第42話「ラストチャンス~ふたり力あわせて~」

★ ★ ★


 暗い牢屋の中で、あたしは閉じ込められてしまっているような状態だった。

 自分の心と身体なのに、自由にコントロールできない。

 このノワって魔族の魔法は、気持ち悪い上に強力だった。


 ただ、この檻はあたしが最後の力を振りしぼって作ったシェルターみたいなものでもあった。もしこの領域まで踏み込まれたら、あたしは完全にあたしじゃなくなる。


 だから、今は身を守るしかない。

 いつか、センセーが助けてくれるまで。


 でも、このノワって人がどこか知らない世界や時代に転移しちゃったら、どうなるんだろう?  そう考えると、不安で押し潰されそうだった。


「おい、サキ、助けに来たぞー」


 そんなとき、牢屋のそばからセンセーの声が聞こえてきた。


「えっ、センセー? 助けに来てくれたの?」


 あたしは驚きながらも檻にかけより、自ら内鍵を壊した。

 そして、センセーに手を伸ばした瞬間――。


「ふふふ、残念でしたねぇ?」


 センセーだと思った顔が、醜悪なノワの笑みへと変わっていた――。


★ ☆ ★


「ふはっ、は、は、ははは! はははははぁ!」


 あと少しでノワの魂をサキの肉体から分離させられると思ったところで――。

 急にサキに憑依しているノワが笑い出した。


「最後の1パーセントも塗り替えましたよぉ! これで完全に! この少女の肉体も精神もわたしのものになったぁ! これでわたしは完全体ですよぉ!」


 ふざけたことを言いやがる。

 完全にサキが乗っ取られた? そんなわけ、ねぇだろ。


「ははっ! あはははははっ! はははっ? あ……う」


 狂ったように笑っていたノワだが――急激にその瞳から涙が溢れ始めた。

 そして、先ほどとは明らかに違う様子で口を開く。


「……せ、センセー……ご、ごめんなさい……どうにか最後のラインは守ってたのに……最後の最後でドジっちゃった……最後に、言わせて……ありがとう……授業、すっごく楽しかった……よ……」


「おい、しっかりしろサキ! 諦めるんじゃねえ! こんな奴に負けるな!」


「……ごめんなさい……あたし、ダメな子で……このままじゃ世界に災厄を起こしちゃうかもしれないから……みんなに迷惑をかける前に…………センセーの手で……斬って……もう、これ、最後のチャンス、だと思うから……」


 サキの瞳から涙がポロポロとこぼれていく。

 俺は、自分自身を殴り飛ばしたいほどに情けなかった。


 百回世界を救ったからってなんなんだ。

 目の前の教え子ひとり救えないで、なにが英雄だ。救世主だ。


「すまん、サキ。おまえを救う方法は、ひとつだけある。緊急事態だから、許せ」


 間接的に魔力を使って解呪するのは、もう不可能だ。

 ならば――直接やるしかない。


「究極解呪――直結解呪」

「……ふえっ……? んっ……んんっ!?」


 俺は解呪のための魔法を行使しながら――サキの唇を奪った。

 そして、身体を強く抱きしめて――解呪のための魔力を流しこんでいく。


 いくら膨大なサキの魔力量を使って対解呪防壁を張っているとはいえ、俺の全力解呪を零距離で食らえば凌げるはずがない。しかも、逃げ場はない。


★ ☆ ★


 ひゃあぁあああ! あたし、センセーとキスしちゃってるぅ!?


『な、なんだと!? なんだ、この怒涛の解呪は!? くっ……追いつかないっ!?』


 気がつけば、あたしは牢屋の外へ立っていた。そして、こちらに背中を向けているノワは混乱しながら対解呪の魔法を唱え続けている。


 これは……チャンス!


「あたしから……出ていけぇーーーーーーーーーー!」


 ありったけの魔力を右脚全体に込めて、回し蹴りをノワの後頭部に叩きこんだ。


『ぐおおっ――!?』


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