2-5.
「は!? ソイツ等と仲良くしろ?」
シンバはカモメとパンダを裏山に連れて行き、ツナに会わせた。
不機嫌になるツナに、シンバは苦笑いしながら、
「仲良くしろって・・・・・・そんな強制的な命令口調で言ってないよ、その、何て言うか、仲良くしようよって・・・・・・」
そう言った。するとツナはシンバの胸倉を掴み、グッと自分の顔の方へシンバを引き寄せ、
「昨日の今日でよくそんな事が言えるな!? ソイツ等、お前をシンバ様とか呼んで、嫌な事言ってたんじゃないのか!? もう忘れたのか!? お前だって傷付いたんじゃなかったのか!?」
と、小声で言う。シンバは冷や汗を流しながら、忘れてはないけどと首を振り、
「でも謝ってもらったし、ボクも昔は確かにシンバ様って呼ばれる態度してたし」
そう言った。ツナはシンバを突き飛ばすようにして胸倉から手を離すと、
「勝手にしろ。だが、オレに指図するな!」
そう怒鳴る。カモメもパンダも怖い奴だと、シンバの後ろでビクビク。
困ったなとシンバは頭を掻きながら、カモメとパンダを見る。
ツナは、そうだと、
「おい、シンバ、牧師が言ってたけど、ミリアム様の像が金貨の涙を流したんだ。てことは、昨夜フォックステイルが来たんだ――」
と、声を弾ませて、そう言ったが、シンバはカモメとパンダと山を下りて行く所で、ツナが話しかけた事など、知らず、振り向く事もなく行ってしまう。
チッと舌打ちをし、ツナは1人、山に残る。
シンバは溜息を吐きながら、どうしたものかと、悩む。
「オラ達何もしてないのにアイツなんか怒ってるし、怖いし、ヤダなぁ」
「そりゃオイラ達の最初の印象が悪かったから、仕方ないけど・・・・・・」
「腕に黒いバンダナ巻いてたけど、アイツ、怪我してんのかな? オラ達が、薬草採って来たら、少しは機嫌良くなるかな?」
「あれは・・・・・・あれは怪我じゃないんだ」
シンバがそう言うと、そうなの?とパンダが、きょとんとした顔で首を傾げ、
「じゃあ、なんで腕に巻いてんの? お洒落のつもり? 逆にダサいと思うけど」
と、そりゃパンダに言われたくないねとカモメが突っ込む。
「・・・・・・ねぇ、あのさ、賊の特長って覚えてる?」
シンバの質問に、何の話かと、カモメとパンダはシーンとするが、直ぐにムジカナを襲った賊達の事だなとカモメは理解し、
「特長って言われてもな。そこ等にいる賊だったよ。なんていうか、汚らしい風変わりな格好で、武器は銃も剣もイロイロ持ってたし、髪型も長いのから短いのから様々だったと思う。なんせ夜で暗かったしな、逃げる事に精一杯だったから」
そう話し、パンダも、頷いている。
「その・・・・・・どこの一味とかわかる?」
わからないと首を振るカモメとパンダに、シンバはホッとする。
ツナの腕に刻まれているサソリのタトゥーを見ても、ムジカナを襲った賊だとは気付かれないで済む。
「ツナはいい奴だよ、わからず屋でもないから、きっと仲良くなれる。今は少し怒ってるから、冷静になるのを待った方がいいかな」
と、シンバが突然ツナとの話に戻すから、カモメもパンダも首を傾げ、賊の話はなんだったんだ?と思うが、特に意味はなかったのかなと、ツナの話題に戻る。
「なぁ、シンバとアイツはどうやって友達になった? やっぱ2人共、剣って言う共通点があるから? 似た者同士って言うもんな」
と、カモメがそう言って、パンダも、オラ達も変わり者で似た者同士だと笑う。
シンバは待てよと、少し考え、そして、
