13.空と地の物語

ツナが、オグルの家に戻ると、何故か、シンバが引き攣った顔で笑顔を作っており、パンダは何も喋らないと言う風に両手で口を押さえ、シカはいつも通りだが、全く目を合わせない態度が気になり、オグルは何故か縛られている・・・・・・。

「・・・・・・なんでオッサン縛ったんだ?」

まずその疑問を口にすると、

「暴れるから」

と、即答のシカ。つまりシカが縛ったんだなと、

「で? なんで、お前は俺と目を合わせない?」

そう問うと、

「大した理由じゃないよ」

と、言うので、フーンと、頷き、

「シンバはなんで妙な笑顔なんだ?」

そう問うと、

「え、えぇっと、ツナとリブレが、無事に帰って来たのが嬉しくて」

と、嬉しい表情とは思えない顔で答え、

「で、パンダ? テメェは何を喋りたいんだ? 楽になりてぇなら喋っちまえよ」

と、ツナは、パンダの両手を引っ張り、口から外すと、シンバが駄目と、パンダの口を塞ぎに行こうとするが、ツナの足に引っ掛けられ、その場でスッ転び、起き上がれないようリブレがシンバの背中に乗り出すから、シンバは、床で、もがいている。

その様子を、面白いなぁと、シカは笑いながら見ているだけ。

「しゃ、喋らないぞ、ツナなんか怖くないからな! そんな怖い顔しても喋らないぞ! 力になんか屈しないんだ!! 絶対に喋らないぞ!!」

「へぇ、何を喋らないんだ?」

「それはツナがリンシーとキスしてたって事だよ!!」

と、大声で喋るパンダ。

パンダは、あわあわと自分の口を押さえ出し、ツナは、くだらねぇと、小さな溜息を吐き、シカは、だから大した理由じゃないって言ったでしょ?と、笑っていて、シンバは、それも気になる事だが、問題はそこじゃないと、リブレがどいたにも関わらず、床でうずくまり頭を抱え出す。

「あ? て事は、なんだ? お前等、来てたのか?」

そう、問題はそこだと、シンバは立ち上がり、苦笑いしながら、

「出難くなっちゃって・・・・・・ゴメン!! でも勘違いしないでほしいんだ、ツナの勝利を疑った訳じゃない! ツナが行った後、ラビバニが登場するかもって思って、それで行ったんだ。案の定、現れたはいいけど、追い付けなかった・・・・・・」

と、説明。そりゃ追い付けない。ツナ自身もラビとバニを目の前に追わなかったのだ、理由はバイクと飛行機に追いつける訳もないからだ。

「それじゃあ、オッサンに話したのか?」

ツナがそう聞くと、シンバは首を振り、

「ツナから話した方がいいかと思って」

そう言うが、それは、お前達が、あの場にいたと言う事を隠す為に、言わなかったんじゃないのか?と、ツナは疑わしい顔で睨む。そんな顔しないでよと、シンバは苦笑いしながら、

「ボク等だって出番全くなくて、結構ショックなんだよ」

と、言うと、パンダが、

「リンシーとキスしたのがショックだ!! リンシーは美人だぞ!!」

バレたから、もういいだろとばかりに、そんな事を言って、拗ね始める。そんなパンダを無視して、ツナは、オグルの縄を解きながら、

「オッサン、オクトパスは倒したし、オッサンの愛用機っつーのも無事だし、オッサンの弟子だっつーリーファスの愛用機も無事だ。リーファス本人も無事だ、だが、飛行機を一機オクトパスとは関係のない奴に盗まれちまった」

と、結構キツく縛ったなと、解くのに苦労しながら言う。

「どの飛行機だ?」

「俺は見てねぇんだけど、歌姫が言うには、薄黄色した奴だって」

「薄黄色? どの子だ?」

「盗んだ奴が、今は、製造されてないパーツが必要だとか言ってた」

「・・・・・・昔の飛行機の中で薄黄色はねぇが、琥珀色の奴ならある。多分、ソイツだな」

「琥珀? フーン」

「ソイツを盗んだのか。パーツが必要って事は解体しちまうって事か?」

「あぁ、多分な。ほら、解けた」

と、ツナが縄を解くと、オグルは手首を擦りながら、

「許せねぇ・・・・・・俺の大事な飛行機を盗み、解体するなんて許せる訳がねぇ」

と、怖い顔で呟いた後、キッとツナを睨み付け、

「盗んだ奴は誰だ!? 知ってんだろ!?」

そう怒鳴る。ツナは肩を竦め、

「超性悪な女だ」

そう言うと、オグルの顔から怒りが消え、真顔で、

「女? そりゃ美人か? スタイルはいいのか? オッパイはでけぇか?」

そう尋ねるから、ツナは、何の関係が?と言う顔をしながらも、

「あぁ、まぁな、俺の好みじゃねぇが、美人でスタイル抜群でデケェ乳してると思うが?」

と、答える。

「そうか、美人か。スタイルも抜群。オッパイもでかい・・・・・・そうか、まぁ、許そう」

許すのかよと、シンバもツナもパンダもシカも、心の中で突っ込む。

「でも飛行機の部品なんて何に使うんだろう?」

シンバの問いに、さぁ?と、

「カモメが必要だって言ったとか」

と、答えるツナ。

「しかも昔の部品だよね? 今の部品じゃ駄目って・・・・・・つまり昔のモノを直してるって事? ほら、部品交換って奴?」

シカが考えながら、そう言うと、オグルが、

「飛行船に使うんだろうよ」

そう答えた。飛行船に?と、皆、オグルを見る。

「ガムパスの船が空に出たのは何年前だ? 兎も角、飛行機もそうだが、飛行船も整備する必要がある。だが、飛行船の技術を知っている整備士も設計士も科学者も学者も工学者も誰もいない時代だ。設計士から譲り受けた飛行船の設計図をガムパスが持ってても、それを理解できる者がいなけりゃ意味がねぇ。それどころか飛行技術はどんどん発達し、必要ないパーツも多くなった。今やガムパスの飛行船は最新技術のモノではなく、時代遅れの只のガラクタの集まりと言っても過言ではない。だが、必ずしも進化したモノが優れている訳じゃねぇ。どんなに凄い技術や頭脳を持ってしても、船を空に浮かばせる飛行技術は未だ謎のまま。何故かわかるか?」

不敵にニヤリと笑い、オグルはシンバ達を見回す。誰も何も答えない。オグルは、

「閃きが違うんだよ。想像力、空想力、発想力ってのはな、全て出尽くしたモノの中でも、まだ生み出す、即ち独創力だ。今の世に独創力のある閃きを持った奴はいねぇ。だから最新技術を持ってしても、船は飛べねぇ。だが、ガラクタでも空を飛べるんだ、言わば、科学じゃねぇ、魔法っつーもんだな。昔のモノ程、その技術は高度で複雑で、だが、解明してみりゃシンプルで、信じれば誰でも動かせる。そう、唱えればいいだけと言う魔法そのもの。その根拠と証明が、今現在、空に一機だけ浮かぶガムパスの飛行船だ」

まるで自分の自慢の船かのように言う。

「・・・・・・カモメを拉致った理由が明らかになったな」

ツナがそう呟き、皆、頷くと、オグルは眉間に皺を寄せた。

「やっぱりボク等の思った通り、ラビとバニはサードニックスに絡んでる。となると、スカイピースを欲しがってるのは、ラビじゃなく、サードニックスって事だろうな」

シンバがそう言うと、オグルが、スカイピースだと!?と、話に食いついて来た。

「オグルさん、スカイピース知ってるの?」

と、問うシンバに、オグルは知ってるも何も――と、何か言おうとしたが、シカが、

「でも、サードニックスに絡む理由は? ウサギちゃん達に、何か利益がある? じゃなきゃサードニックスに、いつまでも潜り込んでる意味がわからなくない? サードニックスの船なら、ウサギちゃん達が、好きなお宝は、沢山積んであると思うけど、それを奪わずに、潜り込んだままって、妙だと思わない? まさかあの2人がサードニックスの賊になったとは考え難い。殆ど2人で動いてるからね。サードニックスも、あの2人に行動させて、本人達の動きがないように思える。そこもわからないよね、あの天下無敵のサードニックスだよ? ガムパスの手となり足となる連中は、イッパイいる筈だ。それにさ、ウサギちゃん達に何か依頼をして、その依頼がうまくいけば、宝をやろうって話になったとしても、ウサギちゃん達なら、その場では頷いても、直ぐに宝だけ奪ってトンズラしそうじゃない? 飛び跳ねてどこかへ消えちゃうのは、彼女達、得意でしょ? それと、もう1つ、疑問があるんだけど、そもそもサードニックスはどうして空に出た訳? 他の賊との争いがないのに、優雅に空で漂ってても、賊暮らしとして退屈なだけだよね? 賊というのは強さを主張したがる連中だし、戦いは常であって、日常。本人同士でやってくれればいいけど、周囲を巻き込むし、強さを求めて、無関係の人まで襲ったりするから問題な訳で、しかも収入源が誰かの持っている財宝となってるから、奪い奪われ、殺し殺されの日々。そう考えると、今のサードニックスは賊と言うより、飛行船で只の空の旅行を楽しんでる連中に過ぎない。彼等が空に出ての活躍は空軍を追い払ったと聞いただけで、その後は特に何も情報は流れてない。ずっと空で大人しくしてるのは何故だろう? まさか空軍をやっつける為だけに空に出た訳じゃないよね? だとしたら、もう空軍のいない空にいる必要がない。飛行船の整備なんてしてないで、地上に降りてくればいい」

と、考え込みながら話し、そうだなと、シンバもツナもパンダも考え出す。

いや、だから、スカイピースがだなと、話したいオグルだったが、誰も聞いちゃいない。

「ラビとバニがサードニックスに潜り込んだと言うよりは、サードニックスと本当に協力し合っているのかもしれない。サードニックスとラビバニの利害関係が完全に一致したのかも」

シンバがそう言うと、シカが、

「どんな利害関係が?」

と、問う。するとツナが、

「賊は強さを求め、欲する」

と、答え、パンダが、

「ラビとバニは美味しいご飯を求め・・・・・・」

と、そこまで言うと、いやいやと首を振り、それはオラだと、お腹空いてて、つい・・・・・・と、自分のお腹を擦りながら、

「ラビとバニなら、デッカい宝石かな。自分を寄り輝かせる為の、世界で只1つの美しい宝石とか」

と、言い直した後で、

「でも、それはラビだとして、バニは、それはいらないって言いそうだなぁ」

と、パンダは首を傾げる。バニなら、やっぱ賊の考えだろと、ツナが呟く。

「この世界で最強の力を手に入れると言うのは、やっぱり賊同士、戦い合って、勝利する事だよね、でも、サードニックスは、地上に降りてくる気配もなければ、他の賊を、空に招く為に、船の設計図を、世に出す様子もない。ラビバニの方も、サードニックスが持っている宝よりも、凄い宝が手に入れられるなんて・・・・・・それって・・・・・・なんだろ?」

と、わかんないやと、シンバは頭を掻いていると、

「だから俺の話を聞きやがれ! ガキ共がぁ!!!!」

と、オグルが怒鳴り出し、皆、ビクッとして、オグルを見る。

「おい、オッサン、そんなキレ方してると、血圧が上がるだろ、血管切れても知らねぇぞ。それにな、ガキって言うな。俺達はちゃんと成人もした大人だ」

と、ツナは冷静なキレ方を見せ付けるように、オグルに言う。

「笑わせるな、俺から見たら、お前等なんぞ小童だ」

「あぁ、そうかよ。で? その小童に何の話だ?」

と、ツナは面倒そうに聞いた。

「スカイピースについて話してやろうってんだ!」

「あ! そうだったね、スカイピースについて、何か知ってるんですか?」

と、シンバが尋ね、オグルはやっと聞く気になったかと、思ったが、シカが、

「それにしても――」

と、何か話し出した。するとオグルが、シカをギッと睨みつけるから、シカは、

「冗談ですよ、聞きますって」

と、笑わない人だねと、小声で言うシカに、笑わそうとしてたのかよと、皆、思う。

「スカイピースってのはな、空へのパスポートだ」

「空へのパスポート?」

問い返すシンバ。頷くオグル。

「俺がまだ幼い頃、10代にもなっちゃいねぇ、本当にガキの頃だ。俺は少年兵だった。俺達の世代はみんなそうだ。ガキの頃、兵士として生きてた連中ばかりだろう。ガムパスもその1人だった。何十人、何百人と、俺は兵士として人を殺して来た」

と、自分の手を見つめるオグル。

「俺が勤めてた国は堕とされてしまったが、当時の俺達の面倒を見てくれた隊長はガキの俺達が夜寝付くまで、話をしてくれたもんだ。人を殺したガキは眠れなくて夜泣きする奴もいてな、だが、恐ろしい事に、ガキってのは純粋すぎるのか、疑問を持たなくなり、やがて泣き喚く女だろうが、赤ん坊だろうが、気にせず引き金を引いたもんだ。それが褒められりゃ、何度でも引き金を引いたさ。それでも寝小便する年齢でもないガキが小便垂れたり、ゲロ吐いたりして、眠れない夜に痩せ細り、そして日が昇れば、褒めてもらいたくて、また人を殺しに走った。そんな俺達に隊長が話してくれる物語は、呆れる程、有り得ないノンフィクションだってんだからよ――」

懐かしそうな目になるオグルに、長くなるだろうと、シンバもツナもパンダもシカも、椅子やソファーに腰を下ろした。そして、シカが、ツナに、顔の腫れが、それ以上、酷くなる前に、薬塗って、冷やした方がいいと、自分の鞄から薬や包帯などを取り出し、パンダが、オラの傷には薬塗ってくれなかったと、不貞腐れ、ツナが、俺も大丈夫だと言うが、ちゃんと手当てしなきゃダメだよと、シンバが言い、パンダが、お腹減ったと言い出し、でも今食べると、眠くなるよと、シカが言って、飴ならあるよと、ポケットは勿論、襟や袖、着ている服の至る所から、飴玉を出して来るシンバに、普段から、どんだけ飴玉仕込んでんだよと、ツナが笑い、笑った時に、顔の傷が痛み、イテテッと言うから、大丈夫?と、シンバが言った所で、

「おい!!!!」

と、オグルが大声を出し、

「テメェ等は、いつも、こうなのか?」

そう問うから、シンバは、こうって?と、首を傾げながら、あ!オグルさんも飴食べますか?何味がいいですか?などと言い、パンダが、オラは苺で!と、赤い飴玉をとり、シカが、じゃぁ、僕はグレープでと、紫の飴玉に手を伸ばし、シンバは、ツナに、口の中切れてる?食べると痛い?と、聞くが、ツナは、青い飴玉を手に取って、食べないけど、もらっとくと言うから、ツナは青色好きだよねぇと、いつも青い飴だもんと、シンバが言って、僕はね、パンダと同じで、苺なんだ、だってフックスにもらった飴も苺だったからと、そう言った後、もしかしてツナもフックスからもらった飴の色を気に入ってたりする?と、尋ねると、いや、別に・・・・・・と、ツナが言って、そういえば、ツナくんとフォックステイルの出会いって?と、シカが聞いた時、スッパー!!これ苺じゃなくて梅!!と、パンダが声を上げ、そのパンダの酸っぱい顔に、シンバも、ツナも、シカも、アッハッハッハッハと、声を出して笑い、シンバが、間違って買って来ちゃったんだと、そう言った所で、

「いい加減にしろ!!!!!!」

オグルが怒鳴り、皆、ビクッとする。

「わちゃわちゃわちゃわちゃわちゃわちゃと!!!! 大人なら、静かに黙って大人しく人の話を聞けねーのか!! テメェ等は!! 飴玉でどんだけ話すんだ!? ピーチクパーチクと、笑いやがって!!!!!」

と、オグルがめちゃめちゃ怒っているので、みんな静かになるが、パンダが、そんな怒る?と、小声で言って、傍にいたシンバが、バシンと、パンダの後頭部を叩いた。オグルは、やれやれと、やっと静かになったなと、スカイピースについて話し出す。

「その昔、この世界には幾つモノ大陸が浮いていたと言う。その空に浮く大陸には天空人と言われる者達がいた」

確かラビがそんな話をしていたと、シンバは思い出している。

「天空人と地上の人間の違いは目の色だった。目がラブラドライトアイと言ってな、感情で色が変わる。今でも地上で、その手の目を持つ者が稀に生まれると言うが、悪魔の証として大体は殺される。だが、空では、その目は天使の印だ」

