1-2.

「あれ? バニはどこへ行ったの? 本を読んであげようと思っていたのに」

そう言って、広い屋敷の中をウロウロしているシンバに、

「バニなら遊びに行っちゃったわよ、シンバもたまには町の子供達と遊んだら?」

と、家具拭きの掃除をしているカラが言った。

「なんだ、そっか。じゃあ、勉強しよう」

この時間はバニとの時間だと決めていたシンバは、勉強をしながらバニの帰りを待ってみるかと思う。

「遊びに行かないの? バニは、きっと町の子達と一緒にいるわよ」

「ボクはいいや」

「どうして?」

「あんまり自分を落としたくない」

「落とす? どういう意味?」

「だから、ボクはシンバ・レオパルドなんだ、父の名を受け継いで、父に恥じないように生きなきゃならない」

「町の子と遊ぶのが、お父様の恥になるの?」

「バニも少し控えた方がいいんじゃない? アイツだって父の子なんだし」

「シンバは難しく考えすぎなんじゃない?」

「・・・・・・ボクとアイツ等は違うんだ」

「アイツ等?」

「町の子供達だよ」

「同じだと思うけど?」

「本気で言ってる? ボクはシンバ・レオパルドだよ?」

「随分と拘るのね。でも、そんな事言って、本当は声をかけるのが怖いだけなんじゃないの?」

「怖い!? ボクが!? 冗談やめてよ。アイツ等のレベルに合わせなきゃならないのはボクの方だ。怖がるのはアイツ等の方だ」

「シンバ・・・・・・」

「なに?」

急に悲しそうな顔になるカラに、クエシュチョンの顔をするシンバ。

「まだ一緒に遊んでもないのに、何も知らない子達の事を、どうしてそんな風に思うの?」

「知らなくてもわかる」

「名前も知らないのに、何がわかるの?」

「ボクは知らなくても向こうはボクを知ってる! それだけボクとアイツ等は違うんだ」 

「そうかしら・・・・・・シンバはとっても利口だと思うけど、他の子達もとってもお利口なのよ。きっとシンバにはわからない事も、他の子は知ってるかもしれないわ。一緒に遊ぶだけで、沢山の事を学べる事だってあるのよ」

「・・・・・・遊ぶだけで学ぶ事なんてないよ」

「本にも載ってない事や大人達が教えてくれない事もあるわ」

「なにそれ?」

「だから聞かれても大人には答えれないモノなの。シンバが同じ年齢の子達と一緒に遊んだり、喧嘩もしたり、仲直りもしたりする事で一緒に成長して一緒に学ぶものだから」

黙ってしまうシンバに、

「直ぐには無理なら、しょうがないけど、シンバがバニみたいに、町の子達と仲良くしてくれたらいいな」

母としての願いを口にするカラ。

「バニはまだ小さいから、自分が誰なのか理解してないんだ。だからプライドもなく、誰とでも一緒にいれるし、低俗な遊びで満足できるんだ」

そう言ったシンバに、カラは溜息。

少しはマシになったと思っていたが、やはりシンバは父であるベアの映し身のようだ。

結局、シンバは勉強をする為に自分の部屋へ行く。

カラは、シンバもバニも優しい子になってほしいと願う。

その為には、シンバにどう接していけばいいのかと考えながら、どうしたものかと、窓を拭き始め、見ると、誰かを追い駆けて、楽しそうに走って行くバニの姿に、ここは戦場エリアでもないし、子供達が外で自由に走り回れて、いい場所だと、微笑む。

