等は気持ちのいい連中だ。なんとなくな、わかるんだ、お前等を纏う風がな、清々しく、晴れ渡る空のようだ。お前等のリーダーがいい風を持ち、導いてんだろうよ」

そう言った。皆、シンバの事だと思うが、シンバはフックスだと思う。

フックスが光へ導いてくれてるのだと――。

闇に這いずり生きて、腐っても、フォックステイルの心は誰も汚せない。

悪でもない、正義でもない、だが、絶対的なヒーローだ。

いつだって、どこにいたって、それだけは信じて生きて来た。

「おい、そろそろ着陸準備しろ?」

そのオグルの台詞に、サードニックスの船に着陸した時の激しさを思い出し、カモメ以外は、皆、素早く、シートベルトをする。

「かなり猛吹雪ですけど、着陸できるんですか? 島はもう見えてるんですか?」

窓を見ながら不安そうに尋ねるシカ。

「島は見えねぇ。雪が酷くて、前が何も見えねぇ。だが、島は動かねぇだろ、コンパスは狂っちゃいねぇし、空の地図なんて必要ねぇくらい、俺がここだと知ってるんだ。世界中、どこだって目を閉じてでも飛べるさ。ここが危険空域だとしてもな。飛行機にぶつかってくる風の音、衝撃、雲の動きで、流されてねぇ事もわかる。後は運に任せて祈ってろ、ここは空だ、神の領域だから、祈りは届く。届かなかったら・・・・・・」

「届かなかったら!?」

パンダが叫びながら聞き返すと、

「ま、あの世で神に直接問うんだな」

と、オグルはヘラッとした表情で振り向いて、笑い声と共に言った後、着陸の為か、振り向いたせいか、よくわからないが、この悪天候とも言える空の中、機体が斜めになった。

カモメ以外、皆、椅子にしがみ付きながら、悲鳴を上げる。もう普通にこれ絶叫アトラクション。

オグルの握るハンドルがグラグラ揺れてるように見える。

操縦機器類の中に時計のようなものが幾つもあって、その針が左右に大きく揺れている。

そして赤く点滅するスイッチライトが危険信号のように見える。

フォックスイヤーの機内はまるで大地震と大嵐が一緒に来たかのような異常さ。

だが、気がついた時には、静かになっていて、オグルが、

「着いたぞ」

簡単にそう言うから、シンバは天国に?それとも地獄に?と思ってしまう。

余りにも大きな音が鳴り響き、大きく揺れていたので、それがなくなり、今もフォックスイヤーにぶつかる風の音はしているものの、何も聞こえないように思えるくらい静かに感じて、何故か落ち着いている自分自身に、生きてる感覚がない気さえしている。

「お前等の好きな地上に着いたぞ」

皆、座ったまま、シーンとしているので、オグルはもう一度、着いた事を知らせる。

「・・・・・・カーネリアン?」

そう聞いたシンバに、オグルは頷き、

「ほら、早く荷物纏めて、降りてくれ。悪いが直ぐに飛び立たないと、天候が変わったら、このエリアから抜けれなくなる。いいか、また明日、迎えには来るが、必ず迎えに来れるとは限らんからな、空の具合によっては数年、来れない場合もあるぞ」

そう言われ、それでも行かなければと、シンバ達は荷物を纏めながら、

「ありがとうございました」

と、オグルと握手を交わし、フォックスイヤーのドアを開けた。

開けた瞬間、吹雪の壁が襲う。

直ぐに外に出て閉めなければ、服をカモメに譲ってくれたオグルが凍え死ぬと、シンバ達は外に飛び出し、そしてドアを閉めると、フォックスイヤーにも礼を言う。

だが、別れを惜しむ程の時間もなく、フォックスイヤーは直ぐに飛び立つ。

そして真っ白な空の中、直ぐに見えなくなってしまった。

こんな猛吹雪の中、飛べるもんなのかと、何故か実感はないが、実際に飛んできたんだと思うと、オグルの凄さを改めて知る。

荷物を背負い、皆で、逸れないようにロープを持ち、先頭はシンバ、次にカモメ、次にパンダ、そしてシカ、後尾にはツナとリブレと言う順番で歩き出す。

目の前は何にも見えない程、真っ白な世界だったが、遠くの方で揺らめく光があった。

とりあえず、その光を目指して歩き出したのだ。

炎のような、その光はなんなのだろうか。

途中、途中、お互いを確認しながら、誰も逸れてないか、ちゃんと傍にいるのか、遭難だけはしないようにと、慎重に進む。

帽子を被った上にジャンパーのフードも被り、ゴーグルもしているが、顔全体が凍って行くかのように強張って動かなくなって行く。

鼻水や呼吸を吐き出した時の水分等が、口周りを凍りつかせる。

ブーツを履いていても足の指先の感覚がなくなる程、冷たくなって行く。

そこにいるだけで体力が無駄に消耗していくのがわかる。

兎に角、前へ前へと進む。止まる事などできない。

消えてしまいそうな揺らめきを目指し、何時間歩いただろうか、いや、思ったより早く辿り着けた事に、シンバ達は目の前の光景に立ち尽くした。

広がる城下町は、今も尚、活動しているかのように、そこにある。

雪に呑まれてる訳でもなく、凍り付き、時間が止まっているようでもなく、店の看板さえも風でカタカタと揺れてはいるが、ハッキリと店名の字が浮かび上がり、しかも人の気配が感じられる。しかし人の姿はなく、建物全てのドアも窓も固く閉じられている。

「・・・・・・どういう事?」

振り向いて、誰に問うでもないシンバに、

「何も考えられないよ! とりあえず暖をとろうよ!」

と、泣き叫ぶ声を上げるパンダ。

そう、衰弱する事もなく、叫ぶ元気があるくらい、余裕で辿り着いてしまった。

見上げると、真っ白な背景に浮かぶ縁取られただけの真っ白な城の塔の上に揺らめく光。

あの光を見ながら、ここまで歩いて来たんだと、シンバは見上げながら、

「誰かいるって事?」

そう問うが、

「だから! とりあえず冷え切った体を温めようよ!」

またパンダが叫んだ。

「城下町に足を踏み入れた途端、吹雪も、本の少し、和らいだ気がしない?」

シンバがそう問うと、

「この辺一帯に、雪避けがされているのかも。ワラとかを使って、囲んで、吹雪の風や冷気を来ないようにするんだよ」

と、シカが言って、それなら、やっぱり人が手入れしているんじゃないかと、シンバが思っていると、

「本のちょっと吹雪が和らいだからって、あったかくならないから!!」

パンダが叫ぶので、

「とりあえず、人がいるような気配するし、手分けして、建物をノックしてみよう」と、シンバが言うので、皆、バラバラに城下町をウロウロ。シンバは、1つの建物に足を止める。

「・・・・・・病院? そうか、孤島だし、他国との繋がりは無いって言ってたし、かと言って病気にならない人間はいない。なら、病院は必要って事か」

そう言いながら、ならば、あの建物はなんだろう?と、もう1つの建物を見て、印刷所である事に疑問を持つ。

扉も窓も閉じているから、中は確認できないが、もし本当に印刷所ならば、何を印刷するのだろうか。こんな小さな町なら、伝達は回覧板か、口だけで充分だと思うと、新聞のようなものを作る必要はない筈だと考える。

いや、とりあえず、今は休める場所を探そうと、シンバはまた歩き出す。

宿泊施設らしい建物はなく、休める場所を探してみたが、特に見つからない。そりゃそうかと、こんなトコ、誰も来ないだろうなと、宿泊施設がある訳ないと思う。広場や公園などはあるものの、吹雪いている雪の中、焚き火はできない。

「あれだ、なんつーか、雪を集めて、そこに穴掘って、中で温まるとか」

ツナがそんな事を言い出し、冗談でしょと、シカが、

「ソレ、男同士くっついて時間を過ごす訳? この吹雪が止むまで?」

と、嫌な顔。じゃぁどうすんだよと、ツナの苛立った声と、どうすんのよと睨むリブレ。

こういう時は、カモメの発明でしょと言うシカに、こんな状況は考えてもなかったから何もないと言うカモメと、どこかの家の扉を壊して入ろうよと言うパンダ。

ずっと城を見上げているシンバが、

「行こう」

と、皆を見た。皆、シンバを見る。

「行こう、カーネリアン城へ。扉を壊すなら、城だろ。ここまで来たんだ、後少し頑張ろう、すぐそこに城はあるんだから」

と、歩き出すシンバに、そうだなと、ツナもリブレも付いて行く。

シカもカモメも頷き、付いて行く。

ちょっとだけでも休みたかったと、トボトボ歩き出すのはパンダ。

町は小さな集落で、雪の重みで潰れないようにだろうが、建物の造りも見た事のない独特な感じで、まるで同じ世界の、どこかの場所と言うよりも、全く知らぬ世界の、どこかと言う感じがした。

城は、その町には大きく聳え立っていたが、ジェイドやダムドなどの城に比べると、うんと小さく、個人のお屋敷のちょっと大きめバージョンと言う感じで、

「まるでシンバ様の家」

と、カモメとシカとパンダが呟き、確かにねと、シンバは幼き頃に住んでた家を思い出す。

「――消えた」

城を見上げ続けていたシンバがそう呟き、皆、シンバを見ると、

「ここに来るまで、揺れていた光が消えた。誰かいるんだ」

そう言うと、

「町も誰も出てこなかったが、誰かいる気配はあったしな」

と、ツナ。

「気のせいと言いたいけど、気のせいじゃないよね」

と、カモメ。

「でもこんなとこ、誰も住めないよ。だって食べ物とかどうやって手に入れる訳?」

と、パンダ。

「誰かが仕入れている・・・・・・とか?」

と、シカ。そんなバカなと、パンダが、

「こんなとこまで来れるのは伝説の飛行機乗りか、伝説の船乗りだけだよ! 船乗りの伝説さんは聞いた事ないし、オグルさんはオラ達を運んでくれたけど、他に誰か運んだ事はなさそうだったよ。住んでるとしたら人じゃないのかも」

そう言った。皆、人じゃない?と、パンダを見て、ならば、

「ゴースト?」

と、クエスチョンマークで声を揃え言うので、パンダはイヤァ!と、寒さの余り元々青い顔が更に青くなる。

「冗談はさておき」

そう言ったシンバに、冗談なの?どこが?どこらへんが?と、パンダ。

「このデカイ扉をどう開けるか、だな」

と、ツナ。

「凍り付いてる感じはないね」

と、カモメ。

「押すか引くかって程の軽い扉じゃないしね、一応、ノックでもしてみる?」

と、シカ。そして、アレ、私に似てるわと、リブレは門を見上げ、皆も、門を見上げる。

大きな狼の紋章が入った大きな門となる扉。

「スカイピース」

シンバはそう呟くと、吹雪いている雪と門に描かれている狼に、スカイピースに刻まれた雪とフェンリルの紋章を思い出していた。

皆が、大きな門を見つめたまま、突っ立っていると、

「扉なんてのは、合言葉で開くもんだよ」

と、何故かパンダは自信満々に一歩前に出て、両手を大きく広げると、

「開け! タマゴ!」

そう叫んだ。シーンと静まり返り、皆が、タマゴ?と、クエスチョンマーク。

「おかしいなぁ、じゃぁ、開け! シュークリーム!」

――シュークリーム?

「開け! クッキー!」

――クッキー?

「開け! サンドイッチ!」

――サンドイッチ?

「開けぇ! クリームシチュー!」

――クリームシチュー?

「開けぇ・・・・・・」

「いや、お前、食いたいもん言ってるだけだろ!」

ツナの突っ込みと、

「そんなんで開いたらビックリするよ!」

そう言ったカモメだが、ゴゴゴゴゴゴッと重い地鳴りのような音と共に扉が開いていく。

ビックリ・・・・・・と、カモメの呟き。

だが、扉が開いたのはパンダの言葉ではなく、そこに立っている者が開けたのだろう。

大きな槍を持ち、既に壊れている鎧や兜などを身に着け、装備万端の者が1人――。

立ち尽くすシンバ達を真っ直ぐに見ているのだろうか、顔は正面を向いている。

兜は頭から顔全体を覆い尽くすタイプの鉄仮面で、鎧も砕けている部分はあるものの、体全体を覆うものだから、男か女かもわからない。

いや、騎士の置物のようにも見える。なんせ、背は低く、かなり小柄で、なのに、重い鎧を付けているから、こういうオブジェにも思えてくる。

「あ・・・・・・あの・・・・・・」

シンバが声をかけ、一歩近付こうとした時、その騎士は、大きな槍を頭上まで軽々と持ち上げ、そしてクルクルと回転させ、クルクルと左右に持って行くと、矢先をスッと、シンバに向けて、構えた。皆が、槍の方がデカいのに、その槍を軽々と!?と、驚いてしまう。

「あ、あのぅ? 戦う・・・・・・つもりですか?」

そう聞いたシンバに、騎士は何も答えないし、微動だにしない。ツナが、ハッと、バカにしたように笑い、

「1人で俺達とやるってか? アンタ何者だ? こんなとこで城を守るゴースト気取りか? やめといた方がいい、俺達は結構、強いぜ?」

そう言って、騎士に近付いていく。だが、咄嗟に、ツナは足を止めた。そして、直ぐに荷物をその場に置いて、両足を開き、力を入れて、剣の鞘に手を置く。シンバも荷物を置くと、革の手袋を脱いで、腰の両剣のグリップを、両手で握り締める。

そのシンバとツナの行動に、シカもカモメもパンダも、何?と不思議そう。

リブレは、唸り声を上げるだけで、身を低めてはいるが、飛び掛からない。

「なんだコイツ・・・・・・隙がねぇ・・・・・・」

そのツナの震えた呟きで、リブレは飛び掛らないのではなく、飛び掛れないのだと知る。

吹雪のせいもあるが、視界が悪くて、特に相手の微かな動きはわかり辛い。

だが、シンバやツナならば、目ではなく、感覚でわかる筈だが、それも雪のせいなのか、鈍っているのか、それとも本当に隙がないのか――。

踏み出したのはシンバ。

戦う気なんてなかった筈のシンバが、剣を抜き、飛び掛かる。

やらなければ、やられると、こればかりは本能が悟った。

ツナの背後から飛び出すようにして、騎士に向かって両剣を振り下ろす。

しかし騎士は一歩も動かず、槍だけでシンバの剣を弾き返し、シンバを弾き飛ばした。

「シンバ!」

後ろへ吹っ飛ぶシンバを、ツナが振り向いて見た瞬間、ツナの首にスッと矢先が置かれ、ツナはゴクリを唾を飲み込み、身動きがとれなくなる。

だが、リブレが飛び掛かってくれた事で、槍はリブレの爪と牙へと向けられ、ツナはシンバを案じる暇もなく、また直ぐに振り向き直し、騎士を見た瞬間、驚く。

その向き直した一瞬の内に、あのリブレも後退させた事にも驚くが、騎士は一歩も動いてないと言う事にポーカーフェイスさえできず、驚きを隠す事などできない。

吹雪の中、風がゴーッと音を立てながら通り過ぎていく。

そんな中で、ツナは、冷や汗が出て来るのを感じながらも、ニヤッと笑い、ゆっくりと腰から剣を抜くと、おもしれぇと、口の中で呟き、

「世の中には上には上がいるもんだ」

そう言った。騎士は自分の事を言われたのだろうと思っているだろうと、その鉄仮面の中の表情が見れたら、きっと、嬉しそうに口元を緩めているに違いないと、ツナは、

「お前に言ってんだ、教えてやる、世の中には上には上がいるって事をな」

と、自分の方が上だとばかりに剣を騎士に向けた。

今、ツナの隣に、シンバが立ち、

「勝ち目は?」

騎士を見ながら、ツナに問う。ツナも騎士を見ながら、

「ない」

そう答え、シンバと2人、見合うと、アイコンタクトで、2人で、一斉に騎士に向かって走った。

2人の剣が、全て槍に受け止められる。リブレも援護するが、騎士の動きの速さと言ったら、全ての攻撃を交わし、弾いた上で、更に攻撃を仕掛けてくる程だ。

そしてシカが麻酔銃を取り出し、騎士に向けて撃ってみるが、その麻酔弾でさえ、騎士は手甲で覆われているとは言え、その手の平で、まるでボールでもキャッチするように捕らえ、握り潰す。無論、その瞬間も片方の手で大きな槍を軽々と自由自在に振り回し、シンバとツナの剣を受け止め、弾き、攻撃を繰り出し、リブレの爪や牙になど、ビクともせずに、籠手の部分で殴り飛ばす。

まるで後ろにも目があるか如く、背後にまわって攻撃を仕掛けても、全てお見通しの動き。

「おい、シンバ! シャークになれ!」

「そんなのとっくに試した!」

「なに!? どういう事だ!?」

「わかんないけど、シャークの真似をして攻撃を仕掛けても、通じなかった!」

「そんなバカな! 最強のアレキサンドライトだぞ! シャークだぞ!!」

ツナが、そう吠えた瞬間、騎士はツナの剣を受け止め、弾き返さずに、

「・・・・・・シャーク? アレキサンドライト? 貴様等、賊か? しかもアレキサンドライトだと? 悪名高いシャークの使いか」

しゃがれた声で囁いた。

吹雪の中、その声が届いたのは、騎士と今、身近で剣を交えているツナだけ。

「・・・・・・なんだ、喋れんのか、どうやらゴーストじゃねぇみてぇだな」

そう言ったツナに、騎士の返事はない。

「声からして、結構、年配だな、そして男だ。正体を暴いちまえば、大した事ねぇかもな」

そうは言ったものの、逆の場合もある。そして、正体を知った所で、この強さは変わらない。

それにシンバの成り切りも通じないと言う事は、嘘や偽り、騙しに誤魔化しは、全く通じないと言う事になる。例え、ここで煙幕玉を投げても、当然、通じないと言う訳だ。と、言うか、吹雪で、煙幕玉は使える訳もない。

逃げる事もできないとなると、戦って勝つしかない。

無論、この島のどこに逃げる場所なんてあるだろうか。

ツナは舌打ちしながら、嘘も偽りも騙しも誤魔化しも通じない人間なんているのかと、神かよと、ゴーストの方が良かったんじゃないかと思う。

カモメが、スパナを握り締めたので、パンダも背負ってきた大きなハンマーを持とうとしたが、戦った事などないので、持てないまま、只、その場で立っているだけの状態。そして寒さなのか、恐怖なのか、震えているだけ。シカも、考えてはいるものの、銃を放っても、弾を簡単に握り潰されては、勝ち目はないと、行き詰まっている。

「おい、シンバ! 折角だ、コイツをコピーしろ! そんでもってコイツになれ!」

本人同士、戦わせるのがいいかと考えたツナだったが、

「無理だ!」

シンバは即答でそう答え、無理!?と、問うツナの目線に、

「コピーするには特長がなさすぎる! 軸足を動かさず、ずっと戦ってるなんて、まるで人形だ! 戦ってるだけの動きは最小限で動いてるんだ、癖も無駄もなけりゃ、人格を表す口調もわからない、口癖さえ、知らないのに、どうやってコピーするんだよ、合わせ鏡じゃなく、ボク自身なんだから!」

そう説明。ツナは舌打ちしながら、やっぱり正体を暴くしかねぇなと、

「リブレ! 俺達全員でお前を援護する! お前は攻撃を止めて、あの鉄仮面を爪か牙で引っ掛けて奪い取れ! カモメ、パンダ! なんでもいい、どんな攻撃でもいいから、戦闘に加われ! シカ! 連続で引き金を弾け! 数撃ちゃなんとかっつーだろ! シンバ! 全員でかかれば、全員分の返り討ち分の時間だけ、リブレに与えれる! リブレが鉄仮面を奪い、奴の顔を拝めれば、少なくとも、お前のコピーする情報にはなるだろ!」

頷くシンバとシカとカモメ。パンダが、

「返り討ち分の時間って、オラ達、返り討ちに合うって決まってんの?」

と、問うが、誰も答えない。しかし、最初に覚悟を決めて、雄叫びを上げて騎士に向かって走ったのはパンダだ。雪の中ドスドス走りながら、体当たりするように。直ぐに続いてシンバが、そしてカモメが、ツナが、騎士に向かって、それぞれの武器を掲げ、攻撃。

しかし、全ての攻撃を、槍一本と籠手で受け止められ、全てを弾き返され、皆、後ろへ吹っ飛ぶ。その瞬間、シカが狙いを定めていた銃を連続で弾くが、全ての弾を槍で叩き落され、数発は手甲で覆われた手の中で握り潰された。