オグルは、シカの片目がラブラドライトアイである事には、気付いてないようだ。

「何故、天使達はそんな目を持つのか、それは神に心を隠さぬ為だと言う。そして神もまた誰にも偽らぬ瞳を持ち、その空の大陸で崇拝されるミリアムと言う神の瞳は誰よりも大きく、美しいラブラドライトアイであったと言う」

ミリアム様は元々は天空人だったのかと、シンバは思うが、しかし、そんな事は、どの書物にも記されていないと考える。そもそも天空人など知りもしなかった。

「しかし、それは偶像。その話から更に遡り、天空人の危機から始まる。天空人から女が生まれる事は余りなく、その殆どが男であった為、その繁栄は終わろうとしていた。ある時、地上で神に祈る女がいた。戦争に出向く男達に祈りを捧げる美しい女の名はミリアム。今もある多くの聖典は、そのミリアムの奇跡が書かれたものであり、ミリアムには不思議なチカラがあったと言われている。ある時は目の前にあるモノを浮かせたり、消したり、ある時は全くの別人になり、その者の声となり、ある時は飢えた子供達に甘いお菓子を何もない所から出したり、彼女の奇跡は、世界中を笑顔に変えた」

それってまるでフォックステイルだと、ツナとパンダとシカはシンバを見る。

シンバは子供の頃に聖典の類まで読みつくしているので、確かそうだったと思っている。

「不思議な事を起こすミリアムに、人々は神の導きを聞く者だと崇拝し始める。天空人はそんな彼女に目を付け、彼女を地上から攫い、空へと連れ行く。だが、ミリアムはラブラドライトアイではなかった。その為、天空人は、空の大陸の中心となる大きな大陸に、ミリアムの像を造り、その像の瞳に、煌く美しい宝石を埋めた。その宝石は天候の変化で色が変わるラブラドライトアイだと言われている。ミリアムと言う女は、天空人の絶滅を救うべく連れ去られたが、地上の者達は、神の場所へ帰ったのだと唱える者もいた。だが、ミリアムを返せと、天空人に剣を向けて、戦おうとする者もいた」

普通に拉致事件だから怒って当然と、シンバ達は思う。

「だが、天空人と言うのは平和主義者で、戦いを好まない。いや、戦っても意味がないのだろう。空に大陸が浮かぶ程の技術を持った連中は、地上の血に飢えた人間とは違う。心穏やかで、戦争を知らぬ空の人と、戦争を繰り返し、安らぎを知らぬ地の人。常に力こそが全てと、強さこそが存在意義と生きている我等が、地上で繰り広げる戦争を、空から見下ろし、嘲笑っていたか、哀れだと悲しんでいたのか、只、見届けていた天空人。ミリアムが、キッカケとなり、国々の戦争は一旦中止となり、世界が初めて1つとなって、行った行為は、天空人との戦争だった――」

「また戦争か。人間っつーのは懲りねぇっつーか、なんつーか、やりきれねぇな」

そう呟くツナに、オグルは、愚かで過ちを繰り返すのが人間だからなと、また話し続ける。

「地の人間達の圧勝だったそうだ。普段から戦争をしている人間は心も体も無意味に鍛え上げられ、天空人を殺す事に戸惑いはなかったと言う。だが、地の人間達のこの行為が、天空人を本気で怒らせた。無抵抗な天空人を殺す地の人間達に、警告もしたそうだが、聞かなかった為、空から火の雨と言われるモノが放たれた――」

シンバは聖典を思い出し、火の七日間の話だなと思う。

空から火の矢のような雨が降り注ぎ、七日間、その火は消えなかったと言う。

それは、一般的には、火山の噴火だという解釈がある話しだ。

「幾つモノ空の大陸を攻めるのに、数日かかり、幾夜も寝ずに戦い、殺し続けた地の者。だが、天空人は一瞬で地上を火の海にしたんだ。戦争に無関係な、多くの者達が、その火の雨で死んだ。戦争に出ていた男達の家族は焼き殺された。だが、地の人間も天空人に同じ事をやったんだ。戦争とはこういう事なんだと、天空人は教えたんだよ。地の人は勝てないと知り、撤退した。だが、繁栄力のない天空人が、多くの仲間を失い、既にもう絶滅と言うより全滅の危機となり、幾つもあった大陸は管理する者がいなくなったとなると、空から地上に落ちてしまったと言う――」

オグルは小さな溜息を吐き、そして、

「隊長はまるで見て来たかのように、この話を繰り返ししてくれた。火の雨を放ったのは天空人がつくった魔人とも言われる兵器で、今も只1つ、この世界の空のどこかで眠ってるんだと言う。まだ1つだけ、空の大陸が地上に落ちてないって言うんだ。その大陸こそが、中心となったミリアムの像のある大陸で、地上全てを焼き払う魔人も、そこで眠ってるってさ。それと、この話は地の人が勝手に都合良く言い伝えた部分があって、本当はな、ミリアムは拉致られたんじゃねぇんだってよ。天空人が繁栄の為、4人の女を選び、空へ招待したって話だ」

そう言って、悪いのは天空人じゃなく、地の人なんだと、呟いた。

「空の大陸は、幾つかあったが、その中でも、中心となる大陸から、大きな都心となる大陸が4つあって、そこが空の大陸の首都とも言われる場所だったとか。スカイピースってのはよ、その大陸へ行く為のパスポートで、女達が天空人からもらったんだ、そのスカイピースは中心の大陸のエネルギーと共鳴し、その中心の大陸と一直線で繋がる地上の陸地で、4つ集めると磁場が狂うと言う。つまり、天空人が選んだ者しか、空の大陸には行けないように、迎えが来る中心の大陸が、他の地上の者に乗り込んで来られないように、電波障害を起こすようになっているらしい。だから、飛行機で空の大陸に乗り込む事は不可能って訳だ。空の大陸は、うんと高い場所にあって、地の人の飛行技術じゃ辿り着けないんだってよ」

信じないだろうなと言う風に、オグルはそう話すと、突然、シンバが、

「ジェイドだ! ジェイドの真上に、中心となる空の大陸がある! ボクとバニが戦った時、通信機に電波障害が起きて、スカイピースが何かと共鳴してた!」

そう叫んで、立ち上がった。

「何言ってんのか、わかんねぇが、この話を信じたのか? 面白ぇな、お前。いいか、これは御伽噺だ、スカイピースなんざ、俺も見た事はねぇ。ガキみてぇに、作り話にわくわくして、現実見失ってんじゃねぇぞ」

と、オグルに言われ、シンバはスカイピースを見せたくなるが、この手に持ってないと、唇を尖らせて大人しく座った。すると、ツナが、シンバに加勢してくれて、

「オッサン、そうは言うけどよぅ、そんな話を信じる何かがあるんじゃねぇのか? だから俺達に話したし、未だ、覚えてる。だろ? 現実見失ってんのは、どっちだ? 夢を見せられたオッサンか? それとも夢を見せる俺達か?」

と、勝ち気に言い放ち、オグルはフッと笑みを溢す。

「そうだな、あの頃、俺はまだ幼く、夢を見せてもらえる年齢だった。そして、夢を見せる力がある、お前等若造の頃は、とっくに過ぎ去った。だが、俺はまだ現役だ。お前等に夢を見せてやろうって思って話したんだよ。夢ってのは、本の少しの真実が大事だ。調味料のスパイスは効きすぎても良くねぇだろ? 俺もまた、そしてガムパスも、そのスパイスにやられちまって、夢を見続けているのかもしれねぇな」

「空に大陸は存在すると?」

と、聞くシカに、コクンと頷き、有り得ねぇだろ?と、笑う。

「オグルさんが知ってる本の少しの真実ってなんですか?」

未だ効いてるスパイスが気になり、シンバが問うと、

「隊長が死刑になった理由さ」

と、少し悲しげに俯き、呟いた。聞いちゃいけなかっただろうかと、思ったので、皆、黙り込んでいると、オグルはゆっくりと話し始めた。

「あの日、俺とガムパスは、ふざけて真夜中に隊長の部屋に忍び込んで、そして見てしまった。隊長がコンタクトを外すのを。目が悪いなら兵士になれない筈なのにと、よくよく見ると、隊長の目は、色が変わり、隠れている俺達の物音に驚いて、更に色を変えた。ラブラドライトアイって奴だ。俺達は悪気なく、隊長の目の事を他の者に話してしまった。隊長は俺達にあんな物語を聞かせていた事もあり、そしてラブラドライトアイを隠していた罪にも問われ、処刑された・・・・・・」

シンと静まり返る。

「それから噂が流れた。隊長の目は1つ刳り貫かれ、どこかの国で保管されたってな。ラブラドライトアイの瞳を持つ者は大抵生まれて直ぐに殺されるが、隊長は大人となって殺され、その大人の目は、空の大陸へ行く為のキーだと言ってな。空の大陸なんて信じてねぇ大人達が、そんな事をしたってなりゃ、俺達ガキは、もっと信じちまう。空に浮かぶ大陸はあるんだってな」

シンバ達はお互いを見合い、ダムドに保管されてたラブラドライトアイの事だと、床に置いてあるリュックに目をやる。リュックの中には、ラブラドライトアイがある。

「俺は青年になり、兵士をやめた。だが、空への憧れが捨て切れず、あの大きな空に大陸があるって思えば思う程、冒険したくなってな。当時は、妻もいたんだが、自分の夢に走っちまって、最低のクズ夫で、別れられちまったよ。そしたら最近、俺の息子が現れてな、俺が飛行気乗りとして成功してるってんで、有名になったから居場所を知ったとか言って・・・・・・まさかお前等も、俺の息子とか言い出すんじゃねぇだろうな?」

と、苦笑いしながら、頭を掻いてジョークを言うオグルに、苦笑いで返すシンバ達。

「ガムパスも空への憧れを捨ててなかった。奴は兵士だった頃も抜群の戦力となってガキ達を率いて戦い抜いていたが、その後、騎士になれなかった奴等を率いて、賊の頭になりやがって、再会した時も、強い奴を集めて、いつか空へ飛んで、大陸を見つけて、隊長の追悼式をやるんだっつってな。ま、俺達少年兵に対して、寝付くまで付き合ってくれた隊長は、俺達の親代わりでもあったからよ。それに俺もガムパスも隊長が死んだのは自分のせいだって思ってるからな」

「でも空へのパスポートがないと空の大陸へ行けないなら、どうやって地の者は天空人と戦えたんですか?」

シカの問いにツナが、つまんねぇ質問だなと、

「そんなの招待された4人の女の内、誰かが裏切ったんだろうよ、女は裏切るのが専門だ」

と、だよな?と、オグルを見るが、それはわからんが、そうかもなと、頷く。

「でもよぉ、俺は空を自由自在に飛んで来たが、大陸なんてどこにもねぇし、飛行機じゃ行けない更に高い場所にだって挑んでもみたが、それ以上、高い場所なんざ、空気も薄すぎて、幾ら天空人でも住める場所じゃねぇし、そんな場所に地上の女を招いたりできねぇだろ? 全ては只の夢物語、子供に聞かせる御伽噺だって悟っちまった。魔法なんてありゃしねぇのよ、奇跡なんて起きやしねぇ、世の中は極普通の有り触れた世界だ、人の知識で理解できる範囲で世界は回る。俺はもうすっかり大人から見ても大人の年齢なんだからよ、いつまでもバカは言えねぇ・・・・・・大人は大人らしく生きなきゃな・・・・・・」

「でも、それでもまだ、空に大陸があるって、信じてるんでしょ?」

そう聞いたシンバを見て、オグルはいいやと首を振るが、シンバは、

「嘘だ、信じてるよ。だからサードニックスを止めないんだ」

そう言った。オグルは、なんだと!?と、シンバを睨む。

「確かにオグルさんは大人だ、夢を語る年齢でもないし、飛行機乗りとして、夢を現実にしてるから、夢なんて語る必要もない。何か他に思う事があるんじゃないですか? 夢が夢じゃないって、確かな証拠を持ってるんじゃないですか? じゃなきゃ、サードニックスと言う賊が、空にいる事を、幾ら親友だとしても、飛行気乗りのアナタが許してる筈はない! いや、親友だと言うなら、尚更、親友に賊なんてやらせない! とっくに潰しにかかる行動をとっててもおかしくないのに、手放しでサードニックスを見守っているように思える」

「バカか! 相手はな、あのサードニックスだ! 無敵なんだぞ! 俺はガムパスの強さをよく知ってるんだ!!」

「そんな事で怯んでたら飛行気乗りなんてやれない。たった独りで、あの大空に立ち向かう勇気は、サードニックスなんかに負けてしまうものなんですか!?」

言うじゃねぇかと、オグルはシンバをジッと見つめ、黙り込む。

「その程度で飛行気乗りができるなら、ボクにもできそうだ、簡単に伝説にもなれる」

言ってくれるじゃねぇかと、オグルは鼻で笑い、

「ある場所でな、説明がつかねぇ現象が起きてやがるんだよ。雪なんて降る筈もない空で、雪雲が発生してやがる。しかも呪われた島ってのがあってな、その島は、地図には載ってねぇが、一時期は載ってたらしく、だが、相当、昔の地図を見た時、その島はなかった。つまり、空から堕ちた島かもしれねぇ。空の島は、地上に落ちた時に海に沈んだって聞いたが、もしかしたら・・・・・・」

「その島ってカーネリアン!?」

飛び付くように聞くシンバに、オグルは驚いて、だが、そうだとコクコク頷く。

「よく知ってるじゃねぇか? その島には、確か、数十年前にダムドに堕とされた国があって、その国の名をカーネリアンって言ってな、まぁ、なんつーか、カーネリアンの言い伝えでは、初代王が、あの島の第一発見者だって話で、空の島であったって話は聞いた事がねぇから、その、だから、空の島だったかもって話は、俺の憶測なんだよ」

「ボク等、その島へ行きたいんです!」

なんだって!?と、オグルは眉間に皺を寄せる。

「行けるのか、行けねぇのか、どっちなんだよ、オッサン?」

口の聞き方を知らないのはツナ。

「雪雲が発生してるって飛行機では危険なの?」

心配してるのはパンダ。

「行けるに決まってるじゃないか、只の飛行機乗りじゃない、伝説の飛行機乗りだ」

行くと言うしかない方向へ話を持って行くのはシカ。

「一機を除き、オグルさんの飛行機をオクトパスから守ったのはツナだ。ツナはボク等の仲間。だからオグルさんは、ボク等に感謝してもいい筈」

と、恩着せがましい事を言うが、

「まさか感謝する事を忘れたりしないよね? ボク等はこう見えて、恩を忘れません。例えば、この前も、ダムドエリアにあるモウェイと言う村の宿では、とてもお世話になって、いつか、また、行きたいなって思ってるんですよ」

と、うまくオグルを導くのはシンバ。オグルは、モウェイ?と、自分の記憶を辿り、

「宿ができてたのか?」

と、問うから、シンバは頷き、

「村には、そこしか宿がなくて、急だったんですけど、快く泊めてくれたんです」

と、答えると、

「そこの主人と奥さんは元気だったか?」

オグルが、そう聞くので、

「元気そうでしたけど、もしかして、知り合いですか? なら、行ってみたらいい。アナタなら飛行機で、ひとっ飛びだ。そしたら、ボク等のおかげで、伝説の飛行機乗りが、あの宿に行ったって事で、泊めてもらえた恩を返せます」

と、そのシンバの台詞に、オグルは、そうだなと、笑う。そして、

「お前、なかなか面白い奴だ」

と、シンバを見て言うと、

「乗せてやろう、カーネリアンまで。俺の飛行機でなら、ひとっ飛びだ」

そう言った。

もう少しで夜も明ける時間だが、飛行機が無事なのを確認したいと言う事で、オクトパスも、そのままにして来たのが気になると、皆で、休む間もなく、フォータルタウンへ向かう。

もう子供は寝てる時間帯なのに、フォータルタウンの広場では避難していた場所から戻って来た住民達がいっぱいで、皆、オグルを見つけると、子供達そっちのけで、駆け寄ってきて、どうなったのか?もう安全なのか?被害はなかったのか?などと、口々に問いながら集まり出す。

シンバは、オグルの傍にいたのだが、その人達に弾き飛ばされ、気が付けば、ツナもパンダもシカもいない。探すと、直ぐそこでパンダが、男の子達に顔を引っ張られてたり、腹を叩かれていて、柔らかい頬を伸ばしたり、ぼよよよんとした腹を叩くのは面白いようで、みんなで笑いながらパンダをやっつけている。

