9.最強チーム

「やっぱり手紙の差出人って――」

「黙れ! パンダ! 絶対に口にするな! いいか、口にしたら、そうなっちまう事ってあるんだ! 余計な事は口にするな!」

ツナがそう怒鳴るので、パンダはわかったと口を両手で押さえる。

「しょうがない、ムジカナに行こう」

シンバはあからさまに嫌な顔で、ボクだって嫌なんだとばかりに、でも、そうするしかないだろ?と、ツナを見て、ツナは苛立った表情で、他にいい案はないのか!?と睨む。

「でも何故ムジカナなんだろう? 僕等の故郷へまた戻って、何があるって言うのかな?」

シカの言う通りだと、シンバも頷くが、カモメが、

「人目につかない場所って事じゃない?」

と、そして、

「ムジカナは港がない。ダムドエリアの港町まで船を動かしたんだ」

と、シンバを見て、

「どの道、ダムドエリアに行く予定だったよね? お父さんに会うんでしょ?」

そう言うから、あぁと、シンバは頷く。

「なら、諦めて、挑戦、受けてたつしかねぇか」

と、ツナは面倒だなと言う風に、呟く。

シンバも、面倒だとばかりの表情で頷く。

「挑戦なの!? 待ち合わせ場所を指定して来ただけだよ? デートかも」

パンダのお気楽な台詞に、ツナは額を押さえ、

「何故デートだと? この手紙の差出人は女と決定したのか!? あぁ!?」

と、パンダを睨みつけるから、パンダはフルフルと首を振り、

「そ、そういう訳じゃないんだけどね、でもね、その手紙の差出人が、オラが思ってる人で、しかもツナが言うように挑戦なら、もしかしてオラ達、いいカモになってるんじゃないかなぁ、だってラ――」

と、パンダは、名前を言おうとしてしまい、思わず自分で口を押さえる。

ギロリと睨むツナに言ってない言ってないと首を振りながら、

「でも船の操縦なんて出来るのかなぁ、バイクの運転とは違うよね? リモコン操縦壊しちゃって海の上で大丈夫なのかなぁ、しかも方角とかわかるのかなぁ、航海士とかいるのかなぁ、遭難したりしちゃわない? オラ、ラビとバニが心配だよ」

と、言ってしまい、言うなと言ってるだろとツナに頭をペシンっと、引っ叩かれるパンダ。ラビ一人じゃないよねぇ?バニも一緒なんだよねぇ?と、また名前を言うパンダに、口を閉じねぇと殺すとまで言われる。

この手紙の相手が、もし本当にラビとバニならば、出向くのは向こうの思う壺で、本来ならコチラから呼び出したい相手。

それに既にスカイピースを売ってしまってるかもしれないのに会う意味があるのか。

スカイピースを持っていた所で、こっちは何も考えなしで、準備もないのに、勝てる気がしない所か交渉さえ、うまくいかないだろう。

またスカイピースを奪われてしまうんじゃないかと不安が募り、だが、次へのステージはダムドに変わりない為、ついでと言うカタチで会う事を決めた5人。

また原点へ戻るかのように、故郷へ逆戻りのヒッチハイクの旅が始まる――。

その頃、ラビとバニは大きな海賊船のような造りの船でクルージング気分。

船旗はカジキのマークにバツ印をして、ウサギの可愛いらしい絵柄が描かれている。

そしてデッキの上でビキニ姿とサングラスで横たわるラビと、船の先端で剣を肩に置いて胡坐をかきながら遠くを眺めているバニ。

「ねぇ、ラビさん」

「なぁに?」

「ホントに、あの変な5人組、来るの? あんな一言メッセージだけで?」

「来るわよ」

「アニキはそんな単純じゃないと思う」

「・・・・・・アニキ? ソレってどっち?」

「どっちって?」

と、バニは振り向いてラビを見る。ラビはサングラスを下ろし、バニを見て、

「・・・・・・ツナの事よね。単品では単純じゃなくても男ってツルむと単純になるから」

と、シンバの事を兄だと覚えてないかと、微笑む。

「そういうもん?」

「単細胞って言葉が似合う生き物でしょ? 男は」

そう言ったラビに、バニはハハハッと大口開けて笑うが、少し考えて、

「でもさ、なんでアニキ、あんな連中とツルんでんの?」

と、不思議そうに問う。

「さぁ? 何か通じるものがあるんじゃない?」

「あんな連中と!? アニキが!? アニキ、結構、只者じゃないよ?」

「あら、あの連中だって只者じゃないわ、アナタだってフォックステイルは強いって言ってたじゃない?」

「確かに強いけど、あのコスプレなに!? 仮面なんか付けちゃってゴッコ遊びでもしてるの!? ダッサい尻尾つけて意味わかんないじゃん。髪の色は素敵だったけど」

まぁねと、ラビはクスクス笑いながら、

「確かに理解不能だけど、そういう意味ないの好きでしょ、男って」

と、言うから、バニはウケ狙い?と、更にラビを笑わせる。

ウケ狙いで城に忍び込んだり、賊相手に命懸けてやってると思ったら笑わずにはいられないのだろう。

「彼だけじゃないわ、カモメの発明やパンダの手先の技術、シカの薬調合の腕前は只者じゃないの。そこが通じ合ってるんじゃない?」

「確かに盗んだ発明品は凄いと思うけどさ・・・・・・やっぱ変だよ、アイツ等」

子供の頃、その変なアイツ等の後ろをついてまわってたと教えたら、否定しそうだとラビはずっとクスクス笑いっぱなしで、バニはそんなに面白い?とラビに不思議そうな表情。

そして、また遠くの水平線を眺め、海風に身を任せる。ラビは喉が渇いたと、

「トビー! トビー!」

と、誰かを呼び始めた。現れたのは、アレキサンドライトの下っ端として働いていたトビウオと言う男・・・・・・。

「へいへい、なんでしょ、ラビさん」

ヘコヘコと相変わらず腰の低い男だ。

「喉が渇いたわ」

へいへいと頷くトビーに、

「ねぇ、右へ向かった方がいいかも。左側から嫌なニオイがする」

と、見渡す限り何もなく水平線が光る景色を見つめて言うバニ。

嫌なニオイ?とトビーはクンクン鼻を動かすから、ラビはクスクス笑い、

「バニの言う通りにして。あの子の敵を察知する能力は素晴らしいの。剣の使い手ってみんなそうなのかしらね? 兎も角、海賊か海軍か何かが来るんだわ。右へ向かって?」

と、予め危険を回避するよう言うが、トビーは首を傾げ、

「しかし遠回りになりますよ」

そう言って、本当に敵が現れるのかと、何も見えない景色を首から下げているオペラグラスで覗いて見る。

「いいの。急がば回れって言うでしょ。早く船を動かして。それから飲み物も早くね」

と、ラビは日光浴続行。

バニは、ずっと胡坐をかいた姿勢を保っていて、剣は肩に置き、両腕を絡ませて、ずっと離さず持っている。

トビーはへいへいと、頷きながら、対照的な2人だなぁと、操縦室へ向かう。

女の中でも完璧に女と言う部分を持ったラビ、男より男らしさと男気のあるバニ。

メリハリのある柔らかいセクシーな体のラビ、引き締まった健康美でしなやかな体のバニ。

長いゆるふわカールの美しい髪のラビ、ベリーショートで猫みたいなキュートヘアのバニ。

そして白い肌に映える大きな瞳とルージュなしでも潤ってふっくらしたピンクの唇で、整った顔立ちで、美人の2人――。

そんな2人の傍にいれるなんて幸せだなぁと、トビーはニマニマしながら面舵一杯で船を右側へと移動させ、地図でルートを確認しながら、コンパスが示す方角へ進む。

ラビ御一行も、シンバ御一行も、ダムドエリアに着く頃、ダムド城下町で祭りの準備が始まる時季だと言う話が、エリア中で盛り上がっていた。

初代ダムド王が、ダムド城を完成させた記念日で、まるでニューイヤーの如く、この時季はダムドエリアで盛大な祭りが行われる。

そして毎年、祭り後には余韻を楽しむ為、サーカス団がやって来る。

「いい気なもんだなぁ、ダムドエリアのムジカナは賊に襲われて復興さえしてないのに」

カモメが小さな溜息混じりに言う。

「オラはもう復興しないと思うよ、あんな小さな村みたいな集落。誰も生き残っちゃいないって設定でしょ」

その設定誰が決めたの!?とパンダを見て、オイラは生き残ったのに!?と、眉間に皺を寄せるカモメに、戻りたいのか?と、シンバが問うが、そういう訳じゃないけどと、カモメは、ちょっと寂しく思う心境を言葉にできず、唇を尖らせて拗ねた顔。

「元々何もない集落みたいなトコだったんだ。長閑で、いい場所だったけど、観光客も来ないような場所を復興したって意味がない。無駄な金は使わないってだけだよ。でもよく考えたら、どうしてそんな場所に、あのベア・レオパルドが家を構えたんだろう?」

シカがそう言って、シンバを見る。シンバはシカを見て、そして、カモメ、パンダの視線を感じ、皆を見ると、少し考えたふりをして、

「さぁ? でも、そういう所に家を建てる理由って言ったら1つしか浮かばないよ」

と、苦笑いして、

「他に女がいたんじゃない?」

そう言って、目線を下におろしたが、リブレと目が合い、また顔を上げる。

「あのベア・レオパルドが? 英雄だよ? 他に女がいた?」

そんな筈ないだろと、カモメは言うが、シンバはどうかなと、

「他にどんな理由があって、あの英雄がムジカナなんかに家を建てる訳? 賊が来て焼き払われたら見捨てられるような場所だよ、ムジカナは。本拠地点のダムドからも遠いし、そこが英雄の出発地点って訳でもないなら、普通に考えて、そんな場所に最愛の妻と子供を置く訳ないだろ。まるで隠してるみたいにさ。あぁ、〝まるで〟じゃないな」