シンバもあんな風に駆け回ってもいいのにと、この環境を楽しんでほしいと思う。

そして、この暮らしが、全てベアのお蔭だと、晴れた空を見る。

住む場所を選べず、戦場エリアとなる町に身を置く者も少なくはない。

ここムジカナは、田舎町とは言え、国へ納める金額も高めだが、不便さもなく、それなりに平和に過ごせる場所だ。

ふと、見知らぬ小汚い男が、バニが駆けて行った方向に向かって走って行くのが見えた。

カラは窓から身を乗り出して、もういない男を捜すように、走って行った方を見つめる。

「誰かしら? この町の人じゃないわ。それに剣を腰に持っていたような気がする」

独り言で、そう言うと、カラは心配になり、バニを探そうと外に出た時、

「ただいま」

と、バニが帰って来た。

「・・・・・・おかえり」

と、カラは拍子抜けし、玄関で、バニを家の中に招き入れた後も、やはり少し気になるのか、男が走って行った方を見つめる。

バニが帰って来た事を知り、玄関まで来たシンバがカラの妙な様子に気付き、

「母? どうかしたの?」

と、声をかけると、カラはううんと首を振り、家の中に入ると、

「ま、バニなら、大丈夫かも」

そう呟いた。

「何が?」

「妙な男を見かけたの。もしバニに何かあったらって思ったんだけど、バニは無事に帰って来たし、それにね、万が一、バニに何かあったとしても、バニは強いから大丈夫かなって思って」

「バニが強い?」

「あら、知らなかった? だったら今度、剣の相手、バニにお願いしてみたら? 物心つく頃からシンバが剣の稽古をしているのを見て来たのよ。自分もやるんだって、気が向いた時にオモチャの柔らかい剣を持って稽古してるんだから」

「物心付いた頃って・・・・・・バニはまだ2歳だよ」

「シンバはまだ5歳じゃない」

「ちょっと待ってよ、ボクは3歳くらいから剣を持ったんだよ? バニはオモチャの剣とは言え、もう手にして稽古してるって言うの?」

「そうよ、結構いい動きをするし、飲み込みも良くて剣技を覚えるのも早かったわ、あの子がシンバと同じ5歳になったら、今のシンバより強いかも」

嘘だろとシンバは信じられないと言う表情をする。そんなシンバの腕を引っ張り、

「おにいたん」

と、笑顔のバニ。

――コイツがボクより強くなるかも?

――ナイナイナイ。

――だって・・・・・・バニだよ!?

「有り得ないなんて思ってる?」

そう聞いたカラに、シンバは心の中を読まれてると思う。

「そうね、有り得ないかも。バニはお遊び程度だから。でもそれが一番怖いのよ。努力じゃなく、楽しんで吸収してるから。これからどんどん強くなるかもしれないわよ」

――この2つ三つ編みのおさげのバニが?

――どんどん強くなる?

――ボクより?

そんな事になったら父に殺されると、シンバは顔を強張らせ、

「バニ、ボクと一緒にこれから剣の稽古しよう!」

と、バニの今の強さを知りたくて必死で誘うが、

「やだやだ、おにいたんと遊ぶのー!」

と、バニは首を横に振る。

「後で遊んでやるから! 今は稽古するの!」

「やだやだやだー!」

シンバも、稽古とは言わず、剣で遊ぼうとうまく誘えばいいが、そこは素直な子供なのか、ストレートに言うばかりで、結局、夕方になってもバニはシンバの誘いに乗らなかった。

その日の夜――。

風が生暖かく、月が雲に隠れ、また顔を出し、闇と光が交差する。

ベアがそろそろ帰って来るだろうと、シンバはそわそわしている。

「父は明日の朝かな、それとも真夜中には着くかな、母、もう少しだけ起きててもいい? 後ちょっとだけ」

「いいけど・・・・・・今日か明日かなんて、わからないわよ。明後日か、明々後日かも。お父様は、いつも、大体で、帰ってくるでしょう?」

「でもこの前来た時から、調度一ヶ月経つから、今日かもしれないし」

「そうだけど」

「父が帰ってきたら、まず銃の事、話さなきゃ」

「それはシンバが話さなくてもいいわよ」

「でも母だけの話じゃ父は納得しないかも。ボクもちゃんと自分で話す」

「そう?」

「うん、剣だけで強くなるって。前より強くなったから見て欲しいって話す」

そう言ったシンバに、カラは優しく微笑み、長く伸びたシンバの髪に触れて、

「お父様の言う事に頷いてばかりじゃなくて、そうやってちゃんと話して行けば、きっとわかってもらえるわ。でも最初からうまくいくとは限らないから、悲しい事になるかもしれないけど、シンバの家族はお父様ひとりじゃないから――」

