07話.[色々なところを]
でも、人生とは上手くいかないもので、姉が来ることをやめることはなかった。
それでも怒られることを少なくするために、自分のことを自分でやることは守り続けた。
「健人、来な」
「ははは、なに格好つけているんだよ」
「早く」
こんなことは珍しいから大人しく従う。
その先には姉がいる、なんてこともなく、廊下には俺と母のふたりきりだった。
「あんたさ、また真里那と喧嘩したの?」
「してない、姉が不機嫌だったから嫌なら来なければいいって言っただけだ」
「仲直りしな、ふたりがぎすっているとめんどいんだよ」
ぶっちゃけたなあ、そこが母らしいとも言えるが。
でも、今件は俺ばかりが悪いわけでもないしな……。
それなのにこちらばかりに謝れと言われてもなあ。
「仲直りしたら健人の好きな寿司屋に連れて行ってあげる」
「別に寿司に釣られたわけじゃないけど、まあしゃあないから謝ってきてやるよ」
これでも頑張ってくれているわけだからな。
無駄なことで負担をかけたくない。
「真里那」
「きゃっ、の、ノックぐらいしてから入ってきてくださいよ!」
こんなときでも真面目だな。それか、こういうときにもやっておかないと付いていけないのだろうか。
「この前は悪かった、意地を張ったのは確かだからな」
「い、いえ、それを言うなら私の方が……」
「だからもう無駄なことで争うのはやめよう、家族とぐらい仲良くいたいんだよ」
「……ほとんどの原因は健人くんですけどね」
「なるべく可愛げのある人間でいられるように頑張るからさ」
ちなみに、寿司屋なんかどうでもいいと考えている。
なにかを奢ってあげるとかそういうことを言われて頑張るような人間ではないからだ。
「真里那、明日って暇か?」
「あ、明日はお昼まで授業があって、それから千佳さん達とお出かけすることになっているんですよね……」
「だからって日曜日に時間を貰うのは悪いよな、忘れてくれ」
残念、この前といい上手くいかないな。
なにかを買ってやりてえのに、外でなら自然になにか欲しい物を聞き出して贈ることができそうなのに。
「待ってください、大丈夫ですよ?」
「無理するなよ」
「……たまには健人くんと一緒に」
「1週間前に行ったけどな。よし、それなら行きたいところを考えておいてくれ」
「わかりました」
今度こそ言い争いとかそんなことにはさせない。
二度と、とは言えないが、そう何度も発生させないように頑張るつもりだった。
やっぱり真里那とは仲良くしておきたいんだ。
「真里那」
「はい」
「……仲良くしてくれ、真里那と喧嘩した状態だと嫌なんだよ」
恥ずかしいがしょうがない。
家族にぐらい隠そうとするなという話だ。
「ふふ、わかりました」
「あ……」
「ん? どうしました?」
あー、これは不味いかも。
とはいえ、それとこれとは別だ。
出かけることぐらい、姉弟なら、家族なら普通にする。
家族が相手なのに緊張することなんてない。
「ここですっ」
「またアイス屋なのか?」
「はいっ、リベンジがしたかったのでっ」
真里那に合わせるつもりだからどこでも良かった。
ただ、もっと本格的な物が買えるところに行きたい。
くっそ野郎の俺が誕生日プレゼントを数百円の物で済ませてしまったから絶対にリベンジがしたいのだ。
高い物を買って贈る=相手が喜んでくれるというわけではないが、お金の管理もままならない人間だなんて扱いをされるのは嫌だから。
「今日はチョコバナナ味にします」
「じゃあ、俺はシンプルにチョコ味にしようかな」
「はいっ」
正直に言おう。
いまの俺にとって姉の、彼女の笑みは毒だ。
変なことを言い出しかねない、そこに繋がる導火線にいまにも火をつけてしまいそうなレベルのもの。
「健人くん、できましたよっ」
「ありがとな、席に行くか」
でも、これは相手に言ってはならないことだ。
相手が家族であれば尚更なこと。
いまはとにかく普通に楽しもうじゃないか。
「あ、そういえばこの前の下着のことなんですけど」
「ぶふっ、ごほごほっ、な、なんだよ急にっ」
弟相手にする話じゃないだろうに。
あれはやけくそになっていただけ。
そうでもなければ、……自分好みの下着なんて持ってこられるわけがないじゃないか。
しかも冷静に、そして真剣に姉に似合いそうな物を選んでいたわけだしさ。
「そのですね、実はまた……小さくなってしまいまして」
「は?」
「……だから、その、また行きたいな、と」
いやそうじゃなくて、は? だからつまりそれはまたサイズが……ということだよな?
