6.このチームに乾杯
「へぇ、バニがフロアで掃除してんのか。そりゃ見てみてぇな」
「その話はいいんだよ! バニより問題は――」
「ラビだろ」
「うん、あのラビがまるで淑女だよ」
「へぇ・・・・・・」
「まるで才色兼備」
「へぇ・・・・・・」
「事実、花の名前や花言葉とか由来染みたニックネームまで話してた」
「へぇ・・・・・・」
「やっぱりスカイピースを狙ってるんじゃないかな」
「で、ジェイドにあるスカイピースの在り処はわかったのか?」
「ネイン姫が身に付けてる」
「庭師がなかなかやるじゃないか。で、その姫はどこからスカイピースを手に入れたって?」
「最近になってジェイドにスカイピースがあるって噂が流れたのは、元は倉庫にあったのを、最近、姫が見つけて、出して来たからみたいだ。姫の胸で光るペンダントを見た者が、スカイピースを知ってて、それを誰かに話し、それが噂となって広まったんだろう。このままスカイピースの噂が広まれば、賊に狙われる。倉庫に仕舞ってあったのなら、特にジェイド側として必要な宝って訳でもないだろう、サッサと頂こうと思うんだけど、ラビが邪魔だ。姫の一番近い存在だし、スカイピース狙いなら、立場上、先を越されるかもしれない。なんとかしないと――」
「成る程。狙った獲物の為なら淑女にもなるってか」
配置された場所で立っているツナと背中合わせで話をするシンバ。
シンバの今日の仕事は終了し、ツナは夜勤もあり、さっきまで仮眠を取っていた。
「とりあえず、スカイピースについて、この城のどこかに文献みたいなのがあるかもしれない。それを探したい」
「文献?」
「あぁ、この国の歴史帳でもいい。何か記録されてるかもしれない」
「スカイピースについて記録されてるって思う理由は?」
「フックスが言ってたんだ、スカイピースは元々はどこぞの国々で保管されてたって。倉庫にあったって事は、ジェイドがどこぞの国々のひとつの可能性は高い。ラビがスカイピース狙いなら、スカイピースが神話の他に何かあるかもしれないだろう? この国に言い伝えられてるかもしれない」
「成る程。夜勤には城内見回りもある。倉庫は地下室だったな、今夜、それらしいものを探してみる。悪いが、リブレの夕飯、頼んでいいか?」
シンバはコクンと頷き、立ち去ろうとして、一歩、歩き出したが、直ぐに立ち止まり、
「似合ってるよ、その騎士の鎧。カッコイイ。ボクじゃそうはいかなかった」
そう言うから、思わずツナは振り向いてしまうが、シンバはスタスタと何もなかったかのように去って行く。その背に、
「・・・・・・騎士は嫌いだったな」
そう呟くツナ。騎士の仕事を取り合わなくても、シンバはツナに譲っただろう。
今、歩いているシンバの目の前に、右目に眼帯をしたシカが現れる。
メイド達に囲まれ、指を切っただの、階段から落ちただの、何やら・・・・・・大人気みたいだ。どこ行っても女性なら老若関係なくモテるねぇと、シンバは苦笑いしながら、シカの横を通り過ぎる瞬間、
「ごめん、ちょっと失礼」
と、シカはメイド達にそう言って、シンバに駆け寄り、耳元で、
「今夜テント?」
そう聞いた。頷くシンバに、シカはメイド達の所に戻り、
「彼の肩にゴミがついてた」
そう言った後、
「もう仕事終わった子っている? 良かったら一緒に帰らない?」
と、つまりテントで寝る気はないって事だなと、シンバは溜息。
メイドの女の子達は私が私がと、皆、シカに迫っている。シカは、
「じゃあ、キミがいいかな。5分後・・・・・・いや、30分後に城門で」
と、手を上げて、シンバをチラッと見ると、背を向けて行ってしまう。
態々、大きな声で、そう言ったと言う事は、そしてアイコンタクトをしたと言う事は・・・・・・5分後に、城門でって事だなと、シンバは城門へと向かう。
広い城内を歩きながら、ひとつひとつ、見取り図を完成させるように頭の中に入れていく。
ネイン姫がスカイピースを身に着けていると知っても、ネイン姫の部屋はまだ知らない。
とりあえず初日から妙な行動はできないと、シンバは寄り道せずに外に出た。
城門の所でシカが立っていて、駆け寄ると、
「一週間後の婚約パーティーって知ってる?」
そう聞かれ、シンバは頷いた。
「婚約と言っても、お見合いみたいだ。あちこちの国から王子がやってきて、姫と婚約する者を決めるらしい。噂では姫じゃなく、このデカイ国と交友関係を持ちたい為の婚約だって話。つまり王子の方は結婚したくてする訳じゃないけどって感じかな」
「・・・・・・姫もしたくないかも」
「だけど噂では、ジェイドの姫はブスらしいよ。この際、誰でももらってくれる人ならって聞いたよ」
「その噂はどこからの情報?」
「女の子は噂話が好きだろう?」
そう答えたシカに、シンバは本当に只の噂じゃないかと、睨む。
「そんな顔しないでよ。スカイピース情報じゃないけど、別の情報があるんだ。国々の王子は、どこも小国の王子で、どうしても大国であるジェイドと交友関係を持ちたいらしい。そこで、賊を使った演出をする国がいるみたい」
「賊?」
「婚約パーティーに賊達が現れ、姫を攫う。そして王子様が姫を救い、ラブストーリーが始まるって訳。発注した薬を受け取りに大臣の部屋に行ったら、大臣がカーテンの向こうで、誰かとそう話してた。恐らく、その誰かってのは、姫と婚約する国の者だろうね」
「なんでそんな事を?」
「そりゃジェイドとしては、小国の中でも、一番条件のいい国を選びたいだろう? どうせ集まったのが小国なら、せめて、その中でも、一番いいものを選ぶのは当然だ。だが、姫がその国の王子を選ぶとは限らない。何事も演出は大事だよね」
ネイン姫が〝私はパーティーが台無しになればいいと思うの〟そう言っていた事を思い出し、シンバは、姫の思い通り、パーティーはぶち壊される訳かと思う。だが、姫の恋愛は筋書き通りって訳だ。なんだか気に入らないなぁと、シンバは思う。
「でもそんな事したらジェイドは簡単に賊を城内に入れてしまう警備だと他国に知らせる事になる」
「そんな心配、ジェイドに必要ない。見合いパーティーに集まるのは小国の王族達。小国の話しなど、大国は耳を貸さない。それにジェイド程のデカイ国は悪い噂も、ある事ない事、当然のように流れてる。人は妬む生き物だから。それにジェイドはまた大きくなる。この国は姫だけでなく、王子もいるからね。王子は姫と違い、大国の姫との婚約が控えてるらしい。つまり姫が攫われても、結果、何事もなければ、幾ら小国がジェイドの警備に文句を付けても、誰も信じやしない」
「・・・・・・でもこの国の民達は――」
「民達はパーティーに出席しない。精々、見合いがうまくいくように祝い、パレードを祭り気分で楽しむだけ。賊が町を荒らさなければ、城に侵入したなんて知りもしないさ。これだけ近い場所にいても、それだけ遠い場所なんだよ、王族と民ってのは」
「・・・・・・」
なんだか、本当に、気に入らないと、シンバは仏頂面。
「でね、リーダー、そのパーティーを利用して、賊達が大騒ぎしてる間に、宝を頂こうよ」
「・・・・・・ジェイドの?」
「宝庫には煌びやかな宝石が並ぶって噂だよ。中にはスカイピースもあるかも」
「シカの噂は当てにならない」
「なんでさ?」
「ジェイドの姫はブスじゃない」
「なんだ、もうチェック済み? 女の子のチェック、僕より早いなんて、やるね」
「そんなんじゃない。姫が身に付けてるペンダントがスカイピースだから」
「なんだ、もう見つけたんだ? なら僕の情報は無駄? じゃあ・・・・・・宝も不要? 目の前にあるのに?」
と、シカは城を見上げる。
「ジェイドの収入源のルート次第。真っ当なルートからの宝なら盗めない」
「了解。調べとくよ。期待してて? 賊を使うなんて、裏で手を回してる証拠。きっとドス黒いものが出て来るよ」
「けど、どうやって調べる?」