と、表情に合う優しい口調で話す。

「大丈夫、ちゃんと話してみるよ。何度でも」

覚悟していると言うように、シンバは頷く。

覚悟と言うよりは、ベアを信じているのだろう。

父ならきっとわかってくれると――。

「お父様に髪を切ってもらわなきゃね。前髪で目が隠れてしまって視力も悪くなるわ。それに可愛いシンバの顔が髪で隠れてるのは残念よ」

カラがそう言って、シンバの前髪を横に流し、シンバの夕焼け空に似たオレンジの瞳を出した瞬間、ふと、カーテンの隙間から映った景色と騒ぎに気付いた。

「なにかしら?」

カラは窓に近付き、カーテンを全開にした。シンバも窓の傍に行き、外を見る。

シンバの瞳に似た色が、遠くの方で揺れている。

「火事!?」

言いながら、そうじゃないと、カラは思う。火事にしては火の広がりが大きい。

風で燃え移ったのかとも考える。だが、今夜は生温い風が流れているが、強風ではない。

ドーンっと体の中にまで響く音にカラの顔色が変わった。

「何? 今の何の音?」

そう言ったシンバの腕を掴み、見た事もない表情で、シンバの顔に顔を近づけ、

「バニと裏口から出て逃げなさい!」

そう言った。そして真っ直ぐにシンバの目を見つめ、早口で話し出す。

「路地を通り抜けて町を出たら直ぐに森があるわ。森の抜け道はバニが詳しい。あの子はよくあそこで遊んでるから。隣町ヘ行く看板が見えたら、その先はバニでは道案内は無理だけど、矢印の方向へ真っ直ぐ行けば、また道標があって、隣町まで何キロ先か記されてる筈。とにかく隣町まで!」

「母? なんで? どうして?」

「ここは戦場エリアではない。だとしたら、賊が来たんだわ」

「賊!? 何しに!? こんな田舎町を狙う賊なんていないよ」

「どういうものを目当てかは知らないけど、兎に角、あの音は銃砲で、あの町を包む光は炎の揺らめき。一度、戦いを経験してるからわかるの」

「経験って? まさか、この前、お話してくれた小さな国の王女の話? あれ実話?」

「そんな事、今はどうでもいいから――」

と、カラはいつもしていたペンダントを外し、シンバの首に付けると、

「逃げて。バニと一緒に生きて」

そう言った。そのペンダントはシルバーで出来たプレートに、雪の結晶と狼のエンブレムが刻まれており、中央には白い宝石が入っている。

「母は? 一緒に行かないの?」

「アナタ達が町の外に出るまでの間、奴等を惹き付けるわ」

「そんなの無理だよ」

「惹き付ける事くらい簡単よ」

「父が帰って来る! もうすぐ帰って来るよ!」

そう言ったシンバに、ううんと首を振るカラ。

「帰って来るよ、今、直ぐソコまで来てて、賊から守ってくれる! だって父は――」

「シンバ、もしも直ぐソコまで、お父様が来ていたとしたら、きっと、遠くから、この町の様子に気付いて、背を向けて行ってしまうわ」

「そんな事ない! 父は逃げたりしない! 賊相手に逃げない!」

「ええ、騎士団が一緒なら」

「・・・・・・」

「でもお父様ひとりなら、賊相手に一人で立ち向かわない。勝てないかもしれない、勝てるかもしれない、勝敗がよくわからない戦いに挑む賭けはしないわ。万が一の事を考えて、背を向けて去っていく。あの人は自分の命を惜しむ人だから。あの人にとって、シンバの変わりは他にもいるでしょう、そしてバニの命を自らの命を懸けて守る程の価値を見出してないでしょう、だから彼はここには来ない」