と、ベアを馬鹿にしたような口調で、或いは呆れたような表情で言うから、シンバが父親を嫌う理由ってソレか?と、カモメとパンダとシカは思う。

ツナは興味がないのか、どうでもいいのか、いや、シンバの心の奥を無理に穿り返したくないのか、特に話しに加わっては来ないが、黙って聞いている。

シンバは笑顔で、行こうと、歩き出し、皆、シンバの背に付いて行く。

ムジカナに着いたのは、すっかり夜と言う時間で、ムジカナのどこで誰が待っているのかと、シンバ達は、広い空き地で立ち尽くす。

「・・・・・・日にちも時間も指定してないもんな」

と、シンバは手紙を再び出して見る。

カモメはペンライトで空き地を照らし、

「この空き地で・・・・・・小さい頃、遊んだよな」

そう呟いた。パンダはコクコク頷き、

「オラとカモメは変人だって、みんなに言われてた」

と、笑いながらも、懐かしそうに言う。

「オイラ、小さい頃から発明ばっかだったし」

「オラも粘土とか布とか、いろんな素材で、妙なものばかり作ってたしな」

「僕はその頃から引き篭もって薬つくってた、余り今と変わらないね」

笑いながら、シカはそう言って、

「でも僕等は、それでも仲良しだったよ、みんな、声をかけてくれたし、遊びに行くのも誘ってくれたし、みんな楽しく笑ってた。仲間外れもあったし、悪口言われたり言ったり、怒ったり泣いたり、そういうのも今となってはいい思い出だね」

と、3人は遠い昔を思い出すように、何もない空き地に何か映し見ている。

だが、シンバにそんな思い出はなく、こんな所に空き地があった事さえ、知らない。

このムジカナで育った日々は、父だけを見つめた日々だった――。

「・・・・・・悪いな、なんかサソリ団のせいで――」

あんまり3人が懐かしんでいて、しかも、この有様のムジカナに、ツナは申し訳なさそうに、そう呟く。そんなつもりは全くない3人は少しうろたえていると、

「ボクはサソリ団に感謝してる。ツナのお父さんに、とても感謝してるよ・・・・・・」

と、シンバがそんな事を言い出し、

「おかげで今のボクがいる。ツナに出会えた事やカモメやパンダ、それからシカと友達になれた事。リブレにも会えて、ボクは今のボクになれた。結構、好きなんだ、今の自分」

そう言って、ツナに微笑んだ後、3人を見て、

「ごめんね、多くの犠牲を出した事を感謝してるなんて言って。カモメやパンダやシカの大事な家族や友人を失ってまで、ボクは今のボクがいいのかって聞かれたら、とっても困るけど、でも・・・・・・ボクはとてつもなく大きな犠牲を出して、ここにいるから――」

少し潤んだ瞳のシンバに、フックスの事を言っているのだと、4人は察する。

「きっとこれからもボクは誰かを犠牲にして生き続ける」

大きな罪だろう、沢山の犠牲の中で独り喜びを感じて生きる事は――。

しかしシンバにとって、多くの出逢いは宝物となり、奇跡の出逢いはかけがえのないモノで、今の自分自身となり、取り戻せない失ったモノがあるからこそ、儚く消えるモノがある事も知り、永遠ではない事も、完璧や完全なモノなどない事も、小さなチカラが集まれば奇跡を生む事も、そして何より正義が無力である事、悪は絶対的なチカラを持つ事を知った。知りたくない事も、たくさん知った――。

「俺はシンバの親父に感謝するよ」

シンバの親について何も聞かず、何も喋らなかったツナがそう言った。

「別に俺のオヤジに感謝するって言ってくれたからって訳じゃない。本当にシンバの親父には感謝してる。会った事もねぇけど、シンバと出会えた事、シンバと共にいれる事、シンバと一緒に目指すモノがある事、シンバとフックスの話ができる事、ずっと独りだった俺にできた最初の友達だからな、お前が存在してるだけで俺はどんなに救われたか。お前の御袋さんと親父さんに、どんだけの感謝を言えばいいだろうって思うよ」

「そ、それを言うなら、オイラだって感謝してるさ! 子供の頃からシンバは、みんなが憧れてて、オイラも・・・・・・だからまさか友達になれると思ってなかったしさ!!」

「うんうん、オラもシンバ様と普通に話せてるなんて、子供のオラが知ったら、おったまげるよ。シンバの憧れのフックスって人には命を救ってもらったけど、どういう人なのかは、あんまり知らないけどね、でもオラはフォックステイルが好きだよ、シンバと仲良くなれたから知った怪盗だ、そして今、その一員になれて嬉しいさ!!」

「生きてれば犠牲は当たり前だし、無意味な事も必要だし、多分ね、この星の時間の流れの中で起きる出来事は回避できない。助けたくても助けれない命はあるんだ。それは誰のせいでもないし、寧ろ、それを糧にして、いろんな感情を知って学んで、僕等は生きるんだよ。悔しさをバネに、悲しみを乗り越え、怒りを制御する事を覚え、抱いた憎しみを、僕等は優しさに変える奇跡を知ってるんだ。プラスとマイナスがうまく働いてる。凄いよね、大嫌いだと思う奴にも、大好きだと思ってくれる人がいるなんてさ。シンバくんには、そういう大切な事、教えてもらったよ。僕を悪魔だと言う人・・・・・・でも、天使と言う人もいたってね――」

ツナとカモメとパンダとシカの台詞に、シンバは少し笑って見せ、

「いつかボク等も誰かの犠牲になる時があったとしても・・・・・・ボク等のいなくなる世界で、ボク等のやって来た小さな事が誰かの糧になればいいね、例え憎しみでも感情を抱いてもらえたら、ボク等の存在が役に立った事になるのかな、例え誰にも知られない無意味な命だったとしても、ボク等の存在は無駄じゃないと生きて来れた事に感謝できるかな」

と、今日まで歩んで来た道のりは間違いじゃないんだと思う。

振り向いてもらえなかった父の背も、妹を置いて逃げてしまった事も、フックスの死も、なにもかも、それはここにいられる奇跡に繋がる事で、これからもっと過酷な事がある出来事も、これからも生きていく糧になるのだと、星空を見上げる。

シンバが見上げた夜空を、ツナも見上げ、カモメもパンダもシカも見上げると、リブレも見上げ、今、流れ星が、皆の目に映り、強い絆という友情を感じた瞬間、

「キんモッ!! 男同士なんかキモいって!!」

と、バニの声と、

「遅かったわね、待ちくたびれたわ」

と、ラビの声。

「出た!!!! ラビバニ!!!!」

と、何故か、男5人は声を揃え、そう叫び、後ろへ後退。

「ラビさん、待ちくたびれたって? 今来たとこじゃん?」

「バカね、バニ。男には、そう言っておくものなの。例え、指定した時間を大幅に遅れてもね。そうすると、男の方が謝るから、許してあげればいいのよ」

「成る程! 流石ラビさん! その方が優位に立てるもんね! よし!」

と、バニは頷くと、

「待ちくたびれたじゃないの!!」

と、男達を睨みつけ、怒鳴り出す。

「今来たとこっつってたろ、お前!?」

と、怒鳴り返したのはツナ。

「待って下さいよぉ、ラビさん、バニさぁん」

と、暗闇の道を荷物を持って駆けて来る男に、

「トビー!?」

と、シンバとカモメとパンダとシカが声を上げる。知ってる奴か?と、ツナはトビーを見る。

トビーも、シンバ達を見て、いや、シンバだけを見て、

「へいへいへい? アンタ・・・・・・もしやあの時の少年? こりゃ驚いた! 大人になりましたねぇ、随分と! 逞しく成長されて! 髪の色は、成長と共に変わったんすか?」

と、アレキサンドライトの時の事を思い出し、笑顔で近付いて来る。

「なんでここにいんの!? アレキサンドライトの宝を持って逃げて、真っ当に生きるんじゃなかったの!? そして仮面を付けてないボクを、どうして、あの時の少年だとわかったの!? なんか凄い普通にイロイロ見破ってる!?」

あの頃は目線が同じだったが、今となってはシンバの方が背が高い為、シンバはトビーを見下ろし、驚きを隠せずに、大きな声を高めにして聞いた。

「真っ当っすよ、美女2人に囲まれ、あの頃に比べると雑用も毎日が楽しいっす!」

駄目だろと、シンバは額を押さえ、

「まさかアレキサンドライトの宝を盗られちゃいないだろうな?」

そう聞くと、まさか!と、トビーは目を丸くして、そこまでマヌケではないと、

「ラビさんに、ちゃんと預けて保管してもらってるっす! 誰にも盗られちゃねぇっす!」

と、駄目だろと、男5人で額を押さえ、首を振る。

「ねぇ、こんな空き地で立ち話してもしょうがないわ、どこか家の中に入りましょ? もう夜も遅いし、休める場所が必要でしょ?」

「それって立ち話で済まないって事? ラビ、ボク等に何の用?」

「あら、シンバ、アナタはアタシに用はないの?」

「あるよ! 船返せよ! スカイピース返せよ! それ以上、見んな! 石化する!」

怒鳴るように言うシンバに、ラビはクスクス笑い、バニは、アイツなんなの?と、シンバを睨み、トビーはラビさんに生意気な口を聞くなと怒り出す。

「どうして船を返せなんて? 船なんて知らないわ、言い掛かりよ」

シレッとそう言ったラビに、

「じゃあ何か!? その日焼けは、どっかのリゾートで楽しんで来たってのか!? こんがり綺麗に焼けた肌で海にいましたとばかりに現れて、言い掛かりも何もないだろ!!」

もう冷静さを失って、怒鳴り散らすシンバ。ラビはそんなシンバに、クスクス笑い続けながら、

「そんな事よりシンバの家に招待してよ、子供の頃、行ってみたかったの」

と、大きな屋敷を顎で差すようにして、見上げるラビに、シンバも屋敷を見上る。

ラビはシンバの返事など聞かず、屋敷へ向かってサッサと歩き出し、バニとトビーはラビの後を追うから、カモメがどうすんの!?と、シンバを見る。シンバはムッとした表情で、屋敷へと歩き出し、皆もシンバに付いて行く。