なんでそんなことを弟に言うんだよ。
普通は母とか友達とか、とにかく同性に相談することだろ。
つか、期間が早すぎるんだが。
まさか、大学で変態野郎共に……? と内は大暴れ。
なんらかのサークルに勧誘されて弄ばれてしまった可能性もある。
初だからなあ、あっさり騙されて……なんてことも0とは言えない。
「け、健人くん?」
「あ、それなら行くか」
でも、レイプとかじゃなきゃ犯罪とは言えないかもしれない。
それになにより、証拠がないんじゃ相手を責めることすらできないのだから。
いいんだ、これまでがおかしかったんだ。
男が放っておかないレベルではあるんだから……しょうがない。
「じゃ、外で待っているから」
「はい、すぐに出てきますから」
いや、少なくともこんな駄目野郎に好かれることよりかは問題はないわな。
昔でもあるまいしいまは自由だ、姉が誰かを好きになっても、姉のことを誰かが好きになっても弟には関係のないことだ。
そこだけは家族であっても変わらない。
……これなら家族じゃない方がマシだったな。
「お待たせしましたっ」
「もうちょいゆっくりでも良かったんだぞ?」
「え? もう1時間も経過していますけど……」
「あ、そうなのか? ま、次に行こうぜ次に」
それからも色々なところに付き合った。
やはり姉が相手だと特に気を使う必要もなくて楽だった、そして、普通に楽しかった。
「はあ~、今日は楽しかったですっ」
「おう」
「でも、楽しかった分、帰るのが少し寂しいですね」
「そうか?」
「はい、このままの雰囲気のままいたいと言いますか」
だからっていい場所も知らないから連れて行ってやることもできないぞ。
こりゃ非モテにもなるわ、せめて自分の地元ぐらい調べておくべきだったか。
姉すらリードできないなんて情けない。
「あ、少し電車にでも乗りませんか?」
「別にいいぞ」
つか、まだ買えてないんだよなにも。
俺としてもまだ終わらせるわけにはいかないんだ。
電車に乗って違う市に行けば商業施設ぐらいあるだろう、そこでなにか姉に……真里那に買ってやりたい。
「夕方頃というのもあって休日でも混んでいますね」
「席は……空いてないみたいだな」
「立っていれば大丈夫ですよ」
いや、大丈夫じゃねえんだよ俺的に。
近えんだ、他の乗客も座れなくて立っているからどうしても壁側というか、扉側に真里那を押し付けるような感じになってしまう。
通路側の方に立ってもらうのは違うと考えた結果だからそれはそれでいいのだが、……痴漢の危険とかもないし。
「……狭くないか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「そうか」
ベタなことも起こらずに降りるときがやってきた。
良かった、外だとすごい自由な感じがする。
「こっちも凄く混んでいますね」
「だな」
「はぐれても嫌なので手を繋ぎましょうか、それでも前後に並んで歩きましょう」
……はは、手を繋ぐぐらいでドキドキなんかしないぞ。
駅から離れても離すことをしてくれなかったのは問題としか言いようがないが。
「ま、真里那、そろそろ……いいだろ?」
「え? ふふ、もしかしてお姉ちゃん相手にドキドキしちゃっているんですか?」
この件に関しては俺が負ける未来しか想像できない。
だからただ黙って姉に付いていくことだけに専念しておく。
「な、なに顔を赤くしてるんだよっ」
「そ、それを言うなら健人くんだってっ」
揶揄しておきながらそれってどうなんだ。
変に他人を煽るべきなんかじゃない。
ことこういう件に関しては尚更なことだ。
「だ、だって、てっきり否定してくるものだと……」
「あー、とにかくいまは商業施設とかそういうところに行きたいんだ、いいか?」
「あ、はい、いいですけど」
なにかを買うまでは今日家に帰れない。
そして、もう夕方頃だから悠長にしている場合でもなかった。
そもそも、あまり遅い時間に真里那を連れ回すのも嫌だしな。
「さて、真里那が欲しい物を探してくれ」
「それって……もしかしてこの前の……?」
「そうだ、なにかを選んでくれるまで帰らない。遠慮をしていると分かったら却下するからな、本当に欲しい物を選んでほしい。ここにないなら向こうへ戻っていっぱい探そう」
電車を利用する必要がない向こうなら多少は焦らなくてもいいようになる。
幸い、まだ17時頃だ、3時間とかあれば十分欲しい物を探せるだろう。
矛盾しているかもしれないが、今日見つからなくてもまた今度こうして出かけた際に探すのでもいいのだから。
「……わかりました、そこまで健人くんが言ってくれるのなら」
「おう」
必死に、とまではいかないが、俺達は色々なところを見て回った。
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