「簡単さ。大臣の食べ物に眠り薬を入れればいい。毎日お疲れの大臣がグッスリ眠ってしまっても、誰も怪しいとは思わないし、そしたら寝てる間に、大臣の部屋から財務諸表を手に入れられるでしょ」
そう言いながら、笑顔で手を上げるシカに、シンバが振り向くと、女の子が笑顔で手を振りながら近寄って来る。そして、その子が目の前に来た瞬間に、シカは彼女の肩に手を回し、シンバとは見知らぬ風な態度で、キミを待ってたとアピール。
「ねぇ、どこ行く?」
「キミの家は? 手料理とか食べたいなぁ。メイドってそういうの得意?」
「料理はコック長の仕事よ」
「仕事じゃなくていいよ、プライベートで僕に作ってよ」
シンバは、城の門を見上げ、綺麗な門だの、大きな門だの独り言を囁きながら、観光者風を装う。
「所で、大臣ってどこで食事するの?」
「え?」
「やっぱり、王とか、そういう人達と一緒に食べてるのかな?」
「ううん、大臣は、自分の部屋で食べてるわ、忙しいから簡単なものを持って来いって、いつも言うの」
「そうなんだ、大臣の食事は、誰が運ぶの?」
「私達メイドよ」
「へぇ、その料理を運ぶ明日の当番はキミだったりする?」
「どうして? さっきから何の話し?」
「あぁ、只、キミに眠い顔で食事を運ばせたら、大臣に怒られそうだからさ。今夜、寝かせた方がいい? 寝かせるつもりないんだけど。そうだ、僕が変わりに運んであげようか? そしたら、キミを寝かせなくていい」
もう聞いてられないと、シンバはその場を立ち去り、あの大きなバイクの場所で座っているリブレに駆け寄る。
「リブレ、キミはずっとそこで座ってたの?」
シンバを見上げるリブレ。
「今日はツナは帰れない。仕事があるんだ。ボクと一緒に夕飯を食べよう」
だが、リブレはそこを動かない。
シンバは小さな溜息を吐き、ここで野宿と行くかと、
「ここってバイクスペースだよね。ここで待機してもいいのかなぁ。もうちょっと向こうへ移動したいなぁ。とりあえず腹ごしらえだね、リブレ、キミは何が食べたい? ベジタリアンではなさそうだね」
と、リブレに言うと、ちょっと待っててと、頭を撫でた後、食べ物を買いに、夜の町中へ――。
その頃、ツナは地下室へと潜り込み、古い書物が置いてある部屋に来ていた。
真っ暗な埃だらけの部屋で、カモメがつくった小さなライトを口で挟み、ズラッと並ぶ書物を、ひとつひとつ開いて確認していく。
書物の内容はどれもよくわからなくて、どうでも良さそうだが、一応、調べたと言う証拠に写真撮っておこうと、ツナはライトに付いているボタンを押す。
すると、パシャパシャと小さなシャッター音が鳴る。
どうやらカメラ内臓ライトらしい。
なかなか当たりはないと、うんざりする程の書物の数に、次はこれだと運任せで適当な書物を手に取った瞬間、部屋が明るくなり、ツナはフリーズ。
「こんな所で何をなさってるのかしら?」
その声に、振り向くと、ランプを持って立っているラビ。
ラビはランプの火を消し、ツナも口からライトを取り、ポケットに仕舞う。
そしてツナは、
「お前もこそ何してる?」
と、ラビを睨む。
「あら、よく見たらツナじゃない。寂しいわね、昔馴染みの再会にしては落ち着いた台詞で。アタシの存在は既にご存知?」
「誰だお前? 知らない奴に、ここで何してるのかって聞かれたから、誰でもお前こそって返す」
「アタシは姫の勉強の為に必要な書物を取りに来ただけよ」
ハッと笑うツナ。
「何故笑うの? アタシ、姫の教育係なのよ」
「孤児だったお前が?」
「あら、アタシを知らないと言いつつ、知ってるじゃない? それとも思い出してくれたのかしら。でもアタシにしたら賊の子のアナタが騎士をやってる方が不思議よ」
と、挑戦的な微笑のラビ。
「――それでアナタはここで何を?」
「関係ないだろ、お前には。王に言うなら言え。所詮バイトだ、クビになってもいい」
「アナタはそれで良くてもアナタの仲間が困るんじゃない?」
「俺の仲間? そんなもんがいるのか? あぁ、いたいた! 思い出したよ、フロアで掃除してる女だ。腕に同じサソリのタトゥーがあるのが証拠だ。確かめてみろ」
「・・・・・・それがアナタの仲間?」
「他に誰がいる?」
ラビはフフフッと意味深に笑う。
「何がおかしい?」
「カモメやパンダを見たわ。驚いたわ、アナタ達、相変わらずツルんでるみたいで」
「何の話だ?」
さっぱりわからないとシレッとした表情のツナに、ラビは後ろで束ねた髪を解くと、ゆっくりと近付いて、そしてツナの首に両手を回し、顔を近付けて、
「シンバにも会ったわ」
ソッと耳元で囁き、そして、ツナの目を見つめ、
「まさか仲良く永住を求めて、ジェイドで就職を考えてのバイトって訳じゃないでしょ? 何の為にジェイドに来たの? 短期のバイトで、城内に入り込んだ理由は?」
顔が近いと言う程、近付けて話すラビに、ツナは固まって黙ったまま。
そんなツナに、ふふふと笑いながら、
「ねぇ、知ってる? アタシ、ずっとツナの事が気になってたのよ、気付かなかった?」
と、優しく微笑み続ける。ツナはラビの目を見つめ返し、
「全く」
そう答えると、ラビはクスッと笑い、
「今も、アナタが忘れられないの。だからこうして会えた事は運命だと思うの」
そう優しく囁き、ツナを見つめ続ける。ツナも、その目をジッと見つめ、
「運命?」
と、聞き返す。
「生まれた時から定められた変える事の出来ない出来事。信じる?」
「・・・・・・」
「アタシ達、見えない糸で繋がってるのかも。確かめてみる?」
今、ラビの唇が、ツナの唇に近付いていく。だが、
「・・・・・・お前のそういうとこ」
と、ツナの唇が動き、ラビは動きを止めた。そして、ツナは、
「引っ掛かる男の気が知れねぇ。俺が突き飛ばす前に離れろ」
そう言い放つ。ラビはフゥッと鼻で溜息を吐き出し、スッとツナの首から腕を離すと、
「女は嫌いなの?」
と、長い髪を後ろで束ね直す。
「お前が嫌いなんだ」
「そう。残念だわ、仲間にならないかって誘おうと思ったのに」
「お前の仲間になるくらいなら賊に戻る」
「率直に聞くわ。アナタ達が狙ってるモノってコレ?」
ラビが服の中から雪とフェンリルのスカイピースを取り出し、ツナに見せる。
黙っているツナに、ラビはクスクス笑い、
「当たり?」
そう聞くが、ツナは黙っている。
「シンバの首にチェーンが見えたわ。別のスカイピースを持ってるのかしら?」
ツナは黙っている。
「ツナ、アタシ達、気が合うと思うの。アナタはアタシを嫌ってる。アタシもアナタを好きじゃない。充分、気が合ってるわ。だから仲間にならなくても、この件に関しては一緒に手を組まない?」
ツナは黙っている。
「ねぇ? いいでしょ?」
ツナは黙っている。
「姫が持っているスカイピースを手に入れて、一緒にこの謎を解きましょうよ」
ツナは黙っている。
「アナタ達、どこまで、このスカイピースについて知ってるの? それくらい教えてよ。アタシも、持ってる情報、教えてもいいわ、手を組んでくれるならね」
ツナは黙っている。
「言っておくわ、アタシはスカイピースを絶対に譲らない。アタシからスカイピースを奪うのは絶対に不可能よ。でもシンバからスカイピースを奪うのは簡単。わかるでしょ? 一度、アタシはシンバから奪ってるし。でもスカイピースを手に入れたら、危険かもしれない。今までも命を狙われてきたから。だからアナタ達が護衛をしてくれると助かるわ。シンバもアナタも、あの頃のまま強いんでしょう?」
ツナは黙っている。
「考えてみて? 必要ならシンバにも話してみて? いい答えを待ってるから」
と、ラビは背を向けて、ランプに火を灯し、部屋を出て行こうとして、振り向いた。
「スカイピースについて書かれた書物なんて、ここにはないわよ。それでも歴史帳が見たいなら、奥の本棚の右から5番目――」
そう言うと、
「部屋を出る時、電気、消してね」