「ツナと友達になるには、ツナと戦って認めてもらえればいいんだ」
と、思い立ったように言う。
「認めてもらうっつったってさぁ、普通に考えてオイラ達がアイツに勝てる訳ない」
そう言ったカモメに、うんうんと頷きながら、パンダも、
「オラ達でもわかるのにシンバってば、そんな事もわかんないなんて」
と、やれやれとシンバに溜息。
「勝てなくてもいいんだよ、だってボクはツナに勝ってないけど友達になれた」
「それは勝てなくても負けてないからだよ、シンバは強いから」
「だから負けなきゃいいんだよ」
「どうやってさ?」
「カモメにはボクを驚かせた発明がある。それで賊からも逃げ切れたんだろう?」
「あのね、シンバ。賊からは逃げたの。戦った訳じゃないんだ、オイラ達は強くないから逃げるしかできないの」
「ツナに挑んでみようよ、その発明で」
「いや、話聞いてる? シンバ」
「勝負したら、ツナに勝てるかもしれないよ」
どうやって?と、カモメとパンダは首を傾げる。シンバはニッと笑い、
「戦うだけが強さじゃない」
そう言って、カモメとパンダに顔を近付けて、コソコソ話。
暫く、3人はヒソヒソと話をした後、
「じゃあ、まずは材料集めだ。急ごう」
と、カモメは教会に戻り、シンバとパンダは町の中へと材料集めに駆け巡る。
市場や工場などに行き、使わないような部品や必要なくなったモノをもらい、いろんな素材のアイテムを手に入れて行く。
「あ、ゴミ集めしてる人だ!」
パンダがそう言って、見ると、リアカーに粗大ゴミを乗せて引っ張って歩いているオニイサンがいる。
グレイの帽子を深く被って、グレイのツナギを着ていて、何故か子供達が大勢集まっていて、鳩まで、オニイサンの周囲に集まっている。
「あれ? 教会の子達もいる」
と、シンバは駆け寄って、小さな子達に、何してるの?と尋ねた。
「このオニイサンがポップコーンを降らせるんだ」
そう言って、不思議でしょっと笑うから、シンバは降らせる?と、オニイサンを見上げる。
オニイサンは帽子を深く被り、顔を隠しているかのようだ。
「ねぇ、ねぇ、オニイサン! オラに少しゴミを分けてくれない?」
パンダが、オニイサンの足を止めた。そして、リアカーの中を覗き込み、
「コレと、コレと、アレも欲しい」
と、ゴミを指差して言うから、
「パンダ、ゴミを集めてお金をもらってるんだよ、だからゴミを引き取るなら、お金払わないと駄目だよ」
シンバがそう言うと、オニイサンは、
「いいよ、あげるよ、何に使うか知らないけど」
と、リアカーからゴミを下ろす。
シンバは、オニイサンを見つめながら、声がフックスとは違うなぁと思い、考えすぎかと思うが、帽子の後ろから出てる髪の色はアンバーでフックスと同じなんだよなぁと思う。
「ありがとう、オニイサン。後、オラにもポップコーンちょうだい」
パンダはそう言うと、手の平をオニイサンに差し出した。
子供達も欲しい欲しいと飛び跳ねる。
シンバは空へと飛んでいく鳩を見上げ、ポップコーンを降らせるって、どこから降らせるのかなぁと思い、そして、ふと、オニイサンを見ると、オニイサンの人差し指が空へと向かって伸びている。そして、
「キミ達が笑顔になるプレゼントが降り注ぐよ」
そう言った。
空から落ちてくるように、降って来るのは紙吹雪ではなく、ポップコーンだが、オニイサンはフックスだとシンバが確信した時、オニイサンの空へと伸びた指は口元へ持って行かれ、シンバへ向けて内緒のポーズ。