一瞬の隙さえないまま、返り討ちを食らわされ、リブレは動けないまま。

だが、まだまだと、直ぐにツナが立ち上がり、騎士に立ち向かう。

ツナに続き、シンバも、するとパンダもカモメも立ち上がり、そしてシカも弾を入換え、銃を構える。

今、シンバの喉を狙った矢先が伸び、ツナが、シンバを突き飛ばし、庇った。

ツナの肩に刺さる矢先に、パンダもカモメも怖くなって、動きを止めてしまうし、シンバも庇われた事で、驚愕の表情になり、固まってしまう。

ツナは、刺さった矢先を右手で掴み、無表情で引き抜いた。

そのまま槍は引き抜くようにして、騎士の腰部分まで引かれ、そして新たな構えで、血の付いた槍を、ツナに向ける。

ツナの肩から、血が直ぐにドバッと出たが、この寒さで、直ぐに止血。

騎士は、ツナに向かってだろう、

「流石、外道の賊だ、痛さを感じぬ化け物め」

そう呟いた。この台詞は、皆の耳に届き、今、シンバが、キッと騎士を睨みつけると、

「ツナは賊じゃない!」

そう叫ぶ。ツナは、いいんだと、シンバを宥めるが、

「化け物でもない! ツナはボク等の仲間だ! ボク等は賊じゃない! ツナを・・・・・・ボクの仲間を傷つけた事は絶対に許さない!」

そう怒鳴り、ツナは冷静になれと、シンバを宥め続け、

「俺なら大丈夫だ! 痛くもねぇし、傷付いてもねぇ! お前が無事ならそれでいいんだ、だから今は奴に一瞬の隙を与える為に攻撃に集中するんだ! 妙な感情はいらない!」

そう言うが、シンバの怒りは治まらず、剣を6本の小さな細いナイフに変化させ、指と指の間にナイフを挟み、右手に3本、左手に3本のナイフの爪を作ると、有り得ないスピードで、騎士に飛び掛る。それは吹雪いている雪ですら、スローに見える程の速さ。

普通なら、剣をどうやってナイフに変えた?などと驚きを見せてもいい筈だが、騎士は、やはり微動だにせず、何事もなかったかのように、シンバの攻撃を槍で受けるが、流石に、武術のような動きは予想できなかったのか、更に上昇していくパワーとスピードにも予測不可能なのか、全ての攻撃は、槍で受け止められず、攻撃を交わす為、動かなかった軸足を動かし始めた。そうすると、リブレがチャンスとばかりに、騎士の鉄仮面目掛けて高く飛ぶ。

うまく爪に引っ掛けて、リブレは器用に鉄仮面を脱がせて奪い取る。

そして、騎士の素顔が明らかになり、皆、突っ立ったまま、驚いている。

怒りのリミット全開だったシンバも、攻撃を止めて、立ち尽くす。

騎士は、長い長い白髪を後ろで束ねていて、顔に皺が一杯の老人で、右目は切り傷で潰れた跡があり、左目はグチャッと潰れた跡があり、つまり、両目、見えていない。

人とは思えぬ、その姿は、まるで鬼神の如く――。

「・・・・・・嘘だろ、年配だとは思ったが、ここまで年老いたジジィの動きか? それだけじゃねぇ・・・・・・見えてねぇってのかよ? 何も?」

そう言ったツナに、シンバは、だからシャークになっても通じなかったのだと、気付いた。

所詮、その者になると言っても真似事。シャークの放つオーラを身に纏っても、基本はシンバなのだから、通じない所か、目で見ると言う確かなものが、欠けてしまえば、逆に何も恐れさせない。

「・・・・・・少し加減しすぎたな」

騎士がそう呟き、加減?と、皆、眉間に皺を寄せる。

「若造だと油断したのもある。本領発揮といこう」

と、槍をクルクルっと回転させ、構える騎士に、本領発揮?と、皆、硬直。

「冗談だろ、更に強くなるって事か?」

と、ツナ。

「冗談を言うタイプには見えないよ」

と、シカ。

「でもジョークだったら嬉しいね」

と、カモメ。

「ジョークにしては下手過ぎて笑えない」

と、パンダ。皆、この吹雪の中、冷や汗タラタラで、呟いた。

目が見えないのであれば、お得意のジャグリングやマジックで見惚れてもらうって事もできない。更にこれ以上、強くなられたら、ツナだけでなく、他のメンバーも血を見るだろう。ここは撤退するしかないのかと、シンバが、一旦、逃げるぞと言おうとした、その時――・・・・・・

「ライガ。もうお止めなさい」

と、城の奥の扉が開き、誰かが、そう言った。騎士はゆっくりと顔を振り向かせ、

「しかし陛下。何者かもわからぬ者が現れたのですぞ。ここは他の地から誰かが立ち入る事などできません。どこから現れ、そして何が目的でここへ来たとお思いですか? しかもコヤツ等は賊の名を口にしている」

そう言うと、また顔をシンバ達に向け、

「我が命はカーネリアンを守る為にあるのです」

そう言った。シンと静かになり、吹雪の音だけが、耳に入って来る。暫く、皆、立ち尽くし、交戦状態も止まるが、それは陛下と呼ばれた女性がコチラへ向かって歩いて来てるからだろう、騎士は構えていた槍を縦にして持ち、ピシッと直立。

シンバ達は、吹雪の中、近付いて来る人に、只、只、立ち尽くし、そして、その者が数メートル先で止まると、綺麗な髪を、一応手で押さえ、もう片方の手でドレスを押さえ、それでも吹雪の中、酷く乱れた格好になりながら、

「どこから来ようとも、どうやって現れようとも、敵であろうとも、この吹雪の中、放っておく事などできませんよ。客人として向かえておあげなさい。それにアナタの強さを知った以上、何を企んでいても、何もできませんよ、逃げる場所なんてないんですから」

そう言った。呆然としているシンバの口から、

「・・・・・・母」

そう囁かれたが、吹雪いている中では誰にも聞こえない程の声だった。

陛下はクルリと背を向けると、サッサと城内へ戻り、騎士も頭を下げると、直ぐに陛下の後ろへ付いて行き、シンバ達に、

「来い。陛下のご命令だ、客人に温かい飲み物でも用意しよう」

そう言った。とりあえず危機一髪だったと胸を撫で下ろすようにして、皆、荷物を持ち、城内へと向かうが、シンバは立ち尽くしたまま、動けない。

「シンバ?」

ツナがシンバを呼び、シンバはハッとして、頷くと、荷物を背負い、城内へ向かった。

城内へ入ると、雪を払うようにして、皆、体を揺らし、暖かい部屋に助かったと嬉しそうな表情をするが、シンバは、背を向けて階段を登って行く陛下に駆けて行く。

シンバの突飛な行動に、ツナでさえ、何事だ!?と思うが、騎士がシンバの前に立ちはだかり、槍を構えるから、シンバは足を止め、陛下を見上げながら、

「母!!」

そう叫んだ。騎士も含め、皆が、シンバに驚く。そして陛下はゆっくりと振り向き、階段下にいるシンバを見下ろし、今、シンバと目が合う。

「・・・・・・シンバ?」

そう言った陛下に、シンバの目に涙が溜まって行く。

「母! 生きていたんですね!」

そう叫ぶシンバに、陛下は階段を駆け下りてくる。あの微動だにしなかった騎士が槍を構えたまま、シンバに矢先を向けて動揺している。

今、陛下が、シンバの目の前に立ち、シンバに手を伸ばすから、騎士は戸惑ったものの、槍の矢先の方を下へ向け、その場を見守る事にした。

シンバの頬に触れる母の指先。

「アナタこそ、生きていたのね、シンバ」

「はい」

「探したんですよ」

「ブライト教会と言う孤児院で育ててもらいました」

「ブライト? フォータルタウンの方を探してたわ」

「そうですよね、約束を覚えてます、フォータルタウンで会おうと。でも行かなかったんです、母との約束を守れなかったから」

「約束?」

「バニの・・・・・・妹の手を離さないと言う約束を守れず、ボクは――」

シンバがそこまで言うと、女王陛下、いや、シンバの母親のカラは、

「いいのよ、もう」

と、悲しそうな、だが、シンバが生きていた事だけでも嬉しいと言う笑顔を見せた。

「母、でもバニは生きてます」

「え?」

「バニは元気ですよ」

シンバのその台詞に、カラの笑顔が驚きの表情になり、また直ぐに笑顔に戻った。

「そりゃもう手が負えない程、元気に飛び跳ねてるよね」

と、パンダ。

「ホント、困るくらい元気が有り余ってるからね、あのウサギちゃん」

と、シカ。

「でもすっごい美人で、スタイル抜群で、ホント綺麗で、笑うと愛らしくて、すっごい強くて、めちゃくちゃカッコよくて、たまに、ちょびっと優しいとこもある!」

と、カモメ。

ツナは、血は繋がってないものの、バニは妹も同然で、バニ自身も〝アニキ〟と呼ぶし、立ち位置が複雑だなぁと、ここは敢えて何も言うまいと無言。

カラは皆を見回し、シンバを見て、

「話を聞かせてくれる?」

そう言った。シンバが頷くと、

「こちらへ」

と、カラは、奥の部屋へと向かう。騎士もどうぞと言う風に手の平で、カラが向かった方を差し、シンバはカラの後を追い、皆もシンバに続いて行く。最後にいるリブレが騎士を見上げ、騎士はリブレにも手を指し示したままの状態で立っているので、リブレはそのまま皆に付いて行き、そして、騎士がリブレの後に続いた。

暖炉のある温かい部屋は、モダン調で、壁には絵画、そして骨董品などが飾られ、ソファーとテーブルと・・・・・・今、カラが、どこからか持って来たタオルと、服を、シンバ達に渡し、

「とりあえず、濡れてしまったモノを乾かすまで、これを着て、暖炉の前で暖まって? 今、暖かい食べ物を用意するから」

そう言った。既に暖炉の前に座っているリブレにも、

「アナタはミルク?」

と、尋ねるカラに、ツナが、

「いえ、水で結構です」

そう言うが、遠慮しないでと、カラは一旦、この部屋から出て行った。

騎士はドアの前で、まるで甲冑の置物のように、立っている。

シンバ達は、タオルで体を拭きながら、着替え始める。

「なぁ、シンバの母親って、シンバに似てないな。あれ? 逆か? シンバって、母親に似てないな」

と、ツナ。

「ボクは見た目父似だよ、バニも割りと父似」

「あぁ、うん、そんな感じだね、カラーが父譲りだしね」

と、シカ。

「でもバニの強さは母譲り」

「うへっ!? あの人、そんな強いの!? 昔から優しいオバサンのイメージしかないけど」

と、パンダ。

「うん、物腰優しいけど、強かったよ」

「どっちに似ても強いって訳だ、成る程ね、シンバとバニの強さがわかった気がする」

と、カモメ。

くだらない話をしながら着替え終わった後も、大した話をせず、だらだらと会話をしながら、暖炉の前で暖まっている間も、騎士はずっとドアの前でピクリとも動かずに立っている。ツナはずっと騎士の事が気になっているのか、時々、チラチラと見ている。

暫くして、カラが1人でスープやパンやチキンなどの料理を運んで来た。

「余り食材がなくて、ご馳走って程でもないけど」

そう言ったカラに充分なご馳走だと、特にパンダは大喜び。

「さぁ、みんな、手を合わせて」

カラがそう言って、祈るように手を重ねる。それを見た、シカ以外が、手を胸の所で組み、

「光と大地の恵みと、ミリアム様の名の下に――・・・・・・感謝して、この食事を頂きます」

と、祈りを捧げる。

思わず、ツナが、

「懐かしいな」

と――。

「孤児院で、こうやって祈って食べたね」

と、カモメ。

「僕は、孤児院に行く前から。母の教えで」

と、シンバ。

「僕は初めてだよ。へぇ、そうやって祈って食べるんだね」

と、シカ。

「もう祈ったし食べていいよねー?」

と、孤児院にいた時も、お前、そう言って、1人フライングで食べてたなと、皆が笑い、シカは、想像できると笑った。

「食材、持って来たのがあるので、そちらにお渡しします、ねぇ、それでいいよね? リーダー?」

シカにそう言われ、シンバは頷く。

「リーダー? アナタ達、何をやってるチームなの?」

ソファーに座り直しながら、カラは問い、さぁ、どうぞ、食べてと言うので、皆、テーブルの上の食べ物に手を伸ばす。

「ボク等は・・・・・・えっと・・・・・・何て言うか・・・・・・賊の宝を奪って、その宝を孤児院に寄付したりしながら世界を旅してる感じで・・・・・・ボク等の生活はその都度、バイトしたりしながらの稼ぎで補ってて、何の利益もないけど、失うモノが何にもない孤児のボク等だからできるような事で・・・・・・うまく言えないけど、充実はしてると思う・・・・・・」

「そんな事をしてるの? それでシンバがリーダーなの? シンバが言い出した事なの? みんなを、そんな事に、無理に付き合わせてるんじゃないの?」

「いや、違いますよ、俺達、好きでそうしてるんです」

と、ツナ。

「だけど賊を相手にって、とても危険な事じゃない? 相手は賊なのよ? 賊相手に、戦ってるのよねぇ?」

「戦うって言っても、僕達じゃなくて、それは、強いリーダーと、ツナくんの役目で、それに、僕達は、殺したりはしないんです」

と、シカ。

「殺さない? でも殺されるかもしれないでしょう?」

「殺されてません。オイラ達、誰も殺されたりしてませんよ」

と、カモメ。

「それは今迄の事で、これからの事はわからないわ、安全の保証はあるの?」

「オラ達に保証なんて必要ないんです、きっと大丈夫って意味のない根拠だけなんですけど、きっと大丈夫なんです、シンバがいるから。うちのリーダー、凄いから」

と、パンダ。

呆れた顔をしながらカラは、シンバを見て、

「みんなに、そう言わせてるんじゃないでしょうね?」

と、不安そうに尋ねて来る。シンバは苦笑いしながら、

「母、みんな、ボクの友達なんだ」

そう言った。友達?と、カラは皆を見る。皆、頷いている。

「みんな、シンバの友達? バニじゃなく、シンバに友達がいるの? 部下とか、そういう意味の繋がりじゃないの? 友達なの? ホントに?」

「うん、ホントにボクの友達。紹介するよ、えっと・・・・・・」

と、シンバはツナを見て、

「彼はツナ。孤児院で知り合った。ツナは一言で言うと〝最強〟。世の中ではシャーク・アレキサンドライトが最強と言われてるけど、ボクにとったら、ツナが最強の男。最強のツナがいたから、ボクも強さを極めれたと思ってる。戦闘では一番頼りになる仲間だ」

そう言うと、次にカモメを見て、

「彼はカモメ。カモメも孤児院で知り合ったけど、同じムジカナに住んでたんだ。母は知ってるんじゃないかな、バニと仲が良かったみたいだから。カモメは〝天才〟で、彼こそが時代を変える程の革命を手にしてるって言っても過言じゃない」

と、次にパンダを見て、

「彼もムジカナに住んでたんだよ、やっぱりバニと仲が良かったみたい。彼の名はパンダ。何と言っても彼は〝多才〟で、1人で何もかも全てをこなす程なんだ。彼がいなかったら、何も始まらないよ。いつも、おどけてるけど、実際は一番のシッカリ者で、ボク等を支えてくれてる大きな柱だ」

と、次にシカを見て、

「彼はシカ。見ての通り、彼を表す言葉は〝端麗〟。でも見た目だけじゃない。彼はやる事する事全てがスマートで、その様は油断も隙もない。一番敵にしたくないタイプだけど、敵でも彼になら、うまく味方にされちゃうんだろうなって思う」

そして最後にリブレに目を向けると、

「彼女はボク等の中で唯一の女の子。ツナの相棒で名前はリブレ。ツナが最強なら、リブレは〝無敵〟かな。無敵のヴィーナスってとこ? 世の中ではサードニックスが無敵って言われてるけど、ボクが見た所、リブレの方が向かう所、敵なしって感じ」

と、全員の紹介を終えた。

カラは、皆を見回し、そしてシンバを見る。

皆は、〝最強〟〝天才〟〝多才〟〝端麗〟〝無敵〟と、自分を表す言葉を言ったシンバに対し、シンバにもシンバを表す言葉を言おうと、目で皆を見回しながら、

「俺達も俺達から見たシンバを――」

と、ツナ。

「勇敢で恐れを知らなくて――」

と、カモメ。

「でもそれって向こう見ず――」

と、パンダ。

「良くも悪くも、僕達にとって、彼を一言で言うと――」

と、シカ。そして、リブレも伏せの体勢から、お座りの体勢になり、皆で声を揃え、

「英雄」

そう言った。

「シンバは、俺の英雄です、シンバがいたから、俺にも、こうして仲間ができた」

と、ツナ。

「オイラの英雄でもあります。子供の頃からの憧れの英雄ですから、シンバは」

と、カモメ。

「いつも戦い抜いて、どんな時だって守ってくれる、オラ達の英雄だよ」

と、パンダ。

「聡明で、彼は、博識ある言葉で、心を救う。僕も英雄に救われた1人です」

と、シカ。

そんな風に思ってくれてたなんてと、シンバは嬉しくなるが、シンバ以上に、嬉しい表情を浮かべているのは、カラだ。

「良かったわね、シンバ。アナタは子供の頃になりたかった者になれたんだから」

「え?」

「父のような英雄になりたいと――」

「あぁ・・・・・・」

「父のような、騎士にはなれなかったかもしれないけど、英雄にはなれた。良かったわね」

「うん」

「アナタに友達ができてて、本当に嬉しいわ」

「うん」

「あの頑ななアナタを何が変えたのかしら?」

「うん、ボクはね、ある人に出会って、その人に救われて、守られて、助けられたんだ。彼はまだ若くて、これからの人生があった筈だった。けど、その人生をボクの・・・・・・ボク等の人生と引き換えに歩みを止めたんだ。最後まで笑顔で、彼は、彼こそ本当の英雄だった――」

シンバは言いながら、胸に熱く込み上げてくるものに、涙を薄っすらと浮かべ、

「大事な事、沢山教わった。共有した時間は僅かだったけど、ボクは大好きだった。直ぐに彼の虜になって、彼のようになりたいと願い、想い続けた」

「そう、その人のようになる為にアナタは変わって、今のアナタがいるのね」

頷くシンバに、カラも頷き、

「とっても素敵な大人になってて、本当に嬉しいわ。ここに来たと言う事はカーネリアンを復興させる為でしょう?」

と、突然、思ってもない事を言われ、シンバは、

「は?」

と、薄っすらと浮かべた涙も引っ込み、間抜けな顔で聞き返す。

「わかってるわ、アナタは、自分の生い立ちを調べて、カーネリアンを知ったのでしょう? それでここに来たのよね? 見ての通り、カーネリアンは国として成り立ってないわ。でも城下町にも少し人が残っててね、あのライガが、ずっとここを守ってきてくれてたのよ」

と、カラはドアの前に立っている騎士を見るので、皆、カラの視線を辿り、騎士を見る。まるで鎧の置き物のように、動かず、立っているライガに、アレ息してるよな?と、ツナの独り言。

「アナタとバニを逃がした後、私も賊から逃げ切って、その後、何日も探したのよ、他の孤児院にも連絡をしてもらったんだけど、レオパルドというセカンドの子は、いないと言われてね」

記憶喪失のふりしてたからなぁと、シンバは、ちょっと申し訳なく思う。

「もう諦めて、私も死のうなんて思ってた時に、そこにいる騎士のライガに出会ったのよ。カーネリアンに戻る気はなかったのだけれど、今も尚、王の還りを待っていると言うから、戻ってはみたのだけれど、やはり独特の文化を築いていたカーネリアンに、今更、無益で手を貸してくれる国もないし、次の王もいないのなら、残っている民達を、他国に受け入れてもらうしかないと考えていたの。でも、アナタがいるなら、話は別よ。王となる者が現れたんですもの、皆、苦しくても、頑張って、付いて来てくれるかもしれないわ、アナタに――」

「え? な、何言ってんの? さっきから、何言い出してんの?」

「何って、アナタがカーネリアンに来たから」

「い、いや、いやいやいやいや、違うよ! 違う違う、ボクがここに来たのは・・・・・・」

「今のシンバになら、きっと王を務める事ができるわ」

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!」

どんだけ〝いや〟を繰り返すんだと、ツナは笑いながら首を振るシンバに、

「俺は賛成だ」

そう言った。はぁ!?とツナを見るシンバに、

「僕も賛成だな。シンバくんは王になるべきだ」

と、シカまで笑いながら言う。

「ボクをネタにして笑いたいだけだろう!?」

そう言ったシンバに、

「笑う意味がないよ。それにオイラもその話は賛成だな」

と、カモメまでそんな事を言うから、

「ボク等がここに来たのはスカイピースについて知る為だ!!」

と、シンバは声を大にして言う。

「それもそうだけど、これもこれだよ、この話を進めながら、スカイピースの話も進めていけばいいじゃない? ね? パンダ?」

と、カモメが黙っているパンダに言うと、パンダは難しい表情で、

「オラは反対」

と、ボソッと呟いた。皆、シーンと静まり返り、パンダを見る。すると、パンダは、

「シンバが王になんかなったら、フォックステイルはどうなるの!?」

と、立ち上がった。

「フォックステイルはシンバだ!! シンバがいないフォックステイルなんて、有り得ない!! 王なんて駄目だよ!! シンバは王様じゃなくて、フォックステイルなの!!」

「どうしたの、パンダ?」

と、カモメが問うが、パンダは、ムッとした表情のまま、

「兎に角! オラは反対!」

と、目の前のテーブルに並ぶ料理が、まだまだ残っているにも関わらず、ソレをそのままにして、部屋を出て行くから、シカが、誰あれ?と、知らない人みたいだと、呟く。

「パンダの言う通りだ、ボクはフォックステイルなんだ、王になんかならないよ!」

と、パンダを追い駆けようとしたシンバに、

「待って、シンバ。オイラが行くよ、アイツとは、ガキの頃から一緒にいるから、わかるんだ。アイツ、ちょっと勘違いしてるって」

と、立ち上がるカモメ。勘違い?と、シンバはカモメに問うが、

「多分、アイツも賛成するから。シンバがカーネリアンの王の座に即位する事」

と、勘違いの意味を言わずに、パンダを追い駆けて行った。

シンバは溜息を吐き、ソファーに座り直すと、

「なんでみんな、ボクを王にさせたい訳?」

そうぼやく。

「俺達は、お前がリーダーでいてほしいだけだ」

と、ツナ。

「それに友達の恋を応援するのは友達として当然でしょ?」

と、シカ。

「恋?」

聞き返すシンバに、

「一国の王なら、ジェイドのネイン姫に求婚できる立場になれるって事」

と、シカ。成る程と、ツナが、

「それは考えてなかった。でもそうだな、王になれば、結婚相手になれる可能性はグンッと上がる訳だ。いいかもしんない」

そう言って、シカと盛り上がる。

「勝手に話を進めるなよ! 悪いけど、ボクは・・・・・・」

「シンバ、お前が王になる事で、俺達の居場所もできるんだぞ?」

「え?」

「いいか、フォックステイルはいつまでも続けられない。だが、この国の王が認めてくれるなら、シカはラブラドライトアイと言う目を隠さずに生きていけるだろう、元賊の俺だって受け入れてもらえるだろう? カモメとパンダはどこの国でもやっていけるだろうけどさ、多分、お前と共に頑張りたいと思ってる筈だ」