と、行ってしまった。ツナは体の力を抜き、ハァッと大きな溜息を吐いた後、奥の本棚の右から5番目の書物を手に取り、ジェイドの歴史が記録されたものだと確認。そして、全ての本を見回し、
「まさか、あの女、この本全部調べ済みか?」
と、呟く――。
ラビは、階段を上って、地下から出た途端、カモメに遭遇。
カモメは、地下室にあるネジなどの部品を取ってくるように言われ、ここに来たのだが、まさかのラビに、
「ラビ!? お前、ラビだろ!?」
と、声を上げる。
「あら、カモメじゃない、久し振りね」
と、驚きもない笑顔のラビに、
「オイラがここにいる事、知ってた!?」
と、大きな声で、ラビに言う。
「どうかしら?」
と、クスクス笑うラビ。
「・・・・・・何やってんだよ、こんなとこで」
今更、小声で、周囲を気にしながら聞くカモメに、
「姫の教育係よ。アナタこそ何してるの? ここはジェイドよ? わかってる? ていうか、その格好は整備士? ジェイドで? しかも今更?」
と、普通の声のトーンで問う。
「シ、シンバやツナに会った?」
「・・・・・・フーン」
意味深に頷かれ、
「何!?」
と、カモメは焦り出す。
「シンバの名前を先に出した。なんだ、そうなんだ、フーン・・・・・・」
「な、何だよ!?」
「アナタ達のリーダーってシンバなんだ」
「え!?」
「ツナかと思ってた」
「リ、リーダーとかないよ、なんだよ、リーダーって!」
物凄く慌てて、アワアワしているカモメに、ラビはクスクス笑いながら、
「わかりやすいのよね、カモメは」
そう言うと、カモメに近付いて行く。カモメは後退して行くが、後ろに壁があり、それ以上、下がれなくなると、ラビは壁に、手を付いた。
まさかのラビに壁ドンされるカモメ。
「聞いてカモメ」
と、ラビは真顔。硬直するカモメは、ラビの近寄って来る顔に、近い近いと、これ以上、下がれないんだぞと、余計に焦ってしまう。
「今後、アタシと、手を組む事になったら、アナタの事は凄く期待しているわ」
「・・・・・・手を組む???」
「フフフ・・・・・・ねぇ、カモメ、アタシ、カモメの事、好きよ」
「・・・・・・ラビが好きなのは、オイラじゃなくて、オイラの発明だろう?」
近い顔をジッと見つめ、眉間に皺を寄せて言うカモメに、ラビはフッと笑い、カモメから離れると、
「カモメと発明は一緒でしょ?」
そう言って、バイバイと手を振って行ってしまう。唖然と見送るカモメだが、直ぐに我に返り、シンバに知らせなきゃと、その場でアタフタしていると、
「いちいち妙な報告いらねぇぞ。必要な事だけ伝える。あの女がガキの頃、シンバから奪ったスカイピースを今も持ってる、そして、スカイピースを狙って、ここにいるって事だけでいい」
と、階段を上って来るツナ。
「ツナ! ラビが!」
「だから見てたよ。あの女の行動の報告はいちいちしなくていい」
「で、でも――」
「報告するのか? あのラビに顔を近付けられ、迫られて、キスでもされるんじゃないかと、恐怖と期待で固まってたって?」
「・・・・・・スカイピースを狙ってるって話しだけでいいね」
「あぁ」
「狙ってるの?」
「あぁ」
「シンバから盗んだスカイピースも持ってた?」
「あぁ」
「ツナも迫られた?」
「・・・・・・」
「まさかキスした!?」
「する訳ないだろ! 兎に角、必要以外の報告はいらない!」
だが、その報告は既に、パンダがシンバにしている所だった。
無論、近寄ってきて、キスでもされるのでは?と思った話も――。
「そうなんだよ、シンバ! ラビの奴! オラに近付いて来て、抱き付くからさぁ」
「パンダ、食べるか、喋るか、どっちかにしたら?」
「思わず、オラ、唇尖らせて目を閉じちゃったよね!」
「口の中のモノが垂れてるし飛ぶし落ちてる。まるで介護が必要な食べ方だ・・・・・・」
パンダは、ゴクゴクとミルクをがぶ飲みした後、口周りを腕でゴシゴシ拭く。
シンバはサンドイッチを食べながら、ラビはパンダに迫って、スカイピースについて尋ねている事に、やはり、スカイピース狙いかと思う。
「バニもスカイピース狙ってるのかなぁ?」
「うーん・・・・・・そうだと思うんだけど、でも、バニは、なんでスカイピースを狙ってるんだろう・・・・・・」
言いながら、
「ちょっと引っかかるんだよなぁ」
と、シンバは、食べかけのサンドイッチを、皿に戻し、腕を組んで考え込む。
「何が? 引っかかってんの?」
「何がだろう・・・・・・」
何か、見落とした気がするなぁと、シンバが考え込んでいるのをいい事に、パンダは、シンバの食べかけのサンドイッチに手を伸ばす。
――バニは、アンタレスからスカイピースを奪って逃げた。
――その行動からしたら、絶対にスカイピース狙いだ。
――でも、バニが、スカイピースを狙っているという確信が持てない。
――なんでだろう・・・・・・?
あぁ、そうだと思い出した――。
〝サソリ団の宝と戦力とスカイピースを頂きに来た〟
あの時、フォックステイルとして、サソリ団の所へ言った時、そう言ったら、
〝いいね、その話、のった!〟
と、バニも、アンタレスに向かって剣を構えた。
そして、バニは、こう言ったんだ。
〝それでスカイピースってなに!?〟
って――。
そうだ、だから、バニはスカイピースが何なのか知らない筈!
ペンダントの事だと言ったら、あれは私のだから駄目だと言った。
つまり、ペンダントがスカイピースだと、知らかったと言う事だ。
引っかかってる事がわかったと、だが、更にわからなくなったなと、シンバは、ため息を吐いた。
スカイピースが何かわかってないなら、なんで、スカイピースを奪って逃げた?
ただ単に、自分のものだからってだけか?
――あれ? ボクのサンドイッチがない。
お皿にあったサンドイッチが全部なくなってる事に、シンバは、気付いて、パンダを見ると、最後のサンドイッチを口の中に放り込んで、モグモグしていて、更に、チキンを美味しそうに食べているリブレの、そのチキンに手を伸ばそうとしている。
リブレが、今、パンダの手をガブッと噛んだ。
無論、甘噛みで、怪我はないが、パンダは大袈裟に痛がり、シンバは呆れて、自分の分の飯だけを食えと言うが、パンダは、他人が美味しそうに食べてるモノが食べたいんだと頬を膨らませた。
しょうがない奴だなと、
「パンダは、子供の頃から、食いしん坊だったの?」
と、笑いながら聞いた後、ハッと気付く。
「なぁ、パンダ、確か、子供の頃、ラビは、バニにだけ優しかったって話してたよな?」
「うん? うん、そうだよ、ラビはバニを可愛がってたよ」
「今もそうかな?」
「え? どうかなぁ?」
「あの2人・・・・・・繋がってるんじゃないかな・・・・・・」
「なんでそう思うの?」
「バニは、ラビの命令通り、アンタレスからペンダントを奪ったのかも。それがスカイピースだと知らず、只、ラビの言う通りにしただけかも・・・・・・」
だとしたら、少々厄介だなと、シンバが考え込んでいると、
「ラビとバニが、繋がってるなら、どこで繋がったのかなぁ?」
パンダがそう言って、
「だってさ、ラビは、子供の頃、オラ達と一緒に孤児院にいたよ。その時、バニと繋がってないよね。ムジカナにいた頃、ラビとバニは、仲が良かったけど、ここで再会したって理由だけで、急にお互い手を組んで、何かやるってのは、有り得なくない?」
そう言うから、そうだよなと、確かにと頷くシンバ。
あの2人が組んでいるのか、いないのか、考えてもわからないだろうし、組んでいたとしても、こっちの狙いは変わらないかと、スカイピースを手に入れる事だけに集中した方がいいかと思う。
――ラビが持ってるスカイピースをどうやって手に入れようか。
――姫が持っているスカイピースをラビはどうやって手に入れるつもりだろうか。
――教育係という手段を選んだって事は長期戦でいくって事か?
