12.本当のヒーロー

荷物を背負い、朝焼けの空の下、宿の老夫婦に見送られ、出発する。

村の子供達は朝が早い。

まだ早朝の清々しい新鮮な空気の中、畑仕事やミルクの配達などの手伝いをしている。

高台にある鐘を鳴らし、朝の合図をする仕事もある。

羊の小屋掃除の仕事も早朝からやっている。

村の中央にある水源となる井戸には、水を汲みに来た子供達が一列になって、大きな桶を持って並んでいる。

「あ! 魔法使いのおいにさーん!!」

その声に、見ると、古本屋のワンコが桶を放り出して、走って来た。

「おいおい、並んでなくていいのか?」

息を切らして、飛んで来たワンコに、シンバがそう言うと、ワンコはコクンと頷き、

「また並べばいいよ。それより、また魔法見せて」

と、キラキラの瞳を見開いて、わくわくした顔をして言うので、参ったなと苦笑いすると、

「慈善事業っつーのは余裕あってこそだろ、余裕もねぇけど、やってる俺達に無駄なものはねぇんだ、魔法っつっても無料じゃねぇんだからよ、その辺、理解しろよ、リーダー」

と、ツナに釘を打たれ、

「オラ達が一生懸命働いて稼いだバイト代の殆どが菓子で消え、その菓子を子供と見ればバラまいて、それで自分だけ子供達の人気者ってズッコイよ、リーダーって!」

と、パンダに文句を言われ、

「節約は大事だよねぇ、特に意味のない魔法は無駄遣い。昨夜もどこかに行ってて、朝帰りだったみたいだけど、もしかして、また無駄な魔法使ってたりしたのかな、うちのリーダーは?」

と、シカに嫌味を言われた後、その3人は揃いも揃って、

「リーダーの自覚なし」

そう言ってくるから、シンバは、ズンッとその台詞の重みに潰れそうになる。

リブレだけは何も責めないから、シンバはリブレを抱き締め、慰めてと言うが、リブレは迷惑そう。

「おにいさん?」

リブレを抱き締めているシンバを、きょとんとした顔で覗き込んで来るワンコに、なんでもないと首を振り、

「魔法はね、1日1回しか使えないんだ、昨夜、時刻が変わって、魔法を使っちゃったから、今日はもう使えない。ごめんな」

そう言うと、えーっと不貞腐れた顔になるワンコ。すると、

「これ、やるよ」

と、横からふいに出てきたセルト。そしてセルトは昨夜、フォックステイルからもらった飴玉をワンコに差し出していて、ワンコは驚いて、差し出された飴を見ている。

セルトは、シンバをジッと見つめ、

「アンタ、昨夜、うちに来た?」

そう聞いた。

「キミんち? 知らないけど? キミ、古本屋にいた子だろ?」

と、とぼけるシンバに、セルトはジィーッとシンバを目に映すと、

「似てるけど、カラーも違うし・・・・・・オーラも違う・・・・・・人違いかな」

と、違うならいいんだと笑っているから、またまたワンコは驚いて、セルトをまじまじと見てしまう。そんなワンコの視線に、セルトはムッとして、

「なんだよ、いらねぇのかよ?」

と、差し出したままの飴を、更に差し出してみると、ワンコは慌てて受け取って、

「あ、あ、ありがとう」

と、礼を言う。するとセルトは、ドモリすぎとハッと声を上げて笑う。

すると、井戸に並んでいた子供達もざわざわと騒ぎ出し、セルトの変貌振りに驚いている。

「お前、なんかあったのか? 変わりすぎだろ?」

と、ワンコが尋ねると、セルトは髪を触りながら、

「短くなりすぎたか? 服も着替えてみた」

と、笑顔で言う。そうじゃねぇから!と、突っ込むワンコに、なんだよと、セルトは笑う。

みんなが列を乱し、セルトに近付いて来て、セルトを珍しそうに見るから、セルトは困ったように照れ笑いしながら、そして視線を集めた以上、何かしなきゃと思ったようで、昨夜フォックステイルから受け取ったカラーボールを取り出すと、ジャグリングを始める。すると子供達はワァッと嬉しそうな顔でセルトを取り囲み、もう一度やってと何度もせがみ、一瞬にして、みんなの心を掴み、人気者に――。

しかも一夜で練習したのか、かなりうまいボール裁きに、流石とシンバは思う。

――セルトはオールマイティーで、そつなく、何でもこなすタイプだな。

――笑顔を取り戻すには、もう少し時間もかかるだろう。

――なのに作り笑いにしちゃあ、ホンモノらしく自分の表情になってる。

――そして、あっという間に、大勢の心を掴んだ。

――あの子は上に立つ人間だ。その辺は・・・・・・やっぱり父の子かな。

「器用過ぎにも程があるってくらいだな。不器用なうちのリーダーより役に立ちそうだ」

と、ツナ。

「うちのリーダー解雇して、新リーダー募集でスカウトしたい」

と、パンダ。

「お菓子をバラ撒くより、ボール技を見せるなら、金銭面全くかからないからね」

と、シカ。

シンバはムッとして、リブレに目をやると、リブレまで厳しい目付き。

「なんだよ、リブレまで! 女の子なんだから、ここは優しく、弱いボクの味方してよ!」

シンバのその台詞に、冗談じゃないわとばかりにリブレはツンッとソッポを向いた。

ツナもパンダもシカも、リブレが正しいとばかりに頷く。

「なんだよ、みんなして! わかったよ、無駄魔法やめるって! あんま意地悪言うなよ! これでも結構イジケそうになる! 泣きそうだぞ、ほら、見ろ、涙出そうだ! 笑顔がチャームポイントなのに!」

と、自分の目を指差すシンバに、ツナもパンダもシカも、ドライアイじゃないかと、笑い出し、リブレも笑っているかの表情。笑うとこじゃないと、怒りながら、1人で、村を出て行くシンバ。

冗談だと、怒っているシンバを追い駆ける3人と1匹。

そんなシンバ達を、セルトは、見えなくなるまで、何気に見送っていた――。

村から、だいぶ離れた草原道で、ヒッチハイクするような車も通らない場所だから歩いて行くしかないと、地図を広げて、太陽の位置を見ながら方角を確認していると、汽笛の音。

シンバ達は小高い丘へと駆け上がり、見下ろすと、

「貨物列車だ」

と、シカ。

「地図に載ってないのは、この地図が古いからだな」

と、シンバ。

「線路は俺達が行く方向に続いている」

と、ツナ。

「乗ろうよ、オラ歩くの疲れちゃったし」

と、パンダ。

アレは私も乗れるのかしら?と言っているかのようなリブレ。

「それはいい案だな、パンダ。だが、俺やシンバ、リブレ、かろうじてシカも乗れたとしよう、お前はどうやって乗るんだ? 走ってる列車に――」

そう問うツナに、え!?と、パンダは皆を見回し、まさか飛び乗る気!?と言う顔。

「普通、列車って止まってから乗るものだよ、走ってる列車へのご乗車は危険だからおやめ下さいって言われるよ!」

パンダはそう言うが、

「そりゃそうだけど、止まらないよ、だってここから見渡す限り、続いてるのは線路だけ。ステーションらしきモノは見当たらない。乗るなら飛び乗るしかない。それに貨物列車は貨物を運ぶ為の列車で人は乗せないもんだろ、隠れて忍び乗るしかないよ、まぁ、次に来る列車が、貨物列車とは限らないけど」

と、シンバがそう言った時、

「でも向こうからやってくる列車は止まりそうだね」

と、シカ。ステーションも何もない場所で止まるなんて、そんな都合のいい話はないだろうと、見ると、数十人の人が列車を止めようと、線路に出て、列車の前で立ち塞いでいる。ツナは舌なめずりしながら、

「調度いい所にタイミング良く現れてくれた獲物だな、喰ってやろうぜ」

そう言うと、シカが、

「ツナくん、悪い顔がとても似合うねぇ。でも悪者みたいに獲物とか喰ってやるとか言わないでほしいな。僕等はそういうキャラクターじゃないでしょ?」

と、突っ込む。

「・・・・・・貨物列車を狙う賊か。人数も少ないし、何のトリックもなく勝てそうな相手だな。よし、アイツ等を倒して、列車にこっそり乗り込もう」

シンバの意見に、皆、コクンと頷き、パンダは、あの賊のお蔭で、無茶な事をさせられないで済むと、この幸運に感謝する。

賊に襲われそうな貨物列車は不運だが、ここにフォックステイルがいたのは不幸中の幸いだったかもしれない。

急ブレーキをかけ、線路に火花を飛ばしながら貨物列車は止まる。

賊達が列車を取り囲み、中から操縦士等が手を上げて出て来る。

荷物は箱に詰められた果物や酒などの食物が殆どだと、既に、列車の中に潜り込んでいるパンダからの無線情報。

シンバのイヤフォンから聴こえるパンダの声は、大いに、はしゃいでおり、食うなよと言うと、パンダのはしゃぎっぷりは止まったので、食うつもりだったのか!?と言いたくなる。

「これで全員か?」

賊の頭と思える男が、1人の操縦士に剣を向けて尋ねる。

操縦士は見回し、皆がいる事を確認すると、小さく頷いた。すると男は、

「よし、野郎共、中にあるものを降ろせ!」

と、偉そうに命令するが、

「やめといた方がいい、この列車はキツネのゴーストが憑いている」

と、列車の屋根の上から見下ろすようにして立つフォックステイルの登場に、皆、動きを止めた。キツネのゴースト!?と、操縦士も含め、皆が眉を顰める中、

「何者だ!?」

頭らしい男が怒鳴るように叫んだ。

まるで悪役がヒーロー登場に問う時のパターンと同じ台詞じゃないかと、ワクワクさせてくれるなぁと、フォックステイルは笑顔で、

「ブライト団、またの名をフォックステイル」

と、カッコ良く言ったはいいが、賊達は顔を見合わせ、なんだそりゃ!?と、首を傾げる。中には頭がおかしいんだろとばかりに、人差し指で頭を指差して、クルクル回している。

「知らないの!? フォックステイルを!?」

驚くフォックステイルに、

「知らねぇ」

と、頭らしい男が言う。この頭らしい男は、見た目、まだ若い。

只、見た目が若いだけなのか、年齢が本当に若いのか、そこまでわからないが、見ただけで言うと、まだ20代前半で、シンバ達とそう変わらないだろう。

〝出来たばっかの賊じゃねぇのか、若葉マークだろ、見た事もねぇ野郎ばっかだしな〟

イヤフォンからツナの声。

〝若そうだしね、僕も初心者だと思うよ、それに見た所、装備もいまいち〟

イヤフォンからシカの声。

〝どうでもいいけど列車には乗せないでね〟

イヤフォンからパンダの声。

フォックステイルは賊達を見下ろし、小さな溜息を吐くと、

「新米の賊かぁ・・・・・・減らないなぁ、賊」

と、ぼやくように言い、剣を抜いた。フォックステイルが剣を抜いた事で、男達もサーベルのような剣を構え出す。そして頭らしい男が、

「貴様も賊か!? フォックステイルって賊なのか? ならば仲間がいるのか?」

と、辺りを警戒し、人質とばかりに操縦士を抱き締めるようにして剣を向けたまま。

フォックステイルは列車の屋根から飛び降りた。すると賊達はフォックステイルを取り囲み、皆で剣をフォックステイルに向ける。やっちまえ!という合図で、皆、雄叫びを上げながらフォックステイルに向かって剣を振り上げるが、やれやれとばかりにフォックステイルはポケットから煙玉を取り出し、地面に投げ付けた。

モクモクと立ち昇る煙は皆の視界を奪い、煙の中に浮かぶ誰かもわからない影目掛けて、剣を振り上げようとする。が、皆の剣はフォックステイルが、とっくに剣で遠くに弾き飛ばしている為、誰も剣を持っていない。寧ろ、剣を弾き飛ばされた事など、煙騒ぎで、誰も気付いておらず、剣を持っていたのに、剣を持ってない事の不思議さに戸惑っている。

そうえいば、何か手に当たるような衝撃があったような?

そういえば、何か剣と剣が当たるような音が鳴っていたような?

そういえば、目の前を影が通り過ぎたような?

そんな風に、そういえば、そういえばと思い返しても、何度も考えても、手の平を見つめても、よくわからない。しかも煙だけでなく、なにやら不気味な音も鳴り始めているから、皆、パニックになって、騒ぎ始める。

「ど、どうなってやがる!? 何が起こってるんだ!?」

と、人質だった操縦士を離し、口に手を当て、煙に咳き込む頭らしい男に、

「フォックステイルは賊じゃない」

と、耳元で囁く。その囁きに、バッと振り返るが、煙で何も見えない。するとまた耳元で、

「そっちこそ賊なら覚えておいた方がいい、自分の天敵を」

と、囁き声が聞こえ、また振り返るが誰もいないように思え、まるでゴーストにでも出くわした気分になり、怖くなって耳を押さえる。

この列車はキツネのゴーストが憑いている――

そう言っていたなと思い出した瞬間、怖くなっていた気持ちは加速して増していく。

「フォックステイルは賊を餌にする悪いキツネだ」

もうどこから声が聴こえて来るのか、わからない。

「賊なんてやってると、奴が美味い餌のニオイに釣られてやってくる」

「足音はしない。気がつけば、全て盗まれ空っぽになっている」

「でも殺さないよ、また次に会える時、また全てを奪うから」

「罠を仕掛けてみる?」

「でもご用心。奴は狡賢いんだ。罠を罠で返される」

「ほら、気付いた時にはもう――」

今、煙の中から、ぼんやりと浮かぶ影は有り得ない程の大きなキツネ。

いや、リブレなのだが、リブレの影に、ギャーッと悲鳴を上げる頭らしい男の耳から、スッとイヤフォンを抜き取り、フォックステイルは自分の耳に入れると、

〝骨の髄まで食われてる〟

と、ツナの声。

〝狙われた賊だけが知っている、フォックステイルは賊を狙うキツネだと〟

と、シカの声。

〝でも殺さないよ、また次に会える時、また全てを奪うから〟

と、パンダの声。

〝ソレ、さっき言ったろ、パンダ〟

と、ツナ。

〝だって他に台詞思いつかなかった〟

と、パンダ。

〝まぁ、いいじゃない、充分、怖がってるみたいだし〟

と、シカ。

〝そう? 煙でよく見えないよ、でも悲鳴は聞こえたね〟

と、パンダ。

シンバは、悪戯好きなキツネ達めと、笑いながら、

「どうすんの、ボクがイヤフォン抜き取ってなかったら、その台詞も聞かれてるよ」

と、笑いながら呟く。

そして、やっと煙が消え、何とか咳き込んでいたのも治まり、賊達が目にしたものは、只の広い草原――。

操縦士もいなけりゃ、貨物列車もない。

まるでキツネに化かされたか、本当にゴーストにやられたか――。

煙で視界を奪った後、操縦士達を列車に乗せ、妙な音を鳴らし、列車の発車音を掻き消し、賊達の目の前から消えただけなのだが、賊の頭は、確かにいろんな声が聴こえたんだと、そして大きな化け狐を見たんだと、身震いする。