子供達はわぁわぁと笑顔で、大口を開けてポップコーンを食べたり、両手を広げて受けたり、女の子はスカートを広げて拾ったり。
欲張りのパンダは大口を空けながら手も広げている。
みんなが笑って、楽しんでいる中、行ってしまうオニイサンに、シンバは追いかけたくなるが、追わないで、見送る。
フックスは子供達の笑い声を聞けて満足してるのだろうかと、去っていく背を見つめる。
――どうやって声を変えてるんだろう。
――どうやって空からモノを降らせるんだろう。
――どうやって奇跡を起こしてるんだろう。
――わからない。
――わからないから、いいんだ。
ポップコーンが降り終わった空を見上げ、シンバは、光いっぱいで眩しいと目を細める。
――フォックステイルは闇に存在している。
――闇の中で、この世界の光を支えようと奇跡を起こしている。
――そして光の中で、存在を消して生きる。
――だから大道芸とは限らないんだなぁ。
――その場その場で姿を変えるんだ。
――そして今の存在を消して行く。
――奇跡だけを残して・・・・・・。
「あぁ!!!! もぉ!!!! 絶対にボクはフォックステイルになる!!!!」
ポップコーンが降り積もった中で、去って行ったフックスの方を見つめたまま、決意したように叫ぶシンバに、パンダはもぐもぐしながら首を傾げる。
「だって・・・・・・カッコ良すぎ!!!!」
と、笑顔で振り向くシンバに、パンダは更にクエスチョンマークを頭に浮かべながら、シンバの頭の上のポップコーンを取り、自分の口の中へ入れると、
「何か興奮してる所、申し訳ないけど、もうカモメの所へ戻るよ。材料集まったから。シンバも、コレと、ソレ、持って来てね」
と、ゴミを担いで行くから、シンバもゴミを持ち上げて、パンダを追い駆ける。
教会に戻り、ベッドの並ぶ大部屋で、カモメは、持って来た発明品に手を加えている。
その横で、パンダも工作を始めるが、シンバは見てるしかできない。
だからポップコーンが空から降ってきたんだよとカモメに話してあげるが、カモメは特に驚く事もなく、あっそと、どうでも良さそう。
パンダも空から降って来た奇跡よりもポップコーンの美味しさを話出すから、シンバは唇を尖らせ、ちょっとムッとする。
「あのね、シンバ。そんなの簡単だよ。説明してあげるね」
と、カモメが仕掛けを話し出そうとした瞬間、
「魔法だから!!!!」
シンバが叫んで、カモメの台詞を止める。キョトンとするカモメに、
「種も仕掛けもない。魔法使いが魔法を使っただけ!! 説明なんていらない!!」
頑なにそう信じているシンバに、カモメもパンダも少し首を傾げるが、
「まぁ、いいけど。シンバがそう言うなら」
と、カモメはまた作業を続ける。パンダも手を動かしながら、
「ねぇ、コレさぁ、簡単に作っちゃうと直ぐにボロが出そうだよぉ」
と、作っているモノについて呟く。シンバは小さな溜息を吐いて、少し不貞腐れた顔。
そしてツナを呼び出したのは夕飯前だった。
勿論、呼び出したのはカモメとパンダであって、シンバは付き添いと言う感じで、2人の後ろに立っているだけ――。
人を寄せ付けないようなオーラを放っているツナに対し、ビクビクしながら、挑戦状を渡すカモメに、ツナは眉間に皺を寄せ、睨みつけ、
「おい、どういう事だ、こりゃ!?」
と、シンバを見る。
「どういう事?」
と、シンバはカモメに問う。カモメはゴクリと唾を飲み込むと、
「しょ、勝負だよ。勝負に勝ったら、キミはオイラ達の友達になる!」