「それにしても大きなバイクに負けないくらい大きいなぁ、リブレは」
パンダがリブレにそう言って、リブレの気を惹きながら、またリブレのチキンを狙い、甘噛みされ、シンバは懲りない奴だなぁと笑う。
明朝、仕事を終えたツナとカモメに起こされるシンバとパンダ。
大きなバイクの持ち主は現れなかった。
髪や顔を洗う為、公共の広場へ行き、ついでに朝御飯も手に入れる為、朝市へ。
「ツナもカモメも、ラビに会ったんだね。そうなんだよ、スカイピースを持ってるみたいだ。パンダみたいに迫られたりしてない?」
そう聞いたシンバに、ツナもカモメも無言で目を逸らすから、迫られたんだなと思う。
――ハニートラップか。
――ラビのやりそうな事だ。
――あの容姿で迫られて、断る男は、そうはいないだろう。
――ボクも頭ではわかってても、実際、迫られたら、どうなるか。
――気をつけないとな。
朝食後、庭師のバイトへと向かうシンバ。
広い庭に、ひとつひとつ丁寧に、言われた通りにマリーゴールドを植えていく作業をしていると、ネイン姫が興味津々でやって来る。
「バイトさん」
「またこんな所に来たりすると、教育係に怒られますよ」
「どうして? 自分の家の庭にいるだけよ?」
城を家と言うネイン姫に、シンバは笑う。
ネイン姫はマリーゴールドをジッと見つめ、指で花びらを触っている。
「この花、そんなに気に入ったんですか?」
「どうして?」
「名前も知りたがってたし、今日も、花を見に来たし」
「気に入ったって言うか・・・・・・私の部屋のサイドテーブルの上にポストカードを飾ってあるんだけど、そのカード、黄色い花の花畑のイラストで、この花なのかなぁって思って」
「そうなんですか。もしかして、大事な人からもらったカードとか・・・・・・ですか?」
うーんと、少し考えた後、シンバと目が合い、ウウンと首を振り、ネイン姫は、
「怪盗からのメッセージカードなの」
と、まるでジョークを言っているような悪戯っぽい顔。だが、シンバは真顔で、
「・・・・・・怪盗?」
作業の手を止めて、聞き返す。
「うん、小さい頃、城に潜り込んだ人がいたの。あんまり広いんで迷ってしまったって、私の部屋に来て、私に見つかってしまった事に、まるでミュージカル調の大袈裟な身振りで嘆いてたわ」
「・・・・・・」
「本当なら私は、大声上げるとか、泣くとかしそうだけど、その人、いい人だと思ったの、子供の勘っていうか、危険を察知する本能が全く反応しないって言うか」
「・・・・・・」
「だから外へ案内してあげるって言ったら、大丈夫って、その人はそう言って、空を飛ぶからって、窓を開けたの。私の部屋はあそこなのよ」
と、指を空に向けて差すように、城の天辺の窓を差した。
シンバはその窓を見上げ、あそこ?と、姫の部屋を確認。
姫は頷いて、また話し出す。
「危ないからやめてって言ったら、魔法で空を飛んでみせるって言うの」
「・・・・・・魔法で?」
「自分を魔法使いだって言うのよ」
「・・・・・・怪盗でしょ?」
「それはポストカードのメッセージに書いてあったの。でも、本人は、自分を魔法使いだって。それで、もし本当に空を飛んでみせたら、ジェイドの姫に、どうか、お願いを聞いてもらいたいって」
「え? お願い? お願いって?」
「ジェイドの力で、他国への同盟を築き、平和へと繋がるように、他の貧しき国にも手を貸すよう、姫から、王にお願いしてくれないかって・・・・・・」
「・・・・・・」
「私も、子供ながらに姫と言う立場で、その辺の事は理解ができて、直ぐに頷いたわ。でも幾らジェイドが大国とは言え、貧しい国を救えるだけの資金がないと言ったら、私の部屋に飾ってあるミリアム様のガラスの置き物の所に、両手一杯の金貨が現れたの。今でも覚えてる。〝これは奇跡の魔法。キミが頷いてくれたから、ミリアム様の奇跡の魔法が成功したんだ。これはまだ小さい奇跡だけど、平和へ向かう為の資金に――〟って。彼はそう言ったわ。つまり、今、思えば、その人は、態と迷ったふりをして、私の部屋に来たのよ。私、調べたの、ミリアム様の銅像のある教会は、孤児院が多いの。そして、そのミリアム様の銅像の中には、金貨の涙を流す奇跡の像があるらしいの。きっと、それは、魔法使いさんの魔法で、奇跡が起きてるんだと思うの。このジェイドには、教会がなくて、ミリアム様の銅像じゃないけど、この置き物がある。でも、このミリアム様のガラスの置き物は・・・・・・」
そこで、急に黙り込んだから、シンバは、
「置き物は?」
と、聞くと、
「ある修道院から来た修道士御一行様が、このジェイドに来た時に、お姫様に、神のご加護がありますようにって、プレゼントしてくれたの」
「・・・・・・」
「これも後から調べたんだけど、修道士御一行様が言っていた修道院の名前は・・・・・・数十年前に戦争で消えた町の修道院だったの。つまり、もう存在してない修道院だった。あの修道士様達は、魔法使いさんが、魔法で、修道士の姿になったのかもって思ったの。ガラスのミリアム様を、私の部屋に置く為に――」
「・・・・・・」
「わざわざ、ミリアム様を、私の部屋に置く為に、私にプレゼントしてまで、私の部屋で奇跡を起こしたかった。そうしてまで、どうしても、私に、お願いしたかったんだと思ったわ。無駄な争いで、消える命に嘆く事もなく、飢える事もない、みんなが笑顔になる世界を、魔法使いさんは、願っているんだって――」
「・・・・・・」
「でもね、考えてみて? そんなまどろっこしい事をどうしてするんだろうって。金貨が魔法で出せるなら、コソコソ出さないで、バーンっとイッパイ出せばいいのにって。これも後から気付いたんだけど、彼が置いて行ったポストカードに、怪盗って書いてあってね、魔法使いさんは、怪盗だったのねって思ったの。何も盗まない、寧ろ、金貨を置いて行くなんて、変な怪盗だけど、怪盗って、誰にも気付かれずに行動するでしょ? 誰にも存在を明かさない、誰も怪盗の正体を知らない、そういう者でしょう? 魔法使いさんは、自分の存在を知られたくないんだなって思ったの。どうして知られたくないのか、それは、わからないけど、でも、知られたくないのよ。だから、怪盗として、コソコソ、素敵な魔法を使ってるんだわって――」
「あの・・・・・・その人って・・・・・・その魔法使いって・・・・・・アンバーの髪で・・・・・・キツネの尻尾みたいなアクセサリー付けて・・・・・・?」
「えぇ、そうよ、キツネの尻尾のアクセサリー! え? まさか知り合い?」
シンバは泣きそうになる。だから、ううんと首を振りながら俯き、それ以上、何も言えなくなる。知り合いだなんて答えられる訳ない。彼の正体は誰も知らない怪盗なのだから――。
「どうしたの? 泣いてるの?」
「ごめん、なんか目にゴミが入って・・・・・・土かな・・・・・・」
「そんな汚い軍手で擦っちゃ駄目よ、待ってて、目薬持って来てあげるわ」
「あぁ、いい、ホント、大した事ない、大丈夫! それより、その人は、空を飛んだの・・・・・・?」
「飛んだわ」
「ホントに?」
「うん、夜空を飛んだの。窓の淵に立って、風を浴びて、夜空を見る彼に、私は目を閉じたわ。だって落ちたら死ぬもの。でも彼は飛んだの、飛んだのよ、〝見せてあげるよ、魔法を! 信じてくれれば、飛べるんだ、一緒に飛んでみない? これは種も仕掛けもない、正真正銘、魔法だ。 もうキミも信じただろ? だからキミも、自分を信じて、大きな世界に挑んでみてほしい! この一歩を、キミが二歩に!!〟って、宙に浮いて、私に手を差し伸べたの。すっごく怖かったけど、私は手を伸ばしたのよ。でも、話し声が聴こえたからって、見張りの騎士が来てしまって、振り向いた時には、もう魔法使いさんは、いなくなってたの。風で、カーテンだけが揺れてて、騎士が、窓を閉めちゃったわ――・・・・・・」
間違いない、フックスだとシンバは確信する。
「彼がいなくなった後、金貨と、ポストカードが残ったの。〝心優しき姫に感謝。まだ子供のキミが王に意見するのは難しいかもしれない。でもキミが頑張る限り、ミリアム様の奇跡の魔法は続く。素敵な世界になるよう、キミが、踏み出してくれる事を願う。怪盗フォックステイル〟そう書かれてた」
――見つけた。
――フックスの足跡を踏みしめて、次の一歩を踏み出す人を!!