緊迫している中に、穏やかな優しい表情を出しながら、でも、直ぐに壊れてしまいそうな顔で、そんな事を言うカラに、シンバは息ができなくなる程、胸が苦しくなる。

「さぁ、シンバ、バニを呼んできて?」

立ち尽くして、動けないシンバに、再び、

「シンバ!! バニを呼んで来なさい!!」

大きな声で怒鳴るカラ。シンバは言われるがまま、バニの所へ駆けて行く。

部屋で既にベッドの中で丸くなって眠っているバニを揺すり起こし、眠そうに目を擦るバニの手を握り、そして引っ張って、カラの所へと連れて行く。

既にカラは小さなリュックに何か詰めていて、それをシンバとバニに背負わせると、

「バニ、おにいちゃんの言う事をよく聞いて、隣町までお遣いに行って来て? いい? 町が騒がしい事になってるけど、決して足を止めては駄目。振り向いては駄目。何を見ても、何を聞いても、声を上げては駄目。只管、おにいちゃんと一緒に走り続けて」

首を傾げるバニに、そういうゲームなのよとニッコリ笑って見せるカラ。

バニは、ゲームと聞いて、一気に目を覚まし、やる気満々ではしゃぎ出す。

「母・・・・・・」

「シンバ、大丈夫よ、必ず隣町に行くわ、アナタ達を迎えに――」

「ボクも一緒に戦う」

「バカね、戦うんじゃないわ、相手の気を惹き付けるだけよ。賊を怒らせる事なんてしないわ。もし金目のモノが欲しいなら、この屋敷ごと渡しちゃうし、危険な事はしないわ」

だが、シンバは子供だが、子供ではない頭の回転の良さで、賊という連中がそんな話し合いのような事をするとは思わず、カラの手に持たれたエストックで戦う事を確信している。

「心配しないで。直ぐに迎えに行くわ。そしたら少し遠いけどフォータルタウンまで出ましょう。でももし・・・・・・迎えに行けなかったら、お父様に会いに行きなさい。シンバ、その時は、お父様に何を言われても、バニの事を見放さないでね。その手を離さないで。絶対に!」

バニの手を握り締めているシンバの手。

コクンと頷くシンバに、カラはシンバの長く伸びた前髪を掻き分けて、その額にキスをし、そしてバニの頬にキスをし、

「さぁ、裏口から出て、町を抜けるのよ」

そう言った。シンバはバニを引っ張り、バニはよくわかってないものの、シンバと共に走り出し、カラは真正面の玄関から外へと走り出した。

裏口から出たシンバは路地を駆け抜けて、なるべく人通りのない道を選ぶ。

見ては駄目だ、聞いたら駄目だと、何の光景も目に映さず、音を耳に入れないようにしようとするが、目の前で松明を持った男が、男を剣で刺しているのを目の当たりにしてしまい、走り続けていた足が止まってしまった。