そう言った。ツナは、挑戦状を広げ、無言で読み始めるから、パンダが、怒ったんじゃない?と、カモメの耳元で囁いて、カモメは足をガクガク震わせながら、
「い、言っとくけど、オイラ、剣だけで勝負は無理だから!!」
そう言った。ツナは挑戦状から目を離し、カモメを見る。その視線にビクッと体を大きく揺さぶり、カモメはヒィッと脅える。
「悪いな、字がまだ読めねぇのがあんだよ、だから、何書いてあるか、わかんねぇから、口で言え」
えぇ!?と、カモメとパンダは、振り向いて、シンバを見るが、シンバは、そっぽ向いて、関係ないという態度。
しょうがないと、パンダが、
「戦おうって事だよ。カモメと、アンタで。で、アンタは、剣を使うんだろ? カモメは剣を使えないけど、カモメはカモメの武器を使うから」
パンダが恐れなくツナに言うから、カモメはパンダにスゲェと言う眼差しを向けるが、その後ろでシンバは、カモメが怖がり過ぎと突っ込みたくなる。
「――お前の武器?」
「うん。大丈夫、武器って言っても、カモメの武器で怪我なんてしないよ」
ニコニコ笑いながら言うパンダに、フッと馬鹿にしたような笑みを零し、
「俺が勝ったら?」
ツナは、当然の結果の報酬を問う。黙ってしまうパンダに、
「まさか、俺が負けるとでも思ってんのか?」
と、ツナは余裕綽々。
どうしようとオロオロするカモメとパンダ。そして、カモメが、チラッとシンバを見ると、
「オイラ達が、シンバから手を引くってのはどうだろう?」
そう言った。ボク?と、シンバは少し驚くが、カモメが更に、
「オイラ達はシンバと話すのもやめるし、キミとも目を合わさない!」
そんな事を言うから、今でも目を合わせてないだろと、ツナが小声で突っ込む。
「でもオイラが勝ったら、キミもシンバもオイラ達の友達だ!」
「・・・・・・わかった」
頷いたツナに、そんなんでいいの!?と、シンバは思う。
なんだか自分が賞品になったようで、余りいい気分ではないなと苦笑い。
「そ、それでね、勝ち負けの判断なんだけど、オイラは、参ったって言えば負けでいい? キミの場合、参ったって言わせられないと思うから、その、えっと、例えば尻餅をついたり、倒れたりしたら、キミの負けって事でいいかな?」
「なんでもいい」
「そ、それでね」
「まだあんのか!?」
「う、うん、あの、オイラ1人で戦うなんて無理だから仲間に手伝ってもらっていい?」
カモメがビクビクしながら、そう問うと、バリバリと頭を掻きながら、ツナはパンダを見て、ハァッと溜息を吐くと、面倒そうにイライラしながら、
「なんでもいい。どうせお前等相手に直ぐに決着は着くんだ。で、明日の何時にどこで?」
そう聞いた。
「あ、いや、その、明日じゃなくて、今夜」
「今夜!?」
「シッ! 声が大きいよ! 今夜、月が真上に来た時、裏山で」
そう言ったカモメに、本気か?と、ツナはシンバを見る。だが、シンバは我関せずと言う表情で、黙っている。
何を考えてんだとツナは思うが、カモメが、
「じゃあ、そういう事で!」
と、逃げるようにパンダと走っていく。ツナと戦う為に、まだ準備があるからだ。
去っていく二人を見送りながら、シンバは、ツナを、ツナはシンバを見る。
「なんなんだ、アイツ等は」
「ツナと友達になりたいんだよ」
「よく言うよ、俺を目の前に怖がってんじゃねぇか」
確かにと笑うシンバ。
いつものシンバだと、ツナは少し安堵する。
カモメとパンダと一緒にいて、たった1日だが、ツナと離れていたシンバ。