「子供だからとか、関係なく、父は私の意見なんて聞かないし、兄も全然、聞いてくれない。私は、何にもできないまま、何も変えれてないけど、それでも、私は今も頑張ってるの・・・・・・もうミリアム様の奇跡はずっと起きてないけど・・・・・・」
まさかジェイドにも奇跡が起きていたとは知らず、フックス亡き今、それはシンバが起こさなければいけない奇跡だったが、シンバは起こしていない。
「私、ボランティアで、貧しい国へ行ったりしたの。現状が知りたくて。でも父も兄もそれが気に入らなくて、それなら小さな国の王子と結婚しろって。でも違うのよ、小国でも裕福な国と、私が結婚して、同盟を築いても、意味がないの。それに結婚して、私がジェイドから出て行けば、もう貧しい国と完全に手を切り、援助をしなくていいと父は思ってる。そうね、私はもう、どこか小国の王の妃になるんだから、ジェイドの資金を勝手に使えない。もうミリアム様の奇跡もないから――」
「・・・・・・」
「きっと魔法使いさんは、期待外れで、私の無力さに呆れて、見放したんだわ。だから魔法の効果がなくなって、ミリアム様の奇跡が起きなくなったんだわ」
「違うよ!!」
俯いていた顔を上げ、シンバは大声で言う。
「それは違う!!」
「バイトさん?」
「あ、ゴメン・・・・・・でも違うと思う。期待外れなんて思ってないよ。呆れてもないし、見放してもない」
「どうしてわかるの?」
「わからないけど・・・・・・只、キミがその怪盗の意思を受け継いで、今も頑張ってる事に、ボクは・・・・・・嬉しく思うんだ・・・・・・」
「嬉しく?」
「あぁ、えっと、実は、その、ボクも貧しい国で育ってるから」
言い訳みたいに言うシンバに、ネイン姫は不思議そうに首を傾げるから、何一つ怪しまれる訳にはいかないと、だが、真剣に答えるには、何か気付かれそうで、
「世界中のみんなを笑顔にしてくれる魔法が、あればいいよね。その魔法使いさんは、きっと、そういう魔法を勉強中なのかも! だから、もうちょっと待ってあげたらいいんじゃない? また現れるかも!」
と、笑いながら、言ってみる。ネイン姫は、ウンウンと笑顔で頷き、そうならいいなと、また奇跡が起きる時が来てくれるといいと、
「嬉しい! 私の話し、ちゃんと聞いてもらえたのは初めて!」
そう言うから、ホントに? もっと聞きたい話しだったよと、仕事の手を止めちゃってたしと、笑うシンバ。
シンバは、フックスの意思を受け継いでいる者を見つけたと、ネイン姫に強い運命を感じる。
フォックステイルとして、賊達から宝を奪い、世界中に奇跡を起こして、貧しい国に生まれた子供達を救おうと頑張っても、幾ら奇跡を何度も何度も起こしてても、そんなもの高が知れてる。
フックスは、自分の足跡に続く、一歩を、子供達に託す為に、その大きな最初の一歩を、ネイン姫に託したんだ!!
大国であるジェイドならば、資金さえあれば、多くの国を救える。
敵も多いが、同盟を結んでいる味方の国も多い。
公にジェイドが動き、貧しき国を助ける姿は、この世界に唯一神として存在するミリアム様の如くだろう。
それは多くの人が賛同し、反対国に住む人々さえも、ジェイドの方針に従う事になる。そうなれば、どの国も、従うしかなくなる。世界は大きく変わる!!
――姫が望まない結婚なんてさせない。
――ネイン姫は、世界を平和へと導く鍵になるんだ。
――守らなきゃ。
――フックスの意思と願いと祈りを!
微かに聞こえるラビの声。
ネイン姫を探して呼んでいる。
「勉強してないのがバレちゃった」
「え?」
「部屋で本を読む時間だったの。でも部屋を抜け出したのが、もうバレたんだわ、私を探してるもの」
「あぁ、あの教育係?」
「そう、あの綺麗な教育係。昨日、見惚れてたでしょう?」
ネイン姫はシンバの顔を覗き込み、そう言うから、シンバは笑いながら、
「タイプじゃないよ」
そう言うが、ネイン姫は嘘ばっかと信じない様子。
「その綺麗な教育係さんは、夜も一緒に寝るの?」
「なんでよ、私は子供じゃないのよ、ちゃんと部屋の鍵を閉めて、1人で寝るわ」
「あの部屋で?」
シンバは城の天辺の窓を指差す。
「そ、あの部屋で」
と、笑うネイン姫。
「そう、夜は鍵を閉めて・・・・・・1人で寝るんだね」
シンバは、確かめるように、そう呟く。
今、ラビが、またこんな所で遊んでるとやって来る。
シンバはラビに見向きもせずに、花を植え始め、ラビもシンバを気にする様子もなく、ネイン姫に説教。
何度も部屋を抜け出すようなら、ネイン姫を見張る為に、部屋を近くに変えてもらうと話しているのを聞いて、教育係の部屋はネイン姫の部屋から遠いのかと思う。
今、ネイン姫が、だってあそこの部屋でしょ、充分近いと指差した部屋をシンバはチラッと見て、確認。
ラビがネイン姫を連れて行くのを、今度は、小さくバイバイと振るネイン姫に、ちゃんとバイバイと振り返し、見送った後、シンバは、城を見上げ、あそこがラビがいる部屋かと、その部屋の窓を見る。
――まずは一番厄介な仕事から片付けるか。
青空快晴だなぁと、飛行機雲が伸びる空に向かって、シンバも伸びをして、空気を一杯吸い込んだ後、シンバは、また花を植え続ける――。
その空が夕闇になる頃、シンバは仕事を終えて、城内で働く者の為にあるスタッフルームという所でシャワーが浴びれると知り、洗濯もできるし、仮眠もとれる場所だと聞いて、そこへ行く事にした。
ソファーで仮眠をとっているツナを見て、起こさないように素通りしたが、
「今日の仕事終了か?」
目を閉じて、眠ったまま、そう言ったツナに、気配だけで誰かわかるのかと、流石だなと思う。だが、いちいち言う必要もないだろうと、
「シャンプーある?」
と、今、必要なものを手に入れる為に、足を止めて尋ねた。
「適当に置いてあるのを使えよ。俺もそうしてる。誰のか知らねぇが、減り具合なんてわかんねぇだろ。わかっても誰が使ったかわかんねぇし、使えとばかりに置いてあるんだ」
成る程と、シンバは頷き、シャワールームへ。
シャワー音が鳴り、
「このボディソープ、香りが微妙。もっといい香りのソープないかな?」
そう言っているシンバの声に、ツナは目を開け、眉間に皺を寄せて起き上がると、
「洒落込んでどうするんだ?」
と、シャワールームの扉を開けた。
「ラビの部屋に行こうかと」
「呼び出されたのか!?」
「いや、こっちから行こうかと」
「・・・・・・フォックステイルとしてスカイピースを奪うには、時間が早いぞ?」
「ラビとはフォックステイルで会わない。失敗しそうだから」
ツナは頷いて、
「失敗してもいいシンバとして会うって訳か。話し合いでどうにかなる相手か? 言いくるめられるのが落ちだ。まさか仲間にしようとか考えてないよな!?」
そう聞くが、シンバは頭をワシワシ洗いながら、目に入ったなどと、ほざいている。
「おいおい、冗談だろ? あの女、仲間にするなんて、俺は認めないからな!」
答えなかったシンバに、仲間にしようとしてるんだと思ったツナはそう怒鳴ると、ドアをバンッと閉めた。
たまたまそこに来たパンダが、ツナの前に立ち、