「宝がなくなってる!!!!」

誰かがそう叫んだ。なに!?と、皆が、叫んだ男を見ると、

「数時間前に襲った列車の荷物だった宝石類が根こそぎなくなってやがる!」

いつの間に!?と、皆、今更、辺りを見回すが、頭が、

「キツネのゴーストの仕業だ・・・・・・」

そう呟いた後、

「・・・・・・俺はもう賊をやめる」

そう言った。皆、シーンとして、頭を見る。

「フォックステイルなんて化け物に狙われちゃたまったもんじゃねぇ。ゴーストに憑き纏われて、常に耳元で妙な事を囁かれたら、気が狂う」

と、今日で賊は廃業だと、そこから逃げるように去り、皆も頭を追い駆けた。

発車した貨物列車は、何の被害もなく走り、

「なんだったんでしょうかね?」

「さぁ?」

「本当にキツネのゴースト・・・・・・だったんでしょうか?」

「ゴーストが、賊から助けてくれたって言うのか? しかもキツネ? あの青年がキツネ?」

「キツネってのは人を化かすって言うから、化かされたのかもしれないなぁ」

「賊を化かすキツネかぁ・・・・・・粋なキツネもいるもんだ」

「あぁ、ホントに。まるでヒーローだ、キツネなのに」

と、全て笑い話にしながら、しかし不可思議な出来事だったと、操縦士達は首を傾げている。

シンバも、ツナも、パンダも、シカも、勿論リブレも、うまく貨物列車に乗り込めたと、大きな箱の上に座って、くつろいでいる。

「この箱の中身は林檎だってさ、あっちはオレンジだって書いてある」

と、パンダは列車に積まれている荷物の箱を見て回り、嬉しそうに言うから、

「そろそろ昼だもんな、腹減ったんだろ? 宿の主人が弁当をくれたから、ここで食おう」

と、シンバは鞄の中から大きな木箱を出した。

「そんなの貰ってたの!? だったら早く言ってよ、リーダー!」

と、パンダは、まるでツナに従順なリブレのように、シンバの横に従順にお座り。

「あの宿屋の夫婦には随分とお世話になったね、朝食までご馳走になったのに、お弁当まで用意してくれてたなんて。それに写真までくれて――」

シカがそう言った時、シンバは頭を掻いて苦笑いしながら、

「ごめん、写真、置いて来たんだ」

なんて言うから、ツナもパンダもシカも、唖然とした顔でシンバを見る。

「昨夜、遅くに宿を出る時にね、ご主人が、独り、キッチンでお酒を飲んでたんだ。もうすっかり年老いてるから、背中も小さくて、でもきっと騎士をやってた頃は大きな背中だったんだろうなって思うと、なんか、やるせない気持ちになっちゃってさ。オグルさんは今も大きな存在で、いや、昔より今の方が、うんと偉大になって、飛行気乗りとして成功している。だからこそ、忘れられたくないプライドがあるんだと思う。ボクは、オグルさんに、ご主人の事を思い出してもらいたいし、オグルさんだからこそ、ご主人のプライドを守れると思うんだ。オグルさんと、ご主人が再会して、話す時に、あの写真は絶対に必要。オグルさんの手からじゃなく、ご主人の手から、あの写真を、出すべきだ。その時、只の通りすがりの、旅のボク等に、写真を渡したなんて、今度はオグルさんのプライドが傷つく。ご主人とオグルさんの縁が切れてしまうような事、ボクはできない。それこそボク等が恩を仇で返すようなもんだ」

シンバの話しに、ツナは、

「そうだな、写真は置いてきて正解だ」

と、頷き、シカは、

「シンバくんらしい考えで、僕もそれで良かったと思うよ」

と、笑顔で頷くが、パンダが、

「でもさぁ、そしたらカーネリアンには、どうやって行くのさ?」

と、これからどうするの? 列車に乗ってどこへ向かってるの? 行く宛のない旅をしてるの?と、1人オロオロしている。

「カーネリアンに行くには、オグルさんに直接お願いしてみればいいかと思って。写真を見せて、恩を返せなんて、ボク等が言える立場じゃない。それを言えるのは、やっぱり宿のご主人だけだろうし、オグルさん程の人なら、ボク等のお願いを聞いてくれるさ」

そう言ったが、パンダは、

「そうかなぁ? シンバ、知らないんだよ、あのオジサン、無条件で、飛行機に、誰かを乗せるような人じゃないと思うよ? オラ、小さい頃、乗せてって頼んだのに、駄目って言ったもん!!」

と、顔を顰める。するとシカが、さっきの賊達から頂いた代物を手の平に乗せ、

「何かと引き換えなら乗せてくれるんじゃない?」

と、キラキラ光る宝石をパンダに見せる。パンダは、そうかと頷いたが、シンバが、

「ラビじゃあるまいし、オグルさんが、そんな宝石を欲しがるとは思えないけど、その宝石で、オグルさんが欲しいモノは買えるかもね。飛行機のパーツも安くないだろうし? 知らないけど」

と、木箱を開けて、中のご馳走に、美味そうと声を上げた。すると、シンバに続き、パンダとリブレが、ご馳走に目を輝かせ、ツナとシカも、腹が減っては戦はできぬと、ご馳走に手を伸ばした。

食べ終わった後、皆、眠ってしまい、シンバはラビから受け取ったサードニックの情報が書かれたファイルを開いて見ていた。

ガムパス・サードニックスと書かれた一枚の指名手配所には、高額すぎる高額の賞金額が書かれている。

――サードニックスの頭、ガムパスか・・・・・・。

――見た目、シャークよりは、悪どさがないのが、逆に恐ろしいな。

ファイルに挟んである幾つモノ指名手配書の用紙をパラパラとページを捲るようにし、シンバは難しい顔をしながら、溜息を吐いて、窓から見える流れていく外の景色を目に映す。

――またボクの勝手な独断のせいで回り道をする事になるかもしれないな。

――オグルさんが飛行機に乗せてくれない場合、他の手段を考えないと・・・・・・

――サードニックスはずっと空の上にいるのだろうか?

――そんな筈はない、人間は飲み食いするし、食料の他に必要なモノもある。

――絶対に地上に降りて来てる筈だ・・・・・・

――その飛行船に、うまく潜り込めないだろうか。

――そして、カーネリアンまで飛行船を動かせないだろうか・・・・・・

「なんだったらこの際、サードニックス乗っ取ろうなんて考えてるのか?」

寝ていたツナが、寝言のように目を閉じたままで、そう言うから、

「ツナには何でもお見通しなの?」

と、シンバは外の景色からツナへと目を向けて、笑う。

「サードニックスにゃぁ手を出すな。俺のオヤジがよく言ってた」

「え?」

「世界中で最強だと恐れられているシャークには手を出そうと足掻いてた癖に、サードニックスには手を出すなと、オヤジは言ってた。あのバカなオヤジでさえ、桁違いの何かを感じる程、サードニックスはデケェって事だろうな。フォックステイルの獲物にしちゃぁ、無理があるかもしれねぇぞ。逆に餌になるのが落ちかもな」

「でも近い内、サードニックスの持っている飛行船の設計図を手に入れなきゃならないし」

「あぁ、フォックステイルは盗みが家業だ、その辺はサードニックスも納得するだろうが、只の足に使われちゃ、どんな理由があったとしても理解なんてしねぇし、相手は賊だ、筋なんて通す必要もなけりゃ、秩序もルールもない、暴れるとなったら、俺達が守ろうとするモノなんて簡単に潰す。サードニックスは正義だと思ってる奴等もいるだろうが、そんなの大きな間違いだ、奴等は恐ろしい賊なんだ、その賞金首の値段見りゃわかる。サソリ団なんて足元にも及ばない程の悪行を誇りに生きてるんだ」

「・・・・・・こっちには情報がある」

「あぁ、でもラビから受け取ったそのサードニックスの情報はガセじゃないと言う証明はあるか? 女は信じられねぇからな、特にあの女は――」

それを言われたら何も言い返せないと、シンバはファイルを如何わしそうな顔で見始める。

「それに情報は常に新しいものでなきゃ意味がない。そんな情報、既に遅いだろ」

確かにそうだけどと、シンバは怪訝な顔付きで、ファイルを睨むように見る。

「だが、サードニックスとは決着を着けなければならない。俺達は賊を餌に生きるフォックステイルだ。無敵のサードニックスに恐れて手も足も出ないキツネだと笑われたくねぇしな。サードニックスをやっちまえば、他の賊達なんざ雑魚同然で恐れる必要もなくなる。だから奴等の飛行船の設計図を、華麗に盗んでやろうぜ? 俺達フォックステイルのやり方で。サードニックスと向き合うのは、その時だ。その時までに、もっと情報を得た方がいい。今はまだ早い。ボス戦ってのはな、仲間全員で戦うんだ」

「確かに! カモメも一緒じゃなきゃ、フォックステイルじゃない」

「そういう事」

と、目を閉じて、横になったままのツナは唇だけで笑って見せた。

だからシンバも笑顔で頷く。

ファイルにある指名手配書の数だけで、かなり多く、そのどれもこれもが、恐ろしい額の賞金が懸けられており、見るからに怖い顔の連中ばかり。

当の本人であるガムパスが、一番、怖くない顔だから、気が緩みそうになるが、このガムパスと言う男が、全員を束ね、サードニックスを背負っている男なのだ。

見れば見る程、どんな男なのだろうかと、あのシャークより恐ろしいのだろうかと、だが、うまく想像はできない――。

あのどこまでも高く、どこまでも広い青い空を支配しているサードニックス。

空の王として君臨しているガムパスを、手玉にとる事など、可能なのだろうか・・・・・・。

しかしシンバは知っている。

フォックステイルに不可能などないと言う事を。

翼などなくても、フォックステイルなら空だって飛んでみせる。

「・・・・・・もし、オグルさんが飛行機に乗せてくれなかったら」

シンバが呟くように、そう言うと、目を閉じていたツナは目を開け、

「ウサギ共を罠にかけるしかねぇな。奴等を捕まえてカモメを取り戻す」

そう言った。シンバは頷き、

「残された道は、それしかないね」

と、ツナも頷き、

「スカイピースも取り戻せなきゃならねぇしな。それにカモメの事だ、今頃、ウサギ達の企みに便乗するフリをしながら、うまく化かす事を考えてるさ。俺達は離れ離れになってもフォックステイルなんだから」

そう言って、また目を閉じた。

シンバは、仲間に、いつも救われてるなぁと思う。

不安を胸に抱えていて、喉の奥につっかえて苦しくなる想いも、仲間が取り払ってくれる。

特にツナは――。

シンバの考えを一番理解しているツナ。

だからシンバが不安に思う事は直ぐにわかる。

それはツナが不安に思う事でもあるから。

だが、ツナは絶対に不安を出さない。

不安を出したら、シンバの不安を拭えないからだ。

そう、ツナはフックスと共に生きて行きたいと願い、フックスを継いだシンバと共に生きると誓い、フックスを・・・・・・シンバを守り抜いてみせると決めている。

だからこそ、サードニックスを敵に回すならば、なんとしてもシンバだけは守り抜かなければと、それには例えどんなに小さなチカラでさえ必要なんだと思っている。

カモメ抜きでは、絶対にサードニックスに会いたくない――。

シカは眠ったふりをしながら、シンバとツナの会話を聞いて、甘いなと思っている。

カモメは確かに天才的頭脳を持ち、有り得ない発明で魔法のようなモノを生み出し、フォックステイルとしても必要不可欠で、みんなと絆で結ばれているが、そんな絆より、カモメには、結ばれたい人がいるんだ。それがウサギちゃんの1人、バニだ。

「ウサギちゃんは可愛いけど、なかなか手強い、或いはサードニックスよりね」

寝言のように言うシカに、シンバはきょとんとし、ツナは何の夢みてんだと、少し苛立ち、本当に眠っているパンダは、今、呼吸が詰ったらしく、フゴッと、ブタのように鼻を鳴らした。その音で、リブレが、ムクッと起き上がって、ツナを見て、なんでもないとわかると、また寝始めた。

列車は、途中で、幾つかのステーションに停まり、荷物や燃料などを積み、再び走り出して、フォータルタウン付近まで来た。

速度的にフォータルタウンのステーションには停まりそうにないなと、考えたシンバ達は、走っている列車から飛び降りた。

草原の中、ゴロゴロ転がって、擦り傷だらけになったのはパンダだけ。

そして、フォータルタウンへ向かう途中、小さな家を見つける。

草原の中、ポツンと建つ小さくて可愛らしい家――。

何故こんな場所に家が建っているんだろうと、シンバ達は不思議に思う。

「そうだ、あの家でオラの擦り傷だらけの顔や体を、手当てしてもらおう」

と、パンダ。

「そんなの唾でも吐けとけよ、直ぐに治る」

と、ツナ。

「唾!? 嫌だ、そんな古典的な治療法で顔に傷が残ったらどうするんだ!」

と、パンダ。

「テメェはシカと違って元が良くねぇんだから、傷の1つや2つ、どうでもいいだろ」

と、ツナ。

あんな事言ってるよと、パンダはシンバを見て、ツナを指差すから、

「ツナ、ソレ言いすぎ。パンダは・・・・・・」

と、シンバはそこまで言うと言葉に詰り、少し考えてから、

「癒し顔で、愛されキャラだよ! 愛されキャラに傷はナイ!」

と、そう言い返してくれたシンバに、そういう事じゃなくてと、パンダは首を振る。

「バカヤロウ! 最近の癒しキャラはな、グロさも含まれて、愛されてんだ、傷は調度いい!」

そう言ったツナにも、だからそうじゃなくてと、パンダは首を振る。

「そうかなぁ? ボクは、締まりの無い柔らかいボヨンボヨンの顔に、傷は駄目だと思うよ?」

もうそれ悪口だからと、パンダは、シンバを見る。

「何言ってんだよ、だらしねぇブヨブヨの顔だからこそ、傷で締まるってもんだろ」

更に酷い悪口になったねと、パンダは、ツナを見る。

そんな3人を見ながら、シカはクスクス笑い、リブレがシカを見上げ、シカはそんなリブレに、おかしいねと、囁いた後、

「ねぇ、リーダー? とりあえず家をノックしてみない? 傷の手当は必要ないだろうけど、そろそろ日も完全に沈むし、できれば、休ませてもらおうよ、家の中じゃなくても、近くにテントを張ってもいいか、聞いてみなきゃ」

と、シカがそう言うので、そうだなと、シンバは頷き、パンダは、手当ては必要ない・・・・・・?と、俯いて、繰り返し、呟き続ける。

シンバが、家のドアの前でノックをしようと、手を上にあげた瞬間、勝手にドアが開いて、物凄い息遣いの物凄い形相のモンスターが出てきた。

「うわああああああああああ!!!!!」

余りの怖さに後ろに身を引いたら、シンバの後ろにいたツナ、パンダ、シカがドミノ倒しのように、後ろへ引っ繰り返り、しかも、皆、声を揃え、

「モンスターだぁ!!!!」

と、叫び、リブレも身を低め、モンスターに唸り出した。

「なんだテメェ等!? 人の家の前で何してやがる!? さてはテメェ等、オクトパスの下っ端だな!?」

そう怒鳴るモンスターをよく見ると、

「オグルさん!?」

と、シンバは、モンスターが、オグル・ラピスラズリである事に気がついた。

だが、鼻息荒く、鉄パイプを片手に持ち、鬼のような形相で立っているオグルは、最早、人には見えず、モンスターのようだ。

「なんだよ、モンスターじゃねぇじゃん、ビビっただろ。つーか、オクトパス? オクトパスっつったか?」

ツナが立ち上がり、まだドキドキしている心臓を押さえ、平常心を装いながら、そう問う。

シンバも立ち上がり、ツナを見ながら、

「オクトパスって?」

と、聞いてみる。

「オクトパスっつーのは、俺が知ってる奴だとしたら、敵となる相手を殺した後、敵の武器を手に入れ、コレクションしてるっつー・・・・・・あのオクトパスか?」

と、オグルを見る。シカもパンダも立ち上がり、ツナを見て、

「それって、賊の一味?」

と、聞いた。

「いや、奴はヒーローだ。ヒーローと言われた銃士だ。だが、今は賊みてぇなもんかな。背中に何十本もの剣を背負い、腰や胸倉には数十丁の銃を携え、それ全部が勝利した証ってな、殺した相手の武器を頂いてる奴なんだが、今は奴を崇拝する輩も増え、ぞろぞろと舎弟を引き連れて、賊みてぇになっちまった男だ、最初はヒーローとして賊相手に戦ってたんだが、今は武器を持ってりゃ誰でもいいって見境なく襲って、コレクションを増やしてるっつー話。護身用に武器を持ってたら、オクトパスに殺されたなんつー話もある」