暗い夜に浮かび上がる大きな屋敷は不気味だ。

トビーが荷物の中から蝋燭を出すと、シカが持っていたライトを点けようとしていたが、ソッチの方が雰囲気出るねと、ライトを引っ込めた。

カモメが、何の雰囲気だよと突っ込み、パンダがお化けが出そうな雰囲気だよと答え、ツナがバカだろと溜息混じりに呆れる。

確かに、そんな雰囲気を出してどうするのだろうと、シンバも思うが、バニがお化け屋敷だと喜んでいるので、お前の家だったんだぞと言う突っ込みを抑える事を優先に精一杯。

ラビはお化けも怖くないのか、楽しくもないのか、平然とした顔。

小さな庭は雑草で草が好き放題に生え、窓ガラスも割れてる所もあり、屋敷のドアは壊れていて、前にサソリ団がここを暫く使っていたので、中も結構荒れていたが、家具も略そのままの位置にあり、ソファーとテーブルのあるリビングへと、皆は進んだが、シンバ1人、階段を上り、自分の部屋へと向かった。

白いドアを開けると、殺風景な部屋で、開いたままのクローゼットの中には小さな服や帽子などが掛けられていて、ベッドと机と本棚と、それから竹刀が置かれていて、とても見覚えのある場所なのに、何故かちっとも懐かしさを感じない。

シンバはベッドに腰を下ろし、ここに座ってバニに本を読んであげたっけと思うが、記憶は鮮明に思い出しても、この家のニオイにさえ、何も感じない。

つくづく、自分の始まりはここではないんだなぁと思いながら、月明かりで照らされただけの薄暗い部屋を見回す。

そして、カーテンが開いている窓に近付き、月を見上げると、とても懐かしさで一杯になっていく。あの日も、あんな風に月が雲に見え隠れしてたっけと、自分の髪を触りながら、フックスが切ってくれたなぁと思い浮かべる――。

――初めてボクがフックスに会った時、ボクはフックスを賊だと思ったっけ。

――ねぇ、フックス、あの時、ボクに見せてくれた魔法。

――手の中に飴玉を出す魔法は、今はボクの一番得意な魔法だよ。

明日の朝早く、フックスが眠っている崖の上に行ってみようと思っていると、下で自分の名を呼ぶ声が聞こえ、シンバは部屋を出て、リビングへと向かった。

あちこちにランプを置いて、火を灯しているが、薄暗く、キッチンではトビーが食材を持って来たからと、何やら料理をしているから、釜に火を点けれたのか?と、火事にならないようにしろよと、ちょっと心配になる。

なんせトビーはヌケ過ぎている。

「ねぇ!」

リビングに足を踏み入れた途端、突然、バニがドアップで近付いて来たから、

「なんだよ!?」

と、驚いて、下がって、バニを見ると、

「フォックステイルってアンタ?」

そう聞いて来た。

「何? 何の話?」

「とぼけるなよ、アンタなんだろ? 私と剣を交えて、私の動きを読んだっしょ?」

「なんで動きが読めたのか聞きたいのか?」

「そんなのはどうでもいいよ、私の動きが読めても私のが強いもん」

「どっからその自信が来るんだ? お前もラビも」

「事実じゃん。フォックステイルって決着つけないで、最終的には逃げるじゃん。私は逃げないもん。強いから。それより髪の色、どうやって変えてるの?」

「は?」

「あの髪の色、素敵! 私、嫌なんだよ、このオレンジ! 変えたいんだよね」

「・・・・・・」

黙っているシンバに、ねぇ!と、バニは顔を向けると、シンバの髪色をマジマジと見て、

「アンタ、私と似てるね、カラーが」

そう言った。

「そりゃ血が繋がってるから似てんだよ」

と、シンバは、そう言って、バニの横を通って、リビングに入り、バニは、今何て言ったの?と、シンバを追うように引っ付いて行く。

「ラビ、ボク等を呼び出した理由はなんだ? しかも何故ムジカナに?」

シンバはソファーに座っているラビに早速質問。

それぞれ自由にリビングにいるが、壁に背持たれて突っ立っているツナ、そのツナの横でお座りしているリブレ、電気の配線はどうなってるのか、椅子をテーブルの上に置いて、その椅子に乗って、天井を開けて見ているカモメ、料理まだかなぁと、言いながら、カモメが乗っている椅子を、手で押さえているパンダ、棚の中にあるウィスキーやワインを手にとって見ているシカ、皆、揃って、今、ラビを見る。

「アナタ達、ダムドに行く予定だったんじゃない?」

「盗聴でもしてるのか?」

「と言う事は当たり?」

「あぁ、そうだよ、当たりだ、ダムドに行く予定だった。それでボクの心を読んだつもりか? ボクも読んでやろうか? ラビ、お前の狙いはボクから更にスカイピースを奪おうって魂胆なんだろう? ほら当たった!!」

「外れ。アタシが欲しいのは別のモノよ」

そう言われ、男5人は嘘だろと、騙されないぞと、ラビを見る。シンバは、

「なら、なんでボク等の行く先を当てた?」

と、スカイピースが狙いだからだろ?と、眉間に皺を寄せて尋ねる。

「ツナ、アナタはジェイドの地下室の書庫でスカイピースについて調べてたわよね? シンバ、そしてアナタは言ったわよね、スカイピースは母の形見だって。という事は、アナタのお母様がスカイピースの持ち主だったって事よね? スカイピースが何か、ジェイドの書庫では何も得れなかった筈。なら持ち主に聞くのが一番だわ。アナタ達はソレに気付いた。だからアナタ達はダムドへ行くのよ。シンバのお母様の事を一番よく知ってる、シンバのお父様に会いに行く為に――」

そのラビの説明に、男達5人はシンと静まり返った挙げ句、ピクリとも動かなくなった。

完璧に次の行動を読まれてしまっているからだ。

これはうまく事を運ばないと、トビーのように顎で使われると、シンバは、

「・・・・・・黒幕は誰なんだ?」

そう聞いた。

ラビは、欲しいのは別のモノだと言ったが、そんな筈はない。

それは絶対に嘘だと、ラビの狙いはスカイピースに違いないと考える。

だが、ラビとバニの2人だけでスカイピースを集めようと考えるとは思えない。

集めた所で、何が起こるのか、わからないモノを、つまり、何も起こらないかもしれないようなモノを、そして、自分達の得になるのか、わからない得体の知れないモノを、探す2人だとは思えないからだ。

そしてラビもジェイドの書庫でスカイピースについて書かれた物はないか、ツナより先に探している。

つまりラビもスカイピースが何かを突き止めたい筈。その理由は・・・・・・

黒幕がいて、ソイツがスカイピースを集めているから、ラビはスカイピースの値打ちを知りたいが為に、ソレが何かを突き止めたいのだろう。

だが、何かを突き止めると言う事は価値を知ると言う事。

ラビにとってスカイピースが高価値なものならば、黒幕を裏切る事も有り得るって話しだ。

という事は、スカイピースはまだ黒幕に渡してない可能性が高いとシンバは思う。

ラビの答えを待つ時間が長く感じ、緊迫した空気の中に身を置くようで、しかもラビが本当の事を言うのか、それとも嘘の答えで騙してくるのか、それを見破れるのかと、必死で脳をフル回転していると言うのに、

「ねぇ! 髪の色! どうやって変えてるの?」

と、背後でバニがこの雰囲気に似つかわしくない台詞と口調で話しかけてくる。

しかも今その話全く関係ない!

バニの台詞で、ツナ、カモメ、パンダ、シカは一気に脱力し、シンバも頭の中が真っ白になってしまった。振り向いてバニを見ると、

「教えない気? だから無視? ケチくさいなぁ、いいじゃない、教えてよ」

そう言うから、お前ホントにバカだろと言いたくなる。

我が妹ながら、こんなんでいいのか!?と、シンバは、

「髪の色を変えたいならアルコールでも塗って乾かして色落とせばいいだろ! オレンジが、金髪にでもなるだろうよ!」

イラッとした口調で言う。

「痛むでしょ! 私の髪、柔らかいから。でもアンタの髪、痛んでないし、それにあの色が気に入ったの、ブロンドとは違うけど、上品で、でもちょっとロックな感じの色で、渋いよね、カッコいいから、あれがいい。あれ、何色って言うの?」

ロックってなんだ?と、シンバは眉間に皺を寄せ、うっとうしそうにバニを睨み、

「アンバー」

そう答えた。

「アンババァ? 誰それ? どこの婆さん? 何の話?」

「アンバー!!!! 髪の色だ!!!!」

シンバはバニに苛立ち、ラビを見ると、

「なんとかしろよ、コイツ!! 話が進まないだろ!」

そう怒鳴る。ラビはクスクス笑いながら、

「バニ、その話は後でゆっくりね、シカにでも聞くといいわ」

そう言った。バニはシカ?と、どいつ?と、カモメとパンダとシカを見回す。

「今はいいから、バニ、こっちで大人しくしてて?」

ラビがそう言うと、ハァイと拗ねた顔で、ラビの隣に行き、ラビの横に腰を下ろし、ソファーに座るから、随分とラビの言う事には聞き分けがいいんだなと、思う。

ラビは隣に座ったバニを見て、

「懐かしい?」

そう聞いた。バニはキョトンとした顔で、何が?と――。

「ここ、アナタが小さい頃、住んでた屋敷なのよ」

「私が?」

「ここに集まったみんなはね、アタシが小さい頃、このムジカナで一緒にいた幼馴染なの。ムジカナが賊に襲われた後、カモメとパンダとアタシはフォータルタウンの孤児院へ。でも別の孤児院に移る事になって、そこにツナとシンバがいたのよ」