そのせいか、ツナは、もう知らないシンバがそこにいる気がしていた。
「ねぇ、ツナ? もし2人が負けても友達になってあげる気はない?」
「は?」
「あの2人、一生懸命だから」
「・・・・・・バカじゃねぇのか」
「え? なんで? 一生懸命をバカにするのは間違ってる」
「バカはお前だ、シンバ」
「え? なんで? 何が? ちょっ、ちょっと、ツナ!?」
行ってしまうツナに、シンバはわからなくて追い駆けるが、結局、何も聞きだせず、夕飯になり、それぞれの大部屋で就寝の準備になり、消灯になり、月が真上に上がるまで、シンバはツナと会話らしい会話さえしないままだった。
ツナが教会を抜け出し、裏山へ向かうと、そこで待っていたのはカモメ一人。
どういう事だと思うツナに、カモメは、バトル範囲はこの裏山全体だからと、広く開けた場所から、木々が生い茂る中へと走っていく。
こんな月明かりだけの真っ暗な山で、しかも木々の影が更に闇をつくる場所で、どう戦うんだと、ツナは舌打ちしながらも、見つけたら速攻で殴ってやるとカモメを追い駆ける。
木々の間を走り抜けるカモメ。
その影をシッカリ目で捉えているツナ。
カモメの襟首を引っ掴んでやるとツナは手を伸ばす。するとカモメは振り向いて、ツナ目掛けて、パンッと大きな音を放った。ビックリして足を止めるツナだが、そんな事くらいで引っ繰り返る程の度胸なしではない。
そして直ぐにカモメを追い駆けるが、カモメが何かを引っ張ると、今度はツナの頭の上にドサッと何かが落ちてくる。見ると、蛇の作り物。
よく出来ているが、ピクリとも動かない蛇は生きている訳じゃないと思うと、作り物か、もしくは、死んでいる訳で、怖くも何もない。ましてや蛇如き、頭から被っても少しばかり驚く程度。
呆れた顔になるツナ。
だが、成る程と、尻餅をついたり、倒れたりしたら負けって、こういう事かと思う。だったら、何が何でも驚いたりしないと、いや、しかし、この程度の事で、引っ繰り返って驚く事もないだろうと、ツナは持っている蛇を捨て、再びカモメを追う。
後少しでカモメの背中を掴めると言う所で、突然、カモメは何か紐のようなモノをシュッと上へ向けて放ち、ソレに引っ張られるように、カモメは上へと舞い上がる。
は!?と、ツナは何が起こったのか、サッパリわからず、カモメを探すように見上げると、カモメらしき影が木の上に立っている。
一瞬で、どうやってそこに上ったんだ!?と、思うが、カモメはやはり紐のようなモノをシュッシュッと出しては、次の木々へと飛び移って行く。
「なんだ!? アイツ猿か!?」
薄っすらだが、紐らしきモノを出しているのは見えているが、だからと言って、一瞬で飛び移るのは、どういう事なんだ?と、そして見失ってしまったと、ツナは舌打ち。
「おい! 逃げてばかりで勝負なんて言えるのか!?」
そう吠える。だが、辺りを見回しても木々の影しか見えず、夜の闇の中、これ以上、ここにいても無意味だと、ツナは一旦、広く開けた場所へと戻ると、そこで待ち構える影。
目を細め、薄っすらと照らす月明かりに見ると、カモメが立っている。
ツナは眉間に皺を寄せ、カモメを見ながら、不思議に思う。
どうせここで待ち構えるのであれば、何故態々、木々生い茂る中へと入ったのだろう。
夜と言う闇はツナだけでなく、カモメだって視界を悪くして、木々の中へ潜れば、当然、お互い苦戦する。
だとしたら、何故、木々の中へ入ったのか。
時間稼ぎだとしたら、何の時間稼ぎか?