ツナの話に、なんて酷いと、シンバは呟く。

「・・・・・・テメェ等、オクトパスの下っ端じゃねぇのか?」

オグルが、ツナの話を聞きながら、そう聞くから、

「違います!」

と、シンバ。

「どう見てそう思うんだ、オッサン」

と、ツナ。

「こんな可愛らしいのに、そんな恐ろしい奴の一味にしないでよ、しかも下っ端って!!」

と、パンダ。

「危険な男って意味で間違われても当然」

と、そう言ったシカに、話をややこしくするなと、シンバとツナとパンダが怒って突っ込むと、オチじゃないかと、笑うシカ。

「・・・・・・なんなんだ、テメェ等は」

漫才でも始めるのかと、オグルは何しにうちに来たんだと思う。しかも大きな犬を連れて。

「あ、あの、オグルさん、ボクを覚えてませんか?」

シンバがそう言うと、オグルはシンバをジィーッと見て、

「誰だ、テメェは? 俺の知り合いか? 飛行機乗りか?」

と、鉄パイプを構えたまま聞くから、とりあえず警戒心を解いてくれないかなぁと、シンバは引き攣った笑顔で、

「小さい頃、孤児だったボクに会ってるんですけど、覚えてませんか?」

そう言った後、

「覚えてる訳ないか、オグルさんはリーファスだけに夢中でしたもんね」

と、あの頃のオグルの行動を口にして、嘘じゃないアピールをしてみる。

オグルは眉間に皺を寄せ、だが、鉄パイプをゆっくりと下におろすと、

「お前、孤児だったガキか? 悪いが覚えちゃいねぇ。でも、俺に何か用か? 聞いてやらねぇ事もねぇが、只、今は他人に世話を焼いてる余裕はねぇんだ、悪いな」

と、迫力のある顔が、どこか思い悩むような落ち込んだ表情になり、俯く。

シンバは、そんなオグルに、

「オクトパスって奴と何かあったんですか?」

自分達をオクトパスの下っ端と間違えるくらいだ、何かあるのだろうと、聞いた。

「あぁ、まぁな、テメェ等にゃぁ関係ねぇ。悪いが帰ってくれ。俺も出かけるんでな」

「そんな怖ぇ顔で鉄パイプ持って出かける? 喧嘩でもしに行くみてぇじゃねぇか」

ツナがそう言うと、

「オッサン、それじゃぁオクトパスに勝ち目はねぇぞ、銃か剣くらい用意しろよ」

と、喧嘩の相手はオクトパスなんだろと、言う。そして、

「奴は、喧嘩なんて買わねぇぞ? 奴は賊と同じ、殺すか、殺されるかのバトルしかしねぇ。それに、そんなパイプじゃぁ、オクトパスは相手にもしてくれねぇ。オッサン1人殺して、パイプなんてコレクションしねぇだろ、喜んで殺されに行くなら、止めやしねぇが、殺されたくねぇなら、俺達に話してみな?」

と、そう言ったツナの腰に携えている剣を見て、オグルは、

「テメェ等、どこぞの騎士か? オクトパスの話を聞いて駆け付けたのか?」

そう聞いた。まぁ、そういう事にしてもいいと、ツナは頷く。

また嘘の話が始まったと、話を合わすのは無理だと、パンダは自分の口をチャック。

オグルはクルリと背を向けると、家の中に入って行くから、シンバ達も、オグルに続いて、家の中へ入って行くと、オグルは背を向けたまま、話し出した。

「最近、フォータルタウンにオクトパスが現れた。フォータルタウンは治安も悪くない。だから奴は立ち寄っただけで、何の騒ぎも起こさず、消えてくれると思っていたが、奴の狙いは俺だったらしい・・・・・・俺の武器が目当てだったんだ・・・・・・」

「オッサン、伝説とか言われてるが、只の飛行気乗りに変わりねぇだろ? 護身用の銃くらいしか持たない身で、何の武器を狙われたんだ?」

ツナの質問に、シンバは、もう少し言い方や喋り口調ってものがあるだろと、オグルが怒るのではと、ハラハラする。

「俺の武器は銃じゃねぇ・・・・・・飛行機だ・・・・・・」

「わかんねぇな、飛行機は乗り物だろ」

確かにツナの言う通りだが、パンダにはわかったようで、

「武器は人に寄って様々だよ、オラは戦いをしないで済むような役割だけどさ、万が一って事で、いざって時は大きなハンマーを持つ。作るのも得意だけど壊すのも得意なオラだけの武器。カモメはスパナを持つ。カモメも作るけど解体するのも得意。剣や銃ばかりが武器じゃない。リブレだって牙や爪が武器だ。だから自分の手に馴染むもので、自分を守るものが武器になって防具になるんだ。だったら飛行気乗りのオグルさんは飛行機が武器であり、防具であるって事なんじゃないかな。それにツナは、剣は相棒だって、よく言ってるよね? だったら、オグルさんにとって、相棒の飛行機は、オグルさんの最高の武器でもある。でしょ?」

そう言った。パンダにしては上出来な回答で、ツナは直ぐに成る程と頷き、そういう事か?と、オグルに聞くと、オグルはコクンと頷いた。

「つまりオグルさんの飛行機をオクトパスが奪ったって事?」

シンバがそう聞くと、オグルはまたコクンと頷く。

オグルが、飛んでくれる飛んでくれないの前に、飛行機がなければ、カーネリアンに行けない。

なんでこう話がスムーズに進まないんだと、いちいち壁が立ち塞がって来る事に苛立ちながら、シンバは少し考えて、ツナ、パンダ、シカと目で会話すると、オグルを見て、

「もし、オクトパスから、飛行機を取り戻せたら、ボク等をある場所まで乗せてってもらえますか?」

と、スムーズにいかないのであれば、スムーズにいけるように道をつくればいいと、提案。

只で、飛行機に乗せてくれそうもないと思っていたが、これは逆にチャンスだ。

オクトパスから飛行機を奪い返せれば、飛行機に乗せてもらえる。

「テメェ等が奴を倒すってのか? テメェ等がどこの国の騎士か知らんが、見た感じ、鎧も着てねぇし、たった4人で来て、しかも孤児だったとか言うし、どうせ小せぇ国の者なんだろ? いや、本当にどこぞの国の騎士かってのも怪しいもんだ、賊みてぇな汚い格好しやがって。そんな信用のない奴等に、俺の飛行機を任せられる訳ねぇだろ」

「オッサンよぅ、そこまで言うなら、信用のねぇ奴が、死のうが生きようが、関係ねぇだろ? とりあえず飛行機が戻れば文句ねぇって事だ。だろ? だったら、とりあえず、お手並み拝見って、大人しくしてろよ、そんでもって、飛行機が無事戻ったら、何にも聞かず、俺等を、指定した場所まで運んでくれりゃぁいい。それだけだ。アンタは、大人しく、黙って、座って、待ってりゃいいんだ、そしたら、全て解決だ」

だからツナ、もっと言い方があるだろと、シンバはヒヤヒヤ。そもそも、オッサン呼びをやめろと、ツナを見るが、ツナは、シンバの視線を無視。

「・・・・・・テメェ等若造に何ができる」

「相棒の武器を奪われたオッサンに何ができんだ? 精々、鉄パイプ振り回して終わりだろ。でも俺はまだ相棒の武器も奪われちゃいねぇ」

「・・・・・・そんなに腕に自信があるのか、お前?」

「あるねぇ」

言い切るツナ。

「自信があるっつったってな、テメェ等たったの4人じゃねぇか。オクトパスの舎弟が何人いるのか知ってるのか?」

「何か勘違いしてるようだな、オッサン」

「あぁ!?」

「さっきから4人4人ってよ」

と、ツナが、そう言って、

「誰が4人でオクトパスに挑むっつった?」

ツナのその台詞には、オグルだけでなく、シンバもパンダもシカも眉を顰めたが、リブレが抜けてるからかと、思ったのも束の間、

「俺とそこにいる一匹でやる」

ツナはリブレを見て、そう言うと、オグルを見て、

「舎弟? そんな雑魚何人いようと俺の敵じゃない」

と、強気な発言。

「ちょ、ちょっと待って、ツナ、どういう事!? ツナとリブレだけで、オクトパスに挑むって事!? それってボク等は何すればいい訳!?」

シンバが驚いて、オグルを押し退けて、ツナの目の前に出て来て言う。

パンダもシカも、驚いて、ツナを見ている。

ツナは背を向けると、黙って、家を出て行くから、シンバが追いかけて、一緒に外に出た。

「ツナ!?」

「シンバ、悪いな、俺はフォックステイルを抜ける」

「は!?」

驚きを通り越すシンバ。すると、ツナは、振り向いて、

「悪い、そうじゃない、なんか、言い方が違うかも」

と、笑いながら、

「今だけ抜けるって意味。直ぐにまたフォックステイルに戻って来る」

なんて言うから、シンバは訳がわからなくて、

「ちゃんと理由を話してよ」

そう言った。勿論と、ツナは頷き、腕に巻いてある青いバンダナを解いた。

そこに刻まれたサソリのタトゥー。ツナはバンダナを額に巻くと、いつもそのバンダナで隠している腕のサソリのタトゥーを、露わにしたまま話し出した。

「前に、サソリ団で使っている毒を作っている男がアレキサンドライトに捕まり、殺されて、残った毒もサソリ団を狙った奴に奪われたって話した事があったろ? その毒を奪った奴ってのがオクトパスだ」

「・・・・・・そうなんだ、でもだからって、どうしてツナ1人で――」

「1人じゃない、リブレも一緒だ」

「だけど!」

「俺はサソリ団として奴を倒したい。リブレもサソリ団の一員として戦うんだ。奴に教えてやりてぇんだよ、毒が武器だったなんて、そんなのは俺がいないサソリ団の時の話だってな。俺がサソリ団に入ってからは、この俺がサソリ団の戦闘力だったんだ、俺を倒さずに、サソリ団から最強の武器を奪ったなんて思われちゃ、たまったもんじゃねぇ。別にサソリ団に戻りたい訳じゃねぇが、サソリ団は、最強の武器となる毒を失ったから、終わったんじゃねぇ。俺が解散させたんだ。アレキサンドライトにサソリ団の武器ともなる毒をつくる奴を殺されたからじゃねぇし、オクトパスに奪われたからでもねぇ。この俺が解散させ、終わらせたんだ。そこんとこ、きっちり教えてやりてぇ」

「・・・・・・そっか、だったらボクにも何か手伝わせてほしい」

「冗談だろ、お前もパンダもシカも、俺の大好きなフォックステイルなんだ。一時でも、サソリ団になんて、嘘でも入れさせねぇぞ。お前等は、何があっても絶対に、賊になんかにさせねぇ、フォックステイルは賊の天敵なんだからな」

完全にサソリ団に戻る気なんだと、

「・・・・・・ツナは真面目だなぁ」

と、少し笑ってみせるシンバに、ツナは、俺が真面目!?と、眉間に皺を寄せる。

「ツナはやっぱりと言うか、当然と言うか、賊なんかじゃないって思わされる。真面目で一直線で、敵に対しても礼儀があって、正々堂々としてて、それでいて絶対の自信を持ってる。まるで高貴な騎士。父が、ツナみたいな騎士だったら、ボクは今頃きっと騎士になってたよ。だってツナ、めちゃくちゃカッコイイもん。フックス並みにカッコイイ。子供だったら、ツナに憧れて、ツナを目指してた、絶対に!」

本当にカッコイイと思っているのだろう、シンバはキラキラした目でツナを見て、そんな事を言うから、ツナは、俺がそんなカッコイイ訳ねぇだろと言おうとしたが、

「でもさ、真面目もいいけど、忘れないで? ツナはフォックステイルで、フォックステイルの仲間がいるって事。僕等がいるって事! 確かに、サソリ団の手伝いはしたくないけど、ツナの手伝いは、ボク達、喜んでするから。だから、1人で、無茶をして、フックスみたいに、ボクを置いて、会えなくなるくらい、遠くに行っちゃわないでよ? みんな、ツナが大好きだから、後追いしちゃうよ?」

冗談を言う口調で、そう言われ、

「お前、俺の強さ、わかってねぇな? やられると思ってんのか? 俺に賭けとけよ、元から勝率高ぇから儲けはねぇけどな、穴馬狙いならリブレで決まりだ、予想外にも俺より活躍しそうだろ? 実際、実力は未知の有力者だからな、リブレは」

と、笑いながら冗談口調で言い返し、シンバが笑った所で、家の中から、パンダが出て来て、

「オグルさんに話を聞いてたんだけど、オクトパスって奴、オグルさんの駐機場を爆破して、飛行機を全部壊しちゃうみたい。懐に入れられない武器は、壊してしまえってね。その破片でも戦利品にするかって笑ってたってさ。今夜中に爆薬を手に入れるって言ってたんだって。そんな事になったら飛行機の燃料が更に爆発を起こして、フォータルタウンが火の海になるって。だからオグルさんは、駐機場にいるだろうオクトパスを倒しに行く為に、鉄パイプ持ってたんだって。鉄パイプだけじゃなく、懐には、銃も持ってたみたい。それはシカが回収したけど――」

そう言って、どうするの?と、シンバとツナを見る。ツナは空を見上げ、

「今夜中か。間に合わせる、問題ない」

と、リブレを呼び、

「オッサンを大人しく待たせとけよ、俺が帰って来るまで」

と、笑顔で、シンバにグッと握った拳を突き出した。シンバは自分の拳を、そのツナの拳にゴツンと当てると、ツナは、フォータルタウンへ向けて走り出す。

シンバはツナが見えなくなるまで見送ると、横に立つパンダに、

「サソリのタトゥーのペイントってボクの腕にできる? できれば数分で」

と、聞いてみる。

「サソリのタトゥーって・・・・・・サソリ団の・・・・・・?」

「うん、でも心配しないで。サソリ団には入団しないから」

「そりゃぁ、そうでしょ、サソリ団はもう解散したんだから入団はできないよ」

シンバとツナの会話を知らないパンダは、シンバの発言の意味がわからなくて、首を傾げて、そう言う。

「でも入団しないけど、成り切りはボクの十八番だから」

そりゃそうだけどと、パンダは、だからなに?と、さっきから意味がわからない事を言うシンバを見ている。シンバは悪戯っぽい顔で笑いながら、

「で、タトゥー、数分でペイントできる?」

と、またパンダに同じ問いをして、オグルの家の中に入った途端、驚いて、

「なにやってんの!?」

と、大声を上げる。

「だって、こうでもしなきゃ、オグルさん、大暴れするから」

シカは、椅子に、オグルを、ロープでグルグルに縛り付けている。

「テメェ等!! 俺にこんな事して只で済むと思ってんのか!!?」

そりゃ、そう叫びたくもなるよねぇと、シンバは苦笑いしながら、

「ツナがリブレと一緒にフォータルタウンへ向かったんだ、ボクも様子だけ見てこようと思う。いざとなったら一緒に戦って来るけど、出番ないとは思う、でも念の為」

と、パンダにペイントしてと腕を見せ、怒鳴り散らし、叫びまくっているオグルの事は完全無視だ。シカはフーンと頷きながら、

「念の為なんて暢気だなぁ、伝説の飛行機乗りを縛り上げちゃった以上は、結果次第だからね。過程はこうなっているんだから、もう取り返しつかないよ、飛行機達は、無傷で助けなきゃ」