フーンと、バニは頷いてはいるが、余り興味なさそう。

「アナタはどこの孤児院にもいなくて、死んだと思ってた。でもサソリ団にいた」

「・・・・・・うん? それってどういう意味? 私も幼馴染とか言い出す?」

ラビはクスクス笑いながら、

「だって、この屋敷に住んでたのよ、アナタとシンバは――」

そう言って、バニは一瞬フリーズ。というか足りない頭で考えているようだ。

考えすぎて、今にも頭がショートしそうな表情をし始める。

すると、パンダが、

「カモメ! 良かったね、あの様子だと、バニは何も覚えてないみたいだから、カモメが、バニをいじめた事も忘れてるよ!」

なんて言い出し、カモメは椅子から落ちそうになりながら、

「バババババ、バカ!! い、いじめてなんかっ!!」

と、天井から配線を引っ張り、引き千切ってしまっている。

バニは、そんなカモメを見て、

「アンタ、私をいじめてたの?」

そう言って、嫌な奴だとばかりにカモメを見るから、カモメは違う違うと必死で首を振る。

「アンタがカモメで、そっちのデブは?」

「オラ、パンダ。バニちゃんは小さい頃、泣き虫で、オラのお腹でわんわん泣いてたよ。ちなみに、オラも、ちょっとからかったりして、いじめたりした」

「私が? アンタの腹で泣いた? ガキの私って男を選ばなかったみたい」

と、バニはラビに言い、ラビはクスクス笑いながら、そうねと頷き、パンダは笑顔を絶やさず、しかし、それはどういう意味?と、目は笑ってない。

「で? そっちのイケメンは?」

「僕はシカ。殆ど家で引き篭もってたから、普通に覚えてなくて当然だけど、バニちゃんは、僕に大きくなったら結婚してねってプロポーズして来たよ、ソレ今でも有効だけど?」

「嘘でしょ?」

「はい、嘘です」

「つまりどっちが? 有効が? それともプロポーズした事が?」

「どっちも嘘だよ、そういう事にしておいてあげるね」

ニコニコ笑顔で、本当にどっちか全くわからなくなる答えを言うシカに、バニは、からかわれているとわかると、ムカつくと、アイツのお綺麗な顔をボコボコにしていい?と拳を握り、ラビを見る。ラビは、後でねと笑顔で頷き、シカが駄目って言ってよと笑顔で突っ込む。そして、バニはツナを見て、あれはよく知ってるアニキだからと、シンバを見て、

「じゃあ、残ったアンタがシンバだ。なんでアンタが私と、この家に住んでたの?」

そう聞いた。

「なんでって少しは察しろよ、髪と目と肌のカラーでわかるだろ? お前はボクの血の繋がった妹なんだよ」

「フーン、で?」

「で? って???」

「だからなにって」

「・・・・・・は? だからなにって、ボクは、お前の兄なんだ!」

「だから、それが何? あぁ、他に何かご要望でもあるの? 涙のご対面とか? 覚えてもない奴にオニイチャーン会いたかったよぉって泣きつけって? 無茶振りしないでよ。そっちが懐かしいなら、泣きついて来てもいいけど? でも受け止められないのは承知でやってね? 抱き付きは禁止、見知らぬ男に近付かれただけで、気持ち悪くて殴っちゃうから、私」

こんな生意気な奴だったか!?と、シンバはムッとしてバニを見て、

「ボクも懐かしくはないから抱きつかないし、泣かないから安心していい。お前が、なんで、ボクと、この家に住んでたのかと聞いたから、兄だったと答えてやっただけだ。それを、お前が、で? とか、 だから何? とか言ったんだろ。言葉のキャッチボールくらい、ちゃんとできるようになってから、人に話しかけろ」

そう言った。バニは、ムッとして、立ち上がると、シンバを見て、

「なんだよ! さっきから生意気な奴だな!」

そう怒鳴るから、シンバも、

「お互い様だ!!」

と、怒鳴り返すと、ラビが、バニの手を引っ張り、ソファーに座らせ、

「兄妹喧嘩はやめてね。血の繋がりがあると、離れて育っても似るのね」

と、笑っている。バニは、シンバを指差し、アイツ殺していい?と、ラビに聞いて、ラビは、後でねと――。

だが、バニの意見も、そりゃそうだと、シンバは、思う。

懐かしくなんて思う事もない程、シンバのよく知っているバニと大幅に違いすぎる。

今はもう、小さくて転げるように駆けて来た、あの頃のバニはいない。

そして、それはシンバもそうだ。

あの頃のシンバは、もういない。

「じゃあ、誰が誰なのか、わかった事だし、バニに質問ね」

と、ラビはバニにニッコリ微笑むと、

「この5人と手を組んで仕事できる?」

そう聞くから、ちょっと待てとシンバとツナが、

「こっちは手を組む気なんかないぞ!!」

同時にそう怒鳴る。バニはゲラゲラ笑いながら、

「凄いね、流石、私のアニキと自称アニキ。声揃ってやんの」

と、バカにしたように指を差して来るから、シンバは自称ってなんだよと呟き、ツナはイラッと来て、

「お前等が俺達にした事を忘れたとは言わせねぇぞ! 俺達と手を組みてぇなら、まず謝れ! スカイピースと船を返し、土下座でもしろ!」

そう言った。

「あら、そっちが土下座してアタシ達と組みたいと願い出るべきだわ、でもそんな低俗な事、アタシは要求しないであげるわね」

なんだとぉ!?と、ツナは喧嘩売る為に呼んだのかと、ラビ相手に、今にも暴れ出しそうなのを、シカが、冷静さを失ったら負けるよと、ツナを落ち着かせる。

「聞こうじゃないか、どうしてボク等が、ラビ達と組みたいと願い出るべきなのか」

冷静になっても口では負けそうだが、シンバは冷静に、そう問う。

「その前にアタシも聞きたいわ。アナタ達は何がしたいの? フォックステイルって何なの? 噂だけは知ってたわ、でもまさかアナタ達があの怪盗フォックステイルをやってるなんて驚いた。だってフォックステイルの噂って、アタシ達が子供の頃からあるらしいから。フォックステイルという怪盗団か何かに仲間入りしたのかとも思ったど・・・・・・このメンバーで全員みたいね」

と、ラビは、シンバ、ツナ、カモメ、パンダ、シカ、それからリブレにも目線を向ける。

「まぁ、アナタ達が何を考えてフォックステイルをやり始めたかなんて興味ないからいいけど、只、目的がわからないと、アタシと利害関係の一致で共に組めるのか、わからない。だから知りたいの。アナタ達はどうして賊から宝を奪ってるのに・・・・・・」

そこまで言うと、ラビは哀れみの目で男達を見て、

「貧乏丸出しで、どうしてそんなにカッコ悪いの? 汚らしい格好に、履き潰された靴、ホームレス並の持ち物。それから今時、車もバイクもなくヒッチハイクと徒歩!? 飛行機も船もなく、旅人? 何の為に宝を盗んでるの? 宝はどうしてる訳? フォックステイルってなんなの!? 理解し難い行動だわ、アナタ達の目的は何? 賊を殺さず倒して、賊達に悪行をわからせてるつもり? まさか世直しって訳じゃないでしょ?」

と、本当にわからないと言う風に男達を見回した。

ツナはシンバを、カモメはシンバを、パンダはシンバを、シカはシンバを、そしてリブレもシンバを見る。シンバがどう答えるのか、皆も聞きたいようだ。

フォックステイルは何か、そんな質問、誰にも答えられないのだから。

「フォックステイルなんて存在しない、そんな怪盗、この世にいないよ」

シンバはそう言うと、

「キツネか、何かに化かされたんじゃないか?」

と、茶化した。そして、

「・・・・・・ラビの目的はスカイピースの価値がどれ程のものか知り、高価値なら自分のもんにするって事だろ? ボク等の目的はスカイピースが、この世の悪となるか、正義となるか、無力か大いなるチカラかを知り、この世から葬るか、或いは誰の手に入っても問題ないならば、このまま誰かの手から手へと旅をさせてもいいかと思っている。もし何も問題ないならば、ラビにあげてもいい」

と、首から下げている2つのスカイピースを出して見せる。

「ボク等は宝に興味ない。スカイピースに関しての宝はラビに譲る。1割もいらない。正し、これが大きなチカラとなり、世の悪となるならば、誰の手にも譲らない。ラビ、キミも手に負えないモノなど手にしたくはないだろう?」

「そんな話で、アタシが納得すると思ってる?」

「納得してもしなくても、ボクの話に偽りはない。ボク等が怪盗だろうが、ホームレスだろうが、宝はいらない」

「そう」

「で? ボク等がラビ達と組みたいと願い出る程、ボク等だけでは力不足なのか? スカイピースについて調べる事が、そんなに厄介とは思えないが?」

「ええ、スカイピースについて調べる事は然程、厄介ではないわ。アナタが父親から聞けば済むだけの事。厄介なのはラブラドライトアイを手に入れる事なの」

ラブラドライトアイ!?と、皆、シカを見て、シカも僕?と、自分を指差す。

「言ったでしょ? アタシが欲しいモノはスカイピースじゃないって」

と、胸の谷間から長細く巻かれた紙を取り出すから、なんて所にモノを仕舞ってるんだと男達は思い、あんな所にスカイピースが仕舞われていたら奪えないじゃないかと、シンバとカモメとパンダは思い、あんな所に隠すなんて、どさくさに紛れて胸を触っていいって事かなと、シカは思い、隠す所がイッパイあって女はいいなぁとツナは思っている。

ラビは蝋燭の灯りをテーブルの端に置くと、巻かれた紙を広げて、皆に見せる。

「・・・・・・ダムド城内にあるシークレットルームの見取り図よ」

なんだって!?と、シンバ達はテーブルの周囲に集まって、用紙を覗き込んだ。

「月に一度、ダムドの専属電子工学者が、装置の点検に中に入るの。その時に紛れ込んで手に入れたもの。完璧に正確なものではないけど、略、正確な見取り図よ」

そのラビの台詞に、装置?と、皆が、ラビを見て、また見取り図を覗き込む。

「中央の部屋には複雑な装置があって、その真ん中にラブラドライトアイの目玉が液体に漬けられて置かれてる。常に微弱電流が流れてて、瞳の色が常に変化する。つまりラブラドライトアイであると常にわかる為に色を変えさせてるって訳。その部屋に忍び込むには部屋中に張り巡らされたレーザーを回避しなきゃ駄目だし、そのレーザーは触れると警報が鳴るだけじゃなく、一瞬にして触れたモノを熱で溶かしてしまう。それだけじゃないわ、小さな音ひとつ鳴ると、その鳴った音の場所で天井から機関銃が出てきて連射。私が、今欲しいのは、この厳重な装備の中にあるラブラドライトアイよ」

何故ラブラドライトアイの目玉が、ダムドで、そんな装置に繋げられているのか、しかもシークレットルームでとなると、とても興味深いが、

「・・・・・・ボク等はそんなものいらない。なのにボク等からラビに願い出て、手を組みたいと言う理由はどこにいった?」

シンバは、そう言って、ラビを見る。

「シンバ、もしこのラブラドライトアイを手に入れられるならば、アナタ達にサードニックスの船内の見取り図と船員全員の情報、勿論キャプテン・ガムパス・サードニックスの情報も教えるわ。持ってる武器も癖もなにもかも・・・・・・知りたいでしょ? どう? 土下座して願う程に、このアタシと組みくなったんじゃない?」

シンバだけじゃない、ツナもカモメもパンダもシカも驚愕の表情で、ラビを見ている。

もしラビの言う事が本当なら、是非、サードニックスの情報を手に入れたいものだが、何故そんな情報、ラビが持っているのか?

