2-2.

髪が軽くなったシンバは表情も明るくなり、子供達と接し始める。

子供達も顔がハッキリと見えるようになったシンバと接し易くなったのか、普通に絡む。

突然、朝、目覚めたら、髪型を変えて、性格も変わったような、いや、まるで生まれ変わったかのようなシンバに、シスターのリサは不思議に思うが、牧師は、ミリアム様が与えた奇跡だと言う。

なんせ朝食の時に、昨夜はミリアム様が金貨の涙を流されたと奇跡を皆に説いていた。

金貨があるのは、フォックステイルが置いて行ったからだ。

手に入れた宝を世界中に、フォックステイルが、ミリアム様の奇跡として、ばらまいているんだと、シンバは思うが、言う気はない。

それはシンバとフックスだけの秘密。

そう思うだけで、なんだか嬉しくなるシンバは、勝手に表情が笑顔になる。

どうやらフックスとの出会いは、シンバの暗く沈んだ心を救ったようだ。

「今日で大道芸の人達いなくなるらしいよ、だからシンバも一緒に見に行こうよ」

朝食を終えた子供達がそう言って、シンバを外へと誘う。

大道芸など、初めて見るなぁと、少しワクワクするが、1人、みんなとは違う方向へ行く少年を見つけ、シンバは指を差し、

「あの子はどこへ行くんだろう?」

と、皆に聞いた。

「あぁ、ツナは立ち入り禁止の裏山に行くんだろ、いっつも裏山に行くんだ、アイツ」

「・・・・・・どうして?」

「知らない。アイツ、噂だけど賊の子供だったらしいよ。裏山に住んでるって言われる山賊の弟子にでもなってるんじゃないかって、みんな言ってるよ」

「・・・・・・フーン」

「そんな事より、早く行こうよ! ピエロがお菓子くれるんだから」

ピエロやお菓子より、シンバはツナに興味を持ち、みんなが止めるのも聞かず、裏山へと向かった。

町から出て、暫く歩くと、山道へと出る。

立ち入り禁止の看板があり、山賊出没注意と書かれているが、相当古い看板で、山道も荒れ放題の所を見ると、山賊が出たのは昔の事だろう。

今は別ルートの道が出来て、山道を行かなくても良くなったせいで、通る者もいなくなり、そうなると山賊達も襲う相手がいなくなり、拠点を変えたに違いない。

ウロウロしながら、キョロキョロしているシンバの背後で、

「何してる?」

と、声をかけたのは、ツナだ。

振り向くと、怪訝そうな顔付きでシンバを見ているツナに、

「や、やぁ」

と、手を上げて挨拶。ツナは眉間に皺を寄せ、シンバをジロッと見た後、フンッとソッポを向いて、スタスタとシンバの横を通り過ぎて、山道を登っていく。

シンバはツナの後を追いながら、

「ここで何してるの?」

「みんなと一緒に大道芸、見に行かない?」

「あ、ボクはシンバ」

などと、色々と声をかけるが、ツナは振り向かない。

暫く歩き続けると、木々に囲まれた広い場所に着いた。シンバはこんな場所があるんだとグルッと見回していると、ツナが長く太い木の枝を持って、素振りを始め出した。そして、