と、相変わらずの微笑を浮かべた顔で、プレッシャーになるような事を言う。

だが、飛行機を取り戻すだの、奪い返すだのではなく、助けると言った台詞に、オグルは、喉が張り裂けんばかりの勢いで怒鳴っていた声を、ピタリと止め、

「・・・・・・テメェ等、悪い奴じゃねぇみてぇだな。だが、バカだな」

そう言った。そして、シンバ、パンダ、シカを見ると、

「お前等はオクトパスを知らな過ぎる。いいか、よく聞け。そして、1人で行っちまったクソ生意気な若造を直ぐに追い駆けて止めろ。奴がお前等の大事な友なら絶対に止めるんだ。いいか、無知なお前等でさえ、あのサードニックスやアレキサンドライトを知ってるだろう? この世で無敵、最強、そう呼ばれる賊だ。サードニックスに至っては空に浮かぶ一機の船として、ここ数年、ヒーローだ。だからサードニックスの恐ろしさなど、わかり難いかもしれんがな、そのサードニックスを倒すとしたら、あの凶悪で最強のシャークしかいないと言われている。そしてシャークは、地上で今、最強の極悪非道と呼ばれる男。それなら地上にいるお前等でもわかるだろう、そして知ってるだろう?」

勿論、わかるし、知っているとシンバもパンダもシカも頷く。

「その恐ろしい男と対等、いや、それ以上と言われる男は、サードニックスを背負い、空で地上を見下ろしている。その男こそ、ガムパス・サードニックス。オクトパスは、そのガムパスから武器を奪った男なんだ。小さなナイフ一本と言われているが、サードニックスの紋章が入った、本物のサードニックスの武器だ。わかるか? あのシャークにしか、対等に肩を並べられないと言われるガムパスの武器を、小さなナイフとは言え、ガムパスの武器をだ!! オクトパスは奪ったんだ!!」

フーンと頷くシンバとパンダとシカに、フーンじゃねぇ!!と、また怒鳴り出す。

「つい最近の事だから、余り知られちゃいねぇが、ガムパスの!! あのガムパスのナイフなんだぞ!!!!」

「余り知られてない事を、オグルさんは、なんで知ってるの? 飛行機乗りだから、空の世界で活躍してるサードニックスについて詳しいって事?」

シンバがそう聞くと、パンダがニヤニヤしながら、

「わかったぁ、怖いんだ、オグルさん。怖いんでしょ、だからサードニックスに敏感になっちゃってんだぁ、常に詳しく知っとかないと、怖いもんねぇ」

と、バカにしたように言い、シカが、

「ていうか、僕達はシャークの片腕をとった男を知ってるからね、そのシャークと肩を並べる男の武器を奪ったんだと言われても、今更、フーンとしか頷けない」

と、怒鳴るオグルの声で掻き消されるくらい小さな声で呟き、シンバを見る。

「俺はなぁ!! 空の世界にいるから、サードニックスに詳しい訳でも、怖い訳でもねぇ!! ガムパスは俺の親友だからだ!!」

えぇ!?と、その台詞が一番驚いたシンバとパンダとシカ。

「だから俺はガムパスの強さも恐ろしさも何もかも知ってるんだ!! 奴の事はガキの頃からよぉく知ってる!! 奴が武器を奪われるなんて、よっぽどだ!!」

「よっぽど・・・・・・?」

と、シンバは、腕を組んで、うーんと考え出し、オグルは、

「バカヤロウ! 考える迄もねぇだろう!! テメェは頭が足りなさ過ぎるのか!!」

と、怒鳴り散らし続ける。

シンバは考えながら、シカに近寄り、するとパンダも、ナニナニ?と、シカに近寄り、3人で集まってヒソヒソと話し出すから、無駄に相談してる場合か!!と、オグルは更に怒鳴る。

「よっぽどって? 例えば?」

と、シンバ。

「女絡み?」

と、シカ。

「女か・・・・・・大物相手に危険承知で絡む女は、ラビバニしかいない気がする。それにラビが、サードニックスの情報と言って、ボクに渡したファイルの中に飛行船の見取り図があった、そのコピーくらい幾らでも持ってる筈。つまり飛行船の場所さえわかれば、後は飛行機で近づければ、船内に忍び込んで、コッソリ武器を奪う事は可能だと思う。もしくは、地上に降りてきたサードニックスの飛行船に潜り込んで、ナイフくらい、持ち去れるだろうと思うんだけど?」

と、シンバ。

「僕もそう思う。あのサードニックス相手に、武器を、真っ向勝負で手に入れたとしたら、その話はもっと広まって、フォックステイルの僕達の耳にも入ってる筈だしね。きっと、コソコソと、どこかのキツネの如く、サードニックスからナイフを盗んだに違いない」

と、シカ。

「そうなの? それって、ラビとバニは、サードニックスに絡んでるの? オクトパスに絡んでるの? どっち?」

と、パンダ。

「どっちもかな、でもどっちに背を向けてるのかな? ウサギちゃん達は――」

と、シカ。

「当然オクトパスだろ」

と、シンバ。

「オクトパスを裏切るって事? そりゃサードニックスに背を向ける事はないと思うよ、負ける方に誰も付きたくない。でもさ、オクトパスに絡んで行く理由は? オクトパスなんて陥れても、ラビやバニが欲しそうなモノを持ってそうにないよ? だって、武器のコレクションなんて、ラビもバニも興味なさそう。それか、ラビとバニも、ツナみたく、個人的な理由でもオクトパスにあるとか? まさか昔の恋人とか!?」

と、パンダ。

シンバはピンッと来たようで、

「バニだ。バニは元サソリ団。ツナと同じ考えで、オクトパスを潰す気なんだ」

そう言ったが、

「んー、どうかなぁ、だとしても、その為に、サードニックスの情報を、態々オクトパスに渡して、武器を盗ませる理由は?」

と、シカ。

「そう! それだよ、それ! それって、あのラビに何の利益があるの? バニだけの、サソリ団だった頃の感情に、あのラビが頷くかなぁ? ラビなら、バニに、そんなの放っておけって言いそう。幾らバニを可愛がってても、自分に利益にならない面倒を背負い込むタイプじゃないよ?」

と、パンダ。そう言われたら、そうだなぁと、シンバは、また考える。

「まぁ、確かに。それに、サードニックスからナイフを盗んだとして、サードニックスが、オクトパスを放っておいている理由もわからないな。ナイフ1本くらい、どうでもいいのか? それとも、ボク達が知らないだけで、サードニックスはオクトパスを探してる? いや、でも、もし、サードニックスから逃げてるとしたら、フォータルタウンという大きな町で、しかも、伝説の飛行機乗りの飛行機を爆破しようとしてるなんて、そんな大胆な行動がとれる訳ない」

シンバの意見に、うんうんと、頷きながら、

「つまり、ラビとバニは、絡んでないの?」

と、パンダが問うから、それは、絡んでるだろ?と、シンバは、シカを見る。

「そうだね、絡んでると思うけど、どういう風に絡んでるかは、謎かな。でも、ウサギちゃん達の考えなんて、僕達にわかる筈もない」

と、シカの意見に、シンバは、頷きながら、

「その通り。バニなんて、あのバカさ加減は計り知れなくて、斜め上どころの話しじゃない、全く想像の範囲を超えて、理解不能なんだから、あの2人の思考なんて誰も読めない」

と、

「あの2人が何を考えてるのかは謎だけど、サードニックスとオクトパスを利用してる可能性は高い。だってオクトパスがサードニックスから武器を奪えるなんて、よっぽどで、よっぽどって言ったら、女絡みで、危険承知で絡む女は、あの2人しかいないんだから」

そう言ったシンバに、

「そうだね、オクトパスは兎も角、無敵のサードニックスを利用するとは、恐るべしウサギちゃん」

と、シカ。

「で、どうする?」

と、パンダ。

「ラビバニはオクトパスの様子をどこかで見てるかもしれない。ラビもバニも、フォータルタウンにいるかもしれない!」

と、シンバ。

だったら急げと、シカは麻酔銃に麻酔弾を詰め始め、パンダはシンバの腕にサソリのタトゥーを描き始め、シンバはフォックステイルとして出向いた方がいいかなと、3人、急に慌て出す。

急にアタフタするシンバ達に、

「ようやく事の重大さがわかったか、アホウ共」

と、相談しなきゃわからんのかと、オグルは、

「わかったらサッサと俺の縄を解いて、とっととテメェ等の仲間を追いかけて止めろ」

そう言った。それは止めないよと、

「ちょっと違う件で、ボク等は行って来るけど、大人しく留守番してて?」

なんて言い出すシンバに、顎が外れる程、口を大きく開けて驚くオグル。

「ち、違う件だと!? テメェ等、友達を見殺しにするのか!?」

「ツナは大丈夫だよ」

「何の根拠があるんだ、それは!?」

「ツナはボクの親友だ、子供の頃からの親友。ツナの事はボクがよぉく知ってる。ツナが負けるなんて、よっぽども何もない。ツナに負けはない。アレキサンドライトだろうが、サードニックスだろうが、ツナが勝つ。オクトパスなんてツナの敵でもない」

言い切るシンバに、オグルは黙り込んだ。なんせシンバの表情が余りにいい笑顔で、余裕のある顔付きで、ツナの、親友の強さを疑う事もない真っ直ぐな目で、オグルを見ているからだ。ツナを信じているシンバに対し、シンバが言うならそうなんだと信じているパンダとシカも、何の恐れもない、寧ろ、勝ちを確信した、誇る表情。

「問題はオクトパスじゃないんだな」

と、パンダ。

「何より手強いウサギちゃんの登場かもしれないからね」

と、シカ。

ウサギ!?と、オグルは眉を顰める。

「ボク等の仲間はもう1人いてね、大事なメンバーを奪い去ったウサギを捕まえて、お仕置きしないと。じゃ、オグルさん、また戻って来るから、それまで大人しくしててね」

と、気がつけば、シンバもパンダもシカも準備が整って、家を出て行くから、

「バカヤローッ!! しょんべん行きてぇのにどぉすんだ、コノヤロウ!!!!」

と、椅子に縛り付けられたまま、オグルは叫んだ後、誰もいなくなった部屋で、

「・・・・・・なんなんだ、アイツ等?」

と、疑問を呟く。そりゃそうだ、いきなり来て、この仕打ち・・・・・・。


その頃には、ツナとリブレはフォータルタウンへ着いていた。

リブレは人に気付かれないよう、建物の影に隠れて移動し、ツナは駐機場の場所を、誰かに聞かなければと、キョロキョロ。

フォータルタウンは広い。いつも夜更けまで賑やかだ。だが、今日は人影少なく、今、外灯が点き始めると、ツナは時間がないと焦り出す。

大きな荷物を持った男性が走って来るのを、ムリヤリに引き止めて駐機場の場所を尋ねようとしたら、

「離してくれ、アンタもサッサと避難所へ向かった方がいいぞ! リーファスの奴、間に合わないかもしれないからな!」

そう言いだした。リーファス?と、ツナが聞き返すと、

「アンタ、リーファス知らないのか? リーファス・サファイア。伝説の飛行機乗りオグル・ラピスラズリの愛弟子で片腕だ」

そう言われ、そういえばと、子供の頃を思い出し、

「なんだ、ソイツ、サードニックスの賊になったんじゃねぇのか?」

サードニックス、サードニックスと、騒いでたガキだったと、そう聞いた。

「サードニックス? リーファスは飛行気乗りだ。まだ飛行気乗りとして駆け出しだから、それだけで食って行けないからと、賞金稼ぎも始めた男で、銃の腕前はかなりのもの。身のこなしも、なかなかで、あちこちの国から我が騎士にとまで言われてるのを蹴って、飛行気乗りになったんだ。結構この辺じゃ有名だ、元々、ここの孤児院にいた子供だしな」

「へぇ。賞金稼ぎって事は、賊狩りか、あのガキがねぇ。サードニックスを敵に回す側になったか、何の心境があったか知らねぇが、真っ当に生きてんじゃねぇか」

と、少し笑って、そう呟くと、

「リーファスは、オクトパスの舎弟等が爆薬を買いに出て行ったのを追いかけて行った。オグルさんはオクトパスをやるって、準備して来るって家に帰ったきりだ。リーファスも間に合わず、爆薬は駐機場に設置されるかもしれない。だからアンタも早いトコ避難した方がいい」

そう言われ、あぁそうなんだと、ツナは頷き、それで駐機場ってのはどこだ?と、聞こうとしたら、突然、美女が現れ、

「避難なんてする必要ないわ、リーフは必ず奴等を倒して戻って来るし、残りの連中も倒してくれる筈よ。オグルさんも直ぐに来るわ」

そう言うから、リーフってのはリーファスか?と、

「リーファスは兎も角、オグルっつーオッサンは直ぐに来れるかどうか・・・・・・」

と、ツナが言った時、美女が、

「アナタ、見かけない顔だけど、まさかオクトパスの仲間じゃないでしょうね!?」

と、ツナを睨む。すると、男性も、そうなのか!?と、ツナの手を振り解いて、ツナが否定する前に、慌てて逃げ出してしまった。

「おい、誤解されちまっただろ!」

と、美女に言うと、

「私のせいなの? アナタの見た目のせいじゃなくて? それに誤解なの?」

と、ツンケンした言い方で、ツナを睨んだまま。

「なんで女っつーのは、どいつもコイツも上から目線で偉そうなんだ」

と、苛立つツナに、美女は、

「アナタはどうして避難しないの? オクトパスの仲間だから? そうなんでしょ?」

と、まだ疑っている。

「そんな事より駐機場っつーのはどこだ?」

「・・・・・・駐機場の場所を知らないの? オクトパスの仲間なのに?」

「ハッ! 笑わせやがる、俺がオクトパスの仲間だったら、オクトパスは俺のパシリだ」

そう言ったツナに、美女はフッと笑みを溢し、

「面白い事言うじゃない? 私、これから駐機場に行く所よ」

さっきまでとは違う、好感のある笑顔で、そう言った。

「・・・・・・何しに?」

「アナタは?」

「俺の質問が先だ」

「オクトパスに呼び出されたのよ。暇潰しに私の歌を聴きたいんですって。まぁ、リーフが到着する迄の時間稼ぎには調度いいわ」

「・・・・・・歌?」

「これでも私はここら辺じゃぁ有名な歌姫よ、リンシー・ラチェットって言うの」

「・・・・・・あぁ、アンタか、思い出した」

と、子供の頃の事を思い出し、そう口の中で呟くと、クッと笑みを溢し、

「なんだ、アンタ、さっきからリーファスって奴の事を随分と信用してるみてぇだが、アイツの女か? それか一方的に惚れてんのか? じゃなきゃ、幾ら呼び出されたからと言って、女1人でオクトパスの所へ行こうなんて思わねぇだろ」

そう言うと、リンシーは、今度は好感のない目付きで、キッとツナを睨み、

「やめてよ、まるで私がリーフを好きみたい、逆よ、リーフが私に惚れてるの。信用してるのは子供の頃から知ってるからよ」

と、キツい口調で言い放つ。へいへいと、そうしとくよと、言いながら、ツナは、なんで女ってのはこうなのかねと、面倒そうな顔になる。

「で、アナタは何故オクトパスの所へ?」

「あぁ・・・・・・俺は、そうだな、オグルっつーオッサンに頼まれたんだよ」

シンバじゃないが、うまい嘘を思いついたぞと、

「オッサンに雇われたってトコかな、オクトパスをやってくれってさ」

そう言った。だが、リンシーは疑わしい顔で、

「オグルさんが? アナタを雇った? 信じられないわ、あのオグルさんが誰かを雇うなんて有り得ない。だってオグルさんの命とも言われる飛行機を助け出すのに、自分が動かないで誰かを雇う? それにオグルさんはそんな男じゃないわ、オクトパスに適わないなら、飛行機と共に爆発する方を選びそうよ」

