第34話「最凶最悪の真実」

 その後の俺は魔王城を攻略し続けて、死闘の末、魔王を倒した。


 そのときに魔王魔法を何度もくらったことで、逆に俺は自ら編み出した我流魔法をさらに発展させるヒントを得ることができた。


 ……とはいっても転移魔法や急速成長魔法等のあらゆる究極魔法を編み出すまで、それから二十年の歳月を要したわけだが――。


「くく……くくくく! くはははは! これは魔神がわたしに復讐を果たすチャンスを与えてくれたのですかねぇ!? ふははははは! まさか、唯一わたしを敗北させた男にもう一度会うことができるとは!」


「なんだ、おまえ九十九回のうちで負けたことなかったのかよ?」


 たとえ俺が転生しなかった世界でも、その世界の勇者や上位冒険者が戦えばなんとかなるレベルだと思うのだが――。


「あなたに敗れてから、わたしは転移した世界で十年に渡り独自に魔法を研鑽したのですよ。そして、魔法の神髄に達することができた! さらに魔法だけでなくあらゆる武道をも体得し最強最凶の魔皇子になることができた! そして、残りの十年で九十九回世界を滅ぼしたのです!」


「なんだと!?」


 俺が最初の世界で二十年間魔法と剣を鍛錬している間に、こいつは世界を滅ぼしまくっていたのか……!?


「ふふふ、本当に楽しかったですよ、世界を滅ぼすのは。勇者だとか英雄だとか言われる人類の希望を打ち破り、命乞いさせ、絶望の限りを味わわせてから惨(むご)たらしく殺す。これほど愉快なことはないですよ!」


 嗜虐的な笑みを浮かべるノワを見ていると、これはハッタリじゃないと思えた。

 それでも訊き直さざるをえない。


「……おい、本当なんだよな? おまえ、本当に九十九回も世界を滅ぼしたのか?」

「ええ、本当ですよ。なんなら証拠を見せてあげてもいいですよ? わたしの記録魔法によって九十九回に及ぶ世界の滅びは鮮明に記録されています。いやぁ、傑作ですよ。魔族に逆らった勇者や英雄たちが惨たらしく死ぬのは!」


 そして、実際にノワは自らの背後に九十九個に及ぶ投影魔法を使って、これまでの滅びを放映し始めた。


『……ち、ちくしょう……勇者の俺が負けるわけには……ごぶぁっ!?』

『俺が負けるわけにはいかねぇんだ! 人類を救えるのは俺だけ――ぐはぁっ!』

『……なんで魔王よりも強い奴がいるんだ……こんな世界狂ってやがるっ……ぐがあああああっ!?』


 勇者や英雄と見られる人物たちはいずれもズタボロの姿で無念の言葉を吐き、最期は断末魔の叫びを上げて死んでいった。それが一気に九十九の画面で流されたのだ。


「はははははははははは! いやぁ、いつ見ても傑作だ! 絶対正義のつもりでいる勇者や英雄を痛ぶり、尊厳を粉々に破壊し、最期は奴らがいつもモンスターや魔族を殺すように木端微塵に肉体を四散させる! こんなに面白いショーはないですねぇ!ふはははははははははははぁ!」


 俺の心の中で、なにかが切れた。


「てめぇえええええええええええええええええええ!」

「おぉっと!」


 俺が全力で放った魔導斬撃は、瞬間移動魔法によってかわされた。


「はははははははは! 命を助けてもらって感謝していますよ! おかげでわたしは魔法の深奥に触れることができ、九十九人の救世主たちを屠(ほふ)ることができたのですから!」


 ……本当に、取り返しのつかないことをしてしまった。

 こいつにトドメを刺さなかったばかりに、九十九回も世界を滅ぼされていたとは。

 俺だ。ぜんぶ、俺の責任だ。


「ふはは、まさか責任を感じているのですか? 勝手なもんですねぇ! あなたたち人間はいつも我々魔族とモンスターを根絶やしにしているというのに! 逆の立場になったら許せないというのですか!? それは不公平じゃないですかねぇ! そもそも九十九回の戦いのうち、魔族側から戦いを仕掛けたものより人間側から戦端を開いたもののほうが多かったぐらいなんですよぉ!?」


「うるせぇ!」


 俺は怒りとともに魔法を放ち、さらには魔剣を手にノワに殺到する。

 対するノワは瞬間移動魔法を小刻みに行使、こちらの攻撃をかわしつづけた。


「ははははは! このまままた別の世界に転移してしまってもいいんですよ!? そうすれば、あなたのいない世界で、また滅びの美酒を味わうことができる! 勇者の血というワインは極上なんですよ! あなたにも飲ませてやりたいなぁ!」


 いちいちこちらを煽りながら瞬間移動魔法――そして、分身魔法まで使い始めた。

 むかつくツラが数十体に増える。


「絶対におまえだけは許さねぇ!」


 一秒でも早く両断しようと魔剣を振るうが真の姿となったノワの身のこなしは人間の姿のときとは段違いだ。


「ふはははは! 怒れ! 怒れ! 憎めぇ! そうすれば屈辱にまみれて生き伸びたわたしの溜飲も下がるというものだ!」


 頭に血が昇っているからか、こちらの攻撃は空振りするばかりだ。

 それでも、こいつだけは絶対にぶった斬る!


「らああああああああああ!」


 手当たり次第に分身を斬りまくり、数を減らしていく。

 いちいち真偽を判断する時間がもったいない。もうまとめて全員ぶっ殺す!


「ははははははは! ずいぶんと頭に血が昇っているようですねぇ! 自分のせいで九十九回も世界が滅んで数えきれないほどの人類が虐殺されたとなれば当然ですかねぇ! まったく、傑作だ! 面白い!」


「うるせえええええ!」


 斬っても斬っても、ノワの分身は次々と湧いて出てくる。

 だが、俺のやることはかわらない。こいつを両断するだけだ!


 ノワはその場からバックステップとジャンプを繰り返しつつ、校舎の屋上へと移動していく。


 俺はノワの分身を斬りまくりながら、追尾していった――。


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