「おい、お前、なんで――」
と、ツナは疑問を口にしようとした瞬間、カモメは両手に短めの竹刀を構える。
「!?」
驚くツナ。
その構えも、その竹刀も、そして、月が雲で隠れ、カモメの顔が見えなくなれば、その影はシンバそのものだからだ。
「まさか!? お前、シンバに剣を教わったのか!? だとしても短時間で無理だ」
そう言ったツナに容赦なく襲い掛かる影は、まさしくシンバそのもの。
なのに、月が雲から顔を出すと、その明かりがカモメの顔を映し出す。
二短剣流で、スピード感があり、予想できない型のない動きと野生的の冴える勘は誰かに簡単に真似できる技じゃない。
なのにカモメが完全コピーしている。
驚きはそれだけじゃない。
ツナがシンバの動きを読めるように、シンバもツナの動きを読める。
それが共に強くなってきた証でもあったが、ツナの動きをカモメが読んでいる。
幾らシンバに伝授してもらったとしても、口だけで理解できるものじゃない。
まるで共にずっと稽古して来たモノがカモメに宿っている。
反射的に動く体が、シンバとしか思えない。
どうして? なんで? どうなっているんだ? ツナの頭の中が疑問でグルグル回り、そのせいで、いつもの動きなどできないから、カモメに押され気味になる。
これじゃ負けてしまうと、ツナはキッとカモメを見ると、考えるのはやめだと、今、振り下ろされる右の短剣を弾き、左の短剣の横払いを避けた。
ここからは反撃開始だと、ツナが一旦、後ろへ後退し、剣を構えた瞬間、真横から、
「うわあああああーーーーーッ!!!!!」
と、雄叫びを上げながら突進してくる影。何!?と、思った瞬間、その影がツナに体当たり。突き飛ばされたツナは、それでも踏ん張って堪えた!!
ならこれではどうだと、影は指先をツナに向ける。
まるで向けられた指先は銃でも構えてるようだが、ツナには意味不明で、だが、その指先からクラッカーのように、パンッと大きな音を鳴らして、小さな紙が出たから、ツナは驚くが、倒れる迄はいかず、ましてや尻餅も着かない。
ツナは影を見据え、
「ひとりじゃないのは、わかってた事だ」
そう言って、負けはない宣言をしようとしたが、月明かりでよく見ると、竹刀で戦っていたのはカモメで、横から走って来た奴もカモメで、ツナは驚く。
「やっぱりオイラの力じゃ突き飛ばしても倒れないや。この程度じゃ驚きもないし」
クラッカーみたいなモノを出した指先を見つめながら、残念そうに言うカモメと、
「ここで倒れてくれたら勝ちは決まったのにね」
と、やはり残念そうに言うカモメ。
え? え? え? と、ツナは2人を交互に見ながら、
「ふ、双子!?」
そう言った。それに答えたのは、いつの間にか、ツナの背後に立っているパンダ。
「違うよ」
と、その声に振り向いた瞬間、ツナはパンダにドーンと突き飛ばされる。
流石にパンダの張り手は力強く、更に予想外過ぎるのもあり、ツナは前のめりに倒れてしまった。そして、倒れているツナを3人が覗き込み、
「大丈夫?」
と、突き飛ばしたカモメとパンダが2人揃って、同時に言うから、ツナは目を丸くしながら、驚いた顔で、コクンと頷くだけ。そして、ゆっくりと起き上がると、
「どういう事だ? 俺を最初に木々の生い茂る中へ誘ったのは、双子を呼ぶ為の時間稼ぎだったのか?」
と、問うと、パンダがまた、
「だから違うよ。双子じゃない」
そう答え、竹刀を持っているカモメが、ベリベリベリッと顔の皮を剥ぐから、それが一番驚いて、ツナはやめろと凄い顔をするが、顔の下に顔が出てきて、その顔はシンバで、ツナはまた驚いてしまう。
「これ被ってるとうまく喋れないし、無表情のままで、バレバレだと思ったけど、やっぱり夜に呼び出したのは正解だったね。暗いから、細かいとこまで気付いてなかった」
