第43話「百一回目の世界のハッピーエンド」
★ ☆ ★
「ん?」
急激にノワの抵抗力が落ちて解呪が進んだ。
これなら、一気に追い出せる。
「んんん!」
全力で口づけながら、トドメとばかりに解呪魔法を叩きこんだ。
その瞬間――サキの背中から、ブワッと黒い瘴気のような塊が飛び出す。
『くぅぅっ……!? まさか、わたしの融合魔法が破られるとは……! しかし、肉体のないわたしを斬ることはできまい……! 今度こそ、サラバですよ……!』
精神体となったまま転移魔法で逃げようとするノワだが――。
その一瞬を逃さない。
『なっ――!? 転移、できない、だと……?』
「お前を野放しにしたら、ぜんぶ水の泡だろうが。霊体だろうがなんだろうがすり抜けられないように、転移無効魔法を強化した」
瞬間的な判断だったが解呪の負担が減ったおかげで、そちらに魔法を使うことができたのだ。
「教えてやる。俺が最初に魔剣を作った理由は――アンデッド系の奴を楽に倒すためだ」
そもそも、この魔剣を創り出すのに聖剣を触媒にしている。
百回も世界を救えば、腐るほど聖剣が手に入るのだ。
だから、正確には『魔聖剣』と言える。
「くっ、おのれっ……ならばっ!」
ノワはほかに憑依できる奴がいないか捜して――メサとナナミに目をつける。
だが――もうそのときには、俺はノワに接近していた。
「失せろ、永久にな」
「ぬうぅうう――――!?」
俺は魔剣でノワを一刀両断する。
最期まで、人のことを利用することしか考えないクズだった。
どうせなら、最期ぐらい俺に立ち向かって来いよと思ったが。
奴らしいと言えば、そうかもしれない。
まあ、そんなクズ野郎のことはどうでもいい。
今は、サキの状態を確認するのが第一だ。
一度は99%以上心身を支配されたのだ。後遺症がないとも限らない。
過去に憑依によって廃人化した者を何度も見てきたので気が気でなかった。
「サキ、大丈夫か……?」
サキの正面に回り込み、目の前で手をブンブンと振る。
虚ろだった瞳が、徐々に光を取り戻していった。
「ふぁ……? え……あ……せ、センセー……?」
「大丈夫か? 名前言えるか? 記憶あるか?」
「……。……う、うん……あたしは……サキ……センセーの教え子で……一番弟子で……クラギ学園に通ってる魔法学生……大丈夫、記憶あるよ。友達のことも、これまでのことも……」
「よかった。後遺症は残らなかったようだな……」
マジでホッとした。
せっかく命が助かっても、廃人になっていたら元も子もなかった。
やはりサキは規格外の存在だ。やっぱり、俺よりもすごいんじゃないか。
「うん、ちゃんとぜんぶ覚えてる。……せ、センセーとキスしたことも」
「な――っ!?」
それまで覚えてるのか!?
「す、すまん! ああなったら、ああするしか仕方なかったんだっ! いや、マジでスマン……!」
挙動不審になってアタフタする俺だが――。
「センセー、気にしないでいいよ。あたしセンセーとなら、ぜんぜんオッケーだから。ほらっ……ちゅっ♪」
そう言って、サキは笑みを浮かべて俺の唇にキスをしてきた。
「……!」
俺には刺激が強すぎて記憶が飛びそうだ。というか、魔術式の組みすぎでオーバーヒートしていた頭にキスという衝撃まで加わって、倒れそうになった。
「……えへへ、センセー、ありがと♪ 助けてくれて、本当に嬉しかった」
「お……おう。いや、俺のミスが色々と重なってたからな。すまなかった」
ほんと、どうにかみんなを無事に守りきれてよかった。
これまで百回世界を救ってきたわけだが、サキやこの学園の生徒たちを救えたことが一番嬉しい。
しかし、俺にはこれからノワの野郎に滅ぼされた九十九回の世界を救い直すという長い旅が待っている。
だが……まぁ、今は――大事な教え子たちを守りきれた今だけは――少しだけ安心させてくれ。
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