知らないお爺さんが庭にいる
レース越しのカーテンの向こうに見える庭に、知らないお爺さんが立っていた。
庭には家庭菜園でミニトマトとナスとピーマンの鉢植えがある。
たまに苗を観察しながら通り過ぎる通行人はいるが、庭にまで入って来る人はいない。
もしや野菜泥棒かもしれない。
でも時間はまだ15時を回ったぐらい、日はまだ明るいし、そんな堂々と入って来る泥棒がいるだろうか?
とりあえず窓も開いていたし、私は家に住人がいることがわかるように大きな声で家の中で子供に話しかけてみた。
しかしお爺さんは全く気にしていないようだ。
しばらくカーテン越しに様子を伺う。
庭の中といっても、駐車場ガレージの門扉(アコーディオンゲート)を開け、そこを押してる? 寄り掛かってる? そんな感じである。
野菜泥棒とは違うようだ。
これは……
とりあえず私はお爺さんに向けて家の中から声をかけてみた。
「お爺さん、何か御用ですか?」
するとお爺さんは人の好さそうな笑顔で、私の方に寄って来た。
「何をしてるんですか?」
「妻が迎えに来るの待ってます」
「奥さんが来るんですか?」
「はい」
でも、待つにしても人の庭の中で待つのはおかしい。
「奥さんここの住所わかってますかね?」
そう訊ねると、お爺さんは私の家を指しながら「自分の家だからわかるはず」と答えました。
お爺さんの家ではないよ。私は心の中で言いました。
「お名前なんていうんですか?」
「○○です」
フルネームで答えられます。
「自分の住所わかりますか?」
「えーと……」
答えられません。
認知症ですね。
私は子供に二階にいる旦那を呼びに行かせて、老人の話し相手を任せると、警察に連絡。
しばらくして警察がお迎えに来てくれました。
住所はやはり思い出せないようだったが、自分の名前と奥さんの名前はわかったので、きっと家に送り届けてもらえただろう。
まあ今回家に旦那もいたし、始終にこやかに会話はできるお爺さんだったので、良かったが、今思えば『ここは俺の家だ」と入り込んできたり、怒り出すような人だったら簡単に話しかけるのは危なかったかも。でもまだ日も明るかったし、観察している時にすでに私の中では迷子だろうなと思っていたので、話しかけてしまった。それでも夕方や夜に庭に立ってたら、即通報していただろう。
マスクもして服もこぎれいな上下ジャージ、見た目も言動も普通。
見た目でわからない認知症の人って結構いるんだろうな。
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