そう言われ、シンバとシカみたいには、うまく舌がまわらないなと、ツナは頭を掻く。

「なぁ、そんな事どうでもいいだろ、お前は歌をうたいに行く、俺はオクトパスを倒しに行く。お互い行く場所は同じ、案内してくれりゃいい、いや、後を付いて行くから、アンタは黙って駐機場に行きゃぁいい。俺が何者だろうが、アンタにゃぁ関係ねぇ話だ」

「男って、どうしてそうなのかしら」

ちゃんと説明もしないツナに呆れて、そう言うと、背を向けて歩いて行くリンシーに、ツナも、女ってのはどうしてそうなんだと思っている。

――いちいち面倒な事に関わって、厄介事を持ってきたり、余計大事にしてみたり。

――平気で人を騙して、サッサとトンズラ。

――その後は何事もなかったかのように、笑いかけて来る。

――当然、許されてると、思ってやがるんだろう。

――自己中な癖に他力本願。

――傲慢な癖に弱者を装う。

――足手纏いになる癖に、気だけは強い。

リンシーの後姿を見ながら、ブツブツと心の中で、女ってのはと、文句を言い続けていると、

「ここよ」

と、着いた場所は、広く長い道の滑走路。そして駐機場とは思えない大きな建物。

「あの建物の大きなシャッターが開いて、飛行機が出て来て、この滑走路を走って、飛んで行くの。中は、広くて、地下もあるわ、地下からも、あのシャッターへ続いてる道があるのよ。ここは飛行機が着陸する場所でもあるから、幅も広くて、そして長い道になってるの」

「へぇ、離着陸する道って事か? 個人のエアポートって事だな」

ここなら思いっきり暴れられるなと、ニヤリとするツナの背後に、リブレが現れ、リンシーは大きな真っ白いリブレに、

「何、その大きな犬!? アナタの犬? 今迄どこにいたの? そんな大きな犬」

と、驚いている。そして、貸し倉庫の扉から、オクトパスの舎弟の1人が出てきた。

「おい、お前等、ここで何してやがる!?」

男がそう言って、近付いて来る。

「私はリンシーよ、リンシー・ラチェット。オクトパスに呼ばれて来たの」

と、リンシーはそう言って、ツナをチラッと見る。男もツナを見て、

「で、そっちの男は?」

と、ツナを睨む。ツナは、自分の口下手を理解し、嘘を吐いても、その後うまく回避できそうにないなと、余計にややこしくなって、面倒になるならば、コイツを今ここで倒してしまうかと、そう思った時、

「彼は私のマネージャーよ」

と、リンシーが言い出し、なんだそりゃ!?と、ツナはリンシーを見る。

「マネージャー!?」

「えぇ、そう、マネージャー。オクトパスは、私1人で来いとは言わなかったわ、だからマネージャーと一緒に来たのよ」

「腰に剣を携えてか? 背中にも剣があるなぁ?」

「あら、オクトパスって男は武器を持ってる人を好むんじゃなくて?」

「・・・・・・そのデケェ犬はなんだ?」

「私の愛犬よ、愛犬が傍にいなきゃ歌えないの、こう見えてイロイロと繊細だから」

「・・・・・・まぁいい。オクトパスさんがお待ちかねだ、来い」

と、男はニヤニヤと、いやらしい笑みを浮かべ、リンシーをジロジロと見ながら、こっちだと、建物の中へ入っていく。

男の後を追い、中へ入って行くが、納得がいかないツナは、

「おい、どういうつもりだ?」

と、小声で、リンシーに問う。

「アナタ、オクトパスを倒すんでしょ? 協力してあげてるのよ、感謝して」

「協力!? 感謝しろ!? よく言うぜ、俺の事なんか信用してねぇ癖に」

「えぇ、信用してないわ、でもこの男より信用できると思っただけよ」

女ってのはコロコロと気が変わるのが早ぇなと、ツナは呆れる。

駐機場の中、あちこちに男達がたむろしている。

全員、オクトパスの舎弟だろう。

配置されていると言うよりは、好き勝手な場所で好きな事をしている様子。

食ったもの、飲んだものを、その場で捨てるから、あちこちにゴミが溜まっている。

舎弟とは言え、皆、剣だの、銃だの、武器を手にしていて、いっちょまえに、扱えもしないだろうモノを持って、宝の持ち腐れだなと、見た目だけでも様にならない連中だと、ツナは、鼻で笑う。

それよりも、駐車場で車が綺麗に並んでいるように、飛行機が綺麗に並んでいるのが、珍しいようで、ツナは、目を輝かせながら、飛行機を見回す。

色とりどりの飛行機は、大きなラジコンみたいで、眠っている少年の心を擽るようだ。どれもこれもピカピカで、大事にされているのがわかる。

そして、思わず、目の前を歩く男を追い越して、赤いボディの飛行機に駆けて行き、

「すげぇ、コイツ、カッコイイなぁ!」

と、ボディの横に金色で書かれた文字〝NEVER〟を指でなぞりながら、

「レッドとゴールド、まさに王者の色。俺、色は青が好きなんだけど、やっぱ、赤に金色って、強い存在感あるよなぁ! NEVER・・・・・・なんて意味だっけかなぁ、あぁ、でも俺、ガキの頃、シンバに言われて勉強して良かった。意味は兎も角、文字が読めるもんな。そんでカッコイイと思えるんだから」

と、すっかり少年の顔になっている。

「それはリーフの飛行機よ」

と、リンシー。

「元はオグルさんのだったんだけど、リーフが飛行機乗りになった時に、その一番の愛用機をプレゼントしたの。その時に、飛行機の色は、リーフが好きな色に塗り直して、その文字も、リーフの好きな文字を入れたの。今のオグルさんの愛用機は地下にあるわ。そこにオクトパスもいる筈――」

リンシーがそう言うと、オクトパスの所まで案内をしようとしていた男が、

「勝手な行動をとれるのも今の内だ、数分くらいの自由は与えてやる」

と、ツナの行動を、大目に見ると寛大さを見せるが、ツナは男の話など聞いちゃいない。

「リーファスって奴の飛行機か・・・・・・チッ、いいご身分だな」

ツナが舌打ちをしながら、そう言うと、リンシーは、

「そうよ、いいご身分よ、だって、リーフはオグルさんの立派な後継者、後継ぎだもの。そう認められる迄、苦労も挫折も味わって、それでも投げ出さなかった地位だもの、本当は他になりたいものがあったのに、憧れを捨てて手に入れた場所よ。それにオグルさんの後を継ぐ事がどんなにプレッシャーか、アナタにわかる? リーフは大きな壁を乗り越えて、更に大きな壁に挑んでるの、だからいいご身分で当然でしょ」

と、まるで自分の事のように、自慢げに話しているのに、どことなく、怒っているような喋りでもあって、かと思ったら、直ぐに表情を曇らせ、俯くから、女ってのは、忙しいなと、ツナは思う。

「リーフはね、この飛行機にオグルさんの夢を乗せて飛ばないんだって。空に、光イッパイの場所に、連れて行ってやりたい奴がいるから、その人の想いと一緒に飛ぶんだって――」

そう言って、赤い飛行機を優しい表情だが、どこか悲しげに見つめている。

「へぇ」

「憧れた夢を捨てて、飛行機乗りになるなんて、突然言い出したと思ったら、空に、ちゃんと真っ当な自分で、連れて行ってやりたい奴がいるからって――」

「へぇ。で、誰なんだ? ソレ」

「・・・・・・知らないわ。リーフの好きな女かもね。相当、好きみたい。だってその人の名前を、この飛行機に名付けたのよ、〝ブライト〟って――」

「ブライト?」

「そう、ブライト。決して戻らないって意味で、NEVERなんて文字も入れてね。憧れには戻らないって意味だって。その人と約束したんだって。光輝く空で、もし自分が活躍できたら、連れて行ってやるって。だからブライトと一緒に飛ぶんだって。随分とリーフに気に入られたものね、そのブライトって人も。どうせ趣味悪いんだから、大した女じゃないわ」

少し拗ねた顔のリンシーに、ツナはクッと笑みを溢し、

「心配ねぇよ、そりゃ男だ、多分な」

と――。

「男!? ブライトが? 何故そんな事わかるの?」

「いや、俺も、今、知ったとこだ。リーファスって奴の心境についてな」

と、リーファスはシンバと、何か話したんだなと思う。だからサードニックスにならず、飛行機乗りになりやがったのかと、ブライトと名付けられた赤い飛行機を見つめながら、

「シンバはやっぱりフックスだな、ちゃんと誰かを導いてる。光へ――」

嬉しそうに囁くツナ。リンシーはクエスチョンマークを浮かべながら、首を傾げる。

「おい、そろそろオクトパスさんの所へ行ってもいいか? それとも無駄話を続けるのか? もう少しくらいなら時間をやってもいいぜ? どうせ、その腰と背中にある剣は奪われちまうんだ、今の内に、最期の言葉でも女に伝えとけ」

と、半笑いを浮かべて言う男。どうやらツナを殺す気でいるらしい。ツナは、

「あぁ、そろそろ行こう、お待ちかねなんだろう?」

と、男の案内もなく、自ら地下へ続く階段を見つけ、さっさと降りて行く。

随分と覚悟のいい付き人を持ったもんだと、男はリンシーに言う。

リンシーも、ツナに、死に急ぎたいのかしらと思う。

地下には、迷彩柄のデカイ飛行機があり、その飛行機の前に座っている男がオクトパスで、その周囲を人相の悪い男達がウヨウヨといるのが、これまた舎弟達だろう。

だが、ツナの目には一機の飛行機しか目に入っておらず、

「デケェ・・・・・・あんなの操縦できんのか? あのオッサンが? しかもブライトっつー飛行機より貫禄もあるなぁ・・・・・・どの飛行機よりオーラが違う・・・・・・オグルの愛用機ってだけで、こうも変わるもんなのか・・・・・・スゲェな・・・・・・・」

と、驚きを呟く。

「誰だ、お前は!?」

オクトパスにそう言われ、今、初めて、オクトパスの存在に気付く。

余りにもオグルの飛行機が凄過ぎて、他の存在など掻き消されていた。

こりゃ武器を奪われただの、なんだのと言うより、別の意味で戦いたくなってきたと、ツナは頭を掻きながら、こんなカッコいい飛行機等と、スゲェ化け物並の飛行機を、爆薬で吹っ飛ばそうなんて、そんなの絶対に許さねぇぞと、オクトパスを睨む。

「オクトパスさん、ソイツはリンシーのマネージャーらしいですよ、付き人を連れて来たって言うから、駄目だと言おうとしたんですが、ソイツ、腰と背中に、なかなか良さげな剣を持ってますからねぇ。オクトパスさんのコレクションの1つになるんじゃないかと連れてきましたよ。ちなみに、この女が歌姫のリンシー・ラチェット、それでこのバカデカい犬が、リンシーの愛犬らしいです。愛犬がいないと歌えないって言うんで・・・・・・」

リンシーの腕を引っ張って階段を下りながら、男がそう話す。

リブレはリンシーの後ろで、ちゃんと愛犬らしく傍にくっついているが、話に合わせた行動と言うよりは、リンシーを守った方がいいかしら?と思っているようだ。

オクトパスは、リンシーを見て、舌なめずりすると、

「噂通り、いい女だ」

と、こっちへ来いと手招きするが、ツナが、

「歌なんか聴いてる暇ねぇぞ」

と、

「女とイチャつく暇もない」

と、

「テメェは俺と戦うんだよ、心配すんな、殺さねーよ」

と、腕のサソリのタトゥーを見せながら言う。オクトパスも、周囲にいる舎弟達も動きを止め、ツナを見ると、舎弟達は大笑いし、オクトパスも喉の奥でクックックッと笑う。

「おかしいか? そりゃ良かった。笑いは大事だ」

と、ツナはバカにされた笑いも余裕で受け流す。そのツナの態度が気に入らないオクトパスは、スッと立ち上がった。身長はかなり高めだ。そして舎弟達はオクトパスが立ち上がった事で、顔色を変える。空気が一変し、皆、緊張感が走る。

オクトパスは黒いマントを翻し、態となのか、マントの裏に隠し持っているかのようなコレクション等を見せる。多くの銃がマントの裏に装備され、そして、腰や背に携えられた多くの剣。

それでけの武器を持ちながら、普通に立っていられるのだから、恐ろしいパワーだ。

武器の重さでよろめく事もない。

だが、ツナは、だからどうしたとばかりの平然とした顔で、オクトパスを見ている。

「お前、サソリ団か? 今更、何の用だ? サソリ団は、昔、武器となる毒を奪ってやった。サソリ団はこのオクトパス様が――」

「その後の台詞は俺をやってから言え」

「フッ、この状況で、随分と強気な若造だ」

そう言われるのも当然。オクトパスの舎弟達は恐ろしい強面で、ツナを睨みつけ、鼻息荒く、武器を構え、今にも襲って来る勢いだ。それでも黙って大人しくしているのは、オクトパスの命令を待っているからだろう。

「アンタ、若い頃は、銃士としてヒーロー呼ばわりされてたな」

「ワタシは、今も、銃士でヒーローだ」

「多くの賊を片っ端から倒し、武器を戦利品として奪い、随分とカッコイイ事をやってたそうじゃねぇか。ガキがそんなアンタに憧れ、アンタを追い駆け、それが今ではアンタのパシリ。アンタは全然ヒーローには見えねぇ。本当にヒーロー呼ばわりされてたのか? あぁ、でもコイツ等の生き様は、アンタそのものだな。みんな、扱えもしねぇ武器持って、いっちょまえに威嚇して、強さを主張する雑魚そのものだ」

「なんだと!?」

「憧れたのはヒーローだが、成り下がったら憧れも成り下がるってな、テメェを追い駆けたガキ共は、テメェそっくりじゃねぇか、道は間違いなく、テメェに続いてんだ、間違ったのはテメェなんだよ、オクトパス」

「何が言いたいんだ・・・・・・貴様・・・・・・」

「俺もガキの頃、憧れた男がいた。いつかその人の為に戦うんだと決めていた。でもその人はアンタみてぇに世に出なかった。子供ながらに不思議にも思った事がある。何故コソコソと動いて、世直ししてんだろうって。もっと世間にわかるように活動すりゃ、支持を得られて、もっとわかりやすくヒーローとして前へ出れるんじゃねぇのかなって。でもソレを俺は口にした事はない。子供の俺は、誰も知らないヒーローが自分だけのヒーローみたいにも思えて、それが嬉しかったりしたからだ。でも大人になってわかったんだ。何故、あの人は世間に出なかったんだろう、もっとスポットライト浴びてもいい人なのに、なんで自分をアピールしなかったんだろう、その答えは、こういう事なんだ――」

と、ツナは舎弟達を見回し、

「決して正しい事じゃないんだ、善と悪は似てる。だから大きくなったチカラ程、小さいチカラを叩き、悪になっていく。例え正義と思う行為も悪になる。やがて真実の正義さえ見失う。俺の憧れた人はな、賊でさえ、殺さないんだ、誰も殺さない。でも常に戦ってた。闇で、小さなチカラで、誰にもわからない所で、戦ってたんだよ、だから俺に教えてくれた。戦う事が強さじゃないって。それが、本当のヒーローだ」