誰もが欲しいネタだ。

買う奴等は大勢いるだろう。

賊達も無敵のサードニックスの情報が得られるならば、勝てる可能性もある。

国々の軍もサードニックスの情報があれば、捕まえられる可能性がある。

しかも船の見取り図なんて、うまくいけば、サードニックスの船に忍び込める。

サードニックスの空飛ぶ船の設計図を盗みに入る事も、シンバの今後の計画の内。

ならば、喉から手が出る程、欲しい情報だ。

だが、そんな情報、誰も手に入れられない。

相手はあのサードニックス――。

「・・・・・・まさか、お前達の黒幕ってサードニックス!?」

そこまでサードニックスについて調べられるとしたら、怪しまれず潜り込める奴しかいないだろうと、シンバがそう聞くが、ラビは、ふふふっと怪しげに笑みを溢し、

「どうなの? アタシ達と組むの? 組まないの?」

と、黒幕の正体を言う気はなさそうだ。ならば違う質問だと、

「・・・・・・ダムド城のシークレットルームにあるラブラドライトアイって、なんなんだ?」

シンバはテーブルの上に広げられた見取り図を見て問い、そして、

「只の目玉に装置で装備? レーザーに機関銃? そこまでして目玉を守るのは?」

と、ラビを見る。

「只の目玉じゃないわ、ラブラドライトアイの瞳――」

そう言うが、シンバは首を傾げ、シカを見て、シカに手の平を向けて差すようにした後、

「シカもラブラドライトアイだ、厳重な装備の元、守るべき?」

と、意地悪な質問をする。ラビはクスクス笑い、

「ラブラドライトアイって、悪魔の瞳って聖書で伝えられてるわよね」

と、説明を始めた。

「僅かに残っている書物では、天使の瞳とも言い伝えられてるみたいだけど、ソレを知る人は少ない。それと同時に、天空人について伝えられている事も・・・・・・ソレを知る人は天使と言う言い伝えを知る人より少ない」

天空人?と、男5人は難しい顔を固まらせ、ラビを見る。

「歴史にも記録されてない話があるの。ソレは天空人の歴史だから、人の歴史には残さなかったのね。だからアタシも余り知らない。調べるにしても何もない話に等しいから。でも嘗て、この世界は、幾つモノ大陸が空に浮いていたらしいわ。ある物語でフィクションとして描かれている空島や空中都市、それから天空の城なんてのもあるけど、空想世界に過ぎない。でも現実にソレが存在してた時代があったの。その空に浮いた大陸の住民を天空人と言って、彼等は皆、ラブラドライトアイだったらしいわ」

「わぉ! 僕の先祖で天空人がいるんだ」

と、シカはふざけた口調で笑いながら、そう言って、ラビも、かもねと、クスクス笑う。

「笑い事じゃない!」

そう言ったのはカモメだ。みんな、カモメを見ると、カモメは凄い怖い顔で、

「空に船が浮くだけでビックリな技術で、今の文明で普通に考えて有り得ない話なんだ。それが大陸が幾つも浮いてた? つまりそれは高度文明を意味するんだ、1つや2つの島が浮いてる訳じゃない、幾つもだ! そんな技術を持った文明に生きる人がいた。それがどんなに恐ろしい事かわかる? オイラにはわかる。それがどんなに怖いものなのか。高度な技術で与えられたチカラは魔術と見分けがつかない、いや、魔術そのものだ」

と、わかるだろ?と、シンバを見て、

「魔法使いが一杯いたら、どうなる? 人とは違うモノを手にするソイツ等は人と相反する。人はソイツ等を悪魔と言うだろう。魔法使いの仲間同士は己を褒め称え天使と言い合うかもしれない。でもオイラ達は魔法使いじゃない。シカも先祖がどうであれ、魔法は使えない。だから魔法使いと言われたかもしれない人の目玉なんて手に入れたら呪われる。今のボク等の時代に空に浮かぶ大陸なんて1つもないんだから」

真剣に言うから、シンバはコクコク頷き、

「信憑性のある話だが、実話とは限らない」

そう言って、ラビを見ると、ラビもそうねと頷き、

「兎も角、そのラブラドライトアイを欲しいって人がいて、とてもいい金額なの」

急に現実的な話になる。

「天空人なんて信じられないけど、実際にラブラドライトアイは今も時々、この世に現れて、悪魔の誕生だと人々に恐れられたりしてるわ。そのラブラドライトアイの瞳が、ダムドのシークレットルームにあると言う事を知った依頼主が、多額の金額で買いたいと言って来たのよ。ねぇ、手伝ってくれるでしょ?」

「そのラブラドライトアイは何故ダムドに保管される事に? 普通は博物館とかじゃないの?」

「ラブラドライトアイは世界の恐怖よ。その悪魔の瞳を保管する事に、大国は手を引くでしょ。博物館や美術館のミュージアム系は、大体、大国になるじゃない。残るは小さな国で、小国は大国に無力だから、そういう厄介なモノを押し付けられるものよ。ダムドが小さな田舎にある城にも関わらず、軍にチカラがあるのは、昔からの不思議として言われてるけど、恐らくラブラドライトアイを保管するに辺り、強い者を王が集めて来たのね。ダムドの歴史を見ればわかると思うけど、ダムドから戦争を仕掛ける事があっても、ダムドに戦争を仕掛ける国はいない。大国さえ、ダムドの軍の強さを態々認めてる。つまりダムドの秘密部分に触れたくないって訳」

「・・・・・・ボク等が盗むモノじゃない」

そう言ったシンバに、ツナもカモメもパンダもシカも頷く。

フォックステイルのターゲットは汚れた金であり、ソレを綺麗な場所へ戻す事。

だが、サードニックスの情報は手に入れたい・・・・・・。

拒否する台詞を吐いても迷っているシンバに、ラビは気付いている。だから、

「盗んだと思われなきゃいいんじゃない? 得意でしょ? そういうの――」

そう言って、ラビはシンバに優しく微笑む。そして皆を見回し、

「何の為にアタシがアナタ達を呼び出したと? パンダならラブラドライトアイを本物そっくりに作れるでしょ? シカならレプリカの瞳でもホンモノの瞳でも漬けておける液体を作れるでしょ? そしてカモメなら完璧なラブラドライトアイを作る為の分析装置を作れるでしょ? シンバとツナなら、バニと一緒に、あの重警備なダムドに潜り込めるでしょ?」

いや、お前は何するんだ?と、ツナは言うが、問題はそこじゃないと、

「ニセモノと摩り替えろって?」

と、シンバが言う。その時、

「ご飯にいたしやしょう」

と、右手に料理の乗った皿を2枚、左手に3枚を持ち、見取り図の上に置いて行く。

おいおいと、シンバ達は思うが、ラビは微笑んでいるだけなので、コピーがあるのか、頭に入ってると言う事なのか――。

「どの道、その話は無理だよ」

と、カモメが笑顔で、そう言って、

「完璧なラブラドライトアイを作る分析装置なんて作れない。オイラ達にそんな金ないから。さ、わかったら、この話は終了して、飯食おう」

と、スプーンは? フォークは? ナイフは?と、トビーを見た瞬間、

「その資金を渡すわ」

ラビがそう言った。

「ラビさん? 資金なんて渡す金あんの?」

と、バニが言うから、偽札でも渡す気か!?と、

「言っとくけど、結構な金が必要になる! お小遣い程度じゃないんだぞ、無理するなよ、オイラ達にハッタリかましても意味ないからね。だって現金前払いだからな! そうだよな? シンバ?」

と、カモメが反撃し、シンバに同意見を求めるが、

「前払いで渡すわ」

と、余裕のラビ。シンバは如何わしい表情を浮かべながら、

「そんな大金を持ってるのか? ラブラドライトアイを買うって言った人から、先に金を受け取ったのか?」

そう問うと、ラビは、

「まさか。アタシが持ってるのは、アレキサンドライトの宝よ」

シレッとそう答えた。シーンと静まる中、

「流石ラビさん! そんな宝を持ってたっすか!? いやぁ、なんかよくわかりませんが、良かったっすね! 資金を渡せて! どーんと渡して、どーんと稼ぎやしょう!」

と、嬉々とした声を上げるトビーに、いいのか?お前の宝だろと、皆、無言で思う。

そして皆、どうするの?と、シンバを見る。

種も仕掛けもバレなければいい。

ならニセモノに摩り替えても、問題ない。

資金もある。

手に入れたいサードニックスの情報と引き換えの仕事にしては安いかもしれない。

「わかった。だけどラビの信用はない。だから条件がある。サードニックスの情報は先によこす事。報酬を先にもらってもボク等は逃げたりしないし、やると決めた事は最後までやり通す。だが、ボク等と組みたいならば、もう1つ、絶対的な条件がある」

