第32話「異変と本性」
★ ☆ ★
「なんだ、口ほどにもないじゃないか。こっちが完全に優勢だぞ?」
やはりサキとミナミのコンビはうまく機能している。
魔力だけでなく指揮能力も高い。
そして、何度も俺が実戦授業をしてきただけあって、クラス全員が状況を読んで適確に魔法を使っていた。座学だけでは、決してできない動きだ。
ダーノ側の生徒は、ひとり、またひとりと直撃を食らってダウンしていく。
「ふふ、まぁ、ここからですよ」
だが、ノワは余裕の態度を崩さない。
強がっているというより、目の前の劣勢をまったく意に介していないようだ。
「アイテムかなんかで魔力を上げてるんだろうが、それだけじゃ俺の鍛えた生徒たちには勝てないぞ? 実戦を想定した鍛練をしまくってきたんだからな」
「でも、どうやらあなたの教え子たちも魔力量が枯渇しつつあるようですよ。あのふたりだけは特別なようですが」
その言葉を受けて、俺は再び戦況を見る。
確かに、こちら側のサキとミナミを除く生徒たちが魔力欠乏症になってきている。
攻撃も防御も威力は落ちてきていた。
しかし、それは向こうも同じはずだが――。
「……って、なんで魔力が変わってないんだよ?」
ダーノ側の生徒たちの魔力が異様なほどに落ちていない。
初期値をほとんど維持している。
「ふふ、なにも魔力は攻撃したり防御したりすることだけに使う必要はないですからねぇ? 魔力を身体中に張り巡らせれば余計な魔力を使うことを抑えられる。直撃を食らってダウンしてもダメージがなければいいのです」
その理屈は魔導騎士である俺には理解できた。
だが、それには高度な魔法制御力が必要だ。
「待てよ。そんなこと生徒レベルでできるわけがないだろ? それに一言も発せずに戦ってるなんて、おかしい。おまえ、絶対になにかよからぬことをやってるだろ?」
「はは、なんのことやら。わたしの生徒たちは、あなたちの学園の生徒と違って行儀がよいのですよ。戦いの最中に無駄口は叩かない」
「いや、そういうレベルじゃないだろ。これは、まさか――」
可能性としては考えられるが、考えたくない。
だが、この生気のなさは――。
「アンデッド化してるんじゃないだろうな」
傀儡化よりも強力というと、それぐらいしか思いつかない。
それの意味するところは――ダーノの生徒たちは、すでに死んでいる。
いや、全員殺されている。
「ふふっ、ふはははっ。なにを言いだすかと思えば。まさかわたしがかわいい教え子たちをアンデッドにしているというのですか? これは、おかしい! 傑作だ!」
ノワはパンパンと手を叩くと、腹を抱えて笑い始めた。
「じゃあ、なんだよ。……なんで一度倒された奴が、こんな短時間で復活してる?」
軍用魔法ではないとはいえ、あれだけ攻撃を集中されたら回復するまで時間がかかるはずだ。体に魔法を張り巡らせてダメージを相殺しているといっても、あまりにも異様な速さで戦線に復帰していた。
「わーっ!? なんで、すぐ復活するのっ!? 倒してもキリがないじゃんっ!」
「サキ、落ち着きなさい! くっ、みなさん、動揺してはいけません!」
倒したはずの敵が復活するという事態に、サキたちは浮足立っていた。
魔力欠乏も相まって攻撃が散発的になり、防御魔法も間に合わなくなってくる。
さすがにこの状態ではミナミも全員をフォローできず、ひとり、またひとりと相手の魔法の直撃を受けてうちの生徒たちが気絶していった。
「待て、こんなのメチャクチャだろ。一度やられた奴らが甦るなんて」
「別にダウンしたあとに復活してはいけないというルールはないですからねぇ」
「ふざけんな! こんなのもう大会でもなんでもないだろ!」
詰め寄るものの、ノワは憎たらしいほどに落ち着いていた。
「ここで試合を止めたら、そちら側の妨害により反則負けとなりますよ? それを彼女たちが望んでいるでしょうかね?」
チラリと結界内を見ると、サキとミナミは態勢を立て直しながら根気よく闘い続けている。
とはいっても、相手は無限に甦ってくるのだ。
対するクラギ学園の生徒たちは、気絶したまま復帰できてない。
「もういい! こんなアンフェアな戦いはやめさせる!」
俺はたまらずに結界内に入ろうとしたが――。
「ふっ!」
ノワの腕が揺れたと思った瞬間、短刀が飛んできた。
その数、三本。魔法を付与させているので速度も威力も段違いだ。
「っとぉ!」
死角を突かれた形になったので危なかったが、どうにか回避する。
しかし――。
(追尾機能つきか!?)
俺の使うソード・アローのように精密なコントロールで、再びこちらに向かってくる。しかも、速い。
「ははは! まだまだこんなもんじゃないですよぉ!」
ノワはさらに三本の短刀を魔力投擲。
属性は、火・雷・毒。
「ついに本性を現しやがったか!」
加速してくる六本の短刀をかわしつつ、無詠唱で魔法を唱える。
まずは、身体能力強化。次に、動体視力強化。
さらには全身を覆うように防御魔法を漲らせた。
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