「・・・・・・頑張りたい?」

「そりゃそうでしょ、頑張るしか道はないよ、こんな何もない国」

そう言ったシカは、言いすぎ?と苦笑いする。

「いい友達を持ったわね、シンバ」

カラが、嬉しそうな微笑みを浮かべて、そう言って、

「シンバ、恋をしてるの?」

と、その優しい笑顔で、問う。

「しかもジェイドのお姫様?」

ふふふと笑いながら問うから、シンバはバカにされてるように思え、ムッとした顔で、別にと、まるで反抗期の子供みたいな返事。

「私も、アナタの恋を応援してあげたいけど、現実は凄く厳しいわ、アナタが王になっても、ジェイドのお姫様が妃に来てくれるなんて、魔法でも使わない限り無理だわ。ホントに、この国は潰れたままの状態なのよ、まずは資金を集めなければならないの。でも、今は、少ない民達を養うお金ですら・・・・・・」

カラの話を遮るように、シンバは立ち上がると、

「パンダを探して来る」

と、部屋を出て行った。

「ま、普通はそうだよね、王だと言われ、ハイそうですかって訳にいかないよ」

そう言ったシカに、カラは、困った表情を浮かべ、

「てっきり、その為に現れたのだと・・・・・・」

と、呟いた。ツナは、キョロキョロしながら、

「なぁ、あの騎士、どこ行った? ドアんトコにいねぇけど?」

と、ライガを探している。

「ライガなら、きっと、アナタ達が、何の危害も加えない者だと確信して、二階のフロアにでも行ったんだと思うわ」

「二階のフロア?」

「広いフロアで、いつも精神統一してたり、槍を持って、シャドー相手に戦ってたり・・・・・・昔は、騎士の訓練場があったのだけれど、今は潰れたまま、雪の下なのよ。だから、二階のフロアで、暇さえあれば体を鍛えてる人なの。若い頃からカーネリアンの騎士として生きて来て、カーネリアンだけを守る為だけに、生まれて来た人だから、兎に角、ずっと、鍛えてるの」

カラの話を聞くと、ツナは立ち上がり、1人、部屋を出て行った。

リブレも行こうとしたが、ツナが、待ってろと言う感じだったので、暖炉の前で、大人しく寝ている事にした。

残されたシカは、カラと2人きりで、何か話した方がいいかなと、

「その内、みんな、戻って来ると思います」

そう言った後、笑顔で、

「僕の事、覚えてますか? 同じムジカナにいたんですけど」

などと、どうでもいい事を聞いてみる。


シンバはパンダを探して、ドアが半分だけ開いている部屋を見つけた。

中からパンダとカモメの声がしてるから、入ろうと思ったが、二人の会話のタイミングで、いつ入ればいいのだろうと、その場で盗み聞き状態。

「パンダはどうしたいのさ?」

「だから言ってんじゃん、オラはフォックステイルをやめたくないって」

「それはみんなそう思ってるよ」

「だったら、シンバを王にするなんて、なんでみんな賛成するの!?」

「パンダだって、ホントは賛成だろ?」

「賛成じゃないよ、だって、だって――」

「パンダはフォックステイルをやめたくないって言うか、失いたくないんだろ?」

「え?」

「パンダは勘違いしてるよ、オイラ達は、みんな、同じ気持ちなんだ、絶対にフォックステイルを失いたくない。この世界から消えていなくなるなんて、絶対に駄目だと思うんだ。だってフォックステイルは絶対に正義だ。正攻法じゃないけど、悪に立ち向かう正義だ。それを失う事は、世界から正義が1つ消えるって事だ」

「うん! うん! そうだよ! カモメ、わかってんじゃん!」

「でもどんなヒーローも終わりは来る」

「・・・・・・そんなの、まだまだ先の話だよ。だってオラ達、まだやれるもん!」

「うん、そうだよね。でも、多分、オイラ達がこのままフォックステイルをやり続けても、どんなに頑張っても、意味はないんだよ。オイラ達は何も残してないから」

「・・・・・・どういう事?」

「ヒーローってのはさ、子供達に正義を見せ付けて終わるもんだろ? なんで子供達かって、それはこれから大人になっていく子供達に、正義を知ってもらいたいからだ。シンバやツナの憧れの元祖フォックステイルがいい例だよね。彼は凄いと思うよ、オイラ達を正義の道へ導く程の衝撃を与えたんだから。だってさ、彼も若かったけど、あの頃のオイラ達と彼の年齢だと、10以上は離れてると思うんだ、て事はさ、オイラ達の方が、寿命的には10年は彼より長く生きる。10年で世界はかなり変わる。その10年を彼は選んだんだよ、未来の10年を選んだ。彼は自分の命を捨てたんじゃなく、この世界の未来を救おうと決めたんだ。だけどフォックステイルは闇に消える存在。彼もそれを願ってる。彼の願いはシンバの願いだ。それにフォックステイルは真っ当な職業じゃない。誰も継いじゃ駄目なものだ。言ってしまえば、賊と同じだよね」

「でもオイラ達は継いだじゃないか!」

「それは勝手にね。承諾は得てない」

「いい事をするのに承諾なんていらない、真っ当じゃないからって消えればいいってもんじゃない! 彼は本当に凄いと思うよ、どうしてそこまでして彼は無償になれるんだろうって未だに考える! オラには到底マネできない。でもオラ達は彼を知ってる分、そして彼になろうと決意した分、やっぱりフォックステイルを残すべきだ! だってオラ達は知ってるんだ、彼がどんなに凄いかって・・・・・・」

「うん。凄いって単純な言葉しか出て来ないくらい凄いよね、でもソレを後世に残す? そりゃオイラ達のフォックステイルを知ってる子供達もいるけど、本当の活躍なんて知らない。だから、きっと、パンダはフォックステイルをやめたくないんだよ。だって、オイラ達の中で、パンダが一番、第三者としてフォックステイルを見て来たんだもんな。裏方作業のパンダはフォックステイルが活躍する本番を、客観的に見て来た。だから知ってるんだ、それがどんなに凄い事かを。そして誰かに伝えなきゃいけない事かを――」

「・・・・・・そうだよ、知ってるよ、だってオラ達、頑張って来た」

「うん」

「・・・・・・なのに、何一つ、何も残せず、闇に葬って」

「うん」

「・・・・・・折角の大事な事が、何も伝えられないまま終るなんて」

「うん」

「・・・・・・そんなの、オラ、嫌だよ」

「うん、オイラも嫌だ。多分、みんなも嫌だって思ってる。だから伝えようよ!」

「え?」

「シンバにそう話せよ!」

「え、だって、そう話しても、シンバはフォックステイルを公にしないよ。そりゃジェイドとかで騒ぎ起こしたりしたけど、指名手配にもなったけど、でも、その程度、いつかは噂話で消えて行く事で、伝えられる話にならない。もっと公にしたいって言っても、きっとシンバは駄目だって言うよ」

「駄目かどうかは、伝え方次第だよ。兎に角、不貞腐れててもしょうがないだろ? 大人なんだから、ガキみたいに拗ねても意味がない、シンバにちゃんと話すんだよ、きっとわかってくれるよ。オイラも、援護するからさ」

「カモメが援護してくれても、ツナもシカも駄目って言うよ!」

「そんな訳ない。みんなパンダと同じ気持ちなのに、駄目なんて言わないよ。パンダが勝手に勘違いしてるだけだって!」

――何を考えてるんだ、カモメ。

――ボクはパンダの言う通り、フォックステイルを公になんてしないぞ。

――話し合っても無駄な事を話し合わせて、何をしようって言うんだ?

パンダとカモメの会話を聞きながら、今が中に入って行くチャンスかなと思った時、二階から物音がした。シンバは天井を見上げ、二階に誰かいるのか?と、階段を上った。

広いフロアで、ツナとライガと言う騎士が会話をしているから、何故あの2人が?と、シンバはまたも盗み聞き状態。

「なぁ、ジィさん、幾つか聞きたい事があんだけど」

「わしも聞きたい事がある」

「おー、いいぜ、何でも聞いてくれよ」

「陛下が、彼を息子だと言うのなら、彼は本当に息子なのだろう、疑う余地などない」

「あぁ? うん。え? だから?」

「王子は・・・・・・」

「王子? あぁ、シンバの事な?」

「王子は、この国を救う気がないのに、何故、ここへ現れたのだ?」

「救う気がない? アンタ、俺達の王子バカにしてんのか?」

ツナのその台詞に、王子じゃなく、リーダーと呼べよと、ツナが一番バカにしてるじゃないかと、シンバは額を押さえ、溜息を漏らす。

「アイツはなぁ、救えるのに救わねぇ奴じゃねぇ! 只、今はカーネリアンに人がいた事や母親との再会で、困惑してるってのに、懐かしいとか嬉しいとか、そういう感情だけでなく、考える事が山積みの難題まで押し付けられて、どうしていいか、わからなくなってるだけだ。俺達はカーネリアンと言う国の復活の為に、ここへ来た訳じゃねぇからな。別の目的で来ただけで、まさかの展開に、天変地異の如く、俺達も驚いてんだからよ」

「・・・・・・別の目的とはなんだ?」

「あぁ、まぁ、カーネリアンの歴史について? そんなとこかな」

「・・・・・・何故、そのような事を調べるんだ? そんな目的の為に、この島に来るなど無謀だ」

「おー、そうなんだよ! それが聞きたかったんだ、この島に来るのに、俺達がどんだけ苦労したか! でもジィさん達はこの島を出る手段があるんだよな? じゃなきゃ、貧しくとも、生活はやってけねぇだろ。自給自足できる気候でもねぇしな。吹雪の中、農作物も育てられねぇだろ? 食べ物を買うにしても、島を出なきゃならねぇよな? 他にも必要品はイロイロあるだろ、ソレ等を手に入れる為に、どうやって島を出てるんだ?」

「昔、ダムド国がこの国に攻め入った時、幾つモノ軍艦が、島を囲んだ。あの時は敗北してしまったが、こちらも何人もの兵を倒し、幾つかの軍艦が残った。その軍艦は海に浮かぶ厚い氷さえ、割り進んで行くものだ。ソレを使っている。だが、その船で他の大陸まで行く訳にはいかんから、途中からボートに乗り換える。そうして必要なモノを買出しに行くのだ。その時に陛下にお会いし、ここへと戻ってもらった」

「そういう事か。ジィさんを含めて、何人がいる訳?」

「城には陛下とわししかおらぬ。民は子供も含めて数十人程――」

「数十人・・・・・・少ねぇな・・・・・・」

「あぁ、少ない。わしが皆を助けれなかったからな。わしは騎士として弱すぎる」

「ジィさんが弱い?」

「ここはな、とても平和な国過ぎて、戦う事のない国だったんだ。こんな吹雪が続く島など、誰も来ないが、その分、争いもなく、笑顔が溢れる国だった。騎士も欠伸をして過ごす毎日だった。だからダムドに襲われた時は、簡単に潰されたものだ、わしではなく、今の陛下が、直々にダムドの騎士と最後まで戦いぬく程に、数人の子供を隠れさせるだけの時間しか手に入れられなかった。今では、その数人の子供達が、子を生み、数十人に増えたと言う訳だ・・・・・・」

「だからジィさんは強くなったのか? だから他所から来た俺達を追い払おうと戦ったのか? また他所から来て、簡単に潰される悪夢を見たくねぇから?」

「そうだ、その通り。わしは守らねばならぬモノを守れなかった。もう遅いかもしれんと思いながら、それでも連れ去られた陛下が生きていると願い、信じ、祈りながら、ずっとカーネリアンを守ってきた。王なき城は王の帰還を、わしと共に待ち続けた。王さえ戻ればと思って来たが、甘い考えだ。国として復活するには何もかも失いすぎた・・・・・・」

「その両目は、その時の戦でか?」

「いや、やられたのは片目だけ。もう片方は自分で潰した」

「自分で?」

「片目だけではバランスがとれない事に気付いた。剣を持ち、戦うのであれば、体の重心が大事だ。目で見るならば距離感も片目だけでは正確に計れない。中途半端に失ったモノは中途半端に役に立ちすぎる。中途半端というモノは一番厄介だ。努力しても補えるモノは正確なモノではなく、中途半端なモノを中途半端に強くするだけ。只、生きるだけならばいいが、わしには生きるならば騎士しかない。この城のガーディアンになる為ならば、中途半端なモノなど必要ない。戦う時にだけ目を閉じるなどという甘い考えも持った。だが普段の生活で目を使えば、当然、戦になった時も目を使ってしまうだろう。捨てるしかなかった。だが、それで正解だった。中途半端なものを捨てたら、残った正確なものが強くなったのだからな。そして、剣は捨て、槍へと変えた。目が見えなくても、一番鋭く光る一点が、一番感じれる武器にな。今では何も見えなくとも、見えてる頃より、強い」

「そりゃ・・・・・・すげぇ覚悟だな。何かを守る為ならば自分を捨てる事も惜しくないって考え、俺は好きだ。すげぇカッコイイと思う」

「カッコイイ、か。もっと若い頃に言われたかったなぁ」

「そうか? 俺はジジィになってからでもいい、そう言われてみてぇよ」

「言われるだろう。そんな空気を纏っておる」

「俺の空気? 俺の空気を感じるなら、わかるだろ? 俺は元賊だ、俺の経歴は生まれた時から賊だ。どこへ行っても爪弾きにされる存在。ガキの頃からそう思って、自分の生い立ちを憎んだ。自分が大嫌いだった。シンバに会う迄は――」

「王子に?」

「アイツに会う前に、すっげぇジィさん並にカッコイイ人に出会って、憧れて、俺もそうなりてぇって思ってたんだけど、俺は人と馴れ合う事なんてできねぇから、独りでいつも強さだけを求めて、剣を握り締めてた。俺もジィさんと一緒。これしか脳がないから、生きるなら、強さしかねぇから。だから憧れの人になれなくても、憧れの人を守れる存在になれたらって、もっともっと強くなって、いつか憧れの人を守って生きていくのが俺の夢だった。でもさ、ジィさん、俺はアンタと違って、最初から闇の中で生まれたから、光になろうとすればする程、それは自分の闇を大きくするだけだったんだ」

「だろうなぁ、賊と言う黒いシミは、正義に生きようとすればする程、真っ白な場所に浮かび上がって見え、余計に目立つだろう」

「でもシンバに出会って、俺の闇は、シンバの光で照らされて、目立たなくなった。賊である事なんてどうでも良くなった。ありのままの俺を仲間として受け入れてくれるシンバに、俺は忠誠を誓ってる。俺の夢は、いつしか、何があってもシンバだけは守り抜くってのになってた」

「王子は幸せ者だ。そんな風に思ってくれる友がいる人間は、そうはいない」

「なぁ、ジィさん、俺にアンタの強さを受け継がせてくんねぇかな」

「なに!?」

「俺はシンバを守って行きたいんだ。一生かけてシンバを守り抜いてみせる。ここがシンバの国になり、シンバの大事なモノが集まり、シンバのかけがえのない時間となるのなら、俺はここを・・・・・・カーネリアンを守りたい。ジィさん、アンタのようになりてぇんだ。俺にアンタを受け継がせてくんねぇか」

「・・・・・・バカな事を言うな。わしのようになりたいだと? わしを受け継ぐだと?」

「駄目か?」

「お前、この国の現状をちゃんと、その見える目で確認した方がいい」

「どういう意味だ?」

「騎士はわし独り。わしはこの年齢になっても妻も子もおらず、人並みの幸せもない。この先、この国の未来も見えず、だがわしはわしのやれる事しかできず、生きておる。お前が王子を守りたいならば、勝手に守れば良かろう。わしを受け継ぐ必要などない。王子が国を受け継いでも、未来の見通しさえできぬもの、それは地位のない王の座だ。しかし形だけの形式で、数少ない民達を本の一時でも安心させてやろうという陛下のお考えだろう。王子が現れた事は民達にとって、束の間の喜びとなるだろうから、この国を救う気があるのであれば、形式だけの儀式を受け、王の座に着いてくれればと思っておる。そして民達に、この国の終わりを伝え、島を出るよう、命じて下されば・・・・・・」

「なんだよソレ? ソレならアンタが守ってきた意味ねぇじゃん」

「そろそろ引退だからな。人は永遠じゃない」

ライガのその台詞に、シンバは俯き、その場を離れた。

人は永遠じゃない、だからこそ、受け継ぐ命がある。

どうして人は永遠じゃないのだろう。

フックスが生きていてくれればと、どんなに願っても届かない。

それでもフォックステイルは永遠であってほしい。

終わらせなきゃいけない。

永遠に終わらせたくない。

その葛藤が日に日に大きくなる。

実際、もうすぐ終わらせなければならないと言う現実が迫っている。

だけど、今直ぐに終わらせる気はない。

賊達は、まだ地上でのさばって、孤児達も増えている現状で、フォックステイルを終わらせる訳にはいかない。

シンバは、こんな国で王なんてやってる暇はないと、ハッキリ母に伝えておこうと、最初に案内された部屋に戻る事にしたが、そこでもシカとカラの会話を盗み聞きする事になる。

「病院と言う施設はあるのに医者がいないって、致命的ですね」

「そうなの、生き残った者が子供達だったのね、あの頃は子供だったけど、今はもう立派な大人で、アナタ達より年上だし、例え健康な体でも衰えは来るから、せめて医学の知識がある人が必要だわ。それに皆、この国に少しでも民を増やそうと、愛する二人が家族になると、皆、子作りに励んでくれて、今も妊娠してる女性がいるのね、分娩はその都度、大変だったみたいで、今の所は無事に生まれては来てるけど、これからの事を考えると、やっぱり――」

「島を出る事は考えてないんですか?」

「考えたみたいよ。でも・・・・・・」

「あぁ、うん、わかります。僕達も同じです」

「え? 同じ?」

「あのライガって言う人でしたっけ? その騎士がきっとこの国の民達にとって、僕等のフォックステイルなんです」

「フォックステイル? そういえば、そのフォックステイルってなんなの?」

「僕達が子供の頃に出会ったヒーローです。僕達も、そのヒーローから、いつまでも離れられないでいる。ましてや、ライガさんは生きて、ちゃんとそこに存在してる。みんなの心の中で生きてる訳じゃない。だから離れたくないんですよ。ヒーローの傍を――」