「お前、教会の新入りだろ? 俺の話し、他の奴等から聞いてないのか?」

と、あんなに声をかけても何も答えなかったツナが、シンバに疑問系で話して来たので、シンバは嬉しくなる。

「賊の子供って話なら聞いたよ」

正直にそう答えるシンバに、ツナは素振りを止めて、シンバを見た。

「・・・・・・で? その賊の子供の俺に何か用か?」

「え?」

「用があるから来たんだろ?」

「別に何もないけど、気になったから」

「気になった? 賊の子供の俺を気にしてるってのか? 何様だ、お前」

明らかに、他の子供達とは違うツナの雰囲気は、自分に似ているとシンバは思う。

子供特有のたどたどしい口調ではない。

シンバと然程変わらない年齢だろうツナは、まだ5歳程度なのに、シンバと同じ大人口調で、淡々と話す。そして他人を嫌い、虚勢をはり、自分は他と違うと言う目をする。

「・・・・・・ここで剣術修行中?」

「お前に関係ないだろ、用がないならここから去れ」

「ボクも一緒に修行しちゃ駄目?」

「は?」

「1人より2人の方が稽古になるよ」

「お前、俺がガキだと思ってバカにしてるのか?」

いやいやいやと、シンバは首を大きく横に振り、

「ボクも同じガキだよ? バカになんかしないよ」

そう言うと、ツナはクッと喉から笑いを漏らし、

「だったら理解しろよ、遊びじゃないんだ、殺すぞ、お前」

と、どうやらシンバがバカにされているようだ。

ツナの髪は黒に近い深い青のようで、インディゴと言う色だとシンバは思う。

瞳も髪と同じ色を放ち、ブルーに縁取られた黒い瞳と白い肌。

キリッと釣り上がった眉毛が5歳児でも男らしく見え、瞳も常に睨むようなキツイ眼差しで、誰も寄せ付けたくないと言うオーラを目力で出している。

肩が出た黒いシャツに、ブカブカのイージーパンツをベルトで締めていて、動きやすい格好だが、何故か黒いバンダナを片腕の二の腕部分に巻いているので、

「怪我してるの?」

シンバは腕を指差して聞いた。

ツナはシンバを睨むように見た後、腕に巻かれたバンダナを解く。

その腕に刻まれたサソリのタトゥー。

驚愕の表情になるシンバに、ツナはニヤッと笑い、

「やっとわかったようだな、わかったらサッサと消えろ」

そう言い放ち、また素振りを始める。

シンバは、木々の中から、剣になるような、丈夫そうな枝を見つけ、

「ボクと勝負しようよ」

と、ツナに向かって枝を向けた。真顔でそんな事を言うシンバに、

「お前、この刺青の意味、理解したんじゃないのか?」

ツナはそう言って、眉間に皺を寄せている。

「・・・・・・賊の子供って本当なんだなって理解したよ。でもボクのが強い」

「は!?」

「キミの父は賊? ボクの父は騎士団隊長。理解した?」

そう言ったシンバに、ツナはカチンと来たのか、

「おもしれぇ、殺されても文句言うなよ!」

と、枝をシンバに向ける。

「殺されたら言いたくても言えないよ、文句なんて。大体、枝で人を殺せる訳ない」

「屁理屈言ってんじゃねぇ!!」

と、ツナが踏み込み、シンバに枝を振り上げ、シンバは枝で受け止める。

枝が重なる音が木々に反射して、あちこちで鳴り響く。

思った以上にスピードがあるシンバに、攻撃が入らない事でイラつくツナ。

思った以上にパワーがあるツナの攻撃に、手が痺れ出すシンバ。

それでもお互い一歩も譲らない。

これが5歳児の戦いかと驚く程のパワーとスピードの2人。

今、2人の枝が重なり合い、睨み合いながらパワーの押し合いの後、同時に身を退いて、後ろへ跳ねて、構え直し、呼吸を整える。

ハァハァと荒い呼吸のシンバとツナは思う事も同じ。

――コイツ、自分で言うだけあって本気で強い!!

そして、今度はシンバから踏み込もうとした時、ツナは枝を下におろした。

シンバも、そんなツナに、何故?と思いながら枝を下ろす。

「俺は賊の子だ。だが、その事で何一つ自慢に思った事も光栄に思った事もない。でも賊の子として育った俺は強さだけには自信があった。強くなるんだ、強くなって、コイツ等、全員、ぶっ殺してやるって、そう思って、強くなる事だけを物心ついた時から願って、生きて来た。どんな仕打ちにも耐え、ガキの癖に恐ろしいと迄、オヤジに言わせたのにな。まさか同じガキで俺と同じくらい強い奴に出会うなんて――」

目を伏せながら話すツナ。

「ボクは父の言う通りに生きて来た。父のようになる為に、父の強さに追い付こうとしてた。そうすれば、父は喜んでくれたから。でもそれは父のコピーを作る為だったんだ。そんな事はわかってた。それでも父が喜んでくれるなら、父のように、いや、父になってもいいって、思ってた。父の為だけにあるボクの存在でいい。でも、逆を言えば、父の為にならなければボクは必要ない。元々、父はボクなんて見てもなかった。見てたのは、ボクの強さ。だから、面倒になったらボクなんて簡単に捨てた。だって、強さは、別にボクじゃなくてもいいから。見捨てられて、初めて思った、何の為に強くなろうとしてたんだろうって。ボクの強さなんて、実戦で役にも立たなくて、無意味で、弱虫で、自分より小さな命さえ、助ける事すらできず、逃げ出す臆病者なのに・・・・・・正直、戦うだけが強さじゃないって言われても、まだよくわからなくて、だから、とりあえず、戦える強さが欲しい、もっと強くなって、今度は逃げ出さないようになりたいって思ってたんだけど、どうしたらいいかな・・・・・・」