顔に、まだ何かくっつけているシンバが笑いながら言う。そして、ツナに、
「ビックリしただろ?」
と、悪戯大成功のドヤ顔の後、
「でも痒いや。臭いし、顔中に素材が一杯付くし」
と、シンバはムッとした顔で文句。
「仕方ないよ、まだちゃんと乾かしてなかったし、顔を動かしたら剥がれちゃうもん。本来なら、喋れるし、笑えば笑う表情にもなるし、泣く事だってできるんだ。それに剥がしても綺麗に剥がれて、臭くもないし、痒くもない筈だよ」
パンダはそう言って、完璧に仕上げるには時間がなかったからだとブツブツ呟きながらも、実際に双子かと思われていた程、そっくりに作り上げた事に、ドヤ顔になる。
「それに木々の中に入ったのは時間稼ぎじゃないよ。逃げるオイラがまさかの剣で戦ってくると言う混乱を導く為のひとつのトリックさ」
そう言ったカモメも、自分の発明では倒せなかったが、アイデアは良かったでしょと、実際にツナが何度か驚いた顔をしていた事で、ドヤ顔になる。
ツナは、3人を見回しながら、少し俯くと、その顔をゆっくりと上にあげ、
「つまり・・・・・・お前等は・・・・・・俺を騙したと・・・・・・そう言う事か・・・・・・」
怒り露わの顔と口調に、ヒィィィッとシンバの後ろに隠れるカモメとパンダ。
シンバも苦笑いしながら、ツナから目を逸らす。
ゆらっと動くツナに、カモメもパンダも、シンバが殴られるとギュッと目を閉じ、シンバ自身も歯を食い縛り、目を閉じた。だが、3人が食らったものはツナの笑い声。
そりゃもう声高らかに笑うツナ。
暗い夜空にツナの笑い声が突き抜ける。
3人は目を開けて、キョトンとし、ツナを見る。
特にシンバは、こんなに大口開けて笑うツナを初めて見るので、面食らう。
「はーっはっはっはっはっはっ!!!! してやられたよ、お前等に! すげぇじゃねぇか。この俺を負かしたんだ、上には上がいるもんだ。シンバに会った時に思わされたが、またそう思わされるなんてな」
カモメとパンダはホッとして、お互い見合うと、苦笑いするが、ツナの笑い声に釣られるように、一緒に大口開けて笑い出す。
シンバも良かったとホッとしたが、ツナが、
「だが、残念だったな」
と、一言。カモメもパンダも笑いが止まる。
「お前等と友達になるって約束――」
ツナがそこまで言うと、カモメが、
「オイラ達が勝ったんだ、認めたじゃないか!」
そう言って、ツナの台詞を遮ったが、最後まで聞けと、ツナはカモメを睨み、
「お前等と友達になるって約束、別の約束にすりゃ良かったな。俺はお前等と勝負なんてしなくても友達になるつもりだった。勿論、勝負に勝っても負けても」
などと言い出し、パンダが、
「ウッソだぁ!!!!」
と、言うが、ツナは、シンバを見て、
「お前も嘘だと思うか?」
そう問う。シンバが黙ったままなので、
「だからお前はバカだと言われるんだ」
と、ツナの台詞に、シンバは、
「ツナは嘘なんて言わないと思うけど、なんでボクがバカなの?」
そう聞く。ツナは溜息を吐いた。
「お前の友達なら俺の友達だろ、お前の敵なら俺の敵だ。お前が許すなら、俺も許す。お前が気にしないなら、俺も何も気にしない。俺はそう思ってる。なのに残念だ、シンバ。お前はそう思ってくれてないんだな」
悲しそうに俯くツナに、シンバはうろたえながら、
「え!? そ、それはそうだけど、だって・・・・・・ええぇ!?」
どうしようと、オロオロするが、ツナが顔を上げ、ベェッと舌を出すので、
「なんだよもぉ」
と、安堵の笑顔で、ツナを突き飛ばす。
意外に怖い奴でもないんだと、カモメもパンダもツナに好印象を持ち、この日から4人は仲良くなると同時に、日に日に、友情も深まって行く――。
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