「でもラビを味方にしとけば、案外、楽勝に事は進むかも。ラビは普段は敵でも味方でもないけど、利害関係の一致で大きな味方になるから」
そう言って、オラもシャワー浴びるんだと、タオルを肩にかける。ツナはムッとして、
「何が楽勝だ!? あの女が事を更にややこしくして、大きな障害にするんだ!」
パンダにも怒鳴る。
シャワールームから出て来たシンバが髪を拭きながら、鏡の前に立っていると、ツナが睨むように鏡越しでシンバを見ている。
普段から愛想のない顔が、更に怖いから、あからさまに表情出し過ぎと、シンバは苦笑い。
着替えて壁にある時計を気にしながら、スタッフルームを出て行こうとするシンバに、
「行くのか?」
どこへとも聞かず、ツナが聞く。
パンダはミルクを飲みながら、シンバとツナを見ている。
「ラビの所へは行かない」
そう答えるシンバに、ツナはそうなのか?と、自分の勘違いかとも思ったが、
「先にシカと待ち合わせしてるんだ、その後でラビの所へ行く」
そう言われ、ツナはイラッとしながら、考え直せと言おうとするが、シンバは時間がないからと急いで部屋を出て行った。
「何考えてんだ、アイツ!」
大きな声で、苛立ちを吐き出し、拳を壁にぶつけるツナ。
ゴクゴクとミルクを飲み終わった後、パンダは、
「シカに眠り薬でももらうのかなぁ?」
そう呟くから、ツナはパンダを見ると、パンダもツナを見て、
「ラビを眠らせてスカイピースを頂くのかも」
名案だねとばかりの笑顔で言う。だったらその作戦を何故ちゃんと話さないんだとツナはパンダを睨みつけるが、睨みつけられても、どうしようもないから、パンダはコワイコワイと、目を逸らす。
そこへドヤドヤと休憩に入って来る連中の中にカモメもいて、パンダはツナから逃げるようにカモメに話しかける。
「カモメ、どう? 整備士の仕事は? 飛行機やバイクの整備って難しい?」
「いや、それが・・・・・・」
と、そこまで言うと、カモメは、パンダに顔を近付けて、
「船なんだ」
と、小さな声で言う。
「船?」
普通の声のトーンで聞き返すパンダに、察してくれとカモメは、
「小さい声で話せ!」
そう言った後、
「大きな船を造ってる」
と、カモメは小さな声でパンダに言いながら、周りを見て、
「しかも船を造ってるのは秘密みたい」
そう囁く。パンダは秘密?と、カモメを見ると、カモメは頷いて、更に小声で話す。
「今ここに来た休憩してる男達って船大工なんだよ。ジェイドエリアに港はあるけど、城の中心部から遠いだろ? なのに態々、地下をつくって、そこで船をつくって、地下から海に出るトンネルまでつくってる。それに船大工達は、みんな遠くの国から出稼ぎに来た奴等ばっかりでジェイド出身は誰もいない。大体、ジェイドにいる整備士達で事足りてるのにバイトを雇って、そのバイトを船の整備に使うなんて、おかしいだろ?」
「おかしいって?」
「王が使うくらい立派でデカイ船だ、なのに整備部分にバイトを雇うか? 安全性を考えるなら、整備士の資格のある者を使う。なのにバイトを使う。理由があるとしたら、バイトなら金払って、ハイさよならって事ができるから。地下で働いてる連中がジェイドで整備士の仕事をしてたなんて、誰も見てないし、知らない。こうしてスタッフルームに来ても、コイツ等が船大工だって、聞かなきゃわからないだろう? ジェイドで働いてる連中は多い。聞かなきゃ、掃除をしてる奴等かも? 調理場で働いてるのかも? 庭師かも? いちいちそんなの気にしちゃいられない。関係者以外、船を造ってる事は誰も知らないんだ。つまり極秘で行われてるって事。なんで船を極秘で造る必要があるのか、それがわからない。確かな事は王が使うくらい立派な船だけど、王は使わないって事だな。王が乗るなら、絶対に安全第一な筈だから」
「でも王が乗らないなら誰が乗るの?」
「それがわかったら、コソコソ隠れて船つくってる理由がわかるよ」
カモメがそう言った後、カモメの背後で、
「船旗はジェイドの紋章か?」
と、ツナの声。聞いてたのかと、カモメが振り向くと、
「丸聞こえ」
そう言われ、気配なしに近付けるツナだけに聞こえたんだろと、それはそうと、
「船旗は巻かれてるから、帆を張らない限りわからない」
カモメはそう言って、他の連中は誰も聞いてないなと、周囲を確認。
「だったら、帆をはって、確かめてみりゃいい」
「そんな勝手な事したらオイラは即クビだ。いい金になるんだから、クビにはなりたくない。それにジェイドが誰に船をつくってても、フォックステイルの仕事には無関係だろうし、どうでもいい」
「だったら、疑問に思わず、仕事だけしてりゃいいだろ」
「そ、そうだけど・・・・・・」
「お前が思ってる事、俺は賛成だ」
「え? オイラが思ってる事?」
「ジェイドの弱みになる事は手に入れといて損はない」
カモメが思ってるだろう事を口にするツナに、
「あのね、ツナ! フォックステイルは賊じゃないんだぞ!? 脅迫みたいな事はしない」
と、カモメは大声で怒鳴った。ツナはハイハイと頷きながら、ソファーへと行くと、ゴロンと横になる。パンダが、ツナはシンバと揉めて機嫌が悪いんだよと、小声で囁き、カモメは、揉めた?と、パンダを見る。
その頃、シンバは、ラビの部屋に来ていた。
鍵は針金一本で簡単に開いた。
高級な家具付きと絵画付きの部屋で寝泊りかよと、シンバは置いてあるものを物色しながら、部屋を見回す。
バスルームもトイレもキッチンもある。
キッチンと言っても、お茶を淹れるくらいのものしか揃ってないが、充分だ。
大きなベッドにテーブルにソファーにスタンドライト。
教育係に、こんな部屋を与えなくてもいいのにと、思っていると、カチャッと部屋の鍵が閉まる音がして、暫くすると、またカチャッと鍵を開ける音がした。
鍵を閉めていったので、鍵を開けようと差し込んだら、閉まってしまい、また鍵を差し込み、鍵を開けたのだ。
そして入って来たのはラビ。
鍵が開いていた事で、慎重な面持ちでドアを開け、部屋を覗くラビに、
「お疲れ」
と、シンバは笑顔で出迎えた。
「・・・・・・シンバ?」
眉間に皺を寄せて、ラビは部屋の中に入ると、ドアを閉めて、シンバを見る。
シンバはキッチンに行き、お茶を淹れ始める。
「何してるの?」
「いや、お茶でも飲もうよ、話がしたい」
「話? ツナから聞いたの? その返事?」
「ツナから?」
「何も聞いてない? 手を組まない?って話の事――」
フーンとシンバは頷きながら、茶葉に湧いたお湯を注いで、紅茶をつくる。
「その話じゃなければ、何の話があって、泥棒みたいな真似してるのかしら?」
ラビは言いながら、髪を解き、シンバがいるにも関わらず、着替え始める。
カップを乗せたトレイを持ったまま、シンバはラビの着替えを黙って見ているから、ラビは背中に視線を感じ、クスクス笑いながら振り向くと、
「堂々と見過ぎ。見たいの?」
そう聞いた。シンバは肩を竦め、
「ま、普通に男ですから」
と、テーブルにトレイを置いて、ソファーに腰を下ろした。
ラビもラフな格好に着替え終えると、シンバの真横に座り、
「知ってる? 二人用のソファーってラブソファーって言うのよ」
そう言った。シンバはフーンと頷きながら、
「飲んで?」
と、紅茶を勧めるが、ラビは飲まない。
