第41話「最強の我流VS最凶の邪道~至高の魔法少女~」
★ ☆ ★
「なんだ? こいつが本体じゃないとなると……どこにいやがる?」
もうこの場には、ノワの姿形(すがたかたち)をしたものはいない。
広範囲索敵魔法を使うも、ノワらしき魔力は引っかからない。
「ぬうっ!? まさか、魔皇子様がやられるとは! ええいっ! かくなる上は刺し違えてでも汚辱を晴らすっ!」
メサが強弓を手にして素早く矢を放ってくるが、そんなものに構ってる暇はない。
軽く矢をかわすと、分身をそちらに五人ほど差し向けボコボコにして昏倒させた。
ほかにもメサの率いてきたモンスター軍の残党がいるが、そちらもソード・アローで完全に掃討した。ノワが紛れてる可能性も考えたのだ。
これで、この場にいる魔族やモンスターはひとり残らず倒したわけだが。
ノワは――いなかった。
「……転移したのか? いや、俺が、感知できないなんて……ありえない」
あれだけ転移魔法を警戒していたのだ。見逃すはずがない。
そこで――俄かに強烈な魔力が出現した。
「は――?」
その発生源は――サキ。
「くふっ……ふふふ……ふはははは!っ 手こずらせてくれたなぁ、小娘! だが、これでおまえの身も! 心も! すべてわたしのものだああああああ!」
サキがノワの口調になるとともに魔力が異質なものへと変わっていた。
さっきまではサキのものだったのに、ノワのものと混じりあっている。
「まさか、自分の肉体を捨ててサキに憑依したっていうのか!?」
「ふふふ……ご名答ですよ。いやぁ、こんなに近くに異様な魔力量を誇る生徒がいるとは……! やはり魔神はわたしを見捨ててなかったってことですねえ! ふはっ、ふははははははぁ!」
サキに憑依したノワが、高らかに哄笑する。
あの無邪気そのもののサキに、こんな邪悪な表情をさせるとは。
「ちっ……なんたる失態だ。まさか、自分自身を捨てるとは……」
「やはり、あなたは強すぎますからねぇ。本当に反則的。チートですよ。でも、この少女も異常ですねぇ、この魔力量は。この潜在能力は……もしかするとわたしやあなた以上なんじゃないですか? これは、これからが楽しみだ!」
そう。サキの魔力量は尋常ではない。
それに対して、まだまだ技術は未熟なのだ。
そこに、つけこまれてしまった。
「わたしの魔力とこの少女の魔力を完全に合体させて完全にコントロールできるようになれば、いずれあなたを超えることもできるでしょう。その日を楽しみにしてますよ。それでは……ふふ、サラバです」
「待ちやがれ!」
転移魔法を使おうとするノワに対して、俺は転移無効魔法を瞬間行使する。
この魔法を使おうとずっと用意していたので、すぐに発動することができた。
「く、うっ?」
「逃がさねぇぞ。サキから出ていきやがれ!」
転移無効魔法は高難易度の魔法だ。集中力だけでなく、技術力も必要とされる。
それに加えてノワを無理やりサキから追い出すために除霊魔法も同時行使した。
ゴースト系の魔族と戦う機会もこれまでにあったので、習得していたのだ。
「ふふふ……無駄ですよ。この少女の魔力量があれば、いくらでも対除霊防御障壁を張ることができる! これはダイヤの原石が無造作に転がってたものだ! しばらく心身の融合を完全なものとするまで身を隠そうかと思っていましたが、ここまで魔力が圧倒的なら、あなたを抹殺することも不可能ではないかもしれませんねぇ!」
「ふざけるなよ、さっさとサキから出ていけ!」
対転移無効魔法を維持しながら、俺は魔剣を向けた。
そして、除霊魔法をさらに強めてノワの魂だけを強制的に排除しようとする。
「おっと、甘いですよ。この分野の魔法に関しては、わたしに一日の長があります。傀儡・憑依系魔法のスペシャリストであるわたしが身を捨ててまで使った融合魔法ですからねぇ」
自信たっぷりに言うだけあって、こちらの除霊系魔法はほとんど通用していないようだった。
「ははは、実に素晴らしい! この無尽蔵の魔力量を以てすれば、わたしは魔皇子どころか魔神の領域に至ることができる! わたしが新世界の魔神になれる! というわけで、その一歩を踏み出すために、死ねぇい!」