揺れる炎が影をゆらゆら動かし、浮かび上がる男の笑い顔と強烈なニオイがシンバの五感を狂わせる。

流石に状況把握ができてないバニも、本能的に危険を察するのか、シンバの背後に身を隠すようにして、シンバにしがみ付いている。

男の太い二の腕に刻まれたサソリのタトゥー。

ガキが二匹いると、賊の男がゆらりと動き出す。途端、シンバの呪縛が解けたかのように、止まっていた足が動き出した。

バニの手首を掴み、逃げるシンバ。

そっちへガキが逃げたと、大声で叫ぶ男。

また目の前に現れる賊達。

来た道を逃げようとするが、さっきの男が向かって来る。

後ろへ前へ賊に挟み撃ちに合いながら、ウロウロして、細い路地を見つけて、滑り込むように入って行く。

逃がすなとシンバとバニ相手に、賊達は鬼ごっこを楽しんでいるようだ。

子供2人くらい見逃してもいいと言う寛大な心はない、まさに鬼だろう。

この時程、ミリアム様に願った事はないだろう。

シンバは、神様ミリアム様、どうかボク達を救って下さいと逃げながら心で唱える。

だが、その願いも虚しく、行き止まりで、シンバとバニは逃げれなくなる。

賊達が笑いながら、近付いて来て、その中の一人が銃を向けている。

賊達が持っている松明で、ゆらゆらと揺れる灯りが闇と光の景色を作り出す。

賊の二の腕には、皆、サソリのタトゥーが刻まれている。

今、銃口から火が噴いた瞬間、シンバは初めて怖いと知り、行き止まりだからと言う理由だけでなく、足がすくんで動けなくなる。

賊が撃った弾は外れて、レンガの壁に穴を開けただけだが。

――ボクは・・・・・・あんな怖いモノを・・・・・・バニに向けたの・・・・・・?

――父は・・・・・・どうして・・・・・・あんな怖いモノを・・・・・・バニに向けさせたの・・・・・・?

考えてもわからないモノが渦巻いて、もう駄目だと思った矢先、

「おにいたん、こっち!」

と、バニがレンガの壁下に開いた穴を見つけ、そこへ潜り込んだ。

急いでシンバも潜り込むと、賊達が慌てて来て、穴へと手を突っ込み、シンバの足を掴もうとしたが、ギリギリで賊達の手を交わし、シンバとバニは再び走り出す。

賊達は壁の向こう側へと、しつこく追い回す。

もう町を出て、森へと入ったと言うのに、松明を持った賊が数人、追って来る。

木々が生い茂る森。

賊達が持っている炎の光以外、何もない暗闇の中、人影を見る。

父だと確信するシンバだが、人影は察したように背を向けてしまう。

父と何度も呼ぶ声が聞こえないのか、振り向きさえせずに、行ってしまう人影。

「父!! 父!! 父!!」

何度も何度も呼び、今、その影の腕を掴んだ瞬間、バシッと振り払われた。思わず、見上げると、その影は、冷たい眼差しでシンバを見下ろしている。

賊達の声が聴こえ、影は、また背を向けて行ってしまう。

追い駆けるが、影が森の茂みの方へと入って行き、更に、賊達がシンバ達を見つけ、シンバは逃げる為に走り易い獣道から外れる事はできないと、人影を追えなくなる。

バニの歩幅などに合わせ走って来たシンバだったが、ここに来て、更にバニの走るスピードが落ちてきて、暗い森の獣道は足元が不安定で、2人共、転んでしまった。

握り締めていた手も汗で滑り、お互い、少し離れた場所で倒れて、しかも顔面から滑り込んだせいもあり、バニが大声で泣き出した。

シンバはバニの泣き声に焦って、飛び起き、振り向いて、見ると、バニの直ぐ後ろ、賊が銃を向けて立っている。

剣を持っている者も数人いる。

わんわん泣き叫ぶバニ。

嘲笑いながら、ゆっくりと近付いて来る賊達。

バニの元へ行こうとしたシンバの足元に、銃弾が飛んだ。

地面に入った銃弾に、シンバは後退りしながら、二歩、三歩・・・・・・

――さっき見た、人影は幻影だろうか。

――いや、確かにボクは腕を掴んだ。

――ボクを見下ろしたのは、父だった・・・・・・

――いや、違うよ、あんな目を、父がする訳ない。

――だったら・・・…くるりと背を向けて行ってしまった影は、誰だったのか。

――それは多分・・・・・・自分だったんだ・・・・・・

――父、ボクはアナタにソックリだ。

遠ざかるバニの泣き声が、銃声と共と消えた。

泣きながら逃げるシンバ。

もうどこをどう走っているのか、気がつけば、崖に追い詰められ、結局、賊達に囲まれる。

何の為に暗闇を走って来たのか。

何の為に剣の稽古をして来たのか。

何の為に父であるベアを尊敬して来たのか。

全てが、この絶望の為だったのか。

銃声が鳴り、シンバは崖から身を落とし、この世から存在を消した――。

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