そう話すと、舎弟達のいきり立っていた勢いが少し和らいだようだった。だが、

「なんだそれは? 戦う事が強さじゃない? だったら賊も殺せない弱い者が何をしてくれる? 見て見ぬフリする連中が、この世に優しいとでも言うのか? いいか、ヒーローは世に出て、ちゃんと強さを見せ付けなきゃ、ヒーローである意味がないんだ!! 正義は皆に認めてもらってこそ、発揮する大きなチカラだ」

オクトパスがそう言うと、また舎弟達の勢いが戻る。

「それこそ、なんだそれは? だろ。強さを見せつけるのがヒーローな訳ないだろ、そんなの賊だ。ヒーローである事に、意味なんていらないし、弱くてもヒーローにはなれる。それに、ヒーローか、どうかは、自分自身じゃない、見た者が決める。お前等は、本当の正義っつーのを見た事があるか? 本当のヒーローに出会った事はあるか? 世の為人の為に、精一杯、命懸けて、みんなの笑顔を守ろうと頑張ってるのに、誰にも認められない存在で、この世にいないも同然で、その存在は、誰も知らない。正義を行った証明は、誰もできない。しかも、報酬というなら、救われた者だけが見せる小さな笑顔だけ――」

話しながら、ツナは、フックスとの出会いを思い出している。

それは、シンバにも話した事はない。

余り笑顔になれないツナが、フックスの魔法で、少し笑って見せた。

青い飴玉を、コロンと、ツナの手の中に入れて、フックスは、

〝これだからやめられない〟

と、

〝オレが頑張れるのは、笑顔を見れる特権を持ってるからだ〟

と、フックスは、そう言って、ツナに微笑んで、だから、もっと笑ってくれよと、頭を撫でてくれた――。

「正義は、損得じゃない、何の利益もなくても、誰かの為に、強さを使えるかどうかだ。それは、戦うだけが強さじゃないと言う事――」

「・・・・・・貴様、サソリ団の癖に、正義について語るのか? 賊の癖に?」

オクトパスはハッと鼻で笑い飛ばした後、

「独りで、このオクトパス様に会いに来た無謀さは認めてやる。だが、このワタシが手を下す迄もないだろう。教えてやる、何をほざこうが、お前は賊で悪だ、ワタシは銃士で正義だ。そして正義は必ず勝つんだ。強く、生き残った者が正義なんだ、悪は絶やす為に殺すんだ、いや、殺されるんだ、正義にな。ヒーローとは悪を根絶やしにしてこそ、ヒーローなのだからな」

そう言った後、やってしまえと舎弟達に命じた。一斉にツナに飛び掛る連中。

結局、誰一人として心が揺れなかったかと、もうちょっと響くと思ったんだけどなぁと、口下手な俺が、結構、頑張って話したのになぁと、剣を抜き、一人一人、逆刃の方で叩き潰していく。

銃を持った奴相手には引き金を引かれる前に、リブレが飛び掛る。

大勢を相手に、勝ち抜いていくかの如く、倒していくツナの姿に、リンシーは、

「冗談じゃなかったのね」

そう呟き、

「なによ、ちょっと、かっこいいじゃない」

と、唇を微笑ませる。

だが、多勢に無勢。ピンチはやって来る。

そしてオクトパスが、ツナの思ってもなかった強さに、卑怯にも、リンシーを人質にする。

ツナもリブレも動けなくなる――。


その頃、ツナがピンチになっているとも知らず、シンバは、フォータルタウンの掲示板に貼られたチラシをジィーっと見ていた。

「ねぇ!? どういう事!? コレ!? ねぇ!!? ねぇってば!!?」

と、チラシを驚愕の顔で見つめて、1人で、誰かに、問いかけを叫んでいる。

「おかしいなぁ、確か、オグルさんの駐機場って、あっちにあったと思ったんだけど、子供の頃に行っただけだからなぁ。場所が変わっちゃったのかなぁ?」

と、駐機場の場所を確認に行っていたパンダが戻って来たが、シンバはまだチラシを見つめたままで、シカも、

「駄目だ、どこにも人らしき影さえない。家の中も蛻の殻だよ、みんな避難しちゃったんだ。しょうがないから、オグルさんの家に戻って、オグルさん本人から駐機場の場所を聞くしかないね」

と、誰かいないか、探しに行っていて戻って来たが、シンバはチラシから目を離さない。

「まだソレ見てるの、シンバくん?」

と、シカは呆れている。

「ずっと見てても、書いてある内容は変わらないよ」

と、パンダも呆れる。

「で、で、でもさ、コレ・・・・・・どういう事!? どういう事なの!? コレ!!?」

と、チラシを指差して言うシンバに、

「どういう事って聞かれても」

と、シカ。

「そういう事だよ」

と、パンダ。

チラシには〝見るも無残な醜い王子と結婚致します、我こそは醜い王子であると自信のある者はジェイドのネイン姫と婚約の契約をし、結婚の話を進める為、お越し下さい〟と書かれ、ジェイドの印まで押してある。

「なんで!? なんでこんな条件をチラシで報告してんの!? ねぇ!? なんで!? どういう事!? コレどういう事なの!?」

何故か、シカとパンダに言い寄るシンバに、2人はウザイウザイと避ける。

「お姫様には、お姫様の考えがあるんだよ」

と、シカ。

「あれじゃない? あげるって言ってた船がなかったから、フォックステイルの嘘吐きって、腹を立てて、そんな意味不明なチラシを作ったんじゃない? 人間、あんまり怒り過ぎると意味不明な事するから」

と、パンダ。

「だって! だってさ! 醜い王子!? 誰の事言ってんの!? だ、だ、誰の事だよ!? つまりその、誰と結婚する気!? フォックステイルが好きって言ってたのに!? もう心変わりしたの!? 船がなかったから!? ていうか誰!?」

シンバは、ネイン姫が、誰かに宛てたチラシに思えてしょうがない。

「まぁ、オラの事じゃないのは確かだね」

「王子じゃないからね」

「違うよ、シカ! 醜くないからねって言うとこ!」

「と言うか、見るも無残な醜い王子なんていないと思うけど? 容姿だってそれなりに、王子様は、王子様でしょ、つまり、ネイン姫は、誰とも結婚する気ないって意味じゃない?」

シカがそう言うと、シンバは、そうかなぁ!?と、またチラシに目を向けた瞬間、3人の横を物凄いスピードでバイクが通り過ぎた。

3人が目で風を追うように、バイクを見送り、

「ウサギちゃん達の登場」

と、シカがニヤリと呟くと、パンダが、

「カモメいなかったよね?」

と、見えなくなったバイクを更に見ようと、何故か背伸びをして、遠くを見て、シンバが、

「ボク等も急ごう!」

と、走り出し、やっと目的を思い出したかと、シカとパンダは、シンバの後を追う。


ツナは舎弟達に取り囲まれ、武器は使わずだが、殴られ蹴られのサンドバック状態で、またリブレには指一本触れさせないと庇うから、全ての攻撃を、全て自分へ向かい入れる。

「もういいでしょ! やめなさいよ! あれだけ殴れば気が済んだでしょ!」

リンシーが、甲高い声で、オクトパスに言う。

オクトパスはリンシーを抱き寄せ、わざわざ顔を近づかせて、至近距離で、

「まだまだだ。奴の目を見ろ、気絶さえしそうにない目だ。それにワタシは奴を許す気はない。のこのこと乗り込んで来て、偉そうに説教染みた意味のわからない話で、ワタシを侮辱したんだ。そしてこのワタシの目の前に武器を持って現れたと言う事は死を覚悟して来たと言う事だ。その事を尊重したら、殴るだけで終わりにするなど失礼だ。嬲り殺しにして、武器をワタシのコレクションの1つに加える事で、尊厳されると言うものだろう」

と、苛つく表情で言うから、リンシーはコイツに何を言っても無駄と、ツナに向かって、

「アンタね! 剣は持ってるだけじゃ意味ないでしょ! 戦いなさいよ、男でしょ! 犬なんか庇ってんじゃないわよ! 私の事も気にしないでいいから、戦いなさいよ! さっきから殴られっぱなしで! やり返しなさいってば!! それでも男なの!?」

そう怒鳴った。ツナは額にバンダナをしているにも関わらず、バンダナに沁み込まず流れ落ちてくる血に、目を少し翳ませ、怒鳴るリンシーを見ると、

「俺はよぉ、テメェみてぇな自分の立場もわかってねぇ偉そうな女は大嫌いだ」

そう吠えた。吠えた瞬間、腹部を蹴られ、前のめりになる。なにやってるのよと、リンシーは見ちゃいられないと目を伏せるが、

「黙って守られてろ!! 俺が勝ってみせる!! 負けると思ってんじゃねぇ!! 女は男に守られてりゃいいんだよ!! でしゃばんじゃねぇ!!」

そう吠えるツナに、リンシーはゆっくりと顔を上げる。そして、リブレを庇うツナに、

「・・・・・・犬も女って訳?」

そう呟く。オクトパスはクックックッと、

「まだ勝てると思う気力があるなんて、凄い精神力じゃないか」

と、嘲笑うが、ツナもヘッと笑いを返すように、溢し、

「俺に負けはねぇよ。嘘だと思うか? それともテメェが勝つとでも? 女を人質にする奴と血塗れの情けねぇ俺と、どっちを信じる?」

そう聞いた。無論、答えたのはリンシー。

「アナタよ、バカな男だけど、アナタの方が信じられるわ、アナタが勝つって信じるわ」

オクトパスはリンシーの喉にナイフを付きつけ、

「殺されたくなければ、訂正しろ!! オクトパス様の勝利を疑うな!!」

そう怒鳴る。嫌よと言うリンシーの髪を引っ張り、死にたいのかと、怒鳴り散らすオクトパス。

ピンチはチャンスとはよく言ったものだが、ピンチはピンチでしかなく、強がりを言っても立場が逆転する可能性は低い。

こんな時、そう、こんなピンチの時、現れてくれるのはヒーローじゃないのかと、ツナもリンシーも思った瞬間、飛行機を出す為の滑走路に続く地下のシャッターが開き始める。

何事だと、誰もが勝手に動き出したシャッターの方を見る。

地下という事もあり、夜という事もあって、光は倉庫の灯り以外は全くなく、シャッターが全開で開いても、そこに何かいる影しか見えず、だが、

「フックス・・・・・・いや、シンバ・・・・・・?」

と、ツナは、自分のヒーローを口にする。そしてリンシーも、

「リーファス?」

と、待ちわびたヒーローの名を呼ぶ。

だが、返事を返したのはドゥルンドゥルンと鳴るバイク音。そして、ガーッと倉庫の中へ入って舎弟共を蹴散らして来たかと思うと、大きなバイクをクルンと回転させ、キッとブレーキをかけると、ヘルメットを外し、

「ハイ、ツナ。お元気?」

と、ウィンクするラビ。

「なんだテメェは!? 元気に見えるのか、今のこの俺の姿を見て!? あぁ!? しかもテメェの顔見る前のが元気だった!! ここへ何しに来やがった!! また話をややこしく掻き回してくつもりか!? このトラブルメーカー女!!」

「アニキ、元気だねぇ。そんだけやられてんのに、そんだけデカい声出せるんだもん。アバラの2、3本いってないの? 〝チッ、アバラの2、3本はいったな〟って、今なら、名台詞吐けるよ?」

と、バイクの後ろから飛び降りて言うのはバニ。

「相変わらずのアホウだな、テメェは!! 実際アバラの2、3本いってても、わかんねぇっつーの!! しかもこんな状態で、そんな冷静な判断できるか、自分の体に!!」

そう怒鳴るツナに、クスクス笑うラビ。そして、バニが、ラビに、

「でもよく戦闘シーンで聞く台詞だよね? それって経験上、わかるのかな? ボキボキとか2、3回音が鳴るのかな?」

そう尋ね、ラビは、

「そういう事、言いたいだけなんじゃない? 男ってそういう生き物でしょ?」

と、この場で普通に答える。バニは流石ラビさん何でもよく知ってるねと歯を出して笑うが、何がどう何でも知ってやがるんだ、言いたいだけってのはどう知った上での解釈なんだ、男をどういう生き物だと思ってやがると、ツナはイラっと来ている。

「でも曖昧に2、3本ってどうなのかしら、2本なのか3本なのかハッキリしたらいいのに。言いたいだけなら、スッキリさせた方がいいわ。そんなモヤる言い方されても、ねぇ? ツナもそう思わない?」

「あぁ! だからアニキ、名台詞言わないんだ? スッキリしないから」

そうじゃねぇよ、わかんねーけど、兎に角、折れてねぇしと、ツナはイライラ。

「言うなら、本数をハッキリ決めて言ってくれた方がわかりやすいわ」

「だね! そうだ、アニキ、なんだったら、〝チッ、アバラ全部いきやがった〟って言うのはどう? わかりやすいし、全部折れたんだねって、聞いてる方もスッキリ!」

全部折れた時点で終了だろと、ツナは怒鳴ってやるべきかと、拳を握り締める。

この馬鹿げた会話に、ツナを引っ張り込もうとするラビとバニ。

一体、何しに来たのか、大体、何の戦闘シーンで聞いた台詞なのだろうか、しかも肋骨の話など、どうでもいいだろと、ツナは苛立ちを通り越して、怒りで拳が震えている。

リンシーはこの場に相応しくないノリで現れたラビとバニに、ポカーンとしている。

他の男達もラビとバニの会話に、ポカーンとした顔。しかし、オクトパスが、

「ラビ、貴様、裏切るのか?」

そう言うから、また緊迫した空気が流れる。リンシーはラビという名に、子供の頃、一緒に孤児院にいたラビを思い出し、あのラビなの!?と、ラビとバニを、どっちがラビ?と、見ている。

「おい、ラビ! 聞いてるのか!?」

「あら、どちら様?」

「なんだと!?」

「どこかでお会いしました? ごめんなさい、アナタ程度の男、記憶に残らなくて」

「なんだとぉ!?」

オクトパスが恐ろしい形相でラビを睨み、捕まえているリンシーと、持っているナイフを力一杯握り締める。余り怒らせないでと、リンシーが、アナタがラビねと、ラビを見ると、ラビはヘルメットを被り、

「ツナ、トラブルメーカーのアタシがいると邪魔でしょ? 退散するわ。でもピンチだった所を来てあげたんだから、貸し1つよ」

なんて言うから、ピンチだった訳じゃねぇ!!と、怒鳴るツナ。ラビは、ふふふっと笑い、

「バニと仲良くやって」

と、バニだけを置いて、何故かバイクで階段を上って走り去っていく。

――なんで上の階へ行ったんだ?

――来た道を戻ればいいのに、わざわざ上へ何しに?