サキの肉体を乗っ取ったノワが、無詠唱で戦略級の爆裂魔法を行使してきた。
俺はこの場にいる全員を守るべく瞬時に防御魔法を全力展開する。
――ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
咄嗟に鼓膜と目を守るように魔力を展開したが、すさまじい爆発に五感が破壊されたかと思った。
一瞬後――俺自身と咄嗟に守った生徒・学園関係者を除いて周囲は完全に焦土と化していた。
「はははははっ! 本当に圧倒的だ! これはいい! この少女は最高だ! これなら、あなたを殺すことができる! 死ねぇええええ!」
間髪入れずに、サキを乗っ取ったノワが俺に向かって肉薄してきた。
魔力を漲らせた貫手(ぬきて)が、こちらの目顔面に伸びてくる。
「ったく、えげつねぇ技を使ってきやがって!」
目に向かって伸びてきた指先を見切って、外すが――。
喉笛・心臓など人体の急所を狙った暗殺格闘魔術をノワは次々と繰り出してくる。
「くっ、このっ」
俺は魔剣を一旦消滅させて、回避に徹することにした。
相手の攻撃が凄まじすぎて、攻撃できない。
いや、正確には――手加減なしでなら反撃できるが、それだとサキの肉体を傷つけてしまう可能性が高くなる。そんなことできるわけがない。
「ははは! いいですねぇ、防御を考えないでいいのは! まさに人間の盾といったところでしょうか!? そのまま教え子に殺されてしまえぇ!」
ノワの攻撃は、より激しさを増していく。
ひたすら回避と防御に徹し続けるが――さすがにこの勢いは凌ぎ切るのは難儀だ。
徐々に、かすり傷が増えていく。
「ちっ――」
「くはははは! 防戦一方ですねぇ! やっぱり教え子を傷つけられませんかぁ!? その甘さがあなたの最大の弱点ですよぉ! ふふふ! その甘さのおかげで、わたしは生き残ることができたわけですけどねぇ!」
サキの無尽蔵の魔力を、ノワはひたすら肉体強化に回している。
サキが使いこなせなかった魔力量を融合したノワが発揮するとは皮肉すぎる。
「だが、俺はダテに百回世界を救ってねぇ!」
回避に徹しながらも組み上げていた術式を解放する。
「究極催眠魔法――束縛自在・人形遊戯!」
あえて相手の一番得意とする傀儡系魔法で対抗する。
なぜなら、これを打ち破らないと根本的な解決にならないからだ。
「くぬぅ――!」
これまでの戦いで魔力はそれなりに使ったが――そこは技術でカバーする。
チート級の魔力量を誇るサキを利用しているノワに対抗するには、こちらがチートレベルまで高めた魔力技術を使うしかない。
「ふ、ふ……甘い、ですよ……わたしは傀儡系魔法のスペシャリスト……対するあなたは、そんな魔法を滅多に使わなかったでしょう」
「いや、わりと使ってるんだがな」
つい先日も、メサに使ったからな。
ノワは傀儡魔法だが、俺は催眠魔法。
これまで百回世界を救う合間にエルフやダークエルフに催眠魔法を数えきれないぐらいかけてきたのだ。こんなところで趣味の魔法が役に立つとは。
「……なっ!? あの恥辱は忘れてはおらぬぞ――!」
先ほどの爆発で目が覚めたのか(一応魔法で守っておいてたのだ)、怒りに駆られたメサがこちらに襲いかかろうとする。
「先生の邪魔をしないでください! 先生、サキを頼みましたわ!」
「ナサトさま! わたくしたちが食い止めます!」
ミナミとトヨハが、メサを足止めにかかってくれた。
このふたりなら、安心できる。
「サンキュー、そっちは頼んだ! というわけで、てめぇ、ノワ! さっさとサキから出ていきやがれ!」
究極催眠魔法によって、ノワの動きが鈍った。
そして、今度こそ解呪系の魔法を成功させるべくさらに精緻な術式を組み上げ多重行使。増殖したウイルスを駆除するように、根気よく、解呪魔法をかけ続けた。
「ぐうぅっ……!」
以前、才能開花をしたときに俺はサキの魔法的遺伝情報についてはしっかりと把握している。
つまり、俺が世界で一番サキのことを知っていると言っても過言ではない――!
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