シンバはまた深い溜息を吐きながら、その場を離れ、居場所もなく、只、城内を歩く。

ぼんやりとしながら、シカが〝いつまでも離れられないでいる〟と言った台詞に、依存してるのかなぁと考える。

「早く早く!」

「待ってよ!」

「こっちだってば!」

その話し声に、シンバは足を止める。見ると、小さな男の子と女の子が駆けて行く。

まだ溶けてない雪が2人の足跡のように、点々と続いていて、その先にあるドアは子供が入れる程の隙間が開いている。

シンバがソッと中を覗くと、そこは礼拝堂だった。

城の中に教会が?と、思わず、ドアを開けて、中を見回しながら足を踏み入れると、シンバに驚いた子供2人が手を取り合って、脅えているような目で見つめてくる。

「ごめん、突然、現れて、驚かしちゃったね」

微笑みながら、近付くシンバに、子供はお互いを見合い、そしてまたシンバを見る。

シンバはミリアム様の銅像を見上げると、また子供達を見る。子供達はジッとシンバを見つめているので、シンバは、その視線に合わせ、中腰になり、

「ミリアム様にお祈りを捧げるの? ボクも一緒にお祈りしてもいい?」

そう聞いてみた。

「・・・・・・お母さんが」

女の子がそう言うと、

「・・・・・・お腹に赤ちゃんがいて」

男の子がそう言うと、

「・・・・・・ちゃんと生まれますようにって」

女の子がそう言うと、

「・・・・・・お願いするの」

男の子がそう言うと、

「・・・・・・赤ちゃんが生まれる時」

女の子がそう言うと、

「・・・・・・お母さん苦しそうなんだ」

男の子がそう言うと、

「・・・・・・去年も生んだんだけど」

女の子がそう言うと、

「・・・・・・とっても苦しそうだったから」

男の子がそう言うと、

「・・・・・・今度は余り苦しくないようにって」

女の子がそう言うと、

「・・・・・・2人だから2つお願いするの」

男の子がそう言って、2人はお互いを見合い、シンバを見た。

「そうか。赤ちゃんがちゃんと生まれますように、お母さんが苦しくないように、2つね」

シンバは指を2本立てて、そう言うと、ニッコリ笑い、

「じゃあ、僕は2人の願いが叶いますようにってお祈りしようかな」

そう言って、2人の頭を撫でる。2人はコクンと頷き、笑顔になった。

祈りを捧げる子供に、シンバはこの国の未来を考える――。

祈り終わった子供に、シンバは、お得意の魔法で飴玉を出し、プレゼントすると、その飴玉を手の平に置いて、ジッと見つめ、

「これ、弟や妹にあげてもいい?」

そう聞いて来た。シンバは頷き、

「ポケットの中に手を入れてごらん? みんなに分けてあげなよ」

そう言うと、男の子と女の子はポケットから沢山の飴玉が出て来るから驚いた顔をするが、その驚きの顔は嬉しい驚きの顔で、万遍の笑顔になる。

「ありがとう、魔法使いのおにいちゃん!」

と、そう言って、教会を出て行った。

シンバは子供達がいなくなった教会で、独り、ミリアム様を見上げると、

「・・・・・・ホントの奇跡、起こしてよ」

そう呟く。

奇跡はない、魔法は嘘、存在は偽り、欺いて生きるのがフォックステイル。

「シンバ! ここにいたんだ、探したよ、パンダが話があるって」

と、カモメが迎えに来た。シンバは頷き、パンダに、ちゃんと応えられるのか考えながら、カモメと一緒に、部屋に戻る。

「すっかり料理も冷めちゃったわ」

と、カラは深刻な顔のシンバに言うが、シンバは黙ったまま、パンダを見る。

「シンバ、どうした? 妙に深刻な顔だな」

ツナの問いに、シンバは、別にと、少し笑って見せ、またパンダを見て、

「話って?」

そう聞いた。パンダは頷き、少し話し難そうな顔をしながら、

「あのね、シンバ、ごめんね、オラ、シンバが王様になるって言うのを反対して」

そう言うから、

「あぁ、いいよ、そんなの。ボクは、王になんてなる気ないから」

と、シンバは、ハッキリと、皆がいる前でキッパリ答えた。

「え、そ、そうなの? で、でも王様になってもいいよ」

「ならないよ。それがパンダの話?」

「あのね、シンバ、話は別にあって・・・・・・オラはフォックステイルを伝えたいんだ・・・・・・」

「伝えたいって、誰かに受け継がせたいって事?」

「そうじゃなくて、受け継ぐとか、オラわかんないんだけど、オラ達の頑張りを誰かに知ってもらいたくて・・・・・・何て言うか、フォックステイルは正義だよ。絶対に正義だ。だから子供達に正義を伝えなきゃいけない。それはフォックステイルの役目だと思うんだ」

そんなの無理だろと、言おうとしたシンバより、先に、カモメが、

「ソレ、とってもいい案だよね」

そう言うから、何が?と、シンバはカモメを見る。パンダも、カモメにクエスチョン顔。

「パンダの案は、うまくいけば、この国の資金として、この国を救う事になるかもしれない。それにフォックステイルを永遠に存在させれる事になる」

「永遠に?」

眉間に皺を寄せ、尋ねるツナに、頷くカモメ。

「フォックステイルは永遠に子供達のヒーローとして存在させられる。うまくいけばだけど、オイラ達が死んだ後も、フォックステイルは生き続ける」

「そんな事が可能なの?」

そう問うシカに、頷くカモメ。

「カモメ、何を考えてるのか、わかんないけど、フォックステイルは闇に葬らなきゃいけない存在だ。今直ぐじゃないけど、いつかは消えなきゃ。フォックステイルなんて存在しないんだから」

そう言ったシンバに、カモメは、勿論と頷き、

「フォックステイルなんて存在しないよ」

あっけらかんと、そう言うから、

「だったら、オラの案とは違うよ」

と、パンダが言うと、ツナが、イライラしながら、

「もったいぶらずに考えを述べろ」

と、カモメを睨んだ。カモメは頷き、

「フォックステイルの絵本を出すんだよ!」

声を大にして言った。皆、絵本!?と、目を丸くして、カモメを見る。

「ジェイドでバイトした時さ、パンダ、子供達に、絵本を作ってたんだよ。オイラ、ちょっと見たんだけど、なかなかいい出来だなぁって、思ってた。で、フォックステイルとして、いつも裏作業専門のパンダなら、フォックステイルを客観的に見て来てるでしょ? だからストーリーも書ける筈だ。フォックステイルはフィクションとして、現実には存在しないけど、絵本の中のヒーローとして、子供達の中で存在する。もしうまくいけば、絵本が売れて、オイラ達がいなくなった世でも生き続ける」

カモメの考えに、

「成る程。絵本が売れれば、国の資金にもなるって訳か」

と、ツナ。

「流石、閃きの天才」

と、シカ。

「オラ、それ作りたい! 只の絵本じゃなくて、開けたらビックリするような仕掛けで、子供達が驚く奴! 音が鳴ったり、絵が飛び出したりする奴! ジェイドで、バイトしてた時も、子供達に、そういうの作ったんだ!」

と、パンダ。

「いいね、仕掛け絵本。フォックステイルらしい絵本になる」

と、カモメ。

「それをカーネリアンのマークを入れて売り込めば、国の知名度も上がるね」

と、シカ。

「なんか、そういうの、ちょっと、わくわくするな」

と、ツナ。そして、黙っているシンバを見て、

「俺もこの国で騎士がやりてぇんだけど」

そう言った。するとシカが、

「僕も医療について勉強して、この国で医師としてやっていけたらって思ってる」

なんて言い出し、カモメが、

「オイラは学校を作りたいんだ!」

なんて言い出すから、皆、学校!?と、カモメを見る。

「おいおい、お前、学校ってなんだよ? そうじゃねぇだろ、お前の才能は発明だろ?」

ツナがそう言うと、シカが、

「そうだよ、折角の天才頭脳を生かして、発明を売り込んだ方がいいよ」

そう言って、パンダが、

「カモメは歴史に名前を残す仕事をした方がいいよ」

そう言った。カモメは黙っているシンバを見る。そして、

「シンバ、言ったよね、オイラの事、時代を変えれる程の革命を起こせるって」

そう言うと、

「自分を過大評価する訳じゃないけど、謙遜もなく言うと、その通りだとオイラも思う」

と、自分の才能を自分で認める台詞を言う。

「オイラの発明品をカーネリアンのモノとして売り込めば、そりゃ間違いなく資金は直ぐに集まるだろう。でもゴメン。オイラはオイラの発明をフォックステイル以外に使わせる気はないし、金儲けの為には使いたくないんだ。オイラの発明品は使い方によっては、とても危険なものだ。間違った使い方をしてしまう恐れのある人間達に、魔法を与えたくない。でも魔法を受け継いでもらいたいから、間違った使い方をしないように魔法を教えたいんだ。子供達なら素直にオイラの教えに真っ直ぐに応えてくれると思う。学校なら、少なくても何人かの子供達が、オイラの技術を受け継いでくれる筈。その子供達が大人になれば、本当に世界は変わると思うんだ。この理想はオイラの小さな一歩で、革命でもある。オイラは偉大なる魔法使いを未来に生み出そうとしてるんだから」

シンバはその話を黙って聞いている。ずっとシンバが黙っているので、皆、不安になる。

「シンバ? オイラ、教員免許とか取って、どっかのスクールとかで働いて、教科書通りの事なんてやりたくなくて、でも教科書に載ってない授業なんてやったら、どこのスクールでも問題になって、直ぐにクビになると思うんだ。国だって、そんな教員を黙って放っておかないだろうと思う。それにどこの国の学校でもいいなら、シンバが治める国の学校がいい。シンバなら魔法授業に賛成だろ? 駄目?」

「僕もラブラドライトアイの事もあるし、他国で医療を学べて、その後うまく医師になれても、悪魔というものが纏わりついて、どこの病院も雇ってくれないだろうし、ましてや開業なんて、どこの国も認めてくれないだろうと思う。でもシンバなら僕を認めてくれて、僕をこの国の医師として置いてくれるよね? 駄目?」

「オラは絵本を作りたいよ、この国でフォックステイルを不滅の存在にして、いつまでも子供達のヒーローで、フォックステイルの活躍を伝えるんだ。でもそんな絵本を許可してくれるのは、この国しかないよね。だってフォックステイルの存在を正義だと認めてる王がいる国は、ここしかないでしょ? この国から架空のフォックステイルを発信させて、世界中でカーネリアンを知ってもらって、フォックステイルを知ってもらおうよ。シンバも絵本が出来たら読むでしょ? 自分の活躍、知りたいでしょ? 駄目?」

「俺も・・・・・・俺もここで騎士をやりてぇんだけど・・・・・・・」

ツナは、それは王の許可だけでなく、騎士の許可も必要だと、ライガをチラッと見る。ライガはツナのチラッと送られた視線を感じたのだろう、

「健康なのか?」

まるで面接でも始めるかのように、そんな台詞を吐いた。ツナはコクコク頷き、

「酒も煙草もしねぇし、健康にだけは気をつけてる。戦士は体が資本だ!」

そう言った。

「騎士はわしだけ。お前が騎士となり、わしが引退すれば、お前独りだ。愛する女がいたとしても結婚なんぞしてる暇はないぞ。たった独りで国を守るんだ、女と添える事はない道だと思え、愛する女を第一になど考えられぬぞ、お前が第一に考えるべき事は、王をお守りし、民をお守りし、カーネリアンを守り抜く事だ」

「当然! 愛する女なんていねぇし、適当に遊べりゃ充分! あ、いや、遊ばねぇし! 結婚なんて向いてねぇし! 俺には戦うしかねぇから!」

「日々、平穏で何もなくとも、訓練は欠かせない。だが弱音は吐けない。身も心も疲れ果て、頼られはしても、頼る事はできない。血を吐く思いをするぞ」

「慣れてる」

「本当にいいのか? 決めたら引き返せぬ道だ」

「俺は元賊だ。引き返したら賊に逆戻りだ。そんな恥じる道、死んでも戻らねぇよ。寧ろ、元賊の俺でいいのか? 決めたら撤回させねぇぞ」

ライガは、いい度胸だと、ニヤリと笑い、

「騎士の素質がある者が、元々何だろうが、わしは別に構わん。陛下と王子さえ良ければ、何の問題もなく、鍛え抜いてやる。わしの全てを教え込む訓練に耐え抜けるならな」

と、

「まずは騎士見習いとしての許可を、未来の王からもらえ」

そう言って、目が見えぬものの、顔をシンバの方へ向けた。

「王子は友人と素晴らしい絆を持っておられますな。ここへ現れ、直ぐに王子の地位について、破滅の道を辿らぬよう、皆で支える道を作り、皆で歩もうとしておる。本当は形式だけの王の座に着いて、民達に一時だけでも安心を与えたいと思っておったのだが、王子の友人の話を聞いておると、カーネリアン完全復活を実現できそうだと思ったんでな、やはり王子には一生王子として、カーネリアンを背負って頂きたく思っております。カタチだけでなく、正式に王子として、そしてやがて王として――」

黙っているシンバに、カラも黙ったまま、シンバが何か喋り出すのを待っている。

今、暖炉の前で寝ていたリブレが伸びをして、欠伸をした後、また眠り出した。

時間が経過していくが、シンバの沈黙は続く――。

みんなの視線と沈黙に、シンバは大きな溜息を吐くと、

「ボクは王になりたくない。絶対に嫌だ。大体、本当にボクが、王になれると思ってるの? 孤児だったんだ、孤児院で育った。その後は無職で、バイト生活。でも、それがボクに合ってる」

みんなを見て、そう言うと、皆、何故か驚いた顔をするので、

「何、その顔?」

そう聞くと、

「何言ってんの?」

と、カモメ。

「なれないと思ってるの?」

と、シカ。

「お前になれないものなんてあるのか?」

と、ツナ。

「ジョークにしては、間が開きすぎだし、顔が怖いから笑えないよ?」

と、パンダ。

「あのさぁ!! そりゃボクの特技はコピーだよ! 見よう見真似で、誰にだってなれる! 女の声も出せるし、年老いた声も出せる! でもそれはコピーする相手がいるから、なれるものであって、コピーする相手もないのに、どうやって王になれるって言うんだ!? それに、そういう事じゃないだろ、王になるって!」

そう怒鳴るシンバの事など無視するように、シカが、

「ネイン姫を好きな人ぉ? 手を挙げて!」

などと言い出し、まるで、皆、 打ち合わせでもしてたかのように、サッと手を挙げる。なんだそれ?と、シンバは眉間に、皺を寄せて、4人を見る。

「あれ? リーダー? ネイン姫、嫌い?」

手を挙げないシンバに、シカが不思議そうに尋ねる。

「突然、何の質問だよ?」

「いや、だから、リーダーが言い出したんだよね? ネイン姫は、僕等の仲間だって。そう言ったよね?」

「え?」

「フォックステイルの仲間だって言い出したのはリーダーだ。でもネイン姫はまだ僕等の仲間じゃない。仲間にするなら、カーネリアンに来てもらうしか方法はないと思う。それにはリーダーが王としてカーネリアンを背負うしかない。僕等はネイン姫を好きだから仲間に迎え入れる事に誰も反対はしない。あ、心配しなくていいよ? 好きって言っても仲間としてって事で、1人の女性としてって意味じゃないから」

笑顔でそう説明するシカに、なにそれ?と、シンバは呆れた顔になる。

「あのさ、根本的に間違ってるんだよ。ツナが騎士になりたいならそれでいい。だけどカーネリアンで騎士をしたって、こんな吹雪の島に誰が攻めて来る訳? 王を? 民を? 国を守る? 何も成り立ってないものを守る必要はない。シカの医師になるってのも、1人や2人の患者を診たって意味ないだろ、だったら病人はちゃんとした設備の整った病院へ運んだ方がいいし、確かにシカの薬剤師としての腕は認めるけど、重病の患者が出た場合、こんな吹雪いてる島でどうする訳? 手術が必要だった場合は? カモメの学校の先生なんて話にもならないよ。外は吹雪きなんだ! 吹雪いてるんだよ、こっぴどく雪が吹雪いてる所で、民の数もない所に学校!? ソレ、天才の考える事じゃない。パンダの・・・・・・絵本は・・・・・・印刷所もあるし、いいと思うけど、何もカーネリアンじゃなくても、ちゃんとした出版社のある国でやればいいと思う。吹雪いてる中で、大量生産して、外へ持ち出すのは無理がある。つまり、伝説の飛行機乗りの口から、危険空域とまで言われた空があるカーネリアンでは、何もできないんだ! それくらいわかってるだろう!?」

シンバが言う事は尤もで、当然なのだが、4人とも、わからないと言った表情。

それはシンバの言っている事が、ではなく、シンバらしくない態度がわからないのだろう。いつものシンバなら、後先考えずに、やってみなくちゃわからないと、手を差し伸べる。

国が成り立ってないからと言って、国を復活させたいと願ってる者が少数でもいるならば、シンバなら手を伸ばし、協力し、誰よりも前向きに歩き出すからだ。

皆がわからないと言った顔で、シンバを見ているから、

「なんだよ、その顔! リーダーはボクだ! ボクの言う事聞いてればいいんだよ!」

そう怒鳴るシンバに、カラが、

「なんて事言うの!!」

と、大声を出した。

「みんな、アナタの為に言ってくれてる事でしょう、なのに、なんて事を言うの! アナタは、大人になっても、あの頃のままなのね、やっぱり何も変わってないのね、傲慢なあの人にソックリだわ!」

そう言った。シンバはあの人って父の事かと、余計に顔が怖くなる。

「どうして友達がアナタの為にイロイロと考えてくれてる事を受け入れられないの? アナタの為に、みんな、やってみようとしてくれてるんじゃないの?」

「大きなお世話だ、そんなの望んでない」

「みんながうまくいくように、みんなの望みが叶うように、みんなが笑顔になれますようにって、みんなで頑張ろうとしてるんじゃないの? それをアナタは大きなお世話だと、望んでないと言うの? 言っておくわ、アナタは王族の血が流れてるの、望んでなくても、アナタがやるべき道なのよ! それをみんなは、わかってるから、アナタに協力したくて助けたくて何とかしようとしてくれてるのよ!」

「そんなの言われなくてもわかってる!!」

大きな声でそう怒鳴るシンバ。

「何がわかってるの!?」

と、更に大きな声を出すカラに、ツナが、

「あの!!」

と、もっと大きな声で、シンバとカラの間に入った。

「シンバに、そんな事、言わないで下さい」

ツナが、そう言うと、カラは、ツナを見た。

「俺、シンバのお母さんには感謝してるんです」

「感謝? 私に?」

「シンバを、この世に生んでくれたから。だから、シンバのお母さんには、感謝してます。でも、シンバに酷い事を言うのは、やめて下さい。大人になっても、あの頃のままだとか、何も変わってないとか、傲慢なあの人にソックリだとか」

「・・・・・・」

「俺は、ムジカナにいた頃のシンバは、知らないけど、俺と出会ってからのシンバは、本当に、いいヤツです。その後もずっと変わらず、いい奴です」

ツナがそう言うと、カモメが、

「オイラも、オバサン、ちょっと間違ってると思う」

と、

「確かに、ムジカナにいた頃のシンバって、嫌な奴だなぁって思ってたけど、オイラも、シンバを知ろうともせず、嫌ってたから、シンバからしたら、オイラは嫌な奴だったと思うんですよね」

と、すると、パンダが、

「確かに! オバサンが間違ってるよ。オラも、小さい頃、シンバ様とか言って、陰口みたいなの言ってて、スッゲェ嫌な奴だったよ。今なら、シンバにそんな事言うな!って、ゲンコツ食らわしちゃうね!」

と、頷き、シカが、

「お互い様だよね。子供の頃の、そういうのって、みんなあると思うし、今は、大事な友達で、シンバくんの性格が、すっごくいいのも知ってるし、それって、オバサンより、僕達の方がシンバくんを知ってるから、間違ってるのは、オバサンだと思う」

そう言うと、

「オバサンオバサンと、お妃様に失礼な発言をするな!!」

と、ライガが怒り出し、いたの?と、槍をしまいなさいと、オバサンでいいのよ、あの子達が子供の頃からの話しなんだからと、ご近所に住んでた子達なのよと、カラが、怒るライガに、落ち着いてと、言っている間、ツナが、シンバに、

「なぁ、ちゃんと思ってる事、言えよ。じゃないと、また俺とお前が誤解したまま別れたみたいになる。折角、母親が生きてたんだ、ちゃんと話さないとわかんねぇだろ、言いたくないって訳にはいかないぞ? それだけ嫌だって言うなら、それなりの理由をちゃんと話さないと、誰も納得しない。リーダーならリーダーとして、ちゃんとしろよ」

と、シンバを見つめた。皆がシンと静まり返り、シンバを見ている。すると、

「みんなが、大事だから・・・・・・だから嫌なんだよ・・・・・・」

シンバはそう呟いた。

「ボクだって、この国にいる子供達を見捨てたくないし、カーネリアンがこうして存在してるって事もあるし、何とかしたいとは思う。母の子である以上は王族の血から逃れる事はできないってわかってる。でも・・・・・・王族になりたい訳でもないボクが、今更この年齢で王子だったと聞かされてもピンと来ないし、好きでもない事に頑張れるかどうかもわからない。それに、この国の未来を見通しさえできないのに、このまま潰れてしまう可能性が高い国を背負う事に、大事な友達を巻き込みたくない。みんなには幸せになってもらうんだ。こればかりは譲れない。絶対にみんなを、巻き込みたくない! この国の子供達より、ボクは、自分の仲間が大切だ」

シンバはそう言うと、みんなを見て、

「ボクが王をやるって言ったら、みんな、こんなムチャクチャなどん底にある国を救おうと必死で頑張っちゃうだろ。頑張ったって、どうにもならない事を、頑張っちゃうだろ。そんな無駄な事はさせたくない。みんなのチカラは、みんなが幸せになる為に使ってほしいんだ。お願いだ、ボクをリーダーだって言うなら、ボクの言う事を、たまには、ちゃんと聞いてくれよ」

願うように、そう言った。

みんな、暫く黙っていたが、ツナが、話し出した。

「なぁ、シンバ? 俺達にメチャクチャ頑張らせてくれよ。今まで、そうやって一緒にやって来たんじゃねぇか。月夜の晩にはミリアム像に金貨の涙を流させ、奇跡を起こし、子供達には魔法でお菓子を出して、笑顔にする。カッコイイよなぁ・・・・・・まぁ、俺は途中参加で、偉そうな事言えねぇけどさ、でもさぁ・・・・・・その裏ではメチャクチャ頑張ってるよなぁ・・・・・・金ねぇから野宿ばっかだし、簡単な魔法も練習を怠ると全然使えねぇし、敵となる賊は殺しにかかって来るから、こっちは殺さないって決めてる分、かなり不利な戦いから始まるし、なのに、騙し盗った宝は、金貨1枚にもならなかったり。賊は、人数も、多いから、こっちは、逃げ道を確保するだけでもギリギリのギリギリ。常にどん底で、何も救えないと言う状況の中、必死で頑張ってやって来たんだ、それでも成果は未だ何もないに等しい。世界は何も変わってない。でも俺達は諦めてない。だから、絶対に無理だっつーカーネリアンにも来れた。そうだろう?」