どうしたらいいかなって、どうしたいんだと、ツナは黙ったまま、シンバを見ている。そして、シンバの話が、誰を助けれなくて、何に逃げ出して、誰に何を言われたんだろうと、内容が、いまいちピンっと来ないなと思っていると、突然、シンバは、悲しげに俯いて話していた顔を上げて、まるで光でも見つけたかのように、目を輝かせ、ツナを見て、

「でもキミに出会った!!」

そう言った。

「俺? に、出会った?」

と、ツナは、何言ってんだ?とばかりに問う。

「うん、似てると思わない? ボク達! 似てるよね? ね? 似てる!」

と、笑顔で詰め寄ってくるシンバに、ツナは、なんだコイツ!?と、意味不明なんだけどと、怪訝顔。そもそも似てるか?と、どこが?と、嫌な顔。

「なんか嬉しいよ! キミが強い事も嬉しい! ボク、父に言われた通り自分を鍛えて来て良かった! キミに会えたから! 一緒に強くなろうよ! 1人だと稽古も同じ事の繰り返しになる。でも2人なら、お互いの欠点も気付いていける。ボクは、ボクを成長させてくれる人が必要なんだ! それはキミなんだって確信した。ボクは強くなりたい。いつか、最初の一歩を踏み出してくれた人の、次の一歩を踏み出せるように。父じゃない、その人になる為に!」

シンバは、フックスを思い出し、彼になりたいと思っている。

「キミに出会わなければ、剣の練習だって、どこでやっていいかもわからなかったし、きっとそのまま思うだけで、何もできずに過ごして、今あるボクの強さも無意味に終わっていたと思う。そしたら、きっとボクは、次の一歩を踏み出すのは、別にボクじゃなくても、誰かが歩んでいくだろうって、誰かが、世界を良くしてくれるだろうって思って、何もしなかったと思うんだ。だからキミに出会えて良かった。ねぇ、ボクもここで修行していいだろ?」

「・・・・・・お前がさっきから言ってる一歩を踏み出すとか、踏み出してくれたとか、それ、誰の事言ってんだよ? 父親か?」

「違うよ! 父の事は・・・・・・もういいんだ、忘れる」

「無理だろ、自分の父親だ、忘れられないだろ」

「忘れる。だから、キミも忘れよう」

「は?」

「賊の子供とか、そんなの忘れよう。それより、強くなって、本当の強さってなんなのか、一緒に考えようよ。キミは、どうして強くなろうとしてるの?」

「俺は・・・・・・俺のオヤジのサソリ団を潰してやりてぇと思ってたんだ。奴等は誰でも殺す。気に入らなければ誰でも。俺に強くなれと言ったのはオヤジだった。でも、このままだと俺が大人になった時、オヤジより強くなるだろうって、そんな先の事なんて、どうなるかもわかんねぇのに、俺は始末されそうになったんだ。逃げて逃げ切って、彷徨って、地獄を見続けて、死にかけのトコ、孤児院に保護された。生き残ったはいいが、馴染めないままの俺は、ある人に出会って、言われたんだ。復讐ならやめろって。折角生き残ったのに、そんなくだらねぇ感情に支配されて生きるなって。どんなに辛くても、立ち上がれたなら、その強さを復讐に使うなんて勿体ねぇからやめろってさ。他にもイロイロ言われたけど、それは俺と、その人の秘密だから言えねぇけど・・・・・・」

「・・・・・・ある人って、誰?」

「・・・・・・言えねぇ。それも秘密だ」

まさかフォックステイルのフックスの事なのでは?と、シンバは思う。

「復讐を誓って生きて来たけど、その人にそう言われて、気付いたんだ。自分で限界決めてたって。復讐なんてやめよう、そう思ったら、強くなろうと頑張る事が楽しくなって来た。だから俺は今以上に強くなって、俺に未来をくれた、その人の役に立ちたいと思った。戦う事が強さじゃないって事も教えてくれたけど、でも俺には戦う事しかできない。そう育てられてきた。だから、俺はその人の為に戦いたい。その人が属する誰も殺さない一味に入りてぇから、俺は強くなる。なのにお前に出会ってショックだ。かなり鍛えて来たのに、強さが全然、足りなかった」