相変わらずラビの考えはよくわからねぇと、わかりたくもないがと、ツナは思う。

そして嵐が去った後の静けさのように、シンと静まり返る中、バニは、腕に巻かれたバンダナを解き、頭に巻いた。腕にあるサソリのタトゥー。そして、

「オクトパス! アンタがサソリ団に襲撃に来た時、私はオヤジの使いで、出払ってた。そこにいるアニキもいなかった。そんなサソリ団をやったからって、サソリ団の武器を持ってると自慢されちゃ、たまんないのよ。サソリ団をやったと言いたいなら、私を倒してから言うんだね。尤も、アンタをやったと、サソリ団ではなく、私個人の名で叫んでやるけどね。女の私にやられたと知られちゃ、アンタのプライドもズタズタだろ、精神的にも肉体的にも這い上がれなくしてやるよ」

と、バニは剣を抜いた。

「どいつもコイツも今更なんなんだ!! そんなに賊である事が立派か!? サソリ団である事が誇りか!? 悪の根源じゃないか!!」

オクトパスが怒鳴る。

「立派? 誇り? なにそれ? そんなもんいらないよ。私は、私の強さを貶されるのが嫌なんだ、アンタと同じだよ、オクトパス。アンタが襲撃に来た時に私がいれば、アンタはサソリ団から毒を奪えなかったさ。でも、復讐じゃない、サソリ団なんてどうでもいい。只、私は私の名誉の為に戦うんだ。このタトゥーが消えない限り、私はサソリ団であった過去が消せない。このタトゥーを見られたら、必ず嘲笑われるんだよ、〝サソリ団? アレキサンドライトの怒りを買い、フォックステイルから騙された挙げ句、オクトパスから武器となる毒まで奪われた間抜けな賊一味だ〟ってね。だからアンタを倒し、私がオクトパスをやった間抜けな賊一味だったバニ様だって、笑った奴等にわからせてやるのさ」

女に何ができると、オクトパスはフンッと鼻で笑いながら、

「それなら、フォックステイルとやらを、先にやったらどうだ?」

などと言われ、それもそうかと、バニは、ツナを見る。俺を見るなと、ツナは、バニを睨み、

「オクトパス、女だからって、舐めてたら、痛い目見るぞ、ソイツはマジで強ぇ。そうだな、フォックステイルって奴等に譲った方がいいかもな」

と、そう言った後、チッと舌打ちすると、口の中の血をペッと吐き捨て、イテェと殴られた腹などを押さえ、痛みがあると言う事は夢じゃねぇなと、

「ピンチになると助けに来てくれるのはヒーローじゃねぇって辺りが現実味ある、一番嫌いな奴が登場してくれるとは、世の中厳しいぜ」

そう呟き、

「ところで、オクトパス、テメェ、ラビって女と知り合いか?」

そう聞いた。オクトパスは、バニからツナへと目線を移す。ツナはヘッと笑い、

「ま、聞かなくてもわかる。騙されたんだろ? あの女はそういう性質の悪い女だ。あの女のお蔭で強ぇ奴の武器でも手に入れたか? 何と引き換えに手に入れたんだ? ネタか? ブツか? それとも、只、いいように利用されただけか? そして今度は敵にされ、追い詰められる側にか? いい事を教えといてやろう。あの女は根こそぎ持ってくんだよ。人の気持ち迄もな。あぁ、悪ぃ、今更遅ぇか」

と、クックックッと、オクトパスの笑いを真似するように笑う。

「アニキ! 何言ってんの! ラビさんはねぇ、私がオクトパスを倒したいという願いを叶えてくれただけ」

「バカか、テメェは! だったらオクトパスの居場所さえ掴めばいいだけだろ、いちいち、こんな手の込んだ事する訳ねぇ! どうせ、あれだろ、お前等だろ、オクトパスに、こんな事させてんのは!」

「しょうがないでしょーが! 飛行機の部品が必要だったんだから」

と、ヤバい!ペロッと喋ってしまったと、口を押さえるバニに、やっぱそうなのかと、ツナは思い、リンシーが、

「どういう事!? 飛行機の部品って!? まさかオグルさんの飛行機を!?」

と、声を上げる。バニは、

「ち、ちがっ、違うの、えっと、飛行機がなくなったのはオクトパスのせいなの!」

と、まだ飛行機は何もなくなってもないのに、慌ててそう答えると、ツナが、

「成る程な。オクトパスに、どうやって近付いたか、知らねぇが、誰かの武器でも手に入れさせて、味方のフリして、更に、味方面で、伝説の飛行機乗りの話しでも持ちかけて、この騒ぎを起こさせたんだろう。下手したら俺・・・・・・いや、フォックステイルのせいにもできるしな? 伝説の飛行機乗りがオクトパスに狙われたなんて、フォックステイルが嗅ぎつけそうな事件だ、人のいいフォックステイルは助けようと現れるだろうと・・・・・・そうじゃなくても、俺は、お前同様オクトパスを倒したいと思ってるから絡んで来ると思ったんじゃねぇのか? 違うか? じゃなくても、お前がオクトパスを倒せば、駐機場の爆破はなくなり、よくわかんねぇが、必要な飛行機の部品を手に入れて、それ等は、オクトパスのせいに、またはフォックステイルのせいにできるってか?」

と、ツナに聞かれ、ウンウンと頷き、直ぐに違う違うと首を振るが、もう駄目かと、諦めて、バニは、

「だってぇ、カモメが必要としてる部品って、もう作られてなくて、昔の飛行機になら使われてるって、調べたらオグル・ラピスラズリの持ってる何機かの飛行機が、その部品を使ってるって言うからさぁ。私もオクトパス倒したかったし、ラビさんに話したら可愛いバニのお願いは無視できないわね、なんて言ってくれるし、まさに一石二鳥じゃん」

そう話した後、

「心配しなくていいって、一機だけもらってくだけ。一杯あるんだからいいじゃん」

ヘラヘラ笑いながら、全然良くない事を悪びれもなく言う。

ラビが、上の階へ行ったのは、飛行機を奪うのかと、ツナは透視できないが、透視するように上を見上げ、天井を見る。

「駄目よ!! ここにある飛行機は全部オグルさんの伝説の飛行機なのよ!!」

リンシーが叫ぶ。

「どうして伝説なの? まだ現役なのに伝説伝説って、死んだみたい」

確かにそうだと、たまには頭の回転がいいじゃねぇかと、何故かバニの意見に頷くツナ。

「国々から空軍に呼ばれてたの!! それを全部断ったの!! 絶対に、オグルさんが操縦する戦闘機は、見られないとなったから、伝説と呼ばれるようになったのよ!!」

怒るリンシーに、いや、全然わかんないし、見せてあげたらいいじゃん、操縦するくらいと、ていうか、何ヒスってんの?と、バニは、ホント全然意味わかんないんだけどと、私が悪いみたいじゃんと、唇を尖らせる。その顔に、お前が悪いんだよと、ツナは思う。

このオクトパス様を目の前にし、人質までが勝手にベラベラと喋り、好き勝手し放題しやがってと、全員、皆殺しだぁと、怒りに身を任せ、オクトパスは大声で怒鳴り、駐機場に、その声が響き渡った。

何が何だか呆然としていた舎弟達も、オクトパスの大声に我を取り戻し、ツナとバニに襲い掛かるが、押さえ付けていたツナは、既に、自由の身となっていて、更に、バニも加われば、瞬殺もいいとこ。

オクトパスもリンシーという人質を捕まえているのに、ラビの裏切りが頭から離れず、思考がショートしているのだろう、

「小癪な奴等だ」

と、リンシーを離して、自ら戦い始める。

「あの女ッ!! ワタシこそが空を治める王だと言った癖に!! オグルの武器である飛行機を狙えば、ワタシの天下だと言った癖に!! 嘘だったのか!! ワタシを唆しただけだと言うのか!! ワタシが記憶にも残らないだと!? 偉大なるオクトパス様と言い寄って来たのは、あの女の方なのに!!」

そう怒鳴りながら、剣を適当に振り回し、舎弟達でさえ、斬り倒して行くオクトパス。

リンシーはオクトパスの手から解放された今の内にと、階段を駆け上った。

ラビを止めに行ったんだろう。もう遅いかもしれないが――。

オクトパスに斬られた以外の連中は、死んでいない、気絶しているだけだ。

ツナは、流石だなと、バニを見る。

「両刃の剣は、殆ど盾に使い、拳と蹴り技で戦ってやがる。そうだな、剣を持ち慣れてるから、その剣の重さで、バランスをとってるから、離せないよな。短期間で殺さずの戦闘法を自分なりに考えて身に付けたか。お前は頭悪ぃが、バトルだけは天才的センスの持ち主だな。その筋の血統がいいせいもあるのか。それにちゃんと殺さないと言う約束守って、偉ぇじゃねぇか」

「私、アニキよりは頭いいよ、アニキより元々バトルのセンスもあるし、アニキより全然強いし、アニキより可愛いし、アニキより、いい人間で、偉いよ」

「あぁ!? 人が珍しく褒めてやってんのに、なんだ、その言い草!」

「頭悪いって貶しといて褒めてやった? よく言う。それにフォックステイルとの約束を守ってる訳じゃない、ラビさんが殺すなって言うから、ラビさんの言う事聞いてるだけ」

「お前はラビの言う事は絶対服従か? あの女のどこをそんなに気に入ってんだ!?」

「アニキこそ、何をそんなにフォックステイルを気に入ってんの?」

と、そう言った後、2人揃って、

「サッパリわからん」

「サッパリわかんない」

と、同じ台詞を言い放ち、最後の1人を同時に叩き潰し、残るはオクトパスだけになった。

ツナとバニは一旦剣を下げ、仁王立ちで、オクトパスを睨む。

リブレも身を低め、いつでも合図ひとつで飛びかかれる勢い。

オクトパスもツナとバニ、それからリブレを睨みつけながら、

「ワタシはとても不愉快で機嫌悪い。簡単に死ねると思うなよ? サソリ団――」

と、マントを脱ぎ捨てた。

沢山の銃が引っ付いているマントは重く、その場にズンッと落ちる。

そして背中や腰に携えた様々な剣を床に捨て、細く長い剣だけを選ぶと、片手で構え、研ぎ澄まされた刃をツナ達に向ける。

ツナもバニもスッと剣を上げて、オクトパスに応えるように剣を向ける。

「持ってるだけの飾りの武器を捨て、身軽になったか、だったら武器も銃士らしく、もう片方の手でライフルでも構えていいぞ? 俺達の武器に合わせるこたぁねぇ。自分に合う武器を手にして、自分の最強装備で挑んだ方がいい」

「アニキに同意見だね、最強装備じゃなかったからって、私達に負けた時の言い訳にされちゃ、たまったもんじゃない」

「悪ぃが、バニの登場で、こっちは2人と1匹だ。アンタは1人、それを卑怯だと言われても、こちとら賊なもんでね、その辺は理解してもらうぜ?」

「それもアニキに同意見だね、良かったじゃん、負けた時の言い訳はそれで決定だね。でもそんな言い訳は通用しないだろうけど。なんせ、アンタの方が取り巻きが多い」

と、バニは倒れている連中を見下す。オクトパスは怒り露わの顔で、

「ワタシが負ける事しか考えてない台詞だ、貴様等低俗な賊に神聖な銃を出す必要があると思う辺り、貴様等はワタシの恐ろしさをわかってない!! 教えてやろう、じっくりと!!」

と、デカイ身長を揺らしながら、ゆっくりとコツコツと足音を鳴らしながら、近付いて来たと思った瞬間、突然、フルスピードでツナの目の前に現れ、ツナの剣を剣で弾き、ツナの左頬に右拳を入れた。その衝撃で、後ろへ、フッ飛ぶツナ。

ヤバイと、バニは後ろへ身を引くが、身長があると言う事は足の長さもあると言う事。グルンと身を回し、バニの腹部に蹴りを入れ、バニが前のめりに倒れそうになるのと同時に、リブレがオクトパスの頭上高く飛び上がり、牙を剥き出しに襲い掛かるが、剣で振り切り、リブレの肉にまで刃は入らなかったものの、白い毛がパラパラと舞い散る。

壁にぶち当たったツナは、ゆっくりと立ち上がり、ペッと血の交じった唾を吐き捨て、

「無駄なもん捨てただけあって、デケェ体でスピードのある動きをしやがる」

と、呟き、バニも腹部を押さえ、ゆっくり立ち上がると、

「パワーは思った通り、そのデカい体に見合ってる」

そう呟き、だが、2人共、そんなのは計算内だと、今度はこっちからと踏み込んだ。

ツナの剣裁きとバニの剣裁き、2人の剣が全てオクトパスの剣で受け止められる。

だが、受け止めるだけで精一杯。背後を狙っているリブレにまで気が回らない。

鋭い爪がオクトパスの背中を切り裂く。

グハッと痛みに呼吸を乱すが、ツナとバニは待ってはくれない。

剣を受け止めて、弾き返さず、痛みに耐えるように動きを止めている。

ツナとラビはオクトパスの長い剣に剣を止めたまま、力を入れて、押している。

「ヘッ、捨てなきゃ良かったな、ご自慢のマント」

そう言ったツナに、オクトパスはギッと睨みつけると、ツナの顔面を額で頭突き。

今度はツナがグハッと後ろへ仰け反る。

ツナの剣が剣から離れた。そうするとバニだけの力で剣を押しているとなれば、力半減。

オクトパスは、バニのパワーなど片手で充分と、片方だけで剣を押さえ、もう片方の手の甲でバニの頬を引っ張ったき、真横へバニをフッ飛ばした。

そして、今、飛び掛って来たリブレに向かって、剣を下から上へと薙ぎ払い、リブレの肩を切り裂き、白い毛と真っ赤な血を、辺りに、散らし降らせる。

出た鼻血を、ズッと音を立てて吸い込むと、立ち上がるツナ。

唇の横から出てる血を親指で拭い、立ち上がるバニ。

肩からの流血を気にもせず、前足に力を入れて構えるリブレ。

ツナもバニもリブレも、血も出てると言うのに、ダメージ0とばかりの表情。

まさに弱さを見せない賊の恐ろしさとも言われる強さ。

戦闘時のポーカーフェイスの駆け引きをよく知っている。

痛みなど知らぬモンスターだと思わされる。

気に食わないオクトパスは奥歯をギリギリ鳴らし、大振りで剣を振り回し始める。

「このゾンビ共が!!」

と、斬っても斬っても起き上がるかと、ならば切り刻んでくれるとばかりに剣を振り回す。

「ハッ! なんて攻撃してやがんだ、当たればデカイと賭けに出たか? でも簡単に死ねると思うなよ?って言ってなかったか? その台詞はどこへいった?」

と、そんな大振り、避けれない訳ないだろと、ツナは笑いながら、ヒョイヒョイ避けていく。

「こんなタフな奴等、直ぐにでも殺さないと長引いたバトルは厄介だって、やっと気付いた? 気付くの遅っそ。でも、今更それに気付いてもねぇ、攻撃ってのは当たらないと意味がない、それじゃ無駄にアンタの体力が奪われるだけ」

と、バニも笑って攻撃を避け、リブレも、嘲笑うように、態々剣が、傍に来てから避ける。

オクトパスは攻撃を止めると、

「確かにそうだ、貴様等の言う通り、当たらなきゃ意味がない。それに冷静になれば、貴様等のタフさも理解できる。何故なら、ワタシも貴様等同様、タフだからな」

と、来い来いと人差し指で、手招きされる。

大振りの攻撃はタフさの理由からであり、当たってもダメージがなければ意味がないのは承知だが、それでも、当て率が低くなっても、当たればダメージのデカイ攻撃に出た方がいいと思ったのだろう。最初からオクトパスは賭けに出た訳でもなく、冷静だったと言う訳だ。その証拠にツナがオクトパスのボディに拳を何度入れても、オクトパスの表情は変わらず、バニが蹴りを食らわせてもオクトパスは笑っている。そしてリブレの攻撃でさえ、何度も同じ手は食わないとばかりに素早く避ける。