みんなを見回すツナ。そして、

「無理だっつーのに、必死で頑張るのがフォックステイルだ。そして、必死ってなに? 頑張るって誰が?ってくらい、飄々とした顔で、人を欺くのがフォックステイル。俺は、それが楽しいんだ。お前達と一緒に、メチャクチャ頑張ってるのが、メチャクチャ楽しいんだよ。例え、無駄だったとしても、俺は笑ってみせるよ、何の後悔もない。だから、まだ頑張ってもない事に、諦めるのは早くねぇか? メチャクチャ頑張ってからだろ? 結果がどうであれ、笑えるのは!!」

と、ツナは、だよな?と、みんなを見る。すると、シカも、

「僕も、例え不幸になっても幸せだと言って笑ってみせるよ。フォックステイルとして最後まで笑ってみせる。最後の最後までフォックステイルでいたいから」

と、優しい笑顔を見せる。

「オイラも、すっっっっごく頑張ったのに、何も救えなかったとしても、何にもできなかったって落ち込んだり、嘆いたりはしないよ。よくやったよって、自分を褒めて、仲間を誇りに思って、笑って乗り切ってみせる。本当は必死で足掻いてた癖に、全然、本領発揮しなかったからなって笑って言うよ。まだまだ、これからがあるさって、余裕見せ付けて、笑顔で、切り抜けるよ」

と、カモメも穏やかな笑顔で言う。

「オラ達がフォックステイルでいる事を奪わないで、シンバ。フォックステイルはシンバと、オラと、カモメと、シカと、ツナと、リブレが揃ってフォックステイルだ。オラ達全員が揃ってれば、どんな事も笑って乗り越えられる。乗り越えれなくても笑っていられる。躓いても、転んでも、何度でも笑いながら起き上がれる。いいじゃない、みんなで必死に頑張ろうよ、ダメモトでやってみようよ、ムチャクチャなどん底の国をオラ達で救ってやろうよ、フォックステイルはそんな落ちたものを救って、みんなを笑顔にするヒーローだろ?」

と、パンダがいつもの笑い顔で言う。そして、またツナが、

「例え、地獄行きになったとしても、シンバとなら・・・・・・この仲間とならさ、また這い上がれると思うんだ。どんな状況でも、笑っていられると思うんだよ、お前等となら!! シンバだって、そう思ってるだろ?」

と――。

カモメも、パンダも、シカも、強く頷く。だが、シンバは黙りこくったまま。

それでも笑顔を絶やさず、

「簡単な事じゃねぇけど、今までだって、簡単な事なんてなかったろ?」

と、ツナ。

「今日まで生きて来れたのが不思議なくらいの出来事ばかりだったよ」

と、シカ。

「それに失敗も一杯あるしね」

と、カモメ。

「どん底に、更に底を作っちゃう場合もあったしね、シカが捕まったり、カモメが攫われたりとか」

と、パンダ。

「なぁ、シンバ! お前は王という肩書きを手に入れても、今のリーダーという地位と全く変わらねぇよ? お前が大きなもん背負うなら、それを俺達も一緒に背負ってくってだけだ」

ツナはそう言うと、シンバに近付き、そして、シンバの肩に手を置くと、シンバに顔を近づかせて、小声で、

「フォックステイルを終わらせたら全員の居場所を見つけるって考えてたんだろ? 調度いいじゃねぇか。みんな離れ離れにならずに済むし、気持ち上、みんなフォックステイルのままでいられる。もっと楽観的に考えろよ、そんな難しい事じゃない。これは俺達が俺達のままでいられる場所を手に入れるチャンスだ。それに、お前が王になれば、世界情勢に深く関われる! フックスが望んだ世界が、ネイン姫に託さなくても、お前自身で動いてやれるんだ! もしくは、公にネイン姫に協力できる!」

そう言って、そうだろう?と、シンバの肩をポンポンと叩く。

俯いて、肩を震わせるシンバに、皆、感動して泣いてるのだろうと、ほがらかな笑顔を浮かべるが、顔を上げたシンバはキッとツナを睨み、怒り露わの表情でツナを突き飛ばした。

怒りで震えながら、思いっきり突き飛ばすから、突き飛ばされる事など考えてもなかったツナは、尻から倒れ、驚いてシンバを見上げ、皆も、驚いた顔で、シンバを見る。こればかりはリブレも驚いたようで飛び起きた。

「だからどうにもならないっつってんだよ!! 吹雪いてんだよ!! 只ならぬ吹雪具合で吹雪いてんだよ!! そんなとこで王なんてできる訳ないだろ!! 例えどんな王をコピーできたとしてもバカ王としかならないだろ!! こんな吹雪の世界の王なんて誰がなるって言うんだ!! さっきから吹雪無視のトークしてんなよ!! バニ並のバカかッ!!」

シンバはそう吠えると、

「奇跡も魔法も存在も、嘘だけど、真実だと偽り、努力と根性で必死に欺いて来たのがフォックステイルだって、わかってるなら、わかれ!!!! 吹雪は努力と根性でどうにかなるものじゃない!! 必死に欺いて、降ってませんって見せるだけじゃ意味ないだろ!!!! 本当の奇跡を起こして、本当の魔法でも使わない限り、吹雪はどうにもならないんだ!! どうにもならないんだッ!!!!」

と、どうにもならないと二度言って怒鳴り散らした。こんなに怒ったシンバを見るのは初めてらしく、本当に皆、驚いた顔のまま、フリーズする。

シンバはハァハァと呼吸荒く、怒った顔のまま、皆を睨みつけている。

すると、カラがスッと前に出てきて、

「シンバ、あの、さっきは、ごめんなさいね。小さい頃のアナタしか知らないから・・・・・・あの頃のままのシンバのイメージが強くて・・・・・・私が悪かったわ、本当にごめんなさい」

そう言うから、そんな事はもうどうでもいいと、

「気にしてない」

怒った顔のままだが、シンバはそう言った。

「でもね、わかってほしいの、アナタは大事な息子に変わりないの。ずっと離れ離れで母親らしい事も何もしてあげれなかったけど、だからってアナタに絶対に無理なモノを押し付けるつもりはないのよ。本当に無理なら、アナタに受け継がせようなんて思わない」

そのカラの台詞に、怒った顔のシンバの表情が和らいでいく。

「ずっと考えてた事があるの。少しずつ、何かを売って、お金にして、皆が生活できるよう、お金をつくって来たけど・・・・・・そろそろ売る物もなくなってきたの。つまり、国を立て直す資金なんて全くないのよ。だからもう終わりだと思った矢先、アナタが現れたの。ずっと考えてた事がアナタが現れた事で実現できるわ」

「どういう事?」

「今こそ、アナタに渡したペンダントを使う時が来たのよ」

それって・・・・・・スカイピースの事!?と、和らいだシンバの顔は再び固まり始める。

「ずっと考えてたの、あのペンダントがあれば、もしかしたら、この国は復活できるかもしれないって。残ってくれた民達を守れるかもしれないって」

シンバはゴクリと唾を飲み込み、黙っていると、カラはニッコリ微笑んで、

「さぁ、シンバ、ペンダントを――」

と、手の平を差し出してきた。シンバはカラの手の平を見ながら、

「ぺ、ペンダントって、あれだよね、あの、母がボクに託した・・・・・・プレートに雪とフェンリルの刻印の入った・・・・・・」

「そうよ、この国の紋章が入ったペンダント」

「だよね・・・・・・覚えてる・・・・・・」

「どうしたの?」

困った顔になっていくシンバに、カラは差し出した手の平を戻し、首を傾げた。

「あのさ、ペンダントなんだけど・・・・・・」

「なくしたの?」

「まさか! そうじゃなくて!」

「なら、早く出して?」

「いや、あの・・・・・・バニにあげちゃった・・・・・・」

シンと静まる中で、ツナが、

「あげちゃった、か」

と、小声で囁く。すると、シカが、

「ま、あげちゃったんだから、しょうがないよね」

と、やはり小声で囁くと、パンダが、

「そうだねぇ、あのスカイピースばかりは盗られたんじゃなく、シンバ自らあげたんだよね」

と、小声で溜息混じりに囁き、カモメも、

「そういえば、サードニックスで、スカイピースが揃ったとか、そう言ってたのを、耳にしたなぁ」

と、呟く。

「そう」

と、笑顔で頷くカラに、シンバは眉間に皺を寄せ、勿論、皆、不思議そうに、カラを見ると、

「なら、バニに返してもらって?」

と、簡単に言うから、シンバも、皆も、それは難しいと、首を横に強く振る。

「あら、どうして? バニに、必要だから返してって言えばいいのよ。あの子、おにいちゃんが大好きだから、アナタが言えば、素直に返してくれるわ、あの子もこの国の姫として、話せば一緒に協力してくれると思うし、兄と妹、仲良く手を取って、やっていける筈よ。そうなれば、嬉しいわ」

「母ッ!!!!」

「なぁに?」

「なんて言うか、バニは昔とは違うんだよ」

「違うって? 昔のまま元気なんでしょ?」

「元気は元気だけど、なんて言えばいいか・・・・・・兎に角、母が想像してるバニとは、天地が引っ繰り返る程違うと思う!」

慌てながら言うシンバに、ツナはクックックッと喉で笑いながら、

「アイツが姫って面かよ、賊だったんだぜ、寧ろ今の方が賊より性質が悪りぃし」

と、小声で呟き、そりゃ慌てちゃうよなぁと、シンバを面白そうに見る。

面白がられる程、シンバはアワアワしながらも、必死に話している。

「シンバ? 言ってる意味がわからないわ。バニがペンダントを持ってるんでしょ? どうして返してもらえないの? 事情を話せば、ちゃんとわかってくれるわ」

「事情は向こうの事情で動くから、返してもらえないんだって!」

「向こうの事情ってなんなの?」

「だから、えっと、その・・・・・・つまり、もう子供じゃないって事だよ!」

「そんなのわかってるわよ、それとペンダントを返してもらう事は関係ないでしょ? 寧ろ、大人なんだから、子供の時と違って、聞き分けはできる筈よ」

「子供の時の方が聞き分けできてたよ!!」

「何言ってるの? シンバ?」

そろそろ限界かなと、シカが一歩前へ出ると、ツナが、

「もう助けんの? 折角面白ぇのに」

と、笑ってるから、意地悪だなぁと、シカも笑う。パンダはカモメに、

「ツナって好きな奴をいじめるタイプなのかな」

と、耳打ち。それは女の子に対するアピール下手な子供だろと、カモメは苦笑い。

「あの、バニちゃんの事ですが――」

シカがそう言うと、カラは振り向いて、シカを見た。

「バニちゃんは神出鬼没で、いつも突然僕達の前に現れるだけで、こっちからは会いに行けないんです、どこにいるのかも、わからないですから。彼女は彼女なりの考えがあって動いてるみたいです。つまり、彼女から僕達に逢いに来てくれないと、彼女には逢えないんですよ。本当に元気のいい女の子で、世界中、飛び跳ねてるのか、今、どこにいるのか、何をしてるのか、僕等にはわかりませんから」

そうか、そう説明すれば良かったと、シンバはシカの話に頷く。

「・・・・・・そうなの、もし考えてる事が駄目だったとしても、あのペンダントに付いてる宝石でも売れば、相当な金額になると思ったのに」

と、俯いて、落胆するカラ。

「あぁ、それは無理だと思う、あの、ペンダント、売れるような代物じゃない、価値が、わからな過ぎて、値段が付けれないんだ。あのペンダント、母が持っていたって事は、王族として継承されて来たモノとか? だとしても、何故、あのペンダントがあると、この国を復活させれるの?」

「アナタの言う通り、継承されたモノなの。あのペンダントは、初代カーネリアン王から代々受け継がれて来たもので、この城には開かずの扉があって、あのペンダントと呪文で、扉が開くと言われてるのだけど、誰も開けた事はないのよ。中には恐ろしい化け物が眠ってると言われてるから。でも化け物が眠ってるって、おかしな話でしょ? 例えば、初代王が、化け物を封印したって言う話があるならわかるけど、そんな話は聞いてないの。つまり悪い化け物じゃなく、ライガみたいな、何かを守っている者だとしたら? その化け物が守ってるモノは、すっごい宝って可能性高いでしょ? 物凄い価値の高い、大きな煌く宝石かも」

と、目を輝かせるカラに、あれ?この人、ラビの母親だったっけ?と、皆、思う。

「母、あのペンダントはスカイピースって言って、空の大陸への鍵らしいんだ」

「スカイピース?」

「うん、何か思い当たる事ない? 空に纏わるような話とか伝えられてない?」

「さぁ? なぁに? シンバ達は、その空の大陸って所に行きたいの? それでここに?」

「うん、カーネリアンに来た理由は、空に浮かぶ大陸について知れる事があればと思って来たんだ。スカイピースを集めてる奴がいるみたいで、スカイピースは空の彼方で眠っている魔人を呼び覚ます事ができると言われてるんだ。神話みたいなものだけど、その魔人ってのが何なのかハッキリ突き止めたい。世界を脅かすものなのか、それとも世界を救うものなのか」

「・・・・・・どうしてシンバがそんな事を?」

「ボクの大好きな人がね、太陽とフェニックスのスカイピースを持ってたんだ。その人から魔人の話を聞いたんだけど、スカイピースを、チカラを手に入れたい賊達が欲しがってるって言ってたんだ。只の神話かもしれないけど、もしかしたらって事もあるからって、その人は、自分がスカイピースを持っている以上、スカイピースは揃わない、つまり魔人も目覚めないって言ってた。だけど、今、スカイピースが揃ってるんだ。バニの手から、賊の手に渡ってるかもしれない。ボクはそれを何としても阻止したいんだ」

「・・・・・・アナタが、それを阻止しようとしてるの?」

コクンと頷き、

「ボクの大好きな、その人が絶対に築き上げたかった未来に、少しでも近付きたい。だからスカイピースを奪われた今となっては、魔人が恐ろしいモノなのか、ちゃんと知っておく必要があるんだ。母も知ってると思うけど、聖典に火の七日間の話があるよね、空から火の矢のような雨が降り注ぎ、七日間、その火は消えなかったと言う話。それがスカイピースに纏わる空の大陸からの攻撃・・・・・・だとしたら、空の彼方で眠っている魔人ってのは、もっと恐ろしい力かもしれない。そんなもの何としても、絶対に、目覚めないようにしなきゃならないんだ。これはボクの・・・・・・フォックステイルの使命だ」

シンバが強い眼差しで、真っ直ぐにカラを見つめながら、そう話すと、カラは小さく何度も頷きながら、この国を背負うよりも、もっと大きな事に、立ち向かってたのねと、

「そうね、私も同じ意見よ、恐ろしいチカラなど、蘇らせてはいけないわ、それは全世界の人々の願いよ、シンバ」

そう言って、立派になったわねと、嬉しそうな顔で、シンバを見つめる。

「シンバ、この城にある開かずの扉ってのを、一応、調べてみたらどうだ? 中に化け物がいるっつー話なら、魔人と繋がりあるかも? 化け物も魔人も似たり寄ったりだろ?」

ツナの提案に、シンバは頷いて、早速行こうと言おうとしたが、

「まずは腹ごしらえしようよ! テーブルの上の料理が、まだイッパイ残ってる! 勿体無いよ!」

と、パンダが腹を鳴らして叫んだ。

「勿体無いと言うより、我慢できないんだろ?」

ツナがそう言うと、ずっと黙って立っていたライガが思わずフッと笑ってしまい、皆、ライガを見ると、ライガは喉がイガイガするんだとばかりにゴホンゴホンと咳払いし、笑ったのを隠した。すると、みんなが笑い出し、この場の雰囲気が明るくなったので、

「食べたら、温泉に行くといいわ、そして、少し休んだらどうかしら? 温かい毛布くらい、用意できるわ」

と、カラが言うから、パンダが、ヤッタァ!と、言うが、

「いや、明日、直ぐ、オグルさんが迎えに来るから、ゆっくりしてる暇はないんだ」

と、シンバが、折角の明るい雰囲気を、また、深刻な雰囲気に戻し、パンダが、ムゥっと唇を尖らせる。

「オグル? 飛行機乗りのオグル・ラピスラズリか」

そう言ったライガに、皆、目を向けると、

「成る程、お前達、オグルが操縦する飛行機で来たのか」

と、すると、カラも、

「ムジカナに住んでた頃、オグルさんの話は、よく噂で聞いてたわ、凄い飛行機乗りだって。そう、アナタ達、あの有名な飛行機乗りの飛行機に乗ってきたのね。どうだった? 楽しかった?」

なんて言うから、楽しい訳ないだろと、カモメ以外、苦笑い。

「シンバ、その話も少し聞きたいわ、食事しながら、おしゃべりして、あったかい温泉に入るくらいの時間いいでしょう?」

と、カラが言うので、シンバは頷き、椅子に座って食事の続きをする事にした。

カラはいろんな話を聞きたいらしく、いろいろと質問を投げかけるが、シンバは余りうまく応えられず、苦笑いばかりだが、それでもちゃんと応えようとする姿勢は見せる。その後、ライガの案内で、温泉に行く。

温泉は、城内にあり、今は、民達にも開放してあるが、今の時間帯は、誰もいないだろうと――。

まさかの、温かい入浴場――。

「この辺って火山でもあるんですか?」

シンバの、その問いに、

「いや、非火山性だと言われておる。昔からある温泉なんだが、飲む事もできる水で、出てくる水も、お湯だから、助かっている。おかげで、水に苦労はしてない」

と、ライガが、そう答えると、さっさと行ってしまった。

フーンと、頷くシンバは、カモメを見て、

「非火山性って事は、地下水が、温められてるって事だよね?」

そう聞くと、カモメも頷きながら、服を脱いで、

「地熱で温められた地下水が地上に湧いてるんだよ」

と、答え、既に、真っ裸で、走っていくパンダに、滑るなよと、忠告。

シカも、ツナも、タオルを持って、入浴場へ――。

「もし、このカーネリアンが、空から落ちた大陸の1つだったとしたら、地下水なんて、あるのかなぁ?」

シンバの、その疑問に、カモメも、うーんと、難しい顔になりながら、

「1つ、お願いしていい?」

なんて、真剣に言い出したから、シンバは、何?と、カモメを見ると、

「シンバも早く裸になってくれる? 真面目な話ししながら、オイラ、ちんこ丸出しなんだよね。妙な感じだから、湯に浸かりながら話そうよ」

と、言うので、あぁ、わかったと、シンバは笑いながら、急いで服を脱いだ。

先に、湯に浸かっているツナと、シカと、パンダ。

気持ちいいと、体を湯の中で伸ばす3人に、シンバとカモメも、体を流した後、湯に入る。

「あぁ、なんか、スッゲェ生き返った気ぃする」

と、ツナ。

「わかるぅ〜」

と、パンダ。

「体が柔らかくなった感じするねぇ」

と、シカ。

「温泉の効能かな」

と、カモメ。

「体の痛み、全部消えたわぁ」

と、ツナが言うので、これは確かに、イロイロ回復するなぁと、シンバも思い、

「温泉の効能ってどんなのがあるんだろう?」

と、誰に問うでもなく、言うと、

「疲労回復?」

と、カモメ。

「神経痛、筋肉痛、肩こり?」

と、パンダ。

「うん、そうだね、高血圧や動脈硬化、切り傷、火傷に、皮膚病に、冷え性なんかも効果的だと思う」

と、シカ。

「まるで万能薬だな」

と、笑うツナ。

「ツナくんは、オクトパスとの戦いで、結構、負傷してたから、ここへ来て、温泉はかなり有り難いんじゃない? 血液循環が良くなって、組織治癒力が向上するし、筋肉がほぐれて、痛みの神経が鈍感になるんだよ、それに、免疫力や細胞修復力が向上するしね。疲労回復もあるから、僕達にも有り難いよね」

と、シカが言うと、ツナは、頷いて、

「あぁ、だから体の痛み消えたのかぁ、リブレにも、後で、湯だけ、桶にでも入れて、浸からせてやりてぇな」

そう言うから、いいかもと、シンバが頷いて、ツナを見て、ん?と、思う。

「湯気で、よく見えないけど、ツナ・・・・・・綺麗だね」

シンバの、そのセリフに、皆、ピタッと動きを止め、ゆっくりと、シンバを見ると、シンバは、ツナを見つめているから、

「いやいやいやいや、なに言ってんの、リーダー!?」

と、パンダ。

「火照った顔で、そんなセリフ言われたら、ちょっとキュンってしちゃうでしょ?」

と、シカ。

「しねーよ!!」

と、ツナ。

無言で、すすすすす〜っと、シンバから離れるカモメ。

なんなんだよと、シンバは、みんなの言動にクエスチョンだったが、直ぐにハッと気付いて、

「そうじゃなくて!! そうじゃなくて!! ツナの顔が綺麗になってるなぁって思っただけだよ!!」

と、焦って言い直す。

顔が綺麗になってる?と、皆、ツナを見て、ツナが、は?と、シンバを睨み見る。

「顔が、割りと腫れてたし、だいぶ引いてはいたけど、それでも、腫れてたよね、それに、色も赤紫になってたしさ。それが、今、腫れは引いてるし、血行が良くなったせいか、色も、普通に戻ってる」