本気で叩くなよと言いながら逃げ惑うパンダ。

別の場所では、シカが、夜寝ないと肌に悪いなどと、まだ小さい女の子相手に、そんな話を聞かせているが、女の子達は興味があるようで、いや、美形のシカ自身に興味があるのか、その両方か、まだ子供と言っても、やはり女の子。皆、シカに、うっとりしながら目を輝かせて話を聞いている。

ツナはと言うと、ベンチに腰を下ろしながら、リブレの背中に乗っている子供達を見ながら、順番だぞ、2人しか乗れないからな、ゆっくりと乗れよ、毛を引っ張るなよなどと言いながら、リブレを使って、子供達の相手をしている。

シンバは、そんな3人に、少し笑ってしまう。

みんな子供が好きなんだからと、眠れない不安な夜に、魔法を見せる必要はなくなったなと、ポケットから飴玉を取り出し、また節約しろと怒られると嫌なので、何もせず、飴玉をポケットに戻し、オグルも長くなりそうだと、独りで駐機場へ向かう。

歩きながら夜空を見上げ、空に浮かぶ大陸かと呟く。

オグルが話した物語は、口で伝えられたものであって、どこまでが真実かは、わからない。

記録に残さない歴史は、只の空想に近い。

そして、記録された歴史なんて、当てにならないものだなと、自分の知識の無駄に溜息。

この目で見て、この手で触れて、体の全ての感覚で得れたものだけを真実と言うならば、まだ何も知らない事ばかりだと、シンバは、瞬く星に、

「でも、ボクはフォックステイルが存在する事を知ってる」

そう囁いた。

今、星が流れ、シンバは空を見上げたまま、足を止める。

「ねぇ、フックス、そっちの世界はどう? そっちにはどんな物語がある? こっちみたいに大地と空があるのかな? こっちより平和? それとも相変わらずフォックステイルの出番がある? いつか、ボクもそっちへ行くだろうけど、その時、ボクがこの世界で出会えた真実を語るよ。まだフックスが触れてない場所に、触れるからさ。この世界を去ったフックスに教えてあげる。ボクが生きて来た道、フォックステイルが残した足跡、フックスに続いた軌跡、ボクが追い駆けた奇跡を――」

流れ星に願いを言えば、叶うと言うが、フックスへ宛てた想いは届くだろうか。

それがシンバの願いだから――。

今も、ボクは元気に笑って、仲間に助けられながら、多くの人に救われながら、生きてるよ。

全部、全部、全部、フックスが、ボクにくれたモノだ。

フックスが与えてくれた明日へと続く人生の道を、ボクのちっぽけな命は、歩んで行く。

それは、本当に奇跡なのに、フックスがくれた大切なモノなのに・・・・・・

ねぇ、フックス、わかってるのに、それでもボクは、たまに、生きるのが辛くなる。

誰かの真似しかできないボクが、本当に生きててもいいのか、迷う時もある。

今日なんて、何の役にも立たなくて、オクトパスも、ツナと、リブレ、それから、不本意だが、バニが片付けた。

こんな時、当然だけど、ボクがいなくても、事は自然と進むって思い知らされる。

でも、頑張ってみるよ、生きる事に幸せを見い出して、ボクの物語を続けるよ。

フックスも、まだボクが知らない、そっちの世界で、フックスの物語を完成させてほしい。そして、いつか聞かせてほしい。

いつか、ボクが、フックスに再会する時が来たら、きっとその時は、ボクは、うんと年上になってて、しわくちゃのお爺さんかもね――。

そんなボクに、驚くフックスを見れるのが、楽しみだ。

奇跡を起こし、不思議な魔法を使い、皆を驚かせるのがフォックステイルだからね。

きっとフックスも、何かビックリさせてくれるんだろうけど、フックスの方が、絶対に、ボクより驚く。

その時を想像しながら、逢えるのを楽しみにしてるよ。

その想いは、流れ星が運んでくれると信じて、シンバは前を向き、歩き始めた。

駐機場の鍵は、当然壊されたままだが、中はシンとしていて、誰もいない。

「・・・・・・リーファスとリンシーが連中を縛ってどこかに運んだのかな?」

それにしても飛行機ばっかりだと、綺麗に整列するように並ぶ飛行機を見ていると、

「よう、ちょいと厄介な空のルートを飛ぶ事になってよう、ソイツとソイツの仲間を乗せてやるんだが、誰か立候補いねぇか?」

と、オグルが現れた。誰に何を言っているのだろう?と、シンバはポカーンとしていると、

「あぁ、お前は駄目だな、パワーはあるが、4人乗りだろう? 俺も含めたら、5人と荷物も乗せるからよぅ、デケェ犬もいるんだ、だから、精々6人乗りからの奴だな」

と、飛行機と向き合って、言っているから、

「なんですか、それ? 何のパフォーマンス? まるで飛行機と話してるみたいですよ?」

そう聞くと、オグルは、

「話してんだよ」

と、真顔。酔っ払ってはいないようだ。

「俺はよぅ、飛行機と対話できんだ」

「本気で言ってます?」

「信じなくていい、だが、俺のやってる事に否定はするな、俺は正常だからな」

と、笑うオグルは、また飛行機に話しかけている。

「あぁ、確かにモンスターなら飛べるさ。だが、アイツは俺の愛用機と言われるにしちゃ、まだまだ手懐けてねぇからな。デカイ顔してるが、奴は新入りだって、お前等わかってるだろう? お前等より俺と心が通いきれてねぇから、アイツに誰かを乗せるにゃ、ちょっと俺自身が怖ぇ。お、フォックスイヤー、お前、立候補してくれるのか、珍しいじゃねぇか、お前が自ら名乗り出るなんて!」

と、言いながら、大きな飛行機の所へ歩き出し、シンバも、オグルに付いて行きながら、

「フォックスイヤー?」

そう尋ねると、オグルは、その飛行機を撫でて、シンバを見る。

「コイツの名前だ。少し遠く離れて真正面から見てみろ、コイツはちょっと他の飛行機とはカタチが風変わりでな、面白ぇ奴なんだ」

と、

「三角に尖ったライトが頭の上にあるだろ、まるで大きな耳みてぇじゃねぇか? キツネの耳みたいでな、フォックスイヤーって名付けた」

シンバは言われた通り、少し離れて真正面から、その飛行機を見て、

「ホントだ! キツネの顔みたいに見える! へぇ! あれ? でもライトが別のトコにも付いてて、それが、まるでキツネの上がり目にも見える。へぇ、顔ってあるんだなぁ」

と、笑いながら、周りの飛行機も見回してみる。

「コイツはな、確かに見た目がキツネみてぇだが、他にも名前に由来した、特殊能力があるんだ」

「特殊能力?」

飛行機に特殊能力ってなんだろう?と、シンバは不思議に聞き返す。

「コイツは基本ジェット機で、多人数乗りの運搬用とも言える。それなりの馬力もあり、重量もあるが、実は欠点だらけでな。向かい風には強いが、横風追い風に弱い。普通は追い風なら、その風に乗るもんだが、コイツは自分のペースで飛ぶから追い風が来るとペースが落ちて、本当にうまく風に乗らなけりゃ、翼が変形型だから勝手に方向転換する場合がある。下手するとそのままクルクル回って墜落するんだ。上空の風ってのは、地上の風とは違い、ちょっとした風も台風並に強い。ちょっとした風で台風なら、本当の台風は恐ろしい破壊力だ。なのにコイツは打たれ弱いのが弱点。機体が完全じゃねぇんだな。不完全っつーか・・・・・・だがコイツは誰よりも一枚上手だ」

「上手?」

飛行機に上手ってなんだろう?と、シンバはまた不思議に聞き返す。

「基本はジェットって言ったろ? 基本じゃねぇコイツもあるっつー事」

首を傾げるシンバ。

「コイツ、変形して・・・・・・例えば、ヘリにもなる」

「え? ヘリ? ヘリってヘリコプター?」

「あぁ、コイツの機体が不完全なのは、機体そのものが他の飛行機と違って、デザイン的に飛ぶには不可能に近いカタチなんだ、だが、ムリヤリ可能に持って行ったから、弱点もあるが、コイツの奇形なボディには意味がある。コイツ自身、変形するんだ。飛行機にはそれぞれカタチと共に、飛び方が違う。人間誰もが容姿が違い、性格が違うようにコイツ等も、それぞれだ。だが、コイツは誰にだってなれる。コイツの頭上にはプロペラが内臓されてて、必要に応じてヘリになる。それだけじゃねぇ、コイツの横腹、下腹には機関銃が内臓されていて、必要に応じて戦闘機にもなる。ボディの色もチェンジ可能。つっても鏡ボディで空に溶け込むっつーだけだが、空に消える飛行機として、別名カメレオンとも言われてる。他にもイロイロと種明かしすればキリがねぇからしねぇが、隠し技を持ってる。基本はジェットだが、実際どれがホントのコイツの顔かは謎。打たれ弱いなんざ飛行機にあっちゃいけねぇ解り易い弱点を持ってる癖に、常にポーカーフェイスで、余裕の態度のせいか、誰もコイツに挑みたがらねぇ。コイツは俺の飛行機の中でも一番の曲者だ。キツネみてぇに、うまく化けやがる」

笑いながら言うオグルに、シンバはまるでフォックステイルだと思う。

そして、フォックスイヤーを見て、

「キミなら6人乗り? すっごくキミが気に入ったんだけど?」

と、オグルにではなく、飛行機に話しかける。オグルは笑いながら、

「基本ジェット機だからな、中は狭いけど、ギュウギュウに押し込めば10人は乗れる。お前等ガキくらい10人軽く乗せてやるってよ」

そう通訳するように話す。

シンバはオグルに聞こえないように、小さな声で話し出した。

「言ってくれるなぁ、ボク等は本当なら6人いるんだ、簡単に紹介すると、ボクは魔法使い見習いのシンバ。魔法って言っても、ボクは本当の魔法使いじゃないから、キミと同じで種も仕掛けもあるんだけどね。目指すはホンモノ魔法使いなんだけど・・・・・・それから剣士のツナ、ツナの愛犬リブレ、内緒だけどホントは狼なんだ」

と、内緒の部分をオグルには絶対に聞こえないように、フォックスイヤーに、顔を近付けて、口元を隠しながら、ヒソヒソ話をするように小声で言う。

「製作家のパンダ、薬師のシカ、今はこの5人でいるんだけど、後1人、発明家のカモメってのがいるんだ。ボク等全員で、内緒だけどブライト団、またの名をフォックステイルって言う怪盗をやってるんだ、絶対に内緒ね」

ひそひそと声にならない声で話すシンバに、オグルはなんだって?と耳をかっぽじりながら、よく聞こえねぇよと言うが、シンバはオグルさんに話してないからと。

あぁ、そうかよと、オグルは舌打ち。だが、

「ブライトっつーのが仲間にもいるから気に入ったってよ、俺の前の愛用機が、改名されて付けられた今の名がブライトっつーんだが、その話か?」

そう言うから、シンバはオグルを見て、少し驚いた顔をする。更に、

「なんだ? フォックス繋がりでソレも気に入ったってよ」

と、言うから、本当に飛行機と対話してるのかと、疑ってた訳ではないがと、驚きを隠せない顔になり、だが、実は地獄耳?とも思ってしまう辺り、多少、疑っている。

「乗せてやるってよ、他に立候補もいねぇみてぇだし、多人数乗りのコイツに決定だな。ルートからして、カーネリアンへはかなり険しい風の道のり。打たれ弱いコイツにするには100パー危険だが、操縦するのは、この俺だ、そうなると安全の保証は五分五分。いいんじゃねぇか? 冒険はスリルがなくちゃねぇ」

オグルがそう言って、フォックスイヤーの機体を撫でる。シンバも、

「五分五分ってのは、ちょっと不安だな、でもボク等もいつもそんなもんだ。でも、なんとかなってきてる。だからきっと大丈夫。よろしくね、フォックスイヤー」

と、フォックスイヤーに、笑顔で言い、

「ちなみに、キミを気に入ったのは、このアンバーのボディの色だよ」

そう言って、フォックスイヤーを撫でる。

そうと決まればと、明日の朝一で買い物をしてから、準備を整えて出発だと言う事になった。

オグルは飛行機達が、無事でなによりと笑顔だったが、1つだけ空白みたいに開いている場所を、長い時間、無言で見つめていた。

ラビが盗んだ琥珀色した飛行機が、そこにあったのだろう。

飛行機の声が聞こえるオグルには、SOSの声が聞こえるのかもしれない。

オグルはシンバの存在にハッとするように気付いて、笑顔で、

「空は初めてか?」

そう聞いた。コクンと頷くシンバ。

「そうか、お前の空のページが開くのか。俺は、若い連中が、自分の人生の物語のページを、初めて開く瞬間が好きだ。不安や期待が入り混じった緊張感が、俺にも伝わって来る。初心を思い出させてくれる。そして思わされる。時代は新しい風が巻き起こすものだと」

この人もまたフックス同様の人間だとシンバは思う。

新しい命を大事にし、時代をつくっていくのだと、受け継がれし者を育てるタイプ。

「嬉しいなぁ」

オグルはそう言うと、本当に嬉しそうな顔で微笑み、

「お前の空のページを開く瞬間に立ち会えるのは、喜ばしい事だ」

そう言った。

「・・・・・・乗せてもらうだけですよ?」

と、苦笑いするシンバに、

「だが、空を知る。空を近くに感じる。空を飛ぶんだ。お前の空の物語だろ? それって別に飛行気乗りじゃなくても、只の乗客者で充分じゃねぇか、言ってしまえば、何にもしなくても、空を見上げてるだけでもいい。空を自分の人生の一部として感じてくれるって事が大事なんだ、誰もが持ってる空の物語を開いてくれるって事が大事。地上でのストーリーと連携して繋がってるって知ってくれりゃいい。小せぇかもしれねぇが、空を愛する者にとったら、それは大事な一歩だ、まずは空を知ってくれ、お前の初の人生のページを開いてくれ。タイトルは空に関わる本で」

と、ジョーク交じりで話し終えるオグルに、やっぱりフックスと似てると、シンバは思う。

「・・・・・・空にはアナタという命がいて良かった」

「は?」

「地にはフックスという命が・・・・・・未だあれば、きっともっと世界は平和な物語が進んでいたかもしれません・・・・・・」

「何の話だ?」

「アナタを見てると、ある人を思い出すんです。その人同様にアナタが余りにも大きな存在すぎて、自分が小さく思えて、力不足だと思い知らされるって話です。気にしないで下さい、いつもの事で、只の自己嫌悪に陥ってるだけです。直ぐに立ち直れます」

言いながら、もしもフックスが生きていたら、オグルと同じくらい大きな存在で、伝説とか言われたりして、超えれない程の人になってたかもと思い知らされる。

「よくわからんが、誰かのページを開いてもしょうがねぇぞ? 自分のページを開け?」

と、解決方法を簡単に言ってくれる辺り、やっぱり違うなぁと、シンバは思い知らされる。

「おい、お前、今日はここで寝ろ」

「え? ここで?」

「鍵が壊されてるから、飛行機達が心配なんだ、地下と二階もあるからな、どっちにも滑走路に出れるシャッターへの道があって、出入り可能だ、物音がしたら速攻で行け。そして不審者だったら速攻でぶちのめせ。お前は今夜だけ飛行機達の護衛だ」

「はぁ・・・・・・つまりボクに寝ずの番をしろと?」

「ま、そういう事だな、俺は帰って寝るぞ、明日早ぇからな。っつっても、もう寝る時間もないけどな。オクトパスはどこ行っちまったんだ? リーファスんとこにでもいるのか? 飛行機達が、リンシーとリーファスが縄で縛り付けたって言ってやがるけど、アイツ等、持ち運んだのか?」