「何かしら?」

「これから先、絶対に何があっても人殺しをするなとバニに言え。バニはラビの言う事なら聞くんだろ?」

はぁ!?と、バニはシンバを睨み、

「なんでアンタにそんな事言われなきゃなんない訳!? アンタに関係ないでしょ!?」

そう吠える。

「関係なくない! 大体それだけの剣術を持ちながら、なんで簡単に殺すんだ!? お前程の剣士なら攻撃を受け流せるだろ! なのにどうして人を殺すのか言ってみろ!」

「受け流す? バカじゃん。いちいち面倒な手順踏みたくない。パパッと片付ける方がいいじゃん。それに殺さなきゃ殺されるかも。もしかしたら自分が殺されるかもしれないってのに、いちいち自分以外の命を気にしてられない」

と、ズイッとシンバに顔を近づけ、睨みつけて来るバニに、シンバも負けず睨み返し、

「自分は殺されたくないのに、相手は殺すのか!?」

「殺そうとして来るから殺すの! 正当防衛って知ってる?」

「お前のその強さで、正当防衛なんて成り立たないんだよ!」

「弱い奴は死んでいいんだよ!!」

「弱い奴も、お前と同じ命なんだよ!!」

「誰を殺そうと、誰が死のうと、テメェに関係ねぇだろ!!」

「だから関係あるっつってんだろうが!!」

「何の関係があんだよ!!」

「お前はボクの妹なんだよ!!」

「は? だから何!?」

と、バニが、拳を握り締めたので、ラビが、

「やめてって。兄妹喧嘩は」

そう言って、ラビの肩に手を置く。カモメも、

「ま、まぁまぁ、まぁ・・・・・・シンバも落ち着いてよ。だって、しょうがないよ、バニは賊だったんだし、その辺の事は、また、ゆっくりと教えた方が・・・・・・」

と、カモメがバニのフォローをするが、

「ツナも賊だったよ! でもツナは誰も殺さない!!」

シンバはバニを睨んだまま、カモメにそう吠える。

こえぇとパンダが、シンバとバニの睨み合いに、身を小さくさせる。

「アニキはアニキの考えがあるだけでしょ!? 私は私の考えがあるの!」

「どんな考えだ、言ってみろ!」

「だから! 相手は弱くても武器を持って向かって来るの。モタモタしてたらコッチがやられる。弱いんだからパパッと殺しちゃえば済む話。私は私の命を守る事を優先してるだけ。仲間が目の前でやられそうになってても、私は助けれないと判断したら見捨てる。命は、大切でもなんでもない!! 大切なのは、今、私が生きてるって事!!」

「その考えを改めろ」

「なんでだよ! 何が間違ってるって言うんだよ!? ガキの頃からそう思ってやってきたから私はこうして生きてられるんだよ! 私は間違ってない!」

「お前は間違ってる。お前が生きて来れたのは、アンタレスが、お前を殺さなかったからだ」

シンバはそう言うと、

「アンタレスが何を考えて、お前を殺さなかったのかはわからないが、お前の命を助けたから、お前は生きてる。そして、お前のその考えはサソリ団にいたからじゃない。ボクが教えたんだ・・・・・・ボクがお前を見捨てたから、お前はそんな考えを持ってるんだ」

と、バニを睨みながらも、悲しそうな表情で、そう話した。しかし、バニの目から逸らしちゃ駄目だと、シンバはバニの瞳を見据え、

「お前がサソリ団に育てられたのは、ボクがお前を見捨てたからだ。一緒に手を繋いでサソリ団から走って逃げてたけど、転んで、ボク等は手が離れた。バニは泣き喚いて、サソリ団に見つかって、銃を向けられた。だからボクは1人で逃げた。このムジカナでボク等の父は英雄と言われ、ダムドの騎士隊長を勤めていて、ボクはその父を見て育ち、何れ父の地位を受け継ぎ、父の名に相応しい人になろうと、剣の稽古をかかさず行い、自意識過剰にもボクは特別なんだと、友達も作らず、寧ろ、ムジカナの子供達を見下して、妹のお前の事さえも、バカにして、ろくに知ろうともせず、全てを否定し、自分だけが選ばれし人間だと思っていた。でもボクは逃げた。怖くて逃げた。自分の命が惜しくて逃げた。臆病で情けない自分を後悔するより、何故、助けてくれなかったのだろうと、父を責めた。余りにも自分が父に似ていて、父がボクにソックリで、余計に腹が立つ・・・・・・」

そう話すシンバを、バニも近い顔の距離のまま、ジッと見つめて聞いている。

みんなも、黙ったままだ――。

「ボクは、このまま生きていたら父のようになるんじゃないかと悲しみと不安で一杯だった。でもボクの人生を変える出逢いがあった。ボクは、その人の背を見て、生きていこうと思った。ツナに出逢い、生きていけると確信した。カモメやパンダやシカの支えがあって、生きて来れた。だからボクは・・・・・・バニにも知ってほしいんだ」

「・・・・・・何を?」

「バニはラビと出逢えて良かった?」

「当たり前でしょ」

「それはバニが生きてたから出逢えた奇跡だ。バニが簡単に、この世から消した命の中に、もしかしたら、そういう出逢いが、これから先、ボク等の人生で待ってたかもしれない。いや、ボクやバニに、そんな奇跡が起きなくても、皆、どこかで繋がってる。今も世界のどこかで誰かが出逢い、大きな奇跡を生んでるんだ。出会えて良かったと思う人が、みんな、いるんだよ。それを壊すのはやめろ。お前を見てると、昔の自分と重なる。だから、やめろ、ボクに似るのは――」

「・・・・・・」

「嫌な奴でも、その命は未来へ続けば、嫌な奴じゃなくなってるかもしれない。邪魔な奴も、いつかは味方かもしれない。いい奴が嫌な奴に、味方が敵に、そうなる命かもしれないが、未来は遠く続くから――」

「バカバカしい。それ、私を見捨てた自分への罪を軽くしたいだけじゃん」

呆れたように、そう言うと、バニは小さな溜息を吐いて、シンバから目を逸らす。

シンバは、その通りだと、コクコク頷き、

「そう言うと思った。だから、お前に頼んでない」

と、ラビを見る。ラビは、シンバを見て、少し考えながら、小さく頷くと、

「条件を飲むわ」

そう言うから、バニは驚いてラビを見る。ラビもバニを見て、

「今後、殺しは一切しないで? 別に悪い条件じゃないわ、アタシ達は殺し屋でもなければ、戦いで天下をとりたい訳でもないからね」

と、何の問題もないでしょ?と、笑顔。その笑顔に、バニは、ガクンと力を落とし、わかったと頷くと、キッとシンバを睨み、

「卑怯者!」

と、捨て台詞を吐くように言い放ち、ズカズカとリビングを出て行く。

それからダムドのシークレットルームに潜り込む為の準備が行われた。

まずカモメはトビーに欲しい機材道具を買ってくるよう命じ、揃った機器類と工具で、太陽エネルギーを利用した無限エネルギーを取り入れる装置を作り、それで屋敷の電気も点くようにした。

パンダは目玉を作る素材を探しに、まずは有名なガラス工房がある町へと出かけ、シカも培養液だのホルマリンだの考えるが、しかしナマモノではない為、繊細な素材を錆びさせたり溶かしたり変色させない液、そして液そのものが腐らないようなモノを生み出す為、必要なモノを購入に出かけた。

ツナはリブレと一緒に食料の調達。

シンバは、ラビからサードニックスの情報が書かれた書類と船の見取り図を受け取ったが、とりあえず今は、今回の仕事のダムドのシークレットルームの見取り図を見ながら、どう動くか考え中。どう動くかと言うより、ラブラドライトアイについて考えている。

――天空人・・・・・・。

――空に浮かぶ大陸・・・・・・。

――高度技術と高度文明・・・・・・。

どうもこの話がスカイピースと全く関連がないようには思えなくて、シンバは考え込む。

――スカイピースを全部揃えると、空の彼方で眠っている魔人を呼び覚ます・・・・・・。

――スカイピース・・・・・・空のカケラ・・・・・・。

――太陽とフェニックス・・・・・・

――雪とフェンリル・・・・・・

――雲とユニコーン・・・・・・

――雨とリヴァイアサン・・・・・・

――空の神々のエンブレム・・・・・・エンブレム・・・・・・?

――しまった、大事な事を見落としてる。

――スカイピースって語源ばかり気にして、エンブレム自体を調べてない。

――そもそもエンブレムは1つのコンセプトを意味する。

――それはリーダー的存在を象徴するもの。

――そして、リーダー率いる多くのモノを束ねる紋章である。

――フォックステイルならキツネの尻尾アクセサリーがエンブレムみたいなもんだ。

――つまり・・・・・・スカイピースって・・・・・・?

シンバは空に浮かぶ大陸を想像しながら、

――国の紋章・・・・・・?

そう閃いた時だった、ノックする音に、頭の中に描いた想像も閃きも消えた。

ドアは開いているが、壁をコンコンとノックして、そこに立つのはバニ。

何?と、シンバが顔を向けると、

「ちょっと・・・・・・話がしたくて――」

大人しくそう言うから、少し戸惑いながら、

「どうかした?」

と、聞いてみる。

「アンタさぁ・・・・・・ガキの頃の記憶とかあるんでしょ?」

「あぁ、まぁ・・・・・・」

「私ってどういう子だったの? この家でどうやって過ごしてた?」

と、バニは言いながら部屋の中に入って来て、シンバの隣に座る。

「・・・・・・さぁ? 言ったろ? ボクは妹をバカにしてて・・・・・・だからバニと一緒にいた事なんて滅多になかったし・・・・・・でも母が言うには剣術の素質があったみたいだ」

「へぇ、そうなんだ? じゃあサソリ団にいたからじゃなく、剣術は生まれながらの才能だったって事?」

「そうだろうね」

「お母さんってどんな人?」

「・・・・・・優しい人だったよ」

「有り触れた答えやめてよ、もっと想像させて?」

そう言われてもなと、

「やっぱり剣が得意だったみたいで、バニの剣術は母の剣術に似てる。まぁ、バニの方が荒々しい感じがあるけど。それから料理は美味しかったかな、焼き菓子とか作ってくれたりもした・・・・・・今思えば、ボクを正しい道に導こうと一生懸命だったり・・・・・・やけにバニの面倒を押し付けたり・・・・・・」