不貞腐れた顔でそう言ったツナに、

「ええ!? ボクを強いと思わないで自分の強さが足りないって思った訳!?」

そう言った後、ツナになら話してもいいかと、

「ある人って当ててやろうか?」

と、少し悪戯っぽい顔になるシンバ。

「当てる? お前が? 言っとくけど、教会の牧師やシスターじゃねぇからな」

「フォックステイルだろ?」

と、シンバは秘密を口にして、聞いた。

驚いた顔をしたツナに、やっぱりそうなんだとシンバは確信する。

「ボクもだよ。ボクもフォックステイルになりたいんだ。ボクは昨夜、会ったんだ、彼に!」

「昨夜・・・・・・やっぱりそうか。今朝、牧師がミリアム様の奇跡の涙の話をしたから、フォックステイルが来たんだって思った」

「ねぇ、キミはどうやってフォックステイルに会えたの!? やっぱり真夜中にミリアム様の像の所に彼は立ってたの?」

シンバがワクワクしながら聞く。

そんなシンバの気持ちがわかるのか、ツナも話し出し、二人、フォックステイルについて語る。

ツナが声を出して子供みたいに笑う。

シンバが歯を見せながら子供みたいな笑顔になる。

こうして見ると、2人は無邪気な子供だ。

だが、ツナが、

「お前、なんで孤児になったんだ? 親が騎士団の隊長なんだろ? どんな扱いを受けたにしろ帰る家くらいあるだろ? 俺と違って」

そんな質問をするから、シンバの表情が暗くなり、

「・・・・・・住んでた町は、賊に襲われたんだ」

落ちて沈んだトーンの小さな声で、そう言った。

「賊に? 災難だったな。その賊はどこの一味の奴等かわかるのか?」

シンバはウウンと首を振り、サソリ団である事を隠した。

ツナはそうかと頷いただけで、それ以上は何も聞かない。

聞かれても、シンバはそれ以上、何も言う気はなかった。

ツナがサソリ団と繋がりがあっても、シンバが孤児となったのはツナのせいじゃないし、ツナが町を襲わせた訳でもない。

それにツナは、サソリ団に傷付けられている。

そういう点では自分と同じだとシンバは思い、これ以上、ツナを傷付ける必要はないと思う。それは子供の純粋さではあるが、まだ小さいのに、シンバは気が回る。

多分、父の顔を伺って生きて来たから、相手を気遣おうと思えば、気遣い過ぎる程、気遣える。

「お前は――・・・・・・名前なんだっけ?」

「シンバ」

「シンバか。俺は――」

「ツナ、だろ? 知ってるよ」

「そっか。シンバは随分と短い枝を手にしたのに、俺の長めの枝に、よく重ねられたな」

「ツナの攻撃に対し、ボクは2回攻撃してるんだよ、気付かなかった?」

「2回?」

「うん、ツナが枝を振るう時、一度、枝の先の方にボクの枝を当てて、ツナの攻撃を軽く弾く。そうする事でツナの枝は少しだけ元の位置に戻り、振り落とすのが遅くなる。それで素早く奥へと入り込み、ボクは二度目の攻撃で枝の中心に枝を持っていけるって訳」

「俺の1回の攻撃に対し、2回攻撃してたってのか?」

「うん」

「気付かなかった。通りでいつもより枝が重いように感じたのは、弾かれてたからか」

「でもツナの攻撃が力強くて、手が痺れて、長期戦になったら、多分、負けてた」

「いや、2回攻撃に気付かないなんて、俺も全然ダメだ。動体視力を鍛えなきゃな。それに軽く弾かれるなんて、もっとパワーを鍛えて簡単に弾かれないような重い攻撃を出せるようにならなきゃな」

「ボクは左手も使えるように鍛えようかな。両利きで二刀流にすれば、1回に2回の攻撃も遣り易いし、うまくいけば、4回攻撃ができるかも。長期戦が無理なら、スピードを上げて、素早く相手を倒す方法しかないからね」