「ハッハッハッハッ! 悪党の貴様等のパンチや蹴りなど、ヒーローの鍛えた体には蝿が止まった程度。痛くも痒くもない」

ツナとバニは一旦、身を引いて、高笑いしているオクトパスを睨む。

「・・・・・・俺は、今、サソリ団だよな?」

「は? 何? 何の質問? アニキ頭でも打ってんの?」

「今、俺はサソリ団なんだと言う確認がしてぇだけだ」

「腕のタトゥーに誓って、アニキはサソリ団だよ」

バニがうっとうしそうに、そう答えると、ツナはヘッと笑い、

「俺は賊なんだ。アイツの言う通り、悪党の賊の俺に、正々堂々となんて必要ない」

そう呟いて、悪い顔をする。

「優しい嘘も、心地良い幻も、夢の魔法も、俺は使えない。いや、元々、フォックステイルとしても、俺は使えねぇけど・・・・・・」

「何言ってんの? アニキ」

本当に頭を打ったのかと、バニは、ツナを見る。するとツナはバニを見て、

「鍛えてある場所を打っても意味がねぇ。殺し合いに、卑怯と言われても構わねぇ」

そう言った。

「やった!! 殺していいの!?」

「そうじゃねぇよ、アイツが俺達を殺そうとしていると言う意味だ。俺達は殺さねぇよ。それが賊と成り下がっても守る俺の決め事だ。それは、お前も一緒に守ってもらう。リスペクトしてる者との約束は、賊でも守る、悪党でも一番好きな奴との誓いは守る、頭の悪ぃ俺等だって、それくらい、簡単に、できる事なんだ」

「まぁね、そりゃ守ればいいだけだからね、簡単だよ」

ホントにバカだなと、ツナはバニを見ながら、簡単じゃねぇから簡単だと言ってんだ、そこは一番難しいと言うべきとこなんだと思うが、コイツに、マトモに、突っ込んでもしょうがねぇと、

「いいか、バニ、鍛えてねぇとこ狙ってやんぞ! 足りねぇ脳みそでも、お前のバトルセンスならわかるだろ、それがどこなのか! 奴の体勢がどうなるかわからねぇけど、奴がバランスを崩したら、鍛えてねぇとこを攻撃すりゃいい!」

「それってキンタマ!?」

そう聞いたバニに、ツナは何も答えず、笑っているオクトパスに近付き、

「いつまでバカ笑いしてやがる! ルール変更だ、バカ笑いをやめて俺の話を聞け」

そう吠えた。オクトパスはツナを睨み見る。

「殺さねぇってのはやめだ」

「悪党め、本性を現したか」

「そんなとこだ。剣で戦わなきゃ決着がつかねぇ。テメェがタフでも俺等も似たようなもんだからな。このまま殴り合っててもしょうがねぇだろ。ま、俺の勝ちで決まりだがな」

「それはどういう意味だ?」

「テメェの剣技なんか高が知れてるって意味だ。テメェは剣より銃だろ? テメェの剣なんかで、この俺を殺せるとは思えねぇ。今更だが、銃に変えてもいい」

「ワタシは貴様のような卑怯者じゃない。ルールは変更しない」

「そうか? でもソレ、ホントに斬れんのか? オモチャだろ? 剣ってのはさ、持ち手の力を与えた時こそ、その攻撃力が発揮されるってもんだ。そうじゃなけりゃ、幾らいい剣を持ってても、只のオモチャと変わらねぇ。俺をそのオモチャでやろうってんなら、そのデカイ体ごと、体当たりするように、剣にパワーとスピード兼ね備えねぇとな。できんの? そんな事、銃士のアンタに? 無理は要求しねぇよ、俺が剣技っつーものを見せてやろうか? 俺の本気を見たいだろう? 俺が体ごと全部、剣に預ける所を――」

と、挑発する。

「何をほざくか、悪党が! この体ごと剣に預けるなんぞ、容易い技だ」

「へぇ、できんの? ホントに? 只のコレクターが?」

「ヒーローのワタシを只のコレクター扱いか?」

「気に触ったのか? ヒーロー」

「最初からだ、ヒーローが悪党を嫌うのは当然だからな」

「あっそ。じゃ、見せ場はヒーローに譲ろうか? それとも、やっぱ、俺のターンでいい?」

「ワタシからだ、貴様に出番などない。そこで大人しく立っていろ、見せてやる」

と、挑戦を受けるオクトパスに、どうぞと、構えなしで立つツナ。すると、

「貴様なんぞ、このワタシの力を宿した剣で一気に串刺しだぁぁぁぁっ!!!!」

と、オクトパスは高く剣を掲げ、自分も高く飛び上がった。

「うっしゃぁ!!!!」

と、待ってましたと、ツナは剣をまるでバットのように構え、振り被る。

ホームランを狙うバッターの如く、オクトパスの足の甲目掛け、剣が振られた。

飛び上がったオクトパスは足の甲を強く弾かれ、空中でバランスを崩し、顔面から地へ落ちる。足の甲は、痛みを感じやすい場所で、打ったら、暫く歩けなくなる程だ。

だが、待っていたのは、その激痛の他に、バニの蹴り技。

宙を華麗にバック宙しながら、バニは、床に落ちていくオクトパスの顔面を、蹴り上げた。オクトパスは蹴られた顔面を仰け反らせ、エビのように背中を反った所へ、今度はリブレがオクトパスの背中に飛び上がり、そのまま床へと叩きつけた。

シンとする間――。

暫くすると、オクトパスは嗚咽を漏らし、小刻みに震え、起き上がろうとする。

「いいね、そう簡単に眠っちゃつまんないよ、このヒーローもどきが!!」

と、バニはオクトパスの体を足で蹴り上げ、仰向けにすると、キンタマ狙うよ!?と恐ろしい事を言いながらも、そこは狙わず、腹部目掛けエルボー。

ガフッと唾と呼吸を吐き出し、目玉が飛び出しそうな顔のオクトパス。

まだ失神しないかコノヤロー!やっぱキンタマかコノヤロー!と、バニはオクトパスの腹部に何度も打撃。失神しても、尚、連打。

「よくも私の顔を叩いたね、しかも腹への蹴りは相当痛かった! 簡単に気絶できると思うな!? 起きろ! 起きて痛みを感じろ! 起きなきゃキンタマすり潰すぞ、ヒーローもどき! 起きろってば! 私の痛みを思い知れ!」

と、攻撃された仕返しとばかりに、いや、仕返し以上の攻撃を続ける。

「もういいだろ、気絶してるんだ、ソッとしておいてやれ。そこまでやると可哀想だし、こっちが悪くなる」

ツナが止めに入るので、バニは、最後にと、オクトパスの顔面を蹴り付けたら、白目を向いてるだけで間抜けな顔だったのに、更に歯が抜け、酷い顔になる。

キンタマ攻撃よりいいかと、ツナは思うが、気絶してる間に歯がなくなって間抜けな顔になるのは辛いと、やっぱどっちも嫌だなと、少しオクトパスに同情。

「それにしても殺さないってのは厄介だな。サソリ団にいた時は大事なものがなかったから、後先も考えなかったが、今は大事なものがあるからソレを守る為に必死で強くも弱くもなる。特にこういう奴は始末しないと後が面倒で、オッサンの飛行機の事もあるし、舎弟の数も多いし、復讐のエンドレスに巻き込まれ、サソリ団だけの問題じゃなくなって来る。シンバや仲間にはサソリ団の事で絶対に迷惑はかけたくねぇし、これからの活動にも支障が出て来るかもしれねぇ・・・・・・かと言って、どこぞの国に通報して捕まえてもらっても、ヒーローとして、賊を始末して来たコイツに課せられる刑は軽そうだ」

困ったという風に言うツナに、バニは、

「だから盗ませたんじゃない」

と、ニヤリと笑う。

そして、オクトパスが持っていた武器の中から、小さなナイフを見つけると、

「サードニックスのナイフ」

と、気絶しているオクトパスに、サードニックスのナイフを握らせ、

「伝説の飛行機乗りを狙ったなんて、結構な話題性。サードニックスのナイフを持ってるなんて、すーぐサードニックスの耳に届いちゃうね。コイツが目を覚まして、どこへ行っても、この場所からの足取りは逃げる範囲も知れてるから、直ぐにバレて、サードニックスが探し当ててくれるでしょ。生け捕りにされるか、その場で殺されるか、わかんないけど、私等には関係ない。これラビさんの考え」

「準備周到だな」

そう言ったツナに、バニは、流石ラビさんでしょと、ニコニコ笑顔。

「そういう事なら、便乗させてもらわねぇとな。だがな、バニ、俺はお前等を許しちゃいねぇ」

と、ツナは額に巻いたバンダナを解き、腕に巻くとサソリのタトゥーを隠し、

「俺の大事な仲間、無事なんだろうな!?」

と、バニに剣を向ける。

「アニキ、私とやろうっての?」

と、バニも頭に巻いたバンダナを腕に巻いて、タトゥーを隠す。

「サソリ団としての絆がなくなりゃ、お前は血の繋がりもない赤の他人。ソイツが俺の仲間を拉致ったんだ、それだけじゃない、俺達のスカイピースも奪った。やるにゃ、充分な理由だ、だが、ひとつ、大きな問題がある」

「問題?」

バニは首を傾げ、聞き返すと、ツナは剣を下し、

「お前は、俺の誰よりも大事な親友の血の繋がった妹だっつー事だ」

そう言った。バニはハハハッと笑うと、

「そりゃ私を大切にした方がいいわ」

と、剣を仕舞い、

「逆に私に大切にされたきゃ、ラビさんと結婚でもしたらいいよ」

なんて言うから、誰がするかボケ!と、お前に大切にされたくもねぇ!と、ツナは怒鳴る。

「ま、アニキなんて大した利用価値もなさそうだし、幾らアニキがラビさんに何回も言い寄ってもね、ラビさんが全く見向きもしないから、何度でも無駄に頑張ってみたらいいよ、応援はしてあげる」

なに何回もフラレてるかのような言い方してんだと、1回も告ってもねぇし、好きだった事なんて一度もねぇし、寧ろ、こっちが願い下げだと、ツナは更に怒鳴る。

そして、今、バニは階段を見上げ、ツナも、バニの視線を辿り、階段を見上げると、しょんぼりした顔でリンシーが肩の力を落として、階段を下りて来る。

「おい、どうした? ラビを止めれたのか?」

元からそんな事は無理だろうし、リンシーの様子からして無理だったのは承知だが、一応、そう聞くと、リンシーは顔を上げ、ツナを見て、ううんと首を振り、

「最上階の方のシャッターを開けて、薄黄色した飛行機が飛び立ったのを見送っちゃったわ。彼女のバイクだけ残ってるけど、どうしたらいいのかしら」

と、今、階段下に辿り着いたリンシーの真横をバニが通り抜け、

「いいの、いいの、バイクは私が乗ってくから。あ、オクトパスは吊るし上げてもいいし、そのまま逃がしてもいいし、好きにしていいから。どの道、ソイツに逃げ場ないから」

と、バイバイとツナとリブレに手を振って、軽快な足取りで階段を上っていくから、

「おい、待て! カモメは無事なのか!?」

怒鳴るように聞く。すると、バニは階段の途中で足を止め、ツナを見て、

「カモメの役目が終わったら返してやるよ。でも、わかってるだろうね? その時はラブラドライトアイと交換だよ? フォックステイルのリーダーに伝えといて?」

と、そう言うと、駆け足で行ってしまった。だからカモメは無事なのか?と、まずそれを答えろよ、アホウが!と、丁重に扱ってなかったら、絶対許さねぇと、チッと舌打ちするツナに、リンシーは倒れているオクトパスや舎弟等を見ながら、

「ホントに倒したのね、一応、気絶してる内に縛った方がいいわね」

と、そんな事よりも飛行機が盗まれたのはかなりの痛恨と、元気ない表情で呟く。

「あの女、飛行機も操縦できるんだな」

と、ツナは溜息混じりに呟くと、リブレを見て、帰るかと囁く。

今、ツナの目の前に立ち、リンシーは、ツナの頬に触れ、

「随分とやられたわね、酷い顔」

と、少し笑って言うから、

「酷い顔は元々だ」

と、ツナなりの冗談に、リンシーはもう少しだけ笑って見せる。その笑顔が、懐かしくて――・・・・・・

「俺さぁ、ガキの頃、アンタの歌、聴いた事あるんだ」

「え? そうなの?」

「あぁ。歌なんてよくわかんねぇ俺でも聴き惚れた。そりゃオクトパスも暇潰しとは言え、聴きたかっただろうな。ちょっと悪い事した、倒す前に、聴かせてやるべきだった」

「子供の頃、私達、逢ってるの?」

「・・・・・・逢ったとは言えないかもな」

あれは〝出逢い〟ではなかったと、ツナはそう言うと、リンシーがツナの瞳をジッと見つめるから、ツナも見つめ返す。すると、

「リンシーから離れろ!!!!」

と、階段の上から大声で叫ぶ男。そして階段をドタバタと下りて来て、銃口をツナに向ける。

ツナはゆっくりと両手を上げ、降参のポーズをしながら、

「アンタのヒーローのお出ましか。ヒーローは遅れてやってくるって言うが、あれは遅すぎのヒーローだ」

と、リンシーに囁く。リンシーは、銃を構えているリーファスを見て、ふふふっと笑い、またツナに向き直ると、少し背伸びをして、ツナの唇に軽くキス。

リーファスが、悲鳴にならない悲鳴を上げ、口をパクパクと言葉にならないから、空気だけを吐き出し、だが、ツナは俺は何もしてねぇと、手を上げてるだろとばかりに、そのポーズのままで、リンシーの唇を受け入れた。

唇が離れると、ツナは、リンシーを見て、

「いいのかよ、好きな男の前で」

そう言うと、リンシーは、笑顔で、

「好きじゃないって言ったでしょ? 彼が私に惚れてるの。でも惚れさせるには駆け引きが大事、教えてあげるわ、恋はね、主導権を握った方が勝ちなのよ」

と、本当に勝ち誇る顔で言う。

「ハッ! 駆け引きねぇ、その割りに、俺はアンタに、恋に堕ちてねぇぞ?」

「勘違いしないで? アナタにしたキスは、駆け引きの必要ない、只のお礼よ」

と、リーファスの元へ駆けて行くから、

「女は怖いね」

と、ツナは呟く。そしてリブレを見て、

「俺達も帰ろう、俺達のヒーローの所へ」

と、お前だけが愛する女だと、リブレの頭を撫でる。

リーファスは、大丈夫なのか、どこも怪我はないのかと、リンシーを上から下まで見て、

「一体どうなってるんだ!? 上の階にいる男達はなんで倒れてるんだ!?」

「バイクで撥ね飛ばされて」

「バイク!? この地下にいる連中もか!? オクトパスまで倒れてるじゃないか!」

「それよりリーファス、怪我してるじゃない、大丈夫なの?」

「俺の事はいい! お前は大丈夫なのか!? あの男は――ッ!?」

と、ツナを指差したが、そこにいた筈のツナの姿がない。リーファスは、どこへ行ったと、キョロキョロするが、リンシーは、

「行っちゃったみたいね」

と、いい笑顔。その笑顔に、リーファスは、ツナが何者なのか、余計に気になる。

「・・・・・・誰なんだ、アイツ? オクトパスの舎弟じゃないのか?」

「違うわ、彼はね・・・・・・」

と、リンシーは、少し考えて、

「彼は本当のヒーローよ」

そう言うから、リーファスは眉間に皺を寄せる。そんな難しい顔しないでと、リンシーは、

「アナタは私のヒーロー」

と、リーファスの顔に出来た傷をツンッと触り、

「オグルさんの所へ行く? それとも傷の手当と休息が先?」

そう聞いた。

「なんだ、ジジィ来てねぇのかよ。ま、大丈夫だろう、コイツ等、全員をまとめて縛り上げて、それから傷の手当と休息と飯だ、それからジジィに聞かれる前に、説明が先! あの男・・・・・・本当のヒーローの話も、詳しく聞かせろ」

リンシーは、そうねと頷き、飛行機が一機盗まれた事は、美味しいご飯を食べて、とりあえず食欲を満たしてから話すのがいいわねと、思う――。


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