思い出しながら、ひとつひとつ丁寧に答えていくが、父が叩いた事などは言わないでおく。

「フーン・・・・・・どこにでもいるような、普通の、いいお母さんじゃん」

「まぁね」

「綺麗な人?」

シンバは、どうかなと首を傾げて、どっかにアルバムとかあるんじゃないかと、言うと、後で探してみると、バニは頷く。

「お母さんも私達と同じ髪の色?」

「いや、これは父似だ」

「フーン・・・・・・あのさ・・・・・・」

「うん?」

「スカイピース、お母さんの形見なんでしょ?」

「あぁ、まぁ・・・・・・そうだな・・・・・・」

「私にくれない?」

「え!?」

「駄目?」

「なんで?」

「なんでって・・・・・・そりゃ覚えてないけど、私のオヤジはサソリ団のアンタレスで、アニキはツナで、この家もアンタも全然懐かしくないけど・・・・・・」

バニはそこまで言うと、説明し難いとばかりに、

「いいじゃんか! ちょうだいよ! どうせスカイピースって4つ集めなきゃ意味ないんでしょ!? 1つアンタが持ってればいいんだから、お母さんの形見くらい私に譲ってよ! だってアンタには思い出があるんでしょ!? 私何もないじゃん!」

と、キレ出した。

「いや、何もない訳じゃないだろ、お前の、その剣術は、母譲りだし、戦闘法も、母にソックリだ。それは、母から譲り受けたもんだろ?」

「だとしても、私、それ、覚えてないから!!」

「その髪の色も父から譲り受けたもんだよ」

「この髪の色は譲り受けたくなかったし、父親の話ししてないでしょーが!!」

「だったら・・・・・・この家にあるモノを何か持ってけば?」

「は!? じゃあアンタがそうすれば? それで私にスカイピースよこせよ!」

なんだろうか、人にモノを貰おうという態度とは思えぬ態度。

しかも人に頼む態度でもない。

「大体さぁ、アンタの話って、〝今〟がないのよ!」

キレ出したついでに、何か別の事でもキレ始めた。

「今がない? 何が?」

「だからアンタの人を殺すなって言う理由の話よ! いつか、出逢えて良かったと思う人と出逢える奇跡を潰すなって話! アンタの話は未来へ向けての話で、今がない! 普通は人を殺したら、その死んだ人の大切な人が悲しむとか、今の現状を言うべきだろ!」

シンバはコクコク頷き、それも一理あると納得している。

「聞くけど、もし今、私とアンタが賊から逃げてて、アンタと私の手が離れたら、アンタは私を助けてくれるの?」

「助けないよ」

即答したシンバに、は!?と、バニは、

「アンタ、反省してるんじゃないの!? 同じ過ちを繰り返す気!?」

と、怒り出す。

「だって今って言ったよね? 今のバニを助ける理由がない。もしバニがまだ小さくて無力で何も始まってない無垢な子供なら、ボクは自分の命を捨てても助けるよ。バニじゃなくても、知らない子でも。それだけ子供には大きな可能性がある。ボクのこれからの可能性より、未来を賭けたくなるくらい大きな未知なる可能性の始まりだから。でも今のバニはボクが助けなくても自分で何とかできるだろうし、例え殺されても因果応報って言ってね、バニだって沢山の命を奪ったんだ、だからしょうがない、運命を受け入れて、覚悟を決めるか、自分で何とかしろって思う。命の重さはみんな同じとは思うけど、でもやっぱり助けないよ、同じ重さなら、ボクだってボクの命のが大事だから」

言い切りやがったなと、バニは、

「助けてもらわなくても結構! アンタこそ、溺れてる見ず知らずのガキでも助けて、溺れ死ね! 水の中で足掻いて苦しんで沈め! 二度と浮いて来るな! 消えろ!」

と、意味のわからない文句を吐くから、なんで溺れる訳?と、シンバは眉を顰める。

バニは言いたいだけ言うと、立ち上がって、部屋を出て行こうとするから、

「待てって」

と、シンバはバニの腕を掴んで止めると、雪とフェンリルのスカイピースを差し出した。バニはシンバの指に絡んだチェーンを見つめ、その先にあるプレートを見て、

「お母さんの形見のスカイピース・・・・・・くれるの?」

そう聞いた。シンバは頷いて、

「バニの言う通り、1つ持ってればいい。もし、これが手に負えないモノならば、この世から1つ葬ればいいんだ」

と、持ってけとバニの手を持ち、その手の中にスカイピースを入れた。そして・・・・・・

「うっとうしいと思ってごめん。面倒みるの嫌がってごめん。態と難しい本を読んであげたりしてごめん。撃ってないけど、銃口を向けたりしてごめん。それで・・・・・・あの時は逃げてごめん。守ってあげれなくてごめん。臆病で情けない兄でごめん。本当に悪いと思ってる。いっぱいごめんな」

「ちょ、ちょっと待って? 銃口を向けた??? 殺す気満々じゃん!!」

そう言ったバニに、シンバは、ハハッと笑うから、

「笑い事じゃないんだけど!? アンタ、他人の命を重んじる癖に、妹の命、軽く扱い過ぎてない!?」

と、バニが怒るから、

「ありがとな」

と、シンバは、

「そうやって、怒ってくれて。ボクを忘れててくれて。もし、お前が、覚えてて、ボクを、お兄ちゃんなんて呼んで、ずっと辛く生きて来たって言って、泣かれてたりしたら、ボクは、自分を、今以上に許せなくなってた」

と、

「本当に、ごめんな、それで、本当にありがとうな。お前がバカで助かったよ」

と、最後は、からかうように言って、バニの腕を離すと、

「あ、それからカモメはいい奴だから」

そう言った。バニは、なんだそれ!?と、

「何言ってんの、アンタ、さっきから。全部、意味わかんないけど、最後のが一番意味わかんないんだけど? カモメがいい奴だから、なんなの!?」

「イロイロと言いそびれてた事を、まとめて言ったんだよ」

「だから最後の台詞がわかんないってば!」

「カモメはいい奴だろ?」

「知らないよ! なんでそこで発明バカの名前が出てくんの!?」

「さぁ? ていうか、発明バカか。同じバカ同士、似合ってるよ」

「はぁ!?」

と、バニは、なんなんだよ!?と、ブツブツ文句を呟きながら、

「まぁ、いいや。形見、ありがとね、兄さん」

そう言って、笑顔で、スカイピースを握り締めて、バニは、部屋から出ていった。

シンバは、兄さんね・・・・・・と、少し微笑んだ後、難しい顔になり、頭を抱え、

「スカイピース渡して良かったのかなぁ!? 独断で勝手に渡しちゃったけど良かったのか!? 大きな間違いのような気がする」

と、自分の行動の無責任さに悩みがまた1つ増える。

ダムドの祭り当日、城は開放され、立ち入り禁止を除くフロアは全て自由に出入り可能。

シンバとツナとバニは下見の為、イヤフォンを付けて、城内を歩いて回り、騎士の配置場所、警備の人数などを確認して、ルートを確認。

見取り図では確認し難い通路も目で見て、実際に歩いてみて距離も計る。

無論、天井の高さや壁の作りなども確認し、念には念を入れ、立ち入り禁止場所も侵入するが、やはりシークレットルームへの道は入り込めそうもない。

「中央の部屋に侵入して、ラブラドライトアイのホンモノとニセモノを入れ替えるのはボク等じゃ無理だよ、シークレットルームの下見さえ、できなかったし」

と、ムジカナに戻ったシンバとツナとバニは、皆に報告。

「俺とシンバとバニの内、誰かが、シークレットルームへのトラップを、うまくすり抜けて、ラブラドライトアイがある所まで行けたとしても、その装置を、どうにかするのは無理だろう、初めて見る装置に、偽物とすり替えるのは、その専門の知識が全くない俺達じゃ無理だ。だったら、トラップを停止させて、タイムリミットを短くしたとしても、完璧に、ラブラドライトアイを手に入れられる奴を行かせた方がいい」

ツナの言う通りだと、シンバも頷くと、バニが、

「だからさぁ、面倒な事しないで、ぶっ殺して、ぶっ壊して、頂くもん頂けばいいんだよ、それが手っ取り早いって!」

と。お前は黙ってろと、シンバとツナは、カモメを見る。

「な、な、何? なんでオイラを見る訳?」

「カモメしかできないよ」

シンバがそう言うと、カモメはブンブンと左右に首を振り、

「オイラはできないよ!」

と、言うから、シンバは困った顔になる。そんな困り顔するなよと、カモメも困った顔。ラビは少し考えて、

「カモメ? もしカモメが頑張ってくれたら、バニは嬉しいかも」

などと言い出し、カモメはその手には乗らないぞと思うが、バニがクエスチョン顔で、カモメを見て、顔を近付けてくるから、

「やめて! そんな可愛い顔近付けないで!」

と、顔を赤らめて、顔を背ける。バニは首を傾げながら、

「なにコイツ? 私の事、好きなの?」

と、皆に問うと、シンバは苦笑いし、ツナは見た通りだろと言い、パンダが昔イジメた事は気にしないでやってと宥め、シカが率直だねと笑い、ラビがそうねと頷いて、

「そんなみんなで解り易い態度と返事するなよ!!!! バレちゃうだろ!!!!」

と、カモメが叫ぶが、もうバレてるじゃないかと、皆、カモメに困った笑いを浮かべる。

シカがカモメの肩に手を回し、クルッと回転して、皆に背を向けながら、

「いいとこ見せるチャンスじゃない?」

と、カモメの耳元で悪魔の囁き。

「気の強い女の子は相当頼りがいのある男じゃないと相手にならない。ここでカモメがカッコイイとこ見せて、頼りがいがあると、わかってもらわなきゃ、チャンスは二度はないかもよ? しかもこのチャンスで惚れられるかもしれない。どうする?」

カモメはシカを見て、それなら絶対やるしかないよね?と、真顔。恋に盲目な奴って素直でいいなぁと、シカは、やるしかないねと、頷く。無論、恋してる奴はネガティブでもあるが、背を押してやれば、かなりのポジティブになる事も承知の上で。