「そりゃ凄いな。俺も負けてらんねぇ」

そう話した後、稽古を始めるかと、お互いが、また枝を持った時、教会の鐘が鳴った。

午後を知らせる鐘だ。

「もう昼か」

「午後からは食事の後、ボランティアの人達が勉強を見てくれるんだよね?」

「俺は勉強なんてしない。ここで体を鍛える」

「・・・・・・勉強した方がいいよ? だって、きっと、ツナはうんと頭いいと思う」

「は?」

「勿体無いよ、学べるモノは学んで、吸収した方がいい。ツナにはそのセンスあるよ」

「勉強は得意じゃない」

「教えてあげるよ!」

「お前が!?」

「ボクは沢山の本を読んで来たんだ。知識は必要だって父が言うから言いつけ通りね。だから結構、知識だけは豊富。でも母が言うにはボクは知識はあっても、その知識を全く使えてないってさ」

「それってバカって事だろ」

笑いながら言うツナに、そうかもとシンバも笑う。

笑いながら山を下りて行く2人。

教会へ戻る道で、大道芸の人達に出会い、シンバとツナは足を止めた。

皆、ピエロの衣装を着ていて、面白い顔の仮面を付けている。

そういえばと、

「今日で大道芸の人がいなくなるって聞いたよ、次の町ヘ行くのかなぁ」

シンバがそう言うと、ツナはフーンと、どうでも良さそうに頷き、

「興味ないね」

と、ピエロ達の横を通り過ぎようとしたツナの顔近くで、1人のピエロが手を広げ、ヒラヒラと手を振るから、ツナは不機嫌そうに、そのピエロを見る。

ピエロの仮面は泣き顔で、でも笑っていて、ちょっと不気味で滑稽。

ピエロは見て見てと言う感じで、広げた右の手の平を左の手の人差し指で差して、何も持ってないよとアピールすると、パチンと右手の中指と親指で音を出して弾く。すると何も持ってなかった右の手の平にキャンディーが現れた。

シンバは昨夜もらったキャンディーと同じだと、そのピエロを見る。

ピエロはツナにそのキャンディーを差し出すが、ツナはいらないと少し怒った感じで、うっとうしそうに手で払う。

ピエロはがっくりと肩を落とし、泣き真似のつもりか、目の所に両手を置いた。そして、アレ?と言う風に、自分の両手の手の平を広げて見る。

キャンディーがなくなってしまった。

どこへ行ったんだろう?と、ピエロは首を傾げる。

ツナはくだらないと、行こうとするが、ピエロはポンッと手を叩いて、シンバのズボンのポケットを指差した。

「え? ボクのポケット?」

コクコク頷くピエロに、そりゃ昨夜もらったキャンディーが入ってると思い、シンバはポケットに手を入れて、そして2個のキャンディーを出した。

「あれ!? 2個!? なんで!?」

そう、昨夜もらったキャンディーは1個。

何故か1つ増えている。

シンバは2個のキャンディーを見つめ、不思議そう。

ピエロはそんなシンバに、ツナを指差して、そして、自分の両手を握手させるように握り締めて、二人で仲良く食べてねと、ジェスチャー。

シンバはピエロをジィーッと見つめながら、フォックステイル?と聞こうとした時、ピエロが人差し指を口元に持って行き、内緒のポーズ。

そしてバイバイと手を振り、ピエロは先に行ってしまったピエロ達を追い駆ける。

去って行くピエロをずっと見つめ続けるシンバに、

「あんなのに興味あるのか? やっぱ子供だな」

と、ツナが言うから、

「フォックステイルだ」

そう言った。ツナはシンバを見る。シンバもツナを見る。

「フォックステイルだよ」

シンバはキャンディーを握り締め、そう言うと、ツナはまさかと去ってしまったピエロを見る。もういないので、追い駆けようとするが、シンバがツナの腕を掴み、そして、ピエロからもらったキャンディーを1つ差し出し、

「昼間もピエロとして顔を隠してる。誰にも知られたくないからだよ。だから今はまだ追い駆けちゃ駄目だ。今のボク達が追い駆けても、迷惑になるだけ。でも、大道芸人がフォックステイルだって事はボク等の秘密!」

そう言った。ツナは少し考えてから、キャンディーを受け取り、頷いた。

フォックステイルがキャンディーをプレゼントしてくれた事で、シンバとツナは同じ秘密を持ち、同じ憧れを持ち、同じ夢を持ち、2人は親友という絆で結ばれていく。

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