疑問を口にしながら、オグルは駐機場を後にした。

残ったシンバは小さな溜息を吐きながら、とりあえずフォックスイヤーの所へ行き、声は聞こえないが、フォックスイヤーの機体に持たれかけながら、

「キミ、何回、空飛んでるの?」

などと聞いて見る。

何度か話しかけるが、返事はなく、シンバは眠ってしまった。

次の日の朝、オグルだけでなく、ツナ、パンダ、シカ、リブレに囲まれるようにして、厳しい起こされ方をする。

「そんなガミガミ言わなくても・・・・・・」

と、シンバは耳を塞ぎたくなる。

「俺はな、護衛をしろと言ったんだ、誰が寝ろと言った!?」

と、オグル。

「オラ達、昨夜から、オグルさんが、街をパトロールしろって言うから、ずっとパトロールしてたんだぞ」

と、パンダ。

「オクトパスがまた現れるかもって言われたら、パトロールしない訳いきませんからね。町の人も、不安だって言うし」

と、シカ。

「パトロールは別にいいが、朝からの買い物がキツかった」

と、ツナ。そして、睨むような顔のリブレ。

「寝ちゃったのは悪かったけど、でも飛行機達は無事だよね? 大体、買い物って、何をそんなに買ったの?」

「パラシュートとか数か月分の食料とか・・・・・・オッサンが言うには、カーネリアン上空の雲の様子によっては引き返す事になるかもしれねぇって。もしうまく島に着陸できたとしても迎えに来るのは、やっぱり空次第で数日後になるかもしれねぇって。それまで俺達は、島で足止め食らう。その為の食料。カーネリアン上空は、普通の空とは違うから予測も不可能だから心してかかれってさ。それに墜落の可能性も考えて装備は絶対って高いパラシュートジャケットとゴーグル、それから雪の世界だからって裏生地がふっかふかの革ジャンに底がふっかふかの革ブーツ、当然中がふっかふかの革の手袋とか、革の帽子とか、俺達にゃぁ、やった事もねぇ想像もできねぇ格好で行く訳だ、不安しかないだろ、俺もだ。こんなの似合わないだろ、誰も――」

と、ツナ。そのお金はどこから?と、心配そうな顔になるシンバに、

「オグルさんが全部払ってくれた。僕達がカーネリアンに行く理由もちゃんと聞かないのに大金まで払ってくれて、聞けば、オクトパスを追い払ってくれたからって。それだけじゃないでしょ?って聞いたら、お前等が気に入ったからだってさ」

と、シカ。気に入ったってどこがだろう?と、不思議そうな顔になるシンバに、

「気に入るのに理由なんざねぇよ、インスピレーションって奴だって言ってた。その勘で俺はリーファスを弟子にし、大当たりしそうだって話してた。大当たりしそうって辺り、まだ当たってないって事なのにね。でもリーフは大当たりするとオラも思う、だって子供の頃からカッコ良かったし」

と、オグルのモノマネをしながら話すパンダ。

そのモノマネ似てるねと、笑うシンバに、似てねぇよと、オグル。

「ま、お前等が何者なのか、何故カーネリアンに行くのか、聞いた所で本音なんて言わねぇだろ? だから聞いてもしょうがねぇ。だが、お前等が悪い奴かどうかくらいなら、わかる。お前等は・・・・・・まぁ、俺を縛りつけたりしたが、悪い奴ではねぇな。だからお前等がやる事に口を出す必要はねぇだろ。だが、オクトパスを追い払った恩は返さねぇとな。それと、俺はもう1つ、恩を返し忘れてる事があってな、悪いがカーネリアンに行く前に2箇所ばかり寄り道する。まずはモウェイって村の宿屋の夫婦に会いに」

そう言ったオグルに、シンバは笑顔でコクコク頷いた後、

「後はどこへ?」

2箇所と言うのだから、後1箇所、寄り道をするのだろうと、行き場所を尋ねた。

「盗まれた飛行機をできれば取り戻したい。それはもう無理かもしれんが、安否だけでも確認してぇし、解体されてるとしても、ムリヤリにエンジンや装置を取り出したりしてるんじゃなく、丁寧に大事に扱われててほしい、それに普通なら誘拐する場合、取引があるのに、これじゃぁ一方的に盗まれただけだ。あれは大事なうちの子なのに、物扱いしやがった事にも許せねぇ。文句の100や200、言ってやらなきゃ気が済まねぇよ」

「・・・・・・それって・・・・・・もしかして寄り道する場所って」

まさかとシンバが問うと、当然のように、

「あぁ、サードニックスの飛行船に乗り込む」

と、オグルは言う。そこは最終決戦の場所なのに、もう行っちゃう訳!?と、非常事態発生とばかりの顔になるシンバ。そんなシンバの表情を見て、サードニックスが怖いのだろうと思ったオグルは笑いながら、

「心配いらねぇ。お前等は関係ねぇんだから飛行機の中で待っててくれりゃいい。ちょいとガムパスと大人の話をしてくるだけだ。喧嘩しようってんじゃねぇからよ」

そう言うが、シンバは首を振る。

「行くならボク等も飛行機から降ります。仲間が囚われてるかもしれないので」

いいよね?と、ツナとパンダとシカを見て言う。勿論と、頷く3人と、リブレは私にもアイコンタクトしてよねと、さっきからシンバを睨みっぱなし。

「そうか、好きにしたらいい。よし、荷物を乗せろ」

そう言ったオグルに、シンバはその前にと、

「ツナ、パンダ、シカ、リブレ! こっちに来て整列!」

と、飛行機の前で、皆を整列させる。何が始まる訳?とツナもパンダもシカもリブレも、首を傾げながら、だが、冗談を始める雰囲気ではなく、真剣なシンバの表情に、リーダーに従うべきと、皆、素直に、文句ひとつ言わずに並ぶ。

なんだなんだ?と、オグルが眉間に皺を寄せながら、見ていると、

「ボクがリーダーのシンバ・ブライトです! 彼が最強剣士ツナ・ブライト。そして愉快な製作家パンダ・リンドン、癒しの薬師シカ・オーラム。無敵のヴィーナス、リブレ。後1人天才メカニクスのカモメ・タックチックが揃えば、ボク等全員だ。でも空の旅をするのには、キミの協力が必要。その間はキミもボク等の仲間。仲間になってくれてありがとう。これから少しの間かもしれないけど、宜しくお願いします!」

と、飛行機にペコリと頭を下げるシンバに続いて、腹から声を出すように、大声で、

「宜しくお願いします!!」

と、ツナ、パンダ、シカは、飛行機に、シンバより深く頭を下げる。

皆、シンバが飛行機に喋っているのだと気付き、シンバがそうするなら、そうするべきと、悟り、飛行機に礼儀を払う。ツナが頭を下げた事で、リブレも伏せ状態で飛行機を見る。

シンバが頭を上げると、ツナもパンダもシカも頭を上げる。リブレも伏せからお座りへと体勢を変える。

「ボク等が乗り込むこの飛行機の名前は、フォックスイヤー。運命的だろ?」

と、皆に言うと、皆、頷き、飛行機を見つめる。

オグルは、アイツがリーダー?と、シンバを見る。

――てっきりシカって奴がリーダーかと思ってたなぁ。

――もしくはツナって奴か。

――まぁ、パンダって奴はリーダーって柄じゃねぇが、ムードメーカーだ。

――シカって奴はマイペースっぽいが、何より容姿が神秘的でオーラがある。

――ツナって奴は強さに自信があるせいか、信念ってのを持ってて、男気がある。

――あのシンバって奴が、どいつよりも普通に見えるんだがなぁ・・・・・・

――なのに、どいつも、アイツの一言に何の疑いもなく従った。

――つまりアイツはちゃんと認められたリーダーって訳だ。

――俺が飛行機と対話できるって話は、どいつも知らねぇ筈。

――アイツだって半信半疑の筈だ。

――なのに、飛行機に頭を下げるのか。

――そして、その行為を誰も疑わないのか。

――アイツが空から飴玉が降るって言えば、どいつも本気で信じるって訳か?

そんな事をオグルが思っていると、シンバがオグルを見て、今、目が合い、オグルはドキッとすると、シンバは笑顔で、

「ボク等をフォックスイヤーに乗せてくれる事、感謝しています。伝説の飛行機乗りが操縦する飛行機に乗れるなんて、ボク等はラッキーだ。一生の想い出になります。大事な仲間とアナタの飛行機に乗れる事。本当にありがとうございます。ボク等は空は初めてなので、足手纏いと言うか、只の乗客でしかありませんが、宜しくお願いします」

と、オグルにペコリと頭を下げるシンバに続いて、腹から声を出すように、大声で、

「宜しくお願いします!!」

と、ツナ、パンダ、シカは、オグルにシンバより深く頭を下げる。

そんなシンバ達に、オグルは、参ったねと、

「お前等のリーダーは、いい風を持ってるなぁ」

微笑みながら、そう言うから、シンバは、ボク?と首を傾げた。

「リーダーの風はお前等の持つ風もいい流れを生む。お前等があんまりいい風を持ってるから降参しちまいそうになる。もう俺の吹く風の時代は終わりだってな。だが、お前等を飛行機乗りにスカウトできねぇな、お前等はもう決意した大人の顔をしてやがる。お前等がまだガキで未来に何の決意もない連中なら、飛行気乗りに誘えたんだがな。もしくはまだ何の決断もできねぇ大人だったらなぁ。ま、そんな大人にゃぁ、飛行機乗りに誘いたくもないがな」

言いながら、シンバを見つめ、極普通の青年に見えるが、真っ直ぐ揺るがない眼差しを持った奴だと思いながら、ゴーグルを目に装着し、

「お前等も着替えて、ゴーグルとパラシュートの装着をしろ。お前等を送るならリーファスにでも任せるかと思ったが、選んだ飛行機はフォックスイヤー。コイツは風の向きをうまく操らねぇと飛べねぇ、俺しか操縦できねぇ難しい飛行機だ。ましてやカーネリアン上空はレベルS。そこにコイツで行くってんだからイカレてるよ。だが、お前等が気に入ったからしょうがねぇ。フォックスイヤーもお前等が気に入ったらしいから、レベルSの危険スカイエリアでも飛んでみせるだろう、だが、覚悟しとけ、死ぬかもってな」

そんな危険なの!?と、パンダの顔が青冷める。

「おいおい、そう顔を引き攣らせるな、俺達はわくわくしてるよ、フォックスイヤーも気に入ったもんを乗せて飛ぶのは楽しいんだ。俺も気に入ったもんを乗せて操縦すんのは楽しい。お前等も楽しめ」

と、オグルは口元をニヤリとし、

「危険にダイブだな、天国に一番近い世界へようこそ」

と、笑みを浮かべた。パンダはゴクリと唾を飲み込み、

「地獄に一番近くないだけ有り難いかも」

そう呟いた。

空へと踏み出すシンバ達の鼓動は、緊張と不安と期待で一杯で苦しくなる程、高鳴り続け、フォックスイヤーに乗り込み、滑走路を走り出したら、もっと胸は熱くなり、いつも見上げていた空が直ぐに目の前に広がり、青いバックステージに、白い雲が広がるパノラマの景色は、新しいドラマが始まるようだった。

世界は青空快晴で、風の向きも悪くなく、飛行日和だと、オグルは言うが、思った以上に荒々しく揺れる機内に、本当に風に弱い飛行機なんだと知る。

シートベルトを閉め直すようにして、ツナは、

「どうやら俺は空が苦手らしい。地で這い蹲って生きる方が俺に向いてる」

と、少し顔を引き攣って苦笑い。

「僕も同意見。空は来るものじゃない、見て楽しむものだよ、女の子とね」

と、顔色悪く言うのはシカ。

既に体を硬直させて、全く身動きしないのはパンダ。いや、気絶してる?

「ボクも地上で走る方が合ってる。景色は綺麗だけど、じっくり見てる余裕ない」

と、冷や汗を流すシンバ。

そんな男共を、だらしないんじゃなくて?と、言いた気に見ているリブレも、飛行機が揺れる度に、前足を突っ張らせて、必死状態。

楽しめと言われたが、楽しみ方がわからない連中を尻目に、オグルは軽快な操縦で、態と斜めに飛んだり、ジグザグに飛んだり、下降上昇を繰り返したりと、飛行テクニックを楽しんでいる様子。

フォックスイヤーも、オグルの操縦に応えるか如く、絶好調で飛んでいる。

椅子にへばりついている連中など、気にも留めてないから、

「オッサン!! 普通に飛べ!! 俺達、別に飛行機のテクを知りてぇ訳じゃねぇ!! 普通に目的地に着けばいいんだ、普通に!!」

と、ツナがいい加減にしてくれとばかりに怒鳴ったが、フォックスイヤーのプロペラの音なのかエンジンの音なのか知らないが、兎に角、うるさくて、オグルに届いちゃいない。

寧ろ、オグルはヘッドフォンをしていて、無線で近くを飛んでいる飛行気乗り達と何か会話しているらしく、楽しげに大笑いまでしている。

「まさか僕が縛り付けた仕返しに、態とその態度って訳じゃないよね!?」

と、オグルの笑い声に掻き消されているが、シカも必死で大声で話しかけてみる。

「オグルさぁん!! ボク達、慣れてないから、酔いそうって言うか、既に気分悪いです! 何にも食べてないのに、何か吐きそう!!」

そう吠えたシンバにさえ、とことん無視なのか、オグルは聞いちゃいない。

聞いちゃいないと言うか、聞こえないと言うか、兎に角、オグルは楽しんでいる。

だが、笑顔で振り向いたので、やっと聞こえたかと、皆、ホッとした瞬間、

「右窓を覗いて見ろ、飛行気乗りの仲間達だ、色とりどりの飛行機が並んだぞ、こっからが、お楽しみだ、レインボーマジックを見せてやろう。空に様々な色の飛行機が同時に同じ方向に向かって駆け抜けるテクニックだ。少し揺れるから気をつけろ? 行くぞ!」

と、フォックスイヤーの機体を斜めにして落ちるように飛び始めるから、体が宙を浮くような感覚になり、兎に角、体感した事もない状態に、悲鳴を上げるシンバ達。

こんな状態で窓など覗ける訳がない。

しかも少し揺れると言われたが、揺れてると言う感覚はなく、気をつけろと言われても、どう気をつければいいのか、皆、自分の感覚がわからなくなっていて、必死で椅子に・・・・・・フォックスイヤーにしがみつくだけ。挙げ句の果てには宙返りする機体に、悲鳴と一緒に胃から沸きあがるモノを飲み込む御一行。

やっと静かに飛び始め、オグルが、他の飛行機乗り達に向けてだろう、

「グッドラック!」

と、親指を立てて、イヤフォンを通して、窓の向こうへ伝える。

今迄に聞いた事もない病気のようなゼイゼイと言う呼吸音を出し、皆、オグルに言いたい事は山のようにあったが、そんな元気はなく、只、もう大人しく座り込んでいる。

「おっと、遊びすぎてモウェイの村を通り越してやがる。Uターンするか」

と、笑顔で振り向いて言うオグルに、誰もが、首を絞めてやりたいと思った。

ジェットのままだと、滑走路になるような場所がモウェイ村の近くにはないから着陸ができない為、フォックスイヤーはジェットモードからヘリコプターモードに切り替えられる。

村から少し離れた場所に着陸すると、オグルはヘッドフォンを外して、とてもいい笑顔で操縦席から振り向いて、シンバ達を見て驚く。顔色は勿論、全体的にボロボロ状態だ。

「どうした!? お前等、失敗した蝋人形みてぇな顔だぞ!? 具合でも悪いのか!? 我慢せず、言ってくれれば良かったのに!!」

「・・・・・・・気付いてくれてありがとよ、我慢せず、何度も言ったんだがな、もうちっと早く気付けコンチクショウって思ってるよ」

と、全てが、ヨレヨレになっているツナ。

「・・・・・・多人数乗りでアクロバット飛行するなって規則はないんですか、ルール違反でしょ、寧ろ普通はできないでしょ、伝説は何でも許されるもんなんですか」

と、髪がボサボサで、いつものイケメンの顔じゃなくなっているシカ。

「・・・・・・寒いよぅ、なんか寒いよぅ、体温が下がりすぎてるぅ、あぁ、もう死ぬんだ、もしかしてコレが死って奴?」

と、口をガクガクして、歯をガチガチ鳴らしながら、真っ青な顔のパンダ。

「・・・・・・とりあえず重力の普通にある場所へ行きたいんですが」

と、目がグルグルしているシンバ。

リブレは体をヨロヨロしながら、なんとか立ち上がろうとしている。

「・・・・・・悪ぃ、はしゃぎ過ぎたみてぇだな」

と、苦笑いして言うオグルは、

「あんまり快晴なもんでよ、フォックスイヤーもご機嫌だったしよ、お前等にも楽しんでもらおうと張り切り過ぎたんだ。初心者にはキツかったか? ま、最初にキツい経験しとけば、後は何でもねぇよ、大丈夫大丈夫、次は余裕で絶好調だ、うんと楽しめるさ」

と、全く悪びれなく言う。

「あのな、オッサン、普通に飛んでくれりゃいいんだ、妙なテクを見せびらかす必要はねぇ。俺達がオッサンのテクを見てぇ時は地上から見上げて見るから、今は普通に操縦してくれりゃいい。俺達は飛行機に乗って楽しむタイプじゃねぇんだよ、見て楽しむタイプだ。後は移動手段に使うだけの地上大好き人間なんだ、俺達は大地と共に生きる!」

そう言ったツナに、

「おお、大地と共に生きる。カッコイイねぇ」

と、笑うオグル。誰か、頼むから、この浮かれたオッサンを何とかしてくれと、ツナは額を押さえる。

空が快晴だってだけで、飛行気乗りってのは、こうも嬉しがるもんなのかと、皆、溜息。

「で、お前等どうする? 一緒に来るか?」

オグルはモウェイ村の宿へ行くのだろうが、皆、疲れきっていて動けない。

「オグルさん、ボク等、フォックスイヤーと一緒に待ってます」

シンバがそう答えると、

「そうか? でもちょっと話し込んだりするかもしれねぇし、時間かかるかもしれねぇぞ? 直ぐ戻るかもしれねぇけど、それでも1時間くらいだと思うが? もしあれだったら、お前等も村に後から来ればいい。フォックスイヤーのキーだけ渡しとく」

と、オグルは言いながら、シンバにキーを渡し、1人、フォックスイヤーから降りた。

暫く、皆、ぐったりしていたが、その内、回復すると、ツナは外に出て、リブレと一緒に伸びをしながら、青空を見上げ、深呼吸。シカはフォックスイヤーに興味があるようで、あちこち見て回っていて、パンダは最近読み始めたと言う子供向けの絵本のようなものを開いて見ていて、それぞれの時間を過ごし始める。

シンバは外に出ると、何故か挙動不審な態度で、

「ツナ、ボク、ちょっと行って来ていいかな?」

と、モウェイの村の方向を指差した。

「――そんなに気がかりか?」

そう聞いたツナに、シンバは苦笑い。

「弟だからか? それとも――」

「いやいや、ちょっと様子だけ見て来るだけ」

と、駆け出すシンバ。ツナはシンバの背を見送りながら、セルトの事を思い出し、あのガキなら、もう放っておいても大丈夫そうだったのにと、

「心配性なのか、フックスを残したいのか、それとも、自分自身を残したいのか」

そう呟く。

シンバがセルトに対し、自分を受け継いでもらいたい相手だと思っているんじゃないかとツナは思っている。

それはシンバの父親のベアがそうであったように、自分を残そうとしたいのか、それともフックスと言う魂を次へ導かせたいのか――。

「俺達の中だけでフックスは存在するんじゃ駄目なのか? フォックステイルは永遠じゃねぇぞ。寧ろ、フォックステイルは闇に消える存在だろ? それにお前はフックスであっても、シンバなんだからな。俺が剣を持って、守ってる奴は、フックスじゃない、シンバ、お前なんだ」

駆けて行くシンバの背に言うツナ。

――アイツはもうフォックステイルを自分自身のものにしてもいい。

――なのに、絶対にフックスになりきってフォックステイルになる。

――そして、フックスの年齢が過ぎる頃、また別の誰かにフックスをやらせるのか?

――そうじゃねぇだろ、シンバ。

――その時代の奴等には、その時代の生き方があって、正義っちゅーのがあんだろ。

――お前を見て、お前になりたいと思う連中がいるならいい。

――だが、無理強いは駄目だろ。

――シンバ自身、自分を見失ってるんだろうな。

――フックス以外、多分、アイツは何にもなれないと思ってやがる。

――フォックステイルが終われば、人生の終着だと思ってる。

――そうならない為にも、シンバの居場所ってのを見つけてやんねぇと・・・・・・

物思いに耽るように、ずっとシンバを見送ったまま、ぼんやりと突っ立っているツナの背後を、突然リブレが襲い掛かった。

「おい、今のナシだぞ!」

咄嗟に避けたが、リブレの爪で服が少しだけ切れてしまい、ツナはそう言ったが、リブレは、ナシはナシよ、ぼんやりしてたら、やられちゃうんだからと言う風な表情で勝ち誇っている。だが、ナシだと言い切るツナ。

「ツナくん」

今、シカがツナに声をかけ、近付いて来るから、ツナもリブレもシカを見ると、

「フォックスイヤーって、ヘリとして着陸する時、機体そのものが地面に直接に着くんだね、機体が地面にくっついてる、つまり足がなくなるんだ。ジェットの時は足があったよね、滑走路を走る為のタイヤみたいなのが・・・・・・飛んでる時は引っ込むのかもしれないけど・・・・・・着陸する時は滑走路を走る足が必要だもんね、足が出るんだ」

などと言い出し、だからなんだ?と、ツナもリブレもクエスチョン顔。

「サードニックスの飛行船に行くなら、滑走路はないから、勿論ヘリで行くよね」

「だから?」

「だからね、フォックスイヤーの後ろへ回れば、正面からは見えないんだ、足元も隠れる」

「それで?」

「それでね、フォックスイヤーさえ協力してくれれば、フォックステイルを参上させれる」

うん?と、更にクエスチョン顔になるツナ。

パンダもフォックスイヤーから降りて、何の話?と会話に参加。


そしてシンバはと言うと、オグルが戻る迄には戻りたいと、急いで、村へと向かっていた。

逆にオグルが、入れ違いで先に戻っていて、少しでも待たせてしまうのは悪いと思うからだ。

飛んでもらっている以上、余り迷惑はかけたくない。

村に着くなり、古本屋さんへと走るが、何か感じたのか、シンバは屋敷を見上げ、屋敷の方へ走り出した。そして屋敷に着くなり、シンバは屋敷のドアをノックするのを躊躇う。

躊躇ったものの、直ぐにノックもせずに、ドアを開け、そして、中へ入るなり、部屋の中央にいる人物に立ち尽くす。その人物が振り向くと同時に、

「父」

と、シンバは、口を吐いた。

ベア・レオパルドが、そこにいる。そしてシンバを見つめ、

「シンバ・・・・・・どうしてここに・・・・・・?」

そう囁くように言う。そして、

「お前があの子を連れ去ったのか?」

と――。

「・・・・・・あの子ってセルト? セルトがどうかしたの?」

「・・・・・・とぼけるな」

「え?」

「お前はどうして何もかも私から奪うんだ」

「は?」

「私は、レオンとずっと一緒にいたんだ。あの子を私として育てて来て、後少しであの子も立派な騎士になり、私の全てを受け継いでくれる者となる筈だった。なのに、何故だ、何故なんだ、お前と少し会話をし、少し剣を交え、しかも敵として現れたお前に――・・・・・・」

「ボクに?」

「何故、お前に奪われなきゃならないんだ!?」

と、ベアは大声を上げ、憎む目を、シンバに向ける。

「一瞬で心を奪う妙な術でも使ったか、フォックステイル!!」

「何言ってんの? レオンは、父が捨てたようなもんだろ、あの時――ッ」

「黙れッ!!」

「ちょっと落ち着いて、よく思い出してよ、ボクは何もしてない、只――ッ」

「黙れと言っているんだ!! キツネめ!! 貴様のようなズル賢い奴に、耳を貸すバカだと思うか!!」

「・・・・・・」

「レオンは・・・・・・アイツは貴様に会ってイカレてしまった。そして今度はセルトか」

「・・・・・・セルトが最後なんだね」

「なに!?」

「レオンを簡単に切り捨てようとした父は、まだセルトがいるって思ったんだろう? でもそんなに怒るって事は、セルトが父の最後の切り札だった。だったら、どうしてセルトを独りにした訳? どうしてセルトに、見た目が、自分に似てないからって、酷い事をした訳? セルトの母親に、どうして銃を向けさせたりした訳? 無情な事が騎士になる修行だとでも? セルトはまだ小さい。小さいから何も知らない。だけど小さな体で沢山の想いを知る事ができる。本当は辛いとか悲しいとか寂しいとか、一杯の想いを持ってるけど、誰にも言えない。だって父は偉大な騎士で英雄と言われているから。その息子は、まだ小さくても、それが言い訳にならない。だから強がってしまう」

「知った風な事を言うな!! セルトは強い子だ、貴様に何がわかる!!」

「強い子供なんているもんか! 強がってるだけなんだよ!!」

そう怒鳴るシンバに、ベアは言葉を失うように黙る。

「でもボクは父の修行に感謝している事もある。父の言う通り、ボクは沢山の本を読んだ。それはボクに沢山の知識を与えてくれた。何より父の言う通り、ボクは剣の修行をしたからこそ、強くなれた。そのお蔭で、ボクはフォックステイルになれた。父は冗談じゃないと思うだろうけど、フォックステイルになる事はボクの夢だったから。父から譲り受けたモノを父の夢の為じゃなく、ボクの夢の為に使ってる。それも父は許せない事だと怒るだろうけど、ボクはこれで良かったと思ってる。ボクが生きる為に選んだ道だ。父が生きる為に選ぶ道は父が選べばいい。皆、それぞれ、自分の道は自分で選ぶんだ。だから、セルトにも選ばせてあげてほしいんだ、自分の道を。そしたらきっともっと頑張れる。小さくても、乗り越えられるんだって、乗り越えた先に夢が叶うチカラを手にする事ができるんだって、そう思う。もしセルトに父の修行をさせるなら、無茶は良くないけど、非情な修行をしてもいい、でも無情にならないでほしいんだ。たまには抱き締めてあげたり、村の子供達と遊ぶ時間も必要だと教えてあげて欲しいし、何より、あの子は――」

「あの子はいない」

「え?」

「お前が連れて行ったんじゃないのか」

「ボクが?」

「セルトはこの村を出て行ったと、村人から聞いた」

出て行った!? 何故!?と、シンバは、わからないと言う顔になっていく。

だが、ベアはシンバのせいだと思っているようだ。

「そんな何も知らないかのような顔をするな、村人から聞いている。私によく似た若い男が来たってな。お前、この村に来たんだろう? 無論、セルトにも会った。だからセルトの事も知っていた。そうだろう? 何故なんだ、何故、レオンもセルトも・・・・・・私ではなく、お前を選ぶんだ、本の少し会ったお前の言う事の方が正義だと思うのか!? 私の言う事は間違いだったと言うのか!?」

「・・・・・・違う、ボクじゃない、フックスだ――」

呆然としながら、シンバは気付く。

レオンの時もセルトの時もフックスとして会っていたと――。

そしてフックスの影響力はシンバが一番知っている。

「もしかしてセルトはフックスを追い駆けて・・・・・・?」

どうしようとシンバは口元を押さえる。

「古本屋の子供が教えてくれた話だ。セルトは賊になるってな」

「え?」

「一番強い賊の仲間にしてもらうってよ」

「・・・・・・賊? なんで?」

「知る訳がない。貴様が何か言ったんだろう!!」

「ボクは何も――ッ」

何も言わなかった事に気付く。

ちゃんと正体を言わなかった。

怪盗だと、フォックステイルだと、名乗ってない。

それどころか、シャーク・アレキサンドライトになりきって、戦ってしまった。

そう、セルトは賊だと思い込んだままだったと――。

シンバの顔が青冷めて行く。

そんなシンバを見て、ベアはフンッと鼻で笑い、思った通りだと、

「やはり貴様だろう、騎士にさせる筈だったセルトを賊にさせ、私への嫌がらせか」

そう言い放つ。

「違う! 違うけど、今はセルトを探す方が先だ、まだそんな遠くには行ってないだろうから、一緒に――」

「勝手にしろ、私は探すつもりはない。村を出て、賊にやられているに違いないからな。幾ら強いと言っても、私はあの子に剣を教えてはないし、本戦もした事のない子供が賊に敵う訳がない。賊は手段を選ばぬ連中だ、礼儀のある剣作法も知らぬ輩が、子供を生かす必要もないだろう。試し斬りで、殺されてるのを確認する程、私も暇ではない」

「見捨てるの!?」

「見捨てる? 私を見捨てたのはレオンであり、セルトだ。私が見捨てた子供は、お前だよ」

と、シンバの横を通り抜け、家を出て行くベア。

振り向いて、去っていくベアの背を見つめるシンバ。

いや、今は溢れる感情に左右されてる場合じゃないと、シンバも家を出て、急いでフォックスイヤーの場所へと戻る。

慌てて走って来るシンバに気付いたのはツナ。

慌てながら、猛スピードのシンバにブレーキは効かず、スピードが落ちる気配がないと思ったツナ自身がシンバに駆け寄り、シンバを抱くようにして、止めると、シンバはツナの肩に寄りかかりながら息を切らし、止まった。

パンダが急いで水を持ってくる。

「どうした? 何があった?」

ツナの問いに、直ぐに答えられず、息がうまくできないくらい乱れていて、シンバは先にパンダが持って来た水をゴクゴクと飲み干し、横から流れ出た水を手の甲で拭くと、

「セルトが・・・・・・フォックステイルを追い駆けて・・・・・・村を出たみたいだ・・・・・・セルトはフォックステイルを賊だと思ってる。一番強い賊だと・・・・・・ボクがそう思わせた。ボクが、シャークになりきったりしたから、ちゃんと正体も明かさずで、伝えきれてなかった。どうしたらいいかわからない」

取り乱すように話すシンバに、落ち着けと、ツナは言うが、シンバは、

「なんでボクはフックスを完璧にこなせないんだ!!」

と、自分を責め始める。

「シンバ、もし本当にフックスが、セルトと接したとしても、同じ失敗をしたかもしれない」

「そんな事ない! ボクはフックスを受け継いだのに! 全然できてない!」

「受け継いだのはお前の意思だろう? フックスが願った訳じゃない!」

ツナにそう言われ、シンバは黙り込む。

「俺、フックスが死んだ理由、わかる気がするんだ。フックスはフォックステイルの存在なんて後世に残す気は全くなかった。自分自身を、今、終わらせても、後悔はなかったんだと思う。きっとフックス知ってたんだ、フォックステイルがいなくなっても、明日は来るって事。世の中、何も変わらないって事。それだけ自分は小さい存在だって事」

「そ、そんな事ない! フックスが生きてたら、今頃、もっと世の中は――ッ」

「シンバ、ハードル高く上げすぎ。そんなの、おかしい。フックスは常に軽く飛んで見せる高さにしてるよ。余裕を残して、笑ってみせる高さを目指してる」

「ツナ・・・・・・」

「自己満足でしかないって、フックスはわかってたんだ。でも、自分がやって来た事は無駄じゃない、きっと次の世代で、また新しい正義らしい正義が現れるって信じてたんだと思う。実を言うと、俺も、今、死んでも後悔はないんだ。こうして仲間と一緒にいれる時間が終わるのは惜しいけど、でも、もし、俺の命で、もっと新しい何かを仕出かしそうな奴の命が助かるなら、俺は自分の命をあげれる気がする」

「・・・・・・」

「だって俺がいなくても、明日は来るから――」

「・・・・・・」

「世界は終わらないから」

「・・・・・・」

「そう決めるのは俺自身で、今、こうしてるのは、俺達自身で、そう決めた事だ。セルトも自分で決めたんだろう、フォックステイルが賊じゃないと知ったら、その時、またセルトが自分で選択するんだ。俺達も小さい頃から、そうやって自分で考えて決めてきたんだ。小さくても、こんな世だ、わかるだろう? 親なんて宛てにできない。信じれるのは自分と自分が信じた者のみ。自分だけで生きなきゃならない世の中なんだ。ちっぽけな命、生かすも殺すも自分次第。もし、セルトがどこかで死ぬなら、それもまた自分が決めた運命。生きて、誰かに保護されてるかもしれねぇし、それもまたセルトの運命の出逢いだろう。そしてもし、セルトが俺達と縁があれば、また会える運命にある。その時、また、お前が導いてやればいい。セルトの道標になるって、お前自身が決めたなら、そうすればいい。そうする事が運命なら、きっと、また会える」

シンバはツナの考えに、無言で立ち尽くすしかなかった。

そんな風に考えていたんだなと、初めて知ったからだ。

フックスが死んだ理由など、シンバは深く考えてもなかった。

只、救ってくれたんだと、守ってくれたんだと、そればかり想い続けていた。

ツナは悲しみや怒りを乗り越え、克服して、前へ進んでいるんだと知る。

その事で立ち止まったりせずに、前へ向かって真っ直ぐに進んでいる。

もう振り向かないんだ――。

「でも、気がかりなのは、一番強い賊って思ってるってとこだね」

と、シカが、考えながら呟き、そして、

「最強のアレキサンドライト? それとも無敵のサードニックス? どちらへ向かったかな? もしその子が僕達と再び出逢う運命にあるならば、僕等がこれから向かうサードニックスに向かったかもね。兎も角、シンバくんにも、あの作戦を話そう」

と、言うので、シンバは、あの作戦?と、シカを見て、ツナ、パンダ、リブレを見た。

オグルが戻って来た時には、皆、フォックスイヤーの中でぐったりしていた。

「おいおい、お前等、まだ復活してなかったのか!?」

もういい加減、気分も良くなっているだろうと思ったオグルがそう言うと、

「あんな飛行されて、そう簡単に復活できないですよ」

と、シカが言う。

「大食いのオラなのに、当分は何も食べれそうにない」

と、パンダが言う。

「頼むから今度は普通に飛んでくれよ、オッサン。普通でも俺達にゃキツいんだ」

と、ツナが言う。

「悪かったよ、そこまでとはな。もう1人どうした? お前等のリーダー?」

「シンバなら、後ろの座席2つとって寝込んじまったよ」

ツナが体調悪そうに、自分の事で精一杯なのにと言う感じの表情で、それでも後ろの席を親指で差すだけして、そう言った。

薄い布にすっぽり包まっているシンバに、オグルは頭をボリボリ掻いて、すまなそうな顔。

「オグルさん、次はサードニックスに行くんですよね? 申し訳ないけど、僕等、こんな調子だし、着いても飛行機に乗ったままでいいですか?」

シカがそう言うので、オグルは頷いた。

「そりゃ構わねぇよ、ガムパスに話があんのは俺だから。でも、お前等、仲間がどうとか言ってなかったか?」

「いえ、いいんです、兎に角、僕等、このまま休んでるので、できればヘリでゆっくり飛んでくれると有り難いです、向こうに着いても、このまま休んでます」

と、シカ。

「そだな。オラ達、カーネリアンに着くまでには回復してたいしな」

と、パンダ。

「オッサン、シンバも寝てるし、ゆっくり飛んでくれよな」

と、ツナ。

「あぁ、わかった、ゆっくり行こう、どっち道ヘリじゃねぇと、奴の飛行船に乗れないからヘリで行くつもりだ。それに寝込んでる奴がいるならジェットだと無理があるからな。ヘリで最初から行く。なぁ、聞いてもいいか?」

と、オグルは操縦席に座りながら言うと、顔だけ振り向いて、

「お前等、何者だ?」

そう聞いた。そして、

「いや、いいんだ、何者でも。聞いても、お前等が、言わないのもわかってる。只、ちょっとした興味で知りたくなってな。リーダーがいるって事は、何かのチームなのか? オクトパスを倒せる程の奴もいるしな。賊なのか? よくわからんが、少数で動いてる賊って事か? メンバーは後1人いるんだっけ?」

と、問う。皆、黙り込んでいると、後ろの布からガバッと顔を出し、

「賊じゃないよ、ボク等、只の大道芸人だよ! 荷物見りゃわかるだろ! ジャグリングでも見せようか? ていうか、気分悪いのに気分悪くなる事を言わないでよ!」

と、機嫌悪く大声で言い放ち、またガバッと布をかぶってしまうシンバ。

「・・・・・・ジャグリング?」

オグルは少し考えながら、そう呟き、ツナ、パンダ、シカを見る。そして、シンバの事を頭に思い浮かべながら、コイツ等、どこかで会ったか?と、考えていると、

「・・・・・・あれ? お前等、犬どうした?」

と、リブレがいないなと気付く。

「リブレも後ろでシンバと一緒に寝てるよ」

と、ツナは面倒そうにまた親指で後ろを指差した。

シンバが寝ている座席の下で、大きな布に包まれているモノがある。それがリブレかと、

「そうか、まぁ、いいや、とりあえず、行くか」

と、オグルは頭を掻きながら、何か引っ掛かるなぁと思いながらも、それが何かわからない為、兎に角、出発する事にした。

ヘリモードのフォックスイヤーは浮き沈みしながらも、ゆっくりと空を遊泳するように飛び、布に包まって寝込んでいるシンバとリブレ以外、空の景色を眺める余裕があった。

ツナは、遥か遠くの太陽から落ちるような光の粒を見つめる。

パンダは、青く澄み渡るパノラマを見つめる。

シカは、穢れなき白という色を光らせている雲を見つめる。

それぞれが、それぞれの感動を胸に抱き、空の美しさに見惚れている。

この世に、こんなにも美しい世界があるんだと知った。

「・・・・・・この空の世界に賊を持ってくるのか、俺達は――」

ツナの独り言。

これからフォックステイルがやろうとしている計画の1つ。

賊達を地上から追い出し、空へと追い遣ると言う事。

それは賊達が地上を荒らす命だから。

その命は、地上同様、この素晴らしい世界さえも荒らすだろう。

つまり、フォックステイルは、この素晴らしい空を汚そうとしている。

ゴミを美しい場所に捨てるのと同じじゃないのかと、ツナは考えてしまう。

自分が賊であった以上、賊という汚い人間の事はよくわかっているからだ。

それでも他に手段はない。

善と悪の区別はあっても、何が正しいのか、考えてもわからない時がある。

時に善は悪で悪は善だ。本当の正義なんて存在しない、真実の悪もない。

ならば、己が見える範囲だけでも素晴らしき世界にする為、突き進むのみ!

そう思っても、この綺麗な景色を見てしまうと、空の1ページさえ、美しくまとめておきたいと思ってしまう。

空のページなど、これから先、開く事すらないとわかっていても、守りたいと思ってしまう程に、この景色は一生の記憶に残る程、完璧に素晴らしい。

皆、ぼんやりと空を眺めていると、突然、機体が一瞬だけガタンと揺れ、シューッと言う音がどこからかしたと思ったら、ポンッと直ぐ近くのような、それでいて遠いような場所で空気のような煙のようなものが弾けた。花火?と、皆が思っていると、

「ガムパスに合図を送ったんだ、何もしねぇで近付いたら、大砲で落とされ兼ねない」

と、オグルが振り向いて、説明した。

「という事は近くにサードニックスの船があるんですか?」

と、シカ。

「あぁ、今、無線で応答してる。向こうからの返答待ちで、一気に近付いて、着地する」

オグルがそう言うと、シカは、

「随分とモウェイの村から近い場所の空にいるんですねぇ。まだそんなに飛んでない気がしますが?」

と、窓から空を見ながら言うが、あれから2時間は飛んでいるとオグルは言う。

「ま、カーネリアンに行くには、ここから数十時間はかかるからな。それを考えると、2時間程度じゃぁ、そんなに飛んでねぇな」

空の旅など、初めてのせいか、時間が経つのが速い気がする。

まだ数十分程度しか飛んでないかと思えば、2時間も飛んでいたなんて。

窓の景色は然程、変わらないのに、空を眺めていると、時間を忘れる。

オグルが無線で何か話し出し、そして、振り向くと、

「おしっ! 着地準備しろ? ま、俺の操縦するヘリだ、ジェットじゃねぇからシートベルトしなくてもいいが、念の為にしてぇならしてもいいぞ?」

ニヤリと笑いながら、オグルが言うと、

「無理にベルトしなくていいなら、何の準備するのさ!?」

パンダはシートベルトをしながら吠えるように言う。

「そりゃ気持ちの問題だ、着地って言やぁ・・・・・・」

オグルはそこまで言うと、グッとハンドルを握り、

「それなりに面白ぇんだよ!!」

と、その瞬間、フォックスイヤーの機体が斜めになり、うわああああああ!!!!と、体を斜めに傾けられながら、皆、悲鳴を上げた。

後ろで布に包まったシンバとリブレは斜めになる方向へと機体の中でズレ落ちる。

「本当に気持ち悪くなるよぅ!!!!」

と、吠えたパンダだが、本当と言う事は本当は気持ち悪くなかったと言う事になるだろうが!と、ツナが突っ込もうと思ったが、機体の激しいバランスの崩れに、威圧的態度での無言の突っ込みさえ出来ず、悲鳴を上げ続ける。

幸い、皆の悲鳴でパンダの叫びは掻き消されている。

フォックスイヤーの目の前に浮かぶ白い雲の波に漂う一艘の船。

船旗はサードニックスの印。

幾つものプロペラが回る船は風を纏い、旗を膨らませ、ゆったりと動いている。

その船の先端にオグルはフォックスイヤーを着陸させる。

来るのを待ち構えていた賊達が、まるで歓迎するように、皆、集まり、フォックスイヤーから少し距離を置いて、立っている。

ズラッと並ぶサードニックスの連中。

結構な数だが、オグルがフォックスイヤーから降り立つと、

「また減ったなぁ」

と、皆を見回し、そう言った。そして、連中の中央にいる大男が、

「しょうがねぇ、空は低酸素過ぎて、みんな、死んでくんだ。俺も数十年この空にいながら、未だ慣れねぇ環境に地獄が見えかけてるよ」

そう言った。この男こそが、このサードニックス率いる、無敵と言われるガムパス。

「それでも、やっとこ、この薄い空気に馴染み、俺も回復しつつあり、死んで行く連中もいなくなり、なんとか賊と言われる人数には達してる」

笑いながら言う事じゃないが、笑いながら、そう言って、

「だが、欠員募集中だ、どうだ、オグル。お前、仲間にならねぇか?」

と、冗談まで言う始末。

「地上にいる賊達に、この状況を知られたら大変だなぁ、無敵どころか、低酸素で死に至る病に苦しんでやがるんだから。サードニックスを潰すなら今か?」

恐れもなく、そう言ったオグルに、ガムパスは喉の奥で笑いながら、

「下界の連中が俺の首を狙って空へ来る頃にゃぁ、この薄い空気の世界で、俺は無敵を誇る程に完全復活している」

と、言い切るから、オグルはそうかと頷き、

「ま、お前の事だ、棺桶に片足突っ込んでても、強さは変わりなしだろうよ。そんな事はどうでもいい、お前に聞きたい事がある。俺の大事な飛行機を盗みやがった奴がいる」

と、いきなり本題に入る。

「お前の飛行機を? そりゃ怖い者知らずな奴がいたもんだ」

と、ガムパスが笑うと、賊達も笑う。だが、オグルは笑えない。ガムパスを睨みつけ、

「どうやら俺の飛行機の部品を必要としているようだ。しかも今は製造されてねぇ部品を持つ古い型の飛行機だ、そういやぁ、この飛行船もかなり古いだろ、今は製造されてねぇ部品も必要じゃねぇのか? ガムパスよぅ」

確信をついた台詞を吐く。笑っていたガムパスは真顔になり、ピタリを笑い声を止めた。すると、周りの連中もピタリと笑うのを止める。

「オグル、何が言いてぇ?」

「俺が知ってる怖い者知らずっていやぁ、テメェだよ、ガムパス」

「つまり、俺が飛行機を盗んだと? 証拠はあるのか?」

「ねぇよ。ねぇけど、証拠なんていらねぇ。俺は飛行機を取り戻しに来た訳じゃねぇからよ。お前が、部品がほしいっていやぁ、俺は快く、飛行機を工場で解体し、部品をくれてやった。気に食わねぇのは、お前が俺の飛行機を無言で盗んで行ったってとこだ。そこまで落ちぶれたか、ガムパス」

「・・・・・・ハッ! おい、野郎共、伝説の飛行機乗りさんがジョークをかましてんだ、笑ってやれ。いいか、オグル、よぉく聞け。落ちぶれるも何も、俺は賊だ。空賊だ。これ以上、落ちるものは何もない。俺はな、ガキの頃、少年兵で大勢の命を奪った。その道を後戻りする気もなけりゃ、逸れる気もねぇ。真っ直ぐ、突き進んでこそ、信念だと思ってる。ガキの頃、得たチカラを、俺はテメェみてぇに、逃げ道に使いたくねぇからよ」

「逃げたっていいじゃないか、時には逃げる事も大事だ、人間、遣り直せるんだ」

「何度も言わせるな、遣り直す気なんざねぇんだよ。俺は殺してなんぼだと知ってんだ、俺の前に立ちはだかるなら、親友とは言え、テメェも殺す。俺に忠誠を誓ったコイツ等も、俺に楯突くなら、それでいい。裏切り、裏切られ、それが賊だ。空の賊に相応しく、風の向くまま、気の向くまま、自由でいい。万が一、この俺が、誰かに負けるならば、その時に、その時代が来るって事だ。だが、俺が勝ち進む限り、俺の時代だ、真っ直ぐ、貫いて、生きてやるさ、誰にも邪魔はさせねぇ。この空の舞台こそ、俺の新しい世界だ」

「空には、お前等サードニックスだけじゃない、飛行機乗りもいるんだ、空に来れなくとも空を恋焦がれ愛する者もいる。ここはお前の為の世界じゃない、お前等が好き勝手できる世界じゃないんだ、ここは空を愛する者の為にある世界だ。空を愛する者の物語が始まる場所なんだ! お前だけの舞台にされちゃ堪んねぇよ。大体その汚ねぇ手で、空を奪える気でいるのか? あぁ、そうだな、お前なら奪えるかもな。やってみろ、俺がとことん邪魔してやる」

オグルとガムパスが話しをしている間に、シンバはフォックステイルになって、フォックスイヤーから、皆がいる正面とは違う裏側から飛行船へと降り立っていた。

皆、オグルに集中してくれてるお蔭もあって、うまく賊達に紛れ込み、連中の間を通り抜けて、飛行船の奥へと駆けていた。

確かに酸素が薄くて、動きが鈍くなると、

「えぇっと・・・・・・早くしないと、シカが言ってたな、数時間で、頭痛、眩暈、吐き気、手足の浮腫みなどの症状が出るって。それも数日経てば治るが、重症になると、死に至るってか。こりゃいいや。賊達を空に追い遣ったら、勝手に病で全滅してくれりゃいい」

と、ブツブツ独り言を言いながら、フォックステイルはカモメを探す。

ラビから手に入れたサードニックスの船の見取り図、それを思い出しながら、奥へと進む。

だが、ここに扉がある筈と言う場所に扉がない。

フォックステイルは壁に手を当てて、

「なんで!? どうして!? 開け!! 開いてくれ!!」

と、念じ始める。

「侵入者はっけーん! 只の壁に何のまじない? フォックステイル? ソコ、私でも壁ってわかるよ、もしかしてバカなの?って質問に答えなくていいよ、バカって、知ってるから」

と、その声に振り向けばバニが立っている。そしてラビが微笑みながら、

「ハイ、シンバ。あら失礼、謎の怪盗フォックステイルさんだったかしら?」

と、手を振っている。

「・・・・・・なんなんだ、なんで現れるんだ、何を邪魔しにきやがった!?」

「アニキといい、フォックステイルといい、なんでそう怒り露わなの?」

「バニ、感情マックスでぶつかって来る男には気をつけなさい」

「なんで?」

「ストーカーになるから」

「ほほぅ! 流石ラビさん、コイツ、ストーカーで私等を付け回してるんだね? んでもって、ここに現れたと? やい、フォックステイル! ストーカーは犯罪だぞ!」

なんでそうなるんだと、フォックステイルは気が抜ける。

「怒りマックスになるような事してるからだろ、お前等が!! つぅか、やっぱお前等、サードニックスの仲間なのか?」

目の部分の顔半分は仮面を付けてはいるが、まだまだ怒り露わの顔のフォックステイル。

「アタシ達は賊じゃないわ、そんな連中に興味もない。サードニックスは只の依頼者ってだけ。それにアナタ達が怒るような事、何もしてないわ。アタシは只仕事をしてるだけ。怒るなら仕事の依頼主に怒ったらどうかしら?」

シレッとした顔でそう言ったラビに頷くのはバニ。

「ボクのスカイピースを盗んだのもサードニックスからの依頼だってか!?」

「アナタのスカイピース? おかしな事言うのね、フォックステイル。スカイピースは誰のモノでもない筈よ。あれは人の手から手へ、消えては現れるモノ。アナタの手から離れて消えたからって、アタシのせいじゃないわ。でも依頼だったからって言えば、アタシを許せるのかしら? なら依頼だったからよ。だからもう怖い顔はやめて? 笑っちゃうから」

面白い顔をしている訳じゃないんだから笑うとこじゃないだろと突っ込みたくなるが、バニがプッと少し吹き出してバカにしたように見てくるから、フォックステイルは更に苛立って怖い顔になる。

「じゃあ、お前達はサードニックスからの依頼を受けて仕事してただけってなら、スカイピースに纏わる話は全く関係ないんだな!? 空に浮かぶ島の宝なんて全く狙ってもないんだな!? ミリアム様のラブラドライトアイの像も全く興味ないんだな!?」

怒鳴るように、そう言ったフォックステイルに、ラビもバニも、一瞬、表情がスッと真顔になった。そして直ぐにラビが、

「アナタが今探してるのはカモメじゃなくて? 案内してあげる、カモメの場所まで」

と、背を向けて、歩いて行く。

「案内!? ちょっと待て! 何の罠だ!? 騙されないぞ!?」

ラビは足を止め、顔だけ振り向いてフォックステイルを見ると、

「騙す? それはアナタの得意分野でしょう? 心配しないで? 罠も何もないから」

と、表情は真顔のままだ。

「どういう事だ? カモメを連れ出してもいいって事か? サードニックスを裏切るのか?」

「裏切る? ホント、男って直ぐにそういう意味のない事ばかり言うのね。アタシは仕事をしてるだけ。サードニックスに依頼された事はちゃんとやってる。でもカモメを探しに来た人に、カモメの場所まで案内するなとは言われてない。それにカモメを逃がすのはアタシじゃないわ、アナタでしょ、フォックステイル」

「だ、だからって、なんでカモメがいる場所まで案内してくれる訳? 何の利益もないだろ」

「あるわよ」

「何の利益が?」

フォックステイルの問いに、ラビは体ごと向き直り、いつもの怪しい微笑みを浮かべ、

「アタシの信用度。カモメがいる場所に案内すれば、少しはアタシを信用するでしょ? 幼馴染だもの」

そう言った。幼馴染・・・・・・そして信用される為・・・・・・何にしても納得できないフォックステイルは身動きできないまま、ラビの微笑みに、石のように固まっている。

そんなフォックステイルの背中をバンッと平手で叩き、

「時間ないんだから、ラビさんの美しさに見惚れてないで、サッサとしなよ、トロイ男!」

と、バニが言うから、見惚れてた訳じゃないとバニを睨み、微笑みに裏がありそうで怖くて石化してたんだと、フォックステイルは思いながら、ラビの後を付いて行く事にした。

――何か企んでるとしか思えない。

――油断しちゃ駄目だ。

――気を許しちゃ駄目だ。

――騙されるものか!

そう思いながらも、ラビが案内した場所に、カモメがいた事で、フォックステイルはラビを信じきれなかった自分が悪かったと思ってしまう。

「カモメ!」

船の胴体下部辺りになる部屋で、カモメはオイルで汚れた顔をしながら、船の心臓部とも言える複雑な機構をいじっていたが、今、名を呼ばれ、振り向いた。

「シンバ!? どうやってここへ!? しかもフォックステイルの姿で!?」

「飛行気乗りのオグルさんに運んでもらった。詳しい事は後で。それよりここを出よう。今からボクの言う通りにやってくれる?」

「え、でも・・・・・・」

と、カモメは、チラッとラビとバニを見る。

「飛行船の整備ってまだ終わってないの?」

ラビがそう尋ねると、カモメは首を振り、

「いや、今は配線のチェックをしてただけだから、整備は終わってる。後、数年はちゃんと飛べると思う。ちょっとした衝撃なら耐えれる筈。だけどオイラを逃がしたら、ラビとバニが疑われるよね? ここは空なんだ、逃げ場所なんてないし・・・・・・」

と、ラビとバニの事を気にしている。

「あら、だからフォックステイルが迎えに来たんでしょ? 逃がすのはフォックステイル。アタシは関係ないわ。それにアタシ達の心配をするより、カモメ自身の心配をした方がいいわ。必要なくなったらアナタは殺される。賊ってそういうものでしょ?」

と、ラビ。

「そうそう、どうせ弱いんだから、キツネと一緒に逃げた方がいいよ。もしサードニックス相手に殺される事になっても、私は助けられないよ? アンタを助けるのは、そこにいるフォックステイルなんだからさ」

と、バニ。

「アタシができる事はここまで。じゃあね、シンバ、カモメ。あ、フォックステイル」

と、ラビ。

「バイバイ!!」

と、バニが手を振って、2人は、このオイル臭い部屋から一足先に出て行く。

「・・・・・・アイツ等、カモメの場所まで案内してくれて、いいとこあるよな」

フォックステイルはそう呟き、カモメを見て、

「カモメが殺される前に逃がしてくれるって事だから」

と、笑う。カモメも頷いて笑顔を見せる。

「よし、ボク等の作戦を話す! カモメはフォックステイルとは無関係だ」

これからの行動をカモメに話すフォックステイル。

一通り話し終えた所で、イヤフォンから、ツナの声が聞こえた。

〝おい、リーダー、聞こえるか?〟

「ツナ?」

フォックステイルは耳に入っているイヤフォンを、更に耳に当てるように指で触る。

〝なんかヤベェ雰囲気だぞ〟

「ヤバイ?」

〝飛行気乗りのオッサンとサードニックスがさ・・・・・・喧嘩でもおっ始める勢いだ〟

「なに、結局、話し合いで終わらないって事?」

〝あぁ、なんか、盗まれた飛行機の話じゃなくなって来てる。空を支配するのは誰だって言う話になって来てる感じ。なんかかなり論点がズレてる〟

「そっか。こっちはカモメと接触した。急いでそっち戻るよ」

フォックステイルはそう言うと、船の先端へと、カモメと走り出す。

船の先端では、サードニックス全員等がオグル相手に、今にも飛び掛りそうな雰囲気。

ガムパスの一言で、皆、オグルを殺すだろう。

ガムパスもまた、オグルの意見に反発し、オグルもまた、ガムパスの意見に反論が続き、二人共、睨み合ったまま、一歩も譲らない。

「おい、オグル。俺はよぅ、テメェの事は友だと思っているが、飛行気乗り全般に敬意を払う気はねぇ。蝿みてぇにブンブンブンブン空を飛んでるのが目障りだ。いつか、全滅させてやる気でいる」

「そうだな、今は病引き摺った体だ、動けねぇからなぁ。だが、そのいつかが来る前に潰されるなよ?」

「ハッ! 俺が誰に潰されるってんだよ!?」

「勿論、飛行気乗りの連中にさ。友としての警告だ。あんまりこの世界で勝手すんじゃねぇ。友と言う繋がりがあるから警告してやってんだ、有り難く思え」

「・・・・・・面白ぇ。この俺に警告か」

「賊なんてもんになりやがったんだ、俺もな、賊全般に敬意を払う気はねぇよ。無論、賊なんざ、誰からも尊敬されねぇだろ。それでも友だからこそ、敬意を払って警告してやってんだ、有り難く思え」

このオグルの台詞には、ブチ切れたのだろう、ガムパスは雄叫びを上げるような声で、

「うるせぇ!!!! 友だの何だの、御託はそこまでだ!!!!」

そう怒鳴り、

「ナメた口聞きやがって、生きて地上に戻れると思ってたか! この浮かれた銀蝿が!!」

と、吠えた瞬間、サードニックスの連中も武器を手に持ち出し、雄叫びを上げようとした。だが、誰かの大笑いする声に、皆、動きをピタリと止める。

こんな激怒り真っ只中で、非常識にも誰が笑ってやがるんだと、ガムパスは連中を見回すが、連中も誰が笑っているんだ?と、周りを見ている。

オグルも、この笑いはなんなんだ?と、見回しながら、ふと、船の操縦室となる部屋のバルコニー部分で腹を抱えて笑っている者がいる事に、

「あそこだ」

と、指を差し、今、皆が、見上げる。フォックステイルの参上を――。

「あはははははは・・・・・・は、はは、は・・・・・・あ、いや、スイマセン、銀蝿ってのにハマってしまって・・・・・・うまい事言うなぁって・・・・・・。流石サードニックス。ギャグも優れてる。あ、これ、バカにしてませんよ? めちゃくちゃ褒めてます」

と、頭を掻きながら、苦笑いで立っているフォックステイルに、

「なんだ、お前? 誰だ? どこから来た?」

と、ガムパスが眉間に皺を寄せ、尋ねた。オグルは、あの時のジェイドの騎士に追われていたアイツだと、フォックステイルをジッと見ている。

「アレ? ボクを知らない? おかしいなぁ、賊の間では有名だと思うけど?」

そう言ったフォックステイルに、

「フォックステイルだぁ!!!!」

誰かが叫んだ。なに!?と、叫んだ奴を見るガムパスに、

「ほら、アイツ! キツネの尻尾が付いてる! フォックステイルだ!」

と、更に叫ぶから、フォックステイルは、

「正解」

と、ニヤリと口元を微笑ませた。

「フォックステイルだと!? ほぉ、貴様が、あの噂に聞くキツネか。嘘か真実か、あのシャーク・アレキサンドライトの腕を斬り落としたという武勇伝を持ってるらしいな?」

「あぁ、あれ? どうかなぁ? 嘘かも」

と、クスクス笑うフォックステイルに、舌打ちをし、ふざけた野郎だと、ガムパスは、

「一応、聞いてやる。ここへ何しに来た?」

と、声のトーンが、無理に落ち着いた感じに、低くなった。

「そりゃボクが現れる理由って言えば、賊の宝狙いでしょ」

「生憎な、この船の為に財宝は使い果たした。テメェが欲しがる宝なぞ、何もねぇぞ」

「だから、船をもらいに来た」

「何!?」

眉間に皺を寄せて、フォックステイルを見上げるガムパスに、

「助けて下さぁい!!」

と、縄で縛られたカモメの姿。

「この船を整備してた彼なら、船が空に浮くシステムを知ってるだろう? もらってくよ」

「貴様ぁ!!!!?」

「おっと、そんな怖い顔しないでよ。聞けば、彼はサードニックスとは関係ない一般人らしいじゃない? それを閉じ込めて船をいじらせてるなんて、監禁もいいとこ。キミもさぁ、地上へ逃がしてあげるのと、ここで一生、機械いじりさせられるの、どっちがいい訳? よぉく考えてごらんよ? ボクの言う通りにするか、それとも、サードニックスに監禁され続けて生きてくか。答えのヒントとして言える事は・・・・・・逃げるチャンスは今だと思うよ?」

フォックステイルにそう言われ、カモメは少し考えると、

「アナタの言う通りにします!!」

そう言った。なんだとぅ!?と、サードニックスの連中が怒声を上げる。

「ファイナルアンサー?」

ふざけた口調で問い返すフォックステイルに、ファイナルアンサーだと頷くカモメ。

「正解」

と、フォックステイルも頷き、カモメの縄を解き、

「あの飛行機の中に、ツナもパンダもシカもいるから」

と、耳打ちすると、カモメはフォックスイヤーを見て、頷く。そして、フォックステイルは、その高い位置から、皆を見下ろすと、どこからか、カラフルなボールを出して、

「サードニックスの諸君! ショータイムだ!」

と、ジャグリング。幾つものボールがポンポンと上にあがっては、フォックステイルの手の中に戻り、上手に回転して行く。

ここはかなりの上空で、今日は穏やかだとは言え、風も結構ある。

なのに、見事にポンポンとボールを転がすフォックステイル。

皆、ポカーンと、口を開け、フォックステイルを見ていると、オグルが、

「気をつけろ!! 来るぞ!!」

そう吠えた。そりゃないよと、フォックステイルは、まだ見惚れててほしかったのにと想いながらも、仕方ないと、ボールを数人に投げ付けた。

ボールが顔面に当たった連中は、目潰しを喰らい、

「目がぁ、目がぁ」

と、目を両手で押さえながら、その場で苦しみ出す。

「貴様ぁ!!!! 何しやがったぁ!?」

と、ガムパスが叫びながら見上げたが、そこにフォックステイルの姿がない。

どこへ行った?と、皆、キョロキョロ。

「オグルさん、そりゃないよ、ボクの登場で殺されないで済んだでしょ?」

と、耳元で囁かれ、オグルは、耳を押さえながら、バッと振り向き、大きなリアクションで後退して行き、皆がオグルの行動に、体を向き直し、今、フォックステイルを見る。

「そう怖い顔しなさんなって。明日にはちゃんと目が開くから、何も問題ない」

「・・・・・・何も・・・・・・問題ないだとぅ!?」

ガムパスの怖い声に、フォックステイルではなく、サードニックスの連中がゴクリと唾を飲み込み、恐怖に固まり出す。

「キツネ・・・・・・調度ムシャクシャしてたトコだ。テメェを血祭りにしてやろう」

と、ガムパスは腰から大きな剣を抜いた。

「いいね、ムシャクシャしたから誰かを血祭りにする。まさに賊だ。そうやって悪役を買って出てくれると、ボクも倒し甲斐があるってもんだ。倒さないけど」

「倒さない? 倒せないの間違いだろう? それに俺を悪役だと言うか? なら貴様はヒーローか? キツネ、テメェがやってる事はな、賊相手だから許されてるってだけだ」

「確かに」

「貴様がやってる事は正義じゃねぇ」

「そうだね」

「それになぁ、俺はテメェみてぇに姑息な遣り方で人を騙して生きてやがる奴が一番嫌ぇだ。逃げてばかりで、命も懸けれねぇ奴なんざ、男じゃねぇ」

「あらやだ、アタシったら、女の子だったの?」

と、自分の胸をバッと触り、

「なさすぎ!? いや、こっちはあるみたい。つー事で、男です!!」

と、股間を触って確認報告をするフォックステイルに、

「ふざけるなぁ!!!!」

と、皆がビク付く程に大声を出すガムパス。そんなガムパスに、フォックステイルは、

「笑えよ、ガムパス」

と、いつものお決まりの台詞。

「なんだと!?」

「面白い事言ってんだから、笑えよ」

「貴様のような男に笑う事などできるかッ!!!! 反吐が出るわ!!!!」

「あぁ、確かに賊相手にボクは命なんて懸けない。でもそれは逃げてる訳じゃない、命を懸ける程の相手じゃないからだ。だから今回も命は懸けない。逃げてみせる」

そう言ったフォックステイルに、逃がすものかと、サードニックスの連中は一斉に武器を構え、フォックステイルをグルリと取り囲んだ。ガムパスも円の中央で大剣を構えて、

「どこへ逃げれる? ここは空だ」

そう言った。逃げ道など、どこにもないと言わんばかりにニヤリと笑うが、

「アレ? ホント、ボクってサードニックスの中では余り知られてないみたいだね? なら、今日はよく知ってもらおう。ボクはフォックステイル」

と、剣を抜き、ガムパスから背を向けて、背後にいたサードニックスの数人を、あっという間に、剣で剣を弾き、身軽にフォックスイヤーの頭上へと飛び乗った。そして、また振り向いてガムパスを見ると、

「ボクは、空だって飛べるんだ」

と、微笑む。ガムパスは、撃てぇと吠え、銃を持っていた数人がフォックステイルに向けて銃を撃とうとしたが、オグルが、

「やめろぉ!! フォックスイヤーに当たるだろうが!!」

と、銃を持ってる連中の前に立ちはだかった。瞬間、もうフォックスイヤーの頭上には誰もいなくなり、そういえば、カモメは?と、皆、キョロキョロ。

「飛行機の中だぁ!!!!」

誰かがそう叫び、ガムパスが、オグルを睨みながら、

「まさかテメェがあのキツネを連れて来たんじゃあるまいな?」

そう言った。

「連れて来た奴はいるが、あんな奴は知らねぇ。それにアイツには、俺もやられてんだ、カラフルなペイントで飛行機の窓をベッタリな」

「だったら、飛行機の中を調べるぞ。その連れて来た奴も外に出てきてもらう」

ガムパスがそう言うと、オグルは、好きにしろと頷いた。

「おい、飛行機の中を調べろ」

ガムパスに命令され、1人の男がフォックスイヤーの中に入って行く。

ツナもパンダもシカも、外へ出され、

「なんなんだよ、もぉ、うるせぇなぁ、こっちは気分が悪いってのに」

と、ツナ。

「ひぃっ、怖い顔の人が一杯いるよぅ」

と、パンダ。

「僕達、サードニックスの船にいるんですねぇ。ちょっと感激します」

と、シカ。

ガムパスは3人をジロジロと見ながら、どいつも違うと、

「コイツ等だけか!?」

と、オグルを見る。

「後1人・・・・・・体調が悪いって寝込んでる奴が・・・・・・」

オグルがそう言うと、またフォックスイヤーの中へ男が入り、暫くすると、悲鳴を上げながら、転がるようにしてフォックスイヤーから飛び出して来た。

やはりフォックステイルが隠れていたかと、ガムパスが剣を構えるが、

「ぬ、布を剥ぎ取ったら、ば、化け物がぁぁぁぁ・・・・・・」

と、男はフォックスイヤーを指差した。

そしてフォックスイヤーから出てきた化け物に、男は転がるようにして逃げるが、

「こりゃ、俺の相棒のリブレだよ」

と、ツナがフォックスイヤーから出てきたリブレの頭を撫でる。

化け物なんて失礼だわとばかりにリブレは怒った顔。

ガムパスも、デカイ犬如きで騒いでんじゃねぇと、怒った顔で、悲鳴を上げている男を睨み、情けねぇ奴だと説教を垂れ始めた。すると、

「おい、アイツ、サソリ団のツナだ」

と、誰かが言った。皆、ざわつき、オグルも、サソリ団のツナ?と、ツナを見る。

「オヤジ、アイツ、サソリ団のツナだよ、ほら、デケェ犬と一緒にいる小童だ」

小童って年齢じゃねぇよと、

「元だ、元サソリ団。てか、知らねぇのか? 地上のニュースは、空まで届かねぇか。サソリ団は、解散したんだ」

そう言ったツナに、

「サソリ団のニュースなんざ、地上でも広まらねぇだろ」

と、誰かが言って、ツナが舌打ちするが、

「その元サソリ団のツナが、何してやがる?」

ガムパスがそう言って、皆、静まり返り、ツナを見る。

「別に。俺は、賊として生きて来たから、行く宛ねぇし、コイツ等と一緒に旅してんだけだよ。何も悪い事はしてねぇ」

「お前がフォックステイルか?」

「は? なんだよそれ? ていうか、有り得ねぇだろ、俺だって、賊だったんだ、奴の話は、サソリ団の連中から何度も聞いてたし、賊の天敵だってのも知ってる。なのに、なんで俺がフォックステイルなんだよ」

「そりゃそうだな」

と、ガムパスは、フンッと笑うと、

「いやな、サソリ団のツナって、聞いた事あるなぁと思ったら、あれか、サソリ団の最強と言われたガキだ。ガキの頃から賊として育てたら、偉い強いガキになったとか、アンタレスがほざいてたって話を聞いた事がある。お前、今も最強か? サソリ団が解散して、行く宛ねぇなら、どうだ? サードニックスに来るか?」

まさかのスカウトに、パンダが、えー!?と、驚きの声を上げた後、シカに、腹をエルボーされ、ゴフッと前のめりになる。

「無敵のサードニックスに入れるなんて、二度とないチャンスだ、どうだ?」

「やめとく」

「なに?」

「俺がサソリ団で最強って言われたのは、コイツのおかげ」

と、リブレの頭を撫で、な?と、リブレを見るツナ。リブレは、ツナの隣、大人しく座って、ツナを見る。

「コイツが、俺の言う事をよく聞くんだ。俺の言う事しか聞かないから、コイツと俺は、いいコンビでやって来た。でも、動物の寿命って、あっちゅー間だから、コイツも、もう若くない。筋肉の衰えに、今度は、俺がコイツを助ける番。だから、俺は、サードニックスに入って、アンタの為に戦うなんて、できねぇ」

アイツ、バカだなと、皆が、口々に言い出す。サードニックスより犬をとるのかとか、犬なんて捨てりゃいいのによとか、ガムパス直々のスカウトを蹴るなんて有り得ねぇとか、ツナって犬使いってだけかよとか。だが、

「黙れ!!野郎共!!」

ガムパスの怒鳴り声に、皆、静かになる。

「もういい。それで? これで終わりか?」

そう言って、オグルを見るガムパス。オグルは、アイツ賊だったのか!?と、驚きの顔をするから、その顔の様子じゃぁ、何者かも知らず、飛行機に乗せて来やがったのかと、

「他にもういねぇんだな!?」

そう訪ね、オグルは、

「い、いや、だから、体調が悪くて、後ろで寝込んでる奴が・・・・・・」

そう言うと、フォックスイヤーから、出てきた、もう1人――。

「なんかウルサイんだけど・・・・・・うわっ、なに? どうしたの? あ、サードニックス? サードニックスに着いたって事? それで、今、これ、どういう状況?」

と、サードニックスに囲まれている事に、驚くシンバ。

「ツナがね、サードニックスにならないかってスカウトされたトコ」

パンダが、そう言うから、

「えええええええ!? それで? サードニックスになるの!?」

と、シンバが、ツナを見る。すると、シカが、

「いや、ならないって。リブレが年寄りだからって」

と、言い出し、リブレは、年寄りじゃないわよ!!と、シカを睨み、シカは、ごめんと、リブレに、ウィンク。

「あぁ、そうか、サードニックスにならないんだね、良かった。ツナとリブレがいないと、大道芸、やってけないもんね」

そう言ったシンバに、そうだと、オグルが、

「コイツ等、旅の大道芸人らしい。飛行機で運んでくれって言われて・・・・・・そうか、そういう事だったか、コイツ、強い賊だったのか、謎が解けた」

と、

「いやな、オクトパスって奴、知ってるか? 俺の飛行機を爆破しようとした奴で、そしたら、コイツが、戦って、オクトバスに勝ったって言うんだよ。有り得ねぇだろ? でも、飛行機達を救ってくれたから、何も聞かず、飛行機に乗せてやろうって思ったんだが、そうだったのか、賊だった過去があるから、言いたくなかったのか?」

などと、ちょっと的外れな事を言ってくれて、大当たりとばかりに、

「あぁ、そうだ」

と、頷くツナ。別に賊だったと言っても気にしなかったというオグルに、

「それで!! これで全員か!!」

そう大声を出すガムパス。オグルは、頷き、ガムパスは、最後に出てきたシンバを見る。だが、シンバは、ガムパスの視線に、ビクビクしながら、何?他に何があったの?と、パンダとシカに聞いている。パンダが、わかんないと、首を傾げ、シカが、僕達って殺されちゃうのかな?と、言って、シンバは、えええええ・・・・・・と、ガムパスをチラッと見て、目が合うと、ヒィッと、身を小さくした。

そんなシンバに、ガムパスは、コイツも違うなと、

「フォックステイルって奴が飛行機の中にいるだろう!?」

と、叫んだ。

「フォックステイル? なにそれ?」

と、シンバ。

「フォックステイルって、もう忘れたの? この飛行機の名前だよ」

と、パンダ。

「違うよ、パンダ。この飛行機はフォックスイヤー」

と、シカ。

「いや、違うよ、お前等。フォックステイルっていうのは――・・・・・・あぁ、いいや、めんどくせぇ、お前等に説明すんの。どうせ、何聞いたってわかんねぇよ、バカばっかだから」

そう言ったツナに、バカじゃないもん!と、怒るパンダと、ちゃんと説明できない脳ミソ持ってるのは、ツナくんでしょと、シカが言い、え?それで?フォックスイヤーがどうしたの?と、1人、オロオロしているシンバ。

サードニックス目の前に、とぼけた野郎共だと、ガムパスは、

「アンバーの髪をした青い目の男だぁ! お前等同様に若造のな、クソ奇妙な格好した、クソ奇抜な動きの奇怪な奴だ! 飛行機の上にいたのが最後、いなくなっちまった!」

と、怒鳴りながら説明をする。

「いなくなった?」

と、シンバ。

「そりゃ奇怪だな、でも、確か、フォックステイルってそういう奴だって聞いたぞ? まぁ、情報源はサソリ団だからなぁ・・・・・・」

と、ツナ。

「どこへ消えたんだろう?」

と、パンダ。

「空でも飛んで行ったかな?」

と、シカ。

「人間が空を飛べる訳ねぇだろう!!!!」

イライラしながら、ガムパスがそう言うと、シカは、

「なら、この船のどこかにいるって事になる。飛行機の中には、いなかったんだから、船の中をくまなく探したらどうかな? それでもいなかった時は空を飛んだって認めるしかないかも。兎に角、賊のいざこざに巻き込まないでほしいよ。僕達は無関係でしょ? それとも天下無敵のサードニックスが、無抵抗な一般人の僕達に牙を向く? それじゃぁ、賊始めましたって看板持って歩いてる賊だね」

そう言いながら、フォックスイヤーの中に戻っていく。

「え? 賊始めましたって看板持って歩くってどういう意味?」

と、シカを追うパンダ。

「つまり、ルーキーが粋がっても、長年賊やってる相手に適わねぇから、一般人相手に喧嘩売るって話だ。そんなのはサードニックスじゃねぇな」

と、パンダに説明をしながらフォックスイヤーに乗るツナ。

「え? え? え? なに? 飛行機の中に戻っていいの? 待ってよ、ちょっと! 僕を1人にしないでくれる? 怖いから!!」

と、シンバも、急いで、フォックスイヤーに戻っていく。

そしてリブレもフォックスイヤーの中へ戻る。

オグルが、なんだかなぁと、頭を掻きながら、

「悪ぃな、アイツ等、こうなんだよ、こういう調子で、いつもわちゃわちゃしてるんだ。俺の前でもそうだ。いつもこうなのかって怒鳴ったが、わかっちゃいねぇな」

と、何故か、オグルが、申し訳無さそうに、そう言った後、

「あぁ、なんかよぅ、もう、いいや。ははは、なんかホント、やられちまった感じだな。まさにキツネに化かされたみてぇだ。悪いが、俺も、もう行くわ。飛行機の事だが、丁寧に扱ってやってくれ。それを言いたかっただけだ。ま、お前と決戦交えねぇで良かったよ。そういうとこでは、あの奇妙奇天烈で、奇抜奇怪な変な奴が現れてくれて感謝だな」

と、フォックスイヤーに向かって歩き出し、そして、振り向いて、

「いねぇと思うわ」

ガムパスにそう言った。そして、オグルは、

「本当に空飛んで行っちまった気がする」

そんな事を言い出すから、ガムパスは大笑い。するとオグルも大笑いしながら、

「結局、アイツの言う通り、笑う羽目になっちまったなぁ・・・・・・笑えよ、か」

と、フォックスイヤーに乗り込み、シンバ、ツナ、パンダ、シカを見ながら、そしてリブレがいる事も確認し、操縦席に座った。

飛行船から飛び立って行くフォックスイヤーを見ながら、

「茶番に付き合って迄、飛行船の整備に使える男を渡して、良かったんだろうな?」

そう囁くガムパス。ガムパスの背後からスッと現れ、

「多分ね」

と、ラビ。ガムパスは振り向いて、ラビを見る。

「空に浮かぶ島を探せるのは、全員揃ったアイツ等だけだと思うわ」

そのラビの背後で、瓶に入ったラブラドライトアイを持ちながら、

「とりあえず、ホンモノのコレも手に入ったしね」

と、無邪気な笑顔のバニ。いつの間にか、飛行機の中に入り、荷物を盗んでいる。

「スカイピースとラブラドライトアイ。空に浮かぶ島の鍵は揃ってる。後は、その島を探し出してくれればいいだけ。それくらいなら、アタシの為にやってくれそう」

そう言って、アイツ等はアタシの手の中で動いてるからと、笑っているラビに、

「俺はお前の手の中で動かされる気はねぇぞ」

ガムパスが、そう言うと、ラビは笑いを止めた後、また軽くフッと笑い、

「大きすぎて手の中に入らないわ」

と――。

どこにいたのか、どこからともなくトビーが現れ、

「でもフォックステイルの奴、ちょっと可哀想っす。ラビさんがカモメって奴の所まで案内した時、アイツ、何の利益もなく、ラビさんが、そうしてくれたと、本当に信じたと思うっす、まさか手の中で動かされてるなんて思ってもないと思うっす・・・・・・」

何故か、しょんぼりしながら言った。

「あら、利益はあるって言ったわ、嘘も吐いてないし、騙してもないわ。只、アタシはアタシの信用度って言ったんだけど、勘違いしたかもしれないわね」

そう言ったラビに、バニがどういう事?と首を傾げる。

「アタシは信頼度とは言ってないわ。信用度って言ったの。だから勝手に信用してくれればいいの、お互いの信頼はいらない。一方的な信用はあって損はないでしょう? 相手が損をして自分が特をする、そういうの、好きでしょ? 女って――」

と、ラビの意見に、バニは流石ラビさんと笑いながら、

「女をよく知らないアイツが悪いって事だ」

と、すると、ラビもそういう事と、バニに微笑み、

「アナタは女をよく知ってるでしょ? キャプテン・ガムパス・サードニックス」

と、怪しげな微笑を浮かべるラビ。

「フンッ、美しいモノには毒があると言うが、人間も同じだな」

と、ガムパスは呟きながら、野郎共、飯にするぞ!と、それにしてもオグルと一戦交えるとこだったと、危ねぇ危ねぇと、笑いながら、食堂室へと向かう。

皆も、最高の演技だったと、役者になれるんじゃないかと、笑いながらガムパスの後に付いて行く。そんなサードニックスの連中を見ながら、

「あのオッサン、ラビさんの事、どのくらい信用してるかな?」

と、バニが言う。ラビはクスクス笑いながら、

「信用も信頼もいらないのよ、欲しいモノだけもらえればいい」

と、バニの髪を撫でるように触りながら答えた。

そして、フォックスイヤーの中では、隠れていたカモメが、

「なんかフォックステイルって人が、この飛行機の中に隠れてろって言ったもんで」

などと言って、オグルを驚かせていた。

「ていうか、無事で良かったよ、カモメ!」

と、喜ぶシンバ。

「良かったなぁ、カモメ」

と、無表情だが、喜んでいるセリフを言うツナ。

「相手はサードニックスだから、怖くて何もできないねって言ってたんだ」

と、これ以上、下手に喋ると余計な事を言いそうだからと、後は、只、喜ぶ顔をするパンダ。

「フォックステイルって人が、攫われたカモメを助けてくれたんだね」

と、説明してるような台詞で、喜ぶシカ。全員、喜んでいる中で、

「随分と都合がいいじゃねぇか」

と、呟くのはオグル。

「お前等が、偶然、サードニックスに行った時に、フォックステイルって奴も偶然サードニックスに来て、お前等の仲間を助け出し、お前等と再会させた? そんな恩でも返すような事をしてもらっといて、お前等はフォックステイルなんて知らない? おい、お前――」

と、オグルは操縦しながら、振り向いて、シンバを見ると、

「ジャグリング、得意なのか?」

そう聞いた。え?と、固まるシンバに、

「お前等、大道芸人なんだろ? ジャグリングしてみせようかって言ったよな? そういやぁ、あのフォックステイルって奴もジャグリングしてたなぁ」

何か勘付いているかのような台詞。なんて誤魔化そうかと、シンバが思っていると、

「きゃあああああああああああああああああああああああ!!!!」

と、突然、女みたいな甲高い悲鳴を上げるシカ。ビクッとする全員。

「どうした!?」

と、ツナがシカに問うと、シカはリュックの中を開いて見せ、

「なくなってる・・・・・・」

と、そこに入っていた筈のラブラドライトアイが消えている。

何がなくなってるんだ?と、オグルが問うが、誰も答えない。

「やられた・・・・・・少しでも信じたのが間違いだった」

と、シンバ。

「またアイツ等かよ・・・・・・肉食の草食動物め・・・・・・」

と、ツナ。

「肉食の草食動物ってラビバニ? 肉食ウサギちゃん達どこにいたの? 全然気付かなかった」

と、パンダ。

「この僕とした事が・・・・・・完全ミス。迂闊過ぎた、リュック持って外に出れば良かった」

と、シカ。

「ごめん、なんかオイラのせいっぽいよね・・・・・・」

と、何故か、カモメが謝るので、ソレは違うと、皆、首を振る。

――なんか、フォックステイルが、ウサギ2匹に手古摺ってるなぁ・・・・・・。

――地の世界でも、なんだかんだウサギにやられちゃってるし・・・・・・。

――初の空の世界でフォックステイルがカッコ良く活躍劇するつもりが・・・・・・。

――気がついた時にはウサギの罠に嵌ってる。

――ボクはどこかヌケてる。

――フックスみたいになれないのかなぁ・・・・・・。

――フックスの物語を地でも空でも残したいのに・・・・・・。

大きな溜息を吐きながら、シンバは窓の外に広がる雲を見つめ、そういえば、セルト、サードニックスにいなかったなぁと思っていた――。

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