シンバが、そう言うので、そうか?と、ツナは自分の顔を触って、そして、急に立ち上がった。前を隠せよと、カモメが目を伏せて、シカが、見せるな見せるなと、目を伏せて、パンダが、オラのとどっちがデカいかなぁと、凝視。

「結構、この肋んトコ、痛みが凄かったんだけど、痛みは、もう感じないなぁ。ライガさんにやられた肩も、もっと傷が深いと思ったけど、そうでもない」

ツナが、そう言って、体中の傷や痛みを確認する。

「肋のトコは、見た感じ、なんともないよ。肩も、確かに、傷はあるけど、大丈夫そう。ライガさんの槍が、グサッと入った感じあったけどね」

シンバが、ツナの体を見ながら、そう言って、背中の方も、見てみるが、特に傷は何もないと、確認した。ツナは、首を傾げながら、体を、湯に入れ、

「温泉って、そんな直ぐに効能が効くもんなのか?」

と――。

「毎日、入り続けてこそだろうけど、最初は、効き目を感じやすいのかも」

シカが、そう言うが、ツナは、首を傾げ続け、

「いや、でも、俺の回復力、異常じゃないか?」

と、シカを見た。シカは、ツナに、薬を塗った事を思い出し、確かにと頷き、ふと、

「そういえば、シンバのお母さんさぁ」

と、

「お変わりなく元気そうだったね」

そう言って、なんで今その話し?と、皆、思うが、シンバが、うんと、頷くから、

「シンバって、僕達と同年齢でしょ、僕等の年齢の子供がいる母親には見えないね」

などと言うから、そう?と、シンバが言うと、

「あー、それ思った。オイラの母ちゃんは、昔から、アレだけど、パンダの母ちゃんは、若かったよな? パンダの母ちゃんと同年齢くらいに見えたよ」

と、カモメ。パンダは、頷きながら、

「オラを16で生んだって言ってた。だから、あん時、カモメ達と遊んでた頃は、オラ、5歳くらい? そうすると、ママは21歳だね。今のオラ達と、そんな変わんないんだなぁ!」

そう言うと、ツナが、ママって・・・・・・と、パンダを見ると、

「オラのママ、ママって呼べって言うんだもん。ママって呼ばなかったら、ご飯抜きだからって」

ご飯抜きになるくらいなら、ママでもマミーでも、なんだって呼ぶよと、パンダが言って、ツナは苦笑い。

シンバは、考えながら、母は幾つだっけ?と、ダムドとカーネリアンの戦争が20年くらい前で、そこから大体で計算するとと、

「ボクが5歳の頃、母は、20代半ばから30代前半だとして、今は40代後半から50代前半?」

と、クエスチョンで言いながら、皆を見る。皆、いやいやいやと、あり得ないだろと、あの見た目は、20代後半から30代前半だよと、首を振る。

シンバも、確かに、母は、凄く若く見えるなぁと、頷く。すると、ツナが、

「ちょっと待て。あのライガさん・・・・・・あの人って、何歳に見える?」

と、皆を見る。

「200歳前後」

と、パンダが答え、カモメが、笑いだし、

「確かに、100は超えてる見た目だよね」

と、シカが、

「うん、見た目年齢だけでなら、長老って感じだけど、騎士で、そこまで長生きできるって、よっぽど、平和だったのかなって思っちゃうね、平和じゃなかったんだろうけど」

そう言って、シンバが、

「確かにね。目が潰れてるのも、感染症とかにならなかったのかって思うよね。戦争後だし、やっぱり衛生的にも悪かったと思うんだよね。ぐちゃっと潰れた感はあったけど、綺麗に傷は塞がってる状態だったし、うまく手当てできたって事かな」

そう言いながら、病院があっても医者がいないのに?と、自分のセリフに疑問。

「実際・・・・・・200歳とかだったらどうする?」

ツナが、そう言って、皆、笑ったが、ツナが真剣な顔なので、皆、ピタリと笑いを止めた。そして、束の間、シーンと、静かな時間を過ごすと、全員、考えが一致したのだろう、ザバッと、温泉から急いで出て、

「は? え? なに? これ、温泉じゃないの?」

と、カモメ。

「何に浸かってたんだ、俺達!?」

と、ツナ。

「いやぁぁぁぁぁ!! オラの肌がプルンプルンしてるぅぅぅぅ!!」

と、パンダ。

「僕の肌もスベスベ」

と、シカ。そして、シンバが、

「ライガさんが、飲む事もできる水って言ってたよね・・・・・・水に苦労はしてないとも言ってたよね・・・・・・って事は・・・・・・勿論・・・・・・料理にも使ってるよね・・・・・・?」

と、食べちゃったじゃんと、皆、何を口にしたんだと、焦る。

「でもさ、口からじゃなくても、僕達、浸かっちゃってから、皮膚を通して体内に吸収されてると思う」

シカが、そう言って、皆、ええええええ・・・・・・と、思うが、またシカが、

「得体の知れないモノだから、怖いと思うだけで、体の機能は良くなってるよね。ツナくんの体の傷が癒えてるし、僕達も疲れがとれてる。シンバくんのお母さんも、この環境で老け込んだ訳じゃなく、綺麗で、若く保ってるし、ライガさんは、あの見た目年齢で、健康そのものに見える」

と、

「体に悪いものではない筈」

そう言った。確かにと、皆、頷き、シンバが、

「民達にも開放しているって言ってたから、この吹雪いている環境下で、大した食物も手に入らないのに、それなりに生きて来られてる理由って、この温泉かもな」

と、

「もしかしたら、この温泉、空の大陸からあったモノかも。シカ、成分って調べられるかな?」

そう言った。シカは頷き、

「調べられなくはないと思うけど、わからない成分だったら、手が付けられないよ」

そう言うので、

「わからない成分が出たら、それこそ、カーネリアンは、空の大陸だったと言う証明になる」

と、シンバ。

「ちんこ丸出しで、話す会話じゃないと思うんだ、早いとこ体洗って出よう。もう温泉に浸かるのはいいや」

カモメがそう言うので、それもそうだなと、皆、体を洗い出す。

温泉から出た5人は、直ぐに、皆で、開かずの扉という所に案内してもらった。

蝋燭の灯りを頼りに、暗くて長いローカを歩いていると、ちょっと気味が悪い。

窓はあるが、吹雪で空が暗いせいだ。というか、時間的に夜になるかもしれない。

太陽が雲に覆い尽くされて光が見えないと、時間の概念がなくなる。

こんな場所で、どうやって国として築いていくんだよと、ていうか、こうなる前が、国として成立してた事が不思議だよと、シンバは歩きながら幾つも並ぶ窓から外を眺め、溜息を吐く。

「ここよ」

と、カラが立ち止まった場所は、只の行き止まりだ。

「ここ? 扉なんてないけど?」

そう言ったシンバに、

「ええ、でも、この壁が開く筈なの」

カラは、蝋燭の灯りを壁に向ける。壁には、奇怪な模様が刻まれている。

「――どうした? シカ?」

隣で目を何度も擦ったりしているシカに、ツナは妙に思い、声をかけ、皆、シカを見る。

「いや、ちょっと視界が・・・・・・」

そう言いながら、シカは目を閉じたり開けたりした後、何かに気付き、右目を手で押さえ、ジッと壁を見つめた後、今度は左目を手で押さえ、壁をジィーッと見つめている。

シカの右目、ラブラドライトアイが、この薄暗いローカで、まるで猫の目のように光り、色鮮やかに様々なカラーに変わっていく。

「お、おい!? 大丈夫か? 目が変だぞ!?」

ツナがそう言って、シカから一歩下がり、

「シカ? 感情と共に色が変わるラブラドライトアイが激しく色を変えてくけど?」

と、シンバもシカから一歩下がり、

「しかも闇に光る猫の目の如く、怪しげに光ってるよ? それって感情が高ぶってたりしてるの?」

と、カモメもシカから一歩下がり、

「つまりシカは大まかな感情の喜怒哀楽やら複雑な感情までも、今、一瞬で感じてるの?」

と、パンダはシカに一歩近付いて、そう聞いた。

「・・・・・・文字だ」

シカがそう呟き、皆、文字?と眉間に皺を寄せる。

「この壁に刻まれてる模様は文字だよ」

左目を押さえ、右目だけで壁を見つめながら、シカはそう言うと、

「僕のラブラドライトアイなら読める。多分、僕の中にある天空人の遺伝子が反応してるんだ。遺伝で字がわかるって不思議だけど、読めるよ、コレ」

と、皆を、光るラブラドライトアイだけで見回し、パンダが、目から光線出てるみたいだと、カッコいいと、喜んでいる。

「なんて書いてある?」

シンバの問いに、

「書いてあるのは・・・・・・只の文字の配列だよ、意味のない文字の配列――」

と、また壁を見つめ、シカが答えた。すると、カモメが、ピンッと来たようで、

「シカの言う事は本当かもしれない。コレ、只の模様にしては、ひとつひとつ似てるのもあるけど全部が違う。文字なら有り得る。でもこんな文字、見た事ない。主観だけと、どこかの国の暗号にしては安易過ぎ、昔の言語にしては複雑過ぎ、カルト教団的な秘密にしては高度過ぎ、この国の謎の言葉にしてはあからさま。て事は、残された考えとして、言える事は天空人の文字。そしてシカのラブラドライトアイが反応した。ほぼ決定的でしょ」

カモメが壁の模様に触れながら、そう言うと、シンバが、

「成る程ね。じゃあ、この壁の文字の事、何か聞いたり、伝わってたりしてない?」

と、カラを見ると、カラは、イロイロと驚き過ぎてて、何がなんだかと、目を丸くしたまま、首を振り、

「文字だなんて初めて知ったわ、只の彫刻の入った壁だと思ってたもの。開くとは聞いてたから、正確には壁じゃなくて、扉だと思ってたけど」

と、目が色を変えながら光り出したシカを、チラチラ見て、そう言った。

「あの、もしかして、この隙間にペンダントを差し込めと?」

カモメは壁に開いている隙間を指差して、カラに尋ねる。カラが頷くと、カモメは、

「確かペンダントと呪文で開くって言ってましたよね? 呪文ってなんですか?」

更に尋ねる。

「みんな知ってると思うわ、光と大地の恵みと、ミリアム様の名の下に――」

カラはそう言って、

「それが呪文」

と、皆を見た。それは食事の前に唱える祈りだ。

つまり、呪文は、世界中に伝わり、広まっていた――。

「光と大地の恵みと、ミリアム様の名の下に・・・・・・その配列は、どのキーになるんだろう。まず、この文字をオイラ達の知ってる文字に直さなきゃ。シカ、現代キーボードの配列に、この文字を直したいから、文字を訳す事ってできる?」

カモメにそう言われ、シカはできると頷くと、カモメも頷き返し、

「多分、ペンダントはメモリーなんだと思う。差し込む事で、この壁にない記憶を入れて、空の大陸のメインコンピューターへのアクセスになり、呪文はアクセスが許可される為のパスワードなんだよ」

カモメが壁に耳を当てたり、軽く叩いたりしながら、そう言った後、

「これ、開けられるかも」

と、皆を見て言う。ホント!?と、カラは、

「でもペンダントがないのよ!?」

そう言って、驚いている。

「はい、ですから、かもって話で、絶対とは言い切れませんけど、やれるだけやってみます」

と、カモメはショルダーから小さなキューブを取り出した。

「なぁに? それ?」

カラはカモメの道具が気になるようだ。

「これですか? これは、レーザー投影式キーボードって言って、コンピューターに文字を打ち込んだりするキーボードと同じものなんです。このキーボードと、この壁を繋げて、こっちのキーボードで壁に指示できるようにします」

「キーボードって・・・・・・? それ只の四角い箱じゃない・・・・・・?」

「あ、これ、こうやって使うんです」

と、カモメは足元にそのキューブを置いた。

するとキューブからキーボードの投影が床に映し出される。

「床に文字が映し出されたわ」

「はい、この映し出されたキーの影を、呪文の文字順に、指で叩けば、コンピューターにアクセスできるんです。多分ね」

「まさか! だって・・・・・・影よ?」

と、カラは、シンバを見るから、シンバは、

「紹介したろ? 天才なんだよ、カモメは」

と、笑うと、カモメが、本当にそう思うなら笑って言うなよと笑い返す。

「それで、どうやって繋げる?」

シカの質問に、

「接続方法は、配線がないから、無線方式でやってみるしかないけど、電波のアンテナも付けて、やってみるよ。でも、まず文字の解読から。シカ、温泉の水の事もあるだろうけど、先にこっち手伝って? 文字だけ解読できれば、その後、オイラ1人でもできるから」

そう言って、カモメは、シカに、壁の文字をひとつひとつ指で確認しながら、キーボードに入力していく。

「オラ達も何か手伝う?」

パンダがそう言って、カモメとシカの背後から、床に投影されているキーボードを覗き込む。

「手伝いはいらないよ。今のところ、只の接続と入力だから。この壁、耳を当てたら、中から微かに電子音っぽいのが聴こえた。長い長い時間を越えても動き続けてるんだ。シカのラブラドライトアイで文字の配列と解読はわかってる。パスワードとなる呪文もわかってる。後はメインコンピューターへのアクセスだけ。メモリーはなくても、過去、もしかしたら誰かがアクセスした記録が残ってるかもしれない。それを探ってみる。メンテナンスもされないまま、動いてるって凄い事だけど、でも壊れずに、ずっとそのまま動いてるって事は、履歴もそのまま残ってるって事だから、運が良ければうまくいくかも。只、セキュリティがどうなのかな、やってみなくちゃわかんないから、とりあえず、やってみる」

と、話しながら、カモメはシカの言う文字を聞きながら、床に映し出されたキーの投影を、ピアノを弾くようにリズミカルに、軽く指で叩いていく。

「なんだかよくわからないけど、簡単に開くものなのね。拍子抜けだわ」

そう言ったカラに、

「いやぁ、簡単ではないですよ」

と、簡単にやろうとしているカモメがそう言うので、そうなの?と、カラは頷き、

「ええ、そうね、そうよね、簡単じゃないわよね。だって、こんな事は天才しかできないわ。天才なんて、世の中にそうはいないものね。だとしたら、アナタ達の言うスカイピースだの、魔人だのが、とても危険なモノだとわかれば、このまま何もせずに開かずの扉として放置しておけばいいんじゃないかしら?」

そう提案したが、シンバが、

「開いてしまうんだよ」

困ったように言った。え?とカラはシンバを見る。シンバもカラを見て、

「開いてしまうんだ」

また、そう言った。首を傾げるカラに、

「たまたま僕のラブラドライトアイが役に立ったけど、ラブラドライトアイじゃなくても、この壁の模様が文字である事は少し考えれば、直ぐに誰でもわかる事ですし、文字って言うのは、結構どこの国のものでも簡単に訳されてしまいます。暗号ですら、人は解いてしまいますから。この文字も解読されます。ラブラドライトアイなんてなくても――」

と、シカが話し、

「オイラは今、天才と言われても、数十年後、天才じゃないかもしれません。いや、数年後、下手したら数ヵ月後とか、オイラより天才が現れるかも。未来はどんどん進化して行ってるんです。今、この扉を開けられなくても、いつか開けられてしまうんです。オイラが開けられるなら、尚更。技術は発展していきます。オイラの天才なんて、直ぐに超えられてしまう。それだけ世界は大きく動いてるんです、そして世界の小さな命である子供達と言うのは、それだけ大きな可能性を秘めてるんです」

と、作業しながら話す。そして、

「だから、その技術を、オイラは子供達に教えて、ちゃんとした使い方をしてほしいと思ってるんですよ。一人でも多く、使い方を間違えないように、そして使い方を間違った魔法使いが現れたら、その魔法使いに対応できるチカラを持てるように。高度な技術を恐ろしい魔法ではなく、素晴らしい魔法として使える心を持ってほしいんです、種や仕掛けを知っても、魔法だと信じる心を持って、その心を伝えてほしいんです、大人になっても心は汚してほしくないんです。いや、勿論、ちゃんと大人の考えを持った大人になってほしいですけどね、そういうのも含めてオイラが子供達を指導できたらなぁって」

と、最後に少し笑いながら、学校の先生になりたいと言う理由を語る。

その夢を叶えてやりたいとは思うけどと、シンバは、小さな溜息。

何度、溜息を吐いただろうかと、思いながら、

「うまくいけば、どのくらいで扉が開きそう?」

と、尋ねる。カモメは、手を動かしながら、

「直ぐ開くよ、ダメモトでやってるから、期待はしないで」

と、それでも自信あり気な顔で答えた。

「直ぐか、時間がかかるなら広いフロアにでも行って、剣でも素振ってようかと思ったけど、直ぐなら、ここで俺達もカモメの作業を見守ってた方がいいな、扉が開いて、何が出て来るか、わかんねぇし」

ツナの意見に、そうだねと、皆が頷いた時、ガシャンと大きな音がどこかで鳴った。

シンバは天井を見上げながら、背後へと顔を動かし、

「今、鍵が開いたような・・・・・・扉が開いたような音がしたけど・・・・・・?」

と、でも目の前の壁は開いてないし、音が鳴ったのも、別の場所からだったと、まだ手を休まずに動かしているカモメを見た瞬間、

「うわっ!」

と、突然の耳鳴りのような音に両手で耳を塞いだ。瞬間、ツナも耳を押さえ、カラも押さえ始め、その場に蹲り出す。

「シンバくん!? ツナくん!?」

と、どうしたの!?とばかりのシカと、

「耳、痛いの?」

と、ポカーンとしてるパンダ。

「なんだ、この音?」

と、耳を押さえながら、立ち上がり、辺りを見回すツナ。

「聴こえないの?」

と、平気そうなシカとパンダに、シンバも立ち上がって問う。

「耳が痛いわ、でも慣れてきたみたい」

と、カラも蹲っていたが、立ち上がる。

「何も聴こえないよ?」

と、シカとパンダはお互い見合い、不思議そうにシンバとツナとカラを見るが、

「セキュリティのノイズだ」

カモメがそう言って、

「扉は開いてる。でもこの壁が扉じゃない。この壁はロックされた扉に繋がってるってだけで扉は別にあるんだ。ロックは解除したけど、ペンダントのメモリーから引き出した訳じゃなければ、呪文も唱えた訳でもなく、不正アクセスとしてセキュリティが起動し、聴こえ難いノイズが鳴り始めたんだ。このノイズは聴こえない人にも聴こえてる」

と、説明し、カモメは扉は開いたと言いながらも、まだタイピングを続けている。

「だったら耳鳴りみてぇなのがウゼェから早く止めろよ」

そう言ったツナの声色が怖い感じになっている。

「そんな言い方ないよ、頑張ってやってくれてるんだから!」

ツナに突っかかったのはパンダ。

「あぁ!? 黙ってろよ、デブ!」

「デブ!? デブって言った!? それ禁句だよ!?」

「デブをデブって言って何が悪い? 禁句? だったら見た目にもモザイクかけとけ」

「ちょっとツナ! 言いすぎだよ!!」

と、怒った声で言い出したシンバに、

「でも確かに禁句ならモザイクも必要かも」

と、冷たい口調で言い放つシカ。

「ライガ! ライガ! どこにいるの!?」

と、ライガを呼ぶ声が苛立っているカラに、

「ウルサイ! ノイズよりウルサイから静かにしてよ!」

と、怒鳴るカモメ。そして怒鳴りながら、

「ヤバイ、直ぐに持ってる武器をどこかに捨てるんだ、このノイズ、人の怒りを増幅させる効果があるみたいだ。感情を完全に操られたら殺し合いになる!」

そう言うが、もう遅かった。

シンバとツナは剣を抜いて、喧嘩腰で叫びながら、狭いローカで戦い出すし、シカはカラに銃を向けて撃ち始め、カラは銃弾を華麗に避けながらシカに近付き、拳を振り上げ、パンダも、そのハンマーは持ち歩いてなかっただろ?って言う大きなハンマーを持ち上げて、タイピングしているカモメの頭上で振り下ろそうとしている。

うわっと、パンダの攻撃を避けて、

「そのハンマー、今迄一度も使ってないよね!? ライガさんとの戦いの時だって、背負ったままで、使わなかったよね!? なのに最初に攻撃するのがオイラな訳!? そうなんだね!? ちょっと今後の関係を考え直すよ!!」

と、カモメは怒鳴るが、パンダは大きな体と無言で威圧的にハンマーを振り上げる。

だが、調度、振り下ろす瞬間に、ライガが現れ、パンダを突き飛ばし、

「一体何が起きている?」

と、皆の暴れる様子を見る。

「ノイズですよ! このノイズ、聴こえなくても耳に入ってるから、ライガさんも直ぐに怒りに支配されて暴れ出しますから、ここから離れた方がいいですよ!」

カモメがそう怒鳴ると、パンダが、ムクッと起き上がり、またハンマーを振り上げるから、ライガが、パンダと戦い始める事になる。

カモメはイライラしながら、そして怒りを、拳を何度も床に叩きつけながら、タイピングを続け、ライガが、

「ノイズと言うのは消せるのか?」

と、パンダの攻撃を簡単に交わしながら問う。

「消せません! セキュリティそんな甘くない!」

「消せぬ? では何をしているんだ?」

「ノイズを作ってるんです!」

「ノイズを作る?」

「いちいち説明必要ですか!? このノイズを消す為のノイズを作ってるんですよ!! ノイズが重なれば別の音になる! それで全く別のノイズにするんです! 忙しいんだ! もう話しかけないでくれ!!」

