第33話「魔皇子~もうひとりの転移者~」
「ほらほら、追加ですよぉ!」
ノワは笑みを深めながら、さらに短刀を三本追加。
計九本の魔導短刀が縦横無尽に襲いかかってくる。
「ったく、これじゃ魔剣を顕現するのにも苦労するじゃねーか」
無詠唱で呼び出せるとはいえ、少しは集中力が必要だ。
だが、九本の魔導短刀はこちらにその隙を与えない。
思ったよりも、手練れだ。
「そこまで強くなさそうですねぇ、あなたは! これなら真の姿にならなくても倒せてしまいそうですよ!」
ノワは両手に短刀を持つと、忍者のような動きでこちらに突っこんでくる。
そして、九方向からは俺の逃げ道を塞ぐように短刀が向かってきた。
「おまえなんか、魔剣なしでも十分だ!」
俺もノワに向けて突っこんでいく。
こういう場合は、逃げたら負けだ。立ち向かっていくのが最善策。
「おらああああああ!」
「ふはは、武器もなしに愚かな! 斬り刻んでやりますよぉ!」
気合いもろとも右ストレートを放つ俺に向かって嬉々として両短刀を振るうノワ。
しかし。
「なんちゃって」
俺は、瞬間移動魔法を使ってノワの背中側へ移動した。
「なっ!?」
ノワの攻撃は空を切る。
九本の短刀も目標を一時的に見失って、動きが鈍る。
その隙を突いて――俺は魔剣を急速発動した。
「ま、おまえなんて魔剣を使うまでもないかもしれないがな」
だが、こいつが言っていた『真の姿』はありうると判断したのだ。
こいつの魔法は古典魔法でも俺の我流魔法とも違うものを感じる。
「おまえ、たぶん四天王……いや、その上位の奴だろ? ただ、魔王って感じじゃないな。魔王の息子とかそんなところか?」
俺は魔剣を構えて警戒しつつ、九つの短刀を周囲に漂わせているノワに訊ねた。
ノワはピクッと、わずかに眉を動かす。
「ほほう、やはりただの魔法講師というわけではなさそうですねぇ? あえて魔力の低い人間に擬態していたわけですが。これは、本気を出さねばならないですか」
「自分で答え合わせしてくれるんだから手間が省けるな。人間の姿の状態で真っ二つにするのは生徒の教育によくないから、ちゃんと魔族の姿になれよ」
あえて変身する時間を与えるために魔剣を寝かせ、峰で自分の肩をトントン叩く。
「あー、利くわー。魔剣で肩凝りほぐしちゃうわー」
「……ふん、舐められたものですね。……ですが、せっかくですから見せてやってもいいですよ。そんなに死にたいのならば」
やっぱりいつの時代も悪役はこういうセリフが好きなんだなぁと思っているとノワの魔力が俄かに強まっていく。
「はあああああああああああ……!」
やっぱり気が変わったと言ってここで一気に魔剣で攻撃してもいいのだが――こいつの姿を見極めるために待つことにした。
「おー、すごい数値の上がり方してるな。よくもまぁこれほどの魔力を隠し持ってたな。見抜けなかったわ」
短剣を隠し持ってることは初見一発でわかったし、人間が魔力をわざと抑えていたのなら同様に見抜けただろう。
まさかダーノ学園の教師に魔族が擬態しているとは思わなかった。
その間にもノワの皮膚は紫色をした外骨格に突き破られ、緑色の粘液が滲み出る。
そして、抑えきれない闇のオーラが噴出し始めた。
「ほー、こりゃ予想以上に強そうなのが出てきたな」
最後に頭から一対の黄色い角が飛び出し、変身は完了したようだ。
狐目だけは変わらなかったが、全身は紫を基調とした色に代わっている。
無駄な肉のない姿はゴテゴテした装備をしがちな魔王というよりもアサシンを連想させた。
「わたしが魔皇子ノワ。九十九回転生を繰り返した史上最強の魔族ですよ」
思いがけない台詞が出てきた。
「……なんだと?」
この世界に転生してから一番驚いた。
それが事実なら、こいつも俺と同じようなことをしていたことになる。
「ふふ、驚いているようですねぇ? 無理もないですか。世界を跨いで転生する時点でイレギュラーな存在なのに、それを九十九回もですからね。しかも、わたしは転生のたびに強くなっている。まぁ、今回はただ強くなるだけではつまらないので人間界に紛れてみたのですが」
なんという既視感。
本当に、そのまんま俺と同じ発想じゃないか。
「って、待て。九十九回転生したっていっても、俺、おまえと会った覚えはないぞ。たまたま転移し続けた世界が合わなかったのか?」
「……なにを言ってるのです?」
「なにって、そりゃあ俺も転生を繰り返してきたからな。しかも、おまえよりも一回多い百回だ」
「なにをバカげたことを。そんな、わたし以外にそんな魔法能力者が……」
「ん……よく見ると、おまえ……一番最初の世界にいた魔王の皇子に似ているな……確か、ノエルとかいったか?」
俺が最初に世界を救ったときに魔王城で戦った魔皇子ノエル。
激闘の末、あと一撃というところまで追い詰めたのだが――こいつは瞬間移動魔法を使って逃げたのだ。
「――っ!?」
俺の言葉を聞いた途端、ノワは驚愕の表情を浮かべた。
そして、俺のことをまじまじと見てくる。
「ああ……そうですか。ああ、あのときの……ああ、なんということでしょう。わたしとしたことが、絶対に八つ裂きにしたかった人物の顔を忘れているとは。まさか、転生能力を持っているとは思わなかったので可能性に思い至りませんでしたよ」
独り言を口にするとともに、ノワの放つドス黒い魔力オーラがさらに濃密なものへと変わっていく。
「思い出したぞ。おまえ、俺に向かって情けなく命乞いしてたっけな。もう悪さはしないだとか、これからは心を入れ替えるとか、殊勝なことを言っていたよな」
で、当時の俺はそこまで容赦ない性格ではなかったのでトドメを刺すことはしなかった。
その隙に、こいつは瞬間移動魔法を使って魔王城から脱出したのだ。
まさか、世界を転移するほどの魔法を持っていたとは思わなかったが……。
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