カモメはクルッと向き直り、

「やってみるよ!」

と、あの慎重で察しのいいカモメが即答するから、恐るべし悪魔のチカラと、アイツの囁きは聞いちゃ駄目だなと、シンバとツナとパンダは思う。

「言っておくが、ボク等はベア・レオパルドに会いに行くんだ。スカイピースについて聞く為にね。だからベア・レオパルドを誘き寄せる為に、城内に潜り込み、騎士達を倒していくと言う事で話を進める」

シンバがそう話すと、

「倒すって殺すんじゃなく気絶させんだよね? メンドクサッ!」

と、バニが言うが、約束守れよ!?と、シンバは睨みを利かせ、話を続ける。

「ボクは南の塔の窓から、ツナは北の塔の窓から、バニは中央塔の窓から浸入。シークレットルームは地下だから、騎士達を上へと向かわせる為、ボク等は下へは降りないが、止むを得ず、追い詰められて階段などで下へ降りなければならなくなったら、その下の階で体勢を整え、また上へと上って来る事。騎士達も侵入者を大事なモノが置いてある地下へ行かせたくないだろうから下へ行かすような真似はしないと思う。建物内での、侵入者を追い詰めるのは、大抵、上へだしね」

ツナは頷きながら、バニはメンドクサイと呟き続けながらも、わかったと返事をする。

「で、戦い易い最上階の広間へ向かって行けばいいんだろ?」

ツナが見取り図を思い出しながら、そう聞き、バニが戦いやすい場所に出ても殺さないのにと、ブツブツ文句を呟く。

「無線で連絡を取り合い、とりあえず広間へと向かって落ち合う予定だけど、その前にベア・レオパルドが現れたら直ぐに知らせてくれ。ボクが駆けつけ話をする。その間、カモメはうまくシークレットルームに忍び込んで、ラブラドライトアイをニセモノに交換。シカの方はどう? 順調に事は進んでる?」

「大丈夫だよ、当日夜勤予定のメイドの子と接触して明日はデート。完璧なデートプランに彼女は僕に本気になる。僕は全然、本気にさせる気はないけどね」

そう言ったシカに、ツナがチッと舌打ち。だがシカは舌打ちなど気にせず、話を続ける。

「城の裏口から僕が彼女に一時も離れたくないと会いに行けば、コッソリ中に入れてもらえて、彼女の仕事の邪魔にならないよう、彼女の傍にいる。そして彼女が警備室に運ぶ夜食に僕が薬を入れて、皆を眠らせたら、僕が警備室をジャック。城内を映し出されてるモニターをチェックしながら、シンバくんとツナくんとバニちゃんが現れたら、侵入者発見の放送を流し、騎士達を3人の所へ誘き出させる。そしてカモメに城内へ潜り込む合図をする」

それでいいんでしょと、任せてとシカは余裕の笑顔で、

「ひとつ提案なんだけど、その後、カモメの護衛にシークレットルームに行きたいんだけど」

そう言いだした。そして、

「だって、モニターをずっと見てるだけで、騎士がカモメに近付いてると無線で教えたとしても、カモメはどうしようもないでしょ? シークレットルームまでの通路に隠れる場所ってなさそうだしさ。だったら僕が一緒にいて、騎士が現れたら麻酔銃で眠らせればいい。殆どの騎士がシンバくん達の方へ向かうなら、残った数人の騎士程度なら、僕で、なんとかなると思う」

そう言うので、シンバは少し考えて、そうだなと頷いた。

カモメも1人じゃない事でホッとした表情を浮かべる。

そしてシンバは、

「後、外にいる騎士達も連絡を受けて城へ呼び寄せられると思う。パンダ、大丈夫?」

と、パンダを見る。

「大丈夫大丈夫、城の門前で酔っ払いのふりして大暴れして騎士達の足を止めるさ」

ブイサインしながら、パンダは、実際にちょっと飲んで酔っちゃうしと、笑う。

「リブレ、キミは祭りの後の楽しみとして王が呼んだサーカス団の動物の一匹で、檻から逃げ出してしまったと言う設定で、街中を走り回ってくれ。パニックになるように、でも誰も襲っちゃ駄目だからね? 大袈裟に吠えたり唸ったりは効果的だよ」

わかってると言う風に、リブレはシンバを見る。

「ラビ、キミが一番重要な役割なんだ、本当にシークレットルームへの扉を王に開けさせられるんだろうね?」

「勿論よ、ダムドの王はとっくにアタシの虜。王妃に内緒の秘密部屋まで、わざわざ作ったのよ、アタシと2人きりになる為に」

ラビがそう言うと、パンダが、

「新たなシークレットルームを作って、王はラビと何やってんのさ! ま、ま、まさか・・・・・・」

と、想像したくないと首を振りながら、想像しているから、

「まさか? アタシが王と? 何をやってる所を想像してるの? いけない想像しちゃ駄目よ? パンダ?」

と、ラビはスッと白くて細く長い綺麗な腕をパンダに向けて伸ばし、細く美しい器用そうな指先でパンダの頬から顎にソッと撫でるように触れた。

パンダは背筋にゾクゾクっとしたモノを走らせると、両腕は鳥肌で一杯になり、想像がかなり掻き立てられ、何故か、呼吸を荒くして、物凄くだらしない顔になる。

シンバはそんなパンダの顔を見て、

「ヨダレ、ヨダレ!」

と、ツナには、

「鼻血も出てる」

と、カモメには、

「鼻の下伸びすぎ」

と、シカには、

「その鼻息は、ラビと絡んでる王と自分とすり替えて想像してる?」

と、言われ、パンダは急いでヨダレを吸い込み、鼻血を手の甲で拭いて、鼻の下をキュッと縮めて、呼吸を整えると、自分とラビの絡みなんて想像してませんと言い切るから、想像してたんだなと、皆、思うが、まぁ想像は自由だと、バニが、

「私なんて想像ではアニキこてんぱんだから。もう100回くらい余裕で殺してる」

と、勝ち誇った顔で言う。ツナがなんだとぉ!?と怒るから、想像では、殺すのもアリでしょ!?駄目なの!?想像でも!?と、言い出し、話をこれ以上、逸らすなと、

「ラビ、最初の扉を王が開けても次の暗証番号の扉は?」

と、シンバは話を戻し、聞いた。

「そんなのとっくよ。言ったでしょ、王はアタシに夢中。暗証番号くらい耳に息を吹きかければ、簡単に吐いたわ。シカにいい薬ももらったしね」

と、酒に混ぜて王に飲ませる薬を胸の谷間から取り出すから、他に隠せる場所ないの!?と、シカが言うが、それよりも、皆、それが何の薬かが気になっている。

それは惚れ薬なのか?と、とっても欲しいと思っている者2名、関わりたくないと思っている者2名、誰かに飲ませてゴリラに惚れさせたいと思っている者1名・・・・・・。

だが、皆、ラビとシカの悪魔コンビの手にかかると恐ろしいと、絶対に生贄にはなりたくないなと、薬については何も触れず、黙って大人しくなる。

シンと一瞬静まると、ツナの足元で、大人しく座っていたリブレが、クーンと鼻を鳴らし、ねぇ?私の出番は?と、聞いてる風に、ツナを見上げる。ツナは、リブレの頭を撫でながら、今回は、お前の出番はないから、大人しく待っててくれと、言って、リブレも、わかったと言う風に、伏せの態勢になる。そして、またシンと一瞬の静粛があった後、バニが笑いを我慢していて、俯きながら、クックックッと喉の奥で、笑い声を出すから、皆、バニを見ると、バニは顔を上げて、皆を見回し、クスクス笑い出し、そして大口開けて笑い出した。皆が、バニを見つめたまま、何故、笑うんだろう?と、不思議に思っていると、

「いやいや、アンタ等、マジ、本当に、最高だね」

と、

「私さぁ、ラビさんにアンタ等と組む話を聞いた時、なんであんな変な5人組と組まなきゃならないのかって思ったんだけど、アンタ等ってラビさんの言う通り、凄いわ。びっくり! 流石ラビさん! ラビさんの言う通りだよ! 私、ラビさん凄いと思うわ! マジで、ラビさん最強!」

と、結局、ラビを絶賛して笑っているから、男5人はそれぞれを見回し、最初にカモメが、

「確かにラビは凄いよ、敵にしたら厄介だと思うけど、味方にしたら心強い」

と、笑う。バニはそんなカモメの背中をバンッと強く叩き、アンタわかってるねぇと言って、カモメは叩かれた背中のせいで咳き込みながら、バニと一緒に笑っている。

「利害関係が一致すれば、ラビは昔から一番役に立つもんな」

と、パンダも笑いながら言うが、

「そして昔から裏切るんだよねぇ、ラビは」

なんてシカが言って、カモメとパンダの笑いが凍る。

フフフッと軽い笑いを溢し、ラビは、何の反論もしないのが怖い。

大笑いしていたバニが、更に大笑いして、お腹を抱えながら、流石ラビさんと連発。

シンバとツナは見合い、コイツ等と組んで大丈夫なのかと不安な表情を浮かべ、リブレも、シンバとツナを上目遣いで見て、不安そう。

「ラビさんは、ズバ抜けて凄いけど、アンタ等も何気にホント凄いよ、いや、マジでマジで! それぞれの役割がハンパない。もうスゲェって笑うしかないもん、流石ラビさんの目に適った連中だよ、アンタ等」

と、笑いながら言うバニ。そして、

「私等って最強だね、このチームなら、きっと世界中の宝を盗めるよ。高い山も登れるし、深い海も潜れるし、果てない砂漠も越えれるし、デッカイ夢も、煌びやかな希望も、何でも、この手につかめそうじゃん、私等なら――」

そう言って、はしゃぐ。

我が妹ながら、相変わらずバカっぽくて、気楽な奴だなと、シンバは、

「どうでもいいけど、それぞれの大まかな順序はそう言う事で、もう一度、確認して細かいトコを見直し、シュミレーションしよう」

と、失敗したら最強も何もないと、話を続ける。

まだ続けんの?と、もういいじゃーん、私等最強だってぇー!と、バニは唇を尖らせた――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る