「ごめんなさい、アタシ、飲食物は自分で用意したモノしか口にしないの」
「毒なんて入ってない」
「ええ、わかってるわ、只の潔癖なの、人が用意したモノは口に入れられない」
「そう、じゃあ、ボクがもらうよ」
シンバは言いながら、カップを手にして、一口、紅茶を飲んだ後、
「お互い情報交換といかない?」
と、ラビを見る。
「情報交換?」
「手を組むなら、情報交換は必要だ」
「そうね、それで何を教えてくれるのかしら?」
「ボクが知っている事で、ラビが知りたい事なら何でも」
「それは、アタシと、手を組むって事かしら?」
「ラビの答え次第だよ」
「先にそっちが答えてくれる? アナタ達、何者?」
「何者って?」
「だってシンバは騎士になるんじゃなかったっけ? 試験に落ちたの? カモメは整備士に・・・・・・今バイトで整備士やってるけど、ジェイドでやる予定はなかった筈。パンダは大工だったわよね? ツナは将来が決まってなかった。だからツナがアナタ達を唆して何か悪巧みでもしてるのかしらって思ったんだけど?」
「悪巧み?」
と、随分、長い期間の企みだなとシンバは笑いながら、
「唆したって言うなら、それはボクだ。ボクは騎士になりたくなくて、みんなを道連れに旅をしながら世界中を見て、金がなくなったらバイトをするって日々を送ってる」
そう話したら、
「嘘はいいわ、本当の事を話して?」
そう言われ、本当の事なのにと、
「あぁ、実は・・・・・・」
と、
「ツナとは、最近、合流した。旅の途中、サソリ団っていう賊に会ったんだ、知ってる? サソリ団・・・・・・」
そう聞くと、さぁ?と、ラビは、どうでも良さそうな顔をするので、
「知ってると思ったんだけどな」
と、意味ありげに言ってみる。
「どうしてアタシが賊なんかを知ってると思うの?」
バニと繋がりがあるか、知りたかったが、正直に話す訳ないかと、
「いや、その賊の中に、ツナがいてね。それで、ツナを説得して、一緒に旅をする事にしたんだよ」
そう言うと、ラビは、うんざりした表情で、シンバを見て、
「ねぇ、騙し合いはよしましょうよ? 正直に答えて? 真っ直ぐに聞くから。スカイピース狙いでしょ? 旅の目的はスカイピースを探してる。でしょ?」
本当に真っ向勝負でストレートに問う。黙っているシンバに、
「何故アナタ達がスカイピースを狙うのかしら?」
そう聞いて来た事で、その質問ソックリそのまま返したいと思うが、
「ラビ、ボクは別にスカイピースを探してる訳じゃない。旅の途中、このジェイドで、バイトをする事になって、たまたまキミと、こうして再会したから、ボクのスカイピースを返してもらいたいだけだよ。ボクから奪ったスカイピースは母の形見だから。只、それだけ――」
シンバは、真剣な表情で、ラビを見つめて、そう言った。
「・・・・・・不思議ね」
「何が?」
「ペンダントではなく、スカイピースって言う名前がある事も、スカイピースは1つだけじゃないって事も・・・・・・イロイロ知ってるみたい」
「イロイロは知らないよ。でもスカイピースって名前は知ってる。ボクもスカイピースを持ってるんだ。ある人から譲り受けて、それでスカイピースと言う名前だとか、スカイピースは世界に4つあるとか知っただけ。でも別にボクは4つもいらない。只、母の形見がほしいだけ。今、キミが持ってる奴――」
その話は信じたのか、ラビは、ずっと如何わしい表情をしていたが、その表情は消え、フーンと頷いている。
「次はボクが質問する番だ、ラビはどうしてボク達と手を組みたいの?」
「・・・・・・怪盗って知ってる?」
「・・・・・・怪盗?」
シンバが聞き返すと、ラビはシンバの手からカップを奪い、ソレをテーブルの上に戻すと、
「スカイピースを狙ってる怪盗がいるの」
などと言い出し、シンバは、フォックステイルの事か?と、思うが、
「怪盗フルムーン」
そう言われ、フルムーン!?と、シンバは妙な顔になる。
「いや、知らないよ、聞いた事もない」
「そう? そうね、怪盗だもの、謎に包まれ、誰も知らないものだわ。でも怪盗フルムーンは存在して、主に王家の宝を狙う怪盗なの」
「何故そんな怪盗がいる事をラビは知ってるの?」
「何故かしら?」
と、ラビはシンバを横目で見て、長い髪を掻き分けて左側へとやる。右側の首が見えると同時に、スカイピースであろうチェーンも見え、
「その怪盗に狙われたって事?」
シンバは、そう聞いた。
「アナタ達と手を組めば、アタシを守ってくれるかと思って」
「・・・・・・それがボク達と手を組みたい理由?」
「別にアナタ達みんなと組む必要はないわ、シンバが、アタシを守ってくれるなら」
「ボクが?」
「アナタがアタシの傍にいてくれるなら、何もいらない」
「ボクにどうしろと?」
「保証がほしいわ。アタシを守ってくれると言う保証――」
「一筆でも書けって?」
そう言ったシンバの肩に寄りかかり、ラビは上目遣いでシンバを見て、
「一筆なんて保証にならない。ねぇ、2人だけの秘め事で、アタシ達だけがわかる合図で――・・・・・・」
そう囁く。そしてシンバの首にさりげなく手を回し、今、シンバの首のチェーンを外した。
シンバは全く気付いてない。だが、
「わかった、協力してあげるよ」
そう言いだして、ラビは慎重に動きを止めて、シンバに顔を近づけて行こうとしたが、シンバの方からラビの腰に手を回したかと思うと、ラビを抱き上げた。
驚いた顔をするラビに、
「誘っといて、その表情の意味は?」
余裕綽々の笑みを浮かべて問うシンバ。
「シンバらしくない気がして」
「ボクらしくない? そう? でも、もう、お互い子供じゃない」
「そうね」
そのままシンバはベッドへとラビを運び、横たわるラビの上へ覆いかぶさる。
ラビはシンバの首からチェーンをスルリを指で引っ張り上げて、うまく手の中にスカイピースを入れた。シンバが身を起こすので、シンバの首に回された手はベッドの上にドサッと落ち、そのまま手の中のスカイピースを枕の下へと置く。
シンバの顔がラビの顔に近付いていく。今、ラビが、待ってと、姫の声がすると言おうとした時、
「あげるよ」
直ぐ目の前で、シンバの唇がそう動き、ラビはフリーズ。
シンバの唇は上にあがり、笑っている。そして、シンバはラビから離れて、ベッドを出て、立ち上がる。ラビも身を起こし、シンバを見て、
「何をプレゼントしてくれるのかしら?」
そう聞いた。
「ボクの首からとったやつ。あげるよ。なかなか良くできてる。パンダの作品だ」
「レプリカ!?」
「キミのはホンモノ」
と、シンバはいつの間にかラビの首からとった雪とフェンリルのスカイピースを、シャラッとチェーンの音を鳴らしながら、自分の指に絡めて、手の平に置き、ラビに見せる。
「返しなさいよ!」
ラビがシンバに飛び掛るが、シンバは、スルリと交わし、
「おっと、それは言い掛かりだな、これは返してもらったんだ、ボクのだから」
そう言って、笑っている。
「これでキミが、その妙な怪盗に狙われる事はないだろう? 協力は大成功?」
悔しそうな顔で睨みつけて来るラビに、
「美人が台無し」
そう言って、シンバはスカイピースをポケットに入れて、部屋を出て行く。