怒って、そう言ったカモメに、ライガは頷き、パンダと向き合う。幾ら怒りに支配されているパンダとは言っても、ライガが、パンダ相手に戦いになる訳がないが、戦い始める。

シンバとツナも決着がつかないまま、剣を合わせ続け、シカも、カラに近付かれないよう、銃を撃ちまくっている。

この狭いローカが仲間同士の殺し合いでカオス状態。

怒りという強烈なパワーが全てを見失い、間違った矛先へと放たれている。

リミット全開で挑む相手も、また全開。

剣や銃弾で、怪我を負っても、その痛みで正気に戻る事もなく、余計に怒りが増し、体の痛みなど全く感じてない。

カモメの手が止まり、暫くしてから、皆の呼吸が荒くなりながらも、動きを止め、

「・・・・・・ハァ、ハァ、ハァ、何をそんなに怒ってるんだ、ボクは?」

と、シンバが呟き、

「ハァハァハァ、シンバ、大丈夫か? 俺がやった? その頬の傷――」

と、ツナが剣を仕舞い、シンバに手を伸ばす。

カラはドレスが酷い有様になっている事に驚き、シカは、

「なんて事だ、僕が女性に銃を向けるなんて!! 本当に申し訳ない!!」

と、何度もカラに謝罪し、パンダは目を回し、気絶していて、ライガは、ずっと正気だったようで、

「皆、落ち着いたようだ」

そう言って、安堵する。とりあえず、この場にリブレがいなかったのは正解だろう。

未だ暖炉の前でゴロゴロしているリブレ。

「結局、なんか変な呪文みてぇなのに、かかったみたいになったけど、壁はそのままだな」

壁を見ながら言うツナ。

「でも鍵が開いたような、扉が開いたような音はしたよね?」

そう言ったシンバに、カラが破れかけているドレスの裾を引き千切って、シンバの頬の傷から出てる血を拭き取り、とりあえず後でちゃんと手当てしなさいと言い、シンバは頷き、ツナやシカにも、同じように怪我をしてる部分をドレスの切れ端で巻いていく。

倒れているパンダは、ライガが気絶させたようだが、怪我らしい怪我はしていない。

「この城のどこかに、他に開かずの扉はありますか?」

カモメの問いに、カラは首を振る。

「この壁がどこの扉に繋がってるか、調べられない。ノイズを別のノイズに重ねた事で、かなり強引にセキュリティを破壊したから、この壁の中にあるシステムが壊れちゃったんだ。もう何も反応しないし、電子音も止まってる。オイラ達で城のどこかにある秘密の扉を手分けして探してみよう、絶対に開いた筈なんだ、扉はどこかにある筈!」

シンバとツナとシカが、わかったと頷き、カラとライガは気絶しているパンダを、ここに寝かせておく訳にはいかないので、ソファーに運んでおくと言う事になった。

小さな城とは言え、城内は結構広い。

カモメは、アンテナがクルクル回っている妙な機械を、鞄から取り出して、それを持ち、あちこちウロウロキョロキョロ。

「うまくこの探知機に機類が反応すればいいんだけどなぁ」

と、カモメが持っているのは探知機のようだ。

ツナは大きな扉を見上げ、中に入ると、そこは王の間で、台座に、王の椅子と妃の椅子が2つ並んでいる。

「いつか、あそこにシンバが座るのかね、隣にはネイン姫?」

と、自分の呟きに笑いながら、台座の後ろにある垂れ幕の奥を調べたり、椅子をどかしてみたりして、秘密の扉を探す。

シカは、鍵の開いた宝庫へと来て、

「わぉ、何もない」

と、笑いながら呟き、全部、売っちゃったんだろうなと思いながら、空っぽの宝箱の中を覗き込んだり、壁をノックしてみたりして、秘密の扉を探す。

シンバが開けた部屋は図書室。

棚から本を抜き取ってみたり、棚を引き摺ってどかしてみたり――。

「・・・・・・棚の後ろに秘密の扉ってあるんじゃないの?」

小さい頃に読んだ隠し通路などがあった本の内容を思い出しながら、何もない本棚の後ろを見て、呟く。その時、誰かの悲鳴が聞こえ、シンバは図書室を飛び出し、悲鳴が聞こえただろう下の階へと走った。考えもなく飛び出したのは、悲鳴が子供の声だったからだ。

礼拝堂から飛び出して来る子供達。

まだ会った事のない子供達だ。

シンバは階段の手摺りを飛び越えて、子供達の目の前に降り立つと、

「どうした!?」

そう聞いた。子供達は突然のシンバの登場にも驚き、その場でペタンと腰を抜かすように座る子もいれば、尻餅をついて、更に引っ繰り返る子もいる。

どうしたんだよ?と、シンバが手を子供達に伸ばそうとした時、礼拝堂へと続く扉が大きくバンッと開き、そこに現れたのは、リブレよりも大きな真っ白い狼だ。

まるで、この国の紋章にある・・・・・・そう、スカイピースに刻まれたフェンリル!

驚いた顔で、フェンリルを見上げるシンバ。だが、直ぐにフェンリルの鼻の頭に皺が寄り、牙を剥き出してグルグルと唸っているのを見て、

「逃げろ!!」

子供達にそう叫んだ。だが、子供達は恐怖で動けない。1人、2人、3人、4人・・・・・・全員で7人いる子供をシンバ独りで抱きかかえるのは不可能。

ならば、子供達の盾になるしかないと、シンバは、剣を抜き、大きなモンスターとも言える相手に立ち向かう選択を選んだ。いや、シンバの中で、独りで逃げるという選択など、全くなく、子供を助けると言うコマンドしか頭にはなかった。だから戸惑いもなく、剣を抜き、攻撃態勢で、フェンリルに向かって走っていた。

フェンリルとは神話などに登場する狼の姿をした大きな怪物で、本来、この世界に怪物やモンスターなどと言われる存在はなく、だが、存在するとしたら、それは本当に化け物であろう。そう、目の前の生物は正に化け物だが、シンバは、恐れなどなかった。

子供を守らなければと、そう思う一心で動くシンバは、まさに子供達の目に、英雄だ。

だが、当然、シンバの真っ向からの攻撃など、フェンリルに効く筈もなく、大きな爪がシンバの体を引き裂いた。血が飛び散る中、子供達は余計に恐怖で動けない。

「シンバ!!」

と、今、遅れてやって来たツナが、やはり手摺りを飛び越え、着地すると、直ぐに戦闘に加わり、なんだこりゃ!?と、フェンリルに驚くが、驚いている暇などなく、フェンリルの牙や爪に追い詰められる。

「リブレぇぇぇぇッ!!!!」

ツナは、フェンリルの獣としてのスピードに適うのはリブレしかいないと、そう叫んだ。

暖炉の前で寝ていたリブレは、ピクッと耳を動かし、ツナの声に反応。直ぐに立ち上がると、扉など体当たりで開け放ち、ツナの声のする礼拝堂へと風の如く走り、だが、既にシンバもツナも結構な大ダメージの時に登場。

子供達はリブレの登場にも驚いて、失神してしまう子もいる。

リブレに期待するものの、フェンリルにとって、シンバとツナとリブレのトリプル攻撃など、全く通用しない。

ライガの存在に期待するが、この騒ぎすら、連中のお遊びでしょうと、放っておきましょうと。

カラが、酷く騒がしいと、不安そうに言うが、また何かやらかしたんですかなと、やれやれと言うだけで、ライガは、ソファーに寝かせたパンダに、毛布を被せている。恐らく、カラを不安にさせまいとして、平然としているのかもしれない。

そして、かなり遅れて現れたのはシカだ。

遠くから見ながら、混乱するような光景だが、あの怪物を倒すという事は、直ぐに理解できた為、麻酔銃を撃ってみるが、的は勿論、大きい為、確実に直撃してる筈なのだが、体が大きすぎて、多少の麻酔程度は効かない。何発撃っても、怪物の動きが止まる様子もなく、それどころか、銃弾の痛みなど全くないのか、気にも留めていない。やがて麻酔弾は一発もなくなり、シカは立ち尽くす――。

カモメもやって来たが、何をしていいのか、しかもこんな戦闘に、自分では役に立たないと思い、子供達を一人一人、せめて部屋の隅へ移動させようとする。その時に、立ち尽くすシカに気付き、シカに手伝ってと、声をかけるが、シカは呆然として立っているだけ。

何度、シカと大声で呼んでも、動かないので、しょうがないと、カモメは1人で、子供達を、少しは安全だろうと、部屋の隅へ移動させる。歩ける子には、急いで、ここから逃げるように指示を出した。

今、シンバがフェンリルの爪で、下から上へと叩かれ、体ごと、宙を飛び、床にバウンドしながら落ちた。吹き抜けとなる天井は高く、かなり高い場所から落ちたが、それでも立ち上がろうとする。シンバの切り裂かれた傷口から血が溢れ出て、目の前が暗くなり、うまく立ち上がれない。いや、自分の血で滑ってしまい、立ち上がれずに、何度も何度も無様に立ち上がろうとするが、立ち上がれない。そんなシンバを嘲笑うように、フェンリルの目がシンバを映し、シンバを攻撃しようとしているから、ツナが、シンバの上に被さるようにして、シンバを守ろうとする。

ツナ自身も既に血塗れで、立っているのも不思議な程だが、せめてシンバだけはと、シンバを守る為に、シンバの上に覆い被さる。

そんなツナの目の前に立ち、ツナを守ろうとするのはリブレ。

白い美しい毛が赤く染まり、リブレもまた重傷だが、フェンリルに負けず、鼻の頭に皺を寄せ、唸り、威嚇しながら、牙を剥き出して、フェンリルを睨んでいる。

フェンリルは、まるで笑うような表情で、大きな爪を出した手を振り上げて、リブレも、ツナも、シンバも、全員に止めを刺そうとしている。

今、フェンリルの手が振り下ろされようとした時、

「やめろ!!!!」

シカが叫んだ。只の叫びであり、幾らカモメが叫んでも、フェンリルは動きを止めなかったのに、シカの叫びに反応したのか、動きを止め、そして、フェンリルはゆっくりと顔を動かすようにして、シカの方を見た。

シカの傍にいるカモメが、フェンリルの視界に入っていると、怯えながらも、子供達を背に、守る態勢をする。

「・・・・・・シカ?」

と、シンバとツナは、フェンリルの攻撃が来ると思い、目を閉じたのだったが、シカの叫びと、何も攻撃が来ない事に目を開けた。

「やめろ。やめないのであれば――」

シカはそう言うと、ポケットから小さな瓶を取り出し、

「この毒薬の瓶の蓋を開ける。この薬は直ぐに蒸発し、この場にいる者全員の肉も骨も解かす兵器と言ってもいい、僕が開発した、この世に1つとない薬だ。フォックステイルは殺しをやらないから使う事はなかったが、どうせ殺されるならば、お前も道連れで殺す。絶対に殺す。絶対に殺してやる。絶対に許さない。絶対に!!」

と、小さな瓶を持った手をフェンリルに向かって伸ばす。

そんな事を言い出すシカを、血で視界が悪くなりながらも、見つめ、

「シカ・・・・・・・・」

と、シンバ。

「アイツの目・・・・・・」

と、ツナ。

「真っ赤だ・・・・・・」

と、シンバ。

「あんなアイツ、見た事ねぇ・・・・・・」

と、ツナ。

いつも飄々として、余裕があって、山積みの問題も軽く交わすようなシカが、

「僕の大事な友達だ。独りだった僕が独りじゃなくなったのは、悪魔の僕を受け入れてくれた友達がいるからだ。それを僕から奪うなら、奪ってみろ。自分の命を捨てて、お前の命も奪ってやる。これは僕に・・・・・・悪魔に相応しい最期だ――」

と、ラブラドライトアイを燃えるような真っ赤にして、フェンリルに言う。

フェンリルは言葉がわかる訳じゃないだろう。だが、シンバ達へ振り上げた手を引き、爪も引っ込め、そして、シカに向き直り、大人しく、座って見せた。

そのフェンリルの行動がわからなくて、シカは眉間に皺を寄せ、少し首を傾げるが、

「シカの瞳に反応してるみたいだ」

と、カモメが、ホッと息を吐き出しながら、言った。シカが、カモメを見ると、

「ラブラドライトアイで、主である天空人だって思ってるんじゃないかな? しかも色の識別ができる視覚を持ってて、シカの目が赤いから、怒っているんだと知って、大人しくなったんじゃない?」

そう言いながら、怖かったねと、笑う。笑うカモメの顔に、安堵を思ったか、シカの瞳がいつもの優しい色に戻り、うん、怖かったよと、笑い、フェンリルも、笑顔になったシカに、ホッとしたのか、どことなく、すまなそうな表情をして、少し鼻をフンフンと甘えるように鳴らしている。

よっこらしょと、ツナが立ち上がり、シンバに手を伸ばすと、シンバはツナの手を握り締め、立ち上がり、だがヨロヨロする2人に、リブレは大丈夫?と言う風に、傍に付き添おうとするが、その場で、ペタンと座り込んでしまった。シカとカモメは、急いで、3人に駆け寄り、カモメは、立つのもやっとのリブレを支えた。

「戦闘においてのそういう役割は俺のキャラだろ? かっこいいトコ、とられちまったな」

と、シカの右肩に手を置き、持たれかけるツナ。

「流石、見た目も一番カッコイイだけあって、ピンチにカッコよくキメるね、シカは」

と、シカの左肩に手を置き、持たれかけるシンバ。

2人で体重預けたら重いと、よろけるシカに、

「シカは悪魔じゃないよ」

と、シンバ。

「認めてやるよ、お前は大事な仲間だ」

と、ツナ。

「ありがと、シカがいて良かった」

と、シンバ。

「ホント、お前がいて助かった」

と、ツナ。

シカは少し微笑んだ後、

「悪いけど、僕に引っ付かないでくれる? 僕は支えないよ? 僕の腕は女の子を抱く為にあるんだから」

と、シンバとツナを突き飛ばした。

笑うカモメに、シンバとツナは、よくも重傷の怪我人を突き飛ばしたなと、でも起き上がれる気力がなく、そのまま倒れたまま。

シカは同じ重傷なら女の子のリブレが先だと、背負っていたリュックの中から薬を出して手当てを始め、カモメは子供達に、もう大丈夫だよと、うちへ帰れる?と、声をかける。

シンバとツナは仰向けに倒れたまま、天井を見つめ、そして、そのままで上目遣いをしながら、大人しく座ったままのフェンリルを見る。

「なぁ、シンバ、アレはなんなんだ?」

「わかんない」

「お前、なんでアレと戦ってた?」

「子供達が襲われてる・・・・・・っぽかったから?」

「ここで?」

「ううん、礼拝堂から飛び出して来た。アレが母の言っていた化け物の正体かも」

「マジかよ、だとしたら魔人っつーのは、もっと強ぇのか?」

「どうかな、その可能性はあるだろうけど」

「魔人にも、シカのラブラドライトアイが効果あればいいけどな」

「あれ? それはツナらしくない台詞だな」

「は?」

「どんな奴が現れても、次は俺が倒すって言うのがツナだろ?」

と、シンバは横に寝転がっているツナを見ると、ツナもシンバを見て、

「お前は怖気づくって事を知らない奴だな。シャークを欺いただけの事はあるよ」

と、ヘッと笑い、ムクッと起き上がると、

「アレが開かずの扉の向こうにいる化け物だとしたら、秘密の扉は礼拝堂にあるのか?」

そう言った。シンバも血だらけの体を起こし、イテテッと言いながら、

「だろうね」

と、礼拝堂の開けっ放しになっている扉を見つめる。

あの扉の向こうに、スカイピースで開く扉がある。

体を起こした時に視界にカモメが目に入った。一生懸命、子供達に大丈夫だと言い聞かせ、うちに帰るように話してるが、子供達は、震える足を立たせる事すらできないでいる。

「・・・・・・怖がらせただけだったな」

悲しそうにそう呟き、俯くシンバ。

「フックスなら、どんなピンチでも、どんな場面でも、きっとショーを見るように楽しく遣って退けて、笑って終わらすんだろうな。ましてや子供達が逃げれなくなる程、脅えさせる事なんて絶対にしない。なのに・・・・・・ボクがフックスに成り切れないから、フックスが怖がられてるようで・・・・・・ボクは自分が情けないよ」

そう言って、自分はフックスに近付く事さえ叶わないんじゃないかと、落ち込むシンバに、

「それを言っちゃ、お前、俺なんて酷いもんだ」

と、ツナは、大きな溜息。そして、

「全く守れてねぇし」

と、血だらけのシンバに言う。

「そんな事ない。ツナが来てくれたお陰で、この程度で済んだんだ」

「バカ言え。俺が来て、この有様だ。もっと強くなんねーとな。お前はそんな落ち込む必要ねぇよ、だって、お前、今、フォックステイルじゃねぇもん。シンバ自身だったんだ、フックスじゃねぇからよ、子供達が怖がってもしょうがねぇだろ」

「なんか、余計、落ち込む」

そう言ったシンバに、ハハハッとツナが声を出して笑ったが、

「子供達に怖がられてるのは、キミ等が血だらけだから。さぁ、手当てしてあげるよ」

と、医療ホチキスをカチカチ鳴らしながら、シンバとツナを見ているシカに、2人の顔は血が抜けて青いにも関わらず、更に血の気が引いて、青くなっていく。

「ま、ま、待て、そのホチキスは使うな!」

と、後退りするツナ。

「かなり痛いんだよ、バチンバチンって皮膚をそれで塞ぐのは!」

と、やめてと首を振るシンバ。

「何言ってんの、これ使わなきゃ開いたもんを塞げないでしょ。リブレは大人しく手当てさせてくれたよ? 開いた皮膚の中に消毒液も入れて、中の菌も綺麗に洗い流さないといけないんだ、逃げてないで、さっさとやろう、時間が勿体無い」

イヤだぁと、ツナとシンバは立ち上がり、逃げようとするが、その体で逃げれる筈もなく、まずは、ツナがシカに捕まった。

「俺は大丈夫だから! こんな傷は舐めときゃ治るから! 先にシンバからやってくれ! 俺は全然ホントお気遣いなく!!」

「ウルサイ! 男の体なんて触りたくもないんだ!! 不機嫌な僕を苛立たせるな!!」

と、シカはツナの服を剥ぎ取り、血で引っ付いてしまってる部分などもある為、殆ど、破り捨てて、黙って横たわれと、ツナの足を足で引っ掛けて倒れさせた後、ぎゃああああああああと言う大きな悲鳴を上げたツナに、シンバは、今直ぐ逃げなければと焦り出す。

「シンバ!」

と、今、カラが階段から駆け下りて来る。調度いいタイミングだと、シカが、

「シンバを逃げないように捕まえておいて下さい」

などと言うから、シンバが、逃げなければと更に焦る。

「シンバ! 何があったの? 凄い怪我・・・・・・それに・・・・・・なんなの?」

と、大きなフェンリルを見て、カラは驚いている。

「母、パンダは?」

「ちゃんとソファーに運んでおいたわ。一体何があったの?」

と、シンバの腕を掴んで、シンバの顔を見つめ、心配で不安な顔のカラに、

「うわああああああん」

と、大声で泣きながら、走ってきたのは、子供達だ。

「アナタ達!? どうしたの!?」

カラは泣いている子供達に囲まれ、本当に何があったのかと、困惑している。

「母・・・・・・子供達はみんな無事だよ。ちょっと怖い思いさせちゃったから、泣いてるけど、怪我はない。だから、うちに帰してあげて? 親の元へ帰れば安心すると思うから」

「・・・・・・アナタは? アナタは平気なの?」

「平気だ」

「でも・・・・・・」

「ボクはもう親に傍にいてもらって、不安を拭う年齢じゃないよ」

と、笑うシンバに、カラは黙ってしまう。変な意味じゃないんだけどなと、シンバは、

「ボクには仲間がいるから大丈夫。子供達をお願い」

と、カラに言い、カラは頷き、子供達を家に送る事にした。

子供達は、カラから離れないように、引っ付いて歩いて行く。

シカがツナの手当てを終えて、ぐったりしてるツナをそのままに、シンバを捕まえる。

「シカ、そのホチキス、何度経験しても慣れないんだけど」

「そりゃ痛いよ、麻酔してないし。でも縫合するよりラクに、尚且つ直ぐに、傷を塞げる」

「いや、だけど――」

「男がゴチャゴチャ言わない! これは応急処置に過ぎないんだ。今までは医者に診て貰える場所にいたけど、ここには医者がいない。早く医者に診せないと危険なんだ。そんな風に動いて笑ってられるのは、シンバくんもツナくんも鍛えてあるからであって、精神力も人より強いからってだけで、命取りになる事態には変わらないんだから」

「どうせ命取りになるなら、ホチキスで止めなくても・・・・・・」

「とりあえず血を止めて、これ以上、傷が開かないようにしなきゃだろ!? いい加減、聞き分けないと、怒るよ!?」

今、シンバとシカが、言い合いしているのを、カラは、振り向いて見る。

子供達も、振り向く。

子供達の目に、シンバは、どう映っているのだろう。

「陛下」

「ライガ! アナタ、どこに行ってたの?」

「実は――・・・・・・あのパンダという青年を寝かせておる時から、とてつもなく大きな恐ろしい気配を感じ取ってはいたんですが、そこに・・・・・・王子が現れた気配も感じ取っておりました。目が見えぬ故、何と戦っておられたのか、今も定かではありませぬが、それはとてつもなく大きく恐ろしい存在のようでした。急いで駆け付け、共に戦おうと思ったのですが、やめたんです――」

「やめた? どうして?」

「ツナと言う青年が現れたからです。そして、シカと言う青年、カモメと言う青年が、王子の元に集い、他は出る幕ではないと感じ、只、王子の勝利を祈っておりました。世代交代を感じたんです。ですが、チカラの差は歴然としており、王子の勝利は絶対にないと思いました。王子もそれを承知の上で、戦っておられたでしょう」

ライガがそう言うと、子供の1人が、

「王子って、あのオニイチャンの事?」

そう聞いた。また別の子が、

「あのオニイチャン、すっごいカッコ良かったよ」

そう言いだし、子供達が口々に話し出した。

「あのね、あのね、助けてくれたんだよ」

「突然ヒーローみたいに現れた。それで助けてくれたんだ」

「怖くて動けなくなっちゃって、でも助けてくれるオニイチャンを一生懸命、心の中で応援したよ。負けないで、頑張って、勝ってって」

カラは子供達を見回し、

「シンバが? アナタ達を助けたの?」

と、信じられないと言う表情。子供達はウンウンと頷き、あのオニイチャンとシンバを指差した。カラはシンバを見つめ、

「シンバが? あのシンバが、負けると思っても、飛び出して戦ったの? 見ず知らずの子供達の為に――?」

そう呟く。

「いい青年だ。王子の仲間も含め、なんとも素晴らしい青年達だ」

ライガも、目は見えないが、顔をシンバ達の方へ向け、そう呟く。

「信じられないわ。あの子は、そんな子じゃなかったのよ」

寂しげに呟くカラに、

「何か不服ですかな? とても良い青年に育っておられるのに?」

と、ライガは不思議に思う。カラは、ううんと首を振った。

「願った通りに育ってくれた。不服なんてないわ。でも、あの子を変えたのは、親の私ではない。どんなに願っても、どんなにわかってほしくても、あの子を変えれなかった。頑なに、あの子は、父親そっくりで、父親の道を歩もうとしていたのに――」

「子供の頃に出逢う大人は、親だけではない。寧ろ、親と言う者は、子供にとって、愛してくれて当然の存在。何をしても、何があっても必ず愛してくれる。だが、親以外の大人が、己の存在を理解してくれて、救ってくれた時、子供はそこに正義を見る。子供と言うものは、悪より正義に憧れるものです。特に男は。王子は、いや、彼等は、きっと正義を貫く大人に出会ったのでしょう、彼自身が、そういう大人になろうと、その道を走り抜いてる最中なんでしょうな。本来ならば大人はそうでなくてはならない。子供達に道を指し示す生き方を見せなければならない。彼等はそんな大人に出逢って大人になったならば、今の世に必要な大人だ。ヒーローごっこなど、大人になってするものはいないが、大人こそ、子供に憧れられるヒーローになるべきだ。例え、ごっこでも――」

ライガはそう話しながら、目は見えなくても、子供達の頭を撫でて行き、この子達は、良き大人に出逢い、道を1つ教えられたなと、シンバ達のヒーロー振りに微笑む。カラは、シンバがスカイピースの話をした時に、大好きな人がと、そう言っていたなと、思い出す――。

「王子は、大きな、巨大とも言える敵に挑む事に、恐れなどなく、飛び出したと思います。恐らく、死ぬ事に、恐怖を感じてなど、全くなかったんでしょう。それよりも子供達を助けられない事に恐怖を感じていた。目が見えぬと、どこにいても、人の感情が手に取るようにわかる。きっと、王子は、怖いのは命を失う事ではなく、未来に可能性のある命が消えてしまう事だと、目の前の助けられる命を助けない事だと、そう思っておられそうです」

ライガの台詞で、カラは、シンバの大好きな人と言うのは、亡くなっているのだろうかと思う。そして、シンバの命を、命を懸けて救ってくれた人なのだろうか、もしかしたら、そうなのかもと、思い、

「その人には、私は会えないのかしら?」

そう問うと、ライガはわからないと首を振りながらも、

「逢えるでしょう。いや、もう既に逢っておられるでしょう。その人は、あの王子自身ですからな」

と――。

「何にせよ、最後の最後まで、子供の目にヒーローとして焼きつかせたのだろう。どんな過酷な場面を見せても、そこに正義があれば、子供は大きな傷を抱えながらも恐怖に立ち向かう事ができる。そして子供は大人になってもヒーローでいる事を恥じる事なく、生きていこうとする。王子は教えられた道を歩く事を誇りに思い、大人になっても消える事のない傷を大事に守っているのだろう。その傷が癒えぬ事で、自分を誇りに思っておられるのだ。その者と同じ道を歩んでいく人生に――」

カラが、シンバに教えたかった道を、シンバが歩んでいるにも関わらず、やはり少し寂しくなってしまう。だが、親として今のシンバを誇りに思えるのは、シンバが大好きな人に巡り逢い、その人を誇りに思っているから――・・・・・・

「王子は、きっと立派な王になられる」

ライガが、そう言うので、

「親なんて無力ね」

そう言った後、カラは、笑顔で、

「さ、親が心配してるわよ、帰りましょう」

と、子供達の背を押した。子供達は、シンバの話を楽しそうに口々にしながら、帰る。

自分の話を、子供達が嬉しそうに話しているなど、知らないシンバは、シカからの手当てが終わり、仰向けに引っ繰り返ったままグッタリしていた。グッタリしたいのはコッチの方だと、シカは、暴れたシンバとツナを睨みながら、散らかった薬などを片付け出す。

「素直に大人しく手当てさせてくれれば、こんな散らからないで済んだのに。大人気ないよ、全く。アレ? コレって何の薬だっけ? 蓋がどこかにいっちゃってるし」

「ところでシカ。毒薬の事だけど」

シンバが、そう言いながら、起き上がってシカを見る。

「毒薬?」

「ほら、直ぐに蒸発して肉も骨も溶かすとか言ってた・・・・・・あれは――?」

「あぁ! あれは只のアルコール消毒液。毒ってのはハッタリだよ」

そう答えたシカに、横たわっているツナが、心なしか更にグッタリ感が増している。

「ハッタリ!? 嘘なのか!?」

「嘘に決まってるじゃないか。そんな薬を作る時間も金もないよ。それに子供達がいたんだ、そんな薬があったとしても使わないよ。僕を誰だと思ってんの? フォックステイルのメンバーの1人だよ? どんな事情があっても殺しはやらない」

シンバは、なんだよもうと、安心したように、チカラを抜いて、

「そうか、キミは騙すのが得意なフォックステイルだったね」

と、冗談っぽい口調で、少しだけ笑いながら、そう言った後、バタンと後ろに、また仰向けに倒れ、心身共に疲れたと、グッタリ感20パーセント増しになる。

「あー、いたいた、みんな、どこに行っちゃったかと思った。オラ、寝ちゃったんだね? 疲れが溜まってたんだなぁ」

とぼけたパンダが階段を下りて来る。そして、

「何? 喧嘩したの? 仲良くしなよ」

と、シンバとツナを見て、更にリブレまで何やってんの?と、とぼけた台詞。

「何故この怪我を見て喧嘩と思う訳?」

「身内同士の喧嘩で殺し合いかよ」

そう言ったシンバとツナに、だってシンバとツナだからと、言うパンダ。

ボクとツナだから? 俺とシンバだから?と、シンバとツナは起き上がり、お互い見合い、なら余計、殺し合いはないだろう?と、パンダを見るが、パンダの視線は既に違う方向。

「このリブレのでっかいのは何? え? 作り物? 生きてる?」

と、パンダはフェンリルを見上げる。

「その説明はうまくできないよ、でも調べれば説明可能かも。オイラ、先に礼拝室へ行くね。シンバとツナは休んだ方がいい。リブレもね。その体じゃ、当分の間、戦闘は無理だし、今、無茶をする必要はないから」

と、カモメは礼拝室へと入って行く。よくわからないが、オラもと、パンダも礼拝室へと入って行き、シカも散らかった薬品を片付けた後、礼拝室へと入って行った。

残されたシンバとツナとリブレは、行きたくても体が動かないと、その場で寝転がったまま。

「なぁ、シンバ」

「うん?」

「この際、温泉行くか」

「いいね。でも、もうちょっと休む」

「だな」

礼拝室の床に、円陣があり、それはミリアム様の右目から出ているムービーのようで、パンダが、目から光線でてたシカみたいだと言う。

「オイラのキーボードと同じで投影されてるんだ、この円陣は転送装置みたいだよ」

と、カモメはミリアム様の像を調べながら言う。

「転送装置って? つまり、何が転送されたの?」

パンダの問いに、

「フェンリル。あの大きなリブレみたいな奴が、どこからか転送されて来たんじゃないかな」

と、カモメはそう答え、パンダは、それって召喚?と言うから、カモメは少し考え、頷く。

「魔法の言葉で言うならパンダの言う通り、召喚だね、多分、この召喚の陣が開いた扉なんだよ、そして開いた扉を使うのは天空人であると、フェンリルはインプットされてるんだと思う。所がそこにいたのは天空人ではなく、ミリアム様に祈りを捧げてた子供達だった。だから襲い掛かったけど、シカの瞳を見て、天空人だと確認して、大人しくなったってとこかな。この召喚の陣を使えば、フェンリルがいた場所へ行ける筈――」

話しながらカモメはミリアム様の像の背中部分に、からくりがあるのを発見する。

簡単なパズル方式の鍵になっていて、小さな四角いボタンを順番に押して、答えを導くと、ミリアム様の左目から光が放たれ、床に新たな投影が浮かび上がる。

「・・・・・・あの壁の文字と同じものだ」

シカはそう言いながら、左目を閉じて、右目のラブラドライトアイで、文字を読んでいく。

「やっぱり只の文字の配列だ。また呪文の言葉をタイピングするのかな」

シカはそう言いながら、カモメを見る。

「もう呪文は必要ないと思う。フェンリルが最後の難関だと思うよ。その天空人の文字の配列は陣を使う為のアクセスに使うんだよ。二人共、陣の中に立って? 呪文の〝光と大地の恵みと、ミリアム様の名の下に〟って場所へ転送してみよう」

と、カモメは床の文字を見ながら、さっき自分のキーボードにインストールした天空人の文字とを照らし合わせる為、キューブを取り出し、床にキーボードを投影させ、そして更にキューブから空間に浮き出る画面を投影させる。

その画面に引き出されたデーターは、今、この世界の者達が使っている通常の文字で、天空人の文字が訳されたもの。ひとつひとつ確認しながら、ミリアム様の目から投影されている文字を打ち込んで行くカモメ。

「何をタイピングしてるの?」

パンダが陣の中央に立って、クエスチョン顔で問う。

「光と大地の恵み・・・・・・つまり空と地の命って意味だと思うんだ、それをミリアム様の名の下に・・・・・・つまりミリアムと言うテリトリーに・・・・・・5秒後にGO!」

と、決定ボタンを押したのだろう、カモメは人差し指で、ポンッと1つのキーを弾くと、自分も急いで陣の中に入った。

それは一瞬だった。

眩い光が3人を包んだかと思うと、一瞬で跡形もなく、礼拝室から消え去った。

そして3人が移動した場所は・・・・・・

「ここどこ? 空に浮かぶ大陸?」

と、パンダは密室を見回しながら言う。

「違うと思うよ、多分、ここはまだカーネリアンだよ。城の中か、或いは街中か大陸内か」

と、カモメも周囲を見回しながら言う。

「何にせよ、秘密の部屋に到着って訳だね」

と、シカがそう言い終わった後、パッとライトが付いて、部屋が明るくなった。

ビクッとする3人を待ち構えていたのは、壁一面に埋め込まれたように設置されたコンピューター。そしてライトが勝手に点灯したようにコンピューターも自動的に起動し始める。

窓1つない部屋の中、コンピューターの眩い光が点滅を繰り返す。

「なんだろ、これ?」

と、シカはデスクの上に並ぶ瓶に入った水溶液を指差す。さぁね?と、カモメはコンピューターをいじり出し、パンダは幾つも並ぶラックにかけられた衣類を首を傾げながら見る。

水溶液の傍にあるコンピューターに映し出される文字を、シカはラブラドライトアイで読み、そして、水溶液の蓋を開けて、ニオイを嗅いでみる。

「シカ!? そんな事して大丈夫!?」

カモメが振り向いた時にシカが怪しい薬のようなもののニオイを嗅いでいるので、思わず二回も振り向いて、そう叫んだ。シカは頷きながら、

「多分、このパネルに書かれてる成分が入ってるんだろうけど・・・・・・知らない成分も書かれてるけど、知ってるモノだけ見ると、毒ではないかなと・・・・・・・でも何の液体か、成分だけ見てもよくわかんないなぁ・・・・・・なんだろ、この聞いた事もない成分・・・・・・」

と、首を傾げながら、水溶液を自分の手の平に少し落としてみる。

おいおいと、カモメは本当に大丈夫なのか?と思うが、薬らしきモノは自分の許容範囲ではない為、シカに任せるしかないかと、またコンピューターをいじりながら、これはなんだろう?と首を傾げたり、頷いたりする。

パンダは何着も同じ服がラックにかけられている事に不思議に思うが、服がなんなのかを理解すると、ポンッと手の平を叩いて、

「わかった、防弾服のすっごい薄い奴だコレ! オラが考えてた素材に似てるもん。こういう素材だったら、銃弾を通さないし、下手したら弾き返すのになぁって! しかも軽くて動きやすい! フォックステイルに必要な防御服だよね!」

と、大声を出した。カモメもシカも、そう言ったパンダを見ると、

「まるで下着みたいだけど、この手触りからして、かなりの防御力のある素材だよ、弾力もあるけど、全然、薄いから、下着として着用できるんだ。だから敵から防御服を着てると思わせないんだ。これは敵を油断させる事ができる!」

画期的な驚きだと、パンダは言うが、そういうのって手触りだけでわかるの!?と、カモメもシカも、パンダの柔らかそうなふわふわの手に対して驚く。

シカはパンダの傍にある画面を見ながら、確かにそのようだと、

「そこに服の開発途中のデーターが出てる。でもその服には欠陥があるみたいだ」

と、パンダに近寄り、パンダが見ている服を見ながら、

「肩の部分は貫通するって書いてある。でも銃弾なら、狙いは胸か腹部、問題ないだろう。でも剣なら、肩も的の1つだ。天空人と地上の人間の戦争があった時に、この防弾服が弾を弾いたのかもしれないが、剣は効果的だったのかもしれないな」

そう言ったシカに、カモメが、そうかと、

「だから今も剣が主流の時代なのかも。国々の軍も賊も、戦う者は銃も武器とするけど、主に剣を手にしてる。それって天空人に勝利した最強武器だって、そう思ってるからなのかも」

そう言った。パンダが、シンバとツナも剣だしねと言いながら、肩部分を強化できないかなと服を見ながら考える。シカはまた水溶液の場所に戻り、ふと、手の平に出した水溶液をどうしたっけかな?と、自分の服で拭いちゃったっけ?と思いながら、

「・・・・・・あれ?」

と、手の平を見つめ、眉間に皺を寄せた。

「どうかした?」

カモメがシカに問うが、シカは首を振り、

「いや、なんでもない」

と、苦笑い。だが、シカは自分の手の平の異変に気付いた。

「――傷が再生してる」

口の中でそう呟き、確か小さな掠り傷が親指の付け根辺りにあった筈と、それが綺麗に治ってる事に疑問を抱く。そしてパネルの文字を見つめ、

「・・・・・・あのフェンリルを生み出した水溶液のテストバージョン?」

と、更に口の中で呟き、自分の手の平を見つめ、

「生命を作る水溶液・・・・・・細胞分裂をするから・・・・・・傷も治す・・・・・・」

と、そこまで呟いた後、

「この水溶液、シンバくんとツナくんにぶっ掛ければいいかも」

そう叫んだ。突然、そんな得体の知れないものをぶっ掛けるとか、どうなんだと、カモメは思うが、そんな冗談に付き合っているどころじゃないと、

「シカ、パンダ、このコンピューターは気象を操れる装置だ、気象兵器として、使われようとしてたみたい。攻撃したい国に、嵐を呼ぶとかね。そして、カーネリアンの吹雪は、そう設定されてあるんだ、それを解除できれば、カーネリアンは住み易い天候になる!」

と、つまりカーネリアンが、国として成立するんだと、嬉々として言いながら、

「パンダ、オイラの鞄からキーボード出してくれる? 手が離せない」

そう言って、装置をいじっている。パンダは頷いて、カモメのショルダーを開け、中をガサゴソ漁りながら、出してきたものは――・・・・・・

「カモメ? これ? なに?」

と、ブルーに煌く大きな宝石を手に持って、カモメに見せる。

カモメはパンダの手にある宝石に、

「なにそれ?」

と、びっくりした顔。

「なにって、カモメの鞄に入ってたよ」

「まさか。オイラの鞄にそんなものが入ってる訳ないだろ?」

「でも入ってたもん」

「なんで? 賊達から奪った宝に、そんなのがあったっけ?」

「ていうか、賊達から奪った宝だとしても、それは別の鞄の中に入ってるもので、カモメの鞄に入ってるのはなんで? くすねたの!? フォックステイルから!?」

「くすねる訳ないだろ! オイラだってフォックステイルの一員だぞ! 仲間から何を奪うって言うんだよ!? それやったらオイラは得るものより失うもののがデカイだろ! 裏切り者になるんだから!」

「う、裏切り者!? オラ達を裏切ったの!?」

「だから裏切る訳ないだろ!! パンダって実はオイラの事、嫌いだろ!? オイラにハンマーを落とした事は忘れてないぞ!?」

それ根に持ってるのかと、シカが苦笑いしながら、喧嘩になる前に、2人の間に入り、

「ソレ、サードニックスから持って来たんじゃない? だってカモメはずっとサードニックスにいた訳だしさ。他にカモメの鞄に宝石が入る理由はないと思う」

そう言って、カモメを見る。そうかもと頷きながらもカモメは首を傾げ、パンダは、フーンと、大きな煌く宝石を、カモメの鞄の中に戻しながら、

「だとしたらラッキーだね、サードニックスから宝を奪えてたんだから」

そう言うが、カモメは、サードニックスは宝を持ってないって言ってたけどなぁと、考える。

確か、飛行船に宝を継ぎ込んだと聞いたが、どこかに隠し持っていて、それが偶然何かの拍子に鞄に入ってしまったのだろうか。

だが、飛行船の資金に使わず、大事に隠し持っていた宝石ならば、サードニックスにとって大事なモノかもしれない。

そんなもの持って来ちゃって大丈夫かなぁと、思いながらも、まぁいいかと、

「その宝石はホントにサードニックスのモノなのか、わからないし、今はどうでもいいよ、それより――」

と、気象を操れる装置について話す。

「つまり、カモメ、こういう事かな? カーネリアンの吹雪が止み、穏やかな気候になり、人々が住み易い場所になる。そして、この水溶液がどんな傷も治癒する効果のある薬になるのだとしたら・・・・・・更にパンダが見てる服が最強の装備になるとしたら・・・・・・」

シカがそう言うと、カモメもパンダもお互いを見合い、そして2人はシカを見て、頷き、

「国として世界から認められないカーネリアンが復活を唱えれば、他国から攻撃を受けるだろう。でも他国からの攻撃に防御もできれば、そして傷も癒せるなら、全滅は防げる。いや、全滅どころか、敵も味方も誰も死なせずに、全勝するだろう、それも他国を傷つけずに、防御というカタチだけで勝ち進める。他国は、まるでキツネに化かされたみたいだと、思うだろう。誰も傷つけないで、勝利するなんてね。まさにフォックステイルそのものの理想の勝ち方。そして・・・・・・良い国を作れば、いつか人は集まってくる。それは近い将来・・・・・・そしてオイラの学校の夢も夢じゃなくなる!」

「オラも絵本を作れる! フォックステイルの絵本だもの、絶対に売れると思うんだ、そしたら資金は貯まるよね! その資金で更に国を大きくできる!」

「僕も、この国で医者になる為に、まずはこの薬を、ちゃんと調べてみるよ。多分、温泉も、この薬と似たような成分が入ってるに違いない。温泉が湧いてると思うくらい、万能薬と言ってもいい薬が、湧き出てるんだ、つまり、使っても使っても、大量にあるって事だ。なにより、この施設があれば、なんだってできる気がする。ここは魔法の王国になるよ」

そう言い合うと、3人で、声を合わせ、

「目指せ! 復活のカーネリアン!!」

願いと夢と希望が溢れる喜びの声を上げた。

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