部屋の外で待っていたのは、シカ。
「どう? うまくいった?」
「シカの演技指導のおかげで、バッチシ」
と、シンバはラビから取り返したスカイピースを見せる。
「それは良かった。でも流石フォックステイル。演技力抜群だね。幾ら演技の指導者がいいとしても、あのラビをうまく騙せたなんて。意外にラビも普通の女の子って事かな」
「誰かになりきるのは、ボクの特技の1つでもあるからね。でも今回のなりきりは一番難しかった。女の子に対して何の経験もないボクが、経験豊富なシカになりきるなんて、かなり無茶。失敗したら恥ずかしすぎると思って、この作戦、ツナにも言えなかったよ、勿論、カモメにもパンダにもね」
と、やれやれと一仕事終えたとばかりに疲れた表情をするシンバ。シカが、お疲れ様と、笑っていると、ドアが開き、ラビが出てきて、
「・・・・・・悪魔のシカ!?」
シカを見て、そう言った。今は眼帯をとっているので、右目のラブラドライトアイでわかったのか、それともシカの子供の時の雰囲気の、未だ残っている部分を見て悟ったのか。
「やぁ、久し振り、ラビ」
と、微笑みを浮かべたまま、そう言ったシカに、ラビは溜息を吐き、
「まさかアナタ達の仲間にシカもいたとはね。やられたわ」
そう言って、シンバを睨む。
「ラビ、なんでスカイピースを集めてるんだ?」
シンバがそう問うが、アナタに関係ないでしょと背を向けて、シンバ達とは反対方向へ行くから、思わず、呼び止めてしまうシンバ。
面倒だから呼び止める必要ないのにと、シカは思う。
「なぁ、ラビ! もし正当な理由があるなら、協力してあげてもいい」
ラビは振り向いて、シンバを見ると、
「あげてもいい? 上から目線で話しかけないでくれる? 不愉快」
相当、怒ってるのだろう、そう言った。だが、直ぐにフッと笑みを浮かべ、
「ねぇ、シンバ、優勢になったと勘違いしないで。アタシの手にはまだ1つスカイピースがあるわ。アナタ達にソレが奪えるかしら?」
そう言うと、また背を向けて、行ってしまう。今度はシンバも呼び止めず、ラビを見送る。
「ラビがまだ持ってるスカイピースって?」
シカがそう言って、シンバは振り向いて、シカを見ると、
「姫のスカイピースの事を言ってるのかも。確かに庭師のボクより、教育係のラビの方が手に入れやすい状況。今夜中に姫のスカイピースも手に入れた方が良さそうだ」
そう言った。
なにはともあれ・・・・・・一番厄介だと思っていたスカイピースを手に入れたシンバ達。
「かんぱーい!!」
シンバもツナもカモメもパンダもシカも、今夜は残業も夜勤もない。
只のバイトに責任もないから、無理に残って仕事する必要もなく、久々の全員集合のように思われる。
やはりリブレは、ツナの傍が一番安心するらしく、リブレがいる事もあり、屋台での食事。
アルコールは飲まないシンバとツナ以外は、みんな、ビールで乾杯。
「俺も見たかったなぁ、シンバがラビに迫るとこ」
ツナが炭酸ジュースを飲みながら言う。そして、スペアリブをリブレに投げる。
リブレ、ナイスキャッチ。
「後は、姫のスカイピースとバニの――」
シンバがそう言うと、カモメがビールを吹き出した。
「バニのって・・・・・・? まさかバニもジェイドにいるとか!?」
「カモメ、バニって名前に敏感過ぎない? シンバ、まだ何も言ってないに等しいよ!」
と、パンダはカモメが吹いたビールで料理が駄目にならないように、テーブルの上の料理を全部、両手で、両腕、頭の上と膝の上に乗せて、守った。
お前も食べ物の事になると凄い反射神経良過ぎだろと、ツナが突っ込む。そして、
「バニには、俺から話してみるよ。アイツがスカイピース目当てとは限らないしな」
と、当然のように言う。だが、シンバは、バニとラビは繋がってるかもしれないと、思っていると、
「どうしてツナから話すの!?」
と、突然、カモメが、ツナに噛み付くように聞くから、ツナはウザそうに、
「どうしてもこうしても、俺、アニキみてぇなもんだし」
そう言った。だから、シンバも、
「それなら、ボクも一緒に話すよ」
と、バニに直接聞いた方がいいなと、思って、そう言ったら、
「なんでシンバが!?」
と、カモメは、今度はシンバに噛み付くように聞く。シンバは、苦笑いしながら、
「なんでって、ボクはホントの兄だから」
そう言うと、
「じゃあ、俺とシンバで――」
と、ツナの、そのセリフを遮って、
「オイラだってオニイチャンみたいなもんだったよ!!」
と、カモメが立ち上がり、大きな声で叫ぶ。
「まさか、もう酔ったのか? お前」
と、ツナは、カモメに、落ち着いて座れよと言うが、酔ってない!と、カモメは、ツナに突っ掛かる。
「ていうか、バニを、泣き虫ってイジメてたし、割りと、材料集めとかで、こき使ってたし、別に、カモメは、オニイチャンみたいなもんじゃないと思うよ?」
と、パンダが、余計な事を言って、カモメに頭をドツカれる。
「なら、みんなで会いに行けばいいんじゃない? カモメもパンダも、僕もね、バニの幼馴染だし、シンバくんも、ツナくんも、バニのオニイチャンな訳だし。ね? みんなで会いに行けばいいよ」
と、シカが言うから、カモメは、ムゥっとした顔をしながら、座った。
シンバは、凄く複雑な気持ちを膨らませていた。
――バニに会うのが怖い。
――でも会わなきゃ。
――ボクは、本当の兄なんだから。
――バニは覚えてるだろうか。
――ボクが、バニを見捨てて、逃げた事を・・・・・・。
「シンバくん? 聞いてる?」
シカがぼんやりするシンバの顔の前で、手の平をヒラヒラして、視点を定めさせる。
シンバは頷いて、シカを見ると、
「ジェイドの財務諸表を見たんだけどね、ここ最近、謎の金が多額で動いてる。何に使ってるか、わからない。でもかなりの金額だ」
そう言った。するとカモメが、
「それは多分、船の金だ。地下で船を極秘につくってる。王が乗る為じゃなさそうだけど、王が乗るくらい大きな立派な船。バイトに整備をさせるくらい、適当なんだけど、オイラは手を抜かないから、完璧な船が出来上がると思うよ。でも誰が乗る船なのか、謎。まるでコソコソと隠れて造ってるんだからね」
そう話す。シカは少し考えて、ニヤッと笑うと、みんなを見回した。
「謎が解けた。その船は、見合いパーティーの時に、姫を襲う賊達への報酬だ。世界は盗賊や山賊にとって不便になりつつあり、賊達はみんな、サードニックスのように空へ行きたいが、なかなかそうも行かず、とりあえず海賊になりたがっている。海賊になるには立派な船が必要だ」
シカの話に、シンバは考え出し、ツナもカモメもパンダも、姫を襲う?と、シカから詳しい話を聞きだす。
「で、どうするの?」
シカが、考えているシンバに問う。シンバはシカを見ると、不敵な笑みを浮かべ、炭酸ジュースをコクッと一口飲み、
「決まってるじゃないか。頂くのさ」
そう言って、みんなを見て、
「船を――」
と、ジェイドでの、フォックステイルの獲物が決まったようだ。
「かんぱーい!」
ご機嫌な声で、二度目